アグニカ・カイエル バエルゼロズ   作:ヨフカシACBZ

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俺のゴーストが囁くのさ


『とにかく拷問だ!!!

拷問にかけろ!!!!』


6話 誓い

『お前はもう必要ない』

 

「どうしてッッッ!!」

 

冷たい雨が降る夜、俺は道端に捨てられた。

泥が顔や服にこびりついたけど、そんな事はどうでもよかった。

今はただ、この理不尽に対する怒りと苛立ちで頭が一杯だったから。

 

『家に置いておく理由が無くなった。お前を育てる事で得られる利益と損失が、割に合わなくなっただけだ』

 

「どうして俺を産んだのッ!!?」

 

父親は商人だ。損得の天秤でしか物事を見ない。

だから子供を育てる事だって、後継者を育てるための先行投資でしかない。

割り切っているのだ。

 

『産んだのはお前の母親だ』

 

「許したのはアンタだろッ!!?」

 

父親はやれやれと首を振る。

心底理解出来ないものを見る目だった。

 

『何でもかんでも俺のせいか?本当に、お前は母親に似たな。出自が知れるというものだ』

 

「産まれたくなんてなかったッ!!!」

 

髪の毛を雨水が滴る。

周りは不気味なほど暗くて、静かだ。

 

「殺せよ!要らないんだろ!?じゃあ殺せよお!!」

 

『子供が口にする言葉ではないな。それも、父親に向かって』

 

「なっーーーー!?」

 

目の前が真っ赤に染まった。

 

「お前はもう父親じゃないだろッッ!!!」

 

『そうだ。父親じゃない。お前のような得体の知れない子供とは、何の関係も無い』

 

「ーーーーーッッ!!!」

 

果物ナイフを取り出し、即座に斬りかかる。

しかし、周りにいた黒服の男達に難なく取り押さえられてしまった。

また地面に叩きつけられる。

 

『はあ、論破されると激昂する。具合が悪くなるとすぐ刃物を振り回す。とことん母親似だな、お前は』

 

父親は、状況によって言っている事が違う。

そして何より、自分には何一つ責任が無いと、絶対に認めようとしない、沸き立つような力を感じる。

父親は、自分だけが良ければそれでいいのだ。

自分は絶対に汚れない、究極の綺麗好き。

世の中の穢らわしいものには一切触れようとしない、徹底した排斥主義者。

だから、自分の息子でさえも、簡単に切り捨ててしまえる。

 

「どうして、俺を産んだの……」

 

涙が出た。

寒い。痛い。辛い。

どうしてこんなに苦しまなきゃいけないの。

どうして、生きていたらこんなに苦しいの。

 

存在してしまえば、必ず苦しまなくちゃいけない。それが、世界のルール。

父親は、その苦しみを力任せに外に追い出して生きてきた。

暴力の化身。人として当たり前の事を、何もかも拒否した存在だ。

それは、人間を超越したような存在で、力の塊のような存在で、癇癪を起こして駄々を捏ねる子供のような存在。

俺が産まれて初めて見た、怪物だった。

 

「生きてたら、苦しいよ……力がなきゃ、死んじゃうよ……嫌な事、いっぱいされなきゃいけないよ。それなら、いっそ産まれなきゃいいじゃないか。存在しないなら、最初から苦しい事なんて無いよ……」

 

それは、俺が誰かに対して感情を吐露した、最初で最後の事だ。

誰からも愛されず、確かなものを感じてこなかった俺は、存在するもの全てに疑念を抱いていた。

この世の全てが、まやかしなのではないかと。

そう思った途端、生きている事、存在している事が、ただ苦しむだけの虚しいものに思えた。

 

存在していたって、力がないのなら、何にもなれない。何も出来ない。

土くれが踏みつぶされ、砕け散るのと何が違う?

それならいっそ、『存在しないもの』になれれば。

そこに無いのに、そこにある全てでもあり、全てを動かす力に成り得る。

何も無いって事は、それだけで凄い事なんだ。

世界に限りなんて無い。限界なんて無いんだ。

だから、産まれてきたくなかった。

 

存在してしまえば、必ず限りがある。

出来ない事がある。

 

俺という存在がそこにあるがために、何も無い事になってしまうのだ。

 

死語の世界なんてどうでもいい。

生まれ変わりなんてどうでもいい。

 

俺はただ、苦しみたくないだけなんだ。

そうだろ?

 

「父さんだって……」

 

『消えろ』

 

そこで俺の意識は途切れた。

 

 

 

 

人は何故、地獄というものを想像したのだろう。

存在するはずもない、知る術もないものに、何の価値があるのか。

それはきっと、この世界のどこかには、この世の災いを敷き詰めた、恐ろしい世界があると思うため。

そして、自分はそこにいないという確固たる事実、ここに安堵を感じる。

 

『ない』という事実から快楽を産み出すなんて、人間とはなんて創造力のある種族なんだろう!まさに神そのものじゃないか!

 

父親も、そんな宗教染みた考えを持っていた。傲慢とも言える。

不完全さを切り捨てる事で、神になったかのような全能感に浸れる。

結局俺は、母親共々、父親が快楽を得るための玩具でしかなかった。

そのためだけに存在した。

 

やっぱり、存在というものは罪なんだ。

 

次に目が覚めた時から、俺は、存在しないものだけを求める者になった。

架空に生きるモノとなったのだ。

ヒトをやめて、想像上の怪物になったんだ。

けどそんなもの、世界からすれば些細な事で、俺はただの孤児にすぎなくて。

非力な存在に、世界は容赦無かった。

 

灰色の路地裏をさ迷う生活は、実感と答え合わせの繰り返し。

生きているから、『ある』から飢える、疲れる、痛む、痒む、凍える。

臭い、汚い、ねばねばする、べとべとする、ぎとぎとする、ぬめぬめする、がさがさする、ごわごわする、ザリザリする、いぼいぼする、べちょべちょする。

 

生きているから、腐る。肉なんてものがあるから、腐臭がする。

血なんてものがあるから、漏れ出す。

ここは、汚物の巣窟だ。

生きるのも、死ぬのも、糞喰らえだ。

 

『ない』なら、楽しむのも、苦しむのも自由だ。

そこには全てがある。

でも、ここには全てがない。

何もかもが渇き、餓え、壊れ、狂い、足りない。

 

俺の根底にあるのは、生きている事への絶望。

俺を生かしている全てへの復讐だ。

 

 

 

 

 

玩具として買われた後、それなりの身なりに整えられた。

食事も、清潔な環境も、景色も、娯楽も。

けど、こんなのは『ない』に比べたら、ほんの微々たるもので。

結局、『ある』ことに囚われた俺は、毎日おぞましい夜を過ごして。

けどある晩、俺は答えを見つけた。

書家の片隅にあった、一冊の本。

俺の意識は釘付けになった。

 

この人こそ、存在しないものの極致だ!!

 

圧倒的な力による、世界を意のままに操る存在。

これこそ、全知全能の存在じゃないか。

 

『ない』とは全知全能、全知全能とは力の塊。

つまり、俺の目指すべき場所は、あらゆる力の掌握なのだ。

 

夜風に当たると、冷たくて気持ちがいい。

この風こそ、力の代表例。

何もないのに、そこにあると感じる。

世界を動かす。

風とは腐臭を吹き飛ばすもの。

 

俺は自分の進む道を、この本に教えられた。

いや、本当は昔から知っていた事を、この本が気付かせてくれた、と言うべきか。

『彼』のおかげで、俺の考えが正しい事が証明されたのだから。

 

 

 

 

 

友との生活は楽しくて、『ある』生活に満足しそうになるほどだった。

力への渇望、生きている事への絶望が薄れるほどに。

だがそんな時、彼女と出会った。

 

彼女はまだ子供だった。

それ故か、まだ何も知らない。夢見る子供。

だからだろうか、存在しないものであろうとする、俺に強く惹かれているようだった。

その時俺も思った。

 

彼女は、守るべき対象であると。

 

俺という存在しないものを感じてくれる、俺という存在に必要不可欠なもの。

 

俺は彼女を愛した。彼女も、俺を愛してくれた。

またしても確信した。俺は正しいのだと。

 

彼女を守りきってみせる。そう誓った。

 

 

 

 

 

彼に出会ったのは、それから間もない頃だ。

 

『それが、君の人生?』

 

「信念だな」

 

『そっか、その原動力は、『憎悪』って訳だね』

 

「ああ、そうだ」

 

『うん、いいよ。すごくいい。僕気に入っちゃったな。

だから、この鍵をあげよう』

 

彼は鍵を差し出す。それは、俺の過去を洗い流すために必要なもの。

つまり、父親の居場所と、そこに入るために必要な鍵だ。

 

「これを渡してどうする?」

 

『別に?ただ見届けさせてもらう。僕とこんなにお話し出来る人は、かなり珍しいからねえ』

 

「そうか、なら、遠慮なく使わせて貰おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

血がべっとりと付いたナイフ、その柄の感触は、今でも良く覚えている。

腹部を押さえ、信じられないという表情で俺を見る、父親の顔。

背中を刺しても良かったが、できるだけ顔を見ていたかった。

『存在しないもの』に殺されるとは、一体どのような心境なのか、それを少しでも観察したかったからだ。

 

『何故……お前が……げほっ』

 

心臓を一突き。

肋骨に邪魔されて刃は止まったが、父親の恐怖と出血は止まらない。

これが夢ではないと思い知らせたのだ。

 

『なぜ、おばえがあああああぁぁぁあぁあぁぁぁあああぁぁぁあぁあぁあッッ!!!!』

 

父親の中では、俺は完全に死んだものだったらしい。

その脂ぎった顔は非常に滑稽だ。

助けを呼ぼうと携帯端末に手を伸ばしているが、俺の友が手回しをしている。

誰も助けには来ない。

 

やがて徒労と分かったのか、あるいはそんな気力も無いのか、ごろりと横になった。

粗い呼吸に血塗れの胸が上下する。

 

『お前は……俺に似たなぁ……』

 

俺は何も言わない。

出来るだけ、父親のイメージする俺を尊重したかったから。

 

『自分が、ごほっ、世界で一番幸せじゃなきゃ満足出来ない……ッ!意地汚い奴……ッ!!現実と折り合いが付けられない、異常者ッッ!!ガキみてぇなもんさッッ!げほっ、ごはぁっ!!

……この先、どれだけ幸せになろうとも、絶対に満足出来ない!!

お前は人間じゃねえ!!

化物なんだよッッッッ!!!』

 

心がポカポカするのを感じた。

父親が、初めて俺を見てくれた。

俺の全てを知ってくれた。

俺を、認めてくれた。

 

彼の持つ、死への対策、あらゆる防壁をすり抜けてやって来た、想像上の怪物。

それが今の俺。

 

存在しないものになれた、その快感に。

そして、父親が好きだった俺の、遅すぎる喜びに。

俺は笑顔になった。

 

その二つの顔を持つ微笑みに、父親は悪魔を見たようだった。

血の泡を吹き出し、目をカメレオンのように左右対称に回し、手足をバタバタ暴れさせ、意味のない奇声を上げ続ける父親。

カーペットを血で汚す、モップのようになって、父親は死んだ。

 

幸あれ。そう言っているように思えて、俺はより一層笑顔になる。

俺はまたしても、自分が正しいのだと確信した。

 

俺は存在しないものになれたのだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

マクマード・バリストン邸宅

鉄華団の主要人物達は、名瀬に連れられて、その門をくぐった。

団長のオルガ、副団長ユージン、参謀ビスケット、モビルスーツパイロットであり護衛役も兼任する三日月。

火星独立家のクーデリア。

そして、暗躍と無双を担当するアグニカ。

 

「ん?おーお来たか名瀬」

 

体格のいい老人が、盆栽の手入れをしていた。

手に持った鋏がキラリと光る。

 

「ひっ」

 

ユージンは肩をびくりと震わせる。

マクマードは鉄華団の面々をぐるりと見渡す。

 

「なるほど、お前らが……話は聞いてるぜ。いーいツラ構えしてるじゃねえか」

 

どうやら彼のお眼鏡にかなったようだ。

 

「てっきり、もっとバケモノみてぇな顔した奴らなのかと思ってたよ」

 

「は、はぁ……」

 

オルガは生返事しか出来ない。

 

「おーい、客人にカンノーリでも出してやれ、クリームたっぷりのな」

 

部下にお菓子を出すように言う。その姿は好々爺そのものだ。

 

(これが、テイワズの代表、マクマード・バリストン)

 

「うちのカンノーリはうめぇぞ。パリッとした皮に、たっぷりのクリームでなぁ」

 

(なんか、イメージと違くね?)

