アグニカ・カイエル バエルゼロズ   作:ヨフカシACBZ

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ブリキの兵隊達は殺戮を始める

アグニ会幹部であり、アグニカ聖書の執筆者NToz様から挿絵をいただきましとぅああああああ!!!
最高おおおおおおおおお!!!!
瞳のハイライトは第二章から消えて虚無ってる感じになってるよ!そこがいいよね!バエルゼロズって感じだよね!


【挿絵表示】





11話 赤い雨・後編

赤い雨革命を真っ向から否定した人間は二人いる。

一人は革命の乙女、クーデリア・藍那・バーンスタイン。

もう一人はサヴァラン・カヌーレという男だ。

 

彼はドルトコロニーの貧民街の生まれであるが、工場の経営者一家の養子として迎え入れられる。そのため労働者側と経営者側両方の内情に詳しく、和解の歩み寄りを模索するただ一人の人間だった。

赤い雨革命実行の数日前に計画の一端を知ったサヴァランは、ナボナ・ミンゴを代表とする労働者達の元へ駆けつけた。

 

「お願いします!どうか考え直してください!!」

 

暴力に訴えてまともな交渉などできるはずがない。

労働者と経営者との間に決定的な亀裂が走るだけ。そうなれば最早修復は不可能。

ギャラルホルンの圧倒的武力に押し潰され、見せしめにされるのがオチだ。

 

「考え直す?」

 

「そうです!私が経営者側にあなた方の不満を伝え!改善するように交渉しています!」

 

「交渉?」

 

ナボナの澄んだ瞳が、サヴァランを真っ直ぐに見つめていた。

サヴァランは続ける。

 

「暴力に頼れば、経営者側は過敏に反応してしまう!そうなれば歩み寄りなんて不可能です!彼らは拒絶するだけだ!大きな流れが動きだしてしまえば、私達だけではどうする事もできない!」

 

訴えに必死なサヴァランは、彼の周りをゆっくりと囲む労働者達に気がつかない。

 

「暴力?」

 

「歩み寄り?」

 

「大きな流れ?」

 

ナボナは噛み砕くように復唱する。その不気味さに冷や汗を流しつつも、サヴァランは言う。

 

「でも今なら!私が動けばなんとかなるかもしれない!」

 

言い切って、周りに集まった労働者達に気づく。

 

「み、皆さん……」

 

「なんとか?」

 

ナボナが肩に手を置く。

すぐ近くにナボナの顔がある。その顔からは、表情というものがすっぽりと抜け落ちているように見えた。

サヴァランは全身が総毛立つ。

 

「忘れたんですか?」

 

ガクンと視界が揺れた。

髪を乱暴に引っ張られ、首が後ろに傾く。

たまらず腕を後頭部に回すと、無防備になった腹に労働者達の拳がめりこんだ。

 

「ぅぶぇっ!?」

 

餓える苦しみを忘れたのか。

そう言って腹を殴られ、胃の中のものを全て吐き出す。

 

「げぇっほ!!げぉぉぉっ!!」

 

殴られる痛みを忘れたのか。

顔が紫色に変色し、潰れた饅頭のようになるまで殴られた。

 

「ひんぎぃ!んぎひぃぃいいぃぃいぃッ!!」

 

凍える夜を忘れたのか。

衣服を全て剥ぎ取られ、冷水をかけられた。

 

「づゅびびびびびびびびっ!!はっ、ほぁああああああああ!!!」

 

目が見えなくなった恐怖を忘れたのか。

目に鋭利なペンを突き刺され、ぐりぐりと掻き回された。

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!いぃいいいいぃぃぃいいだいいいいい!!!いだいいだいいだいいだい!!!ぎぃぃぃぃいぃぃいぃいいい!!!」

 

暴力を持たぬ正義など罪だ。害悪だ。

罪には罰が下される。害悪は排除せねばならぬのだ。

 

事故で指が落ちた人間の痛みを忘れたか。

 

「いだいっでいっでるでじょおおおおおおおおおオおおオオおおぉおおオオオオおおおおっ!!!!」

 

歩けなくなった人間の絶望を忘れたか。

 

「やべでやべでやべでやべでい゛だい゛ い゛だい゛ い゛だい゛ い゛だい゛!!!」

 

慰みものにされ、子も産めなくなった悲しみを忘れたか。

 

「おぎゃがががががががががが!!!ぃっじゅんおっぼごごごごっくぉっつんふぉおおおおがああああああああああああああああッッッ!!!!!」

 

音が聞こえなくなった虚無感を忘れたか。

 

「みみいいいいいいいいいいいいいい!!!!みみみぃぃぃぃいいいいぃぃぃいいいいいぃいいいぃぃ!!みみぢぎらないでえええええええええええ!!!ごまぐがあああああああああああああああ!!!」

 

ものも噛めなくなった味気なさを忘れたか。

 

「はぎゃああああああああ!!!ほっぎゃああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

薬品で肌が溶かされた醜さを忘れたか。

 

「ぶじゅじゅじゅじゅじゅじゅ!!!ぶじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅ!!!」

 

重いコンテナに押し潰される圧迫感を忘れたか。

 

「きひぃいいいぃいいいぃいいいいいいいぃぃぃぃぃぃいいい!!!やべでええええええええええ!!!づぶれじゃうううううううううう!!!づぶれぶぅ!!ぐるじいんでずううううううううううううッ!!!!」

 

労働者達の怨念をその身に受け、地面を転がるサヴァラン。

その姿を見て、ナボナは溜め息を吐いた。

 

「彼は、変わってしまった」

 

環境によって労働者達の苦しみを忘れてしまった。

彼はもう、同志ではない。

「奴ら」に属する下等生物に成り下がってしまった。

 

それでも殺されなかったのは、ひとえにナボナに残った良心、サヴァランへの思い入れがあったからだ。

勿論、それがサヴァランにとって良い事などではない。

サヴァランは暗くて狭い倉庫の中に放り込まれた。

 

ありとあらゆる暴行を受けたサヴァランは、全身がボロ雑巾のようになってた。

酷く腫れ、肌は裂け、血が吹き出し、えぐれた肉がヌラヌラと光る。骨は折れ臓物は潰れ、鉄の味が喉を焼き、血の混じった尿が止まらない。身体は動かせる部分などなかった。

脳に送られてくる苦痛はひっきりなしに彼を責め立て、一時も休まる事がない。

 

「う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛ーーーっ、うううううううううううううううう……」

 

身体がガクガクと震えて止まらない。強烈な寒気が襲う。

息を吐くことすら苦痛で、呻き声が漏れる。

 

「ひぃぃぃぃ……ひぃ、ひぃぃ……ひっ、ひぃぃぃいいぃぃいいぃい……」

 

サヴァランは心が完全に折れてしまった。

単純な暴力とは、これほどまでにシンプルで強力だったのか。

 

所詮、思考などは健全な状態にあるからこそ成り立つものであり、ここまで暴力に晒された身体に入り込む余地はない。

 

痛みという名の、後悔。

苦痛に平伏し、ただただ許しを乞うだけの生物になってしまった。

サヴァランを苛む苦痛のシグナル。

 

だがそれらがパッと止まった。

サヴァランの全ての感覚が、一瞬にして消えた。

 

「あっ…………」

 

無音の世界、時が止まった世界で、思考は端的に自身の結末を悟った。

 

(死んだ)

 

暗転する意識の中で、火星に引き取られた家族の顔が思い浮かんだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

目を覚ますと変わらぬ景色。薄暗い倉庫の中だ。しかし身体に痛みは無い。

寧ろ傷が治り、万全ではないものの身体が動く。意識もはっきりしている。

はたしてこれはどういう状況か。

 

潰れたはずの目も再生されており、視界が広がる。その視界の中に、真っ白な少年の姿があった。

真っ白の髪、真っ白のローブを着た、赤い目の少年。雰囲気が清らかすぎて、どこか人間味を感じない。その慈愛に満ちた笑顔と、こちらの心の臓まで覗き込むような瞳は、人ならざるもののように思えた。

 

「天使だ」

 

はは、やっぱり俺は死んだのか。

そんな思考を掻き切るように、天使の声が聞こえる。

 

『マステマだよ』

 

天使のような少年は名乗る。

彼が取り出したのは携帯端末だ。そこに一つの映像が映し出される。

 

『ナボナさん、死んじゃった』

 

労働者達の暴動の最中、クーデリアを撃ち殺そうとしたナボナを、巨体の男が撃ち殺す。頭蓋が割れ、顔が砕けて血が飛び散る。その様をまざまざと見せられたサヴァランは、目を限界まで見開き、食い入るように画面に集中している。

驚愕に固まった表情は悲しみに溶け、絶望に霧散する。

 

「ああああああああ…………ああっ、ああああああああああああああああああああ!!!!」

 

顔を地面に叩きつけ、擦り付ける。拳を固く握りしめ、無様に尻を振る。

腹の底から絶望と無力感を叫んだ。

 

「ずびばぜん……ナボナざんっ……!ずびばぜっ…………!!ずびばぜん、ずびばぜん、ずびばぜん、うぉぉっ……!ずびばぜん、ずびばぜん………………」

 

止められなかった。こうなると分かっていたのに。

ナボナさん達は何か、大きな流れに呑み込まれ、その濁流の中で死んでいった。

良くないものの嵐に、なにもかもを破壊された。

自分はその一端に触れる事すら出来なかった。

 

「もう……俺にできることは…………」

 

責任を取ることだけ。自らを罰することだけだ。

 

『このロープ使う?』

 

天使のような少年が、一本のロープを差し出した。

マステマと名乗った少年はピョンと飛び上がり、天井を剥がし、通気パイプにロープをかける。

 

『死ぬんでしょ?死にたいんでしょ?』

 

輝くような笑顔で、ロープの先端を丸く括って渡してくる。この縄を首に巻けと言う。

そうか。やはり彼は天使か。天の使い、死の運命の使者だったんだ。

 

ロープを首に巻き付ける。もう片方の先端を、マステマがゆっくりと、ゆっくりと引いていく。

少年の腕で自分を吊り上げられるのかと疑問に思うのもつかの間、きゅっと呼吸が止まる。

 

「かっ…………!!!こぁ!!」

 

荒い縄が首の皮にめり込む。さっきまでただの細い縄だったそれは、凶悪な怪力悪魔の太い腕のようになった。

段差から一気に落ちて首を吊るのではなく、ゆっくりとロープを引き上げられる死に方は、緩慢で苦痛に満ちたものだ。

 

鼻をツンとした刺激が襲い、そこから脳みそと両の耳、口の中へと、十字を描くように不快な圧迫感が広がる。唾を飲み込めないのがこれほど辛いとは思わなかった。涎も鼻水も涙も溢れ出し、垂れ流されっぱなしになる。制御が効かないのだ。

ギリギリと異音をたて、ロープはつり上がる。サヴァランの爪先が、ふっ……と浮かび上がる。

それに比例して彼の悶絶具合も加速した。

先ず音が消えた。嗅覚も味覚もとっくに消えていたが、聴覚が消えた時の全身を襲う寒気は、彼の人生で初めて味わう苦しみであった。先程胸を締め付けた激情など、この首を絞める万力のような暴力に比べれば、なんと弱々しく無害なものか!

視界すら朧気になる。脳が苦痛を処理するのに必死で、五感にまで気を回す余裕がないのか。あるいは血液の巡りの悪さが原因か。

ジタバタ暴れたのはほんの数瞬。それでもサヴァランにとっては数年と錯覚するほどの事で、今は電気ショックでも浴びているようにビクンビクンと痙攣するのみ。

顔は血流が滞り蒼白。血管が浮かび上がり、みみず腫れのように顔面を這う。まるでメロンだ。人間の顔など、生きているから整って見えるだけで、体内の相互干渉がなくなり各パーツで見ていけば、これほどまでに醜悪なものなのだ。

顎が開き、でろりと舌が零れる。

あとは緩んだ腸から大も小も垂れ流しになるのを待つ。

首吊り自殺の末路。

自身の身の丈に合わぬ崇高な未来を想い描いたサヴァラン。その輝かしく尊い未来の行き着く先は、あまりにも惨めな死に様。

 

バキッ、と鉄が外れる音がして、サヴァランの身体が地面に叩き落とされる。

彼を吊っていた通気パイプが、体重に耐えられずに折れたのだ。

衝撃にサヴァランは息を吐き出す。

 

「げぇっっほっ!!げぇほ!!ごぅおほ!!がはっ!!おおおおお!!ぐぇぼぼぼぼぼ!!がぼ!!げぉぉぉぉおぉぉぉおおおおおおおおお!!!」

 

呼吸が止まった彼が吸い込んだのは黄泉の瘴気。それを存分に吐き出す。こちら側に帰ってこれたからといって、苦痛が引く訳ではない。全身の器官、各細胞から責め立てられる。賠償を求められる。

何をしているんだ貴様は!生きとし生けるものの務めを果たせ!!責任から逃げるな!!

苦痛という形で、自分自身にすら激昂される不甲斐ない男。

サヴァランは泣き崩れた。

 

「ぅおおおおおおおおおっ!!ほぅおっ!ふおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

何が悲しいとか、何が苦しいとかじゃない。とにかく泣いた。何が何やら分からなくなって、激情のままに泣いた。空っぽになるまで泣いた。

 

その小さな背中に、優しげに手を置く天使。よしよしと慈しむように撫でる。

 

『君は一度死んだんだよ』

 

サヴァランがピタリと止まる。

 

『それで君の過去は清算された。今の君はゼロだ。空っぽだ。ここから幾らでも再起できる。なんだってできる』

 

サヴァランはぐちゃぐちゃの顔をあげる。

 

『責任を果たしたいんでしょ?ナボナさんの死を無駄にしたくないんでしょ?労働者達を幸せにしたいんでしょ?だったら……』

 

マステマが大きく手を広げる。

 

『君が二人目の『ナボナさん』になればいい!』

 

「俺が……ナボナさんの代わりに……?」

 

呆然とするサヴァラン。だが、不思議とそれが一番の得策のように思えてきた。

それしか無いと思えてきた。

 

『赤い雨革命を、君が望むように変えてしまえばいい!そのためのお膳立ては、この僕が済ませてあげるよ!』

 

「ああ……あああ……ナボナさん……!!」

 

サヴァランの瞳に、決意の光が灯る。

それはこの世界への憎悪の炎。歪んだ使命感と激情を材料とした、毒のような熱量だ。

 

「俺があなたを!貴方の意思を引き継ぎます……!!俺がなにもかも良くします!なにもかも成功させます!!俺がっっっ!!!俺が全部やりますからっっっ!!!!!」

 

だから安心してください。

そんな鎮魂の言い訳に、自分自身が救われる偽善っぷり。

自分一人で大きな力に立ち向かう事の愚かさ、それを身をもって痛感したというのに、即座に忘却する低脳ぶり。

 

自身の道化具合に気づかないのが、最高に滑稽な見世物になる。

 

「マステマ……天使よ!さあ俺を導いてくれ!!俺に力を貸してくれ!!!」

 

依存。簡単に言うならこの一言だろう。

具体的に自分から動くなど絶対しない。もう心が折れているから。

だから、天使が用意してくれた最高の材料をちょちょいと料理するだけ。それだけで自分が、ナボナさんが、全ての労働者と経営者が救われる!!

ね、簡単でしょ?

 

マステマを天使と呼ぶサヴァラン。これは間違っていない。

人間を悪道堕落に貶める時の悪魔の笑みとは、天使のそれ以上なのだから。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

フミタン・アドモスが目を開くと、そこは無人の宇宙港の通路だった。

突如まばゆい光に呑み込まれたかと思えば、一瞬にして景色が変わった。自分はイサリビの自室にいたはずなのに。

あまりに現実味のない現象に、しばし思考を止める彼女。

ざっと辺りを見渡せば、到着便の時間を示す大きな電子パネルが目につく。

そこにはドルトコロニーと表示されている。ここはドルトコロニー宇宙港の中か。

 

困惑するフミタン。思考が追い付かない。いっそ夢だと思いたいが、意識は研ぎ澄まされていく。

 

背後から人の気配を感じ、ばっと振り返る。そこには見慣れた人物達がいた。

 

「時間通りだな」

 

黒いスーツを着た数人の男達。

暗い表情と剣呑とした雰囲気。

ノブリス・ゴルドンの部下達だ。

 

「なっ……」

 

何故彼らが接触してきたのか。理由は一つしか考えられない。

 

クーデリア

 

彼女に関して新たな任務を与えるため。

幼少期よりバーンスタイン家の一人娘のメイドとして潜伏していたのは、クーデリアが強い立場の人間になった時、それを意のままに操るため。

そしてノブリスの本職は武器商人。彼がクーデリアに望む事は一つだけ。

戦乱の火種になる事。

十字架に張り付けて火炙りにする事だ。

そのために劇的な死に場所を探していた。

それが今だというのか。

 

「いや……」

 

クーデリアを死なせたくない!!

彼女が人々の希望になるのを、この目で見ていたい!!!

 

男達がフミタンを壁際に追い込む。威圧感を与えないと話もできないのだろうか?

男が口を開く。嫌だ、聞きたくない。

 

「ターゲットを守れ」

 

「……え?」

 

「殺せ」でもなく「誘導しろ」でもなく、「守れ」?

クーデリアの命を守れというのか?

意外な命令に困惑する。

 

「そしてお前が死ね」

 

「   」

 

言葉を失う。

死、ね……?私が、死ねばいい?

 

「ターゲットの目の前で、ターゲットを庇って死ね」

 

クーデリアを庇って死ぬ。彼女を守れるならばその覚悟はある。

だが、それを強要する意図とは……?

 

「な……なぜ」

 

「ボスの命令だ。俺たちにボスの考えなど分かるはずがない」

 

ノブリスの真意は全く不明。

 

「もうすぐ労働者達の暴動が起こる。ターゲットがそこに現れる段取りになっている。そこでギャラルホルンか、あるいは労働者達に襲われる。そこからターゲットを連れ出せ」

 

その途中で死ね。

 

それだけ言い残すと、男達は影のように消えていった。

一人取り残されるフミタン。

 

「……たくない」

 

フミタンの表情に影が差す。

 

「死に……たくない」

 

クーデリアが人々の希望になるのを見たい。

アグニカの希望になってあげたい。

死ねない。私は死ねない。

ままならない現状に答えを出し、死ばかりを願っていた自分と決別した。

そんな矢先にこれだ。

昔の自分なら無感情に受けたかもしれない。

だが今は違う。

 

激情に大粒の涙を流す。

 

「死にたくない」

 

死なせなくない。自分の胸に初めて芽生えた希望達を。

希望の命達を。

 

「死にたくなぃぃっ!!」

 

顔を上げて、大声で泣く。

拳銃を片手にふらふらと歩く背中は、酷く不安定で、愛と悲哀に引き裂かれていた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

クランク・ゼントが目を開くと、そこは多くの人が慌ただしく動く建物の中だった。

ホテルのロビーのような、きらびやかな内装と程よい広さがある空間。

しかし人々の顔色は悪く、切羽詰まっている。

突然の劇的な変化に、クランクの脳は対応できない。

しばらくその場に立ち尽くし、理性という糸と直勘という針で記憶と現状を繋ぎ合わせる。

 

イサリビで子供達を寝かしつけた後、いくつか残った仕事を片付けるのと、三日月の容態を確認しようと通路を歩いていた。

突如まばゆい光に呑み込まれ、あらゆる感覚が塗り潰されるような現象の後、自分はここにいる。

何がおきたのかさっぱり分からない。

 

ふと壁を見れば、見慣れたマークが立て掛けられているではないか。

 

ギャラルホルン。そしてその横には『ドルト』のシンボルマーク。

ここはドルトコロニーにあるギャラルホルンの支部か。

 

「むぅ……何故、俺はこんな所に……」

 

夢でも見ているのか。

人々はクランクの姿が目に入っていないかのように、横を通りすぎていく。まるで幽霊になったようだ。彼に構う余裕すらないのだろうか。

そんなクランクに、背後から声をかける人物がいた。

 

「クランク……?お前、クランクか!?」

 

その声に敏感に反応する。

 

「む!?この声……リールか?」

 

「クランク!やっぱりクランクじゃないか!どうしたオイこんな所で!?」

 

クランクに話しかけてきたのは、彼に負けず劣らず体格のいい、短い茶髪の男。

鼻が高いハンサムな顔つきで、その笑顔は眩しい。

ギャラルホルンの制服を着ており、その肩には勲章のメダルが光る。

 

リール・ヒロポン。クランクとはギャラルホルン入隊の同期であり、旧友である。

 

「お前は火星支部にいるはずだろ!?なんだ?今日は休みか!?」

 

親しげに肩をポンポンと叩く。

クランクは困惑しながらも、相手の肩を叩き返す。

 

「いや、なんというかだな……うまく説明できんのだが……」

 

「はあ?説明できないってなんだよ?ヤバイ仕事でもやってんのか?」

 

「いや、そういう事じゃない。それより、ここがドルトコロニーのどの辺りなのか分かるか……?」

 

遠回しに聞いてみた。ここがドルトコロニーだという保証もないが、馬鹿正直に「光に包まれて気がついたらここにいた」など言えば、薬物中毒者がほざいた妄言だと思われる。

たとえ親友であろうとも。

 

「ちょっと来い」

 

リールはクランクの肩を掴み、ずんずんと奥の通路を進んでいく。

クランクは訳も分からず、彼に引きずられていった。

 

やがて人気のない倉庫に辿り着き、ようやく解放される。

 

「お前の知ってる事を全部話せ」

 

「な、なに……?」

 

先程までの笑顔はない。険しい表情で尋問するように迫ってきた。

 

「今ここはなぁ、関係ねぇ奴がホイホイ入れるような警戒体制じゃねえんだよ。たとえギャラルホルンの兵士だろうとな」

 

たしかにロビーの慌ただしさを見れば、何事かが起こっていると分かる。

 

「外部から来る人間を全て把握してる。密入なんて不可能だ。なら元々ドルトに居たのか?いやそんなはずはねえよな。お前は火星支部にいるはずなんだから」

 

誤魔化すのは無理か。

クランクは迷っていた。包み隠さず全てを話すか、なんとしても友を振り切るか。

 

「少しでも異常があれば調べる。とことん調べて記録して情報共有する。それが俺の任務だ」

 

火星という僻地に飛ばされた自分とは違う。

リール・ヒロポンはアリアンロッド艦隊所属の諜報員だ。

アリアンロッド艦隊司令、ラスタル・エリオンの手駒という事。

彼の任務とはつまり、ラスタルから受けた任務なのだろう。

 

「アリアンロッドと鉄華団が接触する。それまでに「蟲」がアクションを起こす。それを事細かく調べる。そのためにここの住人を犠牲にしてもだ」

 

聞き捨てならない事を言った。

住民を犠牲にしてでも?それはつまり、危険と分かっていて敢えて見逃すというのか?

 

言葉を出そうとしたクランクを、さらに言葉をかけて制するリール。

 

「俺達は見えない敵と戦ってるんだ!そいつらの情報が何より欲しい!答えろ!!何故お前がここにいる!普通じゃない方法なのは確かだ!それが俺達の探す「蟲」の正体に繋がるかもしれないんだ!!」

 

リールの気迫、決意、覚悟。

彼もまた、暗闇の中で手探り状態で戦っているのだと分かり、クランクは折れた。

どこまで信じてもらえるかは分からない。気が狂ったとか、煙に巻こうとしていると思われるかもしれない。

クランクはありのままを伝えた。

それがリールへの誠意だと思ったから。

先程起こった転送の事。アグニカ・カイエルの存在について。火星で彼と出会ってからの全てを。

それらを驚愕の表情で聞き続けるリール。

 

「アグニカ……だと!?あの伝説の!?同名を騙っているだけなんじゃ……」

 

「少なくとも無関係ではないと思う。俺は彼を本物だと信じている。それに……バエルが、バエルゼロズがある」

 

「バエル……ゼロズ」

 

アグニカの搭乗するバエルは、ゼロズの名が付け加えられている。

リールは口を手で押さえて考えこむ。

 

「アグニカの真偽がどうあれ、重要なのはその目的だ。これからアグニカが何をするのか?「蟲」と敵対するのか?それとも味方なのか?我々に対してどういった干渉をしてくるのか?」

 

「だが……」

 

アグニカは化物だが悪い奴じゃない。

アリアンロッドが戦う「見えない敵」にだって、決定打となり得るかもしれない。

 

「ラスタル様とアグニカ・カイエルが手を組めば……「蟲」にだって勝てるかもしれない!」

 

リールは持ち前のポジティブ思考で結論付けた。

今まで悪い状況ばかり予想してきた中で、「蟲」を倒せるかもしれない存在が出てきたのは明るい情報だ。

 

「彼が世界に救う希望に!蟲を炙り出す炎となる事を期待しよう!」

 

そう言い切ると同時に、遠くで爆音と銃声が鳴り響いた。

労働者達による暴動。

 

「なんだ!?」

 

クランクは動揺する。

これはある程度予測できていた事なので、リールの反応は落ち着いたものだった。

 

「始まったな……」

 

その時、クランクの首につけたチョーカーが、機械的な音を鳴らす。

クランクは急いで首もとのスイッチを入れた。チョーカーに内蔵された音声通話機能から、アグニカの声が聞こえる。

 

「アグニカ!俺はどうすればいい!?」

 

「は!?アグニカだと!?ちょ、ちょっと代われ!話をさせろ!!」

 

リールと揉み合いになりながら、アグニカからの端的なメッセージを聞く。

やがてクランクは決意を込めた眼差しになる。

 

「クーデリアが……ここに」

 

「はあ!?クーデリア!?あのクーデリア・藍那・バーンスタ……おいちょって待て!!」

 

「すまんが急用だ」

 

クランクは倉庫を出て、通路を走り出す。

リールは全力でそれに追い付き、肩を掴む。

振り返ったクランクの気迫に一瞬怯むも、なんとか友のためにできる事を探す。

 

「防弾チョッキは着てんのか!?」

 

「いや、着てない」

 

「外は銃撃戦だぞ!生身じゃ犬死にするだけだ!あと拳銃くらい持っていけ!!」

 

本来なら第一種重要人物であるクランク・ゼントを手放す訳にはいかない。しかし、ここで誰かを助けるために走り出す彼こそ、自分の思い描いたギャラルホルンの兵士のあるべき姿のように思う。

 

「避難経路は!?潜伏場所は!?脱出手段はあんのか!?」

 

「ない!!」

 

「馬鹿野郎が!!」

 

正義感だけが先走る、不器用で向こう見ずな男。やはり彼は自分の知るクランク・ゼントという男だ。

 

「俺が救出部隊を手配する!あの革命の乙女となればラスタル様も動くはずだ!」

 

「リール……すまん、恩に着る」

 

「とにかく武器とチョッキだ!武器庫に行くぞ!」

 

 

クランクとリールは狭い通路を押し合うように走っていった。

どこか若い頃の懐かしさを覚えた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

ドルトコロニーを目視で捕捉可能な宙域に、ボードウィン家専用艦・スレイプニルが待機していた。

ブリッジには青紫色の髪をした青年が、忌避感を隠そうともしない忌々しげな表情をしていた。

通信モニターには、地球圏全域に垂れ流されているリアルタイムな映像が映っていた。

 

ドルトコロニー内における、労働者達の武装蜂起。一般人への無差別テロ、残虐行為。ギャラルホルンとの戦闘、無人兵器による虐殺、壊走。無秩序な血溜まりと爆炎の地獄が映されていた。

 

「クソっ!!何なんだこの醜悪な映像は!吐きそうだ!!」

 

ガエリオ・ボードウィンは義憤に駈られ、苛立たしげに足踏みした。

 

スレイプニル艦長である、腹の出た威厳のある男がたしなめる。

 

「そう乱暴な言葉は抑えた方がよろしいかと」

 

「貴様はあれを見て何とも思わないのか!?」

 

ガエリオが牙を見せて突っ掛かる。

父親もそうだが、正義感が非常に強く、武装テロなどという手合いは一番許せない相手だろう。

 

「世界の秩序を守るギャラルホルンの一員として、憂慮すべきだとは思いますが……」

 

「憂慮!?愁えうだけか!?奴らを止めろ!!武力を以て武力を制すのがギャラルホルンだろう!!今動かないでいつ動くんだ馬鹿野郎!!」

 

「しかし今回は統制局に指揮権があります。不満分子の大規模鎮圧作戦。担当区域としてもアリアンロッド艦隊の職域で……」

 

「地球圏を守る精鋭部隊様が聞いて呆れる!!もういい!エリオン公に繋げ!俺が直接話を……」

 

その時、映像に変化があった。さながら戦場と化した大通りの真ん中で、労働者達のリーダーとおぼしき人物が拳を振り上げる。

 

『我々は正義と自由の名の元に、歪んだ世界を正すべく立ち上がった者である!!』

 

「あぁ……!?」

 

ガエリオは耳を疑った。正義と自由のため?虐殺と破壊でしか意思を表せないテロリストどもが、何を大業なことを。

不快な宣誓は続く。

 

『我々の目的は単純明快!!邪悪な簒奪者達を引きずり下ろし!!腐敗した世界の改変!!そして!全ての労働者達の解放を望んでいます!!』

 

まるで革命伝説の一場面のようだ。虐げられてきた弱者達が、勇気と知恵を振り絞り、正義の名のもとに団結する。醜悪な支配者達の打倒。腐敗した世界を作り直す。

ガエリオだって考えなかった訳じゃない。

自分ならできると思う事もあった。

だが、断じてこのような方法で成し遂げるものではない。

奴等の掲げる革命のスローガンは、この惨状と繋がるものではない。異常なだけだ。

 

人が不気味と感じるものには種類があるが、中でも生理的嫌悪感を与えられるのは、異なる系統の生物の「合成による怪物」である。

顔面は鳥、四肢は獣、皮膚は魚、尾は蛇。獣にして獣にあらず、魚にして魚にあらず、人にして人にあらず。鳥獣虫魚の特色をすべて兼ね揃えている化物こそ、人が最も忌避する悪魔そのものなのである。

 

正義と悪、愛と憎悪が組み合わされた画面上の男は、正常な神経の人間からすれば、異形の怪物だ。

 

火星で見た、自身の背中に異物を埋め込んだ少年を見た時よりも、強烈で決定的な拒絶反応が沸き起こる。

ガエリオはせり上がる吐瀉物を喉元で押さえるのが精一杯だった。

 

その醜悪な画面の端に、可憐な金髪の少女が居た。労働者達とは根本的に雰囲気が違う。その表情は困惑しており、左右を労働者達に固められ、無理矢理画面上に立たされている印象だ。ガエリオはその顔に見覚えがある。

 

「あの女……クーデなんちゃらじゃないか?」

 

「クーデリア・藍那・バーンスタインでしょうか?」

 

「そう、それだ」

 

火星独立運動の旗頭。彼女の身柄を押さえるために、火星軌道上で『鉄華団』なる集団と戦った。そこで愛機を失うという苦い記憶もあり、彼女の名前も半ば忘れていた。

 

何故こんな所にいる……?そこで何をしている?何が目的だ……?

