【完結】また僕は如何にしてゾンビを怖がるのを止めて火炎放射器を愛するようになったか 作:クリス
日はすっかり暮れてもう夜になった。僕は目の前の作業に集中する。リード線を安物の目覚まし時計と接続する。乾電池と組み合わせ特定の時間に発火するように設定すれば時限発火装置となる。後はこれを作った爆薬にセットして目的の場所に置けば時限爆弾の完成だ。
夏は終わりに近づき次第に秋らしくなってきた。ここは新たに僕の部屋となった校長室だ。流石に女性しかいない中で暮らしていくというはなかなか肩身が狭い物で今までは気にもしていなかったが一度それに気が付いてしまうとどうにも落ち着かなかった。故に僕は佐倉先生に相談してこの校長室を僕の部屋とすることにしたのだ。その際、胡桃君と由紀君に一人だけずるいとごねられたがまあ、それはどうでもいいことである。
「やっぱりいい座り心地だな。大企業がバックについているだけあって金持ってたんだろう」
革張りのアームチェアに腰かけながら僕は呟く。机はマホガニーの高級品だし飾られている調度品も売ればかなりの値段になることだろう。尤も、こんな世の中になってしまった以上そんな物より食料の方がよっぽど価値があるがな。
「それにしても外から見られない空間がこれほどにまで落ち着くとは思わなんだ」
既に部屋にあった来客用のテーブルとソファーは撤去され代わりに僕の布団が敷かれている。高級感漂うこの部屋には酷く似合わないが仕方がない。今までは扉の窓から中を見られてしまうことがあったが、これならもう何をしてもわからないだろう。
「ふっふっふ、さぁて、じゃあアレを飲むとしますかな……」
マホガニーの机の引き出しから酒瓶とグラスを取り出す。例によってウィスキーだが今日のは格別だ。なんせここで見つけた高級品なのだから。
「久しぶりに飲める……」
僕は早速瓶の蓋を開けようとしたが扉がノックされる。慌てて酒とグラスを仕舞う。危ない危ない。
「誰だい?」
「えっと、直樹です。入ってもいいいですか?」
こんな夜更けに一体なんだ。とはいえ部屋の外で待たせるのもあれなので僕は部屋に入るように促す。やがて扉が開き外から制服姿の美紀君が入ってきた。何故、制服なんだ。
「お邪魔します。って、もうこんなに散らかしてるんですか! まったく学校を何だとおもっているんですか?」
「なにって、遊び場?」
彼女の指摘は尤もである。何せ、高級感漂うこの部屋は今や武器やノート、本、その他大量の私物で溢れかえっているからだ。美紀君は校長室の惨状に眉をひそめたがすぐに自分の目的を思い出したようで咳払いをすると僕の目をまっすぐ見てきた。
「ゴホン、そうじゃなかった。えっと、今夜は先輩に折り入って頼みたいことがあって来ました。その、私に戦い方を教えてくれませんか?」
何となく、そんなものだろうとは思っていたが本当に予想通りとは思いもしなかった。僕としては別に彼女に戦ってもらう必要性は感じないのだが美紀君なりに思うところがあるのだろう。
「それは構わないが、理由を聞かせてくれないか?」
美紀君はゆっくりと息を吸い、僕を見た。その目には真剣な、それでいて何かを後悔するかのような感情が見て取れた。
「後悔、したくないんです。今は、余裕があります。でも、いつまでこれが続くかはわからない。だから、余裕がある今のうちにやりたいんです。もう、圭を引き止められなかったときみたいに後悔したくありません……」
何というか因果なものだな。圭は美紀を置いていったことを後悔し美紀君は引き止められなかったことを後悔している。この二人を見ていると友情の尊さというものを嫌でも見せつけられるというものだ。僕としてもそんな理由なら断る理由もない。それに、戦える人数は多いほうが良いに決まっている。
「わかった。じゃあ、明日からでいいかな?」
僕の許可に安堵する美紀君であったがすぐに首を振って僕の提案を拒否した。
「今からでも、いいですか?」
彼女としては一刻も早く戦えるようになりたいのだろう。そこまで焦ることもないと思うんだがなあ。
