【完結】また僕は如何にしてゾンビを怖がるのを止めて火炎放射器を愛するようになったか   作:クリス

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 書いていて思うこと。もげろ


閑話 本田秀樹の手紙

拝啓 学園生活部の皆様へ

 

 学園生活部の皆様方。皆様がこの手紙を読んでいるということは、私は既にこの学校を去っていることなのでしょう。この度は皆様に大変なご迷惑をかけたことを深くお詫び申し上げます。

 

 今回の件にいたしましては、全て私の弱さが招いた事態であり、皆様が気を病む必要は全くございません。一階の惨状をご覧になったのならもうご理解いただけるかと思いますが、あれが私の正体なのであります。私は、あの事件が起きてからというものあのような惨状を多く作り上げてきました。人の皮を被った醜い化物。それが私の本性なのです。口では尤もらしいことを言ってもその心は奴らへの憎しみで一杯でした。今まで隠していたことを深くお詫びいたします。

 

 私は自分の弱さから大切なものを失ってしまいました。その後悔から化物になることを決心したのであります。私は皆様と出会う前より壊れていました。今まで必死に取り繕ってきましたがもう、限界でした。学園生活部の皆様との生活はとても楽しく、化物であった私には眩しすぎたのです。

 

 悠里さんのお料理、大変美味しかったです。妹さんのことをくれぐれもよろしくお願いいたします。胡桃さん、貴方にはとても酷いことを言ってしまうことでしょう。こんな形で言い訳するのはみっともないですが、それは私の本心ではありません。ですが、到底許されることではないでしょう。私のことを恨んでください。由紀さん、ピアノを最後まで教えることができなくて申し訳ございません。でも、僕の部屋のノートに練習法を書いておいたので、まだピアノを続ける気があるのなら参考にしていただければ幸いです。瑠璃ちゃん、嘘をついてごめんなさい。僕は君をおいていってしまいました。本当にごめんなさい。最後に佐倉先生、貴方はとても責任感のある優しい方ですからきっと自分のことを責めてしまうでしょう。ですが、その必要はありません。きっと、心優しい皆様のことなので、私のことを探そうとするのでしょう。ですが、その必要はありません。私は、私の信念に基づき行動したまでなのです。

 

 手紙には地図が同封されていると思います。その地図には私が今まで作ってきた拠点の場所が記されています。そこには食料や武器が備蓄してあり、ある程度奴らも減らしているので何かあったら遠慮なく使っていただけると嬉しいです。クロスボウも貴方達に差し上げます。使い方はこの手紙にメモを同封したのでそれをお読みください。

 

 最後に、今までこんな私を受け入れて下さり本当に感謝しています。自分から出て行って何様だと思われるかもしれませんが、本当に、楽しかったです。精々、この馬鹿な僕を笑って下さい。それでは皆様方、さようなら。そしてありがとう。

 

本田秀樹より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会室が悲痛な沈黙に包まれた。皆、俯いていた。悲しみだけが支配していた。

 

「……ざけんな」

 

 最初に口を開いたのは誰であったか。それは恵比寿沢胡桃であった。

 

「ふざけんな! なんだよ、それ! 意味わかんねえよ!」

 

 彼女はテーブルに拳を叩きつけた。それは彼に対する怒りか、それとも引き止めることができなかった自分への怒りか。

 

「なにが化物だ! なにが眩しすぎるだ! こんな手紙でかっこつけてんじゃねぇよ!」

 

「胡桃……」

 

 若狭悠里は彼女の悲痛な叫びに顔を上げた。。丈槍由紀は俯いて泣いたままだ。由紀を後ろから抱きしめるように佐倉慈も立っていたが彼女の顔色も優れない。瑠璃は泣きつかれて眠ってしまった。

 

「私のせいだ……」

 

 佐倉慈が呟いた。

 

「そんな、めぐねえのせいじゃ……」

 

「めぐねえのせいなんかじゃねぇ! あのバカが、あいつが悪いんだろ!」

 

「恵飛須沢さん。本田君を悪く言わないで上げて……」

 

 思いがけない反論に胡桃は一瞬黙るも、すぐに言葉を続けた。だが、その声は心なしか震えていた。

 

「あいつだって平気なわけないのに、こんな世界になって悲しくないはずないのに、あたしは気づかなかった! 血塗れの秀樹に怯えて声もかけられなかった! でも、こんなのってないだろ……。もう、誰かがいなくなるのはやなんだよぉ……」

