アグニカ・カイエル バエルゼロズ   作:ヨフカシACBZ

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俺からのクリスマスプレゼントだ!
喰らえオラァ!!


9話 止まらない

黒いカジュアルな服装の男が、ソファに腰掛けて窓の外を見ていた。

髭を蓄えた口許は穏やかで、その目はどこか遠くを見ている。

ウェーブのかかった黒髪は艶があり、全体的に男の色気を醸し出している。

 

そんな彼の元に、一人の子供が歩いてきた。

最近立って歩けるようになってからは、あちこちを探索するのが日課になっている。

その男の子は本を持っていて、ソファに腰掛けた男に近寄る。

 

「パーパ」

 

「アグニカ」

 

アグニカと呼ばれた子供は、青い瞳をキラキラと輝かせている。

 

「よんでー」

 

「んん?ご本を読めばいいのかい?」

 

「うん!」

 

男はアグニカを持ち上げると、自身の膝元に置き、本を開いてやる。

 

本の中には、色んな種類の動物が写っていた。

 

「プーちゃん」

 

「ああ、これはコツメカワウソだね。インドや東南アジアに生息していたけど、河原や湖が根こそぎ蒸発してしまったから、絶滅してしまったんだ」

 

「ぜちゅめちゅ?」

 

「もう会えないってこと。さよならーって」

 

「ばいばーい」

 

「そう、ばいばーい」

 

アグニカはコツメカワウソのページを気がすむまで撫でると、次のページを開く。

 

「ガラパゴスペンギンだね。海温が高くなりすぎて、エサが取れなくなったんだ。そしたらもう、絶滅するしかない」

 

「ばいばーい」

 

アグニカは小さな手を振る。

ページをめくる。

 

「カバだね。旧アフリカ地方は酷い状態だったから。まともな食べ物も手に入らない。食用に狩られて、あっという間に絶滅さ」

 

「もぐもぐ」

 

口を動かして、ものを食べる真似をする。

ページをめくる。

 

「ハシビロコウだね。こいつもいつの間にか絶滅しちゃったんだ」

 

「ばいばーい」

 

幾つかページを進めていくと、今度は幾つもの町や建物が載せられたページになった。

 

「バッキンガム宮、セントジェームス宮、スコットランドヤード本庁、ウエスミンスター寺院、トラファルガー広場、ロンドン塔、大英博物館、ロンドン橋

ここらは歌のように燃え落ちたね」

 

他にも沢山の町、国、歴史のある建造物が載せられていたが、アグニカはあまり興味が無いらしく、ぺらぺらと捲っていく。

 

「パーパー、これ、なにー?」

 

アグニカは本自体の事を聞いているようだ。

確かに動物や建物、国、政治機関、消失した技術や人物名。

今まで読んだ事の無い、まとまりが無いものだった。

 

「この本はね、アグニカが生まれてから消えてしまったものを載せているんだ」

 

「ばいばーい?」

 

「そう、ばいばーいしたものだ。でも、アグニカが知らないのは可哀想だろう?だからこうやって本にしたんだ」

 

「ばいばーいの……ほん……きゃわいそぅ……」

 

アグニカは噛み砕くように反唱する。

 

「この本はね、パパが作ったんだよ」

 

「パーパ?」

 

アグニカがぱっと振り返る。

 

「パパが、ご本を、お絵かきしたんだ」

 

「パーパ!おえかきっ!」

 

「うん」

 

アグニカは嬉しそうに笑うと、父親の膝から飛び降り、どこかに行ってしまう。

少しすると、手にクレヨンを持って帰ってきた。

 

「おえかき!」

 

次のページを開くと、そこには一人の女性が写っていた。

青い瞳と、穏やかな微笑が印象的だ。

 

「マーマ」

 

「そう、ママだよ」

 

「おえかき!」

 

女性の顔に、赤いクレヨンで線を引く。

穏やかな表情は、次第に赤い亀裂でヒビ割れていく。

 

「まんまんま、まーま、ままーまー」

 

上機嫌に口ずさみながら、母親を赤く塗り潰していくアグニカ。

父親に振り返って、微笑む。

 

アグニカは抱き上げられた。抱っこだ。

 

「だっこ」

 

きゃっきゃっとはしゃぐアグニカを、父親は床に思いきり叩き落とした。

ドンッ、と鈍い音がする。

柔らかいカーペットとはいえ、手加減無しに落とされれば痛い。

衝撃に跳ね、机の足に頭をぶつける。

その柔い頭からは血が出ていた。

 

「んぅっ!」

 

口元まで垂れてきた赤い液体、それを珍しそうに手に取り、見つめる。

目をぱちくりとさせ、赤い液体を舐めてみる。

 

「ぶぇ」

 

苦い。鉄臭い。

子供の舌には、お世辞にも美味しいとは言えないだろう。

 

「きゃはははっ」

 

何故かおかしくて、アグニカは笑った。

アグニカの腹が蹴り抜かれた。

 

「ーーーーーーーっひゅ」

 

体内の空気が抜ける音。

喉から聞いた事も無い声が出て、アグニカは新鮮さに目を輝かせた。

流石に身体は動かないし、声も出ないが。

 

『笑うな』

 

それでも、アグニカは笑っていた。

唇はつり上がり、目はキョロキョロと動いていた。

 

『喜ぶな』

 

痛みも、苦しみも、異常事態も、父親の暴力も、彼にとっては

 

「楽しいかい?アグニカ」

 

身体が動くのなら、首をコクコク振るっただろう。

声が出るなら、答えただろう。

立ち上がれるなら、父親の元まで走って、抱きついただろう。

その頬にキスしただろう。

耳元で囁いただろう。

 

『楽しむな』

 

「お勉強をしようか、アグニカ」

 

おべんきょう。

アグニカの知らない事を、お父さんが教えてくれる。語ってくれる。

ご本を読んでもらうのと同じだ。

 

「今日は、魂についてだ」

 

アグニカはにっこりと、笑った。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ハンマーヘッド内部。

色んな場所から銃声や怒声、悲鳴が聞こえる。

船内に侵入を許し、そのまま制圧攻撃を受けている。

すでに多くの血が流れ、引き倒された機材や薬莢が無造作に転がっている。

通路は非常電灯、オレンジ色の光に染まり、点滅する光が不安を募らせる。

 

タービンズの女達は恐慌状態だった。

 

敵、ブルワーズの戦闘員達の戦い方は、もはや尋常ではなかった。

銃弾など恐れもせず、爆弾を抱えてバリゲードを突き破り、火炎放射器で部屋を焼き、残弾など考えていないような撃ち方をして、ナイフ一本でも襲いかかってくる。

どんなに傷を負っても、不利な状況でも、止まらないのだ。

その血走った目に、女達は威圧されていた。

明らかに異常だ。おそらく薬物か何かで正気を失っているのだ。

そうとしか考えられない。

 

「きゃああああ!」

 

モビルスーツデッキにて、悲鳴が響き渡る。

見れば、モビルスーツの整備班のクルーが、敵に押し倒されていた。

腕を押さえ、のしかかる。

こうなってしまっては、女の細腕ではどうにもならない。

 

周りの武器を持った女達は、その光景を見て、戦慄する。

 

同じだ。

前にもこの光景を見た事がある。

 

それどころか、あの襲われているクルーが、自分だった事がある。

 

搾取する側としての、男。

その汚物がパンパンに詰め込まれた図体で覆い被さってくる。

服を剥いで、尊厳を踏みにじって、清潔さを奪い去って、誇りすら噛み潰す、最低な存在。

卑下で、野蛮で、汚ならしくて、高圧的で、臭くて、おぞけがするような……

 

「ああああああああっ!!」

 

エーコ・タービンは、アサルトライフルを発射し、ブルワーズの男を撃つ。

背中に数十発、後頭部に数発当たって、ようやく男は動きを止めた。

その死体をどかし、クルーを助け起こす。

 

「大丈夫!?」

 

「うぅっ……!うう……うぅぅぅぅーーーッ!!」

 

襲われた女は、涙と鼻水で顔をグチャグチャにして、顔を覆って泣いた。

 

怖い。

敵は、名瀬という男が忘れさせてくれていた、彼女達のトラウマそのものだ。

せき止めるものが無くなれば、恐怖という感情は、もう止まらない。

 

「しっかりして!戦えないなら、せめて逃げて!!」

 

エーコも泣きながら叫ぶ。

助けて欲しい。誰かこの状況を変えて欲しい。

本心はそれを叫んでいる。

だが、ここで挫ける訳にはいかない。

 

エーコ達の前に、ひときわ大きな影が差し掛かった。

恐る恐る見上げれば、そこには豚の化け物がいた。

 

豚鼻とブヨブヨした皮が有り余った、「オーク」のような醜い顔の大男。

 

ブルワーズの頭領、ブルック・カバヤンだ。

 

「ブルルルルルルルッ……」

 

本当に豚か猪のような吐息、喉をたぷたぷと揺らす。

その目は血走っており、ヨダレがたぱたぱと垂れている。

その手には大型のチェーンソー(モビルスーツの製造道具と言われても違和感はない)を握っており、錆びたエンジンの音ががなりたてる。

 

ほぼノータイムで、チェーンソーの刃は降り下ろされた。

エーコは泣き崩れていたクルーと共に、横に飛ぶ。咄嗟の緊急回避だが、なんとか無事でいられた。

 

「ぎゃああああああああああ!!!」

 

耳をつんざくような悲鳴。

エーコ以外のクルーが三人いたが、一人は腕が切り落とされ、一人は上半身と下半身が真っ二つにされ、残った下半身から臓物が漏れている。残った一人は尻餅をつき、血と臓物の臭気に気絶した。

 

「に……にげ…………」

 

片や腕を失い、片や気絶している。逃げる事なんて出来ない。

腕を切られたクルーが、ブルックに首を掴まれる。

その万力のような指で、彼女の肌は容易く千切れ、首の骨は折れた。

動かなくなったのを確認してから、彼女のへそに歯を突き立て、そのまま噛み千切る。

臓物を喰い漁り、背骨をまさぐり、彼女の遺体を凌辱する。

 

気絶していたクルーにもチェーンソーを突き立てる。腹部に刺さったままエンジンが付き、刃が回転し始める。

 

気絶から目覚めたクルーは、腹部を断絶する地獄の激痛に、空気を切り裂くような絶叫を上げた。

それも、喉から血のあぶくが吹き出し、肉の欠片を吐く音に変わる。

 

暴力と憎悪の化身は、その双眼をエーコに向ける。

 

「ひっ……ひ」

 

後ずさりすらできない。

もう一人のクルーと抱き合い、身を震わせる。

 

「助けて……」

 

最愛の人を思い浮かべる。

自分達を家族だと言ってくれた、世界で一番の男の事を。

 

ブルックのチェーンソーが降り下ろされる。

だが、刃がエーコ達を切り裂く事はなかった。

ブルックの側頭部に、飛び蹴りを食らわせた者がいた。

そのお陰で、ブルックはよろめき、チェーンソーは空を切る。

 

「あ……あぁ……!」

 

エーコは歓喜に身を振るわせる。

目の前にいたのは

 

「大丈夫か!?エーコ!!」

 

白い帽子とスーツ、長い髪を後ろにまとめた男。

名瀬・タービンだった。

 

「名瀬え!!」

 

「こっから逃げろ!!」

 

名瀬は拳銃を抜くと、ブルックに向かって射撃した。

この巨体だ。適当に撃っても身体には当たる。

名瀬は的確に心臓と頭を撃ち抜いた。

全弾使い切り、大量の血が床に流れる。

 

「ブルルルルルRルルル₩□†αルルルЩд┣%@ルルルルル…………」

 

「マジかよ……」

 

それでも止まらない。

名瀬はひきつった顔をする。

周囲に倒れる女達、その変わり果てた姿を見て、奥歯をギチリと噛む。

 

「名゛瀬ェェ゛ェェ゛ェ……タァ゛ァァ゛ビン゛ンン゛ンンン゛ン……」

 

「ブルック・カバヤン」

 

ブルックの歯が迫る。見た目に反した俊足で、名瀬に喰ってかかった。

名瀬はブルックの頭の上に飛びあがると、くるりと回転して踵落とし。

顔面を地面に叩きつけさせ、そのまま踏みつける。

後頭部が陥没し、顔面が平たくなったが、止まる様子はない。

ガバッと飛び起き、猪突猛進の体当たり。

名瀬はヒラリとかわし、殺されたクルーが持っていたアサルトライフルに手を伸ばす。

荷物に派手にぶつかったブルックは、のっそりと起き上がり、チェーンソーを振り回しながら突撃してくる。

弾丸を浴び、肉が抉れ、骨が砕けようと、この異形は止まらない。

 

「ブルルルルルルルルルアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」

 

降り下ろされた刃を、アサルトライフルで受け止める。

その凄い力に、踏ん張るのが精一杯だ。

回転する刃の前には、この銃身も数秒と持たない。

赤い火花が散る。

 

「名瀬ぇ!!」

 

エーコの悲鳴。

アサルトライフルが真っ二つにされ、赤い刃が名瀬を襲う。

しかしブルックの足下の血が、ふんばっていた彼の重心を滑らせる。

自身の残忍な行いが足を引っ張った。

 

白い帽子が切り裂かれ、宙に浮く。

名瀬はぐらりと揺れるが、すぐに立て直す。その瞳はギラリと輝いていた。

憤怒の炎だ。

 

「おおおおおおおおおおおらああああああああああああああっっっ!!!」

 

振りかぶり、ブルックの顔面に拳を叩きこむ。

巨体が浮き、数メートル吹き飛んでから、仰向けにドスンと倒れた。

 

そこに武装した女達が増援に駆けつけ、銃弾を雨霰と撃ち込む。

ブルックは蜂の巣だ。

 

「あぶぶぶぶぶぶがぶぶぶぶるるぶぶぶぶあああっぶぶぶぶっぶぶぶぶぼぼぼびびなびびびびびびびびび」

 

最後まで汚ならしい豚のような悲鳴をあげながら、ブルック・カバヤンは死んだ。

 

「名瀬っ!」

 

エーコが名瀬に駆け寄る。

名瀬は額に切り傷を作り、鮮血が顔を染めていた。

 

「名瀬……っ!名瀬ぇ!!」

 

「大丈夫だ。これぐらい」

 

名瀬の胸に飛び込んで泣きじゃくるエーコ。

その頭にポンと手を置き、強く抱き締める。

 

「お前らの痛みに……比べたらッ!!」

 

「う……うぅぅ……うあああああああああああああああああああっ!!!」

 

エーコは堪らずに泣き崩れた。

そんな彼女を、名瀬は悲痛な顔で抱き続けるのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「くそっ!クソ、クソ、クソ!!ちくしょう!!とっとと終われよ畜生がぁ!!」

 

シノは暴言を吐きながら、額の汗と返り血を拭う。

もう何時間も戦っている気がする。

体力も気力もジワジワと削られ、時間感覚が曖昧になっている。

最初は優勢だった防衛戦も、あの大きな揺れの後、建て直しに手間取った事で、致命的なミスをした。

敵の姿を見失ったのだ。

そこからはゲリラ戦。

意識の隙間や死角からの攻撃、ちまちまとこちらを削る攻撃やトラップに、精神が磨耗していく。

 

「くそおおおおお!!」

 

「あっ!馬鹿!勝手に前に出るんじゃねえ!!」

 

痺れを切らした団員が、シノの命令を無視して突撃する。

他の団員が押さえる前に、細いワイヤーを足に引っかけ、小さな爆発が起こる。

 

「ぎぎぎぎぎぎぎぃ!!ぎぃぃぃやああああああああああああ!!!!」

 

両足がグチャグチャになった団員が、苦悶の表情でゴロゴロと転がる。

その無防備になった団員に、壁際から顔を出したブルワーズの男達が狙う。

 

「馬鹿野郎があーーっ!!」

 

シノの牽制射撃で、敵は頭を引っ込める。

その隙に他の団員が彼を回収する。

 

「トラップを解除しろ!!早くしねえとまた隠れられるぞ!」

 

宇宙鼠として、泥臭い戦闘には慣れているつもりだった。

しかし相手は哺乳類ですらない。

蛆虫だ。イサリビ内部に寄生し、喰い潰しながら掘り進む。

 

さっきからいたちごっこを繰り返している。

これ以上進まれると、イサリビの心臓部であるエイハブ・リアクターにまで到達されてしまう。

 

なんとかトラップを解除し、次の通路に進む。

すぐ横に部屋があり、扉は開けっぱなしだ。

無言でアイコンタクトをして、一気に突入する。

するとそこには、想像を絶する光景が広がっていた。

シノは絶句し、武器を取り落としてしまう。

 

「なんだよ……これ…………」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

バルバトス、グシオンを抱えた、クランクの乗るグレイズが帰艦した。

 

グレイズから降り、モビルスーツデッキを見渡すクランク。

 

「なんだ……!?これは……」

 

敵のマン・ロディの近くに人だかりができている。

辺りにはドス黒い血とピンク色の肉片、骨や歯が浮遊している。

敵が自爆でもしたのだろうか?

