【完結】また僕は如何にしてゾンビを怖がるのを止めて火炎放射器を愛するようになったか   作:クリス

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 書いていて思うこと。やっぱハッピーエンドが一番なんです。


第十七話 ただいま

 あれから僕はゾンビ共を片っ端から殺していった。初めは火炎放射器でそれが無くなればライフルで、拳銃で、鉈で、弓で、火炎瓶で殺して殺して殺しまくった。そして気が付いたら立っていたのは僕だけだった。僕は勝ったのだ。もう疲れ切っていた僕はそのまま一階の入り口の前で気絶してしまった。目が覚めたのは次の日の昼のことだった。

 

 それからは大変だった。まず全員に説教をされた。圭から始まり、かわるがわる僕に説教をかましていく。やれ、やりすぎだの、もう少し計画してから戦えだの、僕が反論しようにも片っ端から論破されていく。でも、僕にはそれが何よりも心地よかった。

 

 佐倉先生には、当然の如く反省文をたっぷりと貰った。具体的な数字は述べないがそれはもう、たっぷりであった。言えることは書き終えるのに一カ月以上かかったことだけだ。あれはもう、二度と書きたくない。でも、そう思えるのは僕が生きているからだ。

 

 僕が爆破した校庭はそれはそれは酷いことになっていた。爆心地には車の残骸らしきものが三台転がり、炭化したゾンビの死体が絨毯のように敷き詰められていた。そして校舎も破片などで元から割れていた窓がさらに割れていた。自己ベストを軽く超える結果に僕自身も怖気ついたのは言うまでもない。

 

 でも、本当に大変だったのはそれからだ。ゾンビを殺してもゲームのように消えてはくれない。校庭を再び車が通れるようにするために僕たちは掃除をせざるを得なかった。流石に個人名を書くのは可愛そうなので書かないが何人かが吐いたとだけ言っておこう。

 

 しかし、その甲斐もあってか学校にゾンビが来ることはなくなった。学校どころか近所のゾンビまでも丸々姿を消していた。恐らく全て僕が殺してしまったのだろう。僕は昔全てのゾンビを殺すことを目標にしていたがもしかしたら叶うかもしれない。

 

 粗方、片付けが終わったころようやく僕たちの日常が戻ってきた。毎日畑で泥まみれになり、物資を集めながら胡桃と他愛のない話に盛り上がる。そして帰ってきたら悠里君の料理をたべドラム缶風呂に浸かる。そこには炎も銃声も爆発もない暮らしがあった。今までの僕の暮らしからしてみれば酷く地味な暮らしだ。でも、それが尊いものだというのはもう、嫌でも理解した。

 

 新しい知り合いもできた。DJを営んでいる女性の方だ。少し僕に対するスキンシップが激しい気もするがとてもいい人で今ではよく通信を交わしている。一度は僕たちの学校に来ないかと誘ったのだが自分はここで放送を続けたいといっていたので無理に連れ出すのもよくないので学校に戻ることになった。とは言え定期的に会いに行っているのでそこまで心配するほどのことでもないのだろう。あの人の選曲センスは非常に僕好みなので毎回楽しみにしている。実は彼女との出会いの際に一悶着あったのだが、それまた別の機会に話そうと思う。

 

 そして月日は巡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『メリー・クリスマス!』 

 

 皆で乾杯する。今日はクリスマスだ。各自手に持った缶ジュースを掲げる。机は四人づつに別れていてその上には鍋が美味しそうに煮えている。

 

「う、うめー」

 

 胡桃は本当に美味しそうに食べる。見ていて気分がいい。僕も一口、出汁醤油でよく煮込まれた鴨肉が本当に美味しい。そう、これは僕が狩っていた鴨の肉を使った鴨鍋なのだ。後ろを見れば薪ストーブが薪を燃やしながらこの生徒会室を温めている。これがなかったら今頃僕たちは凍えていたことだろう。

 

「ひーくん」

 

 由紀ががつがつとよそった具を食べ終えて僕を呼んだ。口の端に豆腐が付いている。例によって乾燥豆腐だけどね。

 