 

ビスケットもユージンも、大組織の頭領とは、いかにも凶悪で恐ろしい人だと思っていたため、穏やかな姿のギャップに困惑していた。

 

「で、名瀬。お前はどうしたいんだ」

 

マクマードは話を切り替え、真面目に問い掛ける。

 

「こいつらは大きなヤマが張れる奴だ。親父、俺はこいつに盃をやりたいと思っている」

 

「!?」

 

意外な申し出に、オルガは驚く。

鉄華団単体として、テイワズに直接交渉をしなければならないと思っていたため、まさかタービンズが鉄華団を引っ張り入れてくれるとは想像もしていなかった。

 

「ほぉー、お前が男をそこまで認めるか。珍しいこともあるもんだな」

 

マクマードは口角を上げながら言った。

彼の記憶では始めての事だ。

名瀬もにやりと笑う。

 

「まあいいだろう。俺の元で、義兄弟の盃を交わせばいい。タービンズと鉄華団は、晴れて兄弟分だ」

 

「タービンズと俺らが……兄弟分?」

 

今現在考えられる中で、最も嬉しい未来の一つだ。

まだ現実味がないのか、オルガは呆然としている。

 

「で、貫目は?」

 

「五分でいい。どっちが上も下もない」

 

兄弟になるなら、上下関係を築く。

名瀬は鉄華団と五分で渡り合いたいと思っているが、なかなかそうもいかない。

名瀬はテイワズのボス、マクマード・バリストンと親子の盃を交わしている。

そんな立ち位置にいるタービンズが、おいそれと自分と同格を連れてくるという事は、マクマードを軽んじていると解釈されても可笑しくはない。

 

「ふぅん、お前がよくてもなあ、周りが許さんだろう。こいつらには荷が重い。せめて4分6にしておけ」

 

「……」

 

頭の上を意見が飛び交う。その感覚に慣れないオルガは黙り込む。

鉄華団団長として、下に見られる事は避けたいが、ここでごねる理由もない。

鉄華団はタービンズの弟分として、兄弟の契りを交わす事になった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

マクマード邸宅の広い庭。

そこには赤い長腰掛けと台が置かれていて、そこにはマクマードから山盛りのカンノーリが用意されていた。

オルガは左手でカンノーリを食べながら、コーヒーを啜る。

 

「うんめぇー!なんっじゃこりゃあ!」

 

ユージンはがつがつと口に押し込んでいる。

貧乏性なのか、常に両手にカンノーリを掴み、口一杯に頬張っている。皿は二つあるが、ビスケットの前の皿からも強奪していた。

 

「クーデリアさんだけに話って、やっぱりハーフメタル利権の件かな?」

 

「だろうな。ま、恐ろしい人ではあるが、道理の通らん事はしない。一応、護衛役も付けたんだろ?それに、アグニカも」

 

「あ、はい」

 

話を振られたオルガが返事をする。

ユージンはドカ喰いを続け、こそろが落ちて机が汚れている。

 

「おっとそうだ、お前らから引き取った諸々の鹵獲品に値が付いたぞ。とんでもねえ額だが」

 

名瀬が携帯端末を見せる。

 

「この金額で良けりゃ、請求を寄越してくれ」

 

「こ……こんなに!?」

 

「マジか!?ヤバすぎだろ!?」

 

火星軌道上でのギャラルホルンとの戦い。そこで鹵獲したグレイズは16体。

昭弘とクランクのグレイズ用に、予備のパーツを鉄華団用に保管して、14体を装備諸々売却した。

 

「玉石混淆だったがな。真っ二つになってたのもあったが……それでもギャラルホルンのモビルスーツはいい値が付く。買い手はごまんといるし、ちょっとしたステータスにもなる。

中でもグレイズのリアクターは高く売れた。今エイハブリアクターを新規で製造できるのは、ギャラルホルンだけだからな」

 

「やったなオルガ!」

 

「あ、ああ」

 

ユージンは予想以上の金額にはしゃいでいる。

 

「何から何まで、恩に着ます。えっと……あ、兄貴……」

 

慣れない呼び名に照れ臭いのか、顔が少し赤いオルガ。自分より上だと認めた相手、その敬称は、生まれて始めて口にするからだ。

 

そんなオルガを見て、名瀬はくすぐったそうに笑う。

 

「まだその呼び名は早いぜ」

 

「え」

 

立ち上がって、自力で歩いてきた子供が、目の前で転んだような顔をする。

名瀬はまた笑う。

 

「歳星は金さえありゃ楽しめる場所だ。ずっと戦闘と移動続きでガキらもストレスが溜まっているだろう。少しは息抜きさせてやれ」

 

オルガは真面目な顔に戻る。

自分より多くの家族を守り抜いて来た男の助言だ。

 

「そういうの、いつもカミサン達にやってるんですか?」

 

「んん?」

 

「いや、えっと……家族サービスって奴なのかと」

 

名瀬は今日一番いい笑顔になる。

 

「ああー。女ってのは適度にガスを抜かないと爆発すっからなあ」

 

目を閉じて、思い出すようにしみじみと語る。そして、それらを混ぜ混んで出した結論は、

 

「家長としては、まっ、当然の務めってやつだ」

 

いたずらっぽく肩をすくめる。

 

「家長として……」

 

オルガは噛み砕くように俯く。

そして顔を上げ、立ち上がる。

出来るだけ腹から声を出すように。

 

「よし!こいつの売り上げで今夜はパーっといくかぁ!」

 

「マジでか!」

 

ユージンは腕を振り上げる。

ビスケットの皿にはカンノーリが三段盛りで残っているが、ユージンの皿はあと数個しか残っていない。いつの間にか喰い進めたようだ。

 

「待ってよオルガ!これからの事を考えたら、堅実に資金運営を……」

 

「いやっほぉーーーう!!」

 

ビスケットの制止の声も、ユージンの歓声に掻き消される。

 

「他の連中にも早く伝えねえとな!」

 

「おう!パーっといこうぜ!パーっと!」

 

「はっはっはっは」

 

こんなにはしゃぐ二人を見たのはいつぶりか。

その横顔を見ていると、肩の力が抜けるのを感じる。

 

「まあ、いっか」

 

帽子に触り、溜め息を吐く。

その脱力がまた、気持ちいい。

ここまで気を張り詰めていたのだ。名瀬の言う通り、たまには息抜きもいいだろう。

オルガは名瀬からいい店があると勧められ、予約をしていた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

どかっと椅子に座るマクマード。

目の前には、緊張の面持ちで立っているクーデリアがいる。

 

「アンタが火星独立家のお嬢さんか。時の人と会えて光栄だ」

 

少しからかうように言って、タバコに火をつけた。

クーデリアは困ったように首を傾げる。

 

「時の人って……」

 

紫煙を吐き出すマクマード。

一拍置いて語りかける。

 

「お嬢さんは火星経済の再建策として、地球側が取りまとめていた、火星のハーフメタル資源の規制解除を要求。火星での独自流通を実現するため、地球くんだりまで出向く。そいつで間違いないな」

 

「は、はい!」

 

「うちで仕入れた情報じゃ、現アーブラウ市長である蒔苗は、本気でそれを通そうとしているらしい」

 

「本当ですか!?」

 

クーデリアの表情がパッと明るくなる。

やはりいいニュースは嬉しい。

 

「下手すりゃ、戦争になるな」

 

その言葉を聞いて、暗い顔になる。

どうして、とは言わない。

自身の歩く道の途中が、戦乱で溢れる事は理解していたからだ。

 

「利権を得ようとする組織同士の争い」

 

「ああ。そうなりゃ新たな利権を得ようと、様々な組織が暗躍する。それこそ、どんな悪どい手を使っても」

 

三日月は薄々分かっていたので目を反らす。

 

「しかも、こいつは長引く。利権を勝ち取っても、その後の各組織間で軋轢が残るからな」

 

「ええ、分かっています」

 

「ほお?」

 

クーデリアの瞳に灯る覚悟の火に、マクマードは興味を抱く。

 

「力を否定はしません。それを押さえ込む、より大きな力を使うのみです。

私は、ハーフメタル資源関連の運営を、テイワズにお願いします」

 

戦争を否定するから戦争が起こる。

戦争を肯定し、力を行使する力を持ってこそ、争いは未然に防げる。

そのための力として、テイワズを利用すると宣言した。

マクマードはニヤリと笑う。

その意気や良し、だ。

 

「お嬢さんが直々に指名したって大義名分を得られれば、当座の問題はこっちで何とかやれる。ま、避けようもねえこともあるかもしれねえが」

 

クーデリアは三日月を見る。

その表情は笑み、そこに込められたのは、悲哀と諦めと、恥と自嘲。

汚れてしまって、

 

「ごめんなさい、三日月」

 

貴方達を幸せにすると約束した。それは嘘じゃない。

そのために、力を使う事を選ぶ。

三日月達に血を流させる道を選んだ。

返り血を浴びる事を、決意したのだ。

 

「それは違うよ」

 

三日月はきっぱりと言い放つ。

 

「どっちにしろ、これからも人は死ぬんだ。今までの事で分かってるだろ」

 

三日月の割り切った物言いに、マクマードは興味を持った。

 

「それは……」

 

「これは、たぶん俺が最初に人を殺した時と同じ、クーデリアの、これからの全部を決めるような決断だ。それでクーデリアは、前を向くって決めてくれた」

 

俺たちのために。

そう言った三日月は、オルガの言葉が浮かんでいた。

 

『家族』

 

三日月はうまく説明できないが、

クーデリアが頑張って、それを見て三日月も頑張る。頑張ろうと思う。その三日月を見て、またクーデリアも頑張るのだ。

そんな力の循環を、一体何と言えばいいのか。

それはたぶん、『家族』なのだろうと思った。

 

「クーデリアが前を向いてくれるから、俺達も前を向けるんだ」

 

そのための力に、俺たちは喜んでなるだろう。

アグニカに言われた、暴力として機械のように従うのではない。不幸な操り人形でもない。

生きるため、進むための活力のようなもの、その流れの一部になる。

まるで血のように。

 

「ありがとう、三日月」

 

クーデリアにもう迷いはない。

 

「決心は、既に済んでいたようだな。それだけ聞ければ俺も安心だ。あとの細かい事は、追って説明する」

 

「ありがとうございます。では、今日はこれで」

 

裾をつまんでお辞儀し、クーデリアが退室する。

それに続こうとした三日月に声がかけられる。

 

「若い衆!名前は?」

 

「三日月・オーガス」

 

「アグニカ・カイエル」

 

振り返って名を名乗る。

今まで無言だったアグニカも何故か名乗る。

 

「三日月……そうかお前、モビルスーツ乗りの奴か」

 

三日月は頷く。

 

「よし、お前のモビルスーツ、うちで見てやろう」

 

「は?」

 

「うちの職人は腕がいいぞお」

 

唐突な提案に、宙を見上げる三日月。

いいのかな、と思案している顔だ。

 

「爺の気紛れだ。取り上げやしねえよ」

 

マクマードの茶目っ気のある顔を見て、三日月の方が折れるのであった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

三日月とクーデリアが退室した後、マクマードはアグニカに初めて話しかけた。

 

「さて……お前さんが、アグニカ・カイエルだな?」

 

壁にもたれ掛かるようにして立っていたアグニカは、衣を正して向き合った。

微笑むような表情で、ふとすれば穏和な少年のようにも見える。

 

「お前さんの活躍は聞いてる。色んな奴からな」

 

アグニカと接触した、名瀬からの事前連絡。

鉄華団という少年兵集団を連れていきたい。俺はこいつらを気に入っている。

ただし、とんでもない異物が紛れ込んでいる。

親父も注意してくれ、と。

 

モンタークと名乗る仮面の男からは、彼こそは世界を変える英雄であり、組織を挙げて支援すべきだと。

 

テイワズのNo.2、ジャスレイからは化物だと。

実際、ギャラルホルンの部隊をほぼ一体で返り討ちにした怪物だ。

得体が知れない。

 

「だが、俺は自分の目で見たものしか信じない男でね」

 

「素晴らしい事です。それで、貴方の瞳にはどう映りますか?」

 

「先ずお前さんの見た目は全部嘘だ」

 

穏やかな微笑みも

好意と敬意を持ったような口調も

子供のような見た目も

ヒト一人という枠組みも

この世の存在だということも

 

全部嘘だ。

 

アグニカに闘争心と狂気が渦巻いているなど、彼は知らない。

アグニカにとってテイワズは足掛かりで、軍事的に便利な存在としか見ていない事など、彼は知らない。

アグニカが少年の姿になる前は、ずっと大人だったことを、彼は知らない。

アグニカがバエルゼロズと全てを共有していて、すでに一人の人間という枠を越えている事を、彼は知らない。

アグニカが過去から飛ばされてきた存在で、この時代の人間ではない事を、彼は知らない。

 

だが、分かる。

 

目の前の少年は、嘘だ。幻といってもいい。

存在しない力だ。

 

「その眼」

 

アグニカの青い瞳。

三日月・オーガスと同じ青い瞳。しかし、そこに宿るものはゼロとイチぐらい、違う。

 

「爆弾抱えて事務所に突っ込む奴にも似てるし、腹を斬る前の奴にも似てる。

名瀬みてえに愛が強い奴にも似てるし、そんなもん全く信じねえって奴にも似てる。どうにも、判別がつかねえ」

 

誰もが、アグニカと自分を重ねる。

無意識に共通点を探す。だがそれは、自分が思う最悪の未来で、最も目を逸らしたいものだ。

 

「この業界にいて、色んな人間を見てきたが、お前さんみたいな奴は初めてだ。

なんて言やいいんだか、とにかく、矛盾してる。一人の人間が持ちきれないほど、色んなものを持ってる。それでいて、周りを滅茶苦茶にする事しか考えてない、つうかな」

 

全知全能、などという言葉をアグニカは嫌うが、他者から見たアグニカは、まさにそんなイメージだ。

この世の全てと言ってもいい。

この世の全て、すなわち、神。

それを荒ぶる激情のままに振るう。まさに怪物で、荒神。

彼に身を委ねる事は、つまり理不尽な力の流れ、世界に身を任せる事で、つまりは自殺と同じだ。

逆に言えば、彼に惹かれる人間は、多かれ少なかれ、自分の死を望むか、予感している事になる。

 

「正直、お前さんとは関わりたくねえ」

 

マクマードは商売人だ。

何かを産み出し、何かを作り出し、何かを繋げ、何かを守るために行動する。いわば生産の極地。

 

アグニカは戦場だ。

何かを殺し、何かを壊し、何かを断ち切り、何かを守るために行動する。

 

似ているのに、絶対に相容れない。

合わないのだ。生き方、考え方が。

それでも、水と油の関係でも、お互い距離感を上手く取って、共存していかなければならない。

 

「周りを変える奴ってのはいる。良くも悪くも、変化を促す存在ってのがな。それが自発的か無意識かは別として、お前さんの存在は、この世界を変えちまう。それほどの存在感だ」

 

マクマードが判断すべきなのは、アグニカが危険だとか、異質だとかいう、主観的で抽象的なものではない。

大きいか、小さいかということ。

そして、御しきれるか。テイワズの利に繋げられるか、ということ。

実のところを見極めなくてはいけない。

 

「だが、俺の知らねえ間に、お前さんはもう世界を変えちまってるんだろう。つまり、今更騒ごうが手遅れって事だ。お前さんを拒否しようがすまいが、知らず知らずの内に巻き込まれてる。そんな不条理ってもんを、お前さんから感じる」

 

アグニカ・カイエルという存在は、大き過ぎる。

最早天災と呼べるほどに。

ならば、その見えない力に逆らわず、やり過ごし、利用するくらいの気概で挑まなければ、死ぬ。

 

「だから、離れられねえ」

 

生と死のようなもの。すぐそばに居て、その二つが連動して、世界が回っている。

クックックッ、と喉を鳴らすように、アグニカが笑う。

 

「まるで天災か呪いみたいに言うんですね。まあ、否定は出来ませんが」

 

「正直、俺だけじゃあ手に負えない」

 

テイワズという巨大な組織を束ねる男でも、両手を上げるような存在。

 

「だから、間に入ってくれる奴が居ると、こっちとしてもやりやすい」

 

するとノックの音が響く。

入れ、と短く言うと、扉が開き、一人の男が入室する。

 

「ほお……」

 

その男は金色の仮面をつけ、紫色の長髪、燕尾服を着た男だった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