 

少し離れた場所では、昭弘・アルトランドが血塗れになっていて、ボロボロの彼をヤマギとおやっさんが運び出していた。

護衛もついて行っている。まだ艦内の戦闘は続いているのだ。

 

「三日月……!」

 

はっと顔をあげる。アグニカから頼まれたのだ。

ボロボロのバルバトスを見やる。

コクピットの右半分が露呈し、血塗れの三日月が見える。

すぐにでも助け出さねば!

 

「クッ……むぅ!」

 

へしゃげたせいか、ハッチが開かない。

力づくでも開きそうにない。機材が必要だ。

 

「おっさん!!ミカは!?」

 

後ろから声がかかった。

鉄華団団長、オルガ・イツカが血相を変えて近付いてきた。

ブリッジの機能が駄目になったため、ビスケット達の看病をフミタンに任せ、自分はデッキにまで飛び出してきたのだ。

 

「引っ張り出す!機材を持ってくるまで、声をかけ続けろ!」

 

「ッ!!ミカ!!」

 

クランクは機材を探しに下に飛ぶ。

オルガはコクピットの隙間に手を差し入れ、三日月に向かって叫ぶ。

 

「ミカッ!!しっかりしろぉ!ミカァ!!」

 

オルガの呼びかけにも反応をしない。

首はだらりと力を抜き、背もたれに倒れこんだ状態のまま、動かない。

しかも三日月の身体は、右腕が無かった。

オルガは言葉を失う。

大量出血した三日月よりも血の気を失った。

 

「許さねえぞ……ミカ……おい」

 

拳を強く握り締める。

 

「こんな…………こんな……」

 

あの時約束したじゃないか。

ここじゃないどこか。

俺達の、本当の居場所に行くって。

なのに、

 

 

お前が居なきゃ、意味ねえだろうが。

 

 

「こんなッ!!ところで……ッ!

 

ミカァッッッ!!!!」

 

オルガの絶叫が響き渡った。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

歩いていると、水に足を突っ込んだ。

パシャッ、と澄んだ音がする。

 

「うわっ」

 

三日月は驚く。

見れば、膝まで水がきており、足はほぼ水の中だったからだ。

 

「……水?」

 

青い水。底が見えないほど青く、透き通っている。

水面には三日月自身の顔が映っており、その心情と同じく、驚きと困惑の表情をしていた。

見渡せば、地平線まで続く青い水。

深さはそれほどでもないが、広さは異常だ。

 

空は見た事がないほど青く、雲一つ無い。

 

「どこだ……ここ?」

 

果てしない水の世界。

火星の赤い岩と砂の世界とも、暗い鉄屑の宇宙とも違う。

また、バルバトスの記憶の中なのだろうか。

それとも、ここが「死んだ後の世界」なのだろうか。

それなら…………

 

「ここは私の世界よ」

 

「!?」

 

振り返ると、そこには一人の少女がいた。

さらりと伸びた金髪、白いワンピースの少女で、何故か右手に剣を持っている。

 

「……誰?アンタ」

 

「名前なんて無いわ。意味がないもの」

 

「は?」

 

その少女は宙に浮いていた。

水面ギリギリのところで、裸足の指が見える。透明な床に立っているみたいに。

 

「でもまあ、アンタに分かりやすく言うなら、バルバトスって事になるかな」

 

「バルバトス?」

 

自身の愛機、バルバトスと、目の前の少女がいまいち繋がらない。

 

「ここはね、私の魂の世界なのよ」

 

唐突に語りだした少女に、三日月は眉をひそめる。

 

「アンタ、人は死んだらどこに行くと思う?」

 

「知らない」

 

即答である。

 

「天国とか、特定の場所に行く訳じゃないの。どこにだって行ける。その魂が「行きたい」と思えば、どこにだって行けるし、元の場所に戻る事だって出来るんだよ」

 

「ふーん……」

 

三日月はあまり興味が無さそうだ。

それよりも、もっと重要な事がある。

 

「魂には凄い力があるって事。んで、その力を一ヶ所に集めたのが、エイハブ・リアクターって訳」

 

「ん?エイハブ・リアクター?」

 

おやっさんが言っていたのを覚えている。

確か、バルバトスやモビルスーツの動力源で、無限にエネルギーを作り出せるものだと。

 

「ここは私の魂を閉じ込めたエイハブ・リアクターの中って訳。お分かり?」

 

「ここが……」

 

エイハブ・リアクターの中。

つまり、バルバトスの心臓の中だ。

 

「私の魂の力を、私だけが使える世界。私だけの世界よ」

 

この広い水の世界は。

 

「なんで水しかないの?」

 

ご飯や寝る場所はどうするのだろう?

そんな純粋な疑問が沸いた。

 

「そりゃあ私の生きてた世界が、水が無い世界だったからよ」

 

右手に持った、鈍い銀色の剣を掲げる。

 

「ただでさえ少ない水。命の源である水。

悪い大人達がそれを独占して、他の弱い人達を奴隷みたいに扱ってたの。

そんな腐った世界を変えるのが、私の役目だったんだけど」

 

ふっ、と目を伏せて笑う。

 

「意味なんて無かったわ。革命自体は成功したけど、それからも人は死んだし、水の奪い合いは止まらなかった。戦争は無くならないし、人は変わらない。

そんな世界に絶望して、この中に閉じ籠るって話を受けたのよ」

 

「革命……」

 

クーデリアも、革命の乙女などと呼ばれていた気がする。

つまり彼女も、過去のクーデリアなのだ。

 

「幸せにできたの?」

 

「ん?」

 

クーデリアは約束してくれた。

自分が俺たちを幸せにしてくれると。

だから俺たちは、全力で彼女を守る。

守り、守られるのが、家族だと。

 

「幸せにできた人もいた。でもそれ以上に、できなかった人がいた。私も死んだし、本当に好きな人も死んじゃった。

最低最悪のバッドエンドよ」

 

「…………」

 

革命の果てに幸せがあった訳ではない。

その現実に耐えきれず、彼女の魂はここに留まる事を選んだ……

 

「だから私の世界は、望んで止まなかった水で作られてるのよ」

 

これだけの透き通った水があれば、どれだけの人が幸せになれたか。

そんな、彼女だけが満足できる世界。

 

歪みの世界だ。

 

 

「ここから出たい」

 

言った。はっきり言った。

彼女が嫌いとかそういう理由ではない。

三日月は、こんな所で止まる訳にはいかないのだ。

それに、オルガの声が、さっきから聞こえる。聞こえる気がする。

 

「んふっ」

 

彼女が意地悪な顔で笑う。

出たいなら条件がある。その顔にはそう書いてあった。

三日月は黙って続きを待つ。

この世界から、元いた世界に戻るための条件とは。

 

 

「マステマを殺して」

 

 

バルバトスの初代パイロットを殺し、今も尚世界に寄生する、憎悪の天使。

それをこの手で殺す事が条件だ。

目と目を合わせて、相手を覗き込むように、言う。

 

「アナタが戦って。アナタが追い詰めて。アナタが殴り潰して。アナタが止めを刺して。アナタが……」

 

「殺せばいいんだな?」

 

三日月は低い声で言う。

 

彼女はバルバトスだ。

相棒であるパイロットを殺された事を、数百年悔いていた、バルバトスそのものだ。

彼女は頷く。

 

「分かった。約束する」

 

「うん」

 

三日月ははっきりと答えた。

ぱっと彼女が離れる。満足げな表情だ。

 

「それだけ聞ければ良し!そのためなら、何度だって力を貸してあげる!」

 

そこで初めて、少女らしい笑顔を見せた。

だがそれは、憎悪への復讐を取り付けた、悪魔の笑顔だ。

矛盾している。

二面性を持った、異形のものという感覚が止まらない。

 

「んじゃ、お望み通り、元の世界にお帰り」

 

「うん。でもどうやって……」

 

彼女は腕を前に出す。

 

「ここは私の世界よ?出すも出さないも、私の自由自在、よ!」

 

三日月の両肩を突き飛ばした。

三日月はよろけ、後ろに倒れ込む。

そこはもう水の世界ではなく、暗い闇の滝で、三日月はそこを降下していく。

 

遠くなっていく水の世界を見ながら、三日月の意識は途切れた。

結局、彼女の名前さえ知らないまま、約束事だけを結んで、あの世界から出てきた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

『クランク、敵の場所を伝える』

 

「アグニカ!?」

 

クランクの首についているチョーカーから、アグニカの通信音声が聞こえた。

 

「お前は、敵の居場所が分かるのか!?」

 

『分かる。俺には魂が見えるんだ』

 

アグニカ・カイエルはエイハブ・リアクターの場所を感知出来る。

しかしそれは副次的なもので、能力の本質は魂の感知である。

 

それを持ってすれば、船内に潜伏した敵の居場所を割り出す事も可能だ。

 

アグニカからの情報を、シノ達陸戦隊に有線で伝える。

これで鎮圧も時間の問題だろう。

 

ふと見れば、バルバトスの周りには人が集まっていた。

手が開いた者達によって、三日月の救出作業が行われている。

しかし三日月の意識が戻らないと、阿頼耶識との接続が解除できない。

出血が多すぎるので、止血と輸血、ナノマシンベッドの搬入などが行われている。

あとは三日月が目覚めるのを待つだけ。

 

「ミカ!!起きろミカ!!頼む!目を開けてくれ!!」

 

オルガは喉が潰れるほど叫んで、三日月の肩を揺する。

おやっさんも呆然と三日月を見ていた。

どんどん冷たくなっていく。

このままでは、死ぬ。

 

「ミカァ!!!」

 

「う…………」

 

三日月の唇が、かすかに震える。

 

「ッ!!ミカァ!!」

 

「三日月ぃ!!」

 

オルガとおやっさんの呼び掛けに、三日月はうっすらと目を覚ました。

 

「オル、ガ……?」

 

「ああ!ミカ!!ミカァ!!!」

 

三日月の身体を、ガバッと抱き締める。

嬉しさと安堵。それを叫ぶオルガに、三日月は軽く微笑む。

阿頼耶識との接続を切り、おやっさんが安堵の溜め息を吐く。

 

「おかえり、三日月」

 

「うん。ただいま」

 

それだけ言うと、また三日月は眠りについた。

傍らに待機していたナノマシンベッドに入れられ、オルガ達の手によって、手術室に搬送されていった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

華やかな装飾がなされたパーティ会場。

皆が礼装に身を包み、優美な宴を楽しんでいる。

今日はファリド家とボードウィン家の、めでたき婚約パーティ。

マクギリス・ファリドとアルミリア・ボードウィンの御披露目式なのだから。

ガエリオ・ボードウィンは、挨拶回りもそこそこに、今夜の主役の一人である、親友の元に向かった。

 

「おめでとうございます」

 

「いやはや、久々のいいニュースだ。これでボードウィン卿も安心でしょうな」

 

アフリカンユニオンの政治家、大手企業の代表、有識者。

ギャラルホルンの高官などなど、名だたる権力者が集まり、笑顔を見せ、祝辞を述べに来ていた。要は顔と媚びを売りに来たのだ。

それらを微笑みで返すのはマクギリスの常だが、今日の(というか最近の)マクギリスは、その笑顔にも見えない力がある。

これから戦場に出る古参の兵士のような、迸る活力、生命力に溢れた雰囲気だ。

 

皆それに圧倒され、彼に対する評価を改める。

 

「今日はゆっくりしていきなさい」

 

「はい」

 

ボードウィン家現当主、ガルス・ボードウィンが声をかけてきた。

マクギリスへの悪評や噂話をする者が多い中、彼の実力と努力を評価し、人としての扱いをする数少ない人物でもある。

 

「イズナリオ様は妾の子をうまく使ったものね」

 

「フッ、ボードウィン家の愛娘を迎え入れたとなれば、セブンスターズ内での立場もより強固となる」

 

聞こえるように意識しているのか、薄暗い嘲笑と侮蔑が聞こえてきた。

ガエリオはむっとするが、ここは祝いの席。無用な波風は立てたくない。マクギリスの作法に習い、軽く鼻で笑ってやろうとした。

 

「まったく、程度の低い客が集まったものd……」

 

「君達は愛を知らない目暗なのかな?」

 

(ええ……?)(困惑)

 

マクギリスが煽りに行った。

ガエリオは困惑する。

陰口を言っていた者達と、その周りの者が固まっている。

 

「誰それ様だの、家だの、立場だの。考えが浅はかすぎる。程度が低いにも程があるぞ。恥ずかしくはないのか?」

 

煽る煽る。喧嘩腰とすら言える。

いつもの涼しい微笑のまま、怒濤の悪口の嵐である。

 

「今宵この場は、俺と、俺の愛しい人のためだけのものだぞ。そこに愛と祝福以外の言葉を持ち込むな。二度と俺の前でその汚い口を開くな。分かったらすぐさま出ていけ。この無学の精神異常者どもが」

 

口調も声色も普段のままなため、色んな意味で恐ろしい。聞き間違いかと思いたくなる。脳が理解しようとしないのだ。

陰口を言っていた者達は、口をパクパクと開閉している。まるで酸欠の魚だ。

その顔を見ると、少し胸の内がスッとするような気がした。

他のテーブルの者達も、同じ事を思っているらしい。

場の空気に耐えられなくなったのか、コソコソと立ち去っていった。

今夜は二度と戻ってこないだろう。

 

「フッ……」

 

怖いもの知らず。

一瞬、そんな言葉が浮かんだが、それほど簡単なものではない。

やはりこのマクギリスはおかしい。

だが、そのおかしさが堪らない。

見ていて飽きないのだ。

 

世の腐敗を成敗する、愉快痛快なヒーロー伝記。その主人公のようで、思わず牽かれてしまう。

 

「マクギリス様」

 

「ん?」

 

何人かの女性が、頬を赤らめながら話しかけてきた。

今の舌論攻撃も聞いていたのだろう。

圧倒的な存在感を持ち、優秀な成績と確固たる立場、そして美しい見た目となれば、彼女らは放っておかないだろう。

 

「あの~、よろしければ少しお話を……」

 

「独身でいられるのもあと少しだ。ここは目をつむっておいてやるぞ。フフーフ」

 

小声で囁き、マクギリスの脇をつつく。

だがマクギリスは優雅な動作で、右手の掌で制す。

 

「いや結構」

 

きっぱりと断った。

断っちゃいました。

 

「俺はアルミリア以外、魅力的な女性とは思えないのでね」

 

何か言ってますね。

女性陣、固まっちゃってますが。

俺はもうこの場の空気に耐えられないので、一旦席を外させていただきます。さようなら。

マクギリス、自分で作った空気だ。自分でなんとかしろ。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

広場がざわついた。

皆の視線の先には、白いドレスに身を包んだ、一人の少女がいた。

今夜の主役の一人、アルミリア・ボードウィンだ。

 

「わあ~、なんてかわいらしい」

 

「まるでお人形さんのようね」

 

女性陣は可愛らしいアルミリアを褒めちぎるが、やはり子供の見た目であることに引け目を感じているようだ。

照れながらも、少し笑顔に影がある。

 

遠目にアルミリアの姿を見たマクギリスは、その一切の動きを停止した。

 

「あ、あのー?……マクギリス様?」

 

女性陣がおそるおそる声をかけるが、全くの無反応。

 

「美しい……」

 

一言だけ呟くと、静止していたのが嘘のように、ズンズンと前へ進み始めた。

 

「家のためとはいえ、さすがに焦り過ぎだろう。相手はまだオムツが取れたばかりの子供……」

 

「どけ邪魔だ」

 

「ごはっ!?」

 

途中、陰口を叩く者がいたが、思いきり突き飛ばして机に突っ込ませた。

 

「……!」

 

アルミリアは、こちらに真っ直ぐ歩いてくるマクギリスを見た。

嬉しさと愛しさに目を輝かせるが、すぐに顔を伏せる。

 

やはり、こんな子供では、マッキーの相手は……

 

「アルミリア」

 

マクギリスが目の前にまでやって来た。

彼女の姿を目に焼きつけるように、じっと見ている。

見とれていると言ってもいい。

 

「綺麗だよ……アルミリア」

 

「ッ!」

 

嬉しさが溢れる分、不安というものは大きくなる。

マッキーは、自分を慰めるために御世辞を言っているのではないか?