「いいだろう。じゃあ、武器庫に行くから付いて来てくれ」
美紀君にジェスチャーで外に出るように促す。彼女もそれに従い扉に向き直ろうとし、停止した。視線は机の上の時限発火装置に注がれている。
「秀先輩。それ、なんですか?」
「これかい? これは爆薬に使う時限発火装置だ。これを繋いで時間を指定してその時間になればドカンさ」
「…………」
彼女は無言で後ずさった。それが彼女の心境を何よりも表していた。
「もう! 何考えているんですか! 馬鹿なんですか?」
二階の廊下を歩きながら美紀君は僕の行動を非難する。別に爆薬を作っているわけではないし何も問題ないと思うのだが美紀君はそうは思わないらしい。
「僕としては君が何故そこまで怒っているのか理解しかねるよ。別に爆薬そのものを作っているわけではないだろう」
「先輩は常識がなさすぎるんです!」
そんなことえを言いつつ僕たちは武器庫と化した資料室の前で止まる。僕は扉を開けるため取っ手に手を掛けた。
「美紀? それに先輩?」
突如後ろから声をかけられた。僕たちが振り向くと懐中電灯を持った寝間着姿の圭がこちらを訝しげに見ていた。
「け、圭? どうしてここに?」
どことなく慌てた様子の美紀君。もしかして何の断りもなくやって来たのだろうか。
「それはこっちが聞きたいよ……。美紀が突然起きて制服に着替えてどこかにいったから心配して来たんだよ……」
圭は眠そうな目を擦りながら僕たちに問いかける。本当に断りもなく僕の所にやってきたようだ。
「しかも、秀先輩とこんな誰もいないところで…………あっ」
圭は何かに気が付いてしまったとでも言いたげな顔をした。ふむ、男女が二人、深夜で人気のない場所にいる。うん、アウトだな。
「ご、ごめんねー、美紀だって女の子だもんね……。だ、大事な話なんだよねー」
圭の白々しい反応に流石の美紀君も戸惑いを隠せないようだ。そして彼女も気が付いてしまった。
「はっ! ち、違うの圭! 先輩とはそういうのじゃなくてね」
「じゃ、じゃあおやすみなさーい!」
「まずい! 捕まえろ!」
その後僕たちは何とか圭を捕まえ勘違いをただすことに成功したとさ。猛烈に疲れた。
「ごめんね、美紀、勘違いしちゃって」
「そうだよ圭。私が先輩に、こ、告白するわけないじゃない」
僕たち三人は武器庫の中で事情を説明した。美紀君の戦いたいという思いを聞いた圭はならば自分もとのことで僕は二人に戦い方を教えることになったのだ。
「で、だ。君たちは戦いたいと言っていたが、はっきり言って君たちはそこまで強くない。胡桃や僕みたいに直接武器を持って戦うつもりならやめておいた方がいい」
むしろ、胡桃君の方が異常なのだ。いくらこちらを襲ってくるとは言っても普通は人間だったものを自分から手にかけようなんて思わない。そんなことができるのは余程の覚悟を持っているか、狂人だけだ。胡桃君は恐らく前者に分類されるであろう。僕が来るまでたった一人で学園生活部を守ってきた覚悟は尋常なものではない。
「はい、私もそれはわかってます」
「でも、美紀と二人なら戦えると思うんです!」
「け、圭……。ありがとう」
圭は美紀君の手を握りながら僕に宣言する。やはり友情というものは尊いものだ。僕が容易に手に入れられなかったものを彼女達は持っている。羨ましいとは思わないが眩しく感じてしまう。
「ふむ、半人前が二人。足して丁度一人前と言ったところかな」
別に一人で戦う必要などないのだ。仲間がいるなら積極的に連携して戦う方が一人で戦うよりも遥かに効率的で安全性も高まる。
「じゃあ、適当に気に入った武器を選んでくれ。今なら全品10割引きだ」
『はい!』
そう言って二人は自分の武器を吟味していく。しばらくしたのち二人は自分の武器を手にして僕の前にやってきた。圭がさすまたを、美紀君は僕の作った槍を手にしていた。ふむ、渋い選択だな。
「それでいいんだね?」
二人に確認する。彼女達は同時に頷いた。圭はともかく美紀君は槍の使い方なんて知らないだろうから教えたいところだが……。