仮面の男を一目見て、アグニカはにやりと笑う。

 

「なるほど、なんて呼べばいい?」

 

「モンタークとお呼びください」

 

マクギリス・ファリド。

ギャラルホルンの監査官にして、ファリド家の養子、シュヴァルベ・グレイズのパイロット。

バエルゼロズ相手に武器一つで一騎討ちを挑んできた、なかなか根性のある奴。

正体が分かっているからこそ、ここに居る辻褄が合わない。

だが、その理解不能さが、アグニカを楽しませる。

 

「モンターク商会代表、モンタークです。今日は商談があって参りました」

 

ペコリとお辞儀をするモンターク。

その芝居がかった様子に、アグニカは噴き出しそうになる。

 

「昨日、うちとモンターク商会で話をしてなあ。お嬢さんが持ってくるハーフメタル利権に、一枚噛ませろと言ってきた。それと、鉄華団とお前さんを手厚くもてなせってな」

 

マクマードはモンターク商会をやや持ち上げるように紹介する。

アグニカの目をテイワズから少しでも逸らしたいという思惑があるのだが、得体の知れない者同士をぶつけて、どちらかがボロを出さないかと願う気持ちもある。

そんな虎視眈々と隙を狙う商売人に、これまたにこりと微笑み返すアグニカ。

 

「それはありがたい申し出ですね。ですが、鉄華団はテイワズの二次団体になる予定の弱小組織。ただで融資していただく訳にもいかないでしょう」

 

そこで、と胸に手を当てるアグニカ。

 

「私がテイワズに貢献できる事を挙げていきましょう」

 

アグニカ・カイエルを手元に置くことで得られる、具体的な利益の話。

そこでモンタークが一歩前に出る。

 

「先ず、彼はエイハブウェーブを感知出来るのです」

 

昨日話したアグニカ列伝の中で、さんざんアピールした事だ。

 

「それも機体コードの特定、感知可能距離はほぼ無限、休眠状態のエイハブウェーブすら探り当ててしまうほどの精度です」

 

それはお前の作り話だろう、と顔に書いてあったマクマードだが、アグニカが歳星とテイワズ直傘組織にあるモビルスーツの数を、ぴたりと言い当てる。それを聞いて顔をひきつらせた。

 

「どこでそいつを……」

 

モビルスーツ百連は質のいいエイハブリアクターを使っているため、直傘組織に一体ずつ送られている事も指摘する。

タービンズのアミダ機と戦った経験から、情報無しでもそれは推測出来た。

 

「この近くにある資源採掘衛星、そこにモビルスーツの反応はありますか?」

 

モンタークはタブレットを持ち出し、正確な座標を見せる。

 

「ああ、あるな。衛星を守ってるモビルスーツは三体。そこに近付いてるのが12体か。んで、三体のうち一体は、また懐かしい機体だ」

 

「それは、ガンダム・フレーム?」

 

「ああ、ガンダム・アガレスだ」

 

タブレットに画像が映し出される。黒い大理石のような煌めき、その機体を所有しているのは、

 

「アスカロン傭兵団」

 

モンタークが発した言葉に、マクマードはぴくりと反応する。

 

「彼らと取引をしたんですね、マクマードさん」

 

テイワズとアスカロン傭兵団の連携、これは大きなニュースだ。

木星圏で一二を争う巨大組織が手を取り合ったのだ。そうなれば、大に呑み込まれる小の反発もおこる。

マクマードが煙草を深く吸い、ゆっくりと吐き出す。

 

「まてまて、そりゃあウチの最重要極秘情報だぜ。そんなポンポン見破られちゃ、黙っちゃいられねえよ」

 

冗談めかしているが、それはつまり、それ以上詮索するなら然るべき対処をするぞ、という事である。

それを受けて二人の反応は同じだった。

 

笑顔。

 

唇を吊り上げるように、歪に、狂気すら感じる顔で、声もなく笑った。

 

「では、この衛星を襲っているモビルスーツはどこの組織なのでしょう?貴方ならすぐに特定出来るのでは?」

 

「そうだな。さらにこいつらの仲間の潜伏場所も分かるし、他に海賊組織がいればすぐに分かる」

 

エイハブウェーブを感知する能力。その破格の力の価値は計り知れない。

この宇宙で活動する以上、エイハブリアクターの力なしには生きていけない。

その根幹ともいえるものを、アグニカは百発百中の精度で読み取れる。

それは多大な可能性を秘める。

 

モビルスーツの数と性能を知る事は、相手の戦力を知ること。

船の動きを知る事は、相手の動きを知ること。

その二つの場所を知る事は、相手の潜伏場所を知ること。

 

つまり、情報という形のない力の塊を手にする。

この部屋いっぱいの金塊でも足りないくらい価値があるものだ。

マクマードの瞳が揺れる。

 

このアグニカと言う子供は、その類い稀な戦闘能力、知性、胆力、狂気的な思想とカリスマの他に、こんな人外染みた能力まで持ち合わせていたのか。

ヒト一人には到底収まりきらない。

最初の印象で間違い無かった。

この男は……

 

「デカすぎる」

 

見上げる事すら不可能なほど、巨大な化物。

 

「なら、貴方もそれだけ大きくなればいい」

 

クランクがここに居れば、またアグニカが無茶苦茶を言い出したと思うだろう。

そしてそれは、いつも実現可能な事になってしまう。

 

モンタークが手を差し出す。

 

「この宇宙全域を、手に入れられるのですよ」

 

それは悪魔の契約のようにも思えた。

 

アグニカの戦闘力と、カリスマと、裏技の能力があれば。

モンタークから流されるギャラルホルンの情報と、地球要人の裏情報を合わせれば。

テイワズが影で全世界を牛耳る事すら可能。

 

手札が全てジョーカーであるかのような、異質さへの恐怖と、周りの了承など絶対に得られないという欠点を除けば、最強のカード、最強の手役だ。

 

「ノブリス・ゴルドンの動向は、こちらでも把握していますので」

 

唐突に、武器商人の名前が出てくる。

 

「おいおいおい、それじゃまるで、俺がお前らを出し抜いて、ノブリスと二股かましたみてぇに聞こえるじゃねえか」

 

「彼を飼い慣らして、武器輸出入部門も発展させる事が可能ですよ」

 

ノブリスがマクマードに極秘の商談を持ちかけた事は、ノブリスの秘書からのリークで明らかになっている。

そして、その具体的な証拠を、モンタークがタブレットで示す。

 

「ノブリスの所有するGNトレーディングという会社から、大量の武器やモビルワーカーを発注、運び込まれた事を示すリストです」

 

この情報を見せる事で、モンタークが言いたい事は二つある。

一つは会話の流れ通り、アグニカと自分がノブリスの動きを読んでおり、自ずとマクマードの思惑も予測しているということ。

二つ目は、昨日の会談で約束した、テイワズの内通者を炙り出すという条件、その裏付けにもなるということ。

こんな大切な情報をリークする内通者がいる。その証拠であるのだ。

 

「奴を抱き込んで、その会社を乗っ取るのです」

 

どうせ、いつか誰かの恨みを買って、暗殺されるのが目に見えている。

ならば、未来あるテイワズとその傘下のために、ノブリスの権限と資産を回収しよう、と。

 

「ああそれと」

 

アグニカが思い出したように手を叩く。

 

「ギャラルホルンの戦艦と、オルクス商会の船を一隻、お譲りしますよ」

 

船を二隻、ポンと手渡す。滅茶苦茶な話だ。

 

「な……」

 

「お近づきの印に」

 

アグニカが恭しく礼をして、マクマードはひきつけを起こしたように笑い出す。

 

「はっ、はははははっ、なんだ?お前ら何なんだ?グルになって俺を嵌めようって魂胆か?二人がかりでヤられた気分だぜ」

 

アグニカとモンタークからすれば、いかに自分達に使い道があるか、そして、お互いの利益になるかを話していたのだが、マクマードは二人の毒気に当てられて、早々に降参の意を示した。

 

「アグニカ・カイエル」

 

「はい」

 

アグニカが笑う。

 

「モンターク」

 

「はい」

 

モンタークも笑う。

 

「お前らの好きにするといい。うちに利益を生むのなら、それを拒否する理由はねえ」

 

「「ありがとうございます」」

 

喉を潤せるのならば、川に飛び込む事もあるだろう。

このアグニカ・カイエルという男、確かに金塊の出る鉱山だが、いつ爆発するとも分からない、危険な穴だ。

怪しい仮面の男に手を引かれ、そこに入っていく。

その先は墨をこぼしたような闇で、冷たい空気が流れてくる。

地獄の扉、というのが相応しいだろう。

 

「この歳で冒険者か」

 

魂まで吐き出すような溜め息。

商売柄、いくつも博打を打ってきたが、これほどまでの規模のテーブルにつくのは初めてだ。

手が、震える。

 

「では、こちらが出せる情報については、後々資料に纏めて提出しますので」

 

「今日はこれにて失礼します。とても良い商談でした」

 

商談と言うより、メリットという鈍器を叩き付ける餅つき大会のようなものだったが。

アグニカとモンタークは部屋を出る。

扉が閉まったところで、マクマードは椅子からずれ落ちそうになった。

 

「とんでもねえのに目を付けられたなぁ……」

 

これからどうなるかなど、まるで分からない。

未来は、漂う紫煙のように不確かなものに思えた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「さて」

 

マクマード私邸を後にし、テイワズ関係者からも離れた場所に、アグニカとモンタークは居た。

時刻は夕方、それに合わせて歳星内の照明は薄くなっていく。

歳星の町を一望できる、高い建物の屋上。その広場は色とりどりの花に彩られ、爽やかな風が吹いている。

マクマードが吐き出す紫煙の残り香も、戦場の血の匂いも、腐臭も、全て洗い流してくれるような、清らかな風が。

そこにはモンタークとアグニカしかいない。すでに人払いはすませてある。

キラキラと光を反射する、水色の人工湖を眺めながら、アグニカは首をポキポキと鳴らす。

 

「マクギリス・ファリド。お前の望みは何だ?」

 

ギャラルホルンの監査官であるはずのマクギリスが、こんな場所に身分を装って現れた理由。

アグニカに利するために裏で動いてくれていたからには、何か目的があるのだろう。

 

「私の目的は一つです」

 

仮面を外し、花壇に放り捨てる。

マクギリスはその素顔を晒した。

 

「『俺』と『星屑の儀式』を交わしていただきたい」

 

そう言うと、懐から一本の短剣を取り出す。

金色の装飾が施されたそれは、アグニカの目にキラリと輝いて映った。

 

『星屑の儀式』

 

かつて、アグニカと共に戦った七人のエースパイロット達が、過酷な戦場を駆け抜けるため、アグニカと一心同体の誓いを立てた時のもの。

つまり、アグニカに己の全てを捧げ、信じ抜き、付き従い、戦い、彼のためだけに死ぬという誓いだ。

それが後の、セブンスターズと呼ばれる事になる者達。

彼らがアグニカと交わした、ギャラルホルン内で最も重く、尊いとされる儀式。

 

セブンスターズの家紋を背負う者は、皆誓いの短剣を与えられる。

この剣を、いつか己が信じると決めた者のために使えと、そう願われて代々託されている。

多くの者は、ギャラルホルンの目指す正義そのものに誓い、肌身離さず所持する事で、その誓いを忘れまいとしている。

だが、マクギリスは違う。

 

「貴方こそ、力の象徴。俺の求めた真実、アグニカ・カイエルそのものだ」

 

跪き、短剣を両手で差し出す。

 

「貴方に付き従う。貴方の元で、俺に、見せて欲しい」

 

世界が崩壊しかけた時代、そこにはまともな人の情など存在しなかった。

狂気だけだ。まして、戦場とは狂気の最先端であり、最も深い場所だった。

そんな中で、自分はアグニカ・カイエルという存在だけを道標に、戦い抜くと誓った彼ら。

存在しないものを、存在させるための儀式が、星屑の儀式なのだ。

たとえ星屑のように砕け散ろうとも、たしかにそこに有ったと、他ならぬアグニカが証明してくれる。

こんなに素晴らしい誓いがあるだろうか?

そう言っていた。

だから、星屑の儀式に大仰な式典も、宣誓の言葉も、祝辞も、見届け人も必要ない。

 

ただただ、存在しないとされる意思を、存在すると証明するための儀式なのだから。

 

アグニカは剣を受け取る。

 

星屑の儀式は4つの段階を踏む。

剣を受け取るのは、その第一段階をクリアしたということだ。

アグニカには、マクギリスの意思を汲み取った。

 

静かに鞘から剣を抜き、その切っ先をマクギリスの喉元に突きつける。

この時、アグニカは相手を見極め、配下にするか、突き殺すかを選択する事が出来る。

相手の人となり、技量、精神、覚悟。

それらを見定める。

 

マクギリスは顎を上げ、目を閉じている。アグニカの判断に身を委ねるつもりだ。

そんな彼は、ギャラルホルンとしての地位や役目を二の次にしてまで、アグニカの元へ駆け付けた。

全ては、アグニカの配下に加わるため。

そのためには手段を選ばないし、躊躇もしない。限界など無いのだ。

自身の地位も、才能も、財も、友も、家族も、愛する人も、マクギリスの目には映らない。

あるのは純粋な力のみ。力への執着。

まるで夢見がちな子供だ。

ふと目を離せば、簡単に死んでしまうような。

ともすればこの男、何も出来ないまま死ぬ。あっさりと死ぬ。何も考えていないかのような行動を起こして死ぬ。馬鹿みたいに死ぬ。何にもなれずに、死ぬ。

空っぽなのだ、この男は。

 

失うものなんてないから、自分の全てが賭け金になる。使ってもいいものになる。使い捨てて行くしか、使い道を知らないから。

 

空白の男。放って置けば自爆して周りにも被害を及ぼすような存在。

だが、だからこそアグニカにとっては

 

「面白い」

 

刃を喉元から離す。第二段階終了だ。

マクギリスは静かに目を開ける。この時から初めて、アグニカと目を合わせる権利を得るのだ。

 

剣の腹をマクギリスの肩に当てる。

 

「マクギリス・ファリド」

 

「はい」

 

第三段階の始まり、つまり、宣誓だ。

ここが一番の山場と言える。

だがマクギリスの瞳に迷いはない。その瞳には緑色の焔が揺らめく。

 

「お前は、その存在全てを、アグニカ・カイエルのためだけに使うと、誓うか?」

 

「誓います」

 

無論、そのためだけに来た、と瞳が語っている。

 

「たとえ悪魔の所業となろうとも、その先に目指すべきものを見据え続けると誓うか?」

 

「誓います」

 

「そのために、死して尚も進み続けると誓うか?」

 

「誓います」

 

 

「何に誓う?」

 

肩に乗る刃が、ぐんと重くなる。

マクギリスが空っぽな男だという事は、すでにアグニカに見抜かれているし、それをマクギリス自身も自覚している。

だから、何もないお前が、その人生の何に誓えるのかと聞いている。

最も難しい問いだ。

マクギリスは瞳を閉じる。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

あのアグニカ・カイエルと、星屑の儀式を交わしている。

その事実が全身を波打ち、魂を震わせる。

脈打つ血流も、早鐘のような鼓動も、静寂による耳鳴りも、歓喜による震えも、頬を撫でる風も、全てが心地いい。

 

目の前には伝説の人物。

その前に自分は跪いている。この光景を何度夢見た事か。

だがその視界も薄れ、自身の過去を振り返る。

今は、アグニカからの最も大事な問いに答えなければならないからだ。

そしてそれは、自分の中からしか出てこない。

 

存在していても、良い事など無かったこの世界。

だからこそ、ある意味『存在しないもの』である、伝説の存在であるアグニカの思想を渇望した。

これが、現世に生きている人物の言葉だったなら、耳を貸さなかっただろう。

だが、存在せずとも、世に影響を与え続ける存在に、マクギリスは心惹かれた。

そしてそのアグニカ・カイエルが、今目の前にいる。

アグニカに付き従えば、己の求めた全てが得られる。

 

アグニカに従う理由は、アグニカだから。

それはいい。だが、それを何に誓うかを明確にしなければ、本当にただの存在しないものになってしまう。

ただの妄言になってしまう。

 

純粋な力のみが成立させる、真実の世界。

それを見たいのはマクギリス自身だ。

だが、他にも、その世界を見せたいと思った人が居たのではなかったか。

 

そうだ。俺は、その人に誓う。その人のために、自分の信じた道を行く。

アグニカと共に!

