【完結】また僕は如何にしてゾンビを怖がるのを止めて火炎放射器を愛するようになったか   作:クリス

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 やっとこのssの本筋に入れそうで入れなかったり。


第四話 ひので

 ふと気が付くと僕は暗闇の中に立っていた。いったいここはどこだろうか。頭を捻ってもどうやってここに来たのかまったく見当がつかなかった。

 

─おい?誰かいないか─

 

 僕の呼びかけは闇の中に反響することもなく吸い込まれた。本当に誰かいないのか。すると後ろで物音がした。僕が振り返るとそこには数体の奴らが何かに群がっていた。

 

─よくもおめおめと姿を現したな。殺してやる─

 

 いつしか手には拳銃が握られていて、僕は迷わず何かに群がる奴らの頭に拳銃を撃った。弾倉に込められた五発の38スペシャル弾は奴らの頭蓋骨を突き破りその腐った脳をまき散らしてそれっきり奴らは動かなくなった。

 

 奴らは消え去り後には奴らが群がっていたモノが露わになる。見覚えのあるエプロンに長い黒髪。間違いなく僕の母さんだ。正確には()()()()()

 

「か、母さん……」

 

 綺麗だった顔は奴らに食い散らかされその面影すらわからない。辛うじて残った左目だけがそれが母さんだと示していた。僕は思わずその場に膝を付き天を見上げる。闇だけがそこにあった。

 

「──ッ!」

 

 声にならない叫びをあげる。下の方で何か音がした。僕は母さんだったものに首を向ける。母さんだったモノと目が合った。

 

「ドウシテ、タスケテクレナカッタノ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ッ!?」

 

 見慣れない天井が目に入った。どこだここは?身体を起こし周囲を見渡す。壁にはロッカーそして洗面器。そうだ思い出した。僕は学校の更衣室で眠ったんだ。

 

「夢だったのか……。最悪の気分だ」

 

 本当最悪の目覚めだ。悪夢を見るのは別に珍しいことではないが。今回のは最高に最悪な夢だった。枕元に置い腕時計に目をやる。まだ朝の4時半。窓をみればまだ日の出前だというのがわかる。とはいえあと三十分もしないうちに日は上ることだろう。

 

 日の出とともに起きることを日課にしている僕としては二度寝なぞする気はなかったしできなかった。さっきの悪夢のせいでとてもじゃないが眠る気になどなれない。

 

 布団から立ち上がり軽く体を伸ばせばすぐに思考は覚醒する。僕がパンデミックの後に身に着けた特技だ。ただ浅い眠りしかできなくなっただけともいう。

 

 洗面器の前に立ち蛇口を捻ってみた。蛇口からは当たり前のように清水が流れ出る。シャワーが使えるから当たり前なんだろうが本当に水が使えるようだ。

 

「おぉ、凄いな」

 

 朝顔を洗うなんていつ以来だろうか?なんてことを考えていると鏡に映った自分の顔が見えた。髭もじゃと言う程ではないがそれなりに髭が生えている。僕としては野武士っぽくて気に入っているが、学園生活部の面々からは不評だった。なんでも汚らしいそうだ。

 

 なんとも失礼な話である。他人にどう思われようとどうでもいいが、不潔と言われるのはなんとなく嫌だ。よし、剃ろう。でも髭剃りって持ってきたか?

 

 結論から言えば髭剃りは見つからなかった。僕は仕方ないのでアーミーナイフで髭を剃ってみたが案の定失敗して左頬に切り傷を作ってしまった。次は髭剃りを持って来よう。

 

 

 

 

 

 僕は二階のバリケードの前まで来ていた。何をするのかって?そう、ゾンビ狩りである。だがただの憂さ晴らではない。校内の本格的な駆除には車に残した武器が必ず必要になってくる。ナイフと拳銃だけでは時間もかかるしリスクも大きい。故に武器を取ってくる必要があるのだ。

 

 二階のバリケードを乗り越える。ようこそ死の世界へ、目指す場所は校庭の車だ。イヤホンを耳に装着し曲を再生。さあ、戦の時間だ。

 

 少し歩くとゾンビを一匹発見。見つけた。窓の外を眺めて呆けっとしている。日の出でも待っているつもりか?