「じゃあ、これから練習と言いたいところだがもう遅い。それは明日からやろう。厳しめにいくからそのつもりで」
『はい!』
同時に返事をする二人。うむ、息があっててよろしい。これなら連携攻撃もすぐにこなせるようになることだろう。流石にもう眠い、帰るとするか。
「二人とももう寝よう。明日も仕事が待っている。あまり夜更かしは感心できない」
扉を開け廊下に出る。突如、僕たちを眩い光が照らした。いきなりなんだ。
「三人とも、何してるのかしら?」
目を凝らしてみれば悠里君が懐中電灯を僕たちに照らしていた。その後ろには胡桃君がシャベルを持って僕たちを睨んでいる。どうやら、怒っているようだ。
「胡桃先輩に悠里先輩! ど、どうしてこんな時間に?」
「それは、あたしたちの台詞だと思うんだけどな。てか秀樹」
唐突に僕に話しかける胡桃君。声のトーンからしてあまりいい気分ではなさそうだ。
「なんだい、胡桃」
暗いのに加え懐中電灯による逆行のせいで彼女の顔はよく見えない。
「後輩引き連れてモテモテだな、おい」
「胡桃、違うでしょ。三人とも、こんな時間に何してたのかしら?」
うむ、ご立腹のようだ。誤解されても困るので事情を掻い摘んで説明することにした。僕たちの説明を聞いた二人は溜息をつきながらも納得してくれたようである。
「事情はわかったわ。でも、あまり心配させないでちょうだい、物音がしたと思ったら美紀さんたちがいなくなってて本当にびっくりしたのよ。秀樹君もいないし」
「そうだぞ、秀樹。またいなくなっちまったのかと思ったじゃん」
昔を思い出したのか胡桃君は少し悲しそうな表情をする。ちょっと悪いことをしてしまったな。
「ご、ごめんなさい……」
「す、すいません……」
「すまんね」
事情があったとはいえ、いらぬ心配をかけさせてしまったので三人で謝罪する。真夜中の廊下に説教を喰らう美紀君という珍しい光景が誕生した。その後、美紀君と圭は練習を重ね、今では戦闘要員に数えられるほどの腕前となった。素晴らしきかな友情と言ったところか。
あれから3日経過した今日、僕たちは体育館の入り口に陣取っていた。目的は体育館の制圧だ。これは美紀君の提案によるものであった。現在、一階は殆ど制圧されているのだが、それでも稀に奴らが入り込んでくる。特に体育館にいる奴らが渡り廊下を経由して入り込んでくるのが特に多い。
「なあ、それ本当に使うのか?」
隣にいる胡桃君が僕が背中に背負ったブツを見ながら訊ねる。とはいえそういう胡桃君も手にはラジコンのコントローラーが握られている。足元には四駆のラジコンが発進を今か今かと待っている。
「せっかく、持ってきたんだ使うに決まっているだろう。じゃあ、胡桃やってくれ」
ラジコンに取り付けたCDプレーヤーの電源を入れる。血塗れの世界に場違いな恋愛ソングが木霊す。
「走らせるぞ!」
胡桃君はコントローラーのスロットルを開放する。軽快なモーター音が鳴りラジコンが体育館に向かって走り出す。中にいる奴らはラジコンの音に釣られどんどんと中央に集まっていく。少し面白そうだ。
「な、なあ僕にもやらしてくれないか?」
「えー、今走らせたばっかりだろ。もう少し待てよ」
非常に楽しそうだ。僕も童心に帰って遊んでみたい。視界の先のラジコンは縦横無尽に走りながらゾンビを引き付ける。とは言えそれなりの数がいるためぶつからないように走るは難しい。
「やべ、ぶつけた」
故に、ラジコンがゾンビの足にぶつかって横転するのは必然と言えた。でも、既に目的は果たせた。ラジコンに群がるゾンビの一体の頭に矢が生えた。ここからでは見えないが佐倉先生がキャットウォークからクロスボウで狙撃しているのだ。ただ、その連射速度はいつもより速い、二つのクロスボウを交互に撃っているからだ。装填は美紀君と圭が交代で行っている。
「めぐねえ、容赦ねえ……」
的確にそして容赦なく奴らの頭に矢を叩きこんでいく佐倉先生。あのほわほわした先生に何があったらこうなってしまうのだろうか。うん、僕のせいだな。やがて何匹もいた奴らも今では数えるほどしかいない。このまま、撃ち続ければ余裕で制圧できるが矢が放たれる気配はない。恐らく矢が尽きたのだろう。だが、それも計画の内だ。