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「俺の、愛する人(アルミリア)に誓って」

 

アグニカはニヤリと笑い、剣を肩から上げ、鞘に納める。

第三段階は終了。その誓いは、確かにアグニカの心に響いた。

 

最終段階。

アグニカが剣を差し出す。

マクギリスは恭しくそれを受け取る。

 

これにて儀式は終了した。

アグニカとマクギリスは、死して尚、同じ先を見据え、同じ場所に進む。

 

マクギリスは感激が頂点に達し、頬を一筋の涙が伝った。

 

「このためだけに……生きた」

 

「俺のためだけに、死ね」

 

マクギリスは最高の笑顔を浮かべ、噛み締めるように、頷く。

 

「はい」

 

ここに、マクギリスの人生の全てを決める誓いの儀式が成された。

それは、彼の未来を劇的に変えるものとなる。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「テイワズの内通者を始末しに行くか」

 

「お供します」

 

モンタークは胸に手を当て、軽く頭を下げる。

そして、タブレットに表示されたテイワズの幹部達の情報を見せる。

 

「お、仕事が早いじゃないか」

 

「恐縮です」

 

リストをさらりと読む。

その中で、テイワズのNo.2、ジャスレイ・ドノミコルスの名が目につく。

JPTトラストの代表でもあり、幹部の中でも一番の保守派。

だがそのやり口は汚く、度量も才覚もいまいち。

 

「殺すか」

 

「ジャスレイ・ドノミコルスの隠れ家と、側近の情報です」

 

素早く追加情報を出すモンターク。

アグニカが人を殺す事については、疑問も異論もない様子。

 

「いや、待てよ、あれ使うか。クランクに持ってこさせよう」

 

手をぽんと叩き、通信機でクランクと連絡する。

その後、モンタークと向き合う。

 

「んじゃ、行くか」

 

「はい」

 

モンタークは最高の笑顔で答える。

テイワズのボスと会談した後、その足で組織のNo.2を暗殺しに行くという、荒唐無稽な話に、唇が緩む。

この出鱈目さこそ、アグニカ・カイエル。

そう確信しながら、アグニカの後について歩いていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

オルガと三日月が土産の菓子を持って歩いていると、クランクと星熊、虎熊が並んで歩いているのを見かけた。

三人共謎の仮面と衣装を着ており、仮装大会にでも出演しそうな格好だ。

 

「およ?団長さん、えっらい荷物だねえ。お土産?」

 

「あ?ああ、アンタ達か。そんな格好でどっか行くのか?いや、まあ、今日くらい好きにしてて構わねえけどよ」

 

星熊とオルガが会話する。珍しいので三日月も注目している。

そこにクランクが割って入る。

 

「アグニカからの呼び出しがあってな。それに二人もついて来るらしい」

 

「アグニカの居るところならどこまでも!」

 

「俺らは角ついてて目立つから、仮装してごまかしてるんです」

 

おかしな格好は頭の角を隠すための迷彩らしい。というか、角も仮装の一部にしてしまっている。

どうやらまたアグニカに振り回されているようだ。大変だな、と声をかける。

 

「団長さん達、この後飲みに行くの?」

 

「ああ」

 

「じゃあこれ持って行きなよ!」

 

手渡されたのは漢方薬のようなものだ。肝臓の働きを保護し、アルコールに溺れないために飲酒前に飲むという。

 

「対アグニカ用に大量発注したからね!」

 

「なんでそれを常に持ってんだよ……」

 

アグニカと飲み比べをするときに使うらしい。それぐらい効き目があるという事だ。

 

「飲むのは構わんが、羽目を外し過ぎないようにな。歳がどうとまで言わん。お前達はもう大人だ」

 

クランクに保護者目線の忠告をされ、オルガはポリポリと頭を掻く。

言っている事と見た目のギャップが凄まじい。

 

「分かってるよ、おっさん」

 

「ならいいさ」

 

「んじゃ、楽しんでね!」

 

そう言って、三人は行ってしまった。

 

「アグニカ、また何かやってるのかな」

 

「おっさんも大変だな……」

 

アグニカがまた何かしているのかと思ったが、どうせいつもの暗躍だろうと判断した。

 

「さっ、早くあいつらに菓子を見せてやろうぜ!」

 

「うん」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

オルガと三日月は、山ほどの菓子を持って帰り、イサリビで留守番をしていた子供達に振る舞っていた。

 

「ほら土産だぞー!」

 

食堂の机にずらりと並べられた、色とりどりの菓子。

甘いものなど滅多に食べられない環境に居たため、目の前の菓子はキラキラと美しく輝く宝石の山に見える。

子供達はぴょこぴょこ飛び跳ねている。

 

「うおあー!!すっげー!」

 

「これ貰っていいの俺!?」

 

「ああ、どれでも好きなのを選べ」

 

「やったー!」「すっげー!」「俺こっちー!」

 

気前良く答えたオルガ、それにより子供達は歓声を上げ、我先にと菓子を取り合っていた。ダンジもそのうちの一人だ。

見たこともない上等な菓子を口に入れた瞬間、弾けるような甘味ととろける食感に、電撃が走る感覚に陥る。

味覚という快感が舌先から身体の奥へと流れ込み、細胞の一つ一つに染み込んでいく。

ダンジは雲の上に居た。ふわふわと心地良い浮遊感と、暖かい満たされた空気、何ともいえない晴れやかさ。

うっとりとした表情で、たゆたうような感覚に身を任せていた。夢見心地とはまさにこの事だ。

五臓六腑に染み渡る甘味。阿頼耶識で激しいモビルスーツ訓練を始めたダンジにとって、糖分とは脳が求めて止まないものだったのだ。こんな幻影を見せるほどに。

暫し天国のような光景を見つめていたダンジだが、足下のふわふわとした感覚は消えていき、天国の景色は霧のように消えていった。

少しずつ現実に帰ってくるにつれ、子供達の騒がしい声も鮮明になっていく。

そこではタカキが子供達を諌めていた。

 

「駄目だって!ちゃんと公平ちゃんと順番!てかライド、お前まで争ってどうすんだよ!」

 

「う、うっせ!」

 

「欲張ってそんなに取って!一人じゃ食べきれないだろ!」

 

「だからうっせーって!!」

 

出遅れ気味のアトラに、オルガが手を差し出す。

 

「ほら、アトラも」

 

「は、はい!これ、自分でも作れるかな」

 

「ほら喧嘩すんなよ」

 

微笑ましく見つめるオルガの表情は、まさしく一家の大黒柱だ。

三日月も、そんなオルガを見て、微かに笑う。

そこで、シノや昭弘達が声をかけてきた。

 

「団長!俺らには何もねえの?」

 

「ああん?」

 

冗談めかして聞いてきたシノに、オルガはニヤリと笑う。

父性溢れる表情から、弾けるような若者の顔になった。

 

「あるに決まってんだろ!!」

 

「「「いやっほぉおおおおおーーーー!!!!」」」

 

鉄華団若い衆、飲み会!!!

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名瀬から紹介されたバーを、金にモノを言わせて貸しきりにした。

これで他の客に気を使う必要もなく(はなっからそんなつもりもない)、全力で楽しめるという訳だ。

わいわいと騒ぐ店内。

鉄華団の若いメンバー達は、大人の世界に足を踏み入れた実感に心踊らせていた。

実際、問題がほぼ全て片付き、とんとん拍子に話が進んだことで、皆の肩の荷も降りた。

バカ騒ぎをするには、今が最高のタイミングだ。

 

「皆遠慮しねえで思いっきり楽しめよ!」

 

さらに場を噴かすオルガ。

色とりどりの酒に、じゃんじゃん運ばれてくる美味しい料理。

宴と呼ぶのが相応しいだろう。

そんな中、シノはテーブルに膝をつき、ニヤリと笑う。

 

「飲んで食ってじゃ物足りねーよ!やっぱここは女だろ女!」

 

「ええ?」

 

片目を閉じ、手をわきわきと動かす。

その手の話題に疎いビスケットは困惑している。

 

「タービンズと一緒になってストレス溜まってんだよ!チチぷらぷらさせてる女が目の前にいんのに、手が出せないんだぜー!なあユージン!」

 

「お、俺は、女なんて、別に……」

 

「はぁ、くだらねえ」

 

興味はあるが羞恥心からぼやかすユージンと、単純に興味がない昭弘、反応が分かれる。

そこにオルガが乱入してくる。

昭弘の肩にもたれ掛かり、顔はにやけきっている。

 

「ほらほら何やってんだ」

 

この楽しい席に、笑顔でない団員など許さないのだろう。良い意味での滅茶苦茶さに、皆も笑ってしまう。

 

「今日はとことんまで行くぞー!!」

 

「「「おおーーーー!!!」」」

 

グラスを掲げ、一気に飲み干すオルガ。

それを見て団員達が歓声を上げる。

三日月はそんなオルガを珍しそうに見ていた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

数時間後、店の外に出たオルガと三日月。

オルガは飲みすぎたのか、トイレに液状の吐瀉物を噴出してから、外で風に当たっていた。

 

「オルガ、大丈夫?」

 

三日月がオルガの背中を撫でる。

 

「ああ……だいぶ楽になってきた。それに、吐いたんだからその分また飲めるはずだ。本番はこっからよ!」

 

「これ、よかったら使って」

 

「あ?」

 

フラフラと立ち上がったオルガに、一枚のハンカチが差し出される。

見れば、淡い金髪のスーツ姿の女性がいた。その表情は微笑だ。

 

「大人になるなら、色んな事との付き合い方、覚えなくちゃ駄目よ」

 

それだけ言うと、颯爽と歩いていってしまった。

オルガも三日月も、一瞬の事で沈黙していた。

 

「だれ?」

 

「さあ……」

 

三日月の匂いフェチが感染したのか、オルガはハンカチをすんすんと嗅ぐ。

直後、顔をしかめる。

 

「女くせえ」

 

嗅ぎ慣れない香水の匂いに困惑する。

知らないものは拒絶するという、ある意味子供っぽくもあり、大人っぽくもある反応だった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

ジャスレイ・ドノミコルスは、自室に部下三人を集め、丸い机で酒盛りをしていた。

 

「おじき、タービンズが鉄華団とかいう、ガキばっかりの組織を連れてきたらしいですぜ」

 

「しかもそいつら、その日付けでタービンズの傘下、つまりテイワズの下部組織になったって話です」

 

「小便臭えガキどもを、ほいほい入れていいもんすかねえ?」

 

部下三人は好き放題言っている。

ジャスレイ自身が口にすると小さく聞こえてしまうので、本人が言えない事を代弁するのが彼らの仕事だ。

罵倒と恐喝と胡麻すりをしていれば、纏まった金が手に入る。全く楽な仕事である。

三人ともジャスレイ配下の中でトップクラスの喉自慢と自負している。

 

「親父もお情けでガキ拾うほど耄碌してねえだろ。ありゃあ危ねえブツを運ばせて罪をおっ被せるための、いわば捨て石よ。鉄砲玉より安い命さ」

 

ドスの効いた低い声で喋るのは、豹柄の派手な服を着たジャスレイ。

将来性のある人間とそうでない人間を見分ける能力に長け、それ故にここまで大きくなった人間だ。

癒着と切り捨てのプロ。その悪どい戦法の基本は、相手に泥を塗る事、罠に引き込んで殺す事。

 

そんな彼らの部屋に、固いノックの音が鳴り響いた。

 

「あん?誰だ?」

 

スキンヘッドの部下が立ち上がり、扉を開ける。

 

「うわっ!?」

 

そこに居たのは仮面の男。

あまりの異質さに気圧され、スキンヘッドの男は後退りする。

 

「なっ、なんだぁテメエは!?」

 

「どこの組のモンじゃあコラァ!!」

 

「舐めとったら、アカンぞ!!」

 

仮面の男は悠々と、扉をくぐって入り込んでくる。

その奇人っぷりに翻弄され、意識が彼にのみ集中してしまう。

だからこそ、後ろでジャスレイが後頭部を殴られて気絶した事も、気づけない。

すぐ隣の仲間が手刀で気絶させられても、気づけない。

自分が最後の一人になっている事に、気づけない。

 

四人とも音も無く崩れ落ちたところで、モンタークが口を開いた。

 

「お見事です、アグニカ」

 

「はっ。こいつらが遅すぎるだけだろ。車に運ぶから手伝え」

 

「分かりました」

 

ずるずると引き摺られていくジャスレイ達。その先は果たしてあの世か、地獄か。

薄れゆく意識の中で、ジャスレイは念仏を唱えるしか出来る事がなかった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

次にジャスレイが目を覚ました時、強烈な光が差し込んできた。

頭がクラクラする。いや、そもそも頭の支えとなっていたものがなくなったかのような錯覚に陥る。

何故か、頭がプルプルしている。

 

身体は当然のように動けない。

大の字になって、冷たい鉄の机に磔にされている事は理解できた。

光に目が慣れると、そこは無機質な灰色の部屋だった。

病院の手術室のようにも見える。

頭上の大きなライトも、手術室のもののように思う。

視線を横にやると、異形の者が目に入った。

鬼だ。鬼がいる。

それは頭に赤い角を生やした女。ニヤニヤと邪悪な笑みを浮かべて、こっちを見ている。

その後ろにも鬼。こちらは筋肉質の鬼で、無表情で見下している。まるで、ジャスレイになど一片の興味も無いかのようだ。

自分が、ただの肉塊になってしまった姿を想像する。そして、悪寒と恐怖に身体が震え、後悔と許しを請う気持ちだけが湧き出た。

 

他にも筋肉質で灰色の髭を蓄えた、強面の男。こいつも謎の仮装をしている。

その横には、先程の仮面の男。その鳥のような金色の仮面は、カシャンと音をたてて目が開いた。目の中にまた目がある。

人間は……人間はいないのか?