本当は子供だと思っているけど、無理をしているのではないだろうか?

 

「顔をよく見せてくれ……アルミリア」

 

アルミリアの顎を指で持ち上げ、顔を上げさせる。

 

「マッキー……」

 

「アルミリア、愛しているよ」

 

「!!」

 

それだけで。

たったそれだけの言葉で、不安は消しとんでしまった。

マクギリスの真っ直ぐな瞳を見て、愛しさが止まらない。

 

「さあ踊りましょう、レディー」

 

アルミリアの小さな身体を抱き上げる。

彼女は顔を真っ赤にする。

 

「キャッ!だ、ダメ……皆に見られて……笑われちゃう……」

 

「アルミリア、あなたを笑う者がいたら、俺が許さない」

 

「えっ?」

 

「あなたはここいる誰よりも素敵なレディーだ」

 

「マッキー!」

 

アルミリアはマクギリスに頬擦りする。

周りの目など、もはや気にならない。

 

「他人の目が気になるというのなら……こうしよう」

 

マクギリスは右手を上に向け、指をパチンと鳴らす。

 

すると、場の喧騒もピアノの演奏も聞こえなくなった。

音が消えたのだ。

 

「あ、あれ?これは……」

 

辺りを見渡すと、皆の様子がおかしい。

皆、その場から一歩も動かないのだ。

ピクリとも動かない。

まるで置物のように、みじろきすらしない。

 

世界が、止まっていた。

 

「マッキー、なにをしたの!?」

 

「少しだけ、この世界に眠ってもらったのさ」

 

俺の魔法でね。

 

そう言ってウインクするマクギリス。

アルミリアは夢見心地で、顔が湯立つように熱い。

本当に、マッキーは凄い。

まるでおとぎ話の王子様みたいだ。

 

存在しないものの極致だ。

 

「さあ、踊ろう、アルミリア。世界を止めていられるのは、ほんの僅かな間だけだ」

 

アルミリアの手を取り、腰に手を回し、軽快なステップで躍り出す。

固まった人々の隙間を縫うように、二人は踊り回った。

 

アルミリアはもう、マクギリスの事しか見えていなかった。

好きで、好きで堪らない。

マクギリスこそ、自分の運命の相手だと。

 

「今夜は特別な夜だ。全てを忘れ、これから起こる運命さえも忘れ……踊り明かそう」

 

マクギリスの言葉に、うっとりと耳を傾けていた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

窓側で、パーティー会場を見下ろす者がいた。

白い服と白いマント、白い髪の少年だ。

その目は憎悪に燃える炎のように赤い。

表情は穏やかで、眼下の躍り狂う二人を眺めていた。

クスリと笑い、血のように赤いワインを飲み干す。

 

彼は英雄が好きだが、その次くらいに

 

 

英雄に恋い焦がれる者が好きだった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ブルワーズの兵を全滅させてから、120時間が経過していた。

 

イサリビ船内はようやく片付けが一段落ついたところで、水も電気も通るようになった。

通信設備なども復旧して、艦内全体の状況把握が出来るようになり、負傷者の介護も落ち着いたところだった。

 

「あああ゛あああああああああああああああああ゛あああ゛あああ゛ああああ゛あああああああああああ゛あああ゛ああああああああああ゛ああああああ゛ああああ゛ああああああ゛ああああ゛あああああああああああああああ゛あああ!!!!!!!」

 

一つの病室で、昭弘・アルトランドは絶叫した。

最愛の弟を、目の前で亡くした。

それも、最低最悪の方法で。

自身の無力感と、痛みと、怒りと、悲しみと、憎悪が止まらない。

無限に続く悪夢の反復に、こうして発作のような叫び声を上げるのだ。

 

昭弘はベルトでベッドに拘束されている。

こうでもしないと、手当たり次第に頭をぶつけ、自傷してしまうからだ。

ボロボロの包帯は、所々赤黒く変色している。

 

「うぅ……うっ……ぅぅぅぅぅーーーーーっ!!ぐぅぅ、ぐっ…………」

 

落ち着くと、こうしてすすり泣く。

泣き疲れて少し眠った後は、悪夢に叩き起こされて絶叫する。

それをもう何度繰り返したか。

 

皆が知る昭弘の姿は、どこにも無かった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

戦死者は遺体収納袋に入れられ、安置室に横にされている。

 

その前で、シノは膝を降り、床に額を打ちつけた。

 

「ぐっ……くぅぅ……ぐっ……!」

 

感情を押し殺すように泣いている。

後悔とやるせなさが押し寄せてくるのだ。

 

「シノ……」

 

入口から、ビスケットが顔を出した。

首にはギブスをつけていて、顔が横に動かせないらしい。

 

「指示を出した……俺が……不甲斐ねぇせいでよっ……!」

 

部下の命を預かる、その責任。

死んでいった仲間達の命を背負い込む事になったシノ。

その重圧に押し潰されそうになっている。

 

「こいつら……くっ!こんなところで……!!」

 

テイワズの傘下に入り、これからだという時に。

その第一歩を踏み出した所で。

 

……まだ何も出来ていないのに。

どこにも辿り着いていないのに。

 

「こんなのぉ!!」

 

こんな酷い気持ちになるぐらいなら。

 

「自分が死んだ方がっ……よっぽどマシだ……」

 

消え入りそうな声で、仲間の死を悔やむ。

 

「それは駄目だ、シノ」

 

ビスケットは帽子を深く被り、目元を隠す。

 

「死んでいった皆の分も、生きてる奴が背負わなくちゃいけない。皆もそのつもりで戦ったんだ。それを今更身代わりになりたいだなんて、それは……卑怯だ」

 

「ちっっっ…………くしょおおおおおおおおおっ!!!」

 

額を強く打ち付け、血が滴り落ちた。

 

「……こいつら……信じられねえって顔してた……!」

 

シノ達が部屋で見たもの。

それは、非戦闘員の団員が殺された死体だった。

ただ殺されたのではない。あれは……

 

「あいつら許さねえ!!ぜってえ許さねえ!!ぶっ殺してやる!!」

 

CGSの大人達の横暴、阿頼耶識手術の痛み、戦闘の傷や苦痛。

それらを耐えしのいできた少年兵達だ。

並大抵の事なら慣れている。

 

だが、あの顔は。

殺された彼らの凄惨さは。

 

「があああああああああああああああああああ!!!!」

 

両手両足を薬品で溶かされる苦痛は、どれほどのものなのだろうか。

溶けた肉汁を飲まされる気持ち悪さは、いかなるものなのだろうか。

自分の肋骨を目にした時の驚愕とは、言葉に表せるものなのだろうか。

歯を砕かれる痛みは相当だ。だが歯を目玉に詰め込まれる痛みと恐怖は、本当にこの世に存在する意味があるのだろうか。

目の前で仲間が解体されるのを見て、発狂しない子供がいるのだろうか。

仲間が漏らした内容物を全て啜らされる屈辱とは、

 

「ガアアアアアアアアアアアアッッ!!!ガアアアッ!!があああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

子供をここまで凌辱し、苦しめる者とは。

一体、どれほどの憎悪を身に宿していたのだろうか。

 

「力が欲しい……!!」

 

止まらない憎悪から、仲間を守り抜ける力。

 

「アグニカみてぇな……力がほしいっ!!」

 

CGSを一人で壊滅させた、アグニカの圧倒的暴力。あれがあれば、皆を守る事だって出来たのだ。

 

「シノ……」

 

力への渇望。

それは、人類が棍棒を持った時代から続く、止まることの無い欲望であった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

モビルアーマーは三つのタイプに識別できる。

『殲滅型』『生産型』『思考型』だ。

 

殲滅型は直接戦闘、虐殺を行う。

搭載されているAIは戦闘のみに特化されていて、幅広い索敵能力や効率のいい進軍行動までは計算されないが、武器や兵装は格段に強力で、並のモビルスーツでは歯が立たない。

これが思考型の綿密な情報共有、作戦指示の元に運用されると、とんでもない破壊力を持つ。

そこには容赦も加減も無い。

躊躇も罪悪感も無い機械なのだから当然だ。

 

そして生産型はその名の通りモビルアーマーを生産する。

プルーマ製造の小型備品から、町一つ分の工場の形をしたものまで、規模は様々だ。

だが、放っておけば資源と時間が許す限り無限に天使を産み続けるので、非常に厄介と言える。

これが思考型による、戦場で必要になる兵器を予知した製造計画の元に働くと、神がもたらしたとしか思えないような秘密兵器を作り出す。

 

そして、思考型。

これもその名の通り、思考、計算する事が仕事であり、基本的に戦闘能力を持たない。

全モビルアーマーの脳といえる存在で、アグニカ達が血眼になって探したものでもある。

ほぼ全ての思考型デバイスが破壊されたが、世界のネットワークに残骸が残る形で、『マステマ』というウイルスが寄生して生き残っている。

 

まだアグニカは、その天使の名前すら知らない状態だが。

 

そして天使達の産みの親は、恒久的世界平和の実現を目的とした、『彼ら』と呼ばれる組織だ。

その『彼ら』が滅びたのは約300年前。

 

アグニカの九歳の誕生日の事だ。

 

父親、ディヤウス・カイエル統制幕僚長。

その指令室に呼び出されたアグニカは、整った顔を満面の花のように輝かせ、にこやかに笑っていた。

まだ幼いながらも利発で、聡明な頭脳。

並外れた状況判断能力、反射神経。運動能力に記憶力、空間認識能力。

飛び級で大学へと進み、今執筆中の論文、無人兵器軍への効率的な打撃と殲滅作戦は、軍部の指揮官、官僚、技術者、戦術師らの舌をまかせ、成績トップで卒業させるべきという意見も出ている。

今日この部屋にも、カイエル家の御曹司、将来有望な軍神、麒麟児として、ほとんど顔パスで入る事が出来た。

 

「人型機動兵器のテストパイロット、僕に決まったんだよね?」

 

開口一番、そう言い放つ。

今日は自分の誕生日。そして、わざわざ指令室に呼び出すなんて真似をした以上、特別な知らせがあるんだ。

そうに決まっている。

 

「ああ」

 

「父さん!!」

 

机を飛び越えて、父親に抱きつくアグニカ。

 

「ありがとう!愛してるよ!!」

 

「ああ」

 

誰にも見せた事がないような、とびっきりの笑顔で、父の胸に額を擦り付ける。

軍神と呼ばれ、持て囃されているとはいえ、彼はまだ、九つの子供なのだ。

 

「僕、やるよ!絶対凄いデータを残してやるんだ!そしたら、モビルアーマーを倒せるような、すっごい兵器も作れるよね!」

 

「ああ」

 

にこやかに答えるディヤウス。

その目は虚ろで、何を見ているのかも判別としないが、アグニカの記憶にある父親とは、常にこんな感じだった。

だから気にもならないし、この父親が好きだった。

 

「アグニカ、お前に誕生日プレゼントをあげよう」

 

「ほんと!?」

 

アグニカは飛び跳ねた。

テストパイロットの件がプレゼントだと思っていたのに、さらにステキな贈り物があるのだと言う。

この大盤振る舞いにはアグニカもにっこり。

待ちきれないとばかりに、目をキラキラさせて父親を見ていた。

 

ディヤウスは拳銃を取り出した。

 

「ツインリアクターシステム」

 

エイハブ・リアクターの二機並列作動

 

「阿頼耶識システム」

 

人間の限界を引き出し、機械と一体化するシステム。その非人道的で反動が大き過ぎる事から、禁忌とされていたもの。

 

「それらを取り入れた、モビルスーツ基礎理論」

 

アグニカは目を輝かせた。

他の研究者達が、ようやく人型の基本骨格を作り出した段階にも関わらず、我が愛すべき父は、そのさらに上を行く最高のフレーム構造を提唱したのだ。

 

そしてそれは、まだ世に知らされていない。

つまり、つまり……

 

「名を、『ガンダム・フレーム』と呼ぶ」

 

GUNDAM・FLAME

それが、父親がアグニカのために作った、最高の……

 

「それを、お前にやろう」

 

「やったあ!!」

 

アグニカは歓声を上げた。

今日は人生で最も記念すべき日だ。

 

父さんが、僕のために、世界で一番のプレゼントをくれた。

こんなに嬉しい事はない!

 

「本当は十歳の誕生日に会わせてやろうと思ったんだが……『使って』しまった」

 

「ううん!いいよ!一生分のプレゼントだよ!」

 

「そうか、それは良かった……もう、プレゼントはあげられないからな」

 

アグニカは飛び跳ね、輝かしい未来を夢想する事に熱中している。

 

「お前専用の……名を『バエル』と言う」

 

「バエル!!」

 

アグニカが即座に復唱する。

 

「ソロモン王が使役した72人の悪魔の一人!序列第一位の悪魔!人を不可視にしたり、知恵を授けたりする!ルキフグスの配下!」

 

スラスラと知識が出てくる。

 

「この悪魔の製造方法を、お前にやろう。それをどうするかは、全てお前に任せる」

 

「うん!絶対大切にするよ!」

 

「もし製造したのならば、間違いなくお前にしか乗りこなせない。そういう風に考えられたのだからな」

 

「僕専用機だね!」

 

「量産プランが幾つかある。製造工場も、必要な技術、材料も、お前の手に入るようにしてある。そのプランに従えば、簡単に作り出す事が出来るだろう」

 

「分かった!父さんの言う通りにするよ!」

 

「お前だけが知り、お前だけが作り、お前だけが乗り、お前だけが統一できる。

お前だけの力だ」

 

「僕だけの……力……」

 

「それを使って、英雄になれ」

 

アグニカは全身にみなぎる活力に、身を震わせた。

戦いのみに全身が特化したかのように。

だが、それはとても素晴らしい事のように思えた。

 

「それで、そのデータはどこにあるの?」

 

「これだ」

 

さっきから持っていた銃を、アグニカに手渡す。

これが?と目で問いかける。

 

「あ、そっか。これで誰かを撃てばいいんだね。条件をクリアしたら、プレゼントをあげるぞっていう……」

 

「私を殺せ」

 

ディヤウスは、アグニカの瞳を真っ直ぐ見つめて、言い放った。

 

「え……?」

 

アグニカはキョトンとして、銃と父親を見比べる。

 

「なんで?」

 

「私が『彼ら』の最後の生き残りだからだ」

 

『彼ら』、それはつまり、天使を作った者達。

彼らを殺せば、天使達も止まる。

そう信じて戦う兵士達は多い。

だからこそ、全人類を拷問してでも探し出さねばならないのだ。

 

そんな『彼ら』が、目の前に居る。

 

「父さんが?……天使を作ったの?」

 

「私を殺して、全てが終わる。そして、全てが始まるのだ」

 

「何を言ってるの?父さんは悪い人だったの!?死ななきゃいけない人だったの!?」

 

「私を殺せば、データのプロテクトが解除される。そしてお前の元に渡るよう手配している」

 

「答えてよ!父さんはなんで、あんなものを作ったの!?」

 

「人類による平和も、天使による平和も、失敗した。あとはアグニカ……神による世界平和だが、私はそんなもの、端から御免なのだよ」

 

「神?天使?……分かるように言ってよ!ねえ父さん!!」

 

「分かるように言えだと?ならばそうしよう。お前は母親を殺したんだよ」

 

「僕が……母さんを殺した……!?」

 

愕然とした表情をするアグニカ。

難産だったとは聞いている。

それに耐えられず、母であるプリティヴィー・カイエルは命を落としたと。

 

「彼らの究極の目的など……どうでも良かった。私はただ、プリティヴィーが、笑っていられる世界を…………」

 

「ククク……クハハハ……」

 

「……」

 

アグニカが喉を鳴らすように、掠れた笑い声をあげる。

その顔は歪み、唇は吊り上がっている。

瞳孔は開き、青い宝石の宇宙が煌めく。

その目からは涙が流れ、両手で顔をふさぐ。

 

「あれ……?なんでだろ……あはっ、あははははっ!あれっ!」

 

泣きながら笑う。

その二面性、相反する感情に、アグニカは困惑する。

 

「おぞましい……化物が」

 

化物

そう陰口を叩かれたのは初めてではない。

だが、実の父親から言われたのは初めてだ。

 

「殺せ」

 

「父さん……」

 

「殺せ」

 

「どうして僕なの!?」

 

「殺せ」

 

「僕はどうすればいいの!?」

 

「殺せ」

 

「何をすればいいの!?」

 

「殺せ」

 

「父さん……僕は!父さんが好きだよ!!」

 

「殺せ」

 

「母さんも!!」

 

「殺せ」

 

「だから僕の事、愛してくれるよね!?」

 

「……」

 

 

 

「お前は作られた存在だ」

 

「え?」

 

「お前の意思も、力も、運命も、お前のものではない」

 

「なにを……言ってるの?」

 

「だが、これからは違う。私の行動は彼らの一部だとしても、お前は、お前の人生は、彼らなど到底追い付けない、想像も出来ないものになるだろう!」

 

「お前が信じるものに従って、戦え。そうすれば、世界は変わる。そういう風に出来ているんだからな」

 

「僕の信じるもの……そんなの、父さんと、母さんだよ!!」

 

父親と母親の愛。

これ以上信じるものがあるだろうか?

