落第騎士と一撃男【旧版】   作:N瓦

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【 七星剣舞祭 】
1.前夜


 

 

『────おおお!!!これが両者の未来予知にも迫る"先読み"の拮抗とでも言えば良いでしょうか!!?』

 

 

 

 

七星剣舞祭【Cブロック】1組目。

その試合は七星の頂を争うのにふさわしいものだった。

互いが互いの手を潰す。『後の先』というものがあるが、彼らの場合は『先の先』を取り続けていた。

それもそのはず。

 

「流石は白夜さん。なかなか先手は取らせていただけなさそうです……ねッ!!」

 

片や、戦闘中の相手の行動から思考回路のみならずアイデンティティすら文字通り掌握する《完全掌握》の使い手であり。

 

「ふふっ!君との攻防の全てが美しく見えるよ、黒鉄君ッッ!」

 

片や、過去の試合だけでなく、相手の趣味嗜好など日常生活に関わる部分までを精密に分析することで、相手の行動パターンを読み、そして未来すら予測できる《天眼》の持ち主であり。

 

その2人が戦えば、相手の『次の手』を潰し合う展開になるのは必然だった。

 

(黒鉄君……ここまで私が終局を読み切れなかったのは雄以来ですよ)

 

実は《天眼》ですら、多彩な技を持つ一輝の行動予測は二通りまでしか絞れなかった。

開始同時に速攻で《一刀羅刹》で決めてくるか、或いは二十四手目にて《一刀羅刹》を叩き込んでくるか。

しかし今となっては前者の可能性は絶たれた。待つのは二十四手目。

彼が見た棋譜は完成に近づきつつあった。

 

そして今は───二十二手目。

 

(次は……《蜃気狼》で右ですね!)

 

目の前の一輝を幻影だと断じた城ヶ崎は右にへ剣を振った。

 

これが二十三手目。

 

『おっと!?城ヶ崎選手目の前の黒鉄選手を無視して……いや違う!!そこに黒鉄選手がいました!!』

『これは…彼が持つ秘剣の一つ、《蜃気狼》ですね。普通ならば黒鉄選手は意表を突けていたでしょう。しかし城ヶ崎選手はその先を行っていたようです。これは流石としか言いようが無いかと』

 

解説が入る事でこの場の全員が再び理解した。この一戦は極めてレベルが高い、と。

 

「っ!」

 

《蜃気狼》を完全に看過された一輝は城ヶ崎の剣を受け止め、彼のすごさに改めて感服する。

また、観客も同様に《天眼》の凄まじさを知る。一輝が打った手の全てがまるで《天眼》が用意したシナリオ通りに進んでいるような。これが前年度二位。惜しくも『王の席』に一歩届かなかった実力者。

 

「そう簡単には白夜さんの予測は破れないようですね」

 

一輝は少し距離を取った。

仮に城ヶ崎の霊装が掠りでもすれば、《白い手》にて間違い無く一輝は場外に転移させられ、そしてカウント10が過ぎて負けるだろう。

迂闊な手は打てない。だが、このままだと間違いなく城ヶ崎に捕まることは明確だった。

 

ならばやることは一つ。

 

 

「────僕の『最弱/さいきょう』を以て、貴方の『未来予知/さいきょう』の先を行く」

 

 

その宣言で会場が沸く。試合を決めに行く時のみ、黒鉄一輝はこの台詞を使う。

つまりこの宣言が意味するのは────決着の時が近いということだ。

 

「ふふ。来なさい、黒鉄くん」

 

現状一輝にはその言葉の通り、最強の一手で《天眼》を打ち破る道しか残されていなかった。その他はすべて悪手。先読みされているだろう。

 

だったら真正面から打ち破れば良い。

 

一輝が深呼吸を一つすると、全身から蒼光が迸り────

 

「《一刀羅刹》────ッッ!」

 

目にも留まらぬ速さにて城ヶ崎に向かって突撃する。

 

普通ならば《一刀羅刹》で攻撃してくると分かっていても対処はまず不可能だ。あの《雷切》すら正面から破られている技なのだ。

 

(やはりここで来ましたか………っ!!)