 

「ああ、起きたのか。また辛い時に起きたなあ」

 

すぐ横には、やっとこさ、見た目が普通の子供がいた。彼は人間だ。少なくとも、角も無いし仮装も仮面もしていない。ただの子供。

そのはずなのに、何故か震えが止まらない。

この人外ばかりの巣窟で、この子供が一番ヤバイ。ヤバすぎる。

何がそんなに怖いかって、顔。

あの笑顔。

唇を吊り上げるように、牙を見せるように、顔を歪ませる、あの狂気的な笑顔。

底知れない悪意と狂気を秘めた、青い瞳。

外見が一番まともで、中身が一番おかしいという、矛盾の塊。異質さに恐怖を覚える。

 

「むぐぅ~~~!!むぐ!ひゃへほ!はふへへふへ~~~~~!!」

 

猿轡を噛まされ、ろくに喋ることも出来ない。

少年はトランクケースを開け、中から注射器のようなものを取り出す。

 

「はい、こちら、クリュセの病院から拝借した、脳内ナノマシン!名ー付ーけーてー……」

 

針をジャスレイの眼球ギリギリまで近づける。

これが、このまま、あと少しでも、すす、痛い!痛い!痛い!いたいぃ!!死ぬ!死ぬ!死ぬ!死ぬ!やめてえええ!やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて!!!

 

「人格改造注射器ー!!」

 

「「おおー」」

 

星熊とモンタークが拍手する。

 

「これをですね、剥き出しの灰色脳みそにプスッとやるとですね、あら不思議、脳内信号やホルモン分泌を操り、人格すら変えてしまうという訳ですねー!」

 

「「おおー!!」」

 

パチパチパチ。

いや、待て。

今、剥き出しの脳みそ、って言わなかったか?

じゃあ、もしかして、この、頭が妙にスースーするのって……

 

「仕上がりはこんな風になってまーす」

 

鏡を使い、ジャスレイに自分の頭を見せつける。そこは。

 

「むごごごごぐぐぐほおおおお~~~~~~!!!むほっ!!むほぉっほおおおおおおおおお~~~~~~!!んおおおおおおおお~~~~~~っ!!!!!」

 

頭蓋骨が切り取られ、脳みそが剥き出しになっていた。それを認識した瞬間、気持ち悪さと未知の感触に、ジャスレイのキャパシティが限界を超え、叫びだす。

叫ぶことで、少しでも気を紛らわせようとしているのだろう。

そんな彼に、少年は小型チェーンソーを取りだし、エンジンを噴かす。

ドルンドルンと小気味良い音を出し、高速回転する刃。

それをジャスレイの顎に叩きこんだ。

 

「おんごぐぎごばあばばぼぼぼばばばばはまばばはまばばばはあばばごがあばばばばばばはばばばばばばばばばばは!!!!!!!」

 

ガガガガガガガガガガガガガガガッ!!

 

凄まじい振動。激しすぎる痛み。

こんな、こんなに苦しい事が、この世にあっていいのか??

こんなに重く、弾けるような痛みが、存在する意味があるのか???

これを、今これを感じている自分は、ここまで苦しむ必要があるのか?????

 

密かな自慢だった、二つに割れた特徴的な顎。誰もがこの顎と凛々しい顔つきを見て、忘れられなくなるだろうと思っていた、自身のチャームポイントである、顎。

それがいま、別れを告げようとしている。

離ればなれになろうとしている。

 

「たーのしー!!」

 

返り血を浴びながら、チェーンソーに込める力を緩めない少年。悪魔だ。

そしてついに、ケツアゴはジャスレイと今生の別れを告げる。

 

勢い余ってチェーンソーの刃は、ジャスレイの喉元に突き刺さる。

首筋の肉を巻き込み、引き裂き、抉っていく。

首が、とにかく熱かった。そして、とんでもなく、渇く。鉄の味だ。

地獄の釜の蓋が開いたら、こんな蒸気を発するんだろう。それを今、ジャスレイは吐き出している。

ジャスレイは地獄に居て、地獄の扉になっていて、地獄そのものになっている。

痛みって、凄い!

今までジャスレイが築き上げてきたもの、プライド、力、価値観、人格。

そんなもの、簡単に吹き飛ばしてしまった。

痛みって、神様なんだね!

 

少年のこと、悪魔だって思ってた!けど違う!

悪魔はいつだって、神様になれるんだ!

人間は、苦しむために生きているんだ!

人間は、悪魔を神様にするために、生きているんだ!

支配するって事は、苦しませるってこと!つまり、僕はすっごく、しはいされてるってこと!それはとっても、しあわせなことなんだねえ!

 

かみさまばんざい!あくまさまばんざい!

いたいのいたいの、ばんざぁーい!!

いたいのいたいのかみさま!ばんざい!

いたいのいたいのあくまさま!ばんざい!

いたいのいたいの!ばんざぁああああああああああーーーーーい!!!!

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「ありゃりゃ、壊れちゃったか」

 

返り血を拭きながら、アグニカは溜め息を吐いた。

どうせ人格を改造するのだから、その前の人格で遊べるだけ遊ぼうと思っていたのだが、思ったより精神が脆くて、狂ってしまったらしい。

 

「まあいいか、とりあえず止血を……」

 

「アグニカ」

 

クランクが亡霊のような顔をしている。

 

「こんな事をする必要があるのか?」

 

「いや、ない」

 

即答だった。クランクは引きすぎて言葉も出ない様子だ。

 

「だが将来必ず敵になる」

 

「……その根拠は?」

 

「俺の勘だ」

 

側頭部をトントンと叩く。

 

「俺に付いてくるって事はつまり、俺の勘に付いてくるって事だ。クランク、それでもお前は、俺と共に来る気はあるか?」

 

今までは襲われる側だったアグニカは、備えこそすれど、積極的に他者に介入はしなかった。

いわば後の先を取る戦法だった。

しかしこれからは、他者を害してでも、自分達の道を切り開いていく。

その過程でどれだけ残虐な行為に手を染めようとも。

アグニカに付き従うなら、その返り血を一緒に浴びる覚悟が必要だ。

クランクは、自分の人生観との相違に苦しめられることとなる。

ギャラルホルンの掲げる正義とは、悪を徹底的に排除した、綺麗過ぎるまでの善。

そこに具体性など無い。存在しないものを、人々の理想を叶えようとするために戦うのだ。

そりゃあ、見失う。

だって、目指すべき場所が、夢なのだ。すでに霞んでしまっている。

何もない霧の中を進むか、重く苦しい土の中を掘り進むか。

ギャラルホルンとアグニカの違いはそこだ。

 

「……あの日の誓いに嘘はない。俺はお前に付いていく」

 

この世界に正義などないから、悪事から目を背けるために、死という存在しないものにすがった。

正義に殉じて死ぬという逃避を、滅茶苦茶に砕いたのがアグニカだ。

その後、子供達を守る事で、少しでもこの世界を良くしようと誓った。

そのために、自分はアグニカ・カイエルに付いていく。

 

「うん。ならいい」

 

アグニカは満足げに頷く。

 

「私もついていくよ!」

 

「俺も、あんたには借りがある」

 

星熊と虎熊も、アグニカに付き従う覚悟だ。

鬼である自分達を受け入れてくれた、暴風のような彼に惹かれているのだ。

 

「そうか」

 

アグニカはニヤリと笑う。

そして、モンタークの方に目をやる。

彼はこくりと頷くだけ。だが、その覚悟はすでに決まっている。

 

「んじゃ、こいつを治療して、今日は終わりだな。俺らも飲みに行こうぜ」

 

オルガ達が店を貸しきりにしているので、まだ残っている奴はいるだろう。最後の方には間に合うはずだ。

 

アグニカ達は作業に取りかかる。

その光景を、ジャスレイはブクブクと血の泡を吹きながらぼんやりと見ていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「アグニカ、俺はここで失礼します」

 

ジャスレイ一派の再調整が終わり、オルガ達の居る酒場まで歩いていた一行に、マクギリスは一礼する。

 

「おお、帰るのか」

 

「はい。このまま地球に帰還します。任務を放棄していた事がバレる訳にはいきませんし、地球ではアルミリアとの婚約パーティーがありますので」

 

星熊が婚約パーティーと聞いて色めきたつ。

 

「えー!いいなー!ねえアグニカ、私達も結婚しよー」

 

「暇な時にな」

 

「やったーーー!!!」

 

腕に抱き付いてくる星熊を適当にあしらいながら、アグニカはマクギリスと向き合う。

 

「そうだ、ついでに一人、持って行って欲しい人間がいる」

 

「ほう?鉄華団のメンバーではないですよね?」

 

「ああ、違う。元CGSのトドって奴だ。もういらない」

 

「分かりました。ではこの場所に来るように伝えてください」

 

「分かった」

 

マクギリスは自身の船の場所を教えた。

 

「折角俺の配下になったんだ。途中で死んだりするなよ」

 

「ええ。最後まで死ぬつもりはありません」

 

名残惜しそうに見つめてから、深く一礼して、マクギリスは踵を返す。

 

「マクギリス!」

 

アグニカに呼ばれ、瞬時に振り向くマクギリス。

 

「ガンダムを集めろ」

 

アグニカからの記念すべき初仕事。

現存するガンダム・フレームの回収。

 

「了解ーーーしました!」

 

その場で胸に手を当てる敬礼をする。

そしてそのまま、夜闇に消えていった。

 

「ねーアグニカー、あの人だれー?」

 

「マクギリス・ファリド。限界がない男だ」

 

アグニカの元でのみ、真に輝く事が出来る。

セブンスターズの面々も、そういった人物ばかりだった事を、しみじみと思い返していた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

オルガは三日月に支えられて、店に入るなりまた飲み始めた。

飲み初めてから大分時間が経ち、腹も膨れ、酔いも回りきり、他のメンバーは食後のデザートを食べている。

そろそろお開きかと、そんな空気が流れ始めた頃、店の扉が勢い良く開かれる。

 

「おうやってるかお前らあ!!」

 

そこにはギターを抱えたアグニカが居た。

 

「アグニカ!?」

 

「それどっから持ってきた!?」

 

アグニカは店の舞台まで歩くと、マイクを奪い取り、ギターをかき鳴らす。

 

「うまっ!?」

 

普通に上手いアグニカ。

ギターの演奏も、歌唱力もプロ並みだ。

普段音楽など聞かない面々からすれば、アグニカの突撃ライブは衝撃的で、再び沸き立つのに充分過ぎるほどだった。

 

「すげえ!すげえなアグニカ!!」

 

「歌も歌えるのかよ!?」

 

「やっぱり多才だね」

 

「何の曲だ?これ」

 

シノは大騒ぎして、ダンテやチャドも興味深々だ。

ビスケットはひたすら聞き入っている。

昭弘だけでなく、皆が聞いた事のない曲だ。

それもそのはず、アグニカが歌っているのは300年前にヒットしたアーティストの曲だ。

今では残っていないデータも多い。

アグニカが歌っている間、クランクや星熊達は音響の設備を設置していた。

どうやら本格的にライブをする気らしい。

 

また火がついた事に気を良くしたオルガが、グラスを高々に掲げる。

 

「っしゃああああーーー!!第二回戦と行こうかああああーー!!」

 

「「「「うおおおおおおおーーー!!!」」」」

 

盛り上がる酒の席。

飲み会は深夜にまで続いた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

アグニカ乱入の熱が冷めたのは、もう夜もふけた頃だった。

演奏を終えたアグニカは星熊達と飲み比べを始め、それにオルガも加わった事で泥沼化し、遂にオルガが倒れたところでお開きとなった。

店の前では、オルガを抱えた昭弘、ビスケット、三日月、シノ、ユージンがいる。

ユージンはシノに連れられ、二次会と洒落こむらしい。

シノはニヤニヤと笑い、ユージンは挙動が不自然になっている。

 

「ん、じゃ。俺らはここで……エッヘヘェ!」

 

「俺は……あれだからな!シノがどうしてもっつーから!」

 

「あー分かってるよ。いってらっしゃい」

 

ビスケットが流し、二人を見送る。

三日月はオルガの横顔を眺め、ぽつりと漏らす。

 

「こんなオルガ、初めて見た」

 

その声に反応したのか、オルガは寝言を呟く。

 

「やっとだ……やっと、家族が作ってやれる……お前らにも、やっと、胸を張って帰れる……場所を……」

 

「オルガ……」

 

ビスケットが驚く。

しかし、すぐに納得したような表情になる。

オルガの苦労を一番近くで見てきたのは、ビスケットなのだ。

その分無茶に振り回されたのも彼ではあるが。

だからこそ、オルガの求めていたもの、『家族』という居場所が作れた事が、本当に嬉しい。

オルガのはしゃぎ様も頷けるというものだ。

釣られて、三日月も微笑む。

 

昭弘は宙を見上げ、自分にも聞こえないような声で、呟く。

 

 

「家族……か」

 

 

自分にも家族が居た事を、今になって、思い出した。

そして、その家族に誓った事も。

 

『俺が必ず、向かえに行く』

 

ーーーーーーーーーーーー

 

イサリビの中、クーデリアの部屋にて、クーデリアとフミタンが会話している。

クーデリアは少し俯きがちだ。

 