 

「誰にも頼るな。誰にも指図させるな。私はお前を、肯定も否定もしない。だから……」

 

一人で歩いていけ。

ここじゃないどこかに。

 

「父さん……」

 

「プリティヴィーと……私の息子……」

 

ディヤウスはここで初めて、アグニカをきちんと見た。

目の焦点を合わせ、過去ばかり見ていた目を、現代に向けた。そして、未来にも。

 

「アグニカ……」

 

机の引き出しから、もう一つの銃を取り出す。

そして、流れるように自身の頭に銃口を向けた。

 

どちらにせよディヤウスは死ぬ。

銃を撃ったとしても、体内爆弾や、なにかしらの方法で死を選ぶ。

つまり、アグニカが殺すか、ディヤウスが自殺するか。

その違いでしかない。

 

 

「愛してるぞ」

 

 

愛とは。

 

 

銃声。

 

渇いた銃声が鳴り響く。

反動を殺しきれず、尻餅をつく。

 

「アグニカ!?何をしている!?」

 

ドアを開け、軍の関係者達が入ってくる。

 

困惑する声が聞こえ、座り込んだまま、後ろを振り返る。その顔には返り血が数滴飛び散っていた。

 

「……粛清を」

 

彼らの最後の生き残りを倒した。

軍内部、奥深くまで潜り込んでいたスパイを粛清した。

これ以上ないほどの戦果だ。

 

笑顔で答える。その声はとても落ち着いていたが、使う言葉は九歳のものとは思えない。

 

「さあ、次はどうすればいい?」

 

父親を殺した。彼の遺言によれば、ここから全てが動き出す。

次に自分がすべき事とは。

 

ゆっくりと立ち上がる。

周りにいた大人達は皆、彼を恐れて遠ざかる。誰も彼の目を見ようとしない。誰も彼と関わろうとしない。

 

「……決まってるか」

 

父親に言われたばかりだ。

自分で決めろ。自分の意思で進め。

自分の信じるものに従って、戦え。

 

だから誰も頼らない。

アグニカ・カイエルは九歳にして、自分とこれからの事を全て、自分の力だけで成し遂げると決めた。

もう誰の意見も聞かない。誰の指図も受けない。誰にも肯定させない。誰にも否定させない。

 

「んじゃ、行くか」

 

ゆっくりと歩を進めるアグニカ。

 

父親を自身の手で殺す事が、父の望む事ならば。

それが、唯一の愛情表現の方法ならば。

アグニカはそれをする。

喜んで手を汚す。

アグニカにとっての原動力、根元とはつまり、愛なのだから。

 

誰よりも愛に忠実に行動する。

そのためならば、人殺しだって何だってやる。

矛盾の塊だ。

 

涙を流しながら、顔を歪めて笑うアグニカ。

その表情はまさに怪物。人ならざる者。

悪魔だ。

 

彼のあり方と、彼の目指す先を知る者はいない。彼を見た者全てが、彼を悪魔だと確信した。

だから、アグニカの歩く先は、人が避け、道が開く。

この時点で、彼の道を遮る者は、誰一人として、いなかった。

 

アグニカは止まらない。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

笑うな。笑うな。笑うな。

喜ぶな。喜ぶな。喜ぶな。

楽しむな。楽しむな。楽しむな。

 

モビルアーマーが生き残っていた。

地獄のような戦場が、理不尽な戦闘が、むごすぎる死が、報われない努力が、生殺しの希望が、血塗られた伝説が、

 

ま た 味 わ え る。

 

こんなに嬉しいことは無い。

 

楽しい。凄く楽しい。

 

狂嬉が、止まらないのだ。

 

「笑うな……」

 

唇が吊り上がる。

 

「喜ぶな…………」

 

この先の地獄を想像すると、喜びが溢れ出てくる。

 

「楽しむな………………」

 

この状況を、楽しんでいる。

 

「クソッ……」

 

アグニカは顔を覆う。

指の間からは牙が覗き、青い瞳は歪んだ光の欠片が渦を巻いていた。

 

仲間が……家族が死んだんだぞ。

 

自分に言い聞かせる。

 

そんな地獄のような結末に、憤りはないのか。

守れなかった命に、慚愧は無いのか。

自分が招き入れた災厄に、後悔は無いのか。

仲間の元を離れた判断ミスに、反省は無いのか。

 

 

ある。

 

あるのだが……

 

「クククッ……クハハハハハ…………」

 

笑いが止まらない。

 

アグニカ・カイエルの歪み。

それは『全ての感情が狂喜に成り変わる』。

そういう風に、できている。

 

「アッハッハッハッハッハ!!!」

 

感情が塗り潰されるのだ。

楽しいという感情に。

 

それが、アグニカ・カイエルの力の正体。

狂気の原点である。

 

こんな狂った自分に吐き気がする。

こんな、全身が戦争のためにあるような存在に疑問しか沸かない。

だが、その嫌悪も疑問も、すぐに狂喜に変わる。

家族を失った喪失感も、楽しみに変わる。

歪んだ表情も笑顔に変わる。

小さくなった背中も、狂った戦闘凶に変わる。

変わらないのだ。このサイクルは。

生まれてから、ずっとこうだ。

止めようとしても、止まらない。

だから、ほんの少しだけ、ここでこうしている。

そしたらすぐに、また立ち直れる。

いつものアグニカ・カイエルになれる。

だから、誰もここを通らないでくれ。

誰も俺を見ないでくれ。

頼むから。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

最後に涙を流したのは、一体いつの頃だろう。

この世界の汚い所を見すぎて、絶望してしまってから、涙など枯れてしまったと思っていた。

だが、お嬢様と革命の本を読んでいた時、それは胸の内から沸き上がった。

自分よりよっぽど過酷な状況から、人々を集め、より良い世界を作るために奔走する。

そんな革命の少女の姿に、『希望』を見た。

 

希望は、全ての感情の源だ。自分が生きていていいと思える。

希望という光は、この身を内側から暖めてくれる。

鉄のように冷えきった心を、人の心に戻してくれる。

無感情に努め、無反応に徹し、自分が傷付かないように殻に籠っていた。

それを打ち捨ててまで、私は、希望が欲しかったのだ。

 

アグニカが来てくれた時、涙が流れた。

希望だ。

アグニカは希望そのものなのだ。

自分が求めて止まないもの。

 

『存在しないけれど、確かに世界を動かすもの』だ。

 

 

私はアグニカが好きだ。

 

 

フミタン・アドモスとして、この感情は最も大切なもの。

それを自覚したら、世界が変わって見えた。

こんな状況でも、未来に期待することが出来る。

現状に活力を溢れ出せる。

過去を認める事が出来る。

 

世界がどんなに狂っていても、それを楽しむ事が出来るのだ。

アグニカが狂っているから。

そして、そんな自分も狂っているから。

 

それでもいい。

それぐらい、アグニカが好き。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

フミタン・アドモスは自室に戻る途中だった。

大きな窓がある通路に差し掛かった時、窓に大きな『亀裂』を見た。

黒く、世界を歪めるような亀裂だ。

 

宇宙に放り出される!

 

咄嗟に身構え、目を瞑る。

 

しかし、いつまで経っても外に吸い込まれる事はなかった。

おそるおそる目を開けると、そこには亀裂などはなかった。

一人の少年がいた。

 

アグニカ・カイエルだ。

 

ドキリと鼓動が跳ね上がる。

好きで、好きで好きで堪らない人。

つい最近、この想いを自覚した相手。

 

アグニカは窓に寄りかかるように立っていた。

そして、両手で顔を押さえている。

いつものアグニカの雰囲気ではない。

 

指の間から目が見える。

青い瞳は深くまで沈みこんでおり、思考の海の底にいるのだろう。

 

身体はとても小さく見える。

自分より年下だという事を、今更思い出した。普段はそんな事、微塵も感じないのだが。

 

あの姿は見た事がある。

自分を見失っている。自分の歪みと、世界の歪みに挟まれ、信じるべきものが曖昧になっている。

 

それは酷く、可哀想なものに見えた。

多くの人を取りまとめ、従える偉人の姿ではなく、路地裏でうずくまる孤児に見えた。

 

アグニカも、鉄華団と同じ、孤児(オルフェン)なのかもしれない。

 

そう思った時、身体が勝手に動いた。

アグニカの項垂れた頭を抱き寄せ、胸に押しつける。

背中に手を回し、優しく鼓動のリズムで叩く。

庇護欲と、母性と、憐憫と。

彼にも人並の苦悩があった事への、安堵と。

それを見る事が出来た、密かな喜びと。

それを少しでも和らげてあげたいという、手前勝手な感情。

好きだから、とでも言うつもりか。

 

拒絶されたっていい。嫌われたっていい。

理解されなくっていい。

刺し殺されたっていい。

 

この感情は、止まらないのだから。

 

 

「スヴァハ……?」

 

 

アグニカが呆然と口を開く。

知らない名前だ。けれど、その人がアグニカにとっての救い、癒しならば。

 

「はい」

 

はっきりと答えた。

アグニカはここでハッとした顔をする。

 

「フミタン」

 

フミタンが居ることにも、今気付いた様子である。

少し身動ぎして、フミタンの胸から離れる。

普通に立てば、アグニカの方が背は高い。

つまりそれほど身体をかがめていた事になる。

弱った姿を見せた事になる。

 

そんな思考があったのだろう。

アグニカは視線を揺らす。

 

けれどそんな心配はフミタンにはいらない。

 

「ごめんなさい。こうすれば落ち着くかと思ったので」

 

「ああ、いや……助かった。おかげで落ち着いたよ」

 

事実、感情の塗り潰しに抗って、自我が曖昧になった状態からは抜け出せた。

 

「恋人ですか?」

 

フミタンが薄く笑いながら問う。

スヴァハという名前。おそらくは女の人の名前だ。

フミタンの勘だが、確信がある。

 

「許嫁だ。親が決めた……会った事はないが」

 

許嫁。会った事はない。

ならば、その人は、もう……

 

「でも、すぐそばに居る」

 

目を閉じて、何かを思い描くように言う。

それほどまでに繋がった相手なのか。

そこまで愛される人なら、きっと

 

ーーーアグニカを抱きしめる。

 

幸せな人だったのでしょう。

 

「あなたに、希望を見ました」

 

アグニカの背中に手を回して、ぎゅっと力を込める。

顎を肩に乗せて、首すじに頬擦りするように。

 

「私は、あなたが好きです」

 

「ーーーなっ」

 

肩に手をかけたまま、少し離れる。

しかし、目はアグニカを離さない。

その青い瞳を、じっと見つめる。

 

「これからも、私の希望になってください」

 

こんなに鼓動が鳴り響くのは、生まれて初めてだ。

でも、凄く澄んだ気持ちでいる。

 

アグニカがアグニカでいてくれたら、私は、どんな苦難も乗り越えられる。

 

笑っちゃいそうでしょ?

 

でも、本当の気持ちだ。

 

「私も、あなたの希望になりたい」

 

ほんの小さな光でいい。

アグニカの心の中に、ポツリと光る希望でありたい。

少しでも、彼の心を暖めてあげたい。

 

 

アグニカはフミタンを見つめたまま、無言だ。

言いたい事を言い終わると、途端に恥ずかしさが沸き起こってきた。

さっきまでは離すまいとしていた視線も、合わせ続けるのが辛い。身体の芯が砕けてしまいそうになる。

本当に迷惑じゃなかったのか、不安すら覚える。

 

いっそ拒絶でもいいから、何か反応が欲しい。

お願いだから。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

全身が塗り替えられるような感覚。

衝撃的でもあるし、爽快感すら覚える。

 

感情が喜びに変わる。

この呪いを恨んだ事は多々あったが、それは感じるべき負の感情すら飲み込んでしまう事に対してだ。

なにもかも忘れて戦争に没頭する自分に、ふと疑問を抱いていた。

 

けれど。

この嬉しいという感情は、喜びに変わるまでもなく、この身を打ち震わせる。

塗り潰され、湾曲された狂喜ではない。

素直に嬉しいと思える事が、アグニカにとって唯一の『本物の感情』なのだ。

 

アグニカが嬉しいと思える事

それは『愛』だ。

 

戦場に生きる者達が見せる、命の輝き。

崇高な精神。熱い想い。守りたい幸せ。

そこにはいつだって愛がある。

 

戦場に生きる者達に対して感受性が高いという事が、アグニカ・カイエルの最大の魅力なのかもしれない。

 

厄祭戦の残骸を呼び寄せた、こんな自分を。

精神異常者としての、こんな自分を。

親からも捨てられた、こんな自分を。

 

好きだと言ってくれる人がいる。

こんなに嬉しい事はない。

 

「俺も……お前が好きだよ」

 

「ッ!!!」

 

なんだよ。自分から言っといて、そんなに赤くなるなよ。

 

フミタンの頬に手を伸ばす。

ビクリと震えたが、すぐに目を閉じて受け入れる。

前にもこんな事があったか。

確か、火星を出る前の夜。

月の話をしたんだっけ。

なんだか凄く昔の事のように思う。

 

柔らかい唇にキスをする。

舌先で舌を舐め回す。

ゾリゾリと舌を伝う快感に痺れる。

 

混ざり合った唾液が糸を引き、顎に垂れる。

まだ余韻に浸っているのか、フミタンは夢見心地で、目の焦点が合っていなかった。

 

「子供が欲しい」

 

「…………はぇ?」

 

フミタンが間の抜けた声を出す。

それが可笑しくて、くすりと笑う。

 

「俺の希望になってくれるんだろ?なら、俺の子供が欲しい」

 

アグニカの言っている事に理解が及ぶにつれ、顔に赤みが増す。

色々段階をすっ飛ばして、愛の結晶が欲しいという。

 

「フミタンは、子供作った事あるのか?」

 

「えぇえっ!?い、いえ、ありませんが……」

 

「俺はあるが、もう300年も前だ。それだけ経つと、もう肉親という感覚は無い」

 

「え?……ええ???」

 

フミタンは頭がついていかず、ただ困惑するばかりだ。

 

「それに、生き残ってるかも分からんしな」

 

「あ、あの……」

 

「俺は血の繋がった家族が欲しいんだ。それが、あの時代で手に入らなかった幸せ……希望になるから」

 

守るべき家族が幸せになるだなんて、随分人間染みた事を言う。

化物の、お前が。

 

そんな事を言われるかもしれない。

特に、俺が今まで殺してきた亡霊達に。

 

だが、これが俺なんだ。

『愛』だけが確固たるものと信じる俺にとって、家族こそが最高の希望になる。

 

フミタンの手を取って、歩き出す。

 

「んじゃ、俺の部屋に行くか」

 

「ちょっ……と、アグニカ!」

 

はっきり名前を呼ばれて、振り返る。

嬉しくて、思わず微笑んでいるのは気付いている。

でも、止まらない。

この感情だけは止まらない。

 

「お手柔らかに……」

 

「あははっ!」

 

可愛い。

胸に手を当てるフミタン、最高に可愛い。

恥じらいと期待と困惑が混じった表情も、本当に可愛い。

 

俺はフミタンが好きだ。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

イサリビのモビルスーツデッキ。

そこにはバルバトスと一緒に回収された、ガンダム・グシオンの姿があった。

毒々しい緑色の装甲が外され、フレームが露になっている。

 

その足元に立ち、グシオンのツインアイを見つめる者が居た。

決意の眼差しをした、ノルバ・シノであった。

いつもの陽気な雰囲気は無い。

目元は赤く腫れた跡があり、隈もできていた。

 

「力が欲しい……」

 

ぽつりと呟く。

 

敵を殺せるが欲しい。

ガンダム・フレームとは、まさに力の象徴だ。

 

「シノ……」

 

ヤマギはそっと、シノの後ろに立っている。

 

「こいつは俺が貰うぜ。力が欲しいんだ」

 

「それは俺のだ」

 

背後から声がかかった。

シノとヤマギが振り返る。

 

するとそこには、包帯を身体中に巻いた昭弘がいた。

実の弟が爆死し、その骨や歯を散弾のように浴び、全身がズタズタになっていた。

特に痛々しいのは目だ。

右目は完全に潰れていた。

眼帯をつけているが、その傷の深さはまざまざと見せつけられる。

 