 

 僕は一気に近づきゾンビの髪を握りしめ窓枠に残ったガラスに突き刺す!ゾンビは目玉から脳みそにガラスが突き刺さり物言わぬ死体に成り下がった。これでもう眩しくはないだろう?

 

 僕の出した音に気付いたのか4体こちらに向かってくる。そうこなくっちゃつまらんよな。ナイフを鞘から抜き構える。

 

「うぅ、ぁあぁああぁ」

 

 もはや言葉すらなっていない呻き声をあげこちらに向かってくる屍人ども。僕は一番先頭の女ゾンビに狙いを定める。

 

「──ハッ!」

 

 逆手に持ったナイフを奴の左側頭部に突き刺し倒れる前に抜き取り順手に持ち替え二匹目の顎の下から突き上げるように刺す!

 

 三匹目が僕に倒れ込むように押し倒そうとするが、これをバックステップで回避。ナイフを取り忘れたが問題なし。

 

「オラッ!」

 

 倒れ込んだ奴の頭を全身の力を込め踏み潰す。コツは全身の体重と脚の筋力を満遍なく伝えることである。するとどうだろうか。奴の頭はアスファルトに叩きつけたスイカのように破裂した。リノリウムの床に血と脳漿の花が一輪咲き誇る。

 

 4体目は距離がある。僕は下顎から突き刺さったままのナイフを抜き取りグリップの方を上に刃を手に持った。投げナイフの構えである。

 

 そして狙いをつけ投げた!綺麗な回転軌道を描いたナイフは奴のこめかみに突き刺さった。ナイスヒット!

 

 死体からナイフを引き抜き一仕事終えた僕はポケットからティッシュを取り出し血まみれのナイフを拭く。侍みたいでかっこいいかもしれない。

 

 僕の視界に携帯電話が映った。気になったので手に取る。今時珍しいピンク色のガラケーで裏には彼氏と思わしき男と撮ったプリクラが張り付けてあった。側頭部にナイフを突き刺した奴の持ち物か?

 

「ふーん。まあ、どうでもいいや」

 

 本当にどうでもよかったので僕は窓から携帯を投げ捨てた。他の人間なら感傷にでも浸るのかもしれんが生憎とそんな人間性はとうの昔に捨て去った。というかそんなことで悩む暇があったらその労力を使って一匹でも多くのゾンビを殺すべきである。

 

「さてと、ウォーミングアップは済んだことだしやるとしますかね」

 

 戦いは始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 若狭悠里の朝は早い。顧問や他の部員よりも早く起き屋上の畑の様子を見たのち皆の朝食を準備する。それが学園生活部部長、若狭悠里のライフワークであった。

 

「あらやだ。もうこんな時間」

 

 しかし、今日はいつもとは様子が違った。普段なら朝の6時には覚醒しているはずだが、今日はもう7時を過ぎようとしていた。異変の原因は彼女の隣に寝ている子供にあった。

 

 若狭瑠璃。若狭悠里の実の妹であり、彼女がこうして寝坊してしまった原因となる存在だった。それは別段不思議なことではなかった。

 

彼女は妹の存在を記憶から追いやることで精神の安定を図っていた。たしかにそれ自体は責められるべきことかもしれない。だが、一向に来る気配のない救助に歩く死体と化した教師や友人。そしていつ奴らがやってくるかもわからない焦燥感。いったい誰が彼女を責める権利を持つというのだろうか。

 

だが、そんな中で突然、妹に再会した。そのことによりため込んでいた感情が濁流となって彼女を襲ったのだ。そしてそれは寝坊と言う結果につながったのである。

 

「……本当に夢じゃないのよね?」

 

彼女は未だ眠る最愛の存在を恐る恐る撫でた。やわらかい髪の感触は現実のものだった。たしかに若狭瑠璃はここにいた。夢や幻ではなかったのだ。

 

「本当にるーちゃんだわ……。ふふ、るーちゃん」

 

もう二度と忘れるものか。彼女は自身に誓った。

 