 

ただ。

そのタイミングやら何やらが、《天眼》城ヶ崎白夜の想定の内だったならば話は別だ────

 

一輝が《天眼》が予知した通りの二十四手目を打ち終わると同時に、轟音と共に砂煙が舞う。

 

『うぁぁあーーー!!』

『きゃあぁあ!!!』

 

観客の悲鳴も聞こえ、この一瞬の出来事は実況の飯田ですら把握出来ていなかった。

 

『い……一体何が起きたのでしょうか!?』

 

やがて土煙が晴れ、中央に立つ影が誰のものかを確認した。

 

『り、リングに佇むのは────城ヶ崎選手だぁぁ!!!』

『よっしゃぁ!!!』

『《落第騎士》の今の技を捌いたんか……!』

『流石やー!シロぉーー!』

 

地元の学校に属する男があの一瞬で反撃した姿を目の当たりにしたのだ。観客が興奮を隠せないのも当然だ。

 

 

「う、嘘よ!お兄様……」

 

 

一方、一輝を応援していた珠雫はその事実を理解してしまい、目の前が真っ白になる。

《雷切》を下した時でさえ、リングの中央に立ち続けた一輝。

 

 

その彼は今、そこにはいなかった。

 

 

 

そこにいるのは城ヶ崎ただ一人。

 

 

 

《落第騎士》と《天眼》

 

両者の雌雄がここに決した────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新章 【 七星剣舞祭 】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は七星剣舞祭開幕前日まで遡る。

 

 

 

 

時刻は午後五時過ぎ。

 

開催地・大阪は例年通りの盛り上がりを見せていた。

そんな活気ある街ゆく人々の中でひとり。夏らしいサンダルにアロハシャツという格好で、アーケードを歩く一段と目立つ『ハゲ』がいた。

 

「久しぶりにいい運動したな」

 

────サイタマ、大阪入り。

 

ステラとの特訓もキリのいいところで、寧音に大阪へ行くよう言われたサイタマ。

一輝の応援に確実に間に合わせるためには、遅くとも試合当日の朝には大阪に着く必要があった。それを見越して開幕前日である今日の昼過ぎにサイタマだけは切り上げるよう言われたのだが……

彼が『運動』と言うように、奥多摩から自分の足で走ってきたのだ。それもたった2時間弱で。

東京-大阪間をマラソンすることはサイタマにとってはただの『運動』であり、それほどきついことではない。

 

「腹へったな。……せっかく大阪来たことだしお好み焼きとかたこ焼きとか食いてぇな」

 

ただ、腹は減る。とりあえずホテル近くの商店街をぶらぶらしていたが、目ぼしい『お好み焼き屋』は見当たらず。

 

ちなみに、サイタマが泊まるホテルは『代表選手保護者用』に用意されたものだ。

代表選手の家族も当然観戦しにくるが、彼らが泊まるホテルもまた、代表選手同様に運営側から準備されていた。

一輝の家族は誰もそのホテルに泊まらないため、彼がサイタマへそこに泊まってもらうようお願いしたのだ。

 

(どうすっかなー)

 

どこのお好み焼き屋に行こうか迷っていると……聞き慣れた声がかかる。

 

「あれ……え、サイタマ先生ェ!?」

「ん?……あ。一輝」

 

振り向くとサイタマの弟子である黒鉄一輝が目を剥いていた。

 

 

 

 

「もう一玉頼んでいいか?」

「ええで、ぎょーさん食うてな。おーい、小梅ぇー!」

 

サイタマのリクエストに応え、諸星は妹である小梅を呼んで注文をとる。

 

サイタマと偶然出会った一輝達───他には珠雫、有栖院、そして刀華が共にいた────は、諸星に夜ご飯を誘われていたのだ。

一人でいるところに後ろから声がかかったのは二度目ではないと、サイタマはどこかデジャヴを感じたが……思い出せず、『まぁどうでもいいか』と忘れることにした。

 

「ここのお好み焼きうめぇな」

「せやろ?なんと言ってもウチのお好み焼きは日本一やからな!」

 

大阪らしいものを食べたいと思っていたサイタマとしても一輝達と『一番星』についていったことは都合が良かった。事実『一番星』のお好み焼きは極上だ。

 

「それにしても驚きましたよ。先生の話をしていた時にばったり会えたんですから」

「俺の話?」

 

サイタマが会ったのは、ちょうど一輝が諸星へ彼の話をしていた時のこと。

自身のことを話されていると聞き返したサイタマに答えたのは諸星だ。

 