「私が前へ進む事で、これからも多くの血が流れる。でも、三日月は、私が前を向いてくれるから、自分達も前を向けるんだって……私は、本当に前に向いているのかしら……」

 

「ただのメイドである私には分かりませんが」

 

「っ!フミタン……」

 

フミタンにばっさりと切り捨てられ、思わず振り返る。

 

「しかし、ギャラルホルンを敵に回してしまった以上、火星へは帰れないでしょう。であれば……」

 

「答えは決まってる」

 

フミタンは肯定するように目を閉じる。

クーデリアは胸に手を当てる。

 

「分かってたの。でも認める勇気も、その確信も無かった。ごめんね、いつもありがとう、フミタン」

 

「私は……」

 

「そうだ!」

 

クーデリアが輝くような笑顔になり、棚から何かを取り出す。

 

「これは?」

 

「団長さん達と、ここのモールでお買い物した時にね、見つけたの」

 

照れたように、嬉しそうに笑う。

差し出されたそれは、首飾りのようだ。

クーデリアはすでに身につけていて、胸元から装飾部を取り出す。

 

「おそろい」

 

フミタン目は見開く。

それを受け取ると、手のひらの上の首飾りと、クーデリアを交互に見る。

 

「お嬢様……」

 

「なあに?フミタン」

 

「私は……これからも、貴方のお側にいて良いのでしょうか」

 

「勿論!いいに決まっているじゃない。何を言っているのフミタン。あ、でも……」

 

「……?」

 

「貴方をここまで巻き込んでしまったのは私だものね、側に居ていいなんて、私に言う資格はないのかも……」

 

「いえ、お嬢様、それは」

 

「今更だけど、巻き込んでしまってごめんなさい、フミタン。貴方さえ良ければ、これからも私の側にいて欲しい。お願い、フミタン」

 

すがりつくような視線に、フミタンはたじろぐ。

だが、意を決して、真っ直ぐに見つめ返す。

アグニカなら、そうする。

 

「お嬢様、私は」

 

アグニカという、戦争の権化のような存在に感化され、どんどん打たれ強くなっていクーデリア。彼女がこのままどこまで大きくなれるのか。そして、彼女が作り出す未来とは。

それを、見たいのだ。

 

「貴方の作り出す未来を、見てみたい。だから、何があっても、貴方のお側にいます」

 

「フミタン……!」

 

クーデリアが泣きそうな顔をしている。

ズキリ、と胸の奥が痛むが、今はその痛みすら心地いい。

自分は、クーデリアの命を脅かす存在だ。

だが、クーデリアの未来を見てみたいというのも本心だ。

だから、彼女を守りたいとも思う。

その矛盾に苦しめられ、感情が揺れ動く。

しかし、アグニカの笑顔を見て、もう知っているのだ。

 

矛盾こそ、人のあるべき姿であると。

そして、その矛盾を飲み込んで始めて、前に進めるのだとも。

それは奇しくも、クーデリア本人が示してくれた。

ならば自分も、アグニカや、クーデリアのように、真っ直ぐ進みたい。

 

「一つ、お願いしてもよいでしょうか」

 

「なあに?フミタン」

 

首飾りをクーデリアに返す。

 

「これを、つけてもらってもよろしいですか?」

 

自分の手で着ける資格はない。

そんなネガティブな言葉よりも、してもらいたい事を素直に口に出せばいい。

アグニカなら、そうする。

 

「ええ!」

 

クーデリアは本当に嬉しそうな顔をして、首飾りをフミタンの首にかける。

その時、フミタンは誓った。

必ず生きて、クーデリアの未来を見届けてみせると。

自分は、そのために生きているのだと。

 

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「ほら、こんなとこで寝たら風邪引くよオルガ。ったく」

 

三日月達はイサリビに帰ってきた。

オルガに水を飲ませるために食堂に来たが、オルガは机に寝そべって眠りこけている。

そんなオルガに、三日月はジャケットを肩にかけてやる。

 

「やっぱり、クーデリアさんは実質、テイワズ預りになるって事か」

 

腕組をしながら、ビスケットが言った。

 

「反対した方がよかったかな……」

 

「どうして?」

 

三日月は不安げだが、ビスケットは小首を傾げる。

 

「テイワズが間に入ったら、儲けも少なくなるだろうし、こんな大事な事、オルガに聞かずに決めて……」

 

「組織間の戦争なんて事になったら、うちじゃ手に負えないって事は、オルガにだって分かってるはずだよ」

 

三日月は「そっか」と言いそうな顔をしている。

 

「いや、本当は今までだって、上手くいったからいいけど、本当は、俺たちの手には負えない事ばかりだった」

 

オルガの肩にかけられた、鉄華団のマークを見る。

 

「でも、オルガの意地のおかげで、俺達も

夢が見れてる」

 

三日月の視線は真っ直ぐで、口調もはっきりしている。それは、今までオルガを見てきて出した結論だった。

 

「だね。まあオルガにはもう少し俺たちを頼って欲しいんだけどね」

 

オルガが自分達のために気負っている事は知っていた。意地を張らなきゃいけない事も。

だが、オルガが前を向いてくれるからこそ、自分達も前を向ける。

彼の意地は、鉄華団の活力となるのだ。

オルガはうっすらと目を開け、この会話を聞いていた。

 

「うん」

 

三日月の声を危聞きながら、また微睡みの中に沈んでいった。

 

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物音が聞こえて、オルガは目を覚ました。

突っ伏して寝ていたからか、全身がバキボキになって痛い。

食器棚の方から灯りが漏れていて、そこでは誰かが何やらしまっている。

そのオレンジ色の髪を見て、オルガは近づいた。

 

「ライド?何やってんだ、こんな時間に」

 

ビクリと肩を震わせ、目線を揺らしながら、誤魔化すように口を開く。

 

「あぁいや、」

 

「ん?」

 

見れば、夕方買ってきたお菓子を棚の奥に詰めているようだった。

 

「菓子?なんだお前喰わなかったのか」

 

笑って誤魔化そうとしたのか、ニヘヘと笑うライド。

 

「どうすんだこれ」

 

しかしすぐに照れ臭そうな、むすっとした表情になる。

 

「ガキどもがぐずった時用にとっておく」

 

「んん?ガキ」

 

ライドを指差すが、頭突きで返される。

 

「もっとチビの奴の事だよ!クランク先生が居てくれるから、最近はマシになったけど、あいつら泣いたりした時に甘いもんがあるといいから、だから……その……」

 

家長として、当然の務めだな。

名瀬の言葉が甦る。

そして、噴き出すように笑いながら、ライドの頭をクシャクシャと撫でる。

まさか、自分よりもチビ達の事を考えていた奴がいたとは。

あのライドが、憎まれ口を叩きながらも、こっそりと皆の事を思って行動していた事に、暖かい気持ちが溢れてきて、笑う。

 

「だから俺はガキじゃねえって……」

 

唐突に、その手が止まった。

手だけでなく、笑い声も、身体の動きも止まる。

 

「?」

 

それを怪訝に思う間もなく、オルガは胃の中身をぶちまけた。

 

「ぅぅぅぅっぼぇっへぁ!!!」

 

「だっ、団長ぉぉぉおおぉぉおぉおおおお!!!??」

 

ライドの悲鳴が響き渡った。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

テイワズの資源採掘衛星、そこを襲う海賊モビルスーツを、アスカロン傭兵団は撃退していた。

敵モビルスーツはスピナ・ロディ。

 

そこに、赤い鎧のような機体が、身の丈ほどもある大剣を振り上げ、大型スラスターで一気に距離を詰める。

 

「ずぉありゃあああーーーーっ!!!」

 

銀色の巨大な剣は、その圧倒的な質量と切れ味で、スピナ・ロディを真っ二つにする。とんでもない威力だ。

至近距離で敵機体が爆発するが、その爆炎から無傷で飛び出る。

そのツインアイがキラリと光る。

 

「どおおおおおおーーだあああああーーーーっ!!!見たかあああ!!このマックス様の実力!!思い知ったかあああああーーーっ!!」

 

直後、爆炎に紛れて、もう一体のスピナ・ロディが、短剣を構えて突撃してくる。

 

「ちぃっ!!」

 

マックスの機体は重装備なため、小回りが効かずに旋回が襲い。

ガードするしかない。そう思った時、豪雨のような弾丸の連射がスピナ・ロディを襲った。

 

「ビリー!!邪魔すんじゃねえ!!」

 

「邪魔なのはそっちだよ、ボーイ」

 

緑色の鎧に身を包み、巨大な筒状のバルカン砲を抱えるモビルスーツが居た。

両肩には巨大な大砲、腕部や腰にはいくつものミサイルポッド、弾倉バックパックが用意され、かなり射撃戦に特化した機体だと見てとれる。

キザな言い回しをしながらも、連射のトリガーを緩めない。

 

凄まじい射撃音と共に、雨霰と弾丸を放つ。

とどめにミサイルを全門発射し、大小合わせて100発近いミサイルがスピナ・ロディを襲う。

大爆発を起こし、敵は完全に沈黙した。

 

「んんんーーー♪我ながらパーフェクトな戦術だ!」

 

「どこがだあ!!たかがロディ一体にどんだけ弾使う気だあ!!オーバーキルだろコラ!!」

 

「君こそたかがロディ一体にそんな剣は必要ないだろう!真っ二つにする戦術的価値も無い!君の方がよっぽどオーバーキルだ!」

 

「おめえは弾一発一発の値段を知れ!お金の重みを知れ!!」

 

「君こそ時間の価値を知ったらどうだい!?戦術的にも意義がないし!もっと常識を知れたまえよ!」

 

「ざっけんなコラァァッ!!真っ二つにすりゃ完全に戦闘不能だろうが!それに一回の攻撃で倒せる!お前みたいに使わなくていい無駄弾バカスカ打つ弾馬鹿とは違うんだよ!」

 

「訂正したまえ!遠距離からの一方的な射撃!集中砲火!完全勝利!!これこそ戦術的にあるべき勝利だよ!君のように無駄な大技に時間も労力も無駄使いする真っ二つ厨に言われる筋合いは無い!!」

 

「大剣で両断は男のロマンだろおがあ!!」

 

「大火力での蹂躙こそ男のロマンだ!!」

 

「うっせバーカ!弾切れしたら何も出来ねーくせに!何回俺に助けられたと思ってんだあ!!」

 

「なにぃ!?そっちこそ切れ味が落ちたらただの鉄塊だろう!?何度敵の接近を防いでやったと思っているんだね!?」

 

「バーカ!!」

 

「俗物!!」

 

『二人とも、現状を報告して』

 

マックスとビリーが喧嘩していたところに、ピンク色の髪の少女が通信してきた。

 

「「リリーちゃん♪」」

 

マックスもビリーも、途端に声が柔らかくなる。表情もややだらしなくなっている。

 

「えっとだね、このビリーが一機撃墜。マックスの尻拭いをして名アシストしたからもう一機撃墜したけど、これもほぼ俺の手柄だね。つまり二機撃墜」

 

「はあ!?バッカじゃねえの!?まず俺が圧倒的実力で一機両断!そして俺の名演技にかかった敵がおびき寄せられて、そのおこぼれを喰ったのがビリーだ!つまり俺のスコアだ!!」

 

「虚偽の報告は傭兵団の規則に反するぞ、マックス。今のうちに訂正したまえ」

 

「うるせえ!てめえの自己中申告の方が違反だろ!!」

 

『はいはい、一機ずつ墜としたのね』

 

リリーは淡々と処理する。

巨大な剣を所持する、赤い装甲の機体が『ブースト』

強力な火気を装備する、緑色の装甲の機体が『バースト』

この二機の連携は非常に強力だ。

パイロット同士は犬猿の仲だが、いざという時のコンビネーションは完璧。

だからアスカロン傭兵団第一部隊に属している。

ちなみに機体名だが、同じく第一部隊に属するエウロパが「覚えづらい」「どっちがどっちか分からない」と言うので、リリーが「おっきな剣(ブレイド)を持つ方が『ブースト』、おっきな銃(バルカン砲)を持つ方が『バースト』」と教えたところ、即座に覚えてくれた。

そのせいでマックスとビリーまでブーちゃんバーちゃんと呼ばれる事になったが。

 

『つまり、残り十機がエウロパの方に行ったって事ね?』

 

「ああ。やっこさん、数の有利を使ってエウロパちゃんを孤立させたつもりでいるようだけど、逆に誘いこまれてるんだよなぁ」

 

「飛んで火に入る夏の虫ってな!」

 

『そう、なら問題ないわね』

 

「俺らは採掘衛星にとばっちりが行かないように、適当に守っておくよ」

 

「流れ弾は俺が止めるぜ!」

 

『よろしくね、マックス、ビリー』

 

「「了解!!」」

 

ーーーーーーーーーーーー

 

弱小組織ではあるが、宇宙海賊『ハニーコーム』はモビルスーツを十数機持ち、重要施設をピンポイントで襲い、甘い蜜だけを奪って去っていく、強襲と離脱を得意とする組織だ。

今はそのモビルスーツを全機投入して、一斉一代の大博打に出ていた。

それはつまり、テイワズの資源採掘衛星から鉱物資源を奪うと見せかけて、相手のモビルスーツを鹵獲する事が狙いだ。

相手は衛星を守らなくてはならないため、適当に戦力を向かわせれば簡単に分断できる。

敵戦力の分断と各個撃破は戦いの基本だ。

 

ハニーコームの実働部隊隊長、ハニービーは、分断した敵モビルスーツを慎重に囲んだ。

見れば、データベースにも無い古い機体だ。

動くも遅いし、殺意を感じない。

これなら簡単に捕らえられると踏んだ。

 

敵は、大理石のように煌めく、黒い装甲が特徴の機体で、胸には見慣れない装備がある。

救命胴衣のようなもので、もしかするとリアクティブアーマーかもしれない。

顔面部は珍しいツインアイだ。

ロディフレームとは違った威圧感がある。

 

「隊長、敵に動きはありません!」

 

部下から通信が入る。

何故か敵は動かない。罠か、舐めているのか。

 

「全員、攻撃開始!!」

 

号令と共に、十体のモビルスーツによる一斉射撃が始まった。

全包囲からの攻撃。これなら避けようがない。

 

しかし、その弾丸は全て、黒いモビルスーツに当たる前に、空中で止まった。

まるで空気が粘性を持ち、餅のように弾丸を止めてしまったかのようだ。

 

「馬鹿な!?弾が!」

 

「な、なんだこれは!?」

 