「なに?」

 

「この肉ってどこで手に入れたの?」

 

 まさか知らないで食べていたのか。僕初めに言ったはずなんだがな。

 

「ああ、この肉はね川にいた鴨を弓でこう、バシッとね」

 

 僕は弓を射る真似をしながら由紀に事実を伝えた。どうやらショックだったようで箸を落としてしまった。

 

「あらあら、新しい箸持ってくるわね」

 

 世話好きな悠里は何も言わずに由紀の手に新しい箸を握らせる。まだ、フリーズしているのか。

 

「ま、まあ、でも美味しいからいいよね!」

 

 あ、動いた。狩ってきたという事実はショックだが目の前の肉には勝てなかったようだ。またガツガツと食べ始める。もう少し行儀よく食べてほしいものだ。だが、こうまで喜んでくれると喜ばしいものだ。

 

「そう言えば、もうあとちょっとで新年ね」

 

「すっかり忘れてたな。そうだよ、もう少しで2016年じゃないか」

 

 毎日が忙しくて頭から抜けちていた。まさか学校で年を越すことになるとはな。

 

「これから一月にかけてもっと寒くなるだろう。やることは沢山あるな」

 

「ええ、そうね。本当に忙しくなりそう」

 

 口ではそう言ってもどこか楽しそうだ。

 

「りーねー! おじさん! そと見て!」

 

 突然、るーちゃんが騒ぎ出した。外を見ればなんと雪が降っているではないか。この時期に降るなんて珍しいな。

 

「すげー雪だぞ雪!」

 

「これは、積もったら大変そうですね……」

 

 具体的にソーラーパネルとかソーラーパネルとかな。あれが使えないのは不味い。主に炬燵が使えなくなる。

 

「明日雪合戦しよーよ!」

 

 そして例によって由紀が面白いアイデアを考える。どうせ冬で仕事も少ないしな。積もったら楽しむとするか。

 

 そして幾日が経ちついに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうすぐ見えるかな? 美紀」

 

「うーん、たぶんこの時間帯であってると思うけど」

 

 ここは屋上、畑には雪が積もり辺り一面真っ白になっている。腕時計を見れば時間は朝の6時45分を過ぎようとしていた。るーちゃんと由紀は眠気に負けて寝てしまったているが、僕たちはこうして初日の出を拝みに来たのだ。

 

「あ、見えたぞ!」

 

「あら!」

 

 地平線から徐々に顔を表す太陽。そう、日の出だ! 僕たちは何をするでもなくただただ日が昇るのを眺めていた。皆を見れば涙を流していた。僕も自分の頬を触る、うん、泣いているな。

 

 思えば長い長い一年だった。パンデミックの発生、そして発狂、るーちゃんとの出会い、学園生活部との出会いと別れ、そして校庭大爆発。本当に色々なことがあった。去年まではここまで日の出を有り難がる人の気持ちが理解できなかった。でも、今ならわかる。本当に頑張ってきたからこそわかるのだ。気づけば佐倉先生がみんなの前に立っていた。

 

「みなさん、この一年間、本当に大変ことが起きました。多くの人が命を失ってしまいました。でも、私たちは生きています。ここにいるみんなは生きています! だから、だから諦めないで生き続けましょう! それが、私たちにできる最大の手向けなのですから! だから今年も一年頑張っていきましょう!」

 

 生きていることがこんなに素晴らしいことだとは思わなかった。パンデミックなんて起きなければ僕の母さんが死ぬこともなかっただろうし、僕が狂うこともなかったのだろう。でも、きっとこの仲間たちには出会えなかったのだ。だから、僕はこれをなかったことにしたくはない。

 

「秀樹! 今年も一年よろしくな!」

 

 胡桃が笑顔で僕に握手を求めてきた。僕も全力で握手に応じる。あれから僕たちの関係は少しだけ変わった。何も変な意味ではない。ただ、家族の意味合いが少し変わっただけだ。小さいが温かい手の温もりが僕に伝わる。この手はもう二度と離さない。離してなるものか。狂った僕でも守れるって世界に証明してやるんだ。