「じゃあ、遅れちゃったぶんを取り戻すとしますか!」

 

 若狭悠里はたしかにここにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかし、りーさんが寝坊するなんて珍しいなあ。明日には槍でもふってくるんじゃないか?」

 

 そう言って勝気に笑うのはツインテールに八重歯がチャームポイントの恵飛須沢胡桃だ。

 

「もう、胡桃ったら。私だって寝坊する日くらいあるわよ」

 

 朝食を用意しながら若狭悠里は微笑む。なんてことはない彼女達の朝の風景。この後、寝坊した丈槍由紀と佐倉慈がくればいつもの日常が始まる。はずであった。

 

「でも、あたしは今のりーさんのほうが好きだぜ」

 

 何気ない発言に悠里の手が止まる。表情こそ笑っているが心なしかその笑顔は何かに怯えているようにも見えた。

 

「どういうこと?胡桃」

 

胡桃は先ほどの勝気な笑みとはちがう慈しむような微笑みを浮かべた。悠里にはその笑みの意味がわからなかった。

 

「ん?なんか憑き物が落ちたみたいだなって思ってさ。りーさんって口には出してなかったけど絶対無理してただろ?」

 

「……それは。そうね、少し無理してたかも」

 

「図星か、もう少しあたしたちを頼れよな。同じ学園生活部だろ?」

 

 胡桃の言葉は悠里にとって衝撃であった。それは心の底に隠したはずの不安、焦燥感。普段なら適当に言いくるめて終わっていたはずのやり取り。だが妹との再会という予想外の事態で心が緩んだのだろう。だからだろうか、悠里いつしか己の心の内を零してしまった。

 

「でも私はみんなに何も返せていないわ。胡桃には汚れ仕事を押し付けてしまっているしめぐねえには頼りっぱなし。由紀ちゃんはいつも笑顔で私たちを勇気づけてくれる。でも私は?私は何も返すことができない!」

 

 それは懺悔の告白であった。

 

「みんなが頑張っているのに私は何の役にもたっていない!挙句の果てには由紀ちゃんを妹の代わり見て、るーちゃんのことだって今の今まで忘れていたのよ!私は「りーさん!」く、胡桃!?」

 

 悠里は自分が胡桃に抱きしめられていることに気づいた。慌てて引き離そうとするが力は緩むどころか強まる一方だ。

 

「りーさんはさ、優しいからそうやって自分を追い詰めちゃうんだろ?でも、みんなりーさんのことが大好きなんだよ。由紀もめぐねえも瑠璃も、あ、あたしも。たしかにりーさんは妹のことを忘れていたかもしれない。でも、今は違うだろ?りーさんは今まで凄い頑張ってきたよ!りーさんがそうやって自分を責めるとあたしは悲しいんだよ。だからもっとあたしたちを頼れよ!」」

 

「胡桃……。そうね、少しだけ、少しだけ泣かせてくれない?そしたらいつもの私にもどるから」

 

「お、おう!どんとこい!」

 

 生徒会室に彼女の涙が零れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、胡桃。おかげで元気になったわ。で、でもあれはちょっと」

 

「お、おう!りーさんが元気になったのならいいんだよ。でもたしかにあれはやりすぎたかも」

 

 お互いの顔は少し赤らんでいた。果たしてそれは涙を流したことによるものかはたまた別のものか。それは本人のみぞ知る。

 

「さ、さっきのことはお互い忘れましょう?」

 

 ここで悠里まさかの提案。

 

「そ、そうだな。忘れよう。わっはっはっは「みんなー!おっはよー!」うひゃあ!」

 

 突然の第三者の登場により驚きの声を上げる胡桃。二人が振り向けばそこには丈槍由紀と若狭瑠璃が不思議そうな顔をして二人を見つめていた。

 

「く、くるみちゃん、どうしたの?急に大きな声出して」

 

「りーねーどうしたの?顔があかいよ」

 

 つい先ほどまでの光景を見ていない由紀達にとって急に驚いた彼女達は不思議そのものであった。

 

「べ、べつに何でもねえよ。なあ、りーさん?」

 

「そ、そうよ。別になにもなかったわよ。由紀ちゃん、るーちゃん。おはよう」

 