動きを止めた弾丸が、黒いモビルスーツの周りに浮遊している。

それらが引き寄せられたように一ヶ所に集まると、高速で発射され、スピナ・ロディの一体に集中砲火される。

たまらず装甲がボロボロになり、武装を破壊される。

 

「くそっ!こうなったら接近戦だ!」

 

「な、待て!こいつはヤバい!!」

 

部下が先走り、短剣を抜いて突撃する。

それが皮切りだった。

黒いモビルスーツは凄まじい速度で飛翔し、近づいてきたスピナ・ロディや、他の機体の攻撃を回避する。

 

「なんだ……この動きは!?」

 

早さもさることながら、その重力や慣性を無視した動きに、ハニービーは困惑する。

それに、黒いモビルスーツのスラスターの向きと、奴が加速し旋回する角度や早さが理屈に合わない。

まるで、何か別の力を使って加速しているかのようだ。

 

部下達が悲鳴を上げる。

見れば、数機のモビルスーツが一ヶ所に固まっていた。

いや、固められていたと言うべきか。

押しくら饅頭でもするかのように、お互いに密着した状態。普通の戦闘ならこうはならない。

 

異常だ。

 

「撤退!撤退する!!」

 

撤退信号を出し、即座に逃走する。

いや、しようとした。

 

ハニービーの機体は、その場から全く動けなかった。

各部のモーターが悲鳴をあげている。

スラスターを全力で稼働しても、何か見えない力に引き止められる。

 

気が付けば、自分も含めて全員が、一ヶ所に集められていた。

鹵獲された。そう悟るまでに時間はかからなかった。

結局、何も出来ないまま、ほぼ無抵抗で捕まったのと同じだ。

 

「悪魔め……」

 

ハニービーはぽつりと呟く。

その言葉は的を得ていた。

この黒いモビルスーツは、 たたずむ者を走らせ、走り去ったものを呼び戻す力を持つとされる、ガンダム・アガレスなのだから。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「はぁー、つまんないなー。もっとドンパチしたかったのにー」

 

唇を尖らせるのは、ガンダム・アガレスショコラーデのパイロット、エウロパ。

伸び放題の黒髪から覗く表情は不満げで、しきりに文句を言っている。

体格は小柄な少女だが、その背中はガンダムと繋がっている。

 

戦闘開始から一分とたたずに、モビルスーツ十機を行動不能にするという規格外の能力を見せたアガレスショコラーデ。

 

その能力は、この機体の胸にある特殊兵装によるものだ。

ここから放出された小型電磁板を周辺宙域に散布、それらに胸部パーツから磁力を発する事で、強力な斥力、引力を作り出す事が出来る。

特に弾丸などは金属で出来ているため、この磁力フィールド内では止めるも動かすも自由自在。

自身が加速したり、相手を止めたりも思うがままだ。

 

モビルスーツのフレームも、例に漏れず金属。つまり、アガレスショコラーデの磁力フィールドから逃れる事は出来ない。

 

ことモビルスーツ戦において、アガレスショコラーデは無敵なのだ。

 

名前の由来は、電磁板が板チョコのようだったことから、エウロパが大好きなチョコレートの名を冠されたという訳だ。

 

『お疲れさま、エウロパ』

 

「リリーちゃん!あたし雑魚戦ばっかもうやだー!こんな事なら歳星でチョコ食べたいー」

 

『そう言わないで。帰ったらチョコレートケーキ作ってあげるから』

 

「たべりゅ!!!」

 

エウロパは涎を垂らし、目をキラキラと輝かせた。

 

この先も、テイワズとの協定は続くだろう。

自前の武力が消耗した時、あるいは同士討ちなどで弱った時などに、スムーズに入れ換わる事が出来るように、今から着実に関係を良くしていく。

それが、一昨日チクタクがマクマードと交わした契約だ。

 

「はあー、もっと強い敵いないかなー。ドッタンバッタン大騒ぎしたいなー」

 

強力過ぎるが故に、全力を出せる相手がいない事に不満を持つエウロパ。

 

「その辺からモビルアーマーでも出てこないかにゃー」

 

捕らえたモビルスーツ達を引っ張りながら、母艦へ帰投するエウロパ。

彼女が望むような戦場に出られるのは、まだ少し先の話。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

テイワズの工房へ回されたモビルスーツ整備の仕事があるため、タカキとヤマギは歳星の中を歩いていた。

 

「はぁー、おやっさん達、もう始めちゃってるかなー。どしたのヤマギ?」

 

「別に」

 

ヤマギは不機嫌そうに俯いている。

 

「はあー、やっぱり俺も式行きたかったなー」

 

憧れの三日月や団長達と共に、テイワズとの式に出たかったが、仕事があるので仕方がない。

そうこうしている内に、テイワズの工房へたどり着いた。

そこでは、ほぼフレームのみになったバルバトスとバエルゼロズがあった

 

「うわ、もうバラされてる」

 

「俺が来た時には、この有り様だ」

 

先に来たおやっさんも、この作業の早さには驚いた様子だ。

そこで、灰色の髪の初老の男が、バルバトスとバエルゼロズの周りを浮遊しながら、大声で独り言を叫んでいる。

 

「はああ、まさかバルバトスとバエルをこの手で弄れる日が来るなんてっ!!この美しいフレームデザイン!幻のツインリアクターシステム!それにOSの阿頼耶識が生きてるなんて!」

 

「あの、これってそんなに凄いんですか?」

 

タカキが質問する。

確かにとんでもなく強い機体だが、それはアグニカや三日月が凄いという思い込みもあったのだ。

それに、タカキ達もこの機体の事を、あまりよく知らない。

初老の男は振り返って、弾丸のように早口で喋る。

 

「凄いも何も!こいつらは厄祭戦を終わらせたとも言われる、72体のガンダムフレームのうちの、二体なんだよお!?ただ資料が少なくて、今じゃ幻の機体なんて呼ばれてる!そんな機体を予算上限無しで、整備できるぅぅぅー!!!」

 

「そうなんですか?」

 

「なんでも三日月がテイワズのボスに気に入られたらしい」

 

おやっさんが頭をポリポリと掻く。

 

「し、し、し、しかもぉ!その資料を詳しく纏めて提供してくるた人がいるぅぅぅ!!テイワズのデータベースにも無いような、細部の事細かな情報から、追加装備の代案までええええーーー!!!凄い!凄すぎるぞこれはぁぁぁぁぁああああーーーーッ!!!!」

 

アグニカがバルバトスとバエルゼロズのデータを資料にまとめ、テイワズに提供したのだ。

他にも、テイワズからすれば涎が垂れるような貴重な情報を、惜しみ無く分け与えた事で、現場からの評価はすこぶる高い。

この整備長が張りきるのも無理はない。

 

「見ててください!消耗品全交換は勿論!フレーム!リアクターの再調整!この資料を元に!完っ全なバルバトスとバエルを、ご覧に入れますよおおーー!!」

 

「そりゃありがてぇ」

 

おやっさんが苦笑する。これは自分達の出番はないかもしれない。

それほどの勢いだ。やれる事はやるつもりだが。

整備長は作業員達に発破をかけている。

 

「よし!作業を再開するぞ!まずはブラッシングからだ!これは第三作業室でやるぞおー!」

 

その後、「かかれー」だの、「うふっ、ふは、ひゃはは!」という狂笑や「いええーー!!!」という歓声が聞こえてきた。

そんな時、通路を浮遊してきたシノが、気さくに話しかけてくる。

 

「よう皆の衆!俺も手伝うぜ!」

 

「ん?ああっ!?おめぇ式は?」

 

本来ならシノも、式に参加しているはずだ。

 

「いやちょっと寝過ごしちまってよ。それにこっち、人手少ねぇだろ?」

 

「つぅかおめぇ、なんかツヤッツヤのテッカテカだな」

 

おやっさんの指摘に、シノは上機嫌に大口を開けて笑う。

 

「ん?まあ、久々に?いい汗かいたっつぅかさ!」

 

「……!」

 

ヤマギがぷいっと顔を背ける。

タカキはそれに気づいたが、特に声をかける事はしなかった。

 

「なんだそりゃ」

 

「ぐはははっ!」

 

おやっさんも薄々気づいていたが、呆れたように肩をすくめただけだ。

ある意味、シノらしいとも言える。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

式典会場の待ち合い室では、式に向けてそれぞれが衣装に着替えていた。

鉄華団の面々は、見慣れない服に悪戦苦闘している。

ビスケットはアミダに手伝ってもらっているが、腹が出すぎてパンパンだ。

 

「ちょっとあんた太り過ぎだよ」

 

「はい……」

 

すみません、と言いそうな顔だ。

辛気臭いのはいけないと思い、アミダはビスケットの肩を叩く。

 

「ほら、似合ってるよ」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

アミダは微笑む。

そんな中、ユージンも見たことが無い装飾品を前に、ただ立ち尽くす事しか出来ないでいた。

 

「なっ……どうすんだ?これ」

 

「ほ~らほら貸して」

 

「あ……」

 

ラフタがさっと取り付けてくれる。

 

「はい。良い出来じゃない。馬子にも衣装」

 

「へへっ、俺も大人になりましたんで」

 

「はっ?」

 

「まご」を子供という意味だと思ったのか、自分は大人になったと胸をはるユージン。

ただラフタには意味が分からず、ポカンとしていた。

 

ビスケットはベランダで黄昏ている昭弘に気づき、少し意外に思った。

 

「昭弘はこういうの、性に合わないから出ないって言うかと思った」

 

「家族の……」

 

「?」

 

「晴れ舞台だからな」

 

「うん」

 

一瞬、遠くを見つめていた昭弘だったが、すぐにビスケットに視線を移した。

ビスケットも頷く。

これは、鉄華団の記念すべき第一歩なのだから。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

名瀬は和紙に筆で字を書いていた。

団長であるオルガの名前、その漢字版だ。

それを三日月は珍しそうに見ている。

 

「変わった絵だね」

 

「字だよ。これで御留我威都華(オルガイツカ)って読む」

 

「字?」

 

字と言えば、クーデリアから教わったものだけなのだと思っていたので、まさか字にも色んな種類があるとは意外だった。

 

「式に使うんだ」

 

「へえ~。この字って俺のにもあるの?」

 

「お前の?ふむ……あっ」

 

しばし頭の中で考えてみて、整ったので書いてみる。

『三日月王我主』

 

「これが俺?」

 

「ああどうだ?」

 

まじまじと見つめ、満足そうに頷いた。

 

「俺、クーデリアから教わったのより、こっちのが好きだな。なんか綺麗だ」

 

名瀬の筆捌きもあるのだろうが、墨の流れるような形が綺麗に思ったのだろう。

そこでオルガが入ってきた。

星熊の薬のおかげか、昨日の酔いは完全に抜けきり、しゃんとした服装に着替えている。

 

「失礼します。お待たせしました」

 

「おお~似合ってるじゃねぇか」

 

「どうも。あ、これって式で使う……」

 

「ああ」

 

オルガも字が気になるらしい。

そこで三日月が嬉しげに和紙を見せた。

 

「ほら、同じ字が入ってる」

 

「えっ?」

 

ぱっと見ただけでは分からないが、どうやらそれは三日月の名前らしい。

 

「そりゃ御留我の我と王我主の我だ。我(われ)とも読む」

 

「われ?」

 

「自分って意味さ。これからどんどん立場だって変わる。自分を見失うなよオルガ。でねぇと家族を守れねぇぞ」

 

「……!」

 

変わる。

人も、身体も、心も、立場も、気持ちも、技量も、目指す場所も、出来る事も。

アグニカという凄まじい影響力のある人物がいると、それに揺られる自分を感じている。

だが、それもまた、自分なのだ。

変化を受け入れて、それでも、守るべきものを守り通すのが、家長の役目だ。

 

それは奇しくも、三日月がアトラに抱いた気持ちと同じだった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「よお、ばっちり決まってるじゃねえか」

 

アグニカが部屋に入ってきた。

相変わらず黒い服装が似合う。火星では見掛ける事がなかった衣装でも、難なく着こなしてしまう。

 

「アグニカにもあるの?」

 

「あ?」

 

一瞬、ポカンとした顔をしたが、すぐに和紙に書かれた漢字名を見つけ、納得した。

 

「あー、漢字名か。どうだろ?」

 

「アグニカのも書ける?」

 

「ん?んー、ちょっと待てよ……」

 

三日月にせがまれ、名瀬は腕組みをして字を探している。

アグニカに続き、星熊と虎熊も部屋に入ってきた。

虎熊がオルガに話しかける。

 

「オルガ団長、俺たちまで式に呼んでもらって、感謝します」

 

「なに、アンタ達にも世話になったしな。端っこで悪いが、席を用意してもらった」

 

「いえ、充分です。ありがとうございます」

 

「団長さん!ありがとね!」

 

鬼達も鉄華団の一員として、式に参加する。

 

「むぅ……しかし、俺まで出席して良かったのか?」

 

クランクが遠慮がちに話しかける。

彼にも衣装が用意され、立派に着こなしていた。見た目は荘厳で厳格なマスラオで、テイワズの幹部と言われても信じてしまいそうな威厳に溢れている。

捕虜という立ち位置は最早誰も覚えていない。

 

「何言ってんだ。ガキどもの面倒見てくれて、皆感謝してるんだぜ。アンタも俺達の家族だ」

 

懐の深いオルガの言葉に、ただ頭を垂れるクランク。

 

「よし、出来たぞ」

 

名瀬が和紙を掲げる。

 

「おおー」

 

「ん?なになに?」

 

三日月が珍しく感嘆の声を出し、星熊が興味津々になる。

 

『會虞弐華 禍威衛鏤』

 

「あ、これもしかしてアグニカ!?アグニカって書いてるの!?」

 

「ああ、どうだ?」

 

「すごいすごーい!!」

 

童子組も漢字を使うため、これが絵ではなく字だと読み取れたようだ。

アグニカの名前と聞いて、皆が注目する。

 

「ふぅん、いいんじゃねえの?」

 

アグニカも良しと言った事で、これに決定となった。

 

「これ、なんて読むの?」

 

「ん?ああ、これは『はな』だな。鉄華団の『か』と同じ字が入ってる」

 

「へえー。じゃあこれは?」

 

「これはカイエルの鏤『る』だな。刻み込むって意味でもあるし、鉄って意味も持つ」

 

「へえ、じゃあ、鉄華団と同じだ」

 

「だな。んで、団って字には集まるって意味がある。アグニカの會は、人が集まる、力を合わせるって意味もあるから、中々良く出来てるだろ?」

 

名瀬がアグニカにウィンクする。

 

