【完結】また僕は如何にしてゾンビを怖がるのを止めて火炎放射器を愛するようになったか   作:クリス

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 今回の話は完全に蛇足ですので読まなくても本編の理解には全く支障はございません。


閑話 体育祭

 今朝の由紀君の突然の提案。それは運動会を開くというものであった。たしかに、ちょうど人数は8人なので半分に別れて競うことができる。僕たちは早速くじを作りチーム分けを始める。

 

「じゃあ、せーのでコップの中のくじを引くのよ」

 

 悠里君(朝食の後、胡桃君だけずるいとのことで学園生活部全員を呼び捨てにすることとなった)の掛け声に合わせティッシュで作ったくじを引っ張る用意をする。

 

「せーの!」

 

 各自、一斉にくじを引く。僕のくじは、赤か。

 

「じゃあ、紅組の人は僕に集まってくれ」

 

 僕の声に反応し紅組が集まる。佐倉先生、直樹君、圭が集まる。これで四人。対して白組は悠里君、胡桃君、由紀君、るーちゃんだ。

 

「美紀! いっしょのチームだね!がんばろー」

 

「け、圭? なんでそんなノリノリなの? た、体育祭って……。こんなことしてていいのかな……」

 

「先生も混ざっていいのかしら?」

 

 一名を除き各自やる気は十分のようだ。直樹君は学園生活部のノリについていけない様子である。相棒の圭はノリノリであるが。

 

「じゃあ、みんな準備はじめましょ!」

 

『おー!』

 

 学園生活部心得第五条、部員は折々の学園の行事を大切にすべし。だったかな。準備はつつがなく行われ、そして僕たちの体育祭が始まった。

 

 

 

 

 

 第一の種目は徒競走だ。廊下を一直線に50m突っ切る。トップバッターは佐倉先生だ。対する相手はなんと、るーちゃんだ。

 

「え? るーちゃんも走るの?」

 

 僕の疑問は尤もだった。子供と大人では勝負にならない。悠里君が同じことを聞くがるーちゃんは譲らないようだ。

 

「るーちゃんだって、はやいもん」

 

 だそうだ。でも、まあ先生なら適当にハンデを付けて走ってくれることだろう。だが、僕の予想は次の瞬間に裏切られた。

 

「位置について! よーい! どん!」

 

 一斉に走り出す二人。るーちゃんはやいぞ! 小学生と思えない速さで見る見るうちにゴールテープに近づくるーちゃん。

 

「るーちゃんかわいい!」

 

 悠里君は少し暴走気味で手にしたポラロイドカメラを連射していた。あれ、佐倉先生は?

 

「め、めぐねえ…………」

 

 いた。スタートから10mもしないうちに佐倉先生はいた。正確には転んでうつ伏せになっていた。その姿を正確に述べることはないが大変目の保養になったとだけ伝えようと思う。

 

「わわ、めぐねえだいじょうぶ?」

 

「ス、スカートが、あ、足に…………ガクッ」

 

「め、めぐねえが! メ、メディーク! メディーック!!」

 

 小学生に負ける高校教師の姿がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 紅組0点、白組1点。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第二種目はアーチェリーだ。距離は30m。相手はもちろん。

 

「ふん、巡ヶ丘のウィリアム・テルと呼ばれたあたしの腕を見せてやるぜ!」

 

 得意げに弓を掲げるのは胡桃君だ。また、間違えているし。

 

「ふん、前の僕とは違うことを教えてやるぞ胡桃! あと、ウィリアム・テルはクロスボウの名手だよ」

 

「…………。じゃあ! 張り切っていこうか!」

 

 こいつ話そらしやがったよ。まあ、いい。僕は自分の弓を眺める。例の自作の弓だ。矢は公平さを期すためにアーチェリー用の弓を使う。

 

「二人ともがんばれー!」

 

「秀先輩! そこのシャベル先輩になんか負けないで下さいねー」

 

「だーれが、シャベル先輩だー!」

 

「胡桃? おいたしちゃ、だ、め、よ」

 

「は、はい」

 

 六本勝負、第一射目。先攻は胡桃君だ。矢筒から矢を引き抜き番える。

 

「すぅー、はぁー」

 

 深呼吸。先ほどまでのと違いその目は真剣そのものだ。そして引き絞り、放つ。

 

「あちゃー、やっちゃった」

 

 矢は的の中央から大きく外れ6点の所に突き刺さった。ちなみに的は手書きのものにマットレスと机で作った矢止めを置いてあるので問題はない。

 

 恵飛須沢6点。

 