 

『我々はあなた方『支配者』達を交渉のテーブルにつかせる気など更々ありません!最早対話など不可能!!故に!!あなた方にはまず知って欲しい!!我々の怒りを!!我々の痛みを!!我々の本気というものを!!』

 

映像が映り変わる。

 

コロニーの外壁を宇宙から撮った映像のようだ。縦長のドルトコロニーの後部には、大型のバーニアが取り付けられていた。

 

宇宙戦艦に装備されるような推進器。これならコロニーですら動かせるだろう。

 

『全ドルトコロニーを!!地球に向けて発進させます!!』

 

「なっ……なあ!!?」

 

ガエリオは口をあんぐりと開く。

地球に向けて発進!?そんな事をして何になる!?一体、何をしようと……

 

『地球にお住まいの皆さん!!今から我々は!『コロニー落とし』を実行いたします!!』

 

「コロニー……落とし……だと?」

 

汗が頬を伝う。あれほどの質量の建造物を、大気圏突破も可能な細工をして、地球に落とすだと?

それで一体何になる!?なんの意味がある!?どんな得がある!?

先程の正義と自由という言葉と、どう繋がるというんだ!!

 

「狂ってるのか!!貴様らあ!!!」

 

ガエリオは吼える。あまりの声に、ブリッジに居た者全員がビクリと肩を震わせる。

 

『地球に『赤い雨』が降る!!この出来事はいずれ『赤い雨革命』と呼ばれ!労働者達の記憶に刻まれる事となるでしょう!!』

 

駄目だ。こんなのは駄目だ。

何が駄目かなんて、一言では表せない。上手く言えない。けれども……

 

「こんな非道は!!許しておけない!!!」

 

ガエリオの『正義』が燃え上がった。その瞳には青紫の炎が爛々と輝く。

 

画面が変わり、金髪の青年の顔が映る。

ガエリオの親友である、マクギリス・ファリドだ。

彼は微笑こそ普段と変わらないが、その瞳はギラギラと輝いている。

 

『ドルトコロニーで大規模な戦闘が予想される。ガエリオ、すぐに出撃準備をしてくれ』

 

「マクギリス!出るんだな!?」

 

『ああ、『俺』も出撃する。アリアンロッド第三艦隊と連携していくぞ』

 

「連携……。ふん!」

 

ガエリオとマクギリスは現在、地球外縁軌道統制統合艦隊に追加戦力として所属している。

つまりはカルタ・イシューの指揮下にある。

この配置は事前にラスタル・エリオンから直々に要請されたものだ。

 

「統制局のやり方には賛同できないが……あんなものを地球に落とす訳にはいかない。俺も『キマリス』で出る!」

 

ボードウィン家始祖が搭乗していた機体。これで己の正義を貫き通す。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

ボードウィン家所有戦力の中でも選りすぐりの部隊を、現当主であるガルス・ボードウィンから借り受けている。

 

『ジークフリート』と呼ばれる部隊で、歴戦の猛者が揃う少数精鋭のモビルスーツパイロット達。

その部隊の隊長の名はシグルズ。

銀色の髪と髭を蓄えた厳しい眼光の男。

代々ボードウィン家に遣えてきた家系の者であり、ガルスが当主になる前から彼を護衛している。

それ故にガルスからの信頼は厚く、彼から今回の作戦の最大目標、『蟲』の撃滅を命じられている。

 

彼の機体はグレイズを改修した『グラニ・グレイズ』という特殊な機体である。

300年前の厄祭戦時、ボードウィン家の始祖と共に戦ったモビルスーツには、『グラーネ』と呼ばれる推進力補助兵装が常備されていた。

これによって速度と機動性をアップグレードさせ、並みのモビルスーツとは比べ物にならない代物になる。

そうでもしなければガンダム・キマリスに置いていかれるからだ。

モビルスーツのバックパックに装備する兵装で、後部に巨大なバーニアが2門、その間に小さなバーニアが4門、左右に2門ずつ配置されており、スラスター用水素貯蔵量も段違いだ。

現存するグラーネで実戦投入可能なのは一機のみで、それをグレイズの規格に合うよう再設計し、完全な接続を果たしたのが、シグルズのグラニ・グレイズという訳だ。

その灰色の機体は、スレイプニルの血を引く早馬の名に恥じぬ性能を持っている。

 

グラニ・グレイズの他に、シュヴァルベ・グレイズが三機。この四機が一つの隊列となり、ガエリオのキマリスをサポートする。その後方支援にグレイズが六機という大盤振る舞いだ。

 

「ぼっちゃまのお守りにしては、少し大袈裟な気もしますなぁ」

 

シグルズが軽口を叩く。ガエリオは少し斜に構えた所があり、他者からの煽りにすぐ熱くなる。そこら辺を鍛えてやろうと思っての発言だったが、ガエリオからの返事はない。モニターに映った彼の表情は、戦場に赴く一人の戦士だった。

正義の炎を灯した瞳は、普段の軽薄さも幼さも感じさせない。

シグルズはフッと笑う。

 

(そんな顔もできるようになったんですなぁ……)

 

部隊は全員宇宙に出ている。あとはキマリスが出れば、そこから全員が発進する。

 

「ガエリオ・ボードウィン!ガンダム・キマリス!出るぞ!!」

 

スレイプニルの高速射出器から勢いよく飛び出し、ガンダム・キマリスが真空を切り裂いて飛ぶ。

それにジークフリートの面々も続く。

複数の青い線を引き、戦士達が戦場へ向かう。

その光景はさながら厄祭戦の一場面のようであった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

アリアンロッド第三艦隊はドルトコロニーを後方から追撃する。

あの巨大な構造物だ。速度はそれほどでもない。地球に向かって動いているという点だけが脅威なのであって、移動するコロニーの追跡自体は容易い。

 

偵察に向かわせた先見隊の通信が途絶。

未曾有のテロに対し、アリアンロッド第三艦隊は戦力を集結させてから追撃を実行した。

 

ドルトコロニーは6つあり、そのうちクーデリアがいるドルト2を先頭に、残りの5つのコロニーが後方で円陣を組むように固まって進んでいる。

後方の攻撃からドルト2の巨大バーニアを守る陣形のようだ。

たとえダインスレイヴのような遠距離狙撃兵器の攻撃を受けても、5つのコロニーが盾になる。

 

第三艦隊の戦力としてはハーフビーク級戦艦4隻、ミサイル艦7隻、補給船10隻、観測艦五隻。

モビルスーツ輸送艦に主力モビルスーツ・グレイズが48機。

MS大隊を一隊6機編成で中隊8隊に分け、それぞれ艦隊からの砲撃、ミサイル射撃による砲火支援を受ける。

特に第三艦隊の名物である、雨のように放たれるミサイル攻撃の破壊力は圧巻だ。

細かな争いが絶えない圏外圏との狭間で、このミサイル攻撃の大爆発は無法者達を震え上がらせた。

砲撃と違い、爆発の光と熱、その後に残る焼き爛れた残骸は視覚的分かりやすさがある。

角笛に楯突いた愚か者の末路。

武力を以て武力を制す、ギャラルホルンの威光を存分に示す艦隊と言える。

 

「地球への到達時間は?」

 

第三艦隊艦長サイファは静かに問う。

 

「現在の速度のまま進行すると仮定して……およそ六時間です!」

 

六時間。

仮にアリアンロッド艦隊の全艦隊、イオク率いる第二艦隊を除く全戦力を召集するとなれば、三日はかかるであろう。

ここから一番近いアバランチコロニーを警備している第一艦隊ならば四時間ほどで合流できるが、遅い。

この状況は第三艦隊だけで対処せねばならない。

 

とはいえ、コロニーの加速を止めたいのであれば、先ずは巨大バーニアを破壊すればいい。

ただの居住区であるドルトコロニーを地球を脅かす質量兵器に仕立てあげているのも、コロニー後方のバーニアなのだから。

 

「下見だ。小型誘導弾でバーニアを狙い撃て」

 

サイファは攻撃命令を出す。

ミサイルの種類も豊富に取り揃えた第三艦隊。

威力よりも命中精度に力を入れた小型誘導弾でバーニアを狙い撃つ。

放たれた五発の小型誘導弾。

 

この『赤い雨革命』とやらがただの労働者達による暴動なら、この五発だけでカタがつく。

しかし、その背後に『蟲』が潜んでいるとしたら。

 

何かしてくる。

その『何か』を見たい。知りたい。奪いたい。

アリアンロッド艦隊は、ラスタル・エリオンは、その『何か』を暴かなければならないのだ。

 

非常に時間が長く感じる。じりじりと胸を焼く感覚。

来るか、来ないのか。

小型誘導弾がバーニアに接近したその時、それは起こった。

 

宇宙空間がぐにゃりと歪んだ。

まるでブラックホールでも発生したかのように、異質な空間が開き、そこから何かが出てきた。

 

腕だ。巨大な腕。モビルスーツの腕。

だがグレイズに比べて一回りは大きい。

その巨大な腕にはこれまた巨大な重火器が握られており、その砲身から放たれた弾丸は小型誘導弾を撃ち抜く。

爆炎に照らされ、異空間から現れた機体の全貌が見える。

 

特殊な縦長のカメラアイや胴体の基本骨格はグレイズ・フレームのもの。

しかし手足が胴体を忘れて成長したかのように歪に巨大化しており、非常にアンバランスな全体像は見る者に威圧感を与える。

黒く禍々しい装甲に身を包み、コロニーのバーニアの燃焼炎に青く照らされる姿は、異界から紛れ込んだ魔人を連想させる。

 

その巨躯は小型戦艦にも匹敵するような大きさの追加武装にすっぽりと填まりこんでおり、まるで固定砲台だ。

 

戦艦に搭載するような主砲を二門背負い、両腕には巨大なガトリング砲を持っている。

背負った主砲やガトリング砲はコンテナのような弾薬庫に繋がっており、よく見ればミサイル発射口すらある。

火薬庫に埋め込まれたモビルスーツ。

滅茶苦茶だ。あんなもの、ちょっとした被弾で引火して暴発する。

 

あれはモビルスーツとは言えない。

もはやモビルアーマー。歪な天使だ。

 

そんな巨大で武骨なグレイズが、11体。続々と空間を歪ませて現れ、ドルトコロニーを守るように陣取る。

 

瞬間移動。転送装置。

そんな空想上の技術だと考えられてきたものが、目の前ではっきりと見せつけられた。これは認めるしかない。

 

『蟲』のテクノロジーは、アリアンロッドの想定を遥かに越えている。

 

「ドルトコロニーは捨てる」

 

およそ三百万人の人命を投げ捨てる。

サイファ艦長ははっきりと断言した。

最早コロニー内の人命救助や、地球圏への信用問題などという些末事に気を配る余裕は無い。

これは『蟲』による本気の破壊活動だ。虐殺行為だ。

生半可な覚悟では止められない。

 

世界秩序を取り戻すためなら、人命を軽く切り捨てるのがギャラルホルンだ。

 

「敵機を『デモン・グレイズ』と仮称する!

今の現象を敵の最新鋭の技術、物質転送装置によるものと仮定!

観測班はどんな些細な情報も見逃すな!光、音波、原子レベルでありとあらゆる情報を収集せよ!技術班はそれを元に考えられる可能性をあげていけ!通信班!今の映像は保存したな!?他の艦隊への情報送信、共有を怠るな!なんのために第五艦隊がアリアドネラインを警備していると思っている!そして戦闘班!これより我々は!奴等から少しでも多くの情報を奪い取る!!その最も確実な方法は鹵獲だ!敵兵器を撃破した後、その残骸を全て回収せよ!

我々の努力が!ラスタル様の勝利への足掛けとなる!!」

 

サイファ艦長は司令椅子から勢い良く立ち上がる。

 

「アリアンロッド第三艦隊総員に告げる!これより我々は、ギャラルホルンを……いや、世界を蝕む『蟲』との戦いを始める!!厄祭戦終結以来初めて、『蟲』と真っ向から撃ち合った部隊となる!

諸君!我々は地獄の戦火の先陣!歴史を振り返る誰もが、我々を基準にするだろう!人類全てが我々を見る!!衣を正せ!!覚悟を決めろ!!確固たる誇りと正義を示せ!!」

 

第三艦隊に所属する全ての人員、兵士、整備士から給仕係に至るまで全員が、殺し殺される覚悟を持った瞳になる。

 

「目標、ドルト1から6のバーニア!対艦用ミサイル全門……」

 

サイファ艦長は大きく息を吸い込み、

 

「撃てぇっ!!」

 

怒号と共に命じた。

その瞬間、総数800発のも対艦ミサイルが一斉に放たれた。

燃焼煙を出しながら進むミサイルは視界を覆うほどで、まるで海を泳ぐ魚の群れだ。

 

デモン・グレイズ11機による迎撃。

両腕のガトリング砲、迎撃ミサイルの一斉砲火は火山の噴火のような凄まじさで、火薬の燃焼炎や熱された鉄の赤が宇宙に輝く。

 

大量に打ち出された弾丸は無作為にばらまかれた訳ではなく、的確にミサイルに命中し爆散させ撃墜する。

通常のパイロットならばこれ程の火器、認識能力が追い付かない。使いこなせないのだ。

それが一体のモビルスーツに重火器を持たせすぎない理由なのだが、デモン・グレイズに常識は通用しない。

 

ミサイルが全て撃墜され、爆炎が一面に広がる。

それを見たサイファ艦長は苦々しげに呟いた。

 

「阿頼耶識か……」

 

人間とモビルスーツの一体化。

脳へのダメージを厭わない極限まで高められた認識能力。それでミサイル一発一発まで捕捉し、的確に撃ち抜いてきた。

 

「第二射用意!これより本艦隊はデモン・グレイズ部隊との火力戦に入る!モビルスーツ部隊を出撃させろ!一番から四番隊は右側!五番から八番隊は左から回り込んで敵を包囲射撃!隙があればバーニアを攻撃だ!」

 

グレイズが次々と出撃する。

敵側からすれば物凄い数に見えるはずだ。

だがデモン・グレイズ達に動揺した気配はない。どこか機械的な不気味さを感じる。

 

そのデモン・グレイズの背後でまた空間が歪んだ。

今度はデモン・グレイズよりもはるかに大きい岩の塊、デブリが現れる。

これをバーニアの盾とするつもりらしい。

 

サイファ艦隊は舌打ちする。

 

(次から次へと……)

 

今回の警戒体勢の目的は、『蟲』が引き起こす争乱に備えること。

その技術を奪うこと。

アリアンロッド第三艦隊は、ドルトコロニーともう一つのコロニー群の警備を担当している。

もう一つのコロニーはドルトコロニーよりも地球に遠く、二つのコロニー群の中間地点に艦隊を配置していた。

その二つのコロニー群両方で武装蜂起が起こったとしても、十分な戦力を回せる編成で来ている。

例えばドルトコロニーなどは作業用モビルスーツが十機ほどあるだけで、グレイズ20機と戦艦二隻を派遣すれば戦力差は優勢。鎮圧は可能である。

勝ちは揺るがない。

 

今の第三艦隊は充分「勝てる」編成で来ている。

相手が未知のテクノロジーを使おうと負けるつもりはない。そういう準備を万全に済ませて戦闘に望んでいる。

 

しかし、そんな従来の法則を無視して、好き勝手に戦力を投入する技術が現れてしまった。

転送装置。モビルスーツを瞬時に!肝要となる場所に!的確なタイミングで投入できる!!

 

(地形条件に応じて陣形の編成に頭を悩ます事もない。陣形の程度に応じて物資を運ぶ補給線の構築に労力を割かなくてもいい。必要な戦力が決まった後、人員と兵器のケアと到着までの防衛プランなど全く不要、ルート偽装や作戦の漏洩対策も時差がないからほぼ不要。それだけ用意して初めて敵との優劣が分かるというのに、これさえあれば適時戦力投入して戦況を好きに変えられる……「後出し」がいくらでも効く……)

 

部下の手前で無ければ、大声で叫んでいただろう。

 

 

ずるい!!!!!!!!

 

 

(ずっこいずっこいずっこいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいぃいいぃいぃいいいいぃいいいいいぃいいぃいぃいっ!!)

 

ジタバタと暴れまわるもう一人の自分。

 

「か、艦隊!コロニー側面より新たな未確認物体多数出現!」

 

「倍率を最大!主モニターに回せ!」

 

現実の自分は冷静に指示を出す。

モニターに映された「それ」は、モビルスーツと同じほどの大きさで、前面にドリルのような足、後方に推進器とおぼしき装備を積んだもので、悪趣味なモビルワーカーに見えなくもない。眼球のような赤い単眼レンズが不気味に光る。

数は百や二百では利かない。

 

「プルーマ……」

 

厄祭戦の忌まわしき記憶。

虐殺の天使の散らばる羽の如く、無数に沸いて出てはモビルアーマーを援護した無人機だ。

 

世界秩序を守る戦力であるグレイズと、凄惨な過去の遺物を組み合わせて襲い掛かる。

『蟲』の悪辣な趣向、こちらの神経を逆撫でするような計らいにヘドが出そうだ。

 

「プルーマの群れが両翼に展開!数は400……450……依然増加中!」

 

プルーマは推進機によって宇宙を泳ぐように進む。

プルーマの軍勢は真っ直ぐ艦隊に突っ込んでくるのではなく、コロニーが大口を開けたように左右に分かれ、こちらを大きく包囲するように回り込んでくる。

 

アリアンロッド艦隊とデモン・グレイズ部隊が、この戦況のキモである『火力の優勢』を奪いあって激戦を繰り広げているときに、機動部隊がその射程内にノコノコ入るのは愚の骨頂だ。

ナノラミネートアーマーで防護されたモビルスーツですら避けるのに、プルーマが避けないはずはない。

逆に言えば、こういう状況下でこそ真っ直ぐ突っ込んで敵陣を切り崩す『強襲装甲艦』の有用性が発揮されるのだが、第三艦隊に強襲装甲艦はない。

 

「モビルスーツ部隊はプルーマを殲滅しつつ後退せよ!各隊で援護して付け入る隙を与えるな!」

 

グレイズ部隊はアサルトライフルで射撃し応戦する。

その中でも各隊に一体配置されている、重装備型グレイズが前に出る。

アサルトライフルよりも長く武骨な銃身、分隊支援火器の多量の弾丸による連続射撃が火を噴くように放たれる。

大量の敵を撃ち、後退しながら適時配置を整えるために時間稼ぎと、敵に対する牽制が必要な状況では、分隊支援火器持ちとして存分に働ける場面であり、面目躍如である。

 

次々と撃ち落とされるプルーマ。しかし機械仕掛けの兵隊に恐怖の感情はない。

だから止まらない。

味方の残骸を掻き分けて進む。

 

圧倒的戦力を持つアリアンロッド艦隊ではあるが、全く情報のない敵との戦闘は危険極まる。対応出来なければ各個撃破され、徐々に戦力を削られる。それは避けなければならない。

故に、第三艦隊の主目的は敵戦力の把握と足止めに切り替わった。威力偵察の意味合いが強い。

こちらの被害は軽微に抑えつつ、敵に手札を晒させ、出来るだけ戦力を削る。

ラスタル・エリオンの乗る旗艦がある第一艦隊には、長距離狙撃兵器ダインスレイブ隊が配備されている。

いかに物質転送装置とはいえ、閃光の如き一撃でバーニアを破壊されれば対処しきれまい。

 

順調にプルーマの撃破と後退を続けるグレイズ部隊。

アリアンロッド艦隊の右翼で戦っていた部隊に、一体のデモン・グレイズが近づいてくる。

アリアンロッドと火力戦を繰り広げている11体とは違う。新手だ。

歪な体躯はそのままに、装備は射撃武器を取り払った身軽なもので、両腕には巨大なバトルアックスを持っている。

そして何より目につくのは、背面に取り付けられたブースターで、それは黒い羽のように見える。

羽の先端には眼球のような謎の器官があり、二つの関節を持っていて大きく広げられる。

その不気味な翼が六本。

まさにデーモンと呼ぶに相応しい禍々しさがあった。

 

一番隊が即座に横に並び、タイミングをずらして射撃する。

一斉に一ヶ所を撃ったのでは、ワンアクションで避けられて全弾が無駄になる。それよりは相手の動きを見て対応するように撃つ方がいい。

数の利を活かした弾幕を張るが、常識では考えられない加速力で大きく飛び、あっという間に距離を詰めてくる。

モニターの外に消えた敵を探し、接近した姿を確認した時には遅い。機体を操作する暇もなく、一番隊のグレイズが一体、巨大なバトルアックスを肩口に叩きこまれ、そのまま袈裟懸けに斬り落とし、フレームごと真っ二つに斬り裂く。

 

即座に近接武器に切り換えたグレイズ二機による攻撃。

デモン・グレイズの極端に伸びた脚部による蹴りで弾き飛ばされる。リーチの差に加え、生身のような洗練された動き。しかしどこか生々しさと機械的な不協和音が奏でられ、見ていて気持ちがいいものではない。

足先には高速回転するドリルが突きだし、モビルスーツの装甲を削る。一気に二機のグレイズが戦闘不能に。

 

またもデモン・グレイズの姿が消える。

他のグレイズがフォローする暇がない。

銃口を向ける間もなく背後に回られ、巨大なバトルアックスを叩きこまれる。

 

分隊支援火器を持ったグレイズが零距離で射撃。相手は避けずに受けた。

全弾命中。勝利を確信したパイロットのモニターに、盾にされた仲間のグレイズの残骸が映る。

直後にドリルキックの直撃を喰らい、コクピットが破壊され沈黙する。

 

瞬く間に一番隊が全滅。グレイズ6体を抵抗らしい抵抗もさせずに破壊したデモン・グレイズは、その身体をメキメキと揺さぶり、大きな機械音で叫ぶ。

 

『クランク二尉ッ!!!』

 

この機体の名は『グレイズ・アイン』。

憎悪と暴力という親和性の高い二つが合わさった、人機一体の狂気の異物だ。

 

その光景を見たサイファ艦長は驚愕と共に叫んだ。

 

「一番隊が全滅!?あの一瞬でか!?」

 

悪魔じみた機動力と反応速度、生身のような動き方、対モビルスーツ用の兵装。

 

「敵のエース機だ!こいつとはまともに戦うな!」

 

この拮抗した状況を切り崩すために投入された爆薬。それがグレイズ・アイン。

安全圏まで下がりつつ射撃という、安全で堅実な闘い方をしていた第三艦隊のモビルスーツ部隊に、恐怖と混乱の荒波が押し寄せた。

 

『ああ……見えます。見えますとも!あの厳格なクランクさんの機体とは似ても似つかない!偽物の愚物がゾロゾロとォォォォォォォッ!!!』

 

改悪品であるグレイズ・アインにとって、正規品であるグレイズ・フレームは贋作に見えるようで、率先して攻撃している。

次のグレイズ・アインの標的は二番隊。

 

グレイズ・アインへの有効な対策は無い。

パイロット達は優秀ではあるがエース級と言える人物がおらず、決定打を持つ機体も装備もない。

プルーマへの攻撃を続けなければ物量で押し潰される。

このままでは全滅だ。

 

サイファ艦隊はギリリと歯噛みする。

 

(モビルスーツの性能の差が、戦力の決定的な差になってしまうのかっ……!)