「あんたが『バケモン』やっちゅー話や」

「……一輝、何を話したんだ?」

「あー、いやいや。ワイがそこのマスコミから話聞いとってな?そんで気になって黒鉄に聞いたっつー訳や」

 

史上最強のFランク学生騎士である《落第騎士》の師匠の話を八心から聞き、気になっていたのだ。

ただ。瞳の奥に『猛獣』を飼っている諸星はサイタマと実際に対面したことで、本当に彼が強いのか疑問に感じ始めた。

 

「でもな……アンタから匂わんのや。強さが」

「え?そーなん?でも《落第騎士》のお師匠さん、合宿でお姫さんのことボッコボコにしとったよ?」

 

お姫さんとは《紅蓮の皇女》ステラ・ヴァーミリオンのことだ。

騎士に関心のある者なら誰でも知っているAランク騎士。目の前の男がその彼女を一方的に打ち負かしたことを、諸星は信じられなかった。

 

「感じんのや。アンタが強いっちゅー圧力を」

 

強者の香りならば一輝の方が醸している。

埒外の洞察力を持つ《落第騎士》ならば、師匠と呼ぶ男の実力を見誤ることは無いだろうが、諸星は疑惑と共に念押しとして質問を投げる。

 

「……なあ、黒鉄。お前の師匠は本当に強いんか?」

 

今までサイタマの強さを初見で見抜けたのは、《世界時計》《夜叉姫》《闘神》の3人だけだ。

いくら《七星剣王》と言えど未だ学生。恐らく、世界トップクラス級の実力者でないとサイタマの異質かつ純粋な強さに気付くことすらできないのだろう。

 

(俺がどうとか、どうでもいいだろ……まぁそれもどうでもいいか。……てか、やっぱここのお好み焼きうめぇ)

 

……そんな話は何処吹く風。サイタマは気にせずにお好み焼きを食べ続けていた。

もちろん、諸星の質問には一輝が答える。

 

「僕が出会ってきた中で、先生は『最強』です」

 

─────そう断言した。

 

「ほーう?」

 

そしてそこに噛み付いてきたのは八心だ。

 

「……それは《比翼》より強いっちゅーことなん?」

「!」

 

驚き、動揺する一輝を見て、八心は言葉を続けた。鎌をかけただけのつもりだったが、あながち聞いた噂はデマではなかったようだ。

 

「いやな?噂で聞いただけなんやけど…アンタが《比翼》と戦って勝ったって話聞いたんや。それホンマなん?」

「っ────」

「やっぱその反応!!噂はマジだったんか!?」

「えぇ!黒鉄、あの《比翼》に勝ったんか!!ホンマか、おい!?」

モグモグ(肥沃??……こいつらなんで農業の話してんだ?)

 

話を理解していないサイタマを他所に、諸星も驚愕と共に話に入ってきた。

しかし所詮、噂は噂でしかない。訂正すべきところがある。

 

「いやいやいやいや!ちょっと落ち着いてください!確かにエーデルワイスさんとは剣を交えましたが───」

「おいおい、それマジかい!!」

「だから落ち着いてくださいって!」

 

食い気味の諸星と八心を宥めてから噂を訂正した。

 

「確かに戦いましたが…目も当てられないような惨敗ですよ。情けで命を助けてもらったようなものです」

 

流石に《比翼》へ勝利したことはデマだったようで。

 

「ま、まぁそらそうよな。……でも戦って生き残っただけでもホンマ大ニュースやで!もし良ければ詳細教えてくれへんか?」

「ま、まぁ覚えている範囲でなら……」

 

しかしながら世界一の大剣豪との手合わせという超ビッグスクープは、記者として好奇心が沸く。

 

「……」

 

諸星も刀華も無言で一輝を見つめている。かの《比翼》との手合わせの内容は刀華も聞くのが初めてなのだ。

 

「……エーデルワイスさんの剣はなんとか見えたんですが……捌くのは無理でした。彼女の剣速、手数、一撃の重さ……どれもが常識を超えていました」

「《比翼》の剣が見えるだけでも凄いのですが…」

「僕は退いたらならば、首と胴が斬り落とされるのは分かっていたので………攻めに転じようとして────」

 

一輝は鮮烈に残っている《比翼》との死合いの記憶を掘り出す。

 

あの時。《一刀修羅》制限時間切れ限界ギリギリで一輝は────

 

 

「最後に、僕はエーデルワイスさんの剣技をなんとか『模倣/コピー』しました」

 

 