 第一射目、後攻、僕の番だ。胡桃君のよりも遥かにみすぼらしい外見に思わず涙する。威力はかなりのものなんだがな。

 

「なあ、あたしの弓貸してやろうか?」

 

「いや、これでいい」

 

 位置につきポケットに突っ込んだ矢を手に取る。照準器もなくただ矢を乗せるための台座を付けているだけなので番えるのは驚くほど素早い。

 

「…………当たれ」

 

 矢を放つ。リカーブボウよりも力強い風切り音が鳴り矢が飛んでいく。

 

「よし!」

 

 矢は中心から少しそれた8点の位置に突き刺さった。

 

「なっ!」

 

 胡桃君が驚愕に目を見開く。外での鴨狩で鍛えられた僕の腕を舐めない方がいい。そこから僕たちの一進一退の攻防が始まった。

 

 そして六射目。お互いの点数は36点。この一射で勝ち負けが決まるのだ。

 

「ぜってー負けねー!」

 

「僕も負ける気はないよ」

 

 先攻は僕、弦を引き絞り極限まで集中する。周囲が無音になり、的と弓だけの世界と化す。ああ、これは当たったな。

 

「な、なん、だと……」

 

 矢は真っすぐに的に突き刺さった文句なしの10点だ。勝ったな。

 

「ふ、君も惜しかったみたいだね。僕の勝ちだ」

 

 そのまま自分たちのチームに戻る。もう勝ちは揺るがないからだ。

 

「あーっ!」

 

 誰かが叫んだ。何だ? 振り向いて的を見てみれば何と、真ん中にもう一本矢が生えていた。思わず胡桃君を見る。

 

「へん、やったぜ!」

 

 まさかの同点、引き分けであった。解せぬ。

 

 

 

 

 

 紅組0点、白組1点

 

 

 

 

 

 第三種目、二人三脚。

 

「いくよー! 美紀!」

 

「うん! 圭」

 

 相手の胡桃君と悠里君のチームワークは中々にすごい物であったが、直樹君と圭の友情の前に遭えなく敗れたのであった。

 

 

 

 

 

 紅組1点、白組1点

 

 

 

 

 

第四種目、借り物競争。

 

「圭! メロンなんてどこにあるの!」

 

「わ、わかんないよー」

 

 運悪く直樹君は難題を引き当ててしまったようだ。誰が書いたのだろうか? まったくわからない。いったい、誰なんだろうな、本当に。

 

「ひーくん! 来て!」

 

 由紀君が僕の腕を掴んでゴールまで走り出す。そのまま審判である悠里君に僕を見せつける。

 

「お題は、筋肉だったよ!」

 

「はい、由紀ちゃんゴール!」

 

 間違ってないけど悔しい。筋肉呼ばわりは地味に傷つくのだ。

 

「メロンなんてないよー!」

 

 廊下を直樹君が彷徨っていた。

 

 

 

 

 

紅組1点、白組2点。

 

 

 

 

 僕たちはこの後も綱引き、玉入れ、縄跳びの3種目を競い合った。学校の外は死で塗れているのにここには笑顔があった。僕はこの瞬間を大事にしたいと思う。

 

 そして最後の種目、リレーだ。ここまでは紅白ともに3点と同点。事実上の決勝戦が始まった。トップバッターは、佐倉先生とるーちゃんだ。

 

「よーい、どん!」

 

 両者ともに駆けだす。るーちゃんは相変わらずだが佐倉先生は懸命にも転ばずに走り切ることができたのだ。そのまま少し遅れて直樹君にバトンを手渡す。

 

「美紀ー!」

 

 圭が手を振っている。ただ、相手は由紀君だったので離れていた距離は簡単に詰められる。

 

「み、みーくん意外とはやい!」

 

 ほぼ同時にバトンを手渡す、お次は悠里君と圭の勝負だ。徐々に近づく二人。あるものを除いては両者ともに違いはなかった。

 

「お、おっきい……」

 

 圭の呟きを耳にしてしまい少しだけ複雑な気分になったのであった。

 

「秀樹とは、いつか勝負してみたかったんだ。手加減すんじゃねーぞ?」

 

 胡桃君は長いツインテールを輪にして本気モードだ。対して僕もジャージと普段よりも何十倍も軽い装備だ。これなら互角にやれるだろう。

 

 そして近づいてくる二人、あと5m

 

「秀先輩!」

 

「胡桃!」

 

 同時にバトンを受け取り走り出す。やはり速い! 流石は元陸上部だ。僕たちはアンカーだ。50mのパイロンをUターンし勝負は後半戦に入る。

 

「へ! あたしの勝ちだな!」

 

 僕の少し先を走る胡桃君。でも、僕には秘策があった。

 

「胡桃! なんでシャベル背負ってんのー!?」

 

「え? しまった! 忘れてたあぁ!」

 

 僕の秘策、それは誰も指摘しなかった背中のシャベルを思い出させてあげることだ。大きくペースを乱す胡桃君。よし、勝った!