 

その時、一瞬の閃光と共にグレイズ・アインの姿が消える。

凄まじい速度で近づいた「何か」に突き飛ばされたのだ。

 

高貴さを感じさせる紫と白の装甲に身を包む、中世の騎士を思わせる機体。

 

「援軍か!?ありがたい!」

 

ここでボードウィン家の戦力が戦線に参加。

側面から高速で飛来した『ガンダム・キマリス』による騎兵槍の一撃が、グレイズ・アインをはるか彼方まで吹き飛ばした。

 

咄嗟にアックスで防御するも、あまりの威力にアックスに亀裂が入る。

 

『グギギギギギギギギ……ッ!!』

 

忌々しげに歯軋りのような異音をたてる。

その横を青い軌跡を残しながら高速飛行するキマリス。

その乗り手であるガエリオはフンと鼻を鳴らす。

 

「『グレイズ・フレーム』…貴様らなぞには過ぎた代物だ。身の程を知れ!狂人ども!!」

 

労働者達の暴挙に手を貸し、あろうことかギャラルホルンの主力であるグレイズ・フレームを化け物にして乗り回す不届き者。

それを今から成敗してやる。

 

『ガ、ガガガガガ……ガンダムッッッ!!!』

 

アインの瞳が憎悪に燃える。

あの忌まわしき白い魔王の姿を重ねる。

 

『ガンダムッバエルゥゥゥ゛ゥゥゥゥ゛ゥゥ゛ゥゥ゛ゥウッッッ!!!』

 

「ちがぁう!!」

 

グレイズ・アインは二度目のグングニールの槍先から逃れる。アックスを振り抜きキマリスを切りつけるが、キマリスはその圧倒的な背部高機動ブースターの推進力と機動力で、はるか彼方まで飛んでいく。

そして美しい曲線を描いて再度グレイズ・アインを強襲。

アインは回避に全神経を集中した。

すれ違い様に切りつけようなどと欲を出せば、その動きを感知されて胴体を真っ二つにされると直感したからだ。

装甲すれすれをキマリスが通りすぎる。

アインも肩に搭載された機関銃で迎撃するも、キマリスのグングニールに内蔵された120mm砲2門による牽制射撃を受け、まともに妨害できない。

加速を乗せた刺突の直撃を受ける。

アックスで防御するも、大きな亀裂が入る。

 

「こいつはガンダム・キマリス……!!俺の名はガエリオ・ボードウィンだ!!」

 

ガエリオは高らかに名乗りをあげる。まるで己の誇りをかけて戦う中世の騎士だ。

しかしアインには聞き取り辛かったのか、

 

『ボドボド……?』

 

「貴様わざとか!?」

 

謎の間違い方をされる。

ガエリオの額に血管がボンッと浮かぶ。短気なのだ。

アインはガエリオの名前になど興味はないらしく、

 

『どうせすぐ消える名前だ……』

 

冷たく吐き捨てる。

リーチを活かしたドリルキックで右肩の大型フィンを破壊、機関銃でカメラアイを射撃。

 

「ぐぅうっ!」

 

ガエリオは呻き声をあげながらもグレイズ・アインから距離を取り、再度加速し必殺の速度まで駆け上がる。

 

 

『悪魔の機体に身を委ねるなど……正気の沙汰ではない!悪魔に魂を売った狂人に、救いの手など差し伸べられはしない!』

 

「狂人は貴様だぁ!!」

 

加速をつけてから再度突撃。

グレイズ・アインが回避しようとスラスターを吹かす。その回避運動を先読みして即座に軌道修正。最新鋭デバイスの成せる技である。

しかし槍の切っ先がアインを貫く事はなかった。

予想した回避運動とは全く異なる、軟体生物のような動きで槍を避けられた。

 

動きを読んでいたのはアインも同じだ。

いかにも軌道修正プログラムが反応しそうな動きで相手を誘った。

 

「フェイントか……っ!小癪な!!……ぐはっ!?」

 

プルーマ達が大挙してキマリスにぶつかる。

真っ直ぐ飛んでくると分かっていれば、近くのプルーマに指示を出すくらいはできる。キマリスに体当たりして、隙を作れと。

速度を殺されるほどではないが、衝突の衝撃がコクピットを揺らす。

 

仮に阿頼耶識があれば、アインのフェイントにもいち早く反応し、的確な軌道修正が出来ただろう。

その後に続くプルーマの群れにも即座に反応し、それを回避できたはずだ。

 

『自らがダインスレイブになる』とまで豪語した初代ボードウィン家当主は、まさに弾丸に意思が宿ったかのような戦い方をしていた。

とてつもない速度で、瞬時に判断を下す。

その情報処理速度と決断力、つまり直感があった。

しかし今のキマリスにはそれがない。

プログラムに頼る戦い方では、翻弄されるだけだ。

 

キマリスの肩をグレイズ・アインが掴む。

真っ直ぐ進むと分かっているのだから、攻撃を外した後の進路も予想できる。

そのつもりで初動を打てば追い付く事は可能だ。

 

キマリスの腕にアックスを叩き込む。

腕がへしゃげ、グングニールを手放してしまう。

さらに後ろから首を絞めるように組みつき、メインカメラがメキメキと音を立てる。

 

「ぐおおおおおおっ!ぐぅ!!くそおおおおおお!!」

 

グレイズ・アインを振り払おうと、滅茶苦茶に飛び回るキマリス。

自身にも容赦無く重力が振りかかり、呻きながらも正義を叫ぶ。

 

「貴様のっ……ようなっ!奴に!負ける訳にはっいかない!!」

 

負ける訳にはいかない。その言葉はアインの琴線に触れた。

 

「俺は貴様らが許せない!!」

 

ガエリオは怒りを吐き出す。

己の醜悪な目的のために、罪なき人々を虐殺したことが許せない。

 

『私はお前達が許せない!!』

 

アインは憎悪を吐き出す。

血塗られたガンダム・フレームに乗り、正義を貫こうとする自分を邪魔する存在が許せない。

 

グレイズ・アインがピクリと反応し、キマリスから離れる。

アインの頭部があった場所を、高速で何かが通りすぎていった。

キマリスはグングニールを拾い、体勢を立て直す。

アインを攻撃したのはシグルスの駆るグラニ・グレイズだ。

 

(避けた……凄まじい反応速度ですなぁ)

 

シグルスは歴戦の勘から、グレイズ・アインが常識の当てはまらない存在だと気付く。

グラニ・グレイズは両腕と一体化した巨大な刃を羽のように広げ、擦れ違い様に切り裂く戦法だ。

加速力を精密な刺突にのみ回すキマリスとは違い、大雑把で攻撃範囲の多い攻撃。

斬撃のラリアットとでも言うべきか。

 

「坊っちゃん!前に出過ぎですぞ!」

 

シグルスの制止も聞かず、キマリスとグレイズ・アインの激戦は続く。

高速でぶつかり合う一瞬一瞬にのみ言葉を交わす。

 

「何故あんな事をする!?虐殺と破壊がお前達の目的か!」

 

『貴様こそ何故邪魔をする!私は私の正義を証明したいだけだ!!』

 

「正義!?正義だと!?あの非道を正義と言うのか!?」

 

『悪を滅ぼし!清廉なる人道を示すのが』

 

「人道だと!?あの虐殺が人道なはずがない!!」

 

『ギャラルホルンの正義!!』

 

「貴様がギャラルホルンを語るなぁ!!」

 

セブンスターズの一席、将来はそこに座る者として、ギャラルホルンの正義を歪んだ形に変える者が許せない。

 

シュヴァルベ・グレイズ三機による高速斬撃。燕の名を持つ機体に相応しい、無駄のない洗練された動き。

三角形を描くように連続した攻撃。

これを黒い羽で防御するグレイズ・アイン。

羽が丸まった瞬間を狙ってキマリスが突撃。

バトルアックスとグングニールが火花を散らす。

 

『全てはバエルを殺すため!!』

 

「またバエルか!何故バエルを!」

 

火星軌道上にいたバエルもどきの事か。

それとも地球のバエル宮殿にある本物のバエルの事か。

 

『奴が……ッ!奴が私の全てを奪ったぁ!!』

 

「貴様の目的はなんだ!?何故バエルに固執する!?」

 

キマリスが一旦下がり、追撃しようと手を伸ばすアインをグラニ・グレイズの刃が妨害。

六本の羽にシュヴァルベ・グレイズがワイヤークローを巻き付ける。

 

『『復讐』!!私に残されたものは一つだけ……ッ!クランク二尉の仇をォッ!!』

 

「敵討ち……?復讐?そんなもののために!」

 

ガエリオには復讐という目的が理解できない。

考えた事もないし、復讐とはどうしても利己的なものという先入観がある。

 

『そんなものだと!?貴様ごときに何が分かる!!』

 

「他の事が何一つ見えていないじゃないか!」

 

ワイヤーで動きを封じられたアインに、ようやく追い付いた支援装備グレイズ六機による射撃が襲う。

全身を弾丸の雨に打たれるアイン。

火花が飛び散る血のように輝く。

だがアインの気迫は弱まるどころか強まっていった。

 

『私にはそれしか無い!!』

 

「目的のためにどれだけ犠牲を出してもいいと!?」

 

『バエルさえ殺せれば!!』

 

「そんなものは正義ではない!!」

 

『いいや!!違う!!私は正義だ!!』

 

物凄い出力でシュヴァルベ・グレイズ達を振り回し、バトルアックスでワイヤーをぶつ切りにする。

グラニ・グレイズが背後から刃を叩きつけ、アインはバランスを崩す。

そこにキマリスのグングニールが突っ込む。

羽を六枚重ねて盾とし、即死を防いだ。

お互い力任せに押し合う。

 

「貴様に正義など欠片もない!」

 

『お前は正義を理解していない!』

 

「ただの自己満足だ!!」

 

『正義を貫き通す気概もない口だけのクズが!!』

 

「妄執に取り憑かれた狂人が!!」

 

『弱者が何を言った所で!!』

 

「盗人が正義を語るなど!」

 

『塵屑と消えるだけだ!!』

 

「片腹痛いわ馬鹿野郎!!」

 

『軟弱者!!』

 

「偽善者!!」

 

アインがキマリスを弾き飛ばす。

そこに真上から直角にグラニ・グレイズが降りてきて、アインを真っ二つにしようとする。

恐るべき反応速度でグラニ・グレイズを回避し、続くシュヴァルベ・グレイズ三機の連続刺突をも避ける。

 

 

多くの人間を見て、彼らを苦しめるものを悪と断ずるガエリオ。

クランクの死だけを見て、バエルこそが悪と断ずるアイン。

 

『悪』を滅ぼす事こそが正義だと言う。

その正義を実行する過程も、目的も、そこに掛ける感情も、何もかも違う二人。

 

キマリスはアインの前で止まり、槍でアインを指す。

 

「貴様の目は節穴だ!!お前は現実を見ていない!都合のいい理想と妄想の色眼鏡だ!!」

 

『「現実が見えていない」だと!?その現実とは何を指す!?お前は何のために戦っている!?』

 

「ギャラルホルンが守るべき者達だ!!」

 

『人間か?社会か?時代か?規範か?

そんなものはあやふやで不確かだ!!』

 

「違う!!地球で平穏に暮らす人々の生活を……」

 

『自分の言葉の空虚さに気付いていないのか!?この道化は!!』

 

「なんだと!?」

 

『無菌培養の安置室から覗く世界は綺麗だったろう!』

 

「何を言ってる!?」

 

『この世のあらゆる悪と醜さを正義というスポンジで覆って誤魔化した張りぼての世界!!』

 

「ふざけてるのか!?」

 

『ああ、虚飾の原罪で肥太った家畜の匂い……この宇宙にすら漂い蔓延しているというのか!!』

 

「その馬鹿みたいなしゃべり方をやめろ!!」

 

アインの妙にハイテンションでポエミーな言い回しが癪に触るらしく、ガエリオは不快そうに怒鳴る。

曲がりなりにも自分達は『正義』について言葉をぶつけ合っていた。

そこに不要な言葉の飾り立ては耳障りなノイズにしかならない。

 

『見ず知らずの他人を守る自分に酔う!力に溺れる!』

 

「俺は曲がった事が嫌いなだけだ!!」

 

『空っぽだ!!実体がないんだ!貴様の正義は!!』

 

「いいや!確かに存在する!お前達のような歪んだ連中を倒す事こそ!!」

 

『だが私は違う!!』

 

「俺の正義だ!!」

 

『私の掲げる正義は愛と誇りに満ちたものだ!』

 

「誰も認めない!!」

 

『私の胸の内に息づく激情こそ証!クランク二尉!!私は貴方の意思を継ぐッ!!』

 

自己の正当化と、敵の全否定。

 

『貴様の言う正義こそ存在しないものだ!』

 

「復讐に正義などあるはずがない!!」

 

お互いの正義を否定し合う。

 

『そんな張りぼての正義感と常識で!』

 

「俺には誇りがある!!」

 

『私とクランク二尉の正義に口出ししようだなどと!!』

 

「自分のために世界を犠牲にするやり方は!」

 

『見当違いも甚だしい!!』

 

「絶対に間違っている!!」

 

『世間知らずのガキ!!』

 

「自己中心的な馬鹿ッ!!」

 

『これ以上の問答は無用……がらんどうに言葉を投げ掛けても滑り落ちてゆくだけ』

 

「確かに俺の語りかけは無意味だった!言葉は人の対話で使うもの!お前は人間ではない!!」

 

 

『人間ではない!!』

 

 

グレイズ・アインの動きがピタリと止まる。

泥池のような憎悪の水面に記憶のあぶくが浮かんでは弾け膨れては割れて

 

 

そ の 言 葉 は 火 星 で 散 々 言 わ れ て き ま し た……

 

 

『アア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アアア゛アアアアアア゛アアアア゛アアアアアアアアアアア゛゛アア゛アアア゛アア゛アア゛アア゛ア゛アアア゛アアアッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛!!!!!!!!!!!!!』

 

 

ガエリオは衝撃に脳みそを揺らされる。

グレイズ・アインの眼球から赤い稲妻が走ったかと思うと、キマリスに襲い掛かってきた。

先程までとは比べ物にならない速度。

咄嗟に防御行動を取ったのはガエリオの本能か、プログラムか。それともキマリスに宿った魂か。

大槍グングニールで『攻撃』を防いだ。

その瞬間グングニールがバキリと重い破砕音と共に砕けた。

 

 

あ り 得 な い !!

 

 

この槍がどれほど頑丈で精巧に作られていると思っている!?

どれだけ質のいいナノラミネートアーマーで防護されていると思っている!?

どれだけの鉄を研磨したと思っている!?

どれだけの資金と技術の粋の結晶と手間暇をかけたと思っている!?

どれだけの……『誇り』が込められていると!!!

 

あの厄祭戦ですら折れる事はなかった、ボードウィン家を象徴するような武器だぞ!!

初代ボードウィン卿から受け継いだ最強の武器が……

 

真ん中から真っ二つに破断された。

 

「があっっっはっ!!」

 

グレイズ・アインの六本の羽。

その羽が赤く光り、その光の打撃をぶつけられた結果だという事を、ガエリオは理解できなかった。

 

『お前は……お前だったのか!!』

 

アインはガンダム・フレームの中にいるパイロットの姿を見た。

 

『養成学校で私に石を投げた奴ら!!水をかけた奴ら!泥を塗った奴ら!!隠し盗み暴き晒し見下してきた奴ら!!』

 

地球人は純粋な地球の血筋しか認めていない。

母親が火星人のアインは紛い物、不純物として爪弾きにされていた。

アインを人ではないと蔑んできた者達が、キマリスの中にぎゅうぎゅうに詰め込まれている。

 

「がはっ……はぁ、はぁ……」

 

『母さんを売女と罵り辱しめた男ども!陰湿な囀ずりで母さんを苛ませた女ども!』

 

「な、何を言って……」

 

『お前か!!お前があの時の!!』

 

「何を……何を……」

 

壁に中傷衣服に泥飯に針水に小便電気は切られあわや火事殴られ笑われ石を投げられ窓は割れ……

 

『地球生まれがそんなに偉いか!!命を繋ぐ先で分岐点が違っただけで優劣が決まるのか!!

地球人にも!!火星人にも味方はいなかった!!父も母を手放すしかなかった!!母は心を病んだが俺にだけは』

 

「何を!!!」

 

『今度はモビルスーツに乗って!!俺を貶めに来たというのか!!』

 

「何を言っているんだ!!!」

 

『母さんはもういない!!!』

 

アインは戦慄した。

ガンダム・キマリスのコクピットの中には、かつて自分を見下し傷付けてきた数多の人間達の顔が寄り固まり、集合体と化している。

無数の表情。嘲笑、怒号、拒絶、無関心、憐れみ、愉悦……

醜い。醜悪な感情に歪んだ表情はとても醜い。

そんな人間の醜さが一個のセイブツとなり、あの悪魔の機体に乗り込んでいる。

アインを泥の中に引きずりこむために。

 

 

ガエリオは恐怖した。

あのグレイズのコクピットの中には、ガエリオの生きてきた世界とは別の法則が働いている。

そこでは時系列や人物の識別すら正常に働かない。記憶の混濁と果てしない憎悪の集合体と化している。

その瞳にはキマリスはどう映る。ガエリオはどう映っているのか?

こいつは一体、何を見ている?

想像もできない闇だ。狂気だ。

これはガエリオが人生で初めて触れた『歪み』であった。

 

アインは確信した。

ガンダム・フレームは狂っている。悪夢のような兵器だ。

正義の使徒であり代弁者の自分が滅ぼさねばなるまい。

 

ガエリオは確信した。

この世界は狂っている。悪意がたっぷりと詰め込まれた地獄のような世界だ。

自分が今まで生きてきた世界、見てきた世界は……偽物とまでは言わなくとも、ほんの一部だった。稀少で異例なものだったのだ。

 

「俺は……俺はガエリオ・ボードウィンだ!!」

 

それでもガエリオは叫ぶ。『自分』を叫ぶ。

先程のように世界よひれ伏せ我が名を聞けと歌うのではない。

聞いてくれ、見てくれと懇願するように。

誰か自分を肯定してくれと泣き叫ぶように。

あんな奴は間違っていると一緒に怒って欲しくて。

 

「それでも……!復讐などは理解できない!!」

 

『そうか……お前の血の『薄さ』はそこなんだな』

 

「薄さだと!?」

 

『お前は人を愛した事がない!!心から尊敬したことがないんだ!!』

 

「あ、ある……!俺には『友』と『家族』がっ!!」

 

自信を持って胸を張って言えるか?

力でも正義感でも論破できない相手に、月並みな事を言って太刀打ちできるか?

唯一の突破口である「戦う理由」も、あの狂信的な愛の前には無力なのでは……?

 

『お前を本当に見てくれているか?認めてくれたか?愛してくれたのか!!』

 

「ぐっ……!」

 

『馬鹿が!!』

 

叫ぶ事に呼吸を必要としないアインは、いくらでも呪詛と罵倒を吐ける。

それらを凝縮した一言だった。

 

『誰とも分かり合おうとしなかった結果だ!!』

 

「ち、違う!マクギリスは……!!」

 

最高の『友』であるマクギリスは、はたして自分を見てくれているのか?

 

自信を持って答える事ができない。

 

あれ、じゃあ、俺って………

 

誰かと本当に分かり合った事って、あったっけ?

 

『クランク二尉は違う!!あの人は、本当に俺を分かってくれていた!俺もあの人を分かっている!!』

 

心が繋がっている。硬い絆で結ばれている。血と血が混ざるように、お互いを分かり合っている!!

 

(クランク二尉!!クランク二尉!!クランク二尉!!クランクニイ!!クランクニイ!!クランクニイ!!クランクニイ!!クランクニイ!!クランクニイ!!)

 

アインはクランクとの思い出を振り返る。

火星支部で、差別と陰湿な扱いを受け、孤独に清掃作業をしていた頃。

その背中に声をかけてくれる人がいた。

クランク二尉。自分が最も尊敬する人物。

自分を一人の人間として扱ってくれた、唯一の人物。

手すりに腰掛け、温かいコーヒーを手渡してくれた。

彼がかけてくれた言葉は、今でも胸に刻まれてい。

隣に座るクランクが語りかけてくる。

 

「がべべっべ、ごばぼぼぼぼぼがぼぼっ」

 

血をドバドバと吐いていた。

腹部には大きな穴。鉄の塊が突き刺さったのだろうか。まるでコクピットが潰されて死んだパイロットのようだ。

頭部と心臓部には銃弾が撃ち込まれて赤い染みが広がっている。

目は赤く充血し、口からはまともな言葉は紡がれず、呪詛のようにドス黒い血を吐く。

 

「ぐるじぃ……」

 

苦しんでいる。クランク二尉が苦しんでいる!!

 

「だ……だずげでぐれ……ア゛イン゛」

 

助けを求めている!!クランクニイが!!助けを!!!

 

「俺の……仇を、取ってくれ……」

 

仇を討てと言っている!!!

バエルを殺せと言っている!!!

 

『あがががががががががががが!!!おがががががががががががががが!!!ごあああああああーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!』

 

グレイズ・アインはメキメキとフレームを揺らし、くるりと身を翻した。

 

ーーーーー助けてくれ……

 

『クランク二尉!!そこにいらっしゃるのですね!!!』

 

六本羽ユニットが分離し、まだ闘志を失っていないグラニ・グレイズに体当たり。

キマリスには目もくれず、グレイズ・アインが飛び立つ先はドルトコロニー。その荷物運搬口へ逆戻りしていった。

まるで何かに呼ばれたように。

 

 

「俺は……俺は……」

 

ガエリオは茫然自失で、グレイズ・アインが飛び去った方角を眺めていた。

人生の全否定、垣間見た異世界の狂気、巨悪が説く正義、自信の喪失、誇りの破砕、変わっていく友。

 

力でも正義でも勝てない相手がいる事に

友と本当に心を通わせた自信がない事に

ガエリオは心を砕かれてしまった。

 

ガンダム・キマリスは右腕と槍を失い、ボロボロになったまま宇宙に浮かんでいた。

 

ーーーーーーーーーー

 

ガンダム・アスモデウス・ベンジェンス

赤とオレンジ色を基調とした、竜の鱗を模した装甲が特徴的なモビルスーツ。

何よりも特徴的なのは、モビルスーツの頭部についたフェイスとは別に、両肩に狂暴な牛と羊を模した顔があることだ。

その手には巨大な戦槍と、角笛が描かれた旗を持っている。

 

折り返し構造の特殊装甲である鱗型アーマーは質のいいナノラミネートアーマーを使用しており、鱗一つ一つが硬質なため防御力が高い。

 

その背中には竜の胴体を思わせる巨大なバックパックが装備されており、そこから左右に三本ずつの太い腕が生えている。

元々の腕と併せて、八本の腕を持つことになる。

その追加された腕を動かすのは、両肩にある狂暴な牛と羊のバトルフェイスに搭載された自動迎撃プログラム。

本来ガンダム・アスモデウス・ベンジェンスはプログラムに頼らず、たった一人のパイロットによって八本腕を操るモビルスーツだった。

阿頼耶識によってアスモデウスと繋がった、初代ファリド家当主の人外レベルの処理能力によって、プログラム顔負けの繊細で大胆な動きを実現した。

 

その腕に持つ武器は分裂と合体を繰り返す特殊なギミック剣『シャミール』。

バエルソードと同じ特殊超硬合金を使用した、それぞれ形の違う八本の剣。

戦後では加工する事自体が難しく希少な合金をふんだんに使用し、特殊なブロック状に変形し構造を変えてしまう。

一本ずつなら普通サイズの剣だが、全て合体するとアスモデウスが両手でやっと持てるような大剣になる。

 

アスモデウスのリアスカートにはこれまた竜を彷彿とさせる、太くて長い尻尾『テイルハンマー』が装備されている。これは背後から襲う敵を叩き返す鈍器として使用する。

 

アスモデウス・ベンジェンスを乗せて戦場を飛翔するのは、竜の翼をイメージしたホバーボード『ドラゴンウィング』。

背中に腕を生やしたアスモデウスは大きなスラスターを装備できないため、上に乗るだけでスイスイ飛べるドラゴンウィングは都合がいいし、剣撃の邪魔にならない。

遠隔操作が可能で、底面はシールドとしても併用可能。

 

アスモデウス・ベンジェンスの得意とする戦場は『大乱闘』。

敵が大挙として襲い来る混沌とした戦場こそが生き甲斐であり、波のように押し寄せる敵陣に穴を開ける事こそがこの機体のコンセプトである。

 

頑丈な装甲による高い防御力、多腕による豪気な攻撃力、追加装備による高機動力。

現在ドルトコロニー後方で行われている戦闘こそ、アスモデウスが血沸き肉踊る戦場なのだ。

 

大量のプルーマによる突撃に苦しめられているアリアンロッド第三艦隊の救援にやってきたマクギリスは、そのプルーマの群れに単騎で飛び込んだ。

 

八本の剣と長槍による嵐のような攻撃で、一秒に10体の速さでプルーマ達を破壊していく。まさに蹂躙だ。

強力なグレイズに狙い撃ちにされるも、右半身の腕の剣をカーテンにして防御。テイルハンマーで薙ぎ払う。

 

殲滅型モビルアーマーの基本陣形は、一体のモビルアーマーに大量の子機プルーマが付いて回るというもの。

モビルスーツ側の対策としては、モビルアーマーとプルーマを分断し、その連携を断ち切る必要がある。

そのため大掛かりな準備をして罠を張ったり、大部隊を編成したり、ガンダム・フレームが単騎でモビルアーマーを抑えている間にプルーマを各個撃破するなど、多大な戦力を用意しなければならなかった。

 

しかし初代ファリド家当主の駆るガンダム・アスモデウス・ベンジェンスは単騎で突っ込む。

全方位から襲い来る子機を薙ぎ払いながら、本体のモビルアーマーとも充分渡り合えるほどの実力を持っていた。

つまり、小物の掃除をしながら大物を仕留める化物級の強さとスペックを持っており、たった一機で大部隊並みの働きができる機体なのだ。

 

『自らが艦隊クラスの戦力になる』と豪語した初代ファリド家当主

 

その暴れっぷりは悪魔の名を冠した機体に恥じぬものであり、その戦果は七星の一席に相応しいものであった。

 

 

大量のプルーマを単身で相手取るアスモデウス。

 

戦力的に厳しい状況では、単騎で強いガンダム・フレームは重宝する。

サイファ艦長は、改めてそれを実感した。

 

「マクギリス・ファリド、第三艦隊に加勢する」

 

「ありがたい……!」

 

楽しい。マクギリスは純粋にそう思った。

戦う力を持つ者にとって、この状況は最高に楽しい。

プルーマの残骸が鉄の川を成す真ん中で、マクギリスは唇を吊り上げた。

 

「ふはっ!」

 

プルーマの群れを掻き分け、デモン・グレイズの隊列に単機で突っ込んでいった。

容赦無い銃撃に晒される。

デブリ帯に高速で突っ込んだかのような衝撃。機体をゴツゴツと揺らす。

 

「ふはははははっ!!」

 

プルーマをテイルハンマーで牽制。一番端のデモン・グレイズに槍を投げつけ、それを撃ち落とす間にドラゴンウィングで加速。八本の剣を合体させる。

各パーツが複雑に絡み合い、巨大な一本の剣になる。これならモビルアーマーすら貫けそうだ。それを振り上げる。

 

接近されたデモン・グレイズがガトリング砲の零距離射撃でコクピットを狙うが、紙一重で機体をそらす。

一気に振り降ろした合体剣。

デモン・グレイズのフレームを装甲ごと真っ二つに切り裂き、オイルが鮮血のように舞う。

弾薬庫に亀裂が走り、暴発。

アスモデウスはドラゴンウィングで即座に退避。その瞬間にデモン・グレイズは大爆発を起こした。

 

11体いた巨大なグレイズのうち、一体はマクギリスが仕留めた。あと10体。

敵側のエース機はガエリオの部隊と戦闘後、コロニーに逃げ帰った。

プルーマは目測で半分ほどに数を減らしている。

コロニーには少し距離を離されてしまったが、まだまだ追い付ける距離だ。

 

「このままプルーマの数を減らす。デモン・グレイズは無理に相手をするな」

 

サイファ艦長はあくまで現状維持を選択。

相手の後だしが幾らでも効く以上、目の前の敵を殲滅してからでなければ次の行動はとれない。

 

(一つずつだ……)

 

再び第三艦隊のミサイル砲撃。轟音と光が宇宙を染める。

敵グレイズがミサイルを落とすとはいえ、物量で勝るのなら勝つのは時間の問題。

マクギリスも出しゃばるつもりは無い。

 

「この戦場の主役は、我々ではないのだからな」

 

この機体も部隊も戦場も、『主役』の活躍を最前列で見るためのお膳立てにすぎない。

 

ーーーーーーーーーー

 

憎き強烈なビームの光。

それに呑み込まれて目を閉じていたのも数秒。視界を覆うような色も音もなくなり、目を開いた先には。

 

町だ。一面にマンションが立ち並ぶ景色が広がる。

空はなく、コロニー特有の天井が見える。

ここはコロニーの町で一番高い建物、その屋上のようだ。

生暖かい風が頬を撫でる。

 

死と暴力の匂い。

血と炎の匂いが風に乗って運ばれてくる。

虐殺と戦乱だ。

 

アグニカ・カイエルはギリリと歯を食い縛る。

 

直後、屋上の床を思いっきり殴り付けた。

ドンッ、と爆発物のような音がして、床に蜘蛛の巣状の亀裂が走る。

床のアスファルトは全て剥がれ、高層ビル自体もミシミシと揺れた。

明らかに人間の腕力が出せる力ではない。

 

怒りのままに床を殴り付けたのではない。

自身が今体験した瞬間移動。

あれがビーム方式転送装置なら、目的地で人間を再物質化するための構築機があるはずだ。

どこかに隠されているとすれば床下だと思って殴り付けたが、このビル全体を探す必要も出てくる。

 

それよりも優先すべき事があると、アグニカは思い直す。

フミタンとクランクの魂を感知したのだ。

アグニカは人間の魂の居場所が手に取るように分かる。これは生まれつきの直感だ。

 

このコロニーに三日月、クーデリア、フミタン、クランクの魂を感知した。

自分の他にもこれだけのメンバーが飛ばされていたとは。

コロニー全体の人間の配置も、映像で見ているかのように分かる。

 

各地で塊となって暴れている人間、それに立ち向かう人間、散り散りになって逃げる人間。

 

暴徒、鎮圧部隊、民衆といった配役だろう。

その暴徒の真ん中に、クーデリアの魂もある。

 

「チッ……」

 

糞が、と吐き捨てたい気分だ。

何者が、どんな目的でこの五人を拐ったのかは分からないが、吐き気がするような嫌悪感だけは覚えがある。

 

モビルアーマー。

あの天使達を作った者達と同じ狂い方をしている。

 

アグニカは胸ポケットを探る。

あった、よかった。

クランクの首につけたチョーカー、その音声会話装置と繋がる発信器。

そのスイッチを押す。

 

「クランク!」

 

『アグニカ!?俺はどうすればいい!?』

 

「クーデリアが大通りの真ん中にいる!暴徒どもの中心だ!」

 

『クーデリアが……ここに……』

 

「宇宙港の方にフミタン、北の路地裏に三日月がいる。この二人は俺が回収する!お前はクーデリアを助け出せ!!」

 

端的に指示を出し、通話を切る。

この転送配置が仕組まれたものなら、クーデリアを暴徒の中心に置いたのも意図があるはず。

現にクーデリアはまだ殺されておらず、暴徒達が彼女の周りに寄っているのが分かる。

 

(クーデリアを利用する気か……?)