 なんと由紀の追求を止めさせたい二人であったが口からでた言葉は明らかに何かあったと言わんばかりの口ぶりだ。

 

「むむむ、これは事件の匂いがしますなー。るーちゃんもそう思うよね?思うよね?」

 

 由紀に話を振られた瑠璃は少し考えるとんでもない爆弾発言をした。

 

「こういうのって()()っていうんでしょ?」

 

 時が止まった。最初に異変を察知したのは由紀であった。

 

「りーさん?ひっ!りーさんから何かオーラが出ている!」

 

 由紀は悠里から何か黒いもやが放出されるのを幻視した。

 

「るーちゃん、そんなどこで言葉覚えたのかしら?怒らないから私に言ってごらん?」

 

「やばい!りーさんが怒ったぞ!」

 

 悠里は表情こそ笑っているのに笑っているように見えないという不思議な顔で瑠璃に問いただす。

 

「る、るーちゃんはだんこ「るーちゃん?」ひでおじさんです」

 

「そう、秀樹君ね。ふふふ、彼とはちょっとお話ししなきゃね。うふふふ」

 

 まさに暗黒微笑という言葉が相応しい笑顔であった。

 

「うわああ、りーさんが怖いよー」

 

「落ち着け由紀!」

 

「みんなおはよう。ひっ!?若狭さん!?」

 

 佐倉慈がやってくるも混乱の極みにあるこの状況を収められるほどの能力は持ち合わせていなかったようだ。というか教師が一番遅いとはこれいかに。

 

 

 

 

 

 学園生活部は今日も平和そのものなのであった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、僕はゾンビを殺しつつ二階から一階へと強行突破し、念願の武器を手にすることができた。今日の成果は17体。朝だったのもありあまり狩れなくて少し残念だ。でも目的のものは持ってきた。僕は鞄にしまった武器たちを眺める。

 

まずは、バール。長さが90㎝もある長いバールでその長いリーチを生かして槍のように突き刺すこともできるし爪の部分で突き刺したり足を引っかけ倒すこともできる万能武器だ。

 

 お次はアーチェリー用のリカーブボウ。30ポンドの力でアルミ製の矢を飛ばす弓だ。照準器も付いているが僕の腕が未熟なので無風の状態で25m先のゾンビに当てるのがやっとだ。それでも殆ど気づかれずに一方的に攻撃できるのはありがたい。だが所詮は競技用なのでしっかり頭のど真ん中に当てないと殺しきれない時がある。

 

 似た武器でクロスボウも持ってきた。以前の探索で拝借した代物で175ポンドの力で矢を秒速124mの高速度で発射する最高にクールな武器。ドットサイト付きのこれは弓なんぞ比較にならない射程と命中精度を誇る。が、その威力故に重く発射準備に時間が掛かりすぎるので僕はあまり使っていない。

 

 もちろん、刃物も忘れない。鎌のように湾曲した分厚い刃が特徴的なククリナイフだ。リーチこそ短いもののその重さを活かした振り下ろしはゾンビの頭をいともたやすくたたき割る。

 

 最後にお手製のナイフ20本。先の鋭利な鋏を分解して持ち手にテープを巻き付けただけの簡易ナイフだ。ゾンビは腐っているからかこんな適当な武器でもなんとかなるのだ。乱戦の時は長物よりこういった小型かつ一撃で倒せる武器が有効だったりする。

 

 

 

 

 

 武器を吟味していたら思っていたよりも時間がかかってしまった。本当なら今すぐにでも駆除を始めたい気分だが、先に伝えるのが義務ってものだろう。

 

 そんなことを考えているとバリケードに辿り着いた。鞄に無理やり詰めてきた武器が重くて上りづらいことこの上ない。高さだけは無駄にあるから重い荷物を背負った僕では余計に上りづらい。何とか3階に辿り着く。まったくゾンビ殺すより疲れたんじゃないのか?

