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@Gawara_hamelin
作者プロフ欄にURLあるんでそちらからもどうぞ。
『破軍』襲撃から一夜明けた朝。
東堂刀華は寮の部屋にて鼻歌交じりに朝食を作っていた。
「〜〜〜〜♪♪」
彼女は確かに天然でおっちょこちょいではあるが、女子力は高い。
料理に掃除、洗濯などの家事全般はほぼ完璧にこなすのだ。その中でも料理をしている間だけは何も考えない時間であり、気分転換としては最適であった。
「〜〜♪………はぁ」
気分転換───と言ったのは、刀華は昨日から悩んでいることがあったのだ。黒乃から聞かされた話のことである。
『暁学園』に挑んだ生徒会役員の仲間は皆、未だ目覚めないという。泡沫以外はダメージ量も多くないようなので夜中のうちに意識を取り戻すだろうが、彼だけは時間がかかるだろうとは黒乃は言っていた。
「剣舞祭に出たいなぁ……でもうたくんが心配だしなぁ………」
刀華はそのことが心配だった。刀華と泡沫の仲は、『いずれ目覚めるのだから、剣舞祭に出てもいいのに』などという次元ではないのだ。
未だ固まらない決意に揺さぶられながら朝食を作っている
と────生徒手帳の着信音が鳴る。
「ん?」
一旦火を止めて、ポケットから手帳を出すとメールが1通届いていた。どうやら差出人は一輝だった。
「……黒鉄君?どうしたんだろ」
こんな朝早くからメールを送ってくるなんていったい何事だ。そう思って内容を確認する。
画面には。
『生徒会の皆さんが意識を取り戻しました』
とあった。なんともタイムリーな内容か。
恐らく黒乃の言うように、夜のうちに意識を取り戻していたのだろう。
「っっ」
本来なら朝食を食べてから朝一で見舞いに行こうと考えていたのだが、この朗報を聞いてしまえばその順序の逆転だって自然と起こるだろう。
メールを確認した途端に作りかけの目玉焼きを放って刀華は病室へと駆け出した。
○
「─────カナちゃん!兎丸さん!砕城くん!」
勢いよく扉を開けると、中には目覚めた三人と部屋の隅には一輝がいた。
「おおーかいちょー」
「えぇ!?もう体は大丈夫なんですか!?」
どこからか持ってきたダンベルで筋トレをしていた恋々を見て、まず驚いた。
「大丈夫大丈夫ー。動かないと鈍っちゃうからねー」
「もう兎丸さん……心配したんですからね」
「そうは言ってもねぇー」
「其達は副会長と違い、ダメージは少ないと聞いた」
「そーそー。クロガネ君から教えてもらったんだよねー」
一輝は刀華が来るまえからこの病室にいたはずだ。彼から現状の全てを聞いていてもおかしくはない。
「それよりかいちょーの方は大丈夫なの?」
もちろん刀華が気絶していた事も聞いていたって何らおかしいことは無いのだ。
「かいちょーもなんか眠ってたんでしょ?《風の剣帝》にやられたの?」
「え、えぇ…。まあ私は自滅のようなものですから…」
「えぇー気になる!」
刀華と恋々が実に楽しそうに話している────と、カナタは一輝に目で"合図"をした。
(黒鉄さん。そろそろ)
彼はそれに頷き、そして刀華に病室から出る旨を伝える。
「…では僕は失礼します」
「! お早いですね」
ふと退室すると言われ、刀華は少し驚いた顔で振り返った。実際刀華が病室に来てから数分も経っていない。
「生徒会の皆さんのお邪魔になるでしょうし」
刀華は一輝の意も汲み、引き止めることはしなかった。
「そうですか…。あ、みんなのことを教えてくれてありがとうございました」
「礼には及びませんよ。東堂さんに少しでも早く知って欲しくて僕が勝手にやったことですから」
そのまま一輝は扉の前に移動して
「では失礼しました」
刀華に一礼して────一度カナタと目を合わせてから一輝は部屋を出た。
「えぇ、また……」
それを刀華は確認するとカナタ達と向き直ると、3人は真剣な顔付きに変わっていた。先程まで調子よく喋っていた恋々でさえそうだった。
「それで……カナちゃん?」
「……流石は会長。お見通しでしたか」
「あはは。バレバレだねー」
刀華はその魔術の特性上、相手の思考を読むことが出来る。今は眼鏡をかけていて十全に能力を行使できていないが、それでも相手の思考は少しなら読める。
「察しの通り────我々から少し、お話ししたいことがあります」