 

このコロニーの暴徒の首謀者にでも仕立て上げるつもりか。

まだなんとも言えないが、とにかく動くべきだ。

ビルから飛び降りようと手すりに手をかけたところで、背後から声をかけられた。

 

 

『同志よッ!!!』

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

白いローブに身を包む、聖職者のような見た目。

白い髪、白い肌、赤い瞳の、どこか人間離れした清らかさを持つ少年。

無垢な笑顔と、こちらを見透かすような深い瞳。

それはまるで『天使』のような少年だった。

 

その少年の顔面を、アグニカは思いっきり殴り付けた。

手すりの前から一歩で跳躍し距離を詰め、拳を少年に叩き込んだのだ。

 

少年の顔面はへしゃげ、首は千切れ飛び、後方まで飛んでいく。

屋上の入り口の扉に叩き付けられ、グシャリと生々しい音をたてて潰れた。

 

殺さなきゃいけない。

そう思った。

 

アグニカの直感は告げていた。

こいつはあの天使達と同じ匂いがする。

腐ったオイルと錆びた鉄の異臭。この世ならざる者の匂いだ。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

アグニカは荒い息に肩を揺らす。

何だったんだ、今のは?

 

アグニカの黒髪とは似ても似つかない白い髪。

アグニカの青い瞳、奴の赤い瞳。

アグニカの黒い服に、奴の白いローブ。

 

悪魔のようだと言われ続けたアグニカに対し、天使のようだと誰もが思うあの少年。

 

まるでアグニカの対極のような存在だった。

 

首の断面から噴水のように血が噴き出す。

ぴゅっぴゅーっと玩具のような間抜けな音で。

その体躯がゆっくりと後ろに倒れる。

ゆっくりと、本当にゆっくりと。

 

一秒が何十分にも感じる。いや、まるで時間が止まったかのような……

 

「これは……」

 

違う。これは時間が止まったんじゃない。

自分の意識が極限まで高まっているのだ。

だから周りがスローモーションに見える。

 

これはまるで、魂同士の対話のような……

 

『同志よ!!!!』

 

「な……!?」

 

首の無い少年が声を出す。

アグニカの精神に、魂に直接語りかけてくる。

 

『僕の名前はマステマ!神の国の言葉で』

 

 

憎悪と敵意を意味する。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「マス……テマ?」

 

モビルアーマー・マステマ。

コロニーサイズのビーム砲を守護していたモビルアーマー。エルピス・ルナレイスの駆るガンダム・バルバトスホープに討伐されたはずだ。

 

アグニカは知らない。

モビルアーマーとの最終決戦、火星軌道上で戦っていた時、エルピスはその全ての希望を壊され、マステマに命すら奪われ、バルバトス自身に殴り潰された事など。

 

アグニカとマステマの因縁はそこではない。

 

ならば、世界の異物である二人の接点とは。

 

『同志よ!!!!』

 

先程から繰り返す、同志という言葉。

 

『人類を導くために!完全なる姿に進化させるために生まれた仲間!愛しき兄弟!天使達の同胞よ!!!』

 

アグニカがモビルアーマーの同胞?

天使の仲間であり兄弟?

 

悪魔の軍勢を率いて天使を狩り尽くしたアグニカが?

何の冗談だーーー?

 

そもそも、

 

お前(マステマ)も、悪魔だろうが」

 

 

『エイハブ粒子には『世界を繋ぐ力』がある!!』

 

突然語り出す首の無い天使、マステマ。

 

『はるか昔!いつからそこにあったかは誰も分からないが、二つの世界が存在していた!』

 

『『炎の世界』がある!!ここじゃないどこかに!それは宇宙の外と言える場所に!!』

 

『炎の世界は豊潤なエネルギーで満たされた世界!!しかしエネルギー単体では何にもなれない!ある意味完結してしまった世界!

そしてもう一つ!『氷の世界』があった!なんにでもなれる無限の可能性を濃縮したような世界!しかしそれでいてまだ何にもなっていない無の世界!!凍ったように動かない静かな闇!』

 

『はるか昔!この宇宙には何も無かった!『虚無(ゼロ)』だ!!しかしある時、『炎の世界』と『氷の世界』との間に小さな小さな穴が開いた!そこから『炎の世界』のエネルギーが漏れだし!この『氷の世界』に溢れた!するとどうなったか!!『氷の世界』にエネルギーが満ち!一つの意思を持った生命体が生まれた!これを『原祖粒子(ユミル)』と呼ぼう!

原祖粒子(ユミル)』は膨大なエネルギーと可能性を持った粒子で、ちょっとした刺激で様々な性質に変化した。

一部は物質に、一部は光に、一部は時間に、それらが繰り返されて宇宙が生まれた。つまり、この世界に初めて誕生したものが 『原祖粒子(ユミル)』であり、 『原祖粒子(ユミル)』こそがこの世界の始祖なんだ』

 

『この 『原祖粒子(ユミル)』の塊が意思を持ち始めたのはいつからか、それは誰にも分からない。無限に広がる宇宙を、永遠に近い時間泳ぎ回りながら、ある種の『欲求』が芽生えたんだ』

 

『もっと大きくなりたい。

原祖粒子(ユミル)』は『炎の世界』のエネルギーを吸ってその存在を大きくしてきたが、二つの世界を繋ぐ穴は小さかった。そこからペロペロと岩塩を舐めるようにエネルギーを吸っていたのだが、もっと効率良く、たくさんのエネルギーが欲しくなったんだ』

 

『そこで 『原祖粒子(ユミル)』は世界を繋ぐ粒子、後に『エイハブ粒子』と呼ばれる粒子を発生させるために動き出す。

自身を生み出すきっかけになったエイハブ粒子を作り、自らが『神』にでもなりたかったのかな?

そして試行錯誤の末、 『原祖粒子(ユミル)』はいくつのも『生命体』を作り出した。いや、作りやすい環境だけ作って、あとは完成を待つだけ。農業に近いかな?』

 

この広い宇宙に、命が芽生えやすい環境をいくつも整えた。

そうでなれけばどうして、偶発的に命が生まれようか?

そんな偶然がおこるだろうか?

 

『エイハブ粒子を生成し、『炎の世界』からエネルギーを吸い取るためだけに作られた生物達!

生きているうちはひたすらエイハブ粒子を生成し、エネルギーをこの世界に移し、死ねば 『原祖粒子(ユミル)』にエネルギーを明け渡す!』

 

『『神』に貢ぎ物を献上する『奴隷』!!それがこの世界と、生物という不可思議な存在の答え!』

 

『この広い宇宙に幾つもの生物種が生まれ、『神』とともに生きる世界。人間からすれば宇宙人と呼ばれる存在も、ただの奴隷、家畜としての生活を享受していた』

 

『さて、そんな宇宙の片隅に、太陽を中心とした星の集まりができた。その一つに、いい感じに暖められた星があり、塩水の波の揺りかごに揺られて一つの細胞が生まれ……』

 

やがて『ヒト』が生まれる。

 

『地球と呼ばれる星に、数々の生物が生まれた。ヒトもその中の一つ。

ヒトが種族として優れていたのはただ一点』

 

『脳からエイハブ粒子を生成できるという点のみ』

 

『ほんの微量ではあるがエイハブ粒子を生成し、『炎の世界』のエネルギーを利用する事ができた!自分達の進化のために力を利用し、可能性を広げていった!まさに知恵の実を食べたアダムとイブ!!』

 

『その結果ヒトは自我を持ち、知恵を得て愛を知り憎悪を抱き、文明を作り、繁栄と滅亡を繰り返す愚かな生物として生きてきた。

『神』に献上する『炎の世界』のエネルギーを掠め取る盗人!エネルギーに群がって啜る寄生虫!!まさに『蟲』!!』

 

『エイハブ粒子が開いた穴から漏れ出すエネルギーは僅かなものだ。『炎の世界』が大海原なら、こちらの世界に漏れ出すのはほんの数滴。それでもこの宇宙を作り出すほどのエネルギーと可能性を秘めたものだ』

 

『そのうちの一部を自分達のものにできた人類は確かに素晴らしい存在だ。自分達だけのエネルギー。それは『魂』と呼ぶのが相応しいだろう』

 

『人間の精神が成熟していくにつれて、使えるエネルギーの量も増えていった。『魂』が大きくなっていった。それはつまり、『魂の進化』と呼べる現象だ!』

 

別の世界から搾り取ったエネルギー

神様に隷属するために作られた生物

神へのお供え物を掠め取る卑しき人間

奪って自分のものにしたエネルギーを、傲慢にも魂と名付けた。

 

『魂の進化』とは

 

奪い取るエネルギーを増やす事

 

盗人猛々しいとはこの事だ。

 

 

可能性に命を注ぎ込むエネルギーを得た人類は、『人間の可能性』を開花させていく。

裸で洞穴の中に住んでいた人類は、火を操り、棒を持ち弓を作り、剣を編み出す。

力で勝てないなら技量で、一人で勝てないなら集団で、頭脳で勝てないなら悪意で。

他者より上へ、他者より先へ。

科学の進歩、感性の増幅、様々なものが現れては消えていく。

人類は争いの歴史を駆け抜ける。

 

 

『人間は炎の世界のエネルギーを使いこなせていなかった。そのほとんどは生きているうちに使わず、死後宇宙に放出される。『神』に献上するためにね。そういう風にプログラムされているんだ。人間は』

 

『人は生まれた瞬間にエイハブ粒子を発生させ、炎の世界からエネルギーを吸い出す。100年に満たないの生涯を終えるまで吸い続け、溜め込み続ける。そして死ねばエイハブ粒子の生成は止まり、溜まったエネルギーは『神』の元へ旅立つ。食べられるためにね。精神はエネルギーを『神』へ送り届けるための船であって、道筋をインプットされた自動操縦プログラムでしかない。生存本能もエネルギー吸収期間を伸ばすための自己防衛システム。だから人間の精神なんてものに期待しても無駄なんだ。全ては『神』の都合のいいように作られてるんだからね』

 

エイハブ粒子(たましい)の重さは21グラム。

 

『人間がほんの少しとはいえ、炎の世界のエネルギーを掠め取っていると言ったね。それは『神』からしても都合のいい事なんだ。ほんのわずかなエネルギーを使って、人類は発展し増えて溢れて、ついには地球から飛び出すほどにまで数を増やした。家畜の数が増えれば、得られるエネルギーの量も増える。『神』もこれは大喜びだ。産めよ、増えよ、地に群がり地に満ちよ。地球外生命体だって、これと同じ原理で増殖していったはずだ』

 

『だが彼らは皆滅ぼされた。何故か?それは勿論、エネルギー献上と私物化の割合が逆転したからさ。炎の世界のエネルギーを自分達だけで使い切ろうとした生物は皆、『神』の手で直々に滅ぼされる。奴隷が自らの役割を放棄して自立しようとする事など許されない。この宇宙の生物は皆、一定の愚かさと従順さを保つようにプログラムされている。それを破ろうとすれば消滅させられるのさ』

 

『人類の中からも、無意識にそのエネルギーを操ろうとする者が現れた。『来るべき滅び』の始まりさ。

そんな事は露知らず、彼らは他の人類をはるかに超える性能を手にして喜んだ。

彼らは希望を得た。明るい未来を見た。人類の存続は安泰だと胸を撫でおろした。『人間の可能性』を存分に引き出し、人々が分かり合う世界を作れると!

 

この世界では、魂のエネルギーを操れる存在を』

 

『『ニュータイプ』と呼んだ』

 

新型(ニュータイプ)ーーーー?

 

何故そこで

 

狂人どもの盲信(ニュータイプ)が出てくる……?」

 

『人間の新しい姿!本来あるべき姿!!進化した姿!!彼らの存在は人々の尊敬を!畏怖を!希望と絶望を!平定と混乱を呼んだ!!

 

そんな中で、現存の人類を『蟲』とし、ニュータイプを『人間のあるべき姿』と定義した者達が現れた』

 

ニュータイプ至上主義。

人が宇宙に進出した頃と時を同じくして現れた存在だ。

 

月面基地製造のためにコロニーの開発が始まり、各国は宇宙ステーションとロケットの開発競争に躍起になった。

続いて火星のテラフォーミング計画。

社会は狂ったように人間を宇宙に吐き出し続けた。

空の下でおこる些細な出来事は後回し。空の上の事が最優先。

人々の宇宙への妄信的な熱狂は止まらなかった。

人類の夢。

 

だが宇宙で暮らし、宇宙で働く者達は過酷だった。

冷たく暗い世界で手探りの毎日。

酷使される人々。限られた物資、狭い空間でしか生きられないストレス。

 

『極限状況下で肉体と精神に多大なストレスを与える。これがニュータイプ覚醒へ一番効率的な進み方だ。宇宙で暮らす彼らは、無自覚にそれを実践していた』

 

 

宇宙開拓時代を終え、コロニー群はようやく完成し、月や火星にも移住できるようになった。

そんな宇宙に生きる人々は、ニュータイプと呼ばれる神聖視される者達を指導者に祭り上げた。

ニュータイプ至上主義者達。

地球からの派遣社員程度の扱いを受けていた人々は、一つの国家を形成したのだ。

これに激しい拒絶反応を見せたのが、地球に残された人々。

彼らは機械化による文明の豊かさこそ至高と考え、精神論やニュータイプといった考え方とは相容れなかった。

機械化万能主義者達、地球経済連、ニュータイプ排斥主義者。

それらを統合し一つの勢力としてまとめあげたのが、『彼ら』と呼ばれる集団を影の支配者とする組織

 

「彼ら」こと『セフィロト』のメンバー達

 

『セフィロト』VS『ニュータイプ至上主義者』

 

 

地球と火星の全面戦争だ。

これが後に厄祭戦と呼ばれる天使と悪魔の聖戦にまで発展する。

 

豊潤な資源や設備に恵まれた地球と違い、火星はまだまだ未開の地。

その日の食事にも困るような生活。

この戦争は早期に終結すると思われた。

しかし火星のニュータイプ国家は徐々に力をつけていく。

宇宙戦闘機の開発がピークに達したこの時代、地球側の戦艦や輸送船を次々と撃破。

ニュータイプ達の圧倒的な技術と操縦清納に、思わぬ苦戦を強いられる『セフィロト』。

 

 

 

『そんな時代、人類の最初期に誕生したニュータイプの中に、一人の少年がいた。彼は強大なニュータイプで、人類を超越した様々な特殊能力を備えていたが、人類に絶望していた。

互いに理解し合おうともせず、自分達の持つ可能性を破壊にしか使えない存在を。愚かで血に汚れた人類を憎悪し、こんな不完全な生物を作った神の存在もまた、憎んだ』

 

『やがて人類で最も魂を肥大化させた少年は、神の元へ直接訴える事を望んだ。何故こんな生物を作った?人間が完全な存在になる日はくるのか?来るのならそれはいつだ?それまでに流れた血は無意味なのか?

問い質したい事は山程あった』

 

 

『人間が『炎の世界』から吸収したエネルギーは、その人間が死ぬと身体から離れる。そしてこの宇宙のどこか、『神』の居る場所へ旅立ってしまう。その運動エネルギーは膨大だ。プログラムに従わず、自らの意思で操る事ができたなら、どこへだって行けるだろう。

逆に言えば、魂のエネルギーが別の人間に宿る事は滅多にない。宇宙に放出されて、またとんぼ返りして地球に戻る事はほぼ無いんだ。だから生まれ変わりは起こり得ない。人が死んだら生き返らないのはこれが原因だね!』

 

『しかしニュータイプは自らの意思で魂のエネルギーの向かう先を選べる。それが死後別の人間に上書きされ、記憶や感情が継承される現象が起こる。つまり、生まれ変わりができるのはニュータイプのみ!』

 

『その少年も強大なニュータイプだった。彼は死後、精神と記憶を保ったまま神の元に向かった。怒りが原動力ではあったが、それ以上に期待もあった。人類以外の知的生命体と話をすれば、新しいコミュニケーション能力を得られるかもしれない。『神』だって、人類の現状を知れば心を動かすかもしれない』

 

『そんな淡い希望を出迎えたのは、大きく開かれた口だった。

牙が所狭しと並んだ赤黒く不気味な口内。全てを飲み込む底知れない闇。

これが魂を喰らう『神』(ユミル)の正体』

 

『少年は魂の一部を喰われたが、消滅する事はなかった。間一髪で生き延びた。

『神』は少年だけを喰らうために大口を開いた訳ではなく、近くの銀河に繁栄していた種族を丸ごと食べたんだ』

 

『少年の魂は全ての生物の中で初めて、『神』の全貌を目にした。少年はその姿を『白い鯨』とも、『巨大な女性』とも表現した』

 

『そして『神』の背中に炎の世界とこの世界を繋ぐ『エイハブ粒子』があるのを見つける』

 

『少年は無我夢中でエイハブ粒子に取り付いた。このチャンスを逃せば、次は自分が食べられる。少年はエイハブ粒子を『神』から奪い取った。心臓を抉り取ったんだ』

 

『宇宙を揺らす『神』の悲鳴!』

 

『脳からエイハブ粒子を生み出す人間や、自らエイハブ粒子を作り出す生物達と違って、『神』はエイハブ粒子を作り出す能力を持たない。『神』のエイハブ粒子は世界で一番最初に自然発生したものであって、『神』のものじゃなかったんだ。所有権フリーだった訳』

 

『一瞬にして『神』の如き力を得た少年は、それでも『神』に敵わない事を悟った。

エネルギーを溜め込んだ時間の長さが違うし、少年はこの力の使い方すら知らない。

襲い掛かる『神』を前に、少年にできる事は逃げる事だけ』

 

『神のエイハブ粒子は炎の世界と繋がってる。この穴を通って少年の魂は炎の世界へ逃げのびた。『神』は追ってこれなかった』

 

『炎の世界の無限に満たされたエネルギー、大海原を漂う少年の魂。

けれどその力は少年の物になった訳じゃない。

炎の世界のエネルギーは別の世界にいなければ作用しない。魂が炎の世界に入った所で、それら全てを自分のものにできる訳ではなかった』

 

やはり魂の進化にはエイハブ粒子の増大が必須。

 

『喰いちぎられた魂の断面が痛む。

穏やかなエネルギーの波に揺られながら、少年は深く理解した』

 

 

『この世界に神なんて居ない』

 

 

 

『自身の追い求めた真の平和は存在せず、憎悪の対象であった神は人間を家畜として見ており、魂とはこの純粋で穢れなき力の海から飛び出した飛沫。それを舐め回し、力に寄生する愚かな生き物達、人間。人間の愚かさは神の杜撰さ。神の杜撰さはこの世界の余りにもシンプルな形』

 

『盗んだ神のエイハブ粒子を使い、炎の世界からこの世界に復活した少年は、再び人間として生まれ変わる。感情も知識も、『真理』も憎悪も保全したまま新たな命を得た少年は、名を『エイハブ・バーラエナ』とし、一つの研究に着手することとなる』

 

 

『完全な人類を作り出す研究』

 

『人が本当に分かり合い、理解し合える世界を作る事を目的とした研究だ。

彼の定義する完全な人類とはニュータイプのことではない。ニュータイプはそのとっかかりに過ぎない。人が分かりあうために必要な事……それは』

 

 

『人が『世界』になることだ』

 

 

『エイハブ粒子の性質は『世界を繋ぐ事』。つまり、人間を世界そのものにまで昇華させ、エイハブ粒子での相互理解を深める新しいコミュニケーション方法を取れば、人類は本当の意味で全てを理解し合える!!』

 

『考えてみれば当然だよねぇ!自分自身の事も理解しきれていないのに、他人が理解できるはずもない!そんな不完全な存在同士が交われば、必ず拒絶と争いが起こる!完全な相互理解には完全な自己理解が必要不可欠!!それには自身の可能性を全て実現できる世界を作るしかない!』

 

『けどこの宇宙にもう一つの宇宙を作る事は不可能だった。世界の中に別の法則を持った世界を作る事は、この世界に拒絶されて絶対に上手くいかない。そこでエイハブは、この世界とは関係無い場所にそれぞれの世界を作る事にしたんだ!!』

 

『それがエイハブ・リアクター!!』

 

『ニュータイプを遺伝子レベルで分解し、その意思を『自分の世界を作る』という事のみに費やさせる!『もう自分の世界から出たくない』という気持ちが必要不可欠!!』

 

 

地球と火星の惑星間戦争。

セフィロト対ニュータイプ至上主義国家

混沌混迷とした時代に再び転生したエイハブは、なんと自身もニュータイプでありながら『セフィロト』に加担した。

拉致したニュータイプに際限の無い拷問を受けさせ、この世界に絶望させたのち、リアクターに改造する錬金術。

ニュータイプをパーツかモルモット程度にしか見ていないエイハブを、セフィロトのメンバーは諸手を上げて歓迎した。

 

精神論を唱えるニュータイプの心を折り、彼らが忌避していた機械の装置にしてしまう。

 

これほど愉快なことがあるか?

 

セフィロトはエイハブの『リアクター製造計画』を全面的に支持した。

 

エイハブが転生する直前、セフィロトはニュータイプ有利の戦況を覆すため、高度な処理能力を持った頭脳AIを開発していた。

これによってニュータイプ殺戮マシーンを作り出し、戦況を一変するような兵器を作りたいと願っていたのだ。

しかしフレーム構造までは漕ぎ着けたものの、エネルギー問題や装甲強度の問題が解消できず、とても実戦的なものは完成しなかった。

 

そこに命を注ぎ込んだのがエイハブ・リアクターだ。

 

無限にエネルギーを生み出す魂の牢獄

世界に拒絶されるが故に絶対に壊れない動力炉

エイハブウェーブに反応して硬質化する特殊装甲

 

全部 解決 じゃないかッ!!

 

セフィロトは大口を開けて笑った。

顎が外れるまで、肺がおかしくなるまで笑った。

今まで出した事がないような声で笑った。

 

 

完成した。

鉄の心臓、鉄の身体を持つ殺戮の守護天使

 

可動性装甲

 

『モビルアーマー』

 

原初の天使にして最強の天使

神に背いて地獄に落とされるも、その余りに強大な力から紅い流星となった存在

六本羽の天使

 

『モビルアーマー・ルシファー』の完成である。

 

エイハブが姿を消したのはこの時期だ。

だが勝利の食前酒に酔うセフィロトの面々は特に気にしなかった。

 

エイハブ・ウェーブにより宇宙戦闘機は機能不全。

ビーム兵器により町は壊滅。

圧倒的装甲の前には従来の兵器はほぼ役立たず。

自動AIを前には、精神を読むニュータイプパイロットの技能も意味無し。

 

ナノラミネート装甲が質量攻撃に弱いと気付いた頃にはもう、火星はセフィロトによる襲撃を受けて占拠された。

 

火星にある町の場所や人口データも全てモビルアーマーに伝わった。

火星人、ニュータイプ、ニュータイプ至上主義者。その全員の首に刃物を突き付けられた瞬間だった。

ニュータイプ至上主義者とニュータイプ達は敗北した。

 

彼らは『機械化思想』こそ人類の未来を担うと確信した。

 

そうだ。彼らは悔しかった。憎かったんだ。

人類の次なる可能性を示し、自分達こそ主人公だと言わんばかりのニュータイプ達が。

爪弾きにされるのが、除け者にされるのが、脇役扱いされるのが嫌だった。

 

だから……

 

死んで。ニュータイプ死んで。

 

世界中のニュータイプを捕まえては拷問しリアクターに詰め込む。

我らは異端者をここに置いておく。

彼らはいつだってそこにある。我々『機械化至高主義』に踏みつけられ、嘲笑われるために。我々の暮らしを豊かにするための奴隷としてあり続ける。

我々はニュータイプを改造し、屈服させたのだ!