 

 それは涙であった。それは、感情の暴露であった。

 

「先輩がいなくなって、すごい悲しかったのに……。あたしはわかってたはずなのに!」

 

「恵飛須沢さん……」

 

「胡桃……」

 

 胡桃はそれだけ言ってしばらく黙り込んだ。誰も口を開こうとはしなかった。ただ、沈黙のみがそこにあった。

 

「秀樹を探してくる……。めぐねえ車貸してくれ」

 

 何かを決心したのか、はたまたただの破れかぶれか。彼女は彼を探すことを決意した。

 

「どこにいるのかもわからないのに……無理よ……」

 

「りーさん! 今回ばかりは勘弁してくれ。秀樹みつけて一発殴ってやる!」

 

 そう言って彼女は佐倉慈に車を借用を願い出る。その目はどこまでも本気だった。

 

「めぐねえも手伝ってくれ! 今ならそんなに遠くに行ってないはずだ!」

 

「恵飛須沢さん……。わかりました。でも、明日からにしましょう?」

 

「そんな、めぐねえまで……」

 

 悠里には彼女達が何故そこまで本気になれるのかわからなかった。それは外に対する恐怖からくるのだろうか? 彼女は自分がどうすればいいかわからなかった。

 

「りーさんもさ、手伝ってくれよ。あの一人でかっこつけてる馬鹿をなぐってやるんだ!」

 

「恵飛須沢さん! お、穏便にね!」

 

 その言葉に悠里は以前彼に言われたことを思い出した。一人で意地を張ってなんの得になるのだ。彼はそう言っていた。今となっては盛大なブーメラン発言となってしまったが、その言葉は彼女を確かに勇気づけていた。

 

「うふふ、そうね、わかったわ。いっしょに探しましょうか」

 

 二人が笑顔になる。流れが変わろうとしてきていた。

 

「そうこなくちゃな! さすがりーさん!「でも、殴るのは一発じゃなくて五発にしなさい。胡桃」えっと……あっ、そういうことか! まかせてくれよ!」

 

 悠里、胡桃、由紀、瑠璃、慈。五人分のパンチが彼を襲うことが決定した瞬間だった。

 

「わ、私の生徒たちが、ふ、不良に……」

 

 口ではそんなことを言っていてもどことなく嬉しそうな教師なのであった。

 

「じゃあ、課外授業だね!」

 

 それは今まで泣いているだけであった由紀であった。

 

「ぐす、ひーくんは、と、とっても怖がりさんだから、いなくなっちゃったんだよね? だったらわたしたちみんなでこわくないよーってすればきっと戻ってくれるよね!」

 

 その顔にはもう悲しみはなかった。流れは変わった。学園生活部は馬鹿な部員を連れ戻すことに決めたのだ。彼が自分をなんと思おうとも、彼は彼女達にとって大切な仲間であることに違いはないのだ。

 

「じゃあ、そうと決まったら明日から捜索開始な! とりあえずアイツから貰った地図の拠点を虱潰しにさがしてみるか」

 

「そうね、たぶん、そんなに遠くにはいけないはずだから……ここがいいんじゃないかしら?」

 

「おぉ、りーさん流石!」

 

「もう、茶化さないの!」

 

 いつもの学園生活部が戻ってきた。ここまで生き残ってきたタフな女性たちである。彼がお縄に捕まるのも時間の問題であろう。

 

「あ、そうだわ!」

 

 慈が生徒会室から出て行った。少しして戻ってきた彼女の手には彼の残したクロスボウが握られている。

 

「め、めぐねえ。それ……」

 

 笑顔でクロスボウを構える佐倉慈に学園生活部の表情は引き攣った。

 

「せっかく本田君が置いて行ってくれたんだもの。使わないと損よね! えーと、ふむふむ」

 

 そのまま笑顔で操作説明を読み始めるのであった。

 

「なあ、りーさん。めぐねえ怒ってね?」

 

 彼女の突然の奇行に学園生活部は困惑した。いったい何が彼女の心境を変えたのであろうか。それは神のみぞ知る。

 

「め、めぐねえが不良さんになっちゃったよぉ~」

 

 

 

 

 

 

 学園生活部は今日も平和そのものであった。

 

 

 

 




 いかがでしたか?この話は難産でした。三人称って難しい。そしてめぐねえが遂に武器ねえに進化しました。きっと1キロ先のコインすら射抜くでしょう。

 では、また次回に。

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