 

 まあ、とにかく持ってきた武器をどこかに置いて手を洗いたいな。手袋つけているからどうってことないが気分の問題ってものがある。

 

 生徒会室から話声がするな。そういえばもう起きててもおかしくない時間か。荷物を廊下に置き中に入った。

 

「やぁ、おはよう。諸君」

 

「あっ、ひーくんだ!おはよー」

 

 真っ先に反応したのは丈槍君であった。相変わらず本当に同い年なのか疑いたくなるような小ささだな。

 

「うむ、おはよう。丈槍君。ところで聞きたいのだがひーくんとはもしかして僕のことかね?」

 

「そーだよ。本田秀樹だからひーくん。いいでしょ?それと丈槍君なんてたにんぎょーじ?「それをいうなら他人行儀だぞー」そう、たにんぎょーぎな呼び方じゃなくて由紀でいいよ。」

 

 何という安直なネーミングセンスであろうか。僕としてはそんな気の抜けた名前で呼ばれたら恥ずかしい。

 

「名前なんぞ所詮個人を認識するための記号でしかないのだから別に君がそれで僕を認識できるのなら構わないが。それでもひーくんはどうかと思うよ僕は。でもまあ、わかった。これからは由紀君と呼ぶことにするよ」

 

「えー、いいと思うのになー」

 

 そう言って心底残念そうな顔をする由紀君なのであった。本当に同い年なのか?

 

「うわぁ。お前人から捻くれてるっていわれたことねーか?でもまあひーくんって顔じゃないとは思うけど」

 

 横から恵飛須沢君が割り込んできた。捻くれているとは失礼な奴だな。しかも笑っているし。

 

「そう言えば秀樹どこにいたんだ?朝飯できたから起こしに行こうとしても部屋はもぬけの空だし。まさか外に行って来たのか?」

 

 心配するように恵比寿沢君は僕に問いかけた。

 

「まさかもなにも、外の車に忘れ物をしたから取りに行って来ただけだよ。ってなんだい?」

 

 信じられないというような顔で全員が僕を見つめる。わかっていないのは由紀君だけであった。

 

「くるみちゃんとりーさんもめぐねえも何かこわいよぉ」

 

 そう、彼女だけは現実を見ていないので彼女達の雰囲気の変化に戸惑うことしかできないのだ。

 

「マジかよ……無茶すぎるだろ!おい」

 

「そうよ、胡桃の言う通りだわ。一人で行くなんて無謀すぎる」

 

「みんなの言う通りよ。本田君、せめて私たちに一言いってから行動してほしかったわ」

 

 口々に僕の行動を責める彼女達。僕が一体なにをしたっていうんだ?もしかしてあれか。単独で行動したことが無謀だと言いたいのだろうか?

 

「ああ、あれかい?僕が単独行動したことに腹を立てているのかい君たちは」

 

 僕の発言に皆が頷く。ああ、そうか。僕はいつものように行動していたが、それは彼女達にとっては異常な行動に見えるのだろう。

 

「君たちの気持ちはわかった。るーちゃんを保護するまでずっと一人で生きていたからね。つい何時もの癖でね。すまんね」

 

「本当に、何かあってからじゃ遅いのよ?もう一人じゃないんだから無茶しないで」

 

「りーさんの言う通りだぞ。折角こうして会えたいんだからもっと頼れよな」

 

 彼女達が本心から心配してくれているのは理解できた。が、かといってそれで単独行動をやめるつもりはない。用事がすんだらここからは出ていく予定だ。そこまで情を持たれるとこちらとしても動きづらい。

 

「まあ、わかったよ。重ね重ねすまんね。とりあえず善処するよ」

 

 どうしてそこで悲しそうな顔をする。わけがわからないよ。

 

「まあ、なんだね。とりあえず朝食をお相伴にあずかってもいいっゴフゥッ!?」

 

 突然、鳩尾に衝撃が走った。僕はこの痛みを覚えている。首を下に向ければるーちゃんが僕にタックルをかましていた。いつも思うがこのタックルは世界を取れると思う。

 

「おじさん……。おじさんは、どこにもいかないよね?」

 

「大丈夫だよ、るーちゃん。僕はいきなりいなくなったりはしないからさ」

 

 彼女の頭を撫でてやる。僕的にはなじみの風景である。しかしこの場の雰囲気を和ませるには十分すぎる威力を持っていたようだ。

 