衝撃の事実に諸星と八心、刀華、そしてずっと静かだった珠雫ですら驚きの声を上げた。

 

「「は────ッ!?」」

「えッ!?」

「ほ、本当ですかお兄様!?」

 

「え、えぇ。まあ、その直後に《陰鉄》が砕かれて意識を失っちゃったんですけどね」

 

彼らが驚くのも理解出来る。

例え直後に斬り伏せられたとしても、彼は《比翼》の剣技を盗んだと言う。

ならば聞かねばならぬことが一つある。

 

「じゃ、じゃあ黒鉄くん、今《比翼》の剣を使えるん!?」

 

騎士として諸星と刀華はその答えにゴクリと唾を飲む。

一輝はその質問に────

 

 

「使えますよ」

 

 

肯定で答えた。

 

「大ニュースやぁぁぁぁあああ!!!!」

「落ち着いてくださいってば…」

「そんなん無理やろ!」

 

─────《落第騎士》は相手の剣技を『模倣/コピー』する。

それは周知の事実だが、まさか《比翼》の剣すら盗むだなんて誰が思うだろうか。

七星剣舞祭に出場する全選手にとって、それはもはや脅威でしかない。脅威でしかないのだが……一輝の目の前に座る男は違った。

 

「今年はシードって聞いて退屈やと思ったんやが……」

 

目の前の『猛獣』は、それに相応しい笑みを浮かべながら

 

「去年より楽しめそうやな」

 

《七星剣王》は殺気にすら等しい闘気を以て告げた。

 

「……黒鉄、このお好み焼きはワイの奢り。ライバルへの歓迎や」

「それは……大変嬉しいのですが、本当にいいんですか?」

「かまへん。わざわざ東京から来たモンから金巻き上げたらおふくろにしばかれるわ……それに、明日はシロとの試合やろ?」

 

確かに一輝は城ヶ崎との試合が、初日のスケジュールに組み込まれていた。

 

「敵に塩を送る訳ちゃうけど、美味いもん食って英気養って、明日から始まる七星剣舞祭で最高のコンディションで試合に臨んでくれや」

「───!」

 

つまり彼はこう言っているのだ。

完璧なコンディションで試合をし、一輝が城ヶ崎に勝てたらそれはそれで良し。城ヶ崎がその一輝を倒したならそれもそれで良し。

勝ち上がってきた強者を打ち負かすことで、自身の強さを示すことができる、と。

 

白夜の強さを諸星は良く知っている。彼が絶好調に向かうために何をするかも。そこに不要な手出しはできない。

ならば諸星が出来ることは、黒鉄一輝を最高のコンディションにすることだ。

 

「シロもそれを望んどったで?」

 

そしてそれは城ヶ崎も同様に望んだこと。

好調の《落第騎士》と戦ってこそより美しく、より完璧な棋譜が完成すると彼は言っていた。

 

「せっかくの最高の舞台での真剣勝負。自分にも相手にも遺恨は残しとうない。せやろ───《無冠の剣王》?」

「……そうですね」

 

侮られて当然のFランクに、前年度覇者も前年度二位も同様に全力で臨む事を期待してくれている。死力で試合に臨もうとしている。

それに応えなければ嘘だろう。

 

「明日、白夜さんに勝って、そして必ずこの恩はありったけの仇で返させていただきますよ」

 

《落第騎士》は感謝と共に宣言した。

 

必ず《天眼》を下し、諸星の前に立つと。

貰った恩を返す為に。

 

 

 

 

諸星の"個人的アフターケア"をしに来た薬師キリコも混ざり、その後一時間ほど話し込んだ。

サイタマも極上のお好み焼きを数玉食べられ、御満悦な様子であり。

その帰り道で

 

「……なぁ実は一個聞きそびれたことがあるんやけどいいやろか?」

「なんですか?」

 

八心がふと、質問をした。

 

「ウチが《比翼》の話出したばっかりに話題逸れたんやけど、アンタのお師匠さんの話聞いとらんのや」

 

八心が《比翼》の話を振ったのは、彼女とサイタマと比べた時だった。

無名のサイタマと、剣士の頂に住まうエーデルワイスなら、皆が食いつく話題はやはり後者だろう。

その場では彼女の話をして終わってしまったが────

 

「尚更気になるんや。アンタが《比翼》と戦ったのに、それでも師匠を『最強』って言うのが」

「そうですよお兄様。このハゲって本当に強いのですか?」

「おい…。さり気なく酷くねぇか?」

 

