落第騎士と一撃男【旧版】   作:N瓦

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(*)セリフやら展開が雑すぎたので修正しました。
(2017.10.7 土)


【 七星剣舞祭 代表選抜戦 】
1.師匠


サイタマが《解放軍》を制圧した時刻から数時間ほど遡る。

 

 

ここは『破軍学園』。

一輝とステラが剣術の稽古の途中に挟んだ休憩の時の事だ。

 

「ふぅ…。ステラ、お疲れ様。はい、水筒。」

「ありがと。」

 

ステラはタオルで汗を拭きながら水筒を受け取った。

 

「相変わらずイッキって相変わらずめちゃくちゃな反射神経してるわよね」

「はは。そんな事ないよ。僕なんか師匠(せんせい)に比べたらまだまだ未熟だよ。もっと身体能力を底上げしなきゃだめだ。」

「イッキって本当に自分に厳し……え、ちょっと待って!?」

「え、な、何?」

 

確かに今、一輝は聞き流してはいけないことを言った。

 

「イッキ今、なんて言った!?」

「身体能力を上げなきゃ魔力量が乏しい僕は七星剣舞祭で勝ち進んで行けないって」

 

ステラが聞きたかったのはそこではない。

 

「その前!! その………イッキ、さっき"先生"って言った?」

「あ、うん。確かに言ったよ。」

「イッキに師匠いたの!?」

「あ、あれ?言って無かったっけ?」

「初耳よっ!」

 

《落第騎士》黒鉄一輝に師匠がいた───────

それステラを驚かせるには充分な情報だった。

 

「今年は一回も会ってないけど、去年までは、『破軍学園』に来てからも月に一度は会っていたよ。

でも師匠って言っても僕が中学生の時に勝手に居候させて貰ってただけだよ?」

「そ、それでその師匠はどんな剣士なのよ。」

 

当然の疑問だ。

《剣技模倣》という経験から培った一輝が持つ最強の特技。

相手の剣技の根幹を掌握し、その剣がどこに辿り着くのか──つまり究極奥義の在り方まですべて暴き出す。

 

それが《剣技模倣》

 

今の一輝がその師匠から何を盗んだのか。

ステラはそれを知りたかった。

 

しかし、一輝からは返ってきたものは全くの的外れの解答だった。

 

 

「師匠は剣士じゃないよ。」

 

 

「え?…じゃあなんでイッキはその人の家に居候を?」

「……僕と師匠との間に決して超えることの出来ない壁を感じたから、かな。」

 

一輝が師匠に求めたのは『剣技』では無く、自らとの『壁』。実力の『溝』。

かつて感じた実力差は今はどうなのか。ステラは質問した。

 

「イッキは今でも勝てないと思う?」

「……かなり厳しいと思うよ。一太刀浴びせることができるかどうか……それほど強いよ。」

 

実力差が開いた伐刀者同士なら、確かに傷を負わずに終わる戦いもある。

だが昨年代表生の《狩人》や《加速中毒》を打ち倒した《落第騎士》が、一太刀浴びせることができれば万々歳だと言う。

一輝の師匠はそれほどの男なのだろう。

 

「………それは一度手合わせしてみたいわね。」

 

だからこそ、《紅蓮の皇女》は試合を望む。

 

そしてなんとも都合が良いことか。

 

「…実は今日会うんだ。」

「でも最近は会ってないって言ってなかった?」

「今日の朝、久しぶりにメールで呼ばれてね。戦いに行くから付いてこいって。」

「せ、"戦場"?」

 

 

一輝の真剣な顔に、ステラはゴクリと唾を飲み込む。

 

 

「…ふ、ふーん。それは期待していいのかしら?」

「"師匠に関しては"期待してもいいと思うよ。」

 

言葉を濁す一輝。

文字どおり、あくまで自らの師匠には期待しても良いという意味だ。

 

「よし!そうと決まったら私もその戦場に行くわ!

待ってなさい‼︎一輝のお師匠さん‼︎」

 

 

 

 

 

 

そして17時過ぎ。

 

 

「ちょっとイッキ!!!

これはどういうことか、し、ら〜〜〜〜!?」

 

スーパーの出口前で両手にレジ袋を携えたステラの声が響く。

 

「なんで皇女である私が卵パックを買うのをパしらされているのか教えてもらっていいかしら!!?」

「ま、待ってよステラ!」

「言い訳は聞かないわ、バカイッキ!」

「そ、そんなめちゃくちゃな……」

 

あまりに理不尽なステラの対応に一輝は困惑する。

しかしそれほどにステラは"戦場"に期待したいのだ。

───────ただし、一輝は一言も戦場という言葉を使っていなかったが。

 

「アタシの期待を返せ!!……はぁ、期待したアタシがバカだったわ。」

 

先程まで一輝とステラ、そして一輝の『師匠』の3人はスーパーで買い物をしていた。

「おひとり様1パック限定60円」という特売価格の卵パックを確保しようと戦っていたのだ。

 

もちろん満ち満ち溢れていたステラのやる気はへし折られた。

 

「これで当分は卵に困らないな。サンキュー、一輝。」

「いえ、むしろ久しぶりに師匠にお会いできて光栄です。」

「だからお前が勝手に住み始めただけで俺は弟子を取ったつもりは無いって……。」

 

『師匠』は一輝と超不機嫌なステラから卵パックが入ったレジ袋を受け取り、ステラに向き直る。

 

「おまえも流れで付き合わせて悪かったな。」

「…はじめまして、イッキのお師匠さん。アタシはステラ=ヴァーミリオンよ。」

 

その名前をどこかで聞いたことがあるからか、顎に手を当てながら思い出そうとする。

 