カナタは足踏みをしている刀華の背中を押すような。そんな話を始めた。
●
同日 数時間後─────奥多摩の山中。
「さぁて。お姫さんよ。とりあえずはこんなもんだけど……どうよ?」
「っっ…………最高よ」
「そうかいそうかい。そりゃ良かった」
ケタケタと笑う西京寧音と、彼女とは対照的に、地に伏したまま身動きが取れていないステラ・ヴァーミリオンだ。
何故彼女達が奥多摩の山にてこのようなことになっているかと言うと、ステラが寧音に頼んだことで始まった『特訓』に起因する。
そしてそれは、寧音が提示した条件────『特訓の相手をする代わりに何も教えないし、一方的にぼこぼこにするだけ』というものである─────の通りになっていた。
『んじゃ始めよっかね〜』
この言葉と同時にステラは速攻で寧音に技を叩き込もうと動いた瞬間───反撃一閃。ステラは寧音の強力な伐刀絶技にて吹き飛ばされていた。
それからというもの。寧音は一撃一撃が必殺に近い威力の技を出し続け、その上"ヒット&アウェイ"戦法を繰り返していた。
「何時間かぶっ続けでウチのこと追いかけてたけど、結局一発も当たらなかったねぇ」
彼女の言う通りだ。逃げる寧音に技をあてることはおろか、終いには《自縛弾》にて拘束され、身動きが取れなくなる始末。
ステラにかけていた重力が解かれ、彼女はぼろぼろな姿で寧音を睨みながら立ち上がった。
「いつつ…………お陰さまでね。でもね、まだ始まってちょっとしか経ってないのよ?そんなに余裕こいてていいのかしら?」
「おーおー。ステラちゃん怖いよぉ」
「ふん。今に見てなさい。ぎゃふんと言わせてやるんだから」
悔しさしかない。しかし今日は初日だ。その上、日はまだ高い。
寧音に対抗できるようになる時間はたっぷりある。そう、やる気を燃やしていたステラ。
「一日の特訓が終わるまでだったらいつでも受けて立つさね。休憩してる時に奇襲に来たっていい。ま、ウチはそんなことされたらやり返すけど」
「そもそもここから短期間で追い上げるって言うのに『休憩』なんていらないわよ」
(……思った通りこりゃステラちゃん、かなーり焦ってるねぇ。ふふ。これから五日間で気づいて欲しいものさね)
ここから駆け上がろうと奮起するステラを見て寧音はそんなも思いを抱く。
ステラは世界一の魔力量を持ち、即ち世界への干渉力も世界一であるのだ。
その者が謙虚であり続けてどうする。傲慢に、そして驕っていても良いではないか。いや、本来はそうあるべきなのだ。
決して敵を軽視し見下すことはせず、しかし自身が強者であると確かに自覚する。そんな在り方。
それこそ、寧音が思い描く『《紅蓮の皇女》の本当の姿』だ。
そんな風に考えていると木々の茂みからガサッと音がする。何かがそこにいるという事だ。
(─────ッッ!?)
寧音は一瞬で林の中から出てくる者が"誰か"は理解した。寧音はその男の雰囲気は知っていた。
それは理解したものの、「何故ここにいるのか」を理解出来ずに横を見てしまう。いや、大方察することは出来たが、驚きと共に振り返ったのだ。
ただ。そこに───隙ができてしまった。
「ネネ先生、隙アリよ!!」
ステラからは丁度木の死角となり、林から出てくる男に気づかなかった。
だから、ステラ程のものが寧音の隙を見逃すはずも無く。近距離にてステラは全力の《天壌焼き焦がす竜王の焔》を放った。
「お、おいおい!」
一方、まさか《天壌焼き焦がす竜王の焔》を打ち込まれると思ってもいなかった寧音は焦る。
技の対処自体はなんの訳もないのだ。だがその焦り故、何も考えず咄嗟に技を受け流してしまった。
彼が立っている方向へ。
「やべ!」
「受け流すなんて流石ね、ネネ先生っ!!」
「ちょ、やめろバカヤロッ!」
テンパる寧音を見て勝機ここにありと見たステラは更に追い打ちをかける。
未だ、彼に気づいていない。
寧音が《天壌焼き焦がす竜王の焔》の対処をしようとしたところに、追撃が邪魔になったとしてもステラは悪くない。しょうがないことだ。
「ちぃっ!」
自身の周りにもう1度強い重力をかけ、ステラごと竜を止めようとした刹那。
「きゃぁあ!! 何!?」
「────っ」
爆風により目の前のステラは吹き飛ばされた。
寧音は魔術にてなんとか踏みとどまったが、一撃の威力に畏怖していた。
(話にゃ聞いてたが……これか!!)