「ん、わかった」

 

 僕の言葉に納得してくれたのか彼女は離れていった。さっき言った言葉に嘘はない。そう()()()()()いなくなったりしない。

 

「君達、細かい話は後にしないかい?見たところ朝食の準備の最中だったようだし。話はそれからでもいいだろう?」

 

「そ、そうね。みんな?手伝ってくれるかしら」

 

「りーさんにわたしの女子力を思い知らせてあげる!」

 

「由紀に女子力ってあるのかよ」

 

「にゃ、にゃにおー!」

 

「私、空気かも……」

 

 ちなみに朝食はまさかのスパゲティであった。あと、ちゃっかり反省文用の原稿用紙を渡された。てっきり忘れたと思ったのに。畜生。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝食を終えた後、由紀君とるーちゃんは佐倉先生の下での授業に向かった。学園生活部にとってはいつもの風景であろうが、が、今回ばかりは別の意図も含まれていた。僕は生徒会室の机を挟んで若狭君と恵飛須沢君と対面していた。

 

「じゃ、彼女達もいなくなったことだしね。何が聞きたい?」

 

「そうね、もう一度、聞かせてもらえる? どうして一人で外に向かったのかを」

 

 口調こそ穏やかであるが言葉の端に嘘は許さないという滲み出ていた。

 

「忘れ物って言ってたけどそんな無茶してまで一人で取りに行く必要のあるものだったのか?あたしたちに一声かけてくれりゃ手伝ってやったのに。それともあたしたちに見られたくないものでも入っているのか?」

 

 彼女の視線の先には武器の入ったバッグがある。

 

「別に、そういうものではないよ。なに、今机の上に置くからまってくれたまえよ」

 

 僕はゆっくりと机の上に武器を置いた。卓上にバール、弓、クロスボウ、ククリナイフが置かれる。自作ナイフは散らばるのでバッグに入れたままだ。彼女達の目が驚きで染まった。

 

「す、すげえ……」

 

「ひ、秀樹君……?これ、はいったいなに」

 

 恵飛須沢君は感嘆し若狭君は物々しい武器の数々におののいた。意外だな。思ったより反応が薄い。

 

「なにって、武器だよ。バール、弓、クロスボウ、鉈、ナイフ。校内での戦闘を考慮して近接武器と音があまりでない弓とクロスボウを用意した。もし欲しいのがあったら一つだけあげるよ」

 

「さ、触ってもいいか?」

 

「どうぞ、お構いなく」

 

 恵比寿沢君は覚束ない手つきでクロスボウを手に取った。

 

「お、意外と軽いな。にしてもこんなのどこで手に入れたんだよ」

 

 彼女はクロスボウを構えながら僕に問いかける。頬付けも引き付けもできていない滅茶苦茶な構えであったが意外と様になっていた。

 

「まあ、色々とね」

 

 本当に、色々なことがあった。恵比寿沢君が構えているクロスボウだって元は僕を殺そうとした奴が持っていたものだしククリナイフだって店のショーケースを叩き割って入手したものだ。強盗に殺人。僕は札付きの悪党かもしれない。

 

 笑顔で武器を並べる僕に若狭さんは戸惑いを隠せないようであった。彼女は恐らく学園生活部の中で一番奴らと対峙した経験が少ないのだろう。だからだろうか戦いの象徴である武器の数々を見て戸惑いを覚えるのだ。

 

「……秀樹君が武器を取ってきたのはわかったわ。でも……こんなに持ってきてどうしたいの?何をするつもりなの?」

 

 四つの瞳が僕を見つめる。僕は不敵な笑みを浮かべ彼女等に提案した。

 

「なに、簡単なことだよ。この学校から奴らを一掃するのさ」

 

 

 

 

 

 それは悪魔の囁きかそれとも天使の啓示か。答えは誰にもわからない。

 

 

 




 いかかがでしたか?何故か気づいたらりーくるになっていた。べつに後悔はしていません。そして空気の読めない主人公ェ……
 
 相変わらずめぐねえは空気の模様。原作では故人だしね仕方ないね。

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