本来、ベッドから降りるべきではない身体なのだが、こうしてグシオン()の元に引き寄せられた。

 

「よお昭弘ぉ、怪我はもういいのか?」

 

「ああ、問題無い」

 

軽い会話のようだが、双方、目が笑っていない。

絶対に譲れないもの同士が、ぶつかり合うのだ。その確信がある。

 

「無理すんなって。怪我人は大人しく寝てなきゃな!んで、こいつは俺が使わせてもらうからよ!」

 

シノが言い終わる前に、その胸ぐらを掴む。

昭弘の表情は冷たく、怒気をはらみ、有無を言わさぬ覇気があった。

 

「これは、俺のだ」

 

だがシノも一歩も引かない。

昭弘の胸ぐらを掴み、牙を見せて笑う。

 

「今の俺はぁ……怪我人だからって容赦しねえぞ?」

 

「俺も……仲間だからって手加減しねえ」

 

一瞬時が止まり、次の瞬間、お互いに額をぶつけ合う。

胸ぐらを掴んだ状態での全力の頭突きに、二人は脳が揺れ動かされる。

 

だが即座に立ち直し、拳を振りかぶる。

そして、お互いに全力で殴った。

腕が交差し、頬が歪む。

硬い音、飛び散る鼻血、ふらつく足取り。

二人共全力で殴り合う。

 

「おおおおおおおおおおおおっ!!」

 

「があああああああああああああ!!!」

 

昭弘の拳がシノの腹部に入り、その身体が浮く。しかし肘で昭弘の顎を打つ。ぐらついた隙を逃さず、体当たりして押し倒す。

そのから怒濤の殴打の嵐。

しかし昭弘も黙っていない。すぐにマウントを取り返し、上からシノをタコ殴りにする。

ゴロゴロと転がり、泥沼の殴り合いを繰り広げる。

 

「おやっさんを連れてきて!」

 

ヤマギが近くにいた団員に指示する。

とてもヤマギ一人では止められない。

しかし放置する訳にもいかない。人を呼ぶしかない。

 

「「おお゛おおおおお゛お゛おお゛おおおおおお゛おおお゛おおおおおお゛おお゛おおお゛ッ!!!!」」

 

家族のような仲間への親愛は、今この時には欠片もなかった。

あるのはただ、目的を邪魔する者への憎悪、怒りだけだ。

親愛が憎悪へ移り変わる。

まるで、感情が反転してしまったかのように。

 

グシオンは、その二人を静かに見下ろしていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

人が集まった頃には、決着はついていた。

赤い血液が踏みつけられ、引き伸ばされている。

冷たい床に倒れているのは、シノだ。

昭弘は全身から血を溢れ出しながら、ぐらつきながらも立っていた。

 

「あ゛っ……なんでだ……?身体……うごかね……」

 

シノもブルワーズとの戦いで満身創痍だったのだ。ろくに休息も取らず、懺悔と憎悪を燃やす事に費やしていたから。

昭弘は血を吐きながら、かすれた声で言う。

 

「ごれ゛ば……お゛れが、もら゛う゛」

 

それだけ言うと、昭弘は踵を返し、どことなく歩いていってしまう。

 

「まてよ……」

 

目だけで昭弘の背中を追い、シノが絞り出したような声を出す。

 

「まてって……」

 

立ち上がろうにも、身体に力が入らない。

拳を握りしめる事すら厳しい。

 

「まてっつってんだろおおおおお!!!畜生おおおおおおおおおおおおお!!!」

 

最後の力を振り絞って、声を張り上げる。

悔しさから涙が流れる。

 

「畜生おお゛おおお゛おおおお゛おお゛おおおおお゛おおおおお゛おおおおおお゛おおおおお゛おおお゛おおおお!!!!」

 

無念の雄叫びが、モビルスーツデッキに響く。

皆、悲痛な表情をして、その場を後にする。

 

ヤマギだけは残り、シノの頭を膝に乗せた。

 

「シノ……」

 

「う゛っ……うっぐ……ぢぐじょぉ…………」

 

滝のような涙を流すシノ。その頭を、そっと撫でる事しかできなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

「寒気が止まらん……」

 

イシュー家現当主、サイ・イシューは腕を擦った。

皮膚は強張り、血管が浮き出て、骨と皮だけの枯れた身体。老いぼれだ。

イシュー家の別荘、隠れ家で療養しているというカバーストーリーも、あながち間違っていないのだ。

落ち着いた色の肩かけをして、いくら火を焚いても収まる事はない。

 

ここ最近の寒気は、外気の低下でも体温調整の不全でもない。

悪い事の前触れ。虫の知らせとでも言うべきか。

サイの短くない生涯で、同じく悪寒に襲われた事があった。

その時は決まって、何か凶事が起こるのだ。

今度の悪寒は、人生で体験した事がないほどで、すぐにでも気を失ってしまいそうだ。

 

だがそんな時に限って、「まじない」の調子はすこぶる良い。

 

サイは儀式用の祭壇室にいる。

畳の上に広い台があり、占い用の数珠、宝石、水晶、タロットカード、ルーンの刻まれた石、星座の位置を示した複雑なオブジェなど、種を問わず様々なものが置かれていた。

天井はガラス張りで、星座の位置が良く見えた。

 

タロットカードを手に取る。

イシュー家に伝わる、独自の絵柄と意味を持つカードだ。

ギャラルホルンの中核、セブンスターズの重鎮達をざわつかせている、鉄華団なる集団について。

ここに、バエルとアグニカを騙る者がいる。それが、最近の物資窃盗事件に関係しているというのが、エリオン家当主、ラスタル・エリオンの見解らしい。

 

カードを並べ、山から一枚を引く。

最も重要な意味を表すカードは、『炎の皇帝』

「希望」「変革」「力」など、多岐に渡る意味を持つカードで、絵柄として描かれているのは、若かりし頃の英雄アグニカ・カイエルの横顔だ。

 

「やはり……本物のアグニカ・カイエル……なのか?」

 

白い髭を擦る。

カードを山に戻そうとして、ずるりと、カードが二枚に分かれた。

『炎の皇帝』の裏に、もう一枚のカードが重なっていたのだ。

ゾワリと汗が引く感覚。鳥肌がプツプツと開く。

自分は確かに、一枚のカードを引いた。

感触も、厚さも、見た目も、一枚としか感じなかったし、こんな初歩的なミスをするとは思えない。

なのに、実際は二枚重なっていた。

 

タロットカードを使って50年、初めての事だ。

戦慄しながらも、そのカードの絵柄を見る。

 

 

『天使』

 

逆さまの天使。

「死」「浄化」「洗脳」など、強すぎる力が有象無象を呑み込むという意味を持つ。

 

「アグニカ・カイエルと……天使か……」

 

希望と死。

相反する意味を持つカード。

それらを併せ持つ、という結果になった。

 

「人類にとって希望となるが……死を振り撒く災厄にもなる、という事か?」

 

人類、またギャラルホルンにとって、大きな転換期となる。そんな気がしてならない。

 

「次は災厄を見るか……」

 

青い水晶を前に置く。

これは見る者とその属する組織、故郷が味わう事になる苦痛、恐怖を予見する事が出来る。

イシュー家の占い道具の中で、特に見えにくいものだが、今日は透き通るように良く見えた。

 

赤い。先ず何よりも赤い世界が見えた。

これは……水?赤い水……いや、水が落ちているから、雨だ。赤い雨が降っている。

慌てふためく人々、燃える町、流れる血……

 

場所は、雪国……アーブラウ連邦、ロシアのどこか……

何かが墜落したのか、燃え盛る巨大な鉄の塊が、町のド真ん中に突き刺さっている。

ほぼ地面を割るような形で。

 

「むぅ……」

 

とにかく大惨事になる事は分かった。

急遽、アーブラウ連邦とギャラルホルンの担当部署に警告を発するとしよう。

そういった外部への連絡と手回しは、『スカジ』という男に頼んである。

長年イシュー家に仕えてきた家系の者で、サイも信頼を置く人物である。

娘であるカルタの婿として迎えてもいいぐらいだ。当のカルタ本人が丁重に断ったために流れてしまったが。

 

「さて……次は……」

 

「蟲」の正体、そして、その根城について占った方がいいだろう。見えにくいものが見える、今が絶好の機会だ。

 

蟲に関しては何度も占っているから、ある程度の調べはついている。

蟲に洗脳されていたと思わしき人物達、彼らに共通するものとして、『憎悪』が唯一で最大のものだった。

サイの占いと、スカジの身辺調査が可能にした、普通とは違った捜索経路で辿り着いた答え。

人々の憎悪につけこみ、脳を、感情を、行動を、思考を操る者がいる。

その正体と、居場所を知りたい。

 

ルーンが刻まれた石を袋に詰め込む。

神経を集中し、石を混ぜ合わせる。

 

「憎悪を司る邪悪なモノ……その名を教えてくれ……」

 

そして、掴み取った石を一列に並べる。

そこに紡がれた単語は。

 

『mastema』

 

マスティマ、またはマステマ。

神の国の言葉で、憎悪と敵意を意味する。

 

天使の名だ。

 

「ま……まさか、天使が…………モビルアーマーが生き延びているというのか!?」

 

厄祭戦時代の遺物。

人類最大の過ち。人類史上最も人が死んだ戦争。

それが、終戦から300年経った今も、どこかで生き延びていたというのか。

 

「ばっ……場所は!?奴等の根城は!?」

 

天使の名を冠しているとは言え、所詮は機械。

ネットワーク上に寄生していても、心臓や脳となる重要な機関があるはず。

そこを突ければ。

 

世界地図を簡略化した絵を広げる。

そこには地球だけでなく、火星、月、広大な宇宙を俯瞰できるように作られている。

 

そこに鉄の小粒をばら蒔く。

かつてモビルアーマーのフレームだって鉄だ。それを玉の形にしている。

災いを示すものに牽かれて、その場所を指し示してくれる。

 

多くの鉄の玉は、5つの場所に固まった。

火星、海賊達が幅を効かせる宇宙、コロニー郡、地球、そして、ギャラルホルンの本拠地、ウィーンゴールヴだ。

 

「5つ……どういう事だ?マステマは心臓が五つあるのか?」

 

地球にあるマステマの反応、その場所は、イシュー家のルーツでもある、『日本』という島国だ。

 

「日本……ここに何があるというのだ……」

 

災いを予知するなら、やはり水晶を覗く。

日本を覗こうと意識した途端、水晶がドス黒く変色した。

 

「ッ!?」

 

墨を垂らしたように、日本全土が黒く染まっている。

黒すぎて、最早何も見えないほどだ。

 

「なんだ……!?日本で何が起こっている!?」

 

寒気が止まらない。

今夜予知したものは、いずれも超重要なものばかりだ。

すぐにでもラスタル、ギャラルホルンの重鎮達に伝えなければ。

 

指がかじかんだように動かない。

通信機に手をかけた瞬間、それが振動する。

スカジからの定時連絡だ。

 

『サイ様、私です』

 

「スカジ!大変な事になった!日本にマステマがいる!!」

 

『日本……?マステマ……?』

 

スカジの困惑する声が聞こえる。

 

「厄祭戦時の天使の名だ!その本拠地が日本にあると見た!しかも、奴の心臓は一つではない!」

 

『わ、分かりました。一度資料にまとめて、セブンスターズの領主様方に……』

 

「そんな時間はない!すぐさまラスタルに繋げ!アグニカは本物だったと!」

 

『はっ!分かりました!』

 

コール音が聞こえる。

ラスタルの番号に自動で繋いでくれているのだろう。

機械には疎いため、スカジに頼りっぱなしになるが、彼は仕事が早いし信用できる。

 

寒い。血の流れが滞っているのか、思考が遅くなっていく。

 

最近は蟲の正体を探らせるために働かせすぎた。

危険な任務も多かったし、疲れが溜まっているかもしれない。

ラスタルの受信を待つ間、スカジについて占おう。

 

思考が緩くなっていく。

タロットカードを切る。

スカジの現状を表すカードは……

 

『糸』

 

運命の赤い糸。

そんな言葉が連想される。

それがカルタと繋がっていればいいのだが、なんて馬鹿げた事を考える。

親馬鹿もほどほどにせんとな……

意味を補足するカードをめくる。

そこにあったカードの意味は。

 

『不可視』

 

見えない糸。

 

ーーーーーー操り人形

 

ゾッとする。

 

まさか。まさかまさかまさか

 

「スカジ……まさか貴様っ!?」

 

『貴方は知りすぎた』

 

コール音は止んでいた。

どこにも繋がってなどいないのだ。

 

爆発音。衝撃に揺れ、占い道具が倒れ、散乱する。

サイは老体に鞭打って、走る。

ここから脱出せねば。ここはもう、マステマの手が伸びてきている。

 

「くっ……!!」

 

せめて、情報だけでも伝えねば……!

憎悪の連鎖を止めてくれる、希望となる者に。

 

さもなければ、この無意味な死の連鎖は止まらない……!!

 

 

 

その夜、イシュー家が所有する別荘地、その島丸ごとの存在が消えた。

物理的にも、社会的な情報としても。

誰も、そこに島があって、別荘があって、サイがいた事など知らないし、覚えていないし、認めない。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「以上が、モビルアーマーについての情報だ」

 

アグニカは自身が知る限りの、モビルアーマーについての情報を公開した。

その中で、思考型と思われるモビルアーマーが現存しており、その目標はアグニカ。あるいはガンダム・フレームを持つ組織であると伝える。

 

それを聞いた鉄華団団長、オルガ・イツカと、タービンズのリーダー、名瀬・タービン、そして火星独立家のクーデリア・藍那・バーンスタインは、重い沈黙と共に顔を伏せた。

 

 

時は少し遡り、ブルワーズの侵入者が全員殺害、あるいは捕縛され、怪我人の搬送、死体の安置、破損部の把握と後片付けが終わった頃。

ハンマーヘッドの談話室に呼ばれ、オルガ、おやっさん、シノ、ユージン、ビスケット、メリビット、クーデリアが集まった。

そこでお互いの船の状況と、手に入れたモビルスーツ、ブルワーズの船の残骸(自爆特攻をしてきたのでフレーム部以外はボロ屑状態だ)のまとめ、そしてブルワーズのヒューマンデブリの処遇についてを報告した。

 

ブルワーズの大人達と共に侵入してきた者、モビルスーツに乗っていた者。

そのどちらも、信じられないほど好戦的だった。

薬物で正気を失っているかのように、ただ暴れまわり、人を害す。

その目には底知れぬ敵意と、憎悪があった。

 

戦闘中には、彼らを止められなかった。

そのほとんどが、殺すしか止める方法がなかった。

降伏するよう呼び掛けても、命を捨てて特攻を仕掛けてくる。

生きて捕まえられたのは、ほんの11人だけだ。

しばらく独房に入れておくと、大分落ち着いてきた。

正気に戻ると、一変して小さくなり、震えだした。

まるで解体される前の家畜のようだ。

恐怖に身を打ち震わせ、泣きながら許しを乞う。その姿は憐れで、異常だった。

 

そんな彼らに手を差し伸べたのが、他でもないオルガだ。

お前達は鉄屑じゃない。宇宙で生まれ、宇宙で散る事を恐れない、誇り高き戦士。

望まない殺し合いを強要されていた、そんなお前達を恨みはしない。

俺達はお前らを歓迎する。

 

そう言って、他の団員の制止も聞かず、檻の中に入り、彼らの肩を叩いた。

 

その歩み寄りが心を打ったのだろう。

彼らは泣き出した。その涙は一日中止まらなかった。

 

 

そんな報告の最中、アグニカが(いつものように)突然会議に参加。

敵の正体、背景、目的……つまり、モビルアーマーについての説明を終わらせた。

 

「厄祭戦時代の……血塗られた兵器……」

 

最初に口を開いたのはクーデリアだ。

彼女の革命は、火星に生きる人々の、平和で幸せな生活を守るためのものだ。

人々を殺し、死滅されるためにある兵器など、彼女の理想とは対極に位置する存在だ。

忌避感は止めようがない。

 

「そんな相手が、この先も邪魔してくるって訳か……」

 

頭に包帯を巻いた名瀬が、険しい顔をして言う。

今回の戦闘だけで、タービンズの女達が15人死んだ。

その女達を偲ぶ涙を、名瀬は胸で受け止めてきた。

 

「瞬間移動や超長距離狙撃兵器、巨大デブリ、洗脳技術まで持つ相手となると……完全に技術力で負けてる。勝負にすらならない相手だよ」

 

敵戦力を冷静に分析するビスケット。

総合的に見て、とても勝てる相手では無いと結論付けた。

 

「……」

 

シノは無言だ。

昭弘との殴り合い以降、一言も喋っていない。

 

「…………」

 

オルガもまた無言だ。

この先、クーデリアを地球まで運ぶ仕事を続けるならば、もっと多くの犠牲は出る。

 

「で、どうする?