その一撃とは即ち、自分に向かって飛んでくる炎の竜を消し飛ばすために男が振った拳の余波。
「ゲホッゲホっ……な、なんでアンタがここにいるのよ!」
風で舞った土煙の中、ステラが見つめた先に立つ男とは────
「───サイタマ!!」
彼女たちの元へ着くなり、ステラ最高の大技を放たれて困惑するサイタマだった。
「いきなりなんなんだ……」
○
────サイタマを加え、地獄のような特訓をステラが再開させた時。
場所は戻って『破軍学園』。ルーティンである数十キロにおよぶ長距離走をこなし、一輝が学園に戻ってきたところだった。
「ふぅ……」
汗を拭きながら息を整えながら、彼はステラのことを思う。
(……今頃、先生と始めた頃だろうか)
寧音とサイタマという世界屈指の実力者を相手にするような、羨ましさすら感じる特訓をしているステラ。
だが、一輝は一輝でやるべき事はあるのだ。いずれ来る七星剣舞祭に向けて徹底した鍛錬を続けなければならない。
(さて。少し休んでから────)
休憩を入れてから、次は『彼女』の神技に少しでも近づくための訓練しようとした。
その時。正門に立つ少女の姿が目に入る。丸眼鏡に三つ編み、そして黄金色の綺麗な髪の毛。その凛とした立ち姿を、当然一輝は知っていた。
「……東堂さん」
その少女とは────《雷切》東堂刀華である。
「お疲れ様です、黒鉄くん」
「ありがとうございます。これは僕にとっての日課ですので」
刀華はジョグから帰ってくる一輝を待っていたのだ。
「黒鉄くんに言いたいことがあって、ここで貴方を待っていました」
それは伝えたいことがあったから。
「やはり……東堂さん。決めたんですね」
「はい」
彼女の顔を見れば一目瞭然だ。何を言わんとしているか、一輝にははっきり分かった。
○
一輝が去った病室で刀華の親友としてカナタは言った。
『私は刀華ちゃんに安心して七星剣舞祭に出て欲しいから。その為なら私は代表を辞退することだって厭わない』と。
刀華が決断する為なら、カナタは付きっきりで泡沫の看病をしても構わないと言ったのだ。
無論、泡沫とていつまでも意識不明な訳では無い。
しかしカナタのこの言葉は誇張では無いのだ。刀華はそれほどまでに泡沫を心配していた。刀華と彼に間にある絆は生易しいものでは無いのだから。
『刀華ちゃん……いえ、会長』
期待と希望と共にカナタは言葉を続けた。
『『破軍学園』の会長である貴方を。《雷切》東堂刀華を。もう一度全国の場で見せてください』
『!……』
ここまで背中を押されたのだ。これほどに仲間から思われているのだ。
『会長を剣舞祭で見たいのは、決して私達だけでは無いはずです』
その言葉に思い出されるのは『わかばの家』の子供たち。刀華の剣は孤児である彼らに与える"希望"も宿しているのだ。
孤児たちや生徒会の仲間、それだけではない。ほかの多くの想いを背負った刀華は
『……色々託されちゃったかな』
『え?』
『ううん。何でもないよ』
一度、目を閉じて。
『……カナちゃん、兎丸さん、砕城君。みんな………ありがとう…。』
揺れ動いていた彼女の気持ちは固まった。1人だったら、七星剣舞祭に出ていなかったかもしれない。
故に最高の仲間、最高の親友に感謝しながら。
『私は─────』
少女は決断した。
○
「─────黒鉄くん。私は七星剣舞祭に出ます」
その決意を一輝に告げ────同時に迸る剣気。
(ッッ……流石は東堂さんだ)
選抜戦にて立ち会った時に1度は受けたこの圧力。とは言え、かつて受けたよりも一層鋭い威圧に一輝は瞠目する。
これが『破軍学園』学内序列第一位。日本に名を轟かせる《雷切》なのだ。
昨日とはまるで"目"が違った。迷いを吹っ切ったようだ。
「黒鉄くん。……もし本戦で当たったなら。貴方だろうとステラさんだろうと、もう負けませんよ」
それは宣戦布告。
公式戦にて自分を負かした《落第騎士》にも。合宿にて2勝2敗と引き分けた《紅蓮の皇女》にも。絶対に勝つと彼女はそう言った。
だが、一輝も易易と受け入れる男ではない。
「それは僕も同じですよ」
刀華に歩み寄って、少し笑いながら手を差し出す。
「僕だって絶対に譲れません。……ステラとの約束だってありますから」
「ふふっ。それでこそ倒し甲斐があるというものです。もし当たったならば絶対にリベンジします、覚悟してくださいね」
刀華は差し出されたその手を握り返した。
●
それから数日。
参加者たちは皆、各々の思いを抱いて最後の一週間を過ごしていた。
全国の猛者共が鎬を削りる七星剣舞祭。
その全参加者31名によるトーナメントが開催目前となったその日、ついに公開された。
その中の一人の少年。公開されたトーナメント表を見て────黒鉄一輝は与えられた試練に笑う。
それはそれは苦笑いか。
或いは確かな自信から浮かべた笑みか。
初戦の相手を務めるのは、前年度七星剣舞祭にて準優勝『武曲学園』3年 城ヶ崎白夜。未来予知に迫る観察力の持ち主故に、彼が付けられた二つ名は《天眼》。
そして続く第二戦で立ちはだかるのは───王。
「全く…これは燃えるよ」
シードで上がってくるその男の名は
『武曲学園』3年 諸星雄大。
今この瞬間、紛れも無く日本の学生騎士の頂点に立つ《七星剣王》その人であった。
●
『史上最高の七星剣舞祭』
後に人々は口を揃えてそう言うこととなる第62回七星剣舞祭。
その開催はもう目の前だ。
【 七星剣舞祭 代表選抜戦 】編 完
この1話に物足りなさを感じた方はどうかご容赦を。
そして、続く【七星剣舞祭】編を楽しみにお待ち下さい。