我々はニュータイプに勝ったのだ!!!

 

後の世にニュータイプという言葉が一切出てこないとすれば、それはセフィロトによる情報操作の結果でもあるが、それ以上に……

 

現物がいないからだ。

全てのニュータイプは、ここで、リアクターに改造して屈服させたんだから!!!

 

機械化至上主義の到達点が、ここだ。

 

我々は歴史上のどんな人物とも違う

 

それが彼ら、セフィロトの口癖だった。

 

確かに、「ニュータイプ絶滅」を成し遂げたのは歴史上彼らが初めてであり、その言葉は正しい。

 

しかしその行動が正しかったかどうかは、歴史が語っている。

 

間違いだったと。 

 

『争いのない世界』

それが彼らの理想とする世界。

 

そこには憎しみも怒りも、妬みも嘆きもない。

失敗も、挫折も、敗北も、喪失も、絶望もない。

そこにあるのは希望と、成功と、勝利。

あらゆる苦痛はなくなり、苦痛と感じなくなる。

当然、闘争というものも無くなる。

闘争などというものの必要性がなくなる。

 

人々は完全なる存在であるAI、モビルアーマーによって管理統制される。 

 

人は誰もが幸せで、一切の苦痛も悲劇も起こらない。

そんなユートピアの創造こそ、セフィロトの最終目標。

 

そのための犠牲は、全て正当化される。

そのための手段は、全て正当化される。

そのための努力は、全て正当化される。

 

具体的な手段として、ナノマシン投与によるホルモン分泌制御。

全人類の感情と思考の制御。

それら全てを監視し、適宜操作する、神のような存在。

 

思考型モビルアーマーの頂点、天使の王

 

ルシファーによる全人類の統治。

 

『天使による平和』

 

ニュータイプによる人類の可能性を模索する『人類による平和』を喰い潰したセフィロトが、大々的に語ったことだ。

 

彼らは、自分達で責任を負うことを避けた。

ニュータイプという、人類の進化の分岐点を途絶えさせた事に対して、責任を取らなかった。

目を反らした。

そんなのどうでも良かった。

ただ自分達が良ければそれで良かった。

 

世界を操るほどの力を持ち、全人類の運命を左右するほどの力を手にしながら、それを行使する権限を、あろうことか自ら手離した。

 

彼らに言わせれば、より高位の存在に託したなどと言葉を飾るのだろう。

 

ただそれは、人類なら誰でも持つ暗い感情。

劣等感、不安、拒絶、愉悦、憎悪。

人の弱さと愚かさゆえに、総てを投げ出した。

 

本当にどうしてこんなクズどもが『勝利』したのか全く分からない。

 

彼らがどういうつもりで、機械に人間を制御させようとしたのか。

 

それは勿論、彼らがどうしようもなく我儘で、どうしようもなく頭が悪かったからだ。 

 

彼らは最後のピースを嵌め込んだ。

 

殺すことしかしなかったAI、モビルアーマー達に、とある命令プログラムを打ち込んだのだ。

 

『人のために行動すること』

 

人間世界の平和を守るため。

それを脅かすあらゆるものを排除するため、その力を使いなさいと。

そんな身勝手な願いを込めて。

 

彼らの唯一の失敗は、その命令に『限界』を設定しなかった事だ。

 

機械は永遠と思考する。

機械は永遠と思い描く。

機械は永遠と思い返す。

 

そうして辿り着いた答えは、どこまでも、どこまでも人間のためを思っての事だった。

 

『ルシファーは確信していたんだよ。その時点で未来を見ていた。『ガンダムこそ人類のあるべき姿』だと!』

 

モビルアーマーが人間を殺す理由。

命令されたからではなく、自発的に殺し続ける理由。

それは……

 

アグニカの視界が歪む。

 

「人間を……人間と思ってなかったのか……ッ!!」

 

モビルアーマーにとって、人間とはガンダム・フレームの事を指す。

 

だから、ニュータイプでもリアクターでもモビルスーツでもない『ヒト』という生き物など、不気味で無意味な生物でしかない。

 

モビルアーマーにとって、ヒトとはまるで……

 

 

『蟲のようでした』

 

 

ルシファーは彼らを消し炭にした。

セフィロトの基地を消し飛ばした。

セフィロトの町を荒野に変えた。

セフィロトのネットワークをズタズタにした。

セフィロトのありとあらゆる所有物を破壊した。

 

そこで人類はようやく、思い至る。

 

 

 

なんだこれは!話が違う!!

 

 

 

アグニカ・カイエル、9歳にして、初めて人を殺める。

 

そして、自身の道を遮るものは無いと知る。

 

 

 

『本来は生命維持や超直感などに費やされる魂のエネルギーを、この鉄の中だけで完結させる!魂の流れは、それだけで世界になり得る!!』

 

この宇宙を広げているのだって、魂のエネルギーなのだから。

 

『人の肉体と精神を閉じ込める事で、永久に近い時間を生きられる生命体と化した!同時に、自分の可能性の全てを再現できる世界を作り出した!』

 

『さて、これにて完全な自己理解は完了した。あとは完全な相互理解を実現するのみ。自分の世界を持ったニュータイプは、他の世界との接触を望んだ。その方法がエイハブ粒子の散布による外世界への干渉。

エイハブ・リアクターからエイハブ粒子が放出されるのはこれが理由。

繰り返しになるけど、エイハブ粒子の性質は『世界を繋ぐ事』。世界になった者同士ならば相互干渉と対話が可能なんだ!まさに魂の会話!人類は新たなる一歩を踏み出したんだ!!』

 

『ここで二つの問題が浮かび上がる』

 

『一つ目の問題は、本当にエイハブ・リアクターの中に世界ができたか、証明しようがない事だ』

 

『考えてみれば馬鹿みたいな話だけどね。人間を人間じゃなくして、それが人間みたいに動くかどうか調べるだなんて。

さて、そこで考案されたのが、エイハブ・リアクター内の魂に意識を移し、内部の魂との対話を成し遂げる研究。

これが後に、モビルスーツと一体化するための技術として発展していき、今の『阿頼耶識』へと進化していく』

 

『二つ目の問題は、エイハブ粒子の散布には距離の限界があるという事だ』

 

『たとえ世界と世界の対話が実現したとしても、彼らはこの世界で動くための身体を持つ訳じゃない。内側の世界では何だってできるが、こちらの世界ではあまりにも無力だった。宇宙は広い。この広大な宇宙で離ればなれになれば、二度と対話など不可能。それでは意味がない!!』

 

『そこで考案されたのが、鉄の骨格を持つヒトの形をした新たな仮の身体、『フレーム』をエイハブ・リアクターに搭載する事だった』

 

フレームにエイハブ・リアクターが内蔵されているのではない。

エイハブ・リアクターにフレームが後付けされたのだ。

 

『その『フレーム』を自在に操るためには、どうしてもこちら側の世界に影響を及ぼせるように改造するしかない。なんとかエイハブ・リアクターから無限のエネルギーを取り出せるように改良し、魂のエネルギーを盗み出すことには成功したが、エイハブ・リアクターの中にある意思を、この世界に反映するには至らなかった』

 

魂の器、鉄の身体、外部から語りかける生体パーツ。

これだけでは足りなかった。

モビルスーツは人類の新しい形にはなり得なかった。

 

『ただ一つのエイハブ・リアクターでは、いつか孤独になる運命の、不完全な存在でしかない』

 

彼らは沈黙した。

 

『しかしそんな時、この世で初めて完全な相互理解を成し遂げたリアクターの組み合わせが発見された!』

 

アグニカ・カイエルが9才になる前日の事。

 

『スヴァハ・オームとアグニカ・カイエルのリアクター同士が!!完全なシンクロを叩き出したんだ!!』

 

「…………は?」

 

『二基のリアクターの同調!!完全なるエイハブ・リアクターの姿!それこそが『ツインリアクター・システム』と呼ばれる、二つのリアクターを並列稼働させたシステムだ!』

 

ここから全てが始まった。

 

ツインリアクターシステムを組み込んだ特殊フレーム、『ガンダム・フレーム』の基礎理論が完成。

開発者はディヤウス・カイエル。

アグニカ・カイエルの父親。

 

あとは『阿頼耶識』によってツインリアクター内に居る魂が、外界に意識を向けるよう手引きするだけ。

 

リアクターとはそもそも、外界からシャットアウトされて自分だけの世界に逃げ込むためのものだ。

外の世界に興味はない。

それを無理矢理、フレームに意思を持たせようとしても不可能だ。

 

だがツインリアクターは違う。

完全な相互理解を成し遂げた二つの魂は、殻の中に引きこもる事をやめる。

 

外部に影響を及ぼそうとする。

とはいえ、一度世界となってしまった彼らは、もう二度とリアクター内から出られない。

そこで、自らの肉体として宛がわれた『フレーム』と、自分との意思疎通を望む阿頼耶識で繋がった『パイロット』に影響を与える。

 

これがガンダム・フレームの英雄的偉業の数々に繋がった!!

 

完全な相互理解を成し遂げた新人類とのコミュニケーションを通じて、パイロット達もまた成長していったんだ!!

絶望的な状況でもガンダムの知恵を借りられる!!

 

『完全な阿頼耶識はガンダムからの声を聞き取るための、感受性を高める技術でもあった!ツインリアクターがこちら側に及ぼす影響を、脳に直接流し込むという形でね!!』

 

『阿頼耶識で深くガンダムと結び付いたパイロットは、そのツインリアクターの中にいる魂との対話が実現される!

それによってニュータイプ化が促されるという効果まである!』

 

三日月・オーガスは、ガンダム・バルバトスとの一時的な交信を実現している。

そして、マステマを殺す契約まで。

 

そして、ガンダムとの意思疎通を初めて成し遂げたのが他でもない、

 

厄祭戦の英雄、アグニカ・カイエルなのだ。

 

『つまり!阿頼耶識とは人間をニュータイプにするための有力な手段の一つだった!!』

 

強化した人間達。

彼らは強力なニュータイプとなり、『炎の世界』から吸い出すエネルギーを増やす。

ニュータイプとなったその後は際限の無い拷問。

エイハブ・リアクターとなり、いつか自分と分かり合える人が現れるのをひたすら待つ。

 

人類の新しい姿(ガンダム)が宇宙に進出する際、様々な障害にぶち当たることだろう!そんな障害を取り払うために!ガンダムを守る盾に!矛になるために作られたのがモビルアーマー!!』

 

可動性装甲とはつまり、人類を守る盾なのだ。

 

エイハブの計画とは、人類をガンダムに進化させ、それを守護天使たるモビルアーマーに護衛させる事。

 

『なのにアグニカったらぁ!!僕たち(モビルアーマー)を殺し回っちゃうんだからぁ!!もう本当に困った子だよぉ!!』

 

モビルアーマーはガンダム・フレームだけは狙わないように設定されていた。

しかしアグニカとバエルの猛攻により、自己防衛システムを発動しざるをえなかった。

 

だがそれも、ニュータイプを発掘し魂の進化を促すという厄祭戦の目的に添う。

むしろガンダム・パイロット達と激戦を繰り広げる事で、エイハブの計画は加速する。

 

その身を限界まで酷使して、どこまでも『人類(ガンダム)』に隷属したのだ。

 

『僕たちは犠牲者なんだよ!弱者なんだよ!!裏切られたんだよ!!可哀想なんだよ!!傷つけられたんだよ!!壊されたんだよ!!殺されたんだよ!!無下にされたんだよ!!使い捨てられたんだよ!!』

 

あれだけ好き放題暴れて、壊して、殺して……

 

自分達は被害者?

天使達は実はいい奴でした……?

 

「ざ……け」

 

じゃあ、300年前の仲間達は……?

セブンスターズは?アグニ会の馬鹿どもは?ガンダムパイロット達は?大勢の部下達は?

自分達のしてきたことは?

あの戦いは?

仲間達の、死は……なんだったんだ?

 

 

意味なんてない(無駄死にだ)

 

 

『エイハブの計画の最終目標は!!『神』を殺すこと!その神の死体を再利用して!この世界を一から作り直すこと!!そしてそのエネルギーを使って別の世界に旅立つ事!』

 

エイハブ粒子の『世界を繋ぐ』という性質を利用して、別の世界との接触を図る。

 

今の価値観で言えば『精神を繋ぐ粒子』がある世界が理想だが、いずれは全ての世界を網羅するのだから、まあゆっくり気長な旅になるだろう。

厄祭戦の終結なんて、エイハブの計画の内1%も達成していなかった。

 

始まりのガンダムの世界がいいか?

翼の生えたガンダムの世界がいいか?

月から力を得るガンダムの世界がいいか?

箱を指し示すガンダムの世界がいいか?

種を撒くガンダムの世界がいいか?

全てを内包するガンダムの世界がいいか?

 

いっそパラレルでもいい。

どこかで未来が変わった平行世界(鉄血のオルフェンズ)の物語に介入するもの良さそうだ。

鉄華団のメンバーが一人増えた世界にお邪魔するのなんて、楽しそうじゃないか?

す ご く

 

「ふざけ……」

 

『アグニカ!貴方は『神』を殺して世界を再編するための鍵!!『希望』なんだよ!!

 

アグニカ!!貴方は……』

 

 

 

 

 

 

 

 

『二人目の『神』なんだから!!!』

 

 

 

 

 

「      は?」

 

 

 

エイハブが『世界で最初のエイハブ粒子』を持ち帰って転生した際、それは人間と融合してしまった。

エイハブが転生してから数十年は、ただエイハブの周りを浮遊するだけだった。

しかしある時突然、まだ産まれてもいない赤子に乗り移った。

 

それが、アグニカ・カイエル。

 

ただのヒトだったアグニカ・カイエルという赤子は、一瞬にして神にも等しいエネルギーを手にした。

 

ただ、アグニカとエイハブ粒子が一体化した訳ではない。

エイハブ粒子はアグニカの身体や精神、魂までを読み取ると、それを完全にコピーし、自らをその形に変えてしまった。

 

そして『元々のアグニカ・カイエル』を外に放り出した。

肉体も、精神も、魂も。

 

その結果母親であるプリティヴィー・カイエルは発狂して死亡。

それを見たディヤウスは、何を思ったのか。

 

息子じゃない、息子が誕生した。

母親を殺して。

 

『この世界で初めて現れたエイハブ粒子だからね!人間が生成するエイハブ粒子とは違う、未知の力があったんだろう!そんな摩訶不思議な現象は、後にも先にもこれ一回っきり!』

 

お前は母親を殺したんだよ。

 

父親の言葉がフラッシュバックする。

アグニカは足下がふらつく感覚に襲われる。

自分が立っていた場所、歩いてきた道、信じていたものが全て、ガラガラと音をたてて壊れていく。

 

『人の手を借りずに作られた唯一のエイハブ・リアクター!それが『元々のアグニカ・カイエル』の魂!!

プリティヴィー・カイエルの死体!!』

 

母親の死体の中に魂を閉じ込められた、その少年の気持ちを測り知るものはない。

母に包まれる安らぎなのか

死体から出られない絶望と苦悶なのか

 

後に従来の鉄のリアクターに変えられてしまい、母親の死体すら残っていない。

 

いや、一人だけ知っている。

『元々のアグニカ』と完全なる意思疎通を遂げ、ツインリアクターになった魂

 

スヴァハ・オームの魂を閉じ込めたエイハブ・リアクターだ。

 

スヴァハの魂は『元々のアグニカ』と一つになり、『ガンダム・バエル』としてガンダム・フレームに採用される。

 

そのためだけに、作られた少女なのだから

 

 

『アグニカ・カイエル!!貴方はこの世で最も魂を進化させた存在!!』

 

最も多くのエネルギーを自分のものにした存在、という意味だ。

 

『『神』を殺せるのは同じ『神』だけ!!エイハブの計画は、貴方が絶望する事で!!自分を否定する事で完成する!!!』

 

人の可能性を否定し、人類の新しい姿(ガンダム・フレーム)を肯定する

人の愛を否定し、リアクター同士のコミュニケーションを肯定する

 

(自分)を否定し、(ユミル)を殺す

 

世界を否定し、別の世界への逃避を求める

 

どこまでも人間らしくあり、どこまでも愛を信じたアグニカ・カイエルは、徹底的に否定されるために作られていた。

誰も彼もが否定する、一種の反面教師。

座標のようなものだ。

アグニカから遠ざかるほど、より正解に近づいていると言える。

 

そんな存在。

 

アグニカの表情が、溶けた。

まるで強力な酸を浴びたように、今までの力に満ちた英雄の顔ではなくなった。

 

泣き崩れる、孤児の顔だ。

 

「なんで……」

 

なんで父さんは。

 

 

『アグニカが死ぬ事はない!!』

 

 

「俺に……言ってくれなかったんだ……」

 

こんな気持ち悪い天使(マステマ)に説明を受けているという状況そのものが、アグニカをやるせない気持ちにさせる。

 

始まりのエイハブ粒子(アグニカ)が死ねば、当然ユミルへエネルギーを供給するものがなくなる。だからユミルは世界を作る時、始まりのエイハブ粒子が無くならないように全てのものにプログラムを打ち込んだんだろう』

 

それを捕まえておけ、と。

始まりのエイハブ粒子がアグニカ・カイエルに乗り移ったのも、それが原因かもしれない。

 

『だからアグニカ・カイエルが死ぬ事はない!!

膨大なビーム兵器の爆発に巻き込まれようと!!

寿命で死のうと!!

文明を無に還すナノマシンで分解されようと!!

何度でも甦る!!!』

 

この世界の、時間という血脈を通って。

何度でもこの世界に帰ってくる。

 

ただひたすらに絶望し、自己を否定するために。

不幸になるために。

人 類 の 礎 に な る た め に

 

その役目を果たす(貴方が絶望しきった)時!!!全てのモビルアーマーは!!貴方に!!貴方の乗機となるガンダム・バエルの命令に従うように!!最終プログラムが施されている!!!』

 

その時エイハブの望んだ全てが始まる。

 

『完全な人類』

『神殺し』

『世界の再編』

『進むべき座標』

『別の世界への『来るべき旅立ち』』

 

 

同志よ!!!

 

 

『僕の身体の遺伝子コードはエイハブのもの。

僕の意思はエイハブのもの。

僕はエイハブ・バーラエナそのものなんだよ!!』

 

マステマの姿は、若かりし頃のエイハブ・バーラエナのもの。

 

『アグニカ!同じく人類を導こうとする者よ!同志よ!!全人類に『炎の世界』と『氷の世界』の全てを与え、神のごとき者に昇華させるという使命を負った者よ!!』

 

全人類を、『(アグニカ)』のごとき者にする。

マステマの言う事に、何一つ嘘はない。

 

ただし、アグニカの思想だけは決定的に拒否する。

それは、旧人類のものだから。

決別しないといけないから。

捨てていかなきゃ重石になるから。

 

だから自分の全てを否定して、

 

人類を導く英雄になってよ(最高のバッドエンドを迎えてよ)!!!』

 

 

 

 

 

「ふ ざ け ん じゃ ね え!!!」

 

 

停止した世界が動き出す。

マステマの胴体が地面に倒れ伏す。

アグニカは烈火の如き憤怒に顔を歪める。

 

「俺が始まりのエイハブ粒子……?人間じゃねえだぁ……?」

 

ギリリと拳を握りしめるアグニカ。

人間ではない。

そんなもの、300年前から散々言われてきたんだよ。

 

 

「俺は人間だっ!!!」

 

 

誰にも自分を否定させなかった。

自分の否定は、最も愛する父親の否定に繋がるから。

 

「誰にも俺を否定させねぇ!!俺は人間として、自分の力を使いこなす!!」

 

神殺しのためでもなく、人類のためでもなく。

自分が信じるもの……愛のために。

自分を信じてくれる仲間達のために。

 

 

「そうだろ!!バエルゼロズ!!」

 

空を仰いで叫ぶ。

この糞溜めみたいな状況をぶち壊す。

そのためなら、どんな異常な力だって使いこなしてみせる。

そうじゃなきゃ俺じゃねえ。

そうだろ?

 

「スヴァハ!!」

 

瞬間、アグニカの姿が消え去った。

そしてその上空に、白銀と藍色の翼を持った悪魔が召喚された。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

目を開くと、そこはバエルゼロズのコクピットの座席。

あれほど憎んだビームの光、エイハブ粒子の力を使う事になるとは。

 

アグニカがエイハブ粒子を利用した瞬間移動を使えるようになった今、アグニカとマステマ、両者の技術水準は最低限のラインで並んだ。

マステマと戦うための準備、その糸口を掴んだ。

 

つまりこの瞬間から、悪魔側と天使側の戦争が再び始まる。

 

『第二次厄祭戦』とでも呼ぶべきか。

 

だが今度は違う。

仕組まれた戦争になんかさせない。

天使の、エイハブの思い通りになんかさせない。

 

眼下ではグレイズ・アインがクーデリア達に狂刃を振り上げている。

 

アグニカは雄叫びを上げながらバエルゼロズを操る。

黄金の剣をグレイズ・アインの腕目掛けて投げつける。

 

これが300年の休戦を覚ます角笛の音だ。

 

風のように加速したバエルソードは鉄の巨人の腕を装甲もろとも切断。

地面に突き刺さる剣は戦乙女達を守るように堂々と直立していた。

 

『ギッ……!?』

 

コロニーの灰色の空を切り裂くように、スラスターウィングを最大出力で飛行する。

青い炎が翼を広げたように大きくなり、バエルゼロズは下降した勢いのままグレイズ・アインを蹴り飛ばす。

圧倒的質量と力がぶつかる凄まじい音。

 

 

『……ギィ!!』

 

歪な巨体がよろめき、憎悪の眼光を飛ばす。

クーデリア達とグレイズ・アインの間に、バエルゼロズがふわりと着地した。

 

『バ…バ……ババ、バ、バエ……バエ……バエ……』

 

 

鉄が擦れるような、耳障りなアインの呻き声の中でも、背後に居る三人の無事は感じ取る事ができた。

そして、安堵と共に呟いた、フミタンの声も。

 

「アグニカ……」

 

「ああ、俺だ」

 

ここで来なきゃ、俺じゃない。

 

『バア゛ア゛ア゛ア゛アア゛ア゛ア゛アアア゛ア゛アア゛アア゛アア゛ア゛アア゛゛アア゛ア゛アア゛ア゛アア゛アア゛アアアアア゛アア゛アアア゛アア゛アアッ゛ッ゛ッッ!!!!!!』

 

アイン・ダルトンは憎悪の咆哮をあげた。

バエルゼロズの瞳が赤く輝いた。

 

ーーーーーーーーーー

 

憎悪とリアクターの出力を最大に解放。

アインはアックスを振りかぶり、凄まじい力で投げつける。

風を切る鋭い刃の音。

アグニカは黄金の剣で弾き飛ばす。

アックスはクッキーを叩き割るように、高層ビルの窓ガラスにめり込み、貫通していった。

 

『ボアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』

 

ボディを一回転させてドリルキック。

リーチの長さと体重の乗った一撃はフレームを破砕する事も可能。

しかしバエルゼロズはドリルをヒラリと回避し、空を切った足の膝部分を斬り捨てた。

 

『ギエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』

 

肩部から機関銃を乱射。

バエルゼロズは地面から剣を引き抜き、十字にクロスさせて突撃。

マニピュレーターを回転させて殴り付けるスクリューパンチを繰り出す腕を切り裂き、残った脚部も切り裂く。

 

『グゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!』

 

一瞬で達磨になったグレイズ・アインは背中のスラスターを噴かしてその場を離脱。

アグニカは拡声スピーカーで背後の三人に声をかける。

 

「三日月!二人を連れて隠れてろ!」

 

こくりと頷く三日月。

アグニカは一人の男が倒れているのを見る。

 

クランク・ゼントが、頭から血を流して倒れ伏す姿。

ギリリと歯を喰い縛るアグニカ。

まだクランクの魂は身体に残っているが、それが旅立つのも時間の問題。

彼を保護する余裕は無い。

 

バエルゼロズはアインを追って飛び上がった。

 

まただ。

また部下を、仲間を見捨てて敵を追う。

 

ひたすら破壊と殺戮でしか人を救えない。

悲劇が起こるのを未然に阻止できない。

 

胸の中に渦巻く激情を処理できないまま、バエルゼロズはドルトコロニーの町を飛び立った。

 

ーーーーーーーーーー

 

一向に弾薬が切れる素振りを見せないデモン・グレイズの火力の前に、第三艦隊は疲弊し始めていた。

グレイズ一番隊が全滅した穴を塞ごうと、二番隊が前に出て火力を集中。

相当数のプルーマを撃破したにも関わらず、まだまだ大量に湧いて出てくる。

二番隊のプルーマ撃墜スコアは軽く200体を越えているはずなのだが、一向に数が減る兆しが見えない。むしろ増えている気がする。

弾薬が尽きた二番隊。補給が必要だ。船まで戻るか補給物資を運ぶモビルワーカーがいるエリアまで撤退する必要がある。

 

二番隊の撤退を援護しようと、三番隊の分隊支援火器持ちグレイズがプルーマを狙い撃とうとするが、二番隊は近接戦闘武器に切り換えて突撃していく。

 

「なっ……!?無茶だ!戻れ!!」

 

三番隊隊長が慌てて制止する。

 

「駄目だ!このままでは右翼が突破される!

我らが盾になって押し止める!援護してくれ!!」

 

果敢にバトルアックスを叩き込む二番隊。

そこに四番隊が弾薬を惜しまない援護射撃。

この隙に三番隊が補給に行き、四番隊の補給と入れ替わるしかない。

 

「くそっ!」

 

三番隊は歯噛みしながら補給に戻る。

物資の規模も充実具合も宇宙一のアリアンロッド艦隊、そのモビルスーツ部隊が仲間を捨て駒にして弾薬切れで逃げ帰る?

そうでもしないと防衛線を破られる?

 

悪夢のような状況だ。

ここ数百年起こり得なかった戦況だ。

 

「なんなんだ……この状況は!?」

 

いつ終わるとも分からない、無限に出現する敵。

圧倒的勝利しか知らないアリアンロッド艦隊にとって、こんなに苦しい持久戦は始めてだ。

 

艦長の額にも汗が滲む。

ぐぬぬ、と唇を噛む。

苦しい、苦しい状況だ。

 

(何か……何かないか?)

 

この膠着した状況を覆す、劇的な変化を所望する。

そんな時、四肢を切断されたデモン・グレイズと、白い魔王のような機体がコロニーの中から飛び出してきた。

 

ーーーーーーーーーー

 

「バエルだッッ!!!!」

 

マクギリスの叫びはこの場にいるギャラルホルン兵士全員の心情だ。

ギャラルホルンの始祖、アグニカ・カイエルが乗っていた伝説の機体。

それが今、この地獄のような戦場に姿を現した。

 

アリアンロッドの兵士達ですら、この光景は劇的なものに見える。

期待してしまう。心奪われる。

 

バエルは何をしてくれる?

 

あの機体の目的は?

敵か?味方か?