「お前も、鉄華団の一員として、こいつらの事を考えてやれよ」

 

アグニカは珍しく柔らかい笑顔になる。

 

「分かった。心に刻んでおくよ」

 

その笑顔は、この場にいる全員の心に、印象深く残った。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「つうかアンタ、クランク!」

 

名瀬が大声を出し、皆がビクリと反応する。

 

「アンタ、鉄華団の一員だったのかよ!?」

 

「むう……そうなのだ。色々あってな……」

 

クランクがしどろもどろになりながら答える。

 

「なんだ?知り合いだったのかお前ら」

 

「兄貴、クランク先生の事知ってんですか?」

 

アグニカがクランクに、オルガが名瀬に問う。

 

「クリュセの酒場で偶然な。そん時はマルバも一緒に飲んだんだよ」

 

「へえ」

 

「つかアンタ、先生ってのは鉄華団の先生なのかよ!?」

 

「うむ、俺が教えられる事は全て教えている」

 

ついでに鉄華団の子供達全員のメディカルチェックやらトレーニングやら遊び相手やら戦術の授業やらモビルスーツ訓練の相手やら整備班の手伝いやら各設備の点検修理やら非常時訓練の指揮やら捕虜の監視やら掃除洗濯などの雑務やら戦闘データ整理やら鹵獲品の整備やら武器弾薬整合チェックやら売買する際に足元を見られないために値段設定やらギャラルホルンやオルクス商会から奪った戦艦の設備チェックやら何やらをほぼ一人でやっている上、アグニカからいつ来るかも分からない無茶振りな命令に即座に対応出来るように準備しておかなくてはならない。

少し痩せた。

 

「はっはっはっは、いや、まさか、こんな繋がりがあるなんてなぁ」

 

名瀬は膝を叩いて大笑いしている。

 

「名瀬さんも飲めるくち?」

 

「ああ、バンバン飲むぞお」

 

「おおー、んじゃあまた今度、私らと一緒に飲もう!」

 

「いいぞ。俺の好きな酒を飲ませてやる」

 

「やりぃ!ねっ、アグニカ!」

 

「ああ」

 

星熊がアグニカの腕に抱きつき、ぶらぶらする。

そんな時、廊下の先からクーデリアが声をかけてきた。

 

「団長さん」

 

「ん?」

 

「おお~、いいねぇ!やっぱり黒は女を大人に見せる」

 

黒い落ち着いた衣装に着替えたクーデリアは、いつもの幼さが抜け、凛々しい顔つきをしている。

 

「どうしたの?」

 

「ありがとう、三日月。私決めたわ」

 

「えっ?」

 

三日月に微笑みかけ、オルガと向き合う。

その瞳は、覚悟を決めた目だ。

オルガははっとしたような気持ちになる。

 

「団長さん」

 

「!」

 

「いえ、オルガ・イツカ。お話があります」

 

「……」

 

これは、前を向くクーデリアと、オルガの目指すべき場所を照らし合わせる話だ。

それを終えてようやく、鉄華団という家族は、歩き出せる。

アグニカは少し眩しそうに、二人の背中を見つめていた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

アクアリウムがある応接室にて、クーデリアとオルガは、マクマードと会談していた。

 

「心は既に決まっているんだったな。クーデリア・藍那・バーンスタイン」

 

「私の手は既に血にまみれています」

 

「ほう……」

 

汚れを知らぬお嬢様かと思っていたが、昨日の会談といい、血に染まった覚悟を決めている。

その瞳に、マクマードは興味を持つ。

 

「この血は鉄華団の血と、彼らが浴びた返り血です。今私が立ち止まることは、彼らに対する裏切りになる。

 

「ふむ……それでいいのか?鉄華団は?」

 

オルガに視線を移す。

鉄華団としては、仕事を上から取り上げられ、お情けで形だけ保つように取り計らってもらったようなものだ。

オルガが長として意地を張るのであれば、飲めない話のようにも思うが。

 

「護送の仕事自体はテイワズの下で引き続き任せてもらえるんですよね?」

 

「ああ。だがお前の頭としてのメンツは潰れちまうんじゃねぇのか?」

 

マクマードはオルガを試す。

はたしてこの男の器、どれほどのものか。

 

「鉄華団は俺が……いえ、俺ら皆で作る『家』です」

 

「オルガ……」

 

「ふむ……」

 

クーデリアは微笑み、マクマードも満足げに唇を吊り上げる。

まずは合格、と言った所か。

 

「俺のメンツなんて関係ないです。これから何があっても俺らが変わることはない。俺ら一人一人が鉄華団のことを考えていく。守っていく」

 

それだけ聞ければ安心だ。

マクマードは簡単に利権の話を纏める。

鉄華団の晴れ舞台。

今まで歩いてきた足跡が、ここに繋がった。

今までの行いがあるから、今がある。

守るべき居場所を作る事が出来た。

そして、前を抜ける。

オルガは硬い誓いを胸に、式へと向かった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

式は問題なく終わった。

緊張が途切れ、皆がほっとした顔をしている。

ユージンなどはソファに沈むように腰掛けていた。

 

「あぁあ~疲れたー……」

 

「あ!ダメだよ、皺になっちゃう」

 

「うるっせぇな」

 

「ちゃんとしなきゃダメなんだよ!」

 

アトラがオカン気質を全開にして、ユージンに小言を言っていた。

フミタンはテキパキと服をたたんでいる。

 

昭弘が黄昏がれていたベランダでは、オルガと三日月が風に当たっていた。

火照った身体にはちょうどいい。

 

「かっこよかったよ、オルガ」

 

少し無理した感じではない、芯から真っ直ぐした姿。

いつもとは一味違った格好良さがあった。

 

「ああ。似合わねぇ気苦労かけたな」

 

「ん?」

 

昨日、微睡みの中で聞こえた、三日月とビスケットの会話。

三日月は三日月なりに、オルガの事を気遣っていた。

それが本当に、照れ臭くて、むず痒い。

だが、心の底から活力が湧いてくる。

ライドの時のように。

 

「よし!面倒な段取りは全部終わった」

 

三日月と目を合わせる。

ここからはいつも通り。

ただ前に進むだけ。

 

「行くぞ、地球だ」

 

「うん!」

 

 

鉄華団として皆の意思が固まって、誓いを立てて。

ようやく、地球への旅がスタートする。

その先に待ち受けるものとは、果たして。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

『おまけ』

 

「こんにちは、名瀬さん」

 

「あ?」

 

式も終わり、一息ついていた時、後ろから声がかけられた。

振り向くと、そこには信じられないものがいた。

 

「うわっ!?」

 

顎のない男がいた。

頭は坊主で、小綺麗なスーツを着ていて、挙動は丁寧で紳士的だ。

表情は朗らかで、微笑みを絶やさない。

その瞳はキラキラと輝いていた。

 

「おまっ……誰だ?」

 

「はははっ、やだなぁ、俺ですよ、俺。ジャスレイ・ドノミコルスです」

 

「ジャス……レイ……?」

 

名瀬は後退りをする。

背中を嫌な汗が垂れ落ちる。

存在するはずもないモノが、いきなり目の前に現れた気分だ。

 

「鉄華団と盃を交わしたんですね。おめでとうございます。弟分ができて、これから大変だとは思いますが、お仕事頑張ってください」

 

「お、おお……」

 

一種の悪ふざけかと思ったが、そんな雰囲気ではない。

かといってそっくりさんでもない。

別人のような、本人だ。

まるで人格が改造されたかのような有り様に、名瀬は唇がひきつる。

 

そこでアミダが話しかけてきた。

 

「名瀬ー?どうしたんだい、そんな所で突っ立っ……うわっ!?」

 

ジャスレイの顔を視認するや、名瀬と同じように悲鳴をあげるアミダ。

百戦錬磨の彼女が声を裏返すのだ。やはりとんでもない物なのだろう。

 

「アミダさん、ご無沙汰しております。息災でいらっしゃいますか?」

 

にこやかに話し掛けられ、固まってしまったアミダ。

説明(助け)を求めるように、名瀬の顔を見る。

 

「ジャスレイだとよ」

 

「ジャスレイ!?こいつが!?」

 

「ははは、流石ご夫婦ですね。全く同じ反応だ」

 

いちいち気の効いた言い回しが、余計に不気味さを際立てる。

 

アミダがフリーズしたので、名瀬が頑張って質問してみる。

 

「お前、何か変わった……?」

 

「ああ、頭を丸めたんです」

 

ペタペタと頭を撫でるジャスレイ(仮)。

 

「いやあ、今までの俺は、悪どい手口ばっかりしてて、親父や名瀬さんとこにも迷惑かけてばっかりだったじゃないですか。だから俺、遅すぎるかもしれませんが、借りを返そうと思って。心を入れ換えたんです。

これからは真面目に、皆さんのためだけに仕事させてもらいます」

 

頭痛がしてきた。

真面目に働く?ジャスレイが?

悪い冗談でしかない。

心を入れ換える?

そんな次元の話ではない。最早洗脳だ。

 

一体、誰がこんな事を……

 

そこで、二人ともハッとする。

 

「お前、最近誰かと会ったか?」

 

「ああ!アグニカさんと出会いました!」

 

 

や は り あ い つ か

 

 

「アグニカさんと出会えて、俺は自分の間違いに気付けたんです!だからあの人には感謝してます!!」

 

「そっ……そっかー」(棒)

 

「そりゃ……よかったねえー」(棒)

 

「ええ!もう感謝しかありませんよッッ!!!」

 

本当に感謝以外の感情が無いのだろう。

そんな風に「改造」されたに違いない。

 

出来るだけ、関わりたくない。

 

「んじゃ、出航の準備があるから、俺らは行くぜ……」

 

「元気でね……」

 

そそくさと立ち去ろうとする名瀬とアミダ。

 

「はい!!お二人とも、お元気で!!またいつか!!」

 

やたら大きな声で返事をしていた。

仮にも正義の心を手に入れたジャスレイ、彼がこの先作り出す未来とは……?

 




第八の契約とかどこの愉悦部設立式だよと草バエ散らかしてましたwwwwww

『會虞弐華 禍威衛鏤』

『會』は細かいものを集める、人の意見を合わせるという意味。寄せ集め集団をギャラルホルンのような大御所にしたアグニカにはぴったりかと思います
『虞』はおそれ。恐怖や懸念するといった意味です。暴力大魔王の名前にあれば恐怖を与える側って事になりますね。
『弐』はふたつあるという事。矛盾の塊であるアグニカ、暴力と平和の二面性を表します。
『華』は言わずと知れた花。きーぼーおーのはなー♪
彼の名前にも華が入っているとは驚きです(お前が考えたんだろ)彼が鉄華団の名前を知った時はどんな心境だったんでしょうね。

カイエル姓は本作ではいわく付きというか、呪われている家系なので、ややネガティブな文字が使われます。

『禍』は災禍という意味。
『威』は人を従わせる力の塊、威光。
『衛』は守るという意味。
『鏤』は刻むという意味でもあり、切り開くという意味もあります。

これだけ見れば、災いから人々を守り、未来を切り開く鉄の威光、という格好いい名前なのですが、これは名瀬さんが考えたもので、実際の『衛』は『穢』(え)、けがれという意味でしょうね。

『災いに穢れた鉄の力』

これだけでカイエル家がヤバげなおうちだった事がほんのりイメージできて好き。
そしてアグニカの名前は

『恐れと魅力の二面性を持った華』

まさにアグニカですね。
バエルゼロズのアグニカです。

今回のまとめ↓

マッキーの心の闇深すぎぃ!
マクマードおじいちゃん、ガクブルしながら待ってました。
鹵獲品買収!お値段原作の約20倍!
クー様、決意の眼差し!爺の目の前でイチャついてんじゃねえ!
マクマード、アグニカの異常性に一早く気付く!流石だぜ!
チョコレート仮面、颯爽と登場。アグニカに草を生えさせた作中最初の人物!
アグニカとモンタークのダブルパンチ!どうしてこいつら二人を同時にさばけると思ったのか……やっぱり耄碌してるんじゃ……
星熊、仮装することで角を不自然じゃなくならせるという力技!それにまきこまれるクランク!
お菓子UMEEEEEEEEEEEEEE!ダンジ、新たな世界へ!
マッキー、星屑の儀式!アグニカと共に狂気の世界へ!!
ジャスレイ拷問!1000引く7は?たーのしーー!!(これもう分かんねえな)
鉄華団飲み会!団長がリバース!
アグニカ乱入!まさかのゲリラライブ!歌った曲はデジモンのオープニングとかだよ!
シノとユージン、ネオン街へ!お給料が単純に20倍になったから、もっとヤバいプレイが出来るお店に行ったよ!
お菓子を隠す仮面ライドォ!可愛すぎい!
アグニカの漢字名、割りと何とかなって草バエるwww
トド、華麗なる左遷。今までは部屋に引き込もってました(笑)
アスカロン傭兵団、どうして男の子って、大きい武器が好きなのかしら……
アガレスショコラーデ、磁力の力は最強だぜ!こんなのどうすりゃいんだよ(無計画)
クランク、名瀬と再開。奇妙な縁っていいよね!
オルガ、誓いを胸に、ヤクザの仲間入り!
アトラ、出番少なっ(笑)
綺麗なジャスレイ、クリーンな組織へ!最後は子供を庇って撃たれて死にます(確定)


アスカロン傭兵団について。
原作でマクマードが落ち着いていた理由。
というのも、武闘派で知られたタービンズ、ガンダム・フレームでギャラホにワンパンかまして大海賊やらモビルアーマーやらを倒すほどの鉄華団(局地的最強戦力)、ジャスレイが雇った傭兵達、上手く行けばマクギリス陣営の戦力すら吸収できたかもしれないというチャンス
これらを全て失ったにも関わらず平然としていた事に違和感を感じまして、こいつ破滅願望でもあるんじゃねーのかと勘ぐったりもしたんですが、他に大きな予備戦力のアテがあるのなら納得、という予想のもと作りました。
なのでアスカロン傭兵団は原作の世界にもいた、という設定です。
マッキーやアグニカの調査力とチート能力のおかげでストーリー上に絡んできた、という事で。

なので鉄華団のテイワズ入りを見届けた時にはもう、アスカロン傭兵団と提携を結んでいました。
直接交渉に来たのはチクタク。前回の続きですね。


長くなりましたが、これで一期の序盤は終了です。
次回から中盤戦。
アグニカの無邪気な笑顔も、これが最後なんやなって。

それでは、次回もお楽しみに(^-^)

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