続けるか……?」

 

アグニカは静かに問う。

 

依頼主として、クーデリア。

彼女を預かるテイワズ、その直系として、名瀬。

タービンズの配下として、クーデリア移送の仕事を引き受けた鉄華団団長として、オルガ。副団長として、ユージン。

仲間を無惨に殺され、それを目の当たりにした者達の代表として、シノ。

冷静にリスクとリターンを考える者として、ビスケット。

子供達を支える大人としての、メリビット、おやっさん。

 

それぞれに問い掛ける。

止まるか、止まらないか。

 

「止まらねえ」

 

真っ先に答えたのは、オルガだ。

皆が彼の目を見つめる。

 

「ここで辞めたら、死んでいった奴等の命が、全く無駄だったって事になっちまう。あいつらの死にもの狂いの努力が……意味のねぇもんになっちまう。

そんな事は絶対させねえ……!」

 

その目には確固たる意思があった。

団員達の命を……死を背負う覚悟。

それを皆が感じ取った。

 

だがアグニカだけは、その瞳の奥にもう一つの感情が見えた。

 

『憎悪』

 

仲間を残虐な方法で奪った敵

自分達を認めず、手を差し伸べる事もなかった世界

散々虐げられ、見下されてきた理不尽

汚ない大人達

 

そういったものに対する、底知れない憎悪……

 

それらに復讐する事が、オルガの向上心の根底にあるものなのではないか?

 

だとしたら、これは本当に危険だ……

 

「私も……ここで止まる訳にはいきません」

 

傷ついた三日月を見て、心臓が握り潰されたようだった。

泣きじゃくるアトラを見て、目の前が真っ暗になった。

 

彼らを幸せにするために、彼らを戦場に駆り出す。

それは、ずっと前に決意した事なのだから。

たとえ自分を殺し尽くそうと、彼らを殺し尽くそうと、歩みを止める事にはならない。

 

「依頼主がそう言ってんだ。途中で投げ出したりしたら、親父に殺されちまうぜ」

 

名瀬が両手を上げて茶化す。

 

「でも、今の戦力じゃ心元無いです。なんとか戦力増強できないでしょうか?」

 

ビスケットは一つ先の話をする。

正直に言えば、止まりたい。

正体不明の敵に付け狙われる。ギャラルホルンよりも一層質が悪い相手に。

しかも、戦闘はほぼ回避できそうにない。

そんな中、依頼を続行するには不安要素がありすぎる。

だが答えが出るものでもない。だから明確な返事をしなかった。

 

「俺はただの整備員だからよぉ……オルガやお嬢さん、名瀬さんとこに任せるぜ」

 

おやっさんは頭を掻きながら言う。

 

「俺も、団長の意見を指示するぜ。ここで止めたら、あいつらが踏ん張った意味がねえ」

 

ユージンも、静かに答える。

 

「俺は……意味なんてどうでもいい……」

 

シノはいつになく弱々しい声を出した。

 

「あいつらがこれ以上……苦しまないでいて欲しいだけなんだ……」

 

残虐な方法で殺された仲間達。

彼らの死を受け止めきれていないのだ。

だから、身体が動いても、心が動かない。

 

「お葬式……」

 

「え?」

 

メリビットが呟く。

 

「お葬式を出したらどうですか?」

 

「葬式?」

 

オルガが聞き返す。

 

「ええ。私が生まれたコロニーでは、死者はお葬式で送り出すの。魂がきちんとあるべき場所へ戻れるように。そして無事に生まれ変われるように」

 

「……なんすかそれ」

 

オルガは腑に落ちないのか、微妙な反応をする。だが、シノをチラリと見て、どうするか考えているようだった。

 

「いいじゃねぇか」

 

「兄貴……」

 

「葬式ってのは昔は割と重要なもんだったらしいぜ。葬式を挙げることで死者の魂が生きてた頃の苦痛を忘れる……なんて話もある」

 

「苦痛を?」

 

俯いていたシノが、初めて顔を上げる。

その目には光が灯っていた。

 

「俺やりてぇ」

 

「シノ……」

 

「俺……だったらやりてぇ。葬式。少しでもあいつらが痛みを忘れられんなら」

 

シノは自分が守りきれなかった仲間を、葬式で弔う事を欲している。

酷い死に方をした仲間達、彼らの苦痛を、無念を、自分達の手で和らげてやりたい。

そこでドアが開き、包帯だらけの昭弘が入ってくる。

 

「俺からも頼みたい」

 

「昭弘……」

 

家族を失ったのは、彼とて同じ。

 

「そうと決まりゃあ俺らも手を貸すぜ」

 

名瀬が立ち上がる。

 

「みんなにも知らせなきゃね」

 

「ああ、だな」

 

ビスケットとおやっさんも乗り気だ。

 

「んじゃ俺イサリビ戻るわ」

 

「ああ、俺も」

 

ユージンが帰り、シノもついていく。

途中、昭弘とすれ違ったが、

 

「さっさと傷治せよ」

 

と軽口を叩いていた。

 

あの憎悪のぶつけ合いが嘘のようだ。

 

 

彼らが出した答え。

それは、『止まらない』

 

けれど、ほんの少しだけ、立ち止まる。

仲間との別れを、ちゃんと済ませるまで。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

アグニカはぼんやりと通路を歩いていた。

 

葬式……

 

あの膨大な死者を出した厄祭戦。

そりゃあ葬式なんて幾度となく経験した。

そして、死者には墓が作られる。

 

「墓参り……か」

 

戦いで死んだ仲間達も、時の流れで死んだ部下達も。

ここがアグニカの居た世界の延長線上ならば、彼らの墓があるはずなのだ。

 

そこで、彼らの魂を弔う事が出来るだろうか。

 

死んでも死にきらなかった自分が。

 

あの七人の部下達と再び会える日を、心のどこかで待ちわびるのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「気に入らないみたいですね」

 

「……」

 

メリビットはオルガに話しかける。

葬式が決まった時も、一人だけ浮かない顔をしていたからだ。

 

「いや、葬式の話を出してくれて、感謝してます」

 

「え?」

 

意外な言葉に、メリビットは驚く。

てっきり、葬式そのものに疑問を抱いているのだと思っていた。

 

「俺じゃなくて……他の奴らがして欲しかった事だし……

それに、死んだ奴らも、同じ事を言ったかもしれない」

 

「団長さん……」

 

偶々自分達が生き延びたが、死んだのは違う誰かだったかもしれない。

 

「死んだ仲間にゃ、どうせ死んだら会えるって思ってたけど……死ぬまで会えねえからな」

 

彼らの意見など聞きようがない。

ならば、こちらが思う最高の弔いをするのがいい。

 

「それが結局、生きてる奴のためにもなる」

 

「ええ、その通りよ。団長さん」

 

メリビットは深く頷く。

 

「お葬式って、大切な人の死を受け入れるためにあるの」

 

しんみりした空気のまま、オルガは歩き出して行った。

 

「子供かと思ったら……すごく、大人びた顔もするのね……」

 

メリビットは、彼らが抱える生と死の葛藤というものに胸を打たれる。

 

「聞こえてますよ、おばさん」

 

「なっ!」

 

オルガが振り向き様に言い残し、去っていく。

メリビットはカッとなったが、大人げなく当たり散らす事はない。

そのまま頬を膨らませて、思うとは反対側に歩いていった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

宇宙服を着た団員達が、イサリビの艦橋に立っていた。

ここは船の中ではない。冷たくて暗い、広大な宇宙の中なのだ。

足下のイサリビの装甲だけが、自分達を「家」に留めてくれる唯一のものだ。

 

「これも入れていい?」

 

「いいぞ」

 

死者を送り出す鉄の棺。

団員達は思い思いに、それぞれの宝物や食料などを入れていた。

ぬいぐるみや紙幣、愛用していた銃などもある。

クランクの周りにはまだ小さい団員達が固まっている。しきりにクランクに話しかけたり、手を繋いだり、宇宙服を摘まんだり。

やはり不安な気持ちは行動に表れるのだ。

 

「こうやってここに立つってのは、妙な気分だな」

 

「ああ……」

 

ユージンとシノが、なんともいえない神妙な顔をしている。

昭弘はずっと、小さな星の瞬きを見ていた。

 

宇宙に送り出すのは、鉄華団のメンバーだけだ。

タービンズの犠牲者達は、歳星にある墓に埋葬する。そのための遺体輸送船を手配している。

準備が終わり、鉄華団のマークが描かれたシーツが巻かれる。

 

「よし。んじゃ始めっか。オルガ」

 

「はい」

 

通信で、イサリビのブリッジにいるオルガに合図する。

ブリッジにはアトラとクーデリアがいて、フミタン、メリビットが後方に立つ。

フミタンの横には、静かにアグニカが立った。

彼女の沈んだ表情が、少しだけ和らぐ。

鉄華団の団員達の姿に、昔の自分を重ねているのだ。

大切なものが踏みにじられた時の、心の傷を、痛みを知っているから。

 

前方、モニターのすぐ近くでは、傷が癒えたタカキが、ライドやダンジに話しかけられていた。

 

「みんな祈ってくれ」

 

メリビットをチラリと一瞥して、すぐモニターに視線を移す。

 

「死んだ仲間の魂が、あるべき場所へ行って……そんでもって、きっちり生まれ変われるようにな」

 

メリビットは、オルガの仲間を想う気持ちに微笑んだ。

 

皆が目を伏せ、祈る。

静かな時間だ。それぞれが仲間を、家族を想う時間。

そんな中、棺がふわりと浮遊していく。

フミタンの手が、アグニカの手に触れた。

どちらともなく、指を絡めて、強く握り合う。

 

後方主砲が艦内からせりあがる。

 

「弔砲用意。撃て」

 

二発、弔砲が撃たれる。遠くの暗闇で爆発したかと思うと、青い光の粒子が散らばった。それはまさに、光の花が咲いたようだった。

 

「これは……」

 

昭弘は息を呑んだ。

 

「すっげぇきれい!」

 

「花咲いた花!」

 

エンビとエルガー、子供達は大はしゃぎだ。

 

「「おおー!」」

 

チャド、ダンテ、若い衆も感嘆の声を出す。

 

「すごい……」

 

「すっげー!」

 

「どうなってんだこりゃ!?」

 

ブリッジでは、タカキ、ダンジ、ライドも同じようにモニターに見とれていた。

 

「おやっさんこの弾……」

 

「おう、推進剤に使ってる水素をよ、ちぃっとばかし細工したんだよ」

 

ばしっとヤマギの背中を叩く。

 

「うあっ」

 

「こいつが言いだしっぺでな」

 

「へえ~!」

 

「ヤマギが?」

 

ユージン、シノは彼の機転に感心した。

そんな中、はしゃいでいた皆の声が止まる。

 

「消える……」

 

クランクの言葉通り、暗闇に咲いた青い光の華は、その煌めきが徐々に薄れ、暗闇に消えていく。

 

「儚いものだな……」

 

クランクはぽつりと呟く。

子供達は消えてしまう光を惜しんでいた。

 

「なんだよ~……もっとずっと咲いてりゃいいのに」

 

「うん」

 

光が消えてしまった暗闇。

もうそこには何も残っていない。

 

「はぁ……」

 

身体から息を吐ききるような溜め息をした。

そんな昭弘の肩に、ユージンが抱きつく。

 

「なんかあっけねぇな。生きてるときはぎゃあぎゃあやってよ、くだらねぇことで笑って、やり合って……」

 

なんでもない思い出が、何故か輝いて見える。

だがそれも

 

「消えるときは一瞬だ」

 

ユージンの言葉に、胸につっかえていたものが溢れたのか、シノは泣き出してしまいそうになる。

 

「ぐっ……」

 

「泣けよ」

 

名瀬はしんみりと語る。

 

「葬式ってのはな……生きてるヤツらに、思いっ切り泣くことを許してくれる場でもあるんだ。だからよ、今日ぐらいは……」

 

「嫌です」

 

きっぱりと断る。

シノの目には、意地とも決意とも言える強い炎が宿っていた。

 

「格好よかった仲間を見送るってときに……自分らがだせぇのは嫌です」

 

シノの言葉に感化されたのか、皆も涙と嗚咽を堪える。

そうだ。彼らは格好良かった。

懸命に生き、希望を抱いて戦っていた。

そう考える事が、死者の名誉を守る事でもあり、自分達への慰め、激励でもある。

胸から溢れる悲しみを、喰い縛るように耐える。

この止まらない思いこそ、仲間を想う確かな証。

 

「ほんと、バカな子たちだね」

 

本当に家族を愛しているから、彼らなりに選んだ送り方だった。

 

不器用で、愚直で、馬鹿な。

苦しいほどの純粋さで、仲間の死を悼んだのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

一時は滅茶苦茶になった食堂も、クーデリア達の懸命な清掃活動によって、ようやく元の形に片付いた。

クーデリアは一生分の掃除をしたような達成感と疲れを味わった。

机を拭きながら、フミタンとメリビットに話しかける。

 

「静かな夜ですね」

 

「ええ」

 

アトラはここには居ない。

三日月に付きっきりだ。

 

「ううっ、ううっ……」

 

「むぅ……」

 

食堂の入り口から、泣いている年少の団員と、その手を引くクランクが入ってきた。

子供の名前はリュカ。生意気だが、不安になると一気に沈みこむタイプだ。

歳相応に脆い一面が強い。

 

「クランク先生、どうしました?」

 

「リュカが泣き止まなくてな。他の子供らが眠れないから、ココアでも飲ませてやろうと思ってな……」

 

「母ちゃん……ううっ……ううっ」

 

「……」

 

クーデリアは悲痛な表情をするが、どうしたらいいか分からない。

そんな時、フミタンが静かに歩み寄った。

泣きじゃくるリュカを、そっと抱き締める。そして背中に手を回し、ポン、ポンと優しく叩く。

リュカは胸に顔をうずめ、思いっきり甘えた。

 

「フミタン……」

 

「お気になさらず」

 

クーデリアはハッとした。

フミタンの表情は、優しさと暖かさに満ち溢れていた。

愛に溢れた、母性ともいえる穏やかな笑顔。

初めて見る横顔を、クーデリアはじっと見つめていた。

 

クランクもフミタンの変化には驚いた。

 

(変わったな……)

 

アグニカからスパイだと言われていたので、それなり警戒し、動向を探っていた(他の仕事と並行していたので地獄のようなスケジュールだった)。

仕事を淡々とこなし、感情を表に出さないタイプだと思っていたし、彼女にはかつての自分と同じ、ある種の死への願望があった。

だが今は、生きる希望と、愛に溢れている。

 

リュカが泣き止み、クランクがおぶって帰ってやるまで、その静かな安息の時間は続いた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

イサリビの病室は、CGSの大人達が管理していた頃に比べて、格段に良い設備状態になっていた。

団員達が応急処置の仕方を覚えた事もあって、生存率は格段に上がったと言える。

クリュセで最新のナノマシンベッドならば、昭弘のように間近で人間爆弾の爆発に巻き込まれたとしても、十分に回復は可能だ。

だが、あくまで傷を塞ぎ、回復を促す事だけだ。それ以上は人間の手による手術か、別の手術用機材を使う必要がある。

そういった追加の機材も揃ってはいるのだが。

それらを総合した上で、星熊は考えを言う。

 

「腕一本生やすってのは、この設備じゃ無理かな」

 

病室には何人かの人間がいる。

暗い表情をしたオルガ、カルテを机に置く星熊、その後ろに立っている虎熊。

 

「命に別状はねえんだよな?」

 

「うぇ……は、は、はい……」

 

オルガに話しかけられ、上擦った調子で返事をするのは、童子組の鬼、金熊童子だ。

星熊や虎熊と同じ、酒呑童子の子孫四兄弟の名を持つ男で、その末の弟だ。

星熊達と同じように、その頭には角の形をした外部生体器官が埋め込まれていた。

だが二人のような堂々とした雰囲気はない。

常におどおどして、目線は泳ぎっぱなし。

おまけに手は震え、できるだけ部屋の隅の方に行こうとする。

 

「きき、傷は塞がりまし……た。すぐに……目がさめると……おも……」

 

言葉が尻すぼみになって消えていく。

聞いている方が不安になるようなしゃべり方だ。

そして一つのナノマシンベッドを見やる。

そのガラス張りのベッドの傍らに、一人の少女が座っていた。

アトラだ。

その姿はいつもより小さく見える。

 