「じゃあ、二人ともお願いね」
「先輩! 気を付けて下さいね」
キャットウォークから降りてきた先生たちが僕たちに合流する。ここからは僕たちの出番だ。
「いくぞ、秀樹! 生まれ変わったシャベルの力を見せてやる!」
胡桃君のシャベルはいつもと同じものだがその刃先は、以前よりも鋭さを増していた。それも当然だ。このシャベルは僕がグラインダーで刃付けしたのだ。剃刀レベルの切れ味と胡桃君の膂力を合わせれば、
「マ、マジかよ……」
奴らの首を切断することは容易い。あまりの威力に胡桃君自身も驚きを隠せないようだ。僕も行くか。
「先生、背中のエンジンを始動させてくれませんか? その紐を引っ張って下さい」
「えっと、これね。えい!」
先生がリコイルスターターを引くとエンジンが始動する。単気筒の軽快なエンジン音が体育館に木霊した。安全装置を解除しスロットルを開放すればメインパイプの先端に取り付けられたチップソーが勢いよく回転する。僕はゴーグルとマスクを装着した。準備は万端だ。
「いくぞ胡桃! ひゃっほう!」
一番近くにいるゾンビ目がけ突進しながらスロットルを全開にする。僕は超高速で回転する鋸をゾンビの顔に押し付けた! 血飛沫と共にゾンビの顔が見る見るうちに削れていく。
「はぁ、マジでそれ使うのかよ……」
誰かが溜息と共に呟いたがどうでもいい。顔面を崩壊させ倒れ伏すゾンビを尻目に僕は別のゾンビに目標を定める。
「ほら! 伐採の時間だ!」
今度は首に鋸を当てる、瞬く間に頭と胴体が離婚してしまったようだ。再婚はもう無理だろう。僕は次々とゾンビを刈払機でミンチにしていく。横目で見れば胡桃君が唖然として僕を見ていた。
「何見てるんだ! 仕事しろ胡桃!」
「…………」
無言でシャベルを振り奴らを始末していく。体育館は再び惨劇の舞台と化した。主に僕の手によって。だが、そんな楽しい時間も終わりがやってきた。倒すべきゾンビを全て倒してしまったのだ。エンジンを止め辺りを見渡す。血の海が広がっていた。
「あー、楽しかった」
僕は大満足といった顔で胡桃君に近づく。胡桃君が呆れた顔で僕を見る。一体なんだ。
「とりあえずこれで全部か、後は矢を引き抜いて終わりだな」
「はぁ……うん、そうだな。後で身体ちゃんと洗えよ……」
疲れたと言わんばかりにそのまま帰ってしまった。後に残るは口をあんぐりと開いた先生と美紀君と圭だけだ。
「ほ、本田君……」
「うわぁ……」
「先輩、ドン引きです」
そこで僕は気が付いた。自分が血塗れだったことに。僕たちは微妙な空気のまま矢を回収していった。胡桃君はその日、僕に一定の距離を取り続けた。解せぬ。そして月日は流れ夏が終わり秋が来る。
2015年◇月◇日
今日は冬に備えて学校の割れた窓を塞いだ。ブルーシートとテープで塞いだだけのみすぼらしいものだが、何もしないよりはかなりマシだ。まだまだ暑いとはいえこれからはどんどん冷えていくことだろう。早めに対策を練っておくべきだ。
2015年◇月◇日
佐倉先生の許可を取り学校の使っていない木製の机などを分解して薪に加工した。一応、用務倉庫で石油ストーブと燃料を見つけたがこれは本当に寒い時に取っておくべきである。その点、薪は校舎裏の雑木林からでも取ってこれるので普段使いとしてはこれがベストな選択だと思われる。
佐倉先生は解体されていく勉強机や教卓に思うところがあったようだが誰も使わないのなら別の用途に生まれ変わらせた方が物としても本望なはずだ。
とはいえまだその薪を燃やすためのストーブを手に入れていないので近々ホームセンターからでも調達しようと思う。そう言えば薪で思い出したがドラム缶をどこかから拾ってくれば風呂に入れるだろう。次の遠征で探すのもありかもしれない。
2015年◇月◇日