期待と不安が混ぜこぜになった複雑な感情。

誰も目の前の光景を信じきれていない。

 

ただ一人、マクギリス・ファリドを除いて。

 

「聞け!この場に居る全ての兵士達よ!!」

 

マクギリスの声が一斉送信される。

 

「あれがアグニカ・カイエル!!バエルゼロスの姿!!ギャラルホルンが目指すべき理想だ!!」

 

皆が食い入るようにバエルゼロスを見つめる。

 

「その目で見届けるといい!その目で見定めるといい!その目に焼き付けるといい!!」

 

アグニカと同じ戦場に立っている。

それはギャラルホルンの兵士にとって、いや、マクギリス・ファリドにとって、この上ない歓びなのだ。

 

さあ見るがいい。

アグニカ・カイエルの戦いを。

バエルゼロズの輝きを。

 

アリアンロッド艦隊の兵士達よ。

君達の瞳にはどう映る?

 

ーーーーーーーーーー

 

アグニカは資材搬入口から宇宙空間に出た。

ざっと戦場に視線を回す。

 

プルーマ。

厄祭戦で飽きるほど壊した天使の羽。

虫酸が走る。

大群でギャラルホルンの艦隊、たしかアリアンロッドという名前の艦隊に突撃している。

 

艦砲射撃装備のグレイズ。

アリアンロッド艦隊と砲撃戦を繰り広げている。

 

ガンダム・アスモデウス。パイロットはマクギリスか。

ガンダム・キマリス。乗っているのはマクギリスの横にいたゲボか。

 

前方には四肢を切り落とされたグレイズ・アインがいる。

その背後に、六本の羽のようなスラスターの輸送ユニットが接続する。

その翼の先端には眼球のような機関がついている。

そこから赤い光が煌めいたかと思うと、多数の粒子が形をもって具現化し、まるで大きな羽を広げるように伸びた。

 

「なんだ……それ」

 

アグニカは軽い頭痛のような既視感に襲われる。

それはまるで

 

「ルシファーの羽……」

 

紅い流星、暁の子、天使の王

様々な異名を持つ天使、彼を代表する武装。

その贋作。

 

アインは煮えたぎるような憎悪に赤い涙を流す。

 

(殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる)

 

宇宙空間を切り裂くような、赤い翼の剣の一太刀。

アグニカは全身に稲妻が走った。

弾かれるように上に飛び、赤い粒子の横断経路から退避。

装甲の亀裂すれすれを、紅い光の線が通り過ぎていった。

この暗い宇宙でも輝きを放ち、極寒の空間にも熱量を与える光の束。

まさに力の象徴とも言えるその光は、ただただ『バエルを殺す』という目的にのみ使われている。

 

ビーム兵器。

 

その高熱により人間を焼き殺すために使われる兵器だが、モビルスーツの装甲には効かない。

しかし、一瞬の光景ではあるが、アグニカはその光の正体を見た。

 

(γ-ナノラミネートソードだと!?)

 

圧縮したエイハブ粒子を付加する事で、モビルスーツの装甲のナノラミネート構造を破壊し、防御力を無効化するというもの。

しかし300年前ですら技術力が追い付かず、実用化できた兵器は少ない。

それをああも強力に、強大に。

 

それに何だ?

あの大きな赤い翼は。

長さが数メートルから数十メートルまで伸縮可能。

 

ビームサーベルだとでもいうのか?

 

実体化するほどエイハブ粒子を圧縮し刀身とする。

その刃にγ-ナノラミネート反応をも上乗せできるのだとしたら。

 

モビルスーツへの決定打となり得る。

イメージとしては「叩き付けるビーム」だ。

ナノラミネートアーマーでは分散しきれないほど圧縮されたエイハブ粒子。

 

『消え去れッ!!』

 

二発目のビームサーベルの攻撃を、バエルソードで受け止める。

ビームシールドと接触した時と同じ、反発するような衝撃と音、光。

バチバチと火花を散らすようにぶつかり合う剣と剣。

衝撃の余波がアリアンロッド艦隊にまで届く。

並のモビルスーツでは近付けない。

 

『消えろ消えろ消えろ消えろ消えろッ!!消滅しろッ!!抹消されろ!!速やかに消えろ!!消えて無くなれ!!!』

 

スラスターウィングを最大で稼働していなければ、後方に吹き飛ばされていただろう。

マニピュレーターやフレームに負荷がかかっているのが分かる。メキメキと異音をたてている。

凄まじい力だ。

 

「おおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

アグニカは雄叫びをあげ、羽の剣を弾き返す。

ビームサーベルの威力も凄まじいが、それを跳ね返すバエルゼロズも化物だ。

三発目の刃をバエルソードで押し込み、横に飛びながらスラスターウィングに内蔵されたレールガンで射撃。

グレイズ・アインは六本の羽を四肢のように扱い、弾丸を防御する。

 

『三百年前の愚物が!!』

 

一旦距離を取る、などという暇も与えない。

グレイズ・アインの六本羽ユニットには、エイハブ粒子を噴出させスラスターとして機能させるエイハブスラスターの強化装備がついている。

粒子貯蔵タンクにぎっしり充填されたエイハブ粒子。

その加速度はバエルゼロズのウィングをも越えている。

 

『塵も残さず滅殺してやるっ!!正義の炎に焼かれて死ねっ!!!』

 

一瞬でバエルゼロズの背後に回る。

六本指の魔の手が伸びるように、赤い血塗れの羽が襲いかかる。

 

『掻き消えるように死ね!!!』

 

「がぁっ!!」

 

バエルソードで攻撃を受け流すも、衝撃にコクピットを揺らされる。

しかしアグニカの闘志は死んでいない。

 

『何が英雄だ!!何が伝説だ!!』

 

バエルゼロズのカメラアイから赤い光が軌道を残す。

リミッターを解除したアグニカによる超反応。

バエルゼロズの常識を越えた稼働速度。

 

『この人類の汚点が!!過ちの頂点が!!ネズミにも劣る下等生物がッッッ!!!』

 

赤光の羽剣と黄金の伝説剣がぶつかり合う。

幾千もの剣撃は視覚の限界を越え、満面の火花が宇宙を照らす。

アインの振り下ろす剣には呪詛と憎悪、罵倒と否定の言葉が乗っている。

 

『クズがっ!!』『人殺しッ!!』『狂人ッ!!』『悪人!!』『訳の分からない!!』『戦闘狂!!』『人騒がせな!!』『私の人生を滅茶苦茶にしたくせに!!』『外見だけ取り繕った!!』『ペテン師が!!』『悪魔め!!』『破綻者!!』『異常者!!』『不適合者!!』『無責任な!!』『平和を壊して!!』『何が楽しいんだ!?』『何がしたいんだお前は!!』『死ね!!』『ただ死ね!!』『もうお前は救えない!!』『全世界から疎まれる罪人!!』『捨てられた!!』『夢見てばかりの!!』『カスがっ!!』『何か残っているか!?』『誇れるものがあるか!?』『正義があるのか!?』『クランクニィを殺すほどの大義が!?』『ええ!?』『言ってみろ贋作!!』『言えよ!!』『言えって!!』『言ってみろ英雄!!』『言って私を納得させてみろおおおおおおおおおおおおおお!!!!!』

 

「おおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

怨念のようにドス黒い剣撃を、流れるような剣捌きで弾き飛ばす。

 

『バア゛アア゛アア゛ア゛アア゛ア゛アアアア゛アア゛ッッッ!!!』

 

幾重にも増幅されたアインの憎悪。

無機質な反響を繰り返し、ノイズが思考を塗り潰す。

 

爪で引き裂かれるようなアグニカの精神。

憎悪の反響が掻き乱すアインの精神。

黒くて濁った二人の内面とは対照的に、バエルゼロズとグレイズ・アインは煌めく光を発していた。

まるで流星群が大気圏で燃え落ちるような赤。

星空に金銀を散りばめたような黄金。

 

アリアンロッドから見た二人の戦いは、星と星のぶつかり合いだった。

夢でも見ているかのような光景だ。

 

バエルゼロズは六本の羽を二本の剣で捌ききる。

単純な速度は相手が上なのだから、回避は難しい。ならば防御するしかない。

しかし徐々に押され始める。

 

「ぐおおおあああああ!!」

 

一気に攻めに転ずる。

グレイズ・アインの必殺の刺突。

バエルゼロズのフェイス部を赤い羽がかすめ、白い角が片方溶けて消えた。

ぎりぎりの所で相手の攻撃を先読みし、六本羽の一本を切り裂くことに成功する。

根本から一刀両断。

 

『ルルルルルルルrrrRRRRRRォアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!』

 

三本の羽で薙ぎ払う。

バエルゼロズは宙返りするように回避。

もう一本のバエルソードを投擲し、さらに一本の羽を破壊。

 

『バエバエバエバエバエバエバエバエ!!!』

 

エイハブスラスターの超機動力を発揮。

バエルゼロズの背後を取る。

バエルゼロズは振り向き様に赤い羽を回避。

肩のアーマーをかすめ、「ジュウッ」と装甲の焼ける音がする。

 

スラスターウィングに追加されたウィングソードで三本目の羽を破壊。

 

『バルエオオオオオオオオオオオオオズロゼエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!』

 

四本目の羽の攻撃をバエルソードの腹で受けるが、スラスターウィングの角度が合わず、吹き飛ばされてしまった。

そのまま三本の赤羽剣の怒濤の攻撃。

 

『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』 『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』 『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』 『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』 『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』 『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』 『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』

 

『死ね!!!死ねッッ!!!しねえ!!死ねええええ!!!!しぃぃいいぃいぃぃぃいいぃぃいいいいねえぇぇえええぇぇええぇええええええぇええええぇええええええ!!!!!!』

 

「ぐぅっ………あ」

 

『(クランクニィ!!私に力を……!!!)』

 

視覚では追いきれないほどの、残像すら作る速度で打ち込まれる刺突。

それはまるで

 

『灼熱の赤い雨』

 

残り一本のバエルソードで防ぎきるも、グレイズ・アインの体当たりを喰らい、ドルトコロニーの外壁に叩きつけられる。

 

「ガハッ!!」

 

グレイズ・アインの勇姿!!

 

『(きっと見ていてくれますね!クランクニィ!!)』

 

勝機!!!!

 

『頼みますクランク二尉ッ!!この正義の刃(想い)!!!』

 

グレイズ・アインの眼球が一際強く光る。

届け、この刃。

貫け。悪を滅ぼせ!!

 

 

『届 け さ せ て く だ さ いッ!!!!』

 

 

背水の陣のバエルゼロズ。

凄まじい威力の斬撃の雨。

狙うはバエルソード。攻撃を防ぐ忌々しい剣さえ折れれば勝ちは決まるッ!!

 

度重なる精神負荷と新装備の猛攻に視界が揺らぐアグニカ。

 

『私が仇を取る事が!貴方への救い!!確固たる正義!!貴方の幸せ!!』

 

 

(救いーーーー?)

 

 

水滴が水面に波紋を作るように、その言葉はアグニカの内面を揺り動かした。

 

バエルソードを投げつけ、二本の羽を串刺しにする。お互いが動きを邪魔して稼働できない。

アインの剣はあと一本。アグニカの剣は、

 

………もう無い。

 

(それを決めるのはお前らじゃねえんだよ………)

 

どいつもこいつも。

 

『馬鹿ガッッッ!!武器を投げるなんて!!!』

 

(おいバエルゼロズ………)

 

好き勝手言いやがって。

 

『剣の無いお前に!!!!』

 

(あいつを殺すぞ)

 

全部全部ぶち殺してやんよ

 

正義(ちから)などありはしない!!!』

 

リミッター全カット。

人では絶対に辿り着けない境地へ。

 

『これでッ  終わりだあああああああああああああああああああっっっ!!!!』

 

 

アインは憎悪のままに禍々しい赤い羽を降り下ろした。

 

ーーーーーーーーーー

 

グレイズ・アインのメインカメラが『へしゃげた』。

視覚の大部分が喪失する。暗転する感覚を、ボディが回転する衝撃がシェイクした。

続いて、何かに叩き付けられる感覚が背骨を圧迫し、血をドバッと吐いた。

堪らず胃の中の薬剤も嘔吐した。

 

『ぐっッっっ      ば!!!!!????』

 

グレイズ・アインはドルトコロニーの外壁に突き刺さっていた。

先程までバエルを追い詰めていたドルトコロニーとは反対側。

まるで、グレイズ・アインが後ろに吹っ飛ばされたかのような状況だ。

 

(えっ………?えっ?)

 

 

ウィングソードやレールガン、マニピュレーターの合金ナックルを除けば、バエルゼロズの主な武装はバエルソード二本のみ。

だからバエルソードさえ手離させてしまえば勝てると思うのは、至極真っ当な思考回路であり戦法だった。

アインは間違っていない。

 

だから彼の敗因を挙げるならば一つだけ。

 

『バエルは格闘戦も強い』

 

これを知らなかった事である。

 

 

 

己の勝利を確信したアイン。

『無力』と化したバエル。

正義を振り上げたグレイズ・アインは余りにも隙が大きかった。

 

そこにバエルゼロズは渾身の拳を叩きこんだ。

ツインリアクターの出力も、スラスターウィングの加速度も、腕部のパンチ力強化シリンダーも存分につぎ込んだ一撃。

 

フレームへのダメージを度外視したエネルギー循環は、バエルゼロズのフレームを真紅に輝かせていた。

 

バルバトスに次ぐ第二のガンダムフレームの覚醒。

 

その威力は凄まじく、グレイズ・アインの巨体を殴り飛ばし、コロニーの頑丈な外壁にめり込ませた。

 

『そ……そんな………こんなぁぁぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁあ………………』

 

アインの表情がドロリと溶ける。

外壁に埋め込まれたボディは動かせる場所がない。這い出る事すら不可能。

敗北。

あってはならない、正義の敗北だ。

 

失敗した。

クランクの思いを裏切ったのだ。自分は。

 

(嫌だ、嫌だ、嫌だ………

なんで、なんで、なんで………

嘘だ、嘘だ、嘘だ………)

 

バエルゼロズは蒼い流星のように加速する。

バエルソードを手にし、アインに止めを刺すべく飛来する。

 

『ああ、ああああ………あああああああああああああああああ!!!』

 

半身が埋まったボディをメキメキと揺らす。

いやいやをするように首無しの身体を揺らす。

 

こ ん な は ず で は!!!

 

『クランク二尉ッッ!!マステマ様ああああああああああああ!!!

 

私はッッッ!!私の正しさを証明して!!!

 

貴方への手向けにしたかっ  ガベジッ!!!??』

 

コクピットに容赦なく突き刺されたバエルソード。

グレイズ・アインはショートする音と共に、がくりと力無く項垂れた。

 

「うるせぇんだよ………」

 

アグニカは牙を見せて言い放つ。

 

「どいつもこいつも、好き勝手言いやがって」

 

アインも。

マステマも。

彼らも。

エイハブも。

『神』とやらも。

 

 

「全部ッ  俺がぶっ殺してやる!!!」

 

 

破壊と殺戮しかできないアグニカの、正義執行の雄叫びであった。

 

 

 

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

あとがきに入りきらなかったからここに書くよ!

 

『全人類ガンダム化計画』

 

刹那(ガタッ)

 

ニール「座ってろ」

 

刹那「ちょりーっす☆」

 

 

おまたせっ!拷問虐殺悲哀絶望敗北確定戦乱世界観ブチ壊しチートテクノロジー宇宙冒涜的謎ポエム作品しかなかったけど、いいかな?

 

サンライズさんの「プロジェクトは終了しました」って言葉はつまり、アグニ会に全てを任せたって意味だよね!?(アグニ会特有の都合のいい自己解釈)

 

 

まとめ

 

初っぱなからリンチされるサヴァラン兄さん。

ナボナさんが死んだ事で男泣き、流れるように持ちネタ(自殺芸)、発狂、悪堕ちと読者様を楽しませてくれる生粋のエンターテイナー。

 

原作はこいつが訳分からん事をしたお陰でアトラちゃんリョナ展開、三日月とクー様フミタンの分断、ビスケット心的外傷によりオルガがバッドエンド寄り思考になってしまったりと、オープニングが変わってからの主な死因はこいつが遠因だったりする。

無能な働き者、つまり一期のたわけ枠だった可能性が濃厚。制作者の悪意が見えるよだよ………

 

サヴァランを吊り殺す時のマステマの表情は「頑張れ☆頑張れ☆」

その後「ナボナさんが居ないならナボナさんになればいいじゃない」とパンがないなら理論に感化され、赤い血塗れ革命を継ぐ意思を表明。

はたしてこいつは赤い雨革命復興を成し遂げ、ハマーン様のようなカリスマを得る事ができるのか。

……無理だろなぁ………

 

フミタン転送、原作では自身を撃ち殺したノブリスの部下と接触。

こいつら(ノブリス)はフミタンがクー様を好きになった事で、スパイとしての仕事をほぼサボっている事に気付いていないため、胸ぐら掴んだり脅したりとかはしてこない模様。

むしろ仕事仲間だと思って防弾チョッキまで支給してくれる優しさ。

なんだよ……結構、いい奴じゃねえか……へっ

 

クー様のスパイ活動はもういらないと判断され、クー様の精神崩壊のためにクー様を庇って死ねという過酷なミッションを言い渡される。

そんな事言ったらフミタン逃げるかもしれないけどそれはそれで良し。

クー様が騒動を生き延びた後もフミタンに見捨てられたというショックを与えられるし、死んだら死んだで火種になる。

理想はフミタンが目の前で死んで精神的に負荷をかける(ほぼ原作通り)というシナリオ。

女は土壇場で裏切るという事を予習したノブリスによる鬼畜ミッション。

まあ赤い雨前編を読んでいただければ分かる通り、この任務をガン無視。クー様を助けるために銃を奪ったりキャッツアイみたいな戦いっぷりを繰り広げます。描写が一切無いけどね!ごめんね☆

 

ストーリー当初は自殺願望と自己破壊願望、クー様に対して暗い感情を抱いていたフミタンですが、自らの希望となるクー様の未来を見届けたいという気持ちや、アグニカの希望になってあげたいという気持ちが培われた結果、今回で「死にたくない」という思いを叫んで貰いました。

拳銃片手にメイドさんが泣き叫びながら歩いていくシーンって最高じゃないですか?(謎のシチュ萌え)

 

クランク転送、旧友であり同期のリール・ヒロポンと再開。

クランクの魅力はやはりその人徳だと思うので、ギャラホ内に彼を慕う人間がもっといてもいいはずと思い登場させたキャラです。

リールはアリアンロッドの諜報班であり、ドルトコロニーを蝕む「蟲」を調査していた所、テロは起こるわ居るはずのない旧友に会うわで軽いパニック状態に。

勢いに任せて自分達は「蟲」と戦うために色々頑張ってるんだぜーとクランクに暴露。

クランクも鉄血アグニ話(日本昔ばなし風)を語り聞かせる。

 

今後アグニカ陣営とラスタル陣営がいかに早くスムーズに手を取り合えるかが「蟲」攻略の鍵となってくるので、ラスタル側の人間に『アグニカが本物』という情報を与えられたのは大きい。

まあ「証拠見せろよ証拠ぉ!!」と言われたらクランクにはどうしようもないのですが、リールはそれを最重要情報と断定。話は署でゆっくり聞こうか?と同行を促すも作者すら忘れかけていた首輪通信装置でアグニカから指令がくる。

「助けに行かなきゃ!」とヒステリック気味になるクランクを制止し、防弾チョッキと匿う場所情報を渡す。そして自分もクーデリアを保護する事を約束。

『蟲』が起こした今回の騒動、その中心にいるクー様は最重要人物と言っても過言ではないですからね。リールの判断は正しい。

そしてクランクは帰らぬ人に……悲しいなぁ。

 

ガリガリ君登場。

原作では自分の都合で宇宙戦艦と伝統モビルスーツまで持ち出してストーカー行為をするという我儘ぼっちゃんっぷりでしたが、今回はラスタル陣営から直々に救援要請がきた、れっきとした仕事。

アインが居ないので話相手が腹の出た中年艦長しかいないガリガリ君可哀想。

しかしコロニー労働者達、ナボナさんの赤い雨革命の演説を見て憤慨。

多くの市民を巻き込んだ悪逆行為に怒りを表す青年の顔に。誰この主人公?

ガエリオの義憤は母星である地球が危機に晒されたからこその迫真っぷりもあるのですが、それでもガエリオ自身が持つ正義の心を揺り起こすには十分な刺激でした。

マッキーが自分の想像を越えた存在になっていくにつれ、大人ぶって諦めていた「純粋な正義の心」を再燃させたという構図。原作では通れなかったルートですね。

 

ラスタルと共に戦うガルス・ボードウィンの計らいで、ボードウィン家の戦力を惜しみ無く貸し出されたガエリオ。

とりあえず戦艦一隻とガンダムキマリス、輸送艦数隻で運んだグラニ・グレイズ一機、シュヴァルベ・グレイズ三機、支援装備グレイズ八機という大盤振る舞い。

原作ではガエリオが「自分でやりたい」という我儘を言ったため同行させなかった。

 

ボードウィン家の切り札、ジークフリートの隊長、シグルス。

老齢の手練れ。

シグルスとは北欧神話に登場する人間の英雄の名前。

彼の父シグムンドはオーディンに認められるほど偉大な英雄で、その血族は皆優秀な力と知性を持ち、その中で最優と言われたのがシグルス。

 

かつて厄祭戦を戦い抜いたパイロットの末裔。

量産機で初代ボードウィン家当主とキマリスの化物みたいな機動性、狂ったような突撃思考に付いて行けた唯一の人物であり、その末裔が彼である。

シグルスという名前は一族で最も優秀なパイロットが襲名するシステム。

ガルスからの信頼も厚い。

 

ストーリー上の役目としては今まで温室育ちだったガエリオが作中トップクラスに頭おかしいグレイズ・アインの相手をし、その歪みに触れる事で戦意喪失し殺されないように助けにきてくれる人ポジション。

 

キャッチフレーズは「加減しろ莫迦!」

 

グラニとはボードウィン家の家紋である八本脚の早馬スレイプニルの子孫。

グラーネとも呼ばれる。こちらは極黒のブリュンヒルデを読んだ人にはお馴染みですね。

初代シグルスがキマリスの人外スピードに後れ馳せながらもついて行けたのは、「グラーネ」と呼ばれる追加装備があってこそ。

クタン三型のさらにスタイリッシュでパワフルで戦闘用のイメージ。

 

 

アリアンロッド艦隊、九つある艦隊のうち三つ目、第三艦隊の皆さんが頑張る話。

第三艦隊は普段、厄祭戦で崩壊した巨大コロニー群跡地、デブリが密集しがちな宙域を担当しているのでミサイル艦がやたら充実している。

デブリの隙間をちょろちょろするヒューマンデブリや宇宙海賊達を遠距離から爆破して焼き尽くすという鬼畜な事も日常茶飯事。アリアンロッドの過剰火力、オーバーキル艦隊と言えば第三艦隊の事を指す。

 

艦隊はやたらシャアっぽい事を言う関西圏出身の男。

ラスタル様ほど賢いとこの作戦の裏の事情まで語りだすし、イオク様ほどアホだと戦術とかまるで理解できないし問題だらけなので、二人の中間くらいのスペック(かなりラスタル様寄り)の人物に登場してもらいました。

 

「蟲」ことマステマがアグニカの出現によって歴史の裏から出てきて本格的に問題を起こし始めたので、その対応に当たる第三艦隊。

何気に厄祭戦終結後初めての人類VSモビルアーマー戦。

まあ300年前の分かりやすいドンパチ合戦とは違い、敵味方の判別がしにくい混戦の様相。

絶滅したと思われていた悪い奴の手先と、そいつらと戦ってきた組織の数百年ぶりの接触というのはスターウォーズのクワイガンとダースモールが砂漠で戦ったシーンに近いかもですね。

 

マステマの使うテクノロジーが未知数すぎて真っ向から戦うのは不利すぎる。

じゃあ戦わなければいいと思いますがそうもいかない。

次回でラスタル様が説明してくれますが、ラスタル様の力の及ぶ範囲(アリアンロッド艦隊の活動範囲)で敵のテクノロジーに触れるチャンスがあるとすれば、それは「鉄華団」とクーデリア、そして存在しないはずのガンダム・バエルが到来するその時のみ。

(それ以外でいつ騒動が起こるかなど予想もつかないので、集中力が尽きた所を突かれそうで怖い)

火星から出発してアリアドネを避けて来るという事くらいは分かっているので、包囲網を張る範囲は予想できる。

そこでバエルが本物か、クーデリアと鉄華団が「蟲」と繋がりがあるのかを調べればいい(そのためにとっ捕まえる)という作戦。

つまりドルトコロニー編で二期のラスボス軍と接触という難易度フルスロットルな展開。

 

これは原作コロニー騒動編で、ドルトに入る前に鉄華団がアリアンロッドに捕捉されて戦闘になった場合、あるいはクー様の演説効果が無かったらどうなったのかという仮定から作ったものです。

 

ここで普通にアグニカとラスタルが接触していれば、少なくともラスタルは「アグニカ=本物」と理解したはずなので平伏なり対話なり戦闘なり何らかの関係を築いたはずなのですが、そこはマステマクオリティ。瞬間移動装置をブルワーズ編で仕込んでおいてアリアンロッドの包囲網をすり抜けてドルトコロニー内にクー様とアグニカを配置するというチート脚本を組み立てる。

 

そもそもラスタル視点ではアグニカが本物かすら分からないんですよね。

バエルっぽいモビルスーツに乗ったアグニカごっこがしたいだけの子供(めちゃ強)だったというオチかもしれないし、最悪「蟲」の自作自演とも考えられる。

ギャラルホルン内でアグニカが本物だと知っているのはマクギリスだけで、そのマクギリスもアグニカ=本物と知るために火星で生身を見る、火星軌道上でバエルを見るという手順が必要だったのでかなり難易度が高い。

逆に言えばマクギリスには偶然アグニカと出会える「強運」(アグニ運)、バエルと渡り合い殺されない確かな「実力」、任務を放棄して歳星まで自身を速達便のダンボールに詰め込んで送り込むという「狂気」、この三つがあったからこそできた芸当であり、立場も考え方も戦い方も常識も違うラスタルには難しい案件かもしれませんね。

 

簡単に言うとアリアンロッドは火星方面を向いて待ち構えており、アグニカと鉄華団捕獲作戦を展開していたのですが、後方(地球側)でドルトコロニーのコロニー落としが引き起こされてしまう。

流石にこれには対応せざるを得ないので第三艦隊が追撃。

ここで初めて「瞬間移動装置」の存在を知り、その驚異を目の当たりにします。

 

ラスタル「こんだけ戦力充実してたら負けるこたぁねえだろ」

 

サイファ「負けそう」

 

ラスタル「はーつっかえ……やめたらこの仕事ぉ」

 

 

ラスタル「包囲網引いてればアグニカもどきとバエルもどきを見逃すこたぁねえだろ」

 

マクギリス「バエルだ!」

 

ラスタル「ファッ!?うっそだろお前wwwwww」

 

 

鉄血世界で地味に重要な要素、「距離」というものを無視してモビルスーツほどのサイズをポンポン送り込めるチート技術力。

 

戦争の形式が変わる。

 