 

「そうだ、先生。今日、胡桃と行きたいところがあるので車貸してくれませんか?」

 

「ひ、秀樹!?」

 

「あらあら」

 

「秀先輩……?」

 

 先生はニコニコしながら鍵を貸してくれた。皆もニヤニヤしていた。おかしいな、言ってないはずなんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はい! みんなー! 新年あけましておめでとー! こちらは巡ヶ丘ワンワンワン放送局だよー! 秀樹君、学園生活部のみんな? 元気にしてるかな? じゃあ、いきなりだけど今日もゴキゲンなナンバーっといきたいけどリクエストがあったからそっちを先に流すね! では、ラジオネーム放火魔さんからのリクエストでルイ・アームストロングの「この素晴らしき世界」……』

 

 ミニクーパーを走らせながらラジオを掛ければ聞きなれた声が聞こえる。この終わってしまった世界でも元気にラジオ番組を放送している人だ。決して悪い人ではないのだが僕に対するスキンシップが些か激しいのが難点だ。ちなみにこのリクエストは僕のだったりする。

 

あれから実は市役所の生存者とも連絡が取れた。ここよりも人数が多いにもかかわらず中々に上手くいっているところで僕たちは定期的に手紙のやり取りをしている。状況は相変わらず最悪だが悪いことばかりではないということだ。

 

「なあ、こ、これってあ、ああれなのか!? あれなのか!?」

 

 胡桃が面白いように取り乱している。普段はあんなに男勝りでかっこいいのにこうなると本当に女の子って感じがして僕はいつもほっこりする。ラジオに耳を澄ませば歌手の力強く、優しい歌声が車内に響く。何気ない日常の美しさを謳ったこの歌をこの世界で流すというのは酷く罰当たりなのかもしれない。でも、僕には今の世界が輝いて見えた。それは僕が本当の意味で生きている証拠なのだろう。

 

 やがて車は目的地にたどり着く。まだ朝だから奴らもいない。

 

「なあ、ここって……」

 

 胡桃の視界の先には本田の表札。そう、ここは僕の家だ。ここに来るのは事件が起きてから二回目だ。

 

「そうだよ。ここが僕の家だよ。ちょっと報告したいことがあってね。胡桃はちょっと待っててくれないか? すぐに終わるよ」

 

「そ、そうか……」

 

 なんでちょっと残念そうなんだ。でも、まあいいや。僕は玄関を潜り庭を目指す。そう、母さんの墓だ。僕は母さんの前に立つ。

 

「母さん、ちょっと今日は報告したいことがあって来たんだ──」

 

 それから去年のことを話す。奴らとの戦い、学園生活部との出会い、僕は母さんを見殺しにしてしまった。それはどうやっても許されることではない。でも、僕はそれも背負って生きていくことにしたのだ。

 

「新しい家族が出来たんだ。母さんを見殺しにして何様だと思うかもしれないけどね。でもね、僕は生きてていいって思えるようになったんだ。世界は相変わらず大変だけどね。今はもう独りじゃないから。約束するよ、全部背負って生き抜いてみせる。みんなと最後まで一緒にいるって。見守ってくれとは言わない。ただ、見ててくれ。この馬鹿な男の息の根が止まる最後まで」

 

 もう、言うことはない。僕は母さんを背にし胡桃の下へ向かった。何故かはわからないが誰かが笑っている気がした。それが何よりも嬉しかった。

 

「終わったよ、胡桃」

 

「ああ、何してたんだ。結構時間かかったみたいだけど」

 

 フロントガラスから外を見ればゾンビが二体死んでいた。ちょっと悪いことをしてしまったかもしれない。

 

「ごめんね、一人にしちゃって」

 

「いいぜ、別に。大事なことだったんだろ?」

 

「確かに、凄く大事な約束をしてきた。まあ、内緒だけどね」

 

「なんだよ、教えてくれたっていいじゃんかよー」

 

 揺らすな、可愛いだろうが。

 

「まあ、いいや。取りあえず帰ろうか僕たちの学校に……」

 