そして、ナノマシンベッドの中で眠っているのは、ガンダム・バルバトスのパイロット、三日月・オーガス。

 

右腕は千切れ飛び、内臓は金属片で抉られズタズタ、頭を強く打った事による脳へのダメージ、出血多量。

とにかく酷い状態だった。

こんな三日月を誰も見た事が無いほどに。

 

そんな三日月の手術を受け持ったのが金熊だ。

 

平時こそ頼りないが、緊急時の彼の多才さには、童子組の誰もが一目置いている。

通信機器の扱いからモビルスーツ整備、医療、手術の技量まで。

基本的に戦いか賭博しかしない童子組にとって、この多才な人材は非常に大きな存在だった。

普段は隅っこで体育座りをしている、暗い少年なのだが。

 

「んで、色々考えたんだけど、うちで使ってる義手を付ける事になったんだよ」

 

星熊は金熊に代わり説明する。

ナノマシンベッド内の三日月の右腕には、童子組が作った義手が取り付けられていた。

 

「それにもし戦線に復帰するなら、腕はあった方がいいでしょ?」

 

三日月の役職は、基本的にバルバトスのパイロットだ。

その操縦において、右腕の存在は大きい。

阿頼耶識の存在があるとはいえ、身についた操縦方法、体感というものがある。

それが崩れるのは何かと不便だ。

 

「この義手はうちの特製だから。特殊な筋繊維と骨格からできてる。見た目も普通の腕と変わらないよ」

 

神経の接続に成功すれば、また以前のように動かす事も可能だ。

 

「だから腕に関しては問題ない。問題なのは……」

 

星熊は声のトーンを落とす。

 

「三日月の脳へのダメージだ」

 

戦闘での脳への衝撃、内出血。

阿頼耶識のリミッターを解除した事による副作用。

これらが重なり、三日月の脳神経には深刻なダメージが残っている。

 

「私も詳しくは分からないから、細かい所は省くけど、三日月は脳の器官の一部が破壊された可能性がある」

 

「ミカはどうなるんだ!?」

 

オルガが立ち上がって、星熊の肩を掴む。

金熊は大声に怯え、虎熊の背中に隠れた。

 

「簡単に言うと、感情のストッパーが壊れたかもしれない」

 

「感情の……ストッパー?」

 

感情とはつまり脳内物質の分泌だ。

脳、つまり心と身体の情報のやり取り、対話によって人間の行動が成立する。

人間には理性がある。

ちょっとした感情なら、すぐに押さえ込む事が出来るし、脳内物質の分泌とは長くは続かない。

だが三日月の脳は、脳内物質を止めようとする機能が破損し、結果として感情が上限無く上がっていく事になる。

止まらないのだ。

 

「たとえば殺意なんかの感情を抱けば、仮に相手を殺したところで、殺意の上昇は止まらない」

 

「殺意が……?」

 

「それが敵にだけ向けられているならいいけど、もし仲間にまで……」

 

「そんなはずはねえ!!」

 

ミカが仲間に危害を加える?

悪い冗談だ。ミカは絶対にそんな事はしない。

だが、昭弘とシノが殴り合ったという報告を思い出した。

その時の二人は、まるで親の仇を打つような形相で、全力で相手を傷つけていたという。

簡単に感情が暴走する。

いままでの常識が通用しない、歪な戦況では。

ミカも、いつかおかしくなってしまうのか。

 

「……なんとかならねえのか!」

 

「薬で押さえ込めば、感情を制御できると思う。けど副作用があるかもしれないし、効果が短い。それよりはうちの『角』をつける手術をした方が、効果もあるし一生制御できる」

 

ただし『角』は星熊達が乗っている輸送艦鬼武者には無い。

童子組本部『鬼ヶ島』にいくか、支部に発注して作ってもらうかの二卓になる。

 

「ドルトコロニーに童子組の支部がある。そこに立ち寄ってくれれば手術も出来る」

 

「ドルトコロニーか。特に寄るつもりはなかったが……仕方ねえ」

 

テイワズから特に仕事を任された訳でもない。

寄る理由がないため、素通りするつもりだったが、ミカの治療のためだ。予定を修正しよう。

 

オルガは眠る三日月を見つめる。

こんな所で、三日月を終わらせるつもりはない。

三日月を変えられるつもりもない。

 

彼は大切な家族の一人であり、自身の半身なのだ。

この程度の軌道修正、なんてことはない。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

暗い病室。消灯時間も過ぎ、オルガや星熊達が帰り、静まった空間。

ナノマシンベッドの駆動音と、そこに倒れ込むようにして眠るアトラの吐息が響いていた。

ナノマシンベッドのガラスの屋根が、ゆっくりと開く。

治療液から出て、上半身だけ起き上がった三日月は、ぼんやりと辺りを見渡す。

 

アトラが眠っているのを見て、ふっと頬を緩める。

手を伸ばして、そのクリーム色の髪を撫でる。

しばし寝惚け眼でいた三日月だったが、ふいに戦場で放たれた言葉を思い起こす。

 

『お前楽しんでるだろう!?人殺しをよお!!』

 

ゾワリと全身が総毛立つ。

憎悪と殺意。嫌悪感と戦意。

戦う事、殺す事に特化した自分に、ふと疑問を抱いた瞬間でもあった。

この時最も強かった感情は……

 

恐怖だ。

 

得体の知れないものへの恐怖。

ましてそれが、自分自身への懐疑心となれば、身が震えるのも仕方が無いだろう。

それを自らの内に押し留めていたというだけで。

感情のストッパーが壊れた今、隠してきた葛藤や負の感情が溢れ出す。

 

全身が強張る。

アトラの髪から手を離し、ゆっくりとナノマシンベッドから出る。

患者衣のまま、覚束無い足取りで外に歩いていく。

通路は静まりかえっていた。

常夜灯に切り替わった、あまりにも静かな夜。

その通路を、一人でふらふらと進んでいった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

クーデリアとフミタンは、大きな窓がある通路で宇宙を見ていた。

 

「不思議ね。いつもあんなに明るくて、お葬式のときも、氷の花にはしゃいでいたのに……」

 

「無理もありません。彼らはまだ子供。無意識のうちに多くの葛藤を胸に押し込めている。そのひずみが時に表れるのでしょう」

 

「無意識のうちに……」

 

普段の様子からは分からない、胸の内に隠している想い。

それらを理解しなければ、本当の意味で、彼らを救う事にはならない……

クーデリアは思いつめた顔をする。

 

「お嬢様、そろそろお休みにならないと」

 

「私は……もう少しだけ」

 

(鉄華団……散らない華と、名付けられた彼ら…………)

 

沈んだ横顔を見たフミタンは、静かに手を伸ばし、クーデリアを抱き締めた。

 

「え……フ、フミタン?」

 

「それは、貴女も同じことです」

 

フミタンに後頭部を優しく撫でられる。

突然の事に緊張したが、すぐに力が抜け、心地よい安心感に抱えられていた。

 

「一人で抱えこまないで。私は、ずっと貴女の側にいますから」

 

「フミタン……」

 

ぎゅっと抱きしめ返す。

ああ、こうして抱きしめてくれる人がいるというのは、なんて恵まれた事なんだろう。

幸せな事なんだろう。

 

フミタンの愛に溢れた表情が、とても印象的だった。

いつか自分も、あんな笑顔が出来る大人になりたい。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

フミタンが部屋に戻った後も、クーデリアは窓の外を見つめていた。

まだ身体の芯がポカポカしている。

身体が軽くて、思考も鮮明だ。

これからの事を考えよう。

こんな酷い戦場を乗り越え、希望のある未来を勝ち取るための。

 

ふと、通路の先から足音が聞こえた。

フミタンが帰った方とは逆側からだ。

そこには、信じられない者が立っていた。

 

「三日月!?」

 

患者衣の三日月が、裸足のまま歩いてきたのだ。

 

「あれ?」

 

「三日月!身体は大丈夫なのですか!?」

 

直ぐ様三日月に駆け寄る。

右腕が千切れ飛んだと聞いていたが、義手なのか、綺麗な腕がついていた。

まだだらりとぶら下がり、動かす事は出来ないようだが。

 

「うん。まあ、普通」

 

「三日月……病室に戻りましょう?起きた事を、皆さんに伝えてあげないと」

 

「んー、それより、なんか食い物持ってない?」

 

「食べ物、ですか?」

 

「うん。なんか……腹減った」

 

「……ふふっ」

 

クーデリアは吹き出す。

お腹が空いたから、病室を抜け出して食べ物を探しているだなんて。

なんというか、三日月らしい。

いつも以上にマイペースなところに、安心してしまった。

 

「なら食堂に行きましょう。温かいものを食べた方がいいわ」

 

「うん」

 

三日月の手を取ろうとした。

普段なら恥ずかしがるだろうが、自然と手が伸びた。

だが、手が触れた事で、三日月の異変に気付く。

 

「あっ……三日月、震えているのですか?」

 

三日月の左手は、震えていた。

 

「えっ?ほんとだ。なんでだろう?目が覚めてからずっとこうなんだ……ちょっと変だな」

 

今すぐにでも病室に戻すべきだ。

だがクーデリアの胸中では、三日月の抱える負の感情を和らげてやりたいという気持ちが止まらなかった。

 

(三日月にもあるのかもしれない。無意識のうちに押し込めている……強い気持ちが)

 

記憶の中で、最も安らぎを与えられたもの。

フミタンに抱きしめられた事を思いだし、一歩前へ進む。

 

「……は?」

 

クーデリアは三日月を抱きしめた。

 

「あっ、あの……先ほどフミタンに……フミタンが小さな子たちをこうしていて……それでちょっと落ち着いていたので……」

 

早口で喋った後、すっと三日月から離れる。

三日月はポカンとした表情でこちらを見ていた。

 

「あっ、その、ごっ……」

 

なんと言っていいか分からず、口ごもる。

 

「ごめんなさい……」

 

結局は謝ってしまった。

これでは何がしたいのか分からない。

慣れない事はするものじゃない。そう思った。

 

「……」

 

三日月は何か言いかけて、やめた。

穏やかな笑みを浮かべる。

そしてクーデリアの頬に手を伸ばすと、彼女の唇に唇を重ねた。

クーデリアが目を見開く。

しばらく時が止まったようだったが、彼女がシュバッと後ろに下がった。

 

「……なっ!なっ!何!?……何!?……何!?」

 

クーデリアは顔を真っ赤にして、あたふたと慌てている。

全く未知の状況に、頭が一杯になっているのだ。

 

「かわいいと思ったから。……ごめん、嫌だった?」

 

三日月は相変わらずの無表情で、悠然と構えている。ただ急にキスした事への申し訳無さは(多少)持っているようで、クーデリアの様子を伺うようにしている。

 

「い……嫌とかそういう問題ではなく!それ以前にこういうことは……あ……」

 

三日月が近づいてきた。

後ろは壁で、クーデリアが下がる余地は無い。

 

「俺、クーデリアの事、好きだな」

 

「ふぇ!?」

 

クーデリアが好き。

可愛くて、愛しくて、好き。

好きだという気持ちが、止まらない。

 

三日月は背伸びして、もう一度キスをした。

クーデリアは脳が痺れたような感覚のまま、唇をなぞる快感に身を悶えさせる。

壁に押し付けられるように、身体を密着させて、さっきよりも長いキスをする。

三日月の左手が、クーデリアの後頭部まで伸び、金髪を櫛のようにさらさらと解かし、彼女の顔をがっちりと押さえつける。

髪を触られると、神経を撫でられたような快感が背骨を伝う。

 

出来るからやってみた、と言わんばかりに、クーデリアの口内に舌を入れてみる。

彼女は体内に入り込んだ異物にビクリと身を捩るが、三日月の手の中から逃れる事が出来ない。

 

「ぷぉ……ぅ……ぅぅ…………んむぅ!」

 

涎が絶え間無く流れ、顎を伝う。

息が出来なくて、両手で胸板を押し返す。

全力で押して初めて、三日月が少し下がった。

 

「ぷはっ!」

 

息を吸い、壁に寄りかかりながら、床に尻餅をついた。

口の中の唾液を飲み込み、鼓動が一段強く跳ねる。

足に力が入らない。

呼吸が荒い。

 

「み……三日月……ひゅぃ!?」

 

倒れこんだクーデリアに合わせ、三日月も膝をつく。

そして彼女の首筋にキスをした。

痕がつくのもお構い無しに、2、3度キスをしてから、縦に舌を進めてみる。

 

クーデリアの恋愛に対する知識は、電子書で読む程度のもので、しかもそれらは厳選されており、限られたものしか知らない。

こっそり同年代から聞いた話もまとまりがなく、実戦的なものは何一つ無いと言っていい。

 

だから、自分の胸に顔をうずめられた時も、ただ顔を真っ赤にして、口から小さな声を絞り出すくらいしか出来る事がない。

服を着ているとはいえ、私服の薄い布地のものと、下着だけだ。

ほとんど直接触られているのと変わらない。

 

右腕が動かない状態の三日月ですら、押し返すのが精一杯だ。

これが通常の身体なら、最早抵抗する事はできないだろう。

 

三日月を止める事は諦めた。

ただ、三日月の頭に手を回し、強く胸に押し付ける。

 

フミタンがしていた、子供を落ち着かせる方法。

もう、これに賭けるしかない。

これで止められないのならば、諦めて三日月に身を委ねるしかない。

 

数秒間沈黙が流れ、動きが停止した。

次に、すぅすぅと安らかな吐息が聞こえる。

 

「三日月……?」

 

おそるおそる顔を覗きこむと、三日月は眠っていた。

クーデリアは全身の力が抜け、深い溜め息を吐く。

 

クーデリアが好きだという気持ちより、安心感、睡魔の方が勝ったようだ。

 

「はぁ……」

 

自身に抱きつく形で眠っている三日月。

彼を抱えて歩く事など出来ないし、置いていく事も(ガッチリホールドされているため)出来ない。

誰かが通りがかるか、三日月が目覚めるまで待つしかない。

しかし、誰かに見られるのは恥ずかしいし、うまく説明出来る気がしない。

三日月が目覚めるのを待つのはいいが、目覚めた後の三日月は、また普段の彼に戻っているのだろうか?

 

(どうしよう……)

 

 

クーデリアは途方に暮れたまま、三日月の頭を撫で、宇宙を見上げた。

長い夜になりそうだった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

皆が寝静まった頃、アグニカはイサリビのエイハブ・リアクターをチェックしていた。

大型のエイハブ・リアクターを囲むように、円状の通路が通っていて、そこにアグニカは立っている。

 

(ここまでで異常は無かった。こいつに何も無ければ、イサリビ内部は安全って事だが……)

 

モビルアーマーのAIに操られた人間達。

彼らがイサリビ内部に仕掛けを施した可能性がある。

それを調べなくては、鉄華団の安全は保証出来ない。

 

久々の感情の塗り潰しに抗っていたり、フミタンに告白したり、葬式に顔を出したりで、時間を作る事が出来なかった。

 

エイハブ・リアクターを調べる。

稼働状況、設備に問題はない。

ただ出力が少し高い。今は夜間モードだし、船のスピードも通常だ。

ならこの余剰エネルギーは何に……

 

コツン、と指先が何かに当たった。

だがそこには何もない。

何もないが、何かある。

透明な箱のようなものが、確かにそこにあるのだ。

 

「……ッ!!」

 

乱暴にそれを引きちぎる。

床に転げ落ちたそれは、透明な膜のようなものが剥がれ落ち、姿を見せた。

 

(光学迷彩……!?)

 

その箱は見た事も無い装置だった。

それがイサリビのエイハブ・リアクターに、寄生虫のようにくっついていたのだ。

 

表層を破壊し、内部を調べる。

全く見た事が無いものだが、アグニカの中の膨大な知識が、この未知のテクノロジーの答えを導き出す。

 

「転送装置かっ!?」

 

おそらくブルワーズの船を飛ばしたものと同じ。

それが、イサリビ内部に取り付けられていた。

エネルギー源はエイハブ・リアクター!!