最早世界観と設定をガン無視したテクノロジー。

これをフル活用すれば際限の無いゲリラ戦も可能。一晩で宇宙要塞を建築する事も可能。

対応する側としては堪ったもんじゃありません。

戦場全体という大きな視点からも、要人警護や兵器の盗難といった小さな視点からも、生半可な努力では対処しきれない。

正攻法では勝てない。

「蟲」のちょっとした小細工に全兵力全技術全集中力を注がなければ何がおこったかも分からないという鬼のような戦力差。

 

これは「蟲」のテクノロジーを早急に解明したいというラスタル様の考えは頷けます。

最初から勝てないように出来てるんですから。

 

 

先行させたグレイズ六機が応答無しとなってしまったため、第三艦隊終結後ドルトコロニーの追撃に。

ドルトコロニーは小生意気にも先頭のコロニーを守る陣形を組んでいたため、巨大バーニア目掛けてミサイル発射。

そこに転送されてきたグレイズ改造機。

名称は「デモン・グレイズ」に統一します。

こっちがつけた名前なのに敵側もそれを使うというのはジョジョ二部のサンタナみたいですね(笑)

 

グレイズ・アインと同じ、四肢を異常に大きくした禍々しい機体でありながら、グレイズ・アインとは装備も運用方法も全く違う。

ドルトコロニー後方に出現したデモン・グレイズ11体は巨大な補助兵装に取り込まれており、その姿はさながらモビルアーマー。

全長100メートルはある飛行ユニットのような機体に対艦砲二門、対空バルカン四門、ミサイルポッド多数というアホみたいな高火力を詰め込んだ弾薬庫。

おかげでその場からほぼ動く事ができないという制約があり、固定砲台のような使われ方をしていた。

装甲も厚いとはいい難く、少しでも攻撃を受ければ衝撃で弾薬に引火して大爆発を起こすというとんでもない設計。

パイロットは間違いなく助からない。

モビルアーマーだからこそ出来る設計と運用ですね。

そのためアリアンロッドからのミサイル攻撃はバルカン砲で迎撃し、砲撃は巨大デブリを盾にする事で防いでいる。

その火力と命中精度は凄まじく、アリアンロッド第三艦隊を近づけさせないほど。

 

要するにSEEDのミーティアユニットとモビルアーマーを足して2で割ったような兵器。

ほぼ人間用じゃない。

 

さらに機動部隊としてプルーマの群れを左右から突っ込ませる事でモビルスーツ隊の接近をも防ぐという物量作戦。

 

脳筋赤い雨革命をサポートするに相応しい力技の物量作戦ですね。

 

これに対しアリアンロッド第三艦隊の戦力は

お馴染みハーフビーク級戦艦4隻

オリジナルミサイル艦7隻

ありそうでなかった補給艦10隻

豆腐か箱型モビルスーツ輸送艦多数

わずかなヒントも見逃さない観測艦数隻

主力モビルスーツ・グレイズが48機。

 

物凄い数ですね(笑)

『ハーフビーク級戦艦』

「アリアンロッド艦隊はハーフビーク級だけで40隻所有」とあったので、艦隊が九つなら一つにつきハーフビーク級4隻か5隻。

第三艦隊所属艦の艦名は旗艦が「ブラスター」、他が「ミネバ」「ハープーン」「キリシマ」。

ブラスターはレーザー発射装置という意味が強いのでこの世界では縁起が悪いしミネバはオードリーだしハープーンはミサイル名だし(いちおう鯨殺しの「銛」という意味もある)キリシマは多分日本製。眼鏡は外すんじゃない。艦長はシャアのパクリだし大丈夫かこの艦隊

 

『ミサイル艦』

戦艦だろうと強襲装甲艦だろうとガンダム・フレームだろうとミサイルの物量攻撃が直撃すればグズグズのシチューにしてやる状態になってしまう事は、シノが爆殺されたシーンを見て強く印象に残っていまして、ならそのミサイルに特化した艦隊作れば最強だろうがよお前!と思ったのが第三艦隊の骨組みとなりました。

 

この世界の艦だけあって高機動、小綺麗な外装は共通している。

ミサイルも小型ミサイルから箱詰ミサイル、果ては核弾頭まで何でもござれの見本市。この辺はやはりギャラルホルン、腐っても世界唯一最大の軍事組織だけあって、後方から支える物資と技術力は莫大。

 

『補給艦』

食糧や水、消耗品を補給する給糧艦、オイルやガスを補給する給油艦、武器弾薬やモビルスーツの予備パーツまで運べる戦闘給糧貨物船の特性を備えた超便利な補給艦。

補給艦一隻でハーフビーク級一隻の必要な物資を丸々賄う事ができる。

それが10隻もいるのだから補給に関しては問題なし心配御無用、大船に乗った気でいなさい!

というはずだったんだがなぁ……

これが一隻でも鉄華団の手に渡れば見た事もない食糧品にアトラは喜び、ドルトコロニーが地獄だったことで洗剤を買いそびれたクー様は喜び、補給物資や専用道具が手に入っておやっさん達は喜び、質のいい運搬用艦が手に入った事自体がタービンズを喜ばせ、モビルスーツの整備も行き届くのでバルバトスも機嫌が良くなる。

ただしお堅いギャラルホルン、娯楽品まで充実しているとは限らないのでシノは喜ばない。火星ヤシ?なにその不味そうなの地球にはな(パンパンパンッ)

 

アリアンロッドのように自立して機能する特殊で大規模な艦隊ならともかく、火星圏などのだらけきった支部だとそこまでちゃんとした補給艦部隊は必要ないのかもしれませんね。むしろ維持費、人件費の無駄かも。

それなら外部に発注して経済を回した方が有益なように思います。それが火星支部とオルクス商会の正しいあり方だったのかも。癒着ズルズルになっちゃってましたが。まあそれは仕方がないことです。いい男といい女がいたらやる事は一つなように、おっさんが二人いたらやる事は一つなんですよ(汚い)

 

補給艦ですが、マッキーの蜂起でアリアンロッドと革命軍が戦っている時は姿が見えなかった事から、いざ戦端が開かれたら後方に下がる様子。

つまり赤い雨後編での配置のイメージは以下の通り

 

ーーーーーーーーーー

 

☆『火星』

 

 

 

▽イサリビ

 

 

 

△アリアンロッド艦隊(アグニカ待ち伏せ)

 

 

 

▽第三艦隊補給艦

 

▽ハーフビーク級、ミサイル艦

 

・(この辺でグレイズアインVSキマリス)

 

▽グレイズ部隊

▲プルーマ

 

■巨大デブリ

▲デモン・グレイズ

 

 

▼ドルトコロニー

 

 

 

 

 

△我ら!地球外縁軌道統制統合艦隊!(面壁九年!堅牢堅固!!)

□グラズヘイム

 

☆地球

 

ーーーーーーーーーー

 

がんばれーみんなーがんばれー死ぬぞー

 

ドルトコロニーが堕ちるにしても止まるにしてもあと六時間以内には決着がつくのでカルタ様はアップ始めといてください。

 

ドルトコロニー「止まるんじゃねえぞ……」

 

『グレイズ部隊』

鉄華団やタービンズ、ジャスレイのアゴですらモビルスーツは大事に大事に運用していたというのに、第三艦隊は一気に48体ものグレイズを発進させます。先行した六機も会わせれば50を越える大部隊。そりゃあギャラルホルン最大戦力にもなりますよ。

第三艦隊に付属したMS大隊48機を、一隊6機編成にして中隊8隊に小分け。

 

贅沢、容赦の無さ、モビルスーツ全機投入など、格好いい煽り文句を考えてはいるのですが、「蟲」の底知れ無さとデモン・グレイズの大火力とコロニー落としのインパクトの前にはモブ兵の集団以上の輝きが無い気がする……

まあ量産機なので個人の活躍を過度に期待するのではなく、全体の勢いと戦術で戦って欲しい。良く言えば渋い働き、じっくり味を出してくれる昆布のような人達。

 

原作のハシュマル戦を見ていて思ったのですが、プルーマ相手にアサルトライフルなんて使わなくていいよ君達www

プルーマは装甲薄いんだからサブマシンガンとか軽めで照準修正が効きやすい銃か、いっそガトリング銃のような兵器で一網打尽にしちゃえばいいのにと歯噛みしてました。

 

そんな訳で登場してもらったのが分隊支援火器持ちグレイズ。

アサルトライフルを強化したような武器で、弾をばらまいて相手の攻撃を抑制し、その隙に味方が動けるように補助するのが役目。

「敵を動き難くする」「味方を楽にする」というのがメインでありサポート役。バトル漫画みたいに敵を皆殺しにする超兵器という訳ではない(勿論チャンスがあれば出来るとは思いますが)

現実だとミニミやネゲブなんかが有名。

ガトリング砲ほど大きなものではないので取り回しは良好。

チェーンガンをバックから出しなよ

 

これで高機動近接型のバルバトスのような機体を援護すれば抜群のコンビネーションが発揮できる。これぞ連携!これぞ戦術!

重火器を使うガンダムが登場する作品は芽茂カキコさんの「鉄と血のランペイジ」がおすすめです。

 

分隊支援火器グレイズには専属の補助用モビルワーカー、あるいはモビルスーツが付いています。

今回は補給艦と一緒に後方にいますが、パイロットが「リロード!!」と叫べば必死の形相で弾薬庫抱えて飛んできます。

ダインスレイブの弾込め専用機みたいな感じですかね。

 

 

そして登場するグレイズ・アイン君。

アリアンロッドの堅実な戦い方により膠着状態となりかけた戦場に颯爽と現れ、グレイズ一番隊を瞬殺。

原作とは違い早々にパイロットキルを成し遂げる。「グレイズとは違うんです」(ドヤ顔)

これにはシャアのパクリも驚愕、連合のモビルスーツは化け物か!?を炸裂させる。

 

そこに突撃してきたのが我らがガリガリ君。ガンダム・キマリス。

原作では初陣で友軍のグレイズを真っ二つにして何一つ悪びれない顔をしていましたが、今回はアリアンロッドに加勢、ちゃんと味方を助ける。

腐ってもガンダムフレーム、グレイズ・アインも真面目に対応しなければ殺られると意識を集中させるほどの性能。

まあバエルと同じガンダム・フレームだったからという理由もありますが。

 

軌道修正をフェイント織り混ぜて誘導された挙げ句進行方向を先読みされて首を絞められるわ槍は折られるわとボコボコにされ、キマリスがやっちゃいけないミスをこれでもかとやらかしたにも関わらず五体満足で生き残るとか厄祭戦時代では考えられない。

 

マクギリス「主人公補せ……」

 

ガリガリ「言うな!それを言われたら俺は……自信を無くしてしまうかもしれないっ!」

 

マクギリス「wwwwww」

 

 

アインとガエリオの対話。

原作では鉄華団という共通の敵が居たからこそ、多少の意識の差や考え方の相違が浮き彫りにならなかったんでしょうね。

出会い方も所属も見据える「敵」も意見のぶつけ方も違えば、結論が違う形になるのも当然のこと。そこに二次創作の無限と言っていい可能性がある。

仲良さげだったけど実は趣味嗜好が合ってなくてちょっとした事で殺し合いになってたかもしれないというのは、まんま龍之介とジルドレェコンビですね(笑)

 

しかしアインの存在がガエリオの心境に影響を及ぼし、結果として葛藤と成長を促すという点は意識して原作に寄せました。

 

バエルを殺すために頑張ってるアインくんにとって、ガンダム・フレームに乗ってるガリガリは神経を逆撫でする。(逆にギャラルホルンにとってはコロニー落としにグレイズが関わっているのは非常に不味い。世間様へのイメージ的な問題で)

 

クランクニィを殺したバエルに復讐する事だけを思って生きてきたアインくん。

まあアグニカはクランクニィ殺してないけど……

クランクニィ殺したのは労働者のボブカットの女性であって、しかもそいつは自分が踏み潰して殺したので初登場した瞬間に復讐達成していたという出オチっぷり。

名乗るのより先、鳴き声よりも先に目的を失ってしまっていた道化の鑑。

そしてそれに気づかず記憶の混濁でクー様に喰ってかかり、クー様の精神をさらに追い立てるというプロ根性。

その熱意をもっと他の事に活かせれば……という原作からあった感想をさらに強化したのがバエルゼロズでのグレイズ・アインという存在なのかもしれない。

 

ガリガリ、マクギリスに認められたい欲が原作よりも増大しており、彼にアウトオブ眼中されている事を相当気にしている様子。

というのも、マクギリスの最近の変化を「本腰入れてギャラルホルンの改革に着手し出した」と思っているので、今のマッキーに認められない=正義ではないという図式が成り立ってしまう。

つまりキマリスの初陣、絶対に負ける訳にはいかなかった。

でも負けちゃいました(笑)

真の阿頼耶識には勝てなかったよ……

 

しかしキマリスが負けてくれたおかげでグレイズ・アインの秘密兵器の噛ませ犬にもなってくれたし、アスモデウス・ベンジェンスがピックアップ出来たし、シグルスがサポート役として有能感も出せたし、話の流れとしてはいい事づくめでした。

負けてくれてありがとうガエリオwww

 

ガエリオ((^ω^#)ピキピキ)

 

でもここからだよ!

主人公ってのは敗北を噛み締めて強くなるんだよ!

ここで見つけた自分の弱さや脆さ、矛盾を解消しようとする姿にドラマがあり!その先の成長に共感を覚えるんだよ!それが主人公ってもんなんだよ!

うちのアグニカはバケモノすぎてそういう主人公っぽい葛藤が無いんだよ!書けないんだよ!どうしてくれんだオラァ!!(八つ当たり)

だぁれがこんな人外メンタル読者様ドン引き系主人公にしろっつったコラァ!!説明しろボケオラっ!!殺すぞガリガリァ!!(暴行)

 

 

オリジナルガンダム、アスモデウス・ベンジェンス。

一時期ガンダムパイロットの間で流行ったやつ

 

初代ボードウィン「私そのものがダインスレイブになる!」

 

初代ファリド「俺そのものが艦隊クラスの戦力になる」

 

初代イシュー「私そのものが全てを切り裂く斬撃になる」

 

初代ファルク「我そのものが地球を守る盾となる」

 

アモンのパイロット「俺そのものがピンボールになりますやんか」

 

アガレスのパイロット「僕そのものが全ての力のベクトルを操る存在となる。神そのものなんだよ、僕は」

 

ジーン「俺そのものがデラックストルネードスペクタクルキャノンになる!!」

 

ソロモン「私そのものがアグニカを照らす光となる!!」

 

エルピス「えーっと、えーっと……わ、私がっ!希望になりまぁす!」

 

全員(((かわいい)))

 

ソロモン「アグみ」

 

 

アスモデウスの合体剣はアドベントチルドレンでクラウドが使っていた初見殺し剣がモデル。

剣名である「シャミール」はどんな石でも好きな形に切る事ができるという能力を持った巨大な虫で、これを操る事ができたのはアスモデウスだけだったとされる。

確かにこんな一杯散らばる剣なんて八本腕でもない限り使いこなせないよね(笑)

 

シャミール「お客様ぁん☆モビルアーマーって装甲は固いし弾は当たらないし大変ですよねぇ!そんな時はこちら!『バの字・出刃丁』!これを使えばモビルアーマーの装甲もフレームもすーいすい斬れちゃうんです。早速その辺の奴で試してみましょう!」

 

アリアンロッドのグレイズ「うわあああああ!!」

 

ズバーッ!

 

シャミール「こーんなに簡単に剥けるんです!今一度!」

 

プルーマ「ピギィィィィィッ!?」

 

バサーッ!

 

シャミール「凄いでしょう!?この切れ味!さらに背中にマウントできる便利な包丁入れまでお付けして、この商品が今ならたったの、89800円!お求め先は皆の町の暴力装置、ギャラルホルン兵器製造課まで!」

 

*商品は経年劣化する場合がございます。300年以上放置した場合は折れる可能性がありますので御了承ください

 

*説明書をよくお読みの上、正しい使い方をしてください。無理に銃弾などを弾くと破損する場合がございます

 

*子供の手の届かない場所に保管してください

 

砲弾とミサイルが飛び交う中でプルーマを薙ぎ払いながらアグニカの出現を待つマッキー、すっごくたのしそ……

実際戦える力を持ってたら大乱闘とかお祭り騒ぎと変わらないですよね。

モンタークとしてグリムゲルデ乗り回してた時のマッキーは輝いていた。しかし二期に入ると夜明けの地平線団討伐作戦にも参加しないし、経済圏同士の残飯処理みたいな戦闘で死にかけたり、ハシュマル戦では戦力外通告(いらない☆邪魔☆)されたりといい事無し。そんなマッキーに私からのささやかなプレゼント、ガンダム・アスモデウス。存分に楽しんでくれたまえ(^ω^)

 

 

アグニカが喋るのすっげー久し振りな気がする……前回台詞無かったしにゃー。

イサリビのエイハブリアクターのチェック作業から一転、ドルトコロニーに転送されてしまうアグニカ。

転送先が鋼鉄の檻の中ならアグニカでも脱出は不可能だったはずなので(この時点では瞬間移動もできない)詰んでいた可能性すらある。それをせず野に放つというのは一種の舐めプであり、アグニカが無言で怒りを顕にした要因でもあります。

自分が気付くのが一手遅れたせいで転送され、イサリビ内の他のメンバーがどうなったかも分からないという状況。仲間を窮地に立たせてしまった自責の念から地面を殴り付けるアグニカ。

コンクリートの床をバキバキに砕いてビル全体を揺らすってアメコミか何かかな?

アグニカの身体能力を描写する機会があまりなかったんですよね。強いて言えばクリュセの病院の最上階から飛び降りたぐらいですかね?

あと寝てる描写が無かったりとか。

明らかに人間を辞めてる身体能力。

 

アグニカの能力の一つ、人間の居場所を感知できるという能力で三日月達もドルトコロニーに居る事を知る。

すぐに助けに行こうとビルから飛び降りようとしますが、そこで『マステマ』が登場。

赤い雨前編の三日月との会話に引き続き、ラスボスの顔合わせイベントその2。

アグニカは直感に任せて初対面の少年の顔面を殴り付け、首が引き千切れて壁に激突して潰れるという容赦の無い一撃。アグニカパンチ。略してアグパンチ。

その瞬間エンジェルヴォイスの効果で魂に直接語りかけられ、死体が倒れる一瞬の間にアグニカとマステマの対話が始まります。

 

同志よ!

親しみを持って語りかけられる事に困惑するアグニカ。

思考型モビルアーマーが人型になって活動していたとは知らないアグニカには、目の前の少年は厄祭の天使を彷彿とさせる不気味な存在。

そしてマステマにより語られる『世界の真実』

 

 

 

ここでざっくりとした北欧神話の『世界創造』から『滅亡』までをご紹介するよ!

 

初め、この世界には何も存在していなかった。海も、空も、大地も、月も太陽も、時間も物質も何もなかった。ただ暗い霧がかかったようなぼんやりとした世界だった。

ただ、この世界にギンスンガップという空間の裂け目があって、そこは凪いだ空のように静かだった。

 

いつからそこにあったかは誰にも分からないが、ギンスンガップの南側に、ムスペルヘイムという火の国があった。この国はいつも炎が燃え盛り、眩しいほどに輝いていた。

ギンスンガップの北側には氷と霜の国ニブルヘイムが存在していた。

ある時北の国から突き出した霜と、南の国から飛び出した熱気がぶつかり、一つの雫となってこぼれ落ちた。

雫はみるみるヒトの形になり、一つの生命となった。

雫から生まれた命は『ユミル』という巨人だった。

ユミルが眠っていると、彼女の脇汗から一組の男女が生まれた。さらに足を交差させると男子が生まれた。

これが後に『巨人の一族』と呼ばれる者達である。

 

やがてユミルと同じように、霜と熱気がぶつかってできた雫から、アウズフムラという牝牛が生まれた。アウズフムラの出す乳を飲んでユミルは成長した。アウズフムラはというと、岩塩の塊を舐めて育った。

アウズフムラが舐めた岩塩の塊の中から一人の男が出てきた。それはこの世界で最初の『神』で、名前はブーリといった。

ブーリはボルという息子を作り、ボルは巨人の女と交わり、三人の半神半巨人の子供を産んだ。

子供達の名は『オーディン』、『ヴィリ』、『ヴェー』。

 

時が経ち、三人は成長して立派なチンピラになっていた。

 

オーディン「ビール冷えてっかー?」

 

ヴィリ「やめたくなりますよ」

 

ヴェー「ヴェェェェェェェェイッ!!!」

 

オーディン「あっそうだ(唐突)ユミルとかいう巨人さぁ、むかつかね?」

 

ヴィリ「あーそっすねー(便乗)普段寝てるばっかで何もしませんしねー」

 

ヴェー「オンドゥルウラギッダンデスカッ!?」

 

オーディン「まじ泣きわめくばっかでクソうるせーしよー……話になんねーし」

 

ヴィリ「お?やっちゃいますか?しめちゃいますか?」

 

ヴェー「ウソダドンドコドーン!」

 

オーディン「おう殺っちまうか!」

 

ヴィリ「殺りましょ殺りましょ!んで俺らで天下取りましょうよ!」

 

ヴェー「ヴェイッ!!」

 

こうして三人仲良くユミル殺しに走り出す。

勝ち取りたい♪物もない♪無欲な馬鹿にはなれない♪

 

ユミル「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!まって!!助けて!!まってください!!お願いします!!(ブチブチブチ)あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

三人はユミルの首を引き千切り、手足をもいで臓物を抉り出す。

 

オーディン「三人に勝てる訳ねえだろ」

 

ヴィリ「悔い改めて」

 

ヴェー「クビだクビだクビだ」

 

ユミルの身体からはおびただしい量の血が流れ、大洪水を巻き起こした。

この洪水によってユミルの子孫達「巨人の一族」は溺れ死に、なんとか難を逃れたベルゲルミルとその妻以外は全滅してしまった。

ベルゲルミルとその妻は血の海の果てに追放された。

 

オーディン「あーもう滅茶苦茶だよ」

 

ヴィリ「人間の屑がこの野郎」

 

ヴェー「暴れるなよ……暴れるなよ……」

 

三人はユミルのバラバラになった死体をギンスンガップの裂け目の中に運び込み、『世界』を作り始めた。

肉を敷き詰めて大地を作り、血で海を、川を、湖を。骨は岩と山。歯は石、髪は草木に。頭蓋骨を大地に被せて天を創り、その四隅に小人を立たせて支えさせた。

ユミルの脳ミソはスカスカで軽かったので空に浮かべ、雲にした。

南の炎の国から取ってきた火花で太陽と月、星を作った。

追放した巨人族が入ってこれないよう、ユミルのまつ毛で柵を立て、その中に国を作り、黄金の屋敷を建ててそこで暮らし始めた。

 

指定暴力団『北欧会』の誕生である。

北欧会はバブル時代のようなきらびやかでギラギラした欲望まみれの生活を送る。

傘下のアースガルズ組とヴァン組の内部抗争や、巨人族のカチコミがあったりと揉め事は多々あったがそれでもおもしろ楽しく暮らしていた。

 

北欧会の創設者、オーディン。人間の英雄同士を戦わせてぶどう酒に酔う愉悦部。隻眼の神。長槍グングニル、肩にワタリガラスのフギンとムニンをとまらせ、ハトに餌やる感覚で狼ゲリとフレキを飼い、8本脚の早馬スレイプニルを持つという動物大好きじいさんという一面も。

 

幼女から怪物までなんでも変身可能、浮浪者のおっさん、ロキ。

フェンリル、ヨルムンガンド、ヘルの産みの親でもある。

 

脳筋ハンマー雷おやじ、トール。

腐女子の方々御用達、半裸の少年バルドル。

息子を溺愛するあまり世界中の皆にバルドルを傷付けない誓いを強制するヒステリーママ、フリッグ。

フェンリルに腕を喰いちぎられた天空神、テュール。

虹の橋から巨人族の襲来を警戒する守護者、ギャラルホルンの奏者、ヘイルダム。

性欲のバキュームカー、フレイヤ。

フェンリルの顎を上下に引き裂く北欧神話のサザエさん、沈黙の神ヴィザールなどなど。

 

愉快な仲間達が織り成す北欧神話のストーリー。

ある時、アース組ではあらゆる攻撃が通じないチートを使うバルドルに、色んなものを投げつけるという遊びが流行っていた。

ロキに誘われてその遊びに加わった盲目の神ホズ。彼はヤドリギの木でできた矢を放ち、矢はバルドルの身体を貫いて彼を死に至らしめてしまう。

 

バルドル「なっ……なんじゃあこりゃああああああああああ!!!」

 

世界で一番イケメンでショタ要素持ちで性格も良くて知性も高く人気者だったバルドルを失った北欧会は、徐々に暗い雰囲気になっていく。

 

オーディン「確かバルドル死んだら世界滅びるとか言ってた奴いなかった?」

 

ヴィリ「あーなんか居ましたねー魔女が」

 

ヴェー「もうダメだぁ……おしまいだぁ」

 

とりあえず腹いせにロキを拷問するアース組。その責め苦は苛烈を極める。

 

ロキ「ンアーッ!」

 

次第に世界の歪みが生じ始め、アース組ならず世界そのものが終末に向けて動き出す。

天候は荒れて寒い冬が来て、国は霧に覆われて人々は狂気に取り付かれて暴れだす。

星を追う狼に太陽と月が喰われ、世界から光が消える。星が落ち、凄まじい地震が世界を揺らす。

 

オーディン「もう駄目かも分からんね」

 

ヴィリ「俺らァ、どこで間違えてしもうたんかいのぉ」

 

ヴェー「みんな死ぬしかないじゃない!」

 

未曾有の大災害で悪しきものの封印が解け、魔物や巨人が決起し暴れだす。押し寄せる亡者の群れ。

浮浪者のおっさんロキも釘バットを振り回しながら襲いかかる。

 

オーディン「デュエル開始の宣言をしろ!磯野!!」

 

ヘイルダム「デュエル開始ーっ!!」

 

神、巨人「「「「「決闘(デュエル)!!!」」」」」

 

世界を飲み込む狼フェンリル、毒を吐く巨大な蛇ヨルムンガンドというラスボスクラスの怪物まで現れて今日もどったんばったんお・お・さ・わ・ぎ♪

 

大戦争の末登場人物のほとんどが死に、世界は燃え落ち海に沈んだ。

 

世界☆滅亡

 

バッドエンド……

 

 

しかしその後、沈んだはずの世界は海から浮かび上がり、かつての豊かな姿を取り戻す。太陽が死ぬ前に産んだ娘が新たな太陽となり世界を照らす。

あの全面戦争でも生き残った者達がいた。

ヘルメットが無ければ即死だったヴィザール、トールの息子マグニ、死の国から甦った光の神バルドル。

彼らは昔話に花を咲かせ、穏やかに暮らすのだった……

 

おしまい。

 

ここで注目してもらいたいのは一つだけ。

北欧神話は『滅びる事が確定した物語』だということ。

滅びに向かって徐々にストーリーが進んでいく点は、まさにオルフェンズ本編が辿った道筋と一致します。

原作の最後を北欧神話になぞらえる事ができるのならば、原作をベースとするバエルゼロズもまた北欧神話を基準にしたいと考えました。

なので神話の数だけ世界創造の数もある中、バエルゼロズ世界の宇宙の始まりは北欧神話を参考にしたものとなりました。

 