 車のシフトをドライブに入れアクセルを踏めば軽快なエンジン音と共に車が動き出す。

 

「そういえば、もうあと二ヶ月ちょっとで卒業だな。秀樹は夢とかあるのか?」

 

 夢か、そう言えば学園祭の時言いそびれていたな。とは言え、そんな大層な夢じゃないけどね。

 

「夢か、ただ、みんなと一緒にいれればそれでいいかな? そんな大層なものじゃないよ」

 

 ゾンビを全て殺すとか、戦いに快楽を求めるとか、既にそういうことはどうでもよくなっていた。しかし、相変わらず戦いは楽しいし僕が狂っていることには変わらないのだろう。でも、今はそれよりも大事にしたいことがあるのだ。

 

「いいんじゃないか? 少なくともあたしはいいと思うぜ」

 

「ちなみに、君の「君じゃなくて胡桃って呼んで」く、胡桃の夢は?」

 

 僕が聞き返したら何故か胡桃はモジモジし始めた。なんか今日の胡桃は一段と可愛いな。そんなに言い辛いことなのか。

 

「え、えっと……可愛いお嫁さんに……なりたいかな……」

 

 何か言っていたが小さすぎてエンジン音に阻まれ聞こえなかった。だがきっと胡桃ならどんな夢でも叶えられるだろう。

 

「なあに、きっと叶えられるさ。希望を持つのはいいことだよ」

 

「か、かか叶うって、ひ、秀樹それって……」

 

 いきなり動揺し始めた。何か僕はおかしなことを言ってしまったのだろうか。実際、胡桃は僕たちが学校に帰るまでずっと妙に嬉し恥ずかしといった調子であった。変な奴だ。

 

 

 

 

 

「二人とも、お帰りなさい」

 

「本田君、恵飛須沢さん。お帰りなさい」

 

 生徒会室に入れば皆が出迎えてくれた。佐倉先生と悠里が笑顔で出迎えてくれる。

 

「あ、秀先輩、胡桃先輩。帰りなさい」

 

「二人ともお帰りー」

 

 圭と美紀が、出迎えてくれた。

 

「おじさん……お帰り……」

 

「ひーくん、とくるみちゃん、お帰りー」

 

 二人はまだ起きたばかりのようだ。未だに眠そうである。これで全員か。そういえば今まで一度もあれを言ったことがなかったな。そして、これからは毎日言うであろう言葉。

 

「なあ、みんな。今まで一度も言ってなかったけど、

 

 

 

 

 

──ただいま──

 

 

 

 

 

 こういえばみんなは笑顔でこう返してくれるんだ。

 

 

 

 

 

『おかえり!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあて、ここが聖イシドロス大学か……」

 

 僕の目の前には大きな鉄城門が、行く手を阻んでいる。ご丁寧に土嚢で封鎖されている。これでは開けることは叶わないだろう。だが、人がいる証拠に他ならない。

 

「鬼が出るか、仏が出るか……」

 

 まあ、何が出ようとも、その悉くを蹂躙するだけだ。

 

「じゃあ、みんな行くぞ!」

 

 僕たちの戦いはまだ終わらない。

 




 いかがでしたか? これにて本編は完結です! みなさん半月という短い時間でしたが本当にありがとうございました! 私もここまで多くの人に読んでもらえるなど夢にも思っておらず本当に恐縮です。まだ、書きたいことはあるので更新はしばらく続くでしょう。

 では、また次回に。




 以下嘘予告

 遂に聖イシドロス大学にやって来た学園生活部! 彼女達を待ち受けていたのは武闘派となのる謎の集団だった!

 次々と捕まる部員たち! そんな光景を目の前に一人の放火魔が立ち上がる!

「何が、武闘派だ! 本当の武闘が何なのか思い知らせてやる!」

 武闘派(エンジョイ勢)VS武闘派(ガチ勢)の火蓋は切られた!

「お前に何が分かる!」

「お前も選ばれたんだろ? この小さい大学でよぉ」

 果たして生き残るのはどちらだ!

「本田あああああああああああ!!」

「さんをつけろよリソース野郎!」

 続かない

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