 

キチキチ、キチキチと不快な音が聞こえる。

動力炉の壁、屋根から、無数に聞こえる。

無数の足と触角、ダンゴムシのような見た目の無人機。まるで蟲だ。

それらは一斉に光学迷彩を解き、アグニカに向かって飛びかかってきた。

 

「チィッ!!」

 

アグニカは素早く銃を抜き、小型無人機を撃ち抜く。

ボトボトと落ちてくる無人機を避け、通路まで下がるアグニカ。

転送装置も素早く回収する。

撃ち抜き、踏み潰しながら、蟲の数を減らしていく。

 

蟲はエイハブ・リアクターに、アグニカが回収したものとは別の転送装置を取り付ける。

リアクターから掠め取ったエネルギーは、この蟲達が保管していたようだ。

それらの全エネルギーと、リアクターを強制的に全開にさせたエネルギーとで、転送装置を発動させる。

リアクターの周りにはエイハブ粒子が高密度で散っている。

動力炉が赤く輝く。

 

「くそっ!!」

 

弾丸を装填し、リアクターにまとわりつく蟲を撃つ。

しかし、眩い光がアグニカの視界を埋め尽くした。

幾つもの叫び声が重なったような轟音。

目も眩む光。

エイハブ粒子。

ビーム方式転送装置。

 

それは、厄祭戦最終戦線からこの世界に飛ばされた時と、同じ色の光だった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

クーデリアはうたた寝をしていたが、突然の強い光に目を覚ました。

 

「こ、これは……!?」

 

光の中に飲み込まれ、身体が浮遊感に包まれる。どこかに引っ張られるような感覚。

それに抗う事は出来ない。

 

「クーデリア!!」

 

三日月が目を覚まし、手を伸ばしてくる。

その手を掴もうとするが、僅かに届かない。

二人の手は虚しく空を切った。

 

「三日月!!」

 

自分が叫ぶ声も聞こえない。

凄まじい轟音と光の中、クーデリアの意識は途切れた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

『ありゃりゃ、アグニカにバレちゃった』

 

『まあいいんじゃない?彼も参加してもらった方が、ずっと面白くなるよ』

 

『でもエイハブ粒子の散布が不十分で、鉄華団全員を飛ばす事は出来なかったね』

 

『それにクーデリアが飛ばされたかどうかも分からない』

 

『同じ事だよ。飛ばされていようがいまいが、彼女はそこにやってくる』

 

彼らの声は音ではない。

故に距離は関係無い。

 

『ところで、さっきの話の続きを聞かせてよ』

 

『そうそう、その生半可な憎悪の弟くんの話』

 

『いいよ。それで、その少年の体内にプレゼントを送ったんだ。憎悪を抱き続ける限り、脳細胞が活性化して生命力に満ち溢れる事が出来る、ステキアイテムをね』

 

『抱き続けられなかった場合は?』

 

『勿論、爆発する仕組みさ!』

 

『あははは』

 

『クスクス』

 

『けど、憎悪が完全に消え去るまでは作動しない。だから、消えるという事は、その憎悪の対象と出会って、和解する事がトリガーなんだ』

 

『つまり『運悪く』対象と出会わなければ、一生作動しない可能性もあったわけだ?』

 

『その通り!消化不良の屈託した憎悪を抱いたまま、生涯を終える事だって出来たはずなんだ。でもーーー』

 

『対象と出会ってしまった』

 

『そう!それがなんと!鉄華団のメンバーの中に居たんだ!対象とは少年の兄!自分を見捨てて幸せになっていた事への、幼稚な嫉妬心!不幸な境遇と比較した劣等感!無力感!無価値な自分への嫌悪!幸せへの懐疑心!身勝手な妄想!!』

 

『いやぁ、なんて稚拙な憎悪だろう!』

 

『香しいまでの悲壮感!最高だね!』

 

『芽が腐るどころか根が……いや、種を落とした母体すら腐っていたかのような、汚物の連鎖!!』

 

『そこに水をやり、花を咲かせてやるのが、僕達の使命であり、最高の愉悦!!』

 

『腐った花が倒れて出来た泥の中に、本物の希望の花が咲き誇る!それこそが!!』

 

『魂の進化!!』

 

『あろうことか少年の兄、アグニカに弟の救出を依頼していたそうだ』

 

『あはははは!』

 

『鉄華団、ダービンズも総出で、少年の兄を助けようとしていたんだって!』

 

『あはははははははっ!』

 

『それでそれで!?結局どうなったの!?』

 

『戦場で出会って、『俺が守ってやる』って!言われてさ、あっさりとお持ち帰りされちゃったんだ』

 

『ぶほっ!』

 

『え、その場で爆死じゃないの?』

 

『いや、まだ完全には和解してなかったみたいだ。でも船に持って帰って、直接会って話をしたんだよ』

 

『わざわざ巻き込まれに行くのか……クフフッ!』

 

『んで、『お前が生きていてくれて、嬉しい』(キリッ)って言われて、許しちゃったみたいだ』

 

『なにそれー?あはははっ!』

 

『じゃあそこで爆死?』

 

『そう。少年の兄の目の前で!兄も巻き込んでね!!』

 

『あっはっはっはっはっ!!』

 

『あっはっはっはっはっ!!』

 

『あっはっはっはっはっ!!』

 

『あっはっはっはっはっ!!』

 

 

マステマの心臓達。

彼らにはそれぞれ持ち場がある。

 

『楽しいね』

 

地球圏担当

 

『楽しいね』

 

ギャラルホルン担当

 

『楽しいね』

 

火星圏担当

 

『楽しいね』

 

木星圏担当

 

『楽しいね』

 

アウトロー担当

 

それぞれが楽しい事を持ちより、こうして四方山話に花を咲かせるのだ。

 

『さあさあまだまだ止まらない。三日月・オーガスは鉄の試練をクリアした』

 

『次の挑戦者は』

 

『クーデリア・藍那・バーンスタイン』

 

『次の試練は』

 

『血の試練』

 

『次の舞台は』

 

『ドルト・コロニー』

 

 

『革命の乙女、クーデリア。彼女は血の試練を越えることが出来るのか?

出来ないのならば…………』

 

 

 

『『『『『赤い雨が降る』』』』』

 




マステマ「なんか静かですねー。家の中にはリア充もいないし、都会とはえらい違いだ」

ヨフカシ「ああ、リア充の戦力は軒並み町に回してんのかもな」

マステマ「まっ、そんなのもう関係無いですけどね!」

ヨフカシ「上機嫌だなぁ」

マステマ「そりゃそうですよ!(こうしてアグニカ作品を投稿する事で)皆助かるし(自己満足)、NTozさんも頑張ってたし!(完結おめでとうございます)俺らも頑張らないと!」

ヨフカシ「ああ……!」

ヨフカシ(そうだ。俺たちが今まで積み上げてきたアグニカ作品は、全部無駄じゃなかった。これからも、俺達が立ち止まらない限り、アグニカ作品は続く……)

キキキキィー!(親の声より聞いたスリップ音)

ヨフカシ「?」

パァン!(銃声)

マクギリス「ぅぼぁべし!!」

マステマ「うわっ!」

ドパララララバタラララララ(山口組)

マステマ「作者……!?何やってんだよ!作者ぁ!!」

ヨフカシ「ぐっ……ぅぐぅ!!」

ヨフカシ「うおああああああああああああああ!!!!」(安定のキレ芸)

パンッ!パンッ!

アグスヴァ教団「ぐあっ!」(被弾)

バタン!

キキキィーキキキ!!(画面左へ消える)

ヨフカシ「はぁ…………はぁ……はぁ……なんだよ……結構当たんじゃねえか……へっ……」

マステマ「さ……作者……?」

ベチョオ……(溢れ出るアグニカみ)

マステマ「ぁ……あぁ……」

ヨフカシ「なんて声……出してやがるぅ……RIDE ON!」

マステマ「だって……だって……!!」

ヨフカシ「はぁ……はぁ……俺は……アグニ会会員、ヨフカシだぞ!
はぁ……こんくれぇなんて事ぁねぇ……!」

マステマ「そんな……俺なんかのために……!」

ヨフカシ「アグニ会員を守んのは俺の仕事だ!」

マステマ「でもぉ……!!」

マクギリス「止血を……俺の肩の傷の治療を頼む……」

ヨフカシ「いいから行くぞ!!」

ヨフカシ「皆(アグニ会員)が……待ってんだ……」ベチョグチャベチョチョ(アグニカみが粘りけを持った音)

ヨフカシ(それに……アグニカ……やっと分かったんだ……)

ヨフカシ(俺達には辿り着く場所なんていらねえ)

アグニカ「いや完結はしろよ?どんな形であれ」(無慈悲)

ヨフカシ(ただ進み続けるだけでいい……!)(投稿する事に意味がある)

ヨフカシ(止まんねえ限り、道は……続く)

アグニカ「エタったら許さない」(無慈悲)

ヨフカシ「ああ……分かってる」

ヨフカシ「俺は止まんねえからよ……」

ヨフカシ「お前ら(読者様、他の作者様)が止まんねえ限り、その先に俺はいるぞぉ!!」

(綺麗な空を見上げる)

ヨフカシ(だからよぉ……)

(そのための左手)

ヨフカシ(止まるんじゃねえぞ…………)

アグニカ「殺すぞ」(無慈悲)


今回のまとめ

ディヤウスパパ!自作の絵本も読んで花丸満点パパさん!
悲報!PD世界にコツメカーワウーソちゃんはいない!いいからたーのしー!だ!!
……ん?ちょ、ちょっとディヤウスさん!幼児虐待はマズイですって!バエルゼロズはKENZEN作品のはずじゃあ……!?

ブルックさん、これなんかもののけ姫で見た事ある!茶色いミミズみたいなの身体から生やしてるやつだ!クダル共々人間やめてますね!やりますねぇ!
チェーンソー振り回す相手に飛び蹴りかます名瀬の兄貴!キャーカッコイイー!!

シノたん、地獄のようなゲリラ戦!自分達を虐げてきた相手と戦った事はあれど、憎悪する相手と戦った事は初めてだったからね。仕方ないね。
あと死体を晒して精神攻撃ってのは戦場ではよくある事だからね!仕方ないね!

三日月、バルバトスのエイハブ・リアクター内へ迷いこむ!
バルバトスの中にいる魂は、ちょっと出来すぎかなーとも思ったのですが、モンターク仮面の微笑で「運命か……」と考えて頂ければと思います。
マステマ討伐の依頼を直々に発注。悪魔との契約を結ぶ。
三日月を突き飛ばす時の台詞は「ここから、出ていけー!!」にしようか迷ったのですが、ちょっと意味が分からないので却下しました。

オルガに三日月に抱きついて欲しかったがためにやった。
需要があるかは不明。

ご存知マクギリスとアルミリアの婚約パーティー。
マッキーが自重しない。原作と違うのはただそれだけ。たったそれだけで何故こうなった(笑)
マッキーは雑魚を相手にしないというだけで、口喧嘩も超強いイメージ。
だからといって手当たり次第に毒を吐いていい訳ではないんだが……
もうアグニカが上司になった彼に怖いものなんて無いからね。仕方ないね。
マッキー・ザ・ワールド。
一応タネはあるので、後々語っていきたいと思います。

ところでアグニカも美形だし、女装したらあっさり溶け込めそう。
イノベイターにご招待されたパーティーでにこやかに「連邦の権力にすがり、利権を求めるクズどもが……」とか言って欲しい。
マッキーなら女装アグニカにシャルウィーダンスするのだろうか……?

昭弘のナイトメアパニックも結構な自信作。短いけど、昭弘の変わり果てた姿はキュンキュンするよね!

シノの頭ガン、諭しに来たのは三日月ではなくビスケット。首がむちうち(骨にヒビ)でギブスを巻いております。
今回で一番憎悪に染まっている描写が多く、闇堕ちフラグがビンビン立っている。イイゾーコレ

語られるアグニカの過去!
ディヤウスパパ……アグニカの頭おかしい成分の半分はこの人のせい。
昔はつぶらな瞳の少年だったのに……どうしてこうなった。
愛がアグニカの全て。愛故に狂い、愛故に英雄であった彼の原点です。
最終的な着地点に向けて、ちびちびフラグを出す感じ。
アグニカが作られた存在という考察は、アグニカ作品を突き詰めた者が一度は辿り着く答えのようですね。

アグニカの狂気が名言される。
『感情が狂喜に変わる』
父親に床に叩きつけられても、蹴られても笑っていたのはこの異常性のせい。
この先の地獄の厄祭戦で、彼だけが狂わずにいられた理由。
最初から狂っていただけ。
仲間を見捨てる事も、無惨に殺された事も、結局は喜びに変わってしまうという、ある意味一番憐れな存在。
恐怖や後悔、躊躇や罪悪感ですら、彼には無くなる。
無いのではなく、無くなるのです。
そこがアグニカの二面性、異常性のベースとなるもの。

フミタン、ついにアグニカに告白!
フミタンスキーとしては感慨深いものがあります。
けど分かってんのか!?次ドルト・コロニー編だぞ!?死ぬんだぞお前!大丈夫か!?イチャついてる場合じゃねーぞ!!

スヴァハ。
アグニカとあらゆる面で相性がいいように作られたホムンクルス。
アグニカの許嫁であり、計画のパーツ。
遺伝的にアグニカの最高の子供が作れるように設定されていた。
アトラとか目じゃないくらいの子作りマッシーン。
ディヤウスパパの口振りからして、死んでしまったようだが……?

サイ・イシューじいちゃん
仮病を使って別荘の島に引き込もっていた。
趣味は占い。フラグを張るだけ張って退場した。
スカジの放った一言によってCVが土師孝也になってしまった。
原作ではカルタの葬式に出るが、生き返ったカルタの姿を見て涙を流す。
しかしそれはマステマの作った人形であり、娘の姿をした操り人形に胸を刺されて死亡した。

スカジ
女の巨人の名前だが、一応男。
カルタの許嫁みたいな扱いを受けていたが、マッキーしか眼中に無いカルタからは邪険に扱われていた。そのせいで裏切ったのだろうか?
サイの信頼できる部下だったが、いつの間にか洗脳され、サイが重要情報を占った事で殺害を実行。
貴方は知りすぎた。
キャッチフレーズは『信じて送り出した娘が薬中青姦アナル大乱行にドはまりして撮影したDVD全13巻を送られた親の気持ち』

昭弘とシノの殴り合い。
勝った方がモビルスーツのパイロットになるという、戦略的、科学的、論理的に破綻したルールで重要ポジションを奪いあっていた。
グシオンの権能は『敵意を友好に変える』はずなんですが、何故か逆に作用した模様。ポンコツなんじゃねーのかコイツ?

アグニカ、モビルアーマーについての情報を語る。
自分がタイムスリップしてきた事はまだ秘密。話がややこしくなるしね。
ちなみにこの時のアグニカの近くに寄るとフミタンの匂いがします。
オルガ達は止まらずに進む事を選択。

お葬式。
今回はタービンズにも死者が出ているので、艦隊全体が暗い雰囲気。
ラフタ達も出てないけどショック受けてます。

三日月、右腕が消し飛んだため、義手をつける事に。
アルジ・ミラージより精巧で人間っぽいやつなので、見た目的には変わり無し。
しれっと出てきた金熊。一応4話にも音声のみ登場。
こいつがいれば基本なんとかなる。
現代に生きていれば間違いなく引きオタで年中ニコ生見てソシャゲにインしている。
星熊姉に学校に行けとせっつかれる日々。

目覚めた三日月、とりあえずクー様を襲う!けだものよぉー!!
流石ミカッ!サンライズに出来ない事を平然とやってのける!そこに痺れる憧れるぅぅー!!

強制ワープ発動。
ワープはいいね。展開の早さに役立ってくれる。SF小説の文化の極みだよ。


去年の今ごろはハシュマルを倒した辺りですか。
あそこで終わっていればいいものを……という意見は確かにあるのですが、それだとアグニカについてほとんど語られず、私もアグニカ作品を書こうと思わなかった事でしょう。
そう思うと因果なものだな……と思えてきます。


『おまけ』


スヴァハ「結婚したのか?……俺以外のやつと……」

アグニカ「ス、スヴァハ…………」

スヴァハ「お前と結婚するのは、俺だと思ってた……」テレレレレレレ―♪↑↑

アグニカ「待ってくれ!弁解させてくれ!!確かにアグスヴァは尊い!アグニカ聖書(鉄華団のメンバーが一人増えました)にもそう書いてある!!だがバエルゼロズにはバエルゼロズのストーリーが!カップリングがあるんだよ!これがこの世界観なんだ!そこに二次創作の良さがあるんじゃないか!」

スヴァハ「今夜は……(地獄から)帰したくない……」

アグニカ「待ってくれ!待って!まっ……」ビリバリバリッ



ヨフカシ「わ た し だ」

スヴァハ「お前だったか」

ヨフカシ「また騙されたな」

スヴァハ「また騙された。

そして私も……」ビリバリビリバリ



マステマ「わ た し だ」

ヨフカシ「お前だったか」

マステマ「また騙されたな」

ヨフカシ「また騙された」


ヨフカシ「暇を持てあました」

マステマ「神々の」


「「愉悦(あそび)」」



アグニカ(本物)「殺すぞ」


この後滅茶苦茶拷問して殺した

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