 

「ま、け、る、か、あ!!」

 

 速い! なんて速度だ。 火事場の馬鹿力とでもいうのか。僕も人生で一度あるかないかというような力を足に込める。ゴールテープは目と鼻の先だ!

 

 そして、ゴール。僕は仰向けに倒れ込む。つ、疲れた。

 

「そうだ、結果は?」

 

「同着、と言いたいところだけど胡桃の方がほんの少しだけ速かったわ」

 

「やったー!」

 

 疲れているはずの胡桃君が飛び上がりながら喜ぶ。

 

「ま、負けたのか……。はは、あー、疲れた」

 

 僕はそのまま倒れ込んだ。不思議と悔しくはなかった。思えばこんなに真面目に体育際に力を入れたのは生まれて初めてかもしれない。まあ、楽しかったかな。

 

 

 

 

 

紅組3点、白組4点。優勝は白組だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『かんぱーい!』 

 

 全員で集合写真と撮った後、体育祭の成功と二年生の歓迎を兼ねて打ち上げ擬きを開く。備蓄の缶ジュースを一気に飲む。運動したから余計に美味く感じる。

 

「かぁー、美味いな!」

 

「ひーくん、おじさんみたいだよー」

 

 おっさんとは失礼だな。おっさんとは。そんな感じで各々が自分達を称えあう。まさに本当の意味での打ち上げだ。打ち上げと言ってもお菓子と乾パンなどの質素なものしかない。だけど僕には何よりも美味しく感じられた。

 

 

 

 

 

 僕はいつの間にか輪から外れていた直樹君に気が付いた。一人窓際で缶ジュースを飲んでいる。

 

「どうしたんだい?」

 

「わ! せ、先輩? いきなり声かけないで下さいよ。びっくりするじゃないですか」

 

 自分の世界に入っていたのだろう。直樹君は心底驚いたといった感じであった。少し、悪いことをしてしまったかもしれない。

 

「ああ、悪いね。で、どうだった? 楽しかったかい?」

 

「そう、ですね。楽しかったです。でも、こんなことしてていいのかなって思ってしまって」

 

 確かに、僕たちの行動は傍から見れば現実逃避そのものだ。でも、これがあるからこそ学園生活部はこんな地獄の中でも笑っていられるのだ。

 

「たしかに、僕も初めはそう思ったよ。でもね、人間ってのは張り詰めたままだと簡単に潰れてしまうんだ。それにやらなきゃいけないことはきちんとしている。だから、ちょっとくらい羽目を外したって罰はあたりはしないさ」

 

「確かに、学校、すごいことになってましたもんね。私、まだ夢じゃないかと思っているんです。圭が戻って来て、学校があって、みんなで身体動かして。世界はこんなひどいことになっているのに笑うことができるなんて」

 

 それも無理はない、つい昨日まで地獄の中でなんとか生き永らえてきた直樹君にとってここは夢のような場所なのだろう。

 

「ところがどっこい夢じゃない。これは現実だよ、直樹君。まあ、学園生活部はいつもこんな調子だから早めになれることをお勧めするよ」

 

 黙って外の星を見つめる直樹君の表情は笑顔であった。

 

「私も、正式に入部させてもらってもいいですか?」

 

「それは、僕じゃなくて悠里に言ってくれ。でも、誰も咎めはしないさ」

 

「だから、大丈夫さ、直樹君」

 

 僕の一言に直樹君はゆっくりと息を吐く。

 

「美紀でいいですよ。私だけ苗字だと仲間外れにされているみたいですし。だから秀先輩?」

 

 初めて僕の方を向いた。ここ来てから一番の笑顔であった。

 

「これからよろしくお願いしますね?」

 

「あ、ああ! 「ひーくん、みーくん。何話してるの? わたしも混ぜてよー」

 

「もう! みーくんじゃないです!」

 

「えー、可愛いのに―」

 

 

 

 

 

「世は常にこともなしってか……」

 

 僕の呟きが闇に吸い込まれる。そういえば反省文のこと忘れていた。どうしようか、本当に。

 




 いかがでしたか? メロン、いったい誰が書いたのでしょうか? 僕にはまったくわかりません。

 では、また次回に。

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