ホームセンターから小型の薪ストーブを手に入れた。取り付けは明日以降になるがこれで凍死のする危険が大幅に減少した。ついでに綺麗なドラム缶も手に入れたので屋上の空いたスペースに風呂を作ってみた。早速、湯を沸かして入ろうとしたのだが、胡桃君に見つかってしまい、僕が一番初めに入るのもどうかと思い皆に譲ることにした。この日記はその待ち時間の間に書いている。風呂と聞いて皆妙に殺気立っていたので譲って正解だったのかもしれない。
「まさか、本当にお風呂に入れるとは思わなかったわ。ありがとうね秀樹君」
生徒会室。湯上りで上機嫌な悠里君が僕に礼を言った。湯船は一つしかないので八人全員が入ろうとすると時間と燃料が無駄にかかってしまう。なのでジャンケンで今日はいれるのは4人までとしたのだ。その際の女性陣の張りつめた空気は当分忘れられないだろう。
「まあ、僕が入りたかっただけだし別に礼は言わなくてもいいよ」
「それでもよ、秀樹君が考えなければドラム缶風呂なんて発想私たちじゃ考え付かなかったわ」
「それもそうか。じゃあ、どういたしまして」
僕は幸いにもジャンケン勝つことができたので今日風呂に入ることができるのだ。ちなみにジャンケンに負けた佐倉先生と圭と胡桃君と由紀君の落胆っぷりはそれは見ものであった。
「薪はそこらの家具でも壊せば手に入るからこれからは結構な頻度で入ることができると思うよ」
「うふふ、それは楽しみね」
本当に楽しそうである。日本人、いや、女性として風呂に満足に入れないというのは中々に辛いものであったらしい。僕も昔は風呂に入れなくて発狂しそうになったことがある。
「ここで暮らし始めてからもうかなりの月日が経過したわ。秀樹君はこれからどうするつもりなの?」
思いのほか真面目な質問が飛んできた。どうするか、正直目の前のことで精一杯であまり考えていなかったな。どうしようか。
「どうするかねー。僕としてはこのまま現状維持をしつつ積極的に外の情報を手に入れてそれから判断するべきなんじゃないかな」
脱出するにしても目的地も決めずに闇雲に出て行ってもロクなことにならないのは容易に想像できる。どこか大きい生存者のコミュニティでもあればいいのだがな。
「そうね、もしかしたら日本中がこんなことになっているのかもしれないし、闇雲に動くのはまずいわね」
「まあ、この調子でいけば後4,5年はここで暮らせるはずだからゆっくり考えればいいだろうよ」
そう、今や学園生活部は安定期に入った。仮に、まあ考えたくはないが欠員がでたとしても生活に支障はないはずだ。尤も、誰かを死なせるつもりなど微塵もないがな。
「仮に、奴らが大群で襲ってきたとしても返り討ちにしてやるよ。誰も死なせやしないさ」
僕は不敵に笑う。気分はヴィレル・ボカージュの戦いでのミヒャエル・ヴィットマンだ。悠里君は僕の言葉に笑う。
「じゃあ、頼りにしてるわ。副部長さん?」
聞きなれない言葉だ。僕のことを言っているのか。
「今日、めぐねえと相談して決めたのよ。まだみんなには言ってないけどきっと賛成してくれるはず」
僕がそんな重要な役割を担って本当にいいのだろうか。
「副部長なら胡桃や美紀のほうがよっぽどふさわしいと思うけどなあ」
「秀樹君がそう思っているだけで秀樹君は私たちに本当に色々なものをくれたの。だから私はそんな貴方に副部長になってほしいわ」
この目は本気の目だ。本当に心の底からそう思ってくれているのだろう。こんな信頼を向けてくれたのは初めてのことだ。思わず目頭が熱くなる。
「そこまで言われてしまえば仕方がないな。謹んでお受けするとするよ」
「ええ、これからもよろしくね?」
「りーねー、髪かわかしてー」
「はいはい、こっちおいで」
こうして僕は本当の意味で学園生活部の一員になったのであった。そして更に月日は流れ文化祭の時期に入り始めていた。このまま、同じような日常が続いていくのだろうと誰もが考えていた。僕も例外ではなかった。だが、変化しないものなどどこにもない。
『……い存者を捜索中……応答せよ……』
とはいえ、そこまで心配するほどのことでもないだろう。何が来ようが全て粉砕するだけだ。
いかがでしたか? 回転する鋸を顔に押し付けて喜ぶサイコパスの鑑。そしてついに……
では、また次回に。