「ん?聞いたことのある名前だな…。…ダメだ。思い出せねぇ。」

 

当然、他人の名前などあまり覚えない彼はすぐには思い出すことはできない。

一輝がステラについて軽く説明をする。

 

「ステラはヴァーミリオン皇国の第二皇女で、留学して日本に来ているんです。」

「あー。そう言えば、前にテレビで見たわ。」

 

ヴァーミリオン皇国の第二皇女の来日というニュースは普通なら知ってるニュースだ。

そんな有名なニュースを知らない男にステラは少しばかりの疑問を抱いたため、一輝に小声で質問した。

 

「(ねぇ、イッキ。)」

「(何?)」

「(本当にこのハゲがイッキのお師匠さんなの?)」

「(あ、それは禁句──)」

 

「おい待て!俺だって禿げたくて禿げてる訳じゃねぇんだぞ!!」

 

この男に「ハゲ」「おじさん」は禁句なのだ。

 

「どんな地獄耳よ、アンタ。でも悪い意味で言ったわけじゃ無いわ。私の国もスキンヘッドは多いから、別に偏見とか無いわよ?」

「そうか……とりあえず俺は帰るわ。お前らありがとうな。じゃ。」

 

勝手に納得して帰ろうとする『師匠』をステラは引き留める。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!何、勝手に帰ろうとしてるのよ!!」

 

そのステラの怒号に一輝はビクンと身を震わせ、『師匠』は恐る恐る振り向く。

「自分が一体何をしたのだろう」と思いながら。

 

「……え、何?なんか用?」

「アンタ、皇女である私が先に自己紹介したってのに名乗らずに帰るって言うの!?」

「あ、ああ。それか。わりぃわりぃ。

俺はサイタマだ。」

 

 

一輝の『師匠』である男───────サイタマは今度こそ、と踵を返す。

 

「……んじゃ。」

「待てって言ってんでしょうが!!」

 

だがそれも問屋が卸さない。

 

「ちょ、ステラ!流石に炎はまずいよ!」

「止めないで、イッキ。こいつが悪いのよ!!」

 

怒りからステラの全身から炎が揺らめき、景色が揺らめく。当然周りに人だかりができる。

 

「うわ!!なんだお前、言われた通り自己紹介しただろ!

てか火はやめろ!卵が固まるじゃねぇか!」

「"戦場"なんて言って私を騙して、連れてこられたのはスーパー!?しかもあんたはすぐに帰ろうとするし、ふざけんじゃ無いわよ!!」

「……"戦場"?なんのことだ?」

 

ステラとの食い違いが生じているため、サイタマは一輝に説明を求める。

 

一輝が言うには、サイタマが彼に送ったメールの内容をステラが勘違いしてしまったらしいのだ。

サイタマが特売セールのことを戦いと表現し、そして一輝はそれを直接伝えてしまった。

だからステラはなんらかの"戦場"に行くものだと勘違いをし、一輝はその気になっているステラに訂正するタイミングを逃してしまったと言う。

 

つまり

 

「…じゃあおまえのせいじゃねぇか……。」

「ははは…すいません。」

 

頬をかきながら謝罪する一輝。

 

「でもあんなにやる気になってるステラを見てたら、スーパーの買い物に行くことだって言い出せなかったんですよ…。」

「うっ……そ、それは悪かったわね。

でも一輝だって悪いのよ?お師匠さんと戦いに行くなんて言うから勘違いしちゃったじゃないの。」

 

要は今回の件は八割方、一輝に落ち度があった。

だが彼もまだ17歳だ。こんなミスがあっても良いだろう。

 

サイタマは寛容に (というか、半分無関心に) このことは水に流した。

 

「帰って買ったもんを冷蔵庫に入れなきゃいけねぇから、まだ用事あんなら早く済ませてくれ。」

 

サイタマは普通の人には出来ないであろう「心底帰りたそうな表情」をしてステラを向く。

 

先程からのサイタマの言動を見て改めてステラは思う。

───────果たして、サイタマは一輝が言うほど強いのだろうか、と。

 

まずサイタマから魔力はほとんど感じられない。

魔力とは、即ち「世界への干渉力」。

「運命の大きさ」とも言い換えることができる。

その魔力の絶対量がサイタマは少ない。

おそらく一輝のその量と比べても、どんぐりの背比べのようなものだろう。

 

第二に、足捌きが素人同然なのだ。

武の達人たる黒鉄一輝が感じた実力の溝は、師匠が達人を超えた達人だったからこそ生まれたものだとステラは考えていた。

しかし、どうやらサイタマは武に通じていないように見えた。

 

そして単純に強さが匂わない。

───────ただし、それはサイタマが意図的に隠しているのではない。無意識的に内包しているだけであって、そのことは人外の洞察力を有する一輝のみが知る事だ。

 

だからステラは疑問に思う。

この男の何を一輝は盗もうとしたのか、と。

 

「ねぇ、イッキ。本当にサイタマは強いのよね?」

「…そうだね。サイタマ先生の強さの方向性は間違い無くステラのそれに似ている。参考にすべき所は絶対にあるよ。」

「ふーん。」

 

ステラはサイタマに向き直って宣言する。

「サイタマ。──────貴方に手合わせを申し込むわ!!」

 

見ただけで実力が測れないのなら手合わせすれば良い。

それだけのことだ。

 

「いや、いいです。」

「嫌じゃないの‼︎ やるって言ったらやるのよ‼︎」

「えぇ……めんどくせぇ。」

 

 

ここに サイタマ 対 ステラ=ヴァーミリオン の模擬戦の約束が (強引に) 取り付けられた。

 

 

 


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