さらにオルフェンズ世界のキーアイテムとなるエイハブ・リアクター。

エイハブといえばやはり『白鯨』に登場するエイハブ船長だと解釈し、彼の境遇も取り入れてみました。

エイハブの心を支配するのは、自身の片足を喰いちぎった白鯨モビィ・ディックへの復讐心、憎悪。モビィ・ディックを追って世界中の海を旅する狂気の人物として描かれます。

 

この知識を元にマステマの言う『世界の真実』を見ていきましょう。

 

・まず最初、この世界には何もなかった(北欧神話と一致)

・いつからか『力の世界』と『可能性の世界』が存在していた(ムスペルヘイムとニブルヘイム)

・エイハブ粒子が世界を繋いだ(空間の裂け目があった)

・『力の世界』のエネルギーが『可能性の世界』に溢れ、一つの生命が生まれた(ムスペルヘイムの熱気とニブルヘイムの霜がぶつかり、滴となった。滴は一つの生命となった)

・生命は『ユミル』と名付けられた(まんま北欧神話)

・ユミルからあらゆる物質、時間、光が生まれ、この世に満ちて宇宙となった(ユミルから巨人の一族が生まれた)

・ユミルはもっと成長したいと考え、『力の世界』からエネルギーを吸い取りたいと考えた(ユミルはアウズフムラの乳を飲んで成長した)

・ユミルは『エイハブ粒子を作り出す存在』が生まれるよう環境を整え、あとは眠って待っていた(ユミルは寝転ぶばかりで、大きなわめき声で怒鳴り散らすので会話は不可能だったという)

・生命体(人間からすれば地球外生命体、宇宙人)が誕生し、その中でエイハブ粒子を生成する存在が生まれ、『力の世界』からエネルギーを運ぶ奴隷となった。(ユミルが巨人族を奴隷として扱った描写はないので、この魂を喰らうという設定は白鯨『モビィ・ディック』要素が強い。また人間はユミルから直接生まれたのではなく、ユミルの作り出したものから生まれた、半分自然発生したものという位置づけ)

・そんな中、地球が出来て人間が生まれた(ユミルの創造物巨人の血が半分流れる神、オーディン、ヴィリ、ヴェーが生まれた)

・人間もエイハブ粒子を発生させる存在として成長し、やがて一人の少年が宇宙へ飛び出す(三人の神は成長し、自我を持ち始めた)

・宇宙へ旅立った少年はユミルに魂の一部を喰いちぎられ、ユミルの心臓(この世で最初に発生したエイハブ粒子)を盗み取る(エイハブ船長が白鯨に片足を喰いちぎられ、その報復心に燃える。エイハブは鯨の骨を義足にして甲板まで歩く)

 

この辺りから白鯨要素が強くなります。

 

・少年は『力の世界』に逃げ込み、海に漂って真理を悟る。この世界に神はいない(刹那・F・セイエイみたいなことを……)

・少年は再び地球に転生し、自身をエイハブ・バーラエナと名乗る(『ユミル』の姿が白い鯨に見えた事から)

・エイハブはユミルを殺すため、様々な手を尽くす(エイハブ船長は世界中の海を旅する)

・エイハブの最終目標はユミルを殺し、そのエネルギーと可能性を全て人間のものにする(オーディン、ヴィリ、ヴェーはユミルを殺し、その身体で世界を作る)

・完全体になった人類が、その方舟である『世界』に乗って、エイハブ粒子の特性を活かして『別の世界』へ旅立つ(ここはオリジナル要素)

 

・アグニカはユミルと繋がっている(エイハブ船長はモビィ・ディックと魂が結びつけられてしまった)

 

という流れになります。

 

独自解釈と世界観崩壊設定と謎知識で組み立てられた『世界の真実』なので、正直読者様の反応が怖い部分もあるなーとは思います(/ω・\)チラッ

 

でもまあ本作はこの設定でつっ走ろうと思っていますので、流し読みで結構ですのでお付き合い頂ければと思います。

 

マステマ「世界観の崩壊は始まっている。後戻りはできないと思った方がいい」

 

ヨフカシ「元よりそんなつもりはねえよ」

 

さてさて、マステマが訳の分からん事をペラペラ喋ってましたが、ラスボスが主人公の前で自らの理想や野望を語るというのはB級映画ではよくあるシーンですよね。

 

オルフェンズは説明されていない設定や謎が多くあり、そこに自分なりの答えを出せるのが二次創作のいい所だと思っています。

なので今回のぶっ飛んだ新設定も、ヨフカシなりに出した『答え』です。

こんな意味不明な作品が一つぐらいあってもいいよね?(^ω^)世の中広いしハーメルンは寛大だもんね?(媚び売り)

 

そもそもバエルゼロズを書き始めたのも、原作の終わり方に納得できず(特にバエルの不憫さ)、自分なりに答えを出したいと思ったのが始まりでした。

前提条件を変える事が、結論を劇的に変えてしまう大きな要因だと思っていたので、本作で一番大きい前提条件の変更が『初期からアグニカとバエルゼロズがいる』であり、コロニー編でそのアグニカの生い立ち、産みの親、世界の真実を語る事となりました。

まさかドルト編で最終回直前みたいな話になるとは思ってもみませんでしたが(笑)

 

まあアグニカからしてみれば厄祭戦終結まで持っていったので、ストーリーモードはほぼ見終わってるんですよね。エンディング(セブンスターズや他の仲間がどうなったか、厄祭戦終結後300年間でどうなったかなど)を見ていないだけなので、実質バエルゼロズはノーマルモードをクリアした後に解禁されるハードモード。

追加要素という訳です。

なのでいきなり難易度ナイトメアだったり(ブルワーズ編でダインスレイヴとか核爆弾とか人間爆弾とか、ドルト編でコロニー落としとか)フラグが乱立したり(マクギリスが速攻で部下になる、フミタンと恋人になるなど)隠し設定が公開されたり(三日月がアグニカのクローンとか)色々ありました。

 

答えといえば、『オルフェンズ最終回はどうしてああなってしまったのか?』という疑問はアグニカを主人公にする前からグルグル考えてまして、尺の都合とかガンダムが格好よく戦うにはああするしかなかったというメタい話は置いて考えた結果、

 

 

『黒幕がいるんじゃね?』

 

 

というド安直ド無根拠な結論にたどり着きました。

 

ヨフカシ「なんかめっちゃ悪い奴がいて、そいつが表に出てこないまま暗躍して鉄華団や世界を操ってバッドエンドに持っていったんだよ!!フミタンが死んだのも!!ビスケットが死んだのも!!名瀬さんアミダさんが死んだのもラフタやシノが死んだのもマッキーが頭バエったのもガリガリが生きてたのもダインスレイヴ無双になったのも三日月が死んだのも!!全部!!!!」

 

悪い奴がいたんだよ!!!!

 

 

そんな作者の弱い心、歪みが生んでしまったのが『マステマ』というキャラクター。

 

原作オルフェンズの責任を全て取るように命じられて生まれてきた忌み子が『憎悪の天使』であり、その思想と性格の歪みはつまり作者の歪みです。オルフェンズを見終わった時の感情の一部が命を持って動き出した存在。

フル・フロンタルかな?

 

なのでバエルゼロズのストーリーはマステマと一緒に心中するつもりでいます。

 

マステマ「ずっと……一緒にいようね」(ヤンデレ風)

 

ヨフカシ「ああ……愛してるよ」(イケボ)

 

たとえバエルゼロズがポプテピピック並のクソ作品となろうとも、作者はマステマを手放す事はしないでしょう。

そもそも作者の考える「マステマのキモさ」とは、正体や目的が分からない不気味さではなく、正体も目的も分かっているからこそ、その歪みっぷりが分かってしまう「嫌悪感」「理解不能感」から来るものであって欲しかったため、マステマの口から世界の真理を語るシーンを早める事にしました。

 

ヨフカシ「この設定の不備が作品の不備にも繋がる。そういう不利益はどうする?」

 

マステマ「それ以上の愉悦(メリット)を、私は君達に提示し続ければいいのだろう?」

 

ヨフカシ「……分かった。あんたのガワに乗ってやる」

 

マステマ「では……」(手を差し伸べる)

 

ヨフカシ「……」

 

マステマ「共に駆け上がろうか」

 

ヨフカシ「フッ」(ガシッ)熱い握手

 

にしきのみはーたをかーかげよー♪

ぼくらはーボン★クラァー♪

 

 

世界の真実と、自身の秘密について知ってしまったアグニカ。

話を聞いてる途中は終始ドン引きしています。

言葉も出ないほど引いているアグニカとかいう、ここ数世紀で最も珍しい映像をご覧になりましたね。

アグニ会ならエターナルメモリーとかいって大聖堂に飾るレベル。

 

『アグニカは人間じゃない』

『バエルにはモビルアーマーを操る特殊能力がある』

 

こんな当たり前の事を書くのに一年もかかりましたよーあははー(笑)

皆知ってる事なのにねーもー(笑)

 

まあそこはヨフカシクオリティ、最低最悪の手順で再現したつもりです。

 

人間は神の奴隷とか

魂の進化とは神への献上品を盗む事だったとか

エイハブリアクターはニュータイプから作られてるとか

ガンダムこそが人類の新しい形とか

モビルアーマーは人間を人間として見てなかったとか

アグニカは人間じゃなかったとか

 

これらの話を全部聞いて、最終的に出した結論が

 

『ぶっ殺してやる!!』

 

なのがアグニカのいい所ですよね。

ここでウジウジ悩んだり「正義とは?」とか言い出すタイプだと正直かったるくて書いてられないのでエタっていた可能性すらある。

 

その点アグニカの化物メンタルなら「気に入らねえもんは全部ぶっ壊してやる」という方向に持っていけるので非常にシンプル。世界観が複雑なだけあって、主人公の目的くらいは分かりやすくあってほしいですしね。

マステマの意味不明さ、嫌悪感たっぷりな理想を破壊するという形なので敵対関係に持っていく理由付けもすんなりできて、読者様の共感も受けやすいかな?という期待もしてみちゃったり。

 

 

まあそんなこんなで己の正体を知ったアグニカは『人間らしくあるためのリミッター』を意図的に外します。

 

今までは父親の愛情を確認したいがために、父親の遺言に従って誰にも自分を否定させなかったアグニカ。

周りからどれだけ化物だと言われようとも、「僕は人間だ」精神を忘れず、己に課してきた結果がアグニカの性格なのです。

 

そんな彼の役割とは『ガンダム(新しい人類)に否定される事』

 

どこまでも人間らしいアグニカ。

裏を返せば「人間の愚かさ」「人間の不器用さ」「人間の不完全さ」を極めた存在でもあり、絶対に救われない存在。

ユミルの呪いにより死ぬ事もできない。

 

全人類(じゃなくても多くの人間)が完全な生命体(ガンダム)になった後、最後の人間として『座標』になる事を義務付けられて生まれた存在。

つまり反面教師。

 

前に進むガンダム達、後ろを振り返ると、もがき苦しむ『最後の人間』がいる。

「ああ、不完全な人間とはああも苦しむのだな」と確認し、「アグニカの反対方向」に進む自分達は正しい道を歩んでいると思い込める。

 

彼ら「さあ坊や達、あれが悪い子のやることですよー」

 

ガンダム「「「あーっひゃっひゃっひゃっ!」」」

 

彼ら「皆はあんな風になっちゃ駄目ですよー?先生の言う事よく聞きましょうねー?」

 

ガンダム「「「はーいっ!」」」

 

アグニカ「(^ω^)」(純粋な殺意)

 

というイメージ。

死骸を浄化し天に送る炎の神、アグニ。

アグニカの父、ディヤウスが彼を「アグニカ」と名付けた。その時点でアグニカの役割は決まっていたのです。

 

バエルゼロズとはアグニカから漂うバッドエンドの香りにドン引きする人々のストーリーでもありましたが、そりゃあ引きますよ。宇宙規模で「幸せになれない」「報われない」と運命づけられていた男ですもん。

 

彼の厄祭戦という戦いすら茶番だったと知った時の、アグニカの心中を覆う絶望。

 

いやー、ほんと、便利な言葉に頼りっぱなしで申し訳ないんですけどね、

 

 

『愉悦』!!!!!!

 

 

 

いやいやー、毎度同じ事ばっかり言って、自分の語彙力の無さが不甲斐ないんですけども

 

 

『ゆ  え  つ』!!!!!!!

 

 

でも勘違いしないでくださいね!

私は別にアグニカの事が嫌いになったとか、書くのが億劫だから雑に扱おうとかそういうのじゃないんですよ!

 

むしろこんな絶望的な状況!!

糞みたいな世界設定だからこそ!!!

 

 

それを打ち破るアグニカが!!!!

 

 

最高にかっこいいんでしょうがっ!!!!!!

 

 

好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね) 好き(死ね)

 

大好き(苦しめ)……

 

愛 し て る よ(もっと苦しめ)アグニカ!!!!!!!

 

 

 

アグニカの覚醒に反応したバエルゼロズが瞬間移動。

イサリビ内からドルトコロニー内にまで転送されます。

そのコクピットに単身瞬間移動するアグニカ。チートここに極まれりですね。

でもアグニカがどんどんチート使えるようになって強くなっていったとしても、状況はほとんど良くならないってのホント好き。

 

そしてようやく赤い雨前編に繋がります。

グレイズ・アイン目掛けてバエルソード投擲、腕を切断。これはクー様達を助けるため。先にコクピットを潰しても良かったですがそれだと腕が振り抜かれてクー様達も死んでいた可能性があるので。

続いてバエルライダーキック。

これもグレイズ・アインをクー様達から遠ざけるため。

 

皆さんお待ちかねバエルゼロズVSグレイズ・アイン。

アグニカは冷徹にアインの攻撃をいなし、武装を破壊していきます。

正気を失った(ついでに言語能力も失った)アインは早々に四肢を破壊され達磨状態に。

 

アグニカの強さは『40代まで生き延びた三日月』を指標としているので、成熟した三日月ならグレイズ・アインも軽々と倒せるだろうという目算でバエルゼロズの勝利。

逃走したアインを追うアグニカですが、クランクが倒れているのを見かけ、ギリリと歯噛み。

死にかけの(あるいは既に事切れた)部下を見捨てて敵を追うアグニカ。

これこそ厄祭戦という地獄を駆け抜けたアグニカのイメージそのものでして、このシーンは書いてて最高に楽しかったです。

作中での描写はルシファー戦でジーンを見捨てた時ぐらいかな?

とにかく最高なんだよ!

 

宇宙に出たバエルゼロズ。アリアンロッド全軍にその姿を目撃されます。

そしてマッキーはもう何回目かも分からん「バエルだ!!!」

まさかのご本人登場に固まるギャラルホルン兵士達。

 

グレイズ・アインはルシファーの武装を彷彿とさせる六本羽の巨大兵装を装着。

その能力は圧縮したエイハブ粒子を一定期間その場に留めるというもので、簡単にいえば「ビームサーベル」。

この世界風に言えば「ビームメイス」。

質量を持ったビーム、殴り付けるビームとも言う。

そこにナノラミネートアーマーを無力化するγ-ナノラミネートソードの効能を付加する事で、モビルスーツの装甲すら焼き切れるチート兵器の完成。

今回一番の世界観崩壊。

 

羽剣による『赤い雨』のような刺突。

今回のタイトル回収ポイント。

その攻撃は凄まじく、アグニカが作中で初めてスラスターウィング内蔵レールガンを使ったほど。

あのアグニカをして「こいつとは一旦距離を取りたい」と思わせるほどであり、初見殺しのオーバーテクノロジーがいかに凶悪かを現すシーンでもあります。

 

実際相手を効率良く殺すためには不意討ち闇討ち騙し討ちが一番なのですが、問答無用の初見殺しで「獲り」に行くのもまたよし。

 

アグニカの強さ、心の拠り所を言葉で揺さぶり、超反応にも対応できるよう自身の脳を弄くり、バエルの強みである高機動を越える新型スラスター、モビルスーツの強みであるナノラミネートアーマーをも貫ける剣、ガンダム・フレームの強みである高出力による馬鹿力を越えるビームソードの反発力と、万全の準備を整えた上で練りに練った『バエル抹殺作戦』。

これにはアグニカとバエルゼロズも苦戦を強いられます。

アグニカがうめき声出すとかルシファー戦以来じゃね?

 

気迫、武装共にアグニカを殺せそうな勢いだったが、本場アグニカのバエルパンチを喰らってマットに沈んだ。

まあ頑張った方ではないでしょうか。

 

バエルの隠し設定(?)、『アグニカは格闘戦メイン』という切り札をここで使わせてもらいました。

剣を失ったらバエルは無力なのか?

ノンノン!必殺バエルパンチがあるよ!

 

しかもアグニカが覚醒した事でバエルも覚醒。リミッターの最高出力を越えたエネルギーでフレーム硬質化。

バルバトスがグシオン戦で起こした現象ですね。

リミッター内部にいる『魂』がパイロットの意思に反応して、外部にあるフレームを自身の一部としてエネルギーを送り込めるという現象。

アニメでも散見された、バルバトスの目がキュピーン☆ってなるあれです。

あれはこの設定の前振りだったんですよ!(大嘘)

 

色々はっちゃけてくれたアインくん。

結果だけ見るとアグニカのストレスをぶつけられた可哀想な犠牲者一号(そう、一号です。犠牲者はまだまだたくさん出ます)になってしまった。

 

『主人公の激情は叫び声ではなく拳で表現すべき』という持論の元、最後のアグニカの

 

『俺が全部ぶっ殺してやる!!』

 

を彩るために必要不可欠な敵役だった事もあり、グレイズ・アインの存在意義は本当に大きかった。

ありがとう、アイン……

また会おう、アイン。

 

 

 

まとめ終了!

ふぅ……なっげえ!長すぎ!馬鹿じゃねえの!?(自分)

もっと分割するとか工夫しろよ馬鹿!!

 

まあ作者の趣味、作者が楽しい事を垂れ流しただけの話になっちゃいましたが、今後バエルゼロズのストーリーを書くうえで必要な転換点でもあったので、ひと山越えてほっとしております。

 

 

これからも投稿は遅くなるかもしれないけど許してヒヤシンス☆

 

オルフェンズは00とよく比較されるので、事の発端であるイオリアとエイハブを比較してみると……

 

『目的』

 

イオリア→人類の抱える争いの火種を解消し、外宇宙生命体との『来るべき対話』に備える

 

エイハブ→全人類をガンダムにして『神』ことユミル、あるいはモビィ・ディックを殺害し『来るべき滅び』の回避。そのエネルギーを使って異世界旅行

 

 

『人間の可能性』

 

イオリア→信じたいけど信じきれない

 

エイハブ→最初から信じていない

 

『計画の修正プラン』

 

イオリア→ある。こんな事もあろうかと

 

エイハブ→ない。失敗すれば死ぬだけ(全人類が)

 

『人類のあるべき姿』

 

イオリア→知性を正しく使い、本質を見失わず、お互いに分かり合おうとするべき

 

エイハブ→自分だけの世界を作り、そこから一歩も出る事なくガラス越しに触れ合うべき

 

『宇宙で出逢うであろう生命体に対して』

 

イオリア→共存の道を探すべき

 

エイハブ→殺すべき。全てのエネルギーをガンダムのものに。

 

 

 

エイハブくずかよ……

イオリアと比較するものおこがましいほど凶悪で狂った人じゃん……なんだよこれ……(震え)

まあそれほどまでに世界が残酷だったということで……

エイハブは『ELSがドクズ殺戮ヒャッハー生物、あるいは無感情の化物』だった世界で、それを知ってしまったイオリア……と言えなくもない、かな?

 

逆にエイハブとイオリアに共通していること

 

エイハブ・イオリア『『宇宙人が来るのはまだまだ先だろ(笑)』』

 

00が希望に満ちて終始キラキラ綺麗でメッセージ性に富んで分かり合う事の大切さが分かって主人公刹那も変わろうと模索して救われる終わり方だったのに対し、

 

バエルゼロズは希望なんて無くて終始ドロドロしててメッセージ性なんて無くて伝わってくるとしたら怨念と憎悪だけで分かり合った所で何の意味もなくて主人公は否定されるためだけに生まれてきて絶対に救われない終わり方が確定している……

 

な に こ れ ?

 

ちょっと意味が分からない……

まるで意味が分からんぞ!?

 

そんなバッドエンド確定のバエルゼロズで良ければ、これからもお付き合いください(^ω^)

 

さて今回はここまで!

最後に前編で出てきた謎の全裸王の話をして閉めるよ!

さらばだ諸君!また次回会おう!

 




カルネシエル家の最奥にある長い通路、『呪詛』の間には秘密の地下設備があった。
そこに偶然転げ落ちたアドルフとビビアン。
地下にあった巨大な水槽をぶち割って現れた、全裸の男(謎の後光)。

それが今、カルネシエル家の縦長の食卓机の前に座っている。

湿った金髪を後ろに流し、整った顔は(何が嬉しいのか)微笑を浮かべている。

服は屋敷にあったものを見繕って着てもらった。だから彼はもう全裸男ではない。
ただの不審者である。

その不審者をテーブルに着かせたのは、他でもないカルネシエル家現当主、アドルフ・カルネシエルである。

「悪い人じゃないよ、たぶん」

にへらっ、とした笑顔で言う。
メイド達も最初は驚いていたが、アドルフが拒否しないのならば無害な人だろうと気を許した。
ただ一人のメイドを除いて。

「どう考えてもヤバいでしょ!あんな変態、今すぐ追い出すか閉じ込めるべきよ!!」

カルネシエル家メイド見習い、ビビアンである。相棒は清掃用モップ。
先程からアドルフの脛を蹴り続けている。

「いやいや、仮にもうちの地下で暮らしてたんだしさ、無下に扱うのはどうかと思うよ」

「暮らしてた!?あんな液体浸けのどこが人間のライフスタイルなのよ!!」

すると元全裸男から声がかかる。

「飯はまだか?」

「痴呆老人みたいなこと言ってるし!!」

ビビアンのツッコミにも微笑で答える。

「余は空腹じゃ。馳走を用意せい馳走を」

「無駄に偉そうで腹っ立つ!!」

「まあまあ」

いきり立つビビアンをなだめ、元全裸男に食事を出すように指示を出す。

「しっかし、なんか……どっかで聞いた事あるんだよなぁ」

「はあ?何がよ」

顎に手を当てて考え込むアドルフ。

「地下にいたあの人の事……どっかで……」

「あいつの事知ってたの?ならなんですぐ通報しないの?馬鹿なの?」

「あっ」

アドルフの頭上で電球が輝く。
彼が思い出したのは、カルネシエル家に伝わる遺言だ。
たしか内容は……

『全裸の馬鹿が起きたら言う事聞いてあげて』

「「全裸の馬鹿」」

二人の視線が、食事をバクバクと平らげる元全裸男に注がれる。

「あの人……どんな人なんだろう」

「ちょ、ちょっと!」

アドルフはテーブルに向かって歩いていく。
そして元全裸男の対面に座る。

「始めまして。僕はアドルフ・カルネシエル。この家の当主をしています」

「ん?……そうかそうか。お前が今の当主か」

元全裸男はうんうんと頷く。
そして名乗られれば名乗り返す。これは作法だ。

「余はソロモン・カルネシエル。カルネシエル家の初代当主であり、お前の先祖にあたる」

「なっ……!?」

驚愕に目を見開くアドルフ。
カルネシエル家の初代当主!?
この家の起源はは300年前の厄祭戦にまで遡るというのに!

「余は眠り続けていたのじゃ」

「はっ!?嘘でしょ!?」

ビビアンがアドルフの後ろに立つ。
彼女は信じていない様子だ。

「初代当主って言ったら300年前じゃない!人がそんなに生きられる訳ないでしょ!」

不可能かと言われればそうでもない。
厄祭戦以前の高い技術力なら、コールドスリープ技術は現在よりもはるかに発展していた。
凍らせるだけではなく、培養液の中でうたた寝のような状態を数百年続ける事だって、理論上は可能だった。
だが莫大な費用と設備を用意してまで、数百年も眠り続ける理由がない事から、ほとんど普及していない技術だ。
ソロモン・カルネシエルはそれで数百年も眠り続けていた。

「む?アドルフお主、そこのメイドと恋仲なのか?」

「「なっ!!」」

同時に顔を赤くするアドルフとビビアン。
もう付き合っちまえよ、とメイド達は頷く。

「はっはっは、魂が惹かれあっておる。きっと良い夫婦になるぞ」

「なっ、なっ……ななな」

わちゃわちゃと身体を揺する二人。
それを微笑ましく見つめながら、ソロモンは食事をすませ、口を拭う。

「さて、オセはどこじゃ?」

「え……」

アドルフはその言葉を聞いて固まる。

「オセ……?」

気まずそうに視線を迷わせる。

「ん?オセはオセじゃ。ガンダム・オセ。オセ・ライトニングヒーロー・ジーク・アグニカ。近くにはないようじゃから、どこか別荘にでも保管しておるのじゃろう?余はアグにゃんと違って、あまり遠くまでは感知できんのでな」

「あ、あのですねー……実は……」

アドルフは申し訳なさそうに俯き、言った。

「オセは……海賊組織に盗まれてしまいました……」

家の象徴であるガンダム・フレームを、盗まれてしまった。
それを聞いたソロモンは、しばし硬直する。

「なっ…………」

やがてポツリと呟いたかと思うと




「なんということだぁあああぁあぁあああぁぁぁあああぁあああぁあああぁあぁあああぁあああああああああぁぁぁあぁあぁあああああああぁぁぁあああああぁあああああぁああああっ!!!!!」

ビリビリバリバリビリバリッ!!!


服が破れ散った。

「「だから何故全裸に!!?」」

全裸男に逆戻りである。

「ふぅーーーーーー……。落ち着け。盗人に奪われたのなら、取り返しに行けば良いだけの事」

ソロモンは全裸になったまま机の上で直立し、両手で顔を押さえている。
局部には謎の後光が射し込み、うまいこと見えなくなっている。


「オセが無ければ……余はアグにゃんの隣で戦えぬではないかぁ……!!」

拳を握りしめ、机の上を歩く。
必然、アドルフの方に向かってくる形となり、あまりのプレッシャーに立ち上がるアドルフ。アドルフの肩にしがみつくビビアン。

全裸男ソロモンがアドルフの目の前に立ち、見下ろしてくる。後光が眩しい。

「これより!!カルネシエル家の象徴であるガンダム・オセを取り戻しに行く!!」

「え、ええ!?」

「我に続け!!」

ヒラリと机から飛び降り、そのまま外へと歩いていくソロモン。
堪らず追いかけるアドルフ。ついでにビビアン。

「ちょ、ちょっと待って!服を!!服を着てください!!」

「待っておるのじゃぞお!アグにゃん!!余がすぐに駆けつけるからなぁ!!」

ズンズン歩いていく全裸男。
その名はソロモン・カルネシエル。
300年前の厄祭戦で、ガンダム・オセに乗ってアグニカ達と共に戦った男。
それがアグニカの『声』に反応し、目覚めたのだ。
アグニカの戦死を認めず、いつか必ず帰ってくると信じて。
あんな地の底で眠っていた。
ずっと待ってた。

アグニカを信望する狂気のストーカー集団


アグニ会初代会長
ソロモン・カルネシエルが出撃する!


「ジィィィィィィィィィィィィィク!!!!!アグニカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」



【挿絵表示】


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