さらっと自らをハゲと言った珠雫に突っ込みを入れたサイタマ。そして一輝はそんな彼を『最強』と評した理由を語った。

 

「さっきは言いませんでしたが……実はエーデルワイスさんに、ほんの少しだけですが切傷をつけることが出来たんです」

「ぇッ、ちょ、まじか!!!」

 

途切れた記憶の最後で、一輝の《陰鉄》がエーデルワイスの頬を掠ったのは朧気に覚えている。

しかし、まさか頂点と戦っただけでなく一太刀浴びせていたとは。

 

「流石に驚いたわ……」

「まぁ重要なのはそこではないんですけどね」

「は、はぁ?《比翼》に剣を届かせたってのが大事じゃない?」

 

意味が分からなかった八心は問い返す。

 

「そうです。僕はサイタマ先生と会って三年が経ちますが……先生の"血"を見たことがありません」

「それはどういう…?」

「言った通りですよ。先生に手合わせしていただいた時も含めて、僕は先生が傷を負ったのを見たことが無いんです」

「え───」

 

即ち《比翼》に傷を付けた《落第騎士》でさえも、サイタマには"全く届かなかった"ということ。

 

(…この男が……!?)

「なんだよ」

「あ、あぁ。すまんすまん。何でもないわ……」

 

八心は目を剥いてサイタマを見た。気が抜けた顔で平凡そうな男が。

 

「……じゃあ、お師匠さんは《比翼》より強いっちゅーことなん?」

 

八心は、そう恐る恐る尋ね──

 

「エーデルワイスさんの本気もサイタマ先生の本気も、見たことは無いですからなんとも言えませんが……………同格かそれ以上……だと思います」

「………まじか………………」

 

先程から驚きすぎて、もはや声すら出なかった。八心にとっては無名のサイタマがかの《比翼》と同等だと言われるのは、もの凄い違和感がある。

 

しかし、刀華は違った。

 

(そう言えばサイタマさんのことはお師匠さんも、ものすごく褒めてたし…)

 

《闘神》がサイタマを絶賛していたのを思い出す。

 

『サイタマくんはとんだ傑物じゃ』

そして

『ありゃ下手したら寧音より強いかも知れんのぉ』

と南郷は言っていた。

 

サイタマは、南郷に連盟所属の魔道騎士の中でも三本の指に入る寧音よりも強いと評価されたのだ。故に、刀華はサイタマの異常な強さを理解出来ていた。

 

「にしても、サイタマさんと《比翼》が戦ってるとこ見てみたいわー」

「……多分それ、周りが壊滅してますよ…」

 

一輝はサイタマ対エーデルワイスを想像するものの、彼ら二人が衝突したならば、舞台となるその地は間違いなく崩壊するだろうと推測した。───彼の推測は間違ってないことはいずれ証明されることとなる。

 

と、そこで。

サイタマは自分の引き合いに出されているその人物に、ようやく関心を持った。

 

「……なぁ一輝。さっきから肥沃だの比翼だの言ってるけどよー、誰なんだそいつ?」

「エーデルワイスさんのことですか?」

 

一輝はサイタマに《比翼》という魔人のこと、また『暁』襲撃時に彼女と剣を交えたと教えた。サイタマから特定の人物について聞いてくるなんて珍しいと考えながら。

 

「───エーデルワイスさんは『世界最強の剣士』です」

「最強………か。そいつは俺くらい強いのか?」

「はい。僕はそう思います」

「……ふーん」

 

それにサイタマは気のない返事をするだけだった。

 

 

 

 

それから解散し、それぞれの帰路についた。サイタマはホテルへの帰り道で───《比翼》という人物のことを考えていた。

 

 

(俺と同じくらいか)

 

 

サイタマは自分と同等の者に出会ったことがなかった。《世界時計》も《夜叉姫》もサイタマが関心を持つには至らず。

しかし一輝がサイタマと同格と断じた剣士、《比翼》のエーデルワイス。

 

「闘ってみてぇな…そいつと」

 

サイタマは彼女に興味を持った。

 

あまりに強くなりすぎて、自身と釣り合う実力者と会えなかったサイタマ。

彼はそんな《比翼》というまだ見ぬ『最強』と相見える時のことが楽しみに思えた─────

 

 

 

 


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