「名前、つけてくれるんですか……?」
「えぇ、私としてもそのほうが便利だもの。それとも、嫌?」
「い、いえ! そんなことは」
確かに、何をするでも名前がないというのは不便だろう。どんな名前がつけられるのか不安なところではあるけど、ここはおとなしく任せてみよう。
「んー……そうね、外見は白いところが目立つけど、目は真っ赤だし。見た感じはお人形さんみたいで、儚い感じの美少女なのよね……」
「え、えと……あの……」
ブツブツと私の特徴を呟く博麗さんに、若干の抗議の目を向ける。名前をつける上で特徴を抑えているっていうのはわかるんだけど、本人の前でその特徴を並べるというのは、こっ恥ずかしいというか、一種の拷問のようなものなのだ。
「あぁ、ごめんなさいね。んっと、白夢っていうのはどうかしら? 白はそのまま外見が白いからで、夢は儚いの一部から取ってるの」
「白夢……はい、そこまでこってもらわなくても、いつかは自分の名前も思い出せるでしょうし。それに、いい名前だと思います」
「うん、それじゃこれからは白夢ちゃんって呼ぶことにするわね」
どことなく満足したように何度も頷いている博麗さんを見て、不思議な感覚を覚えながらも私も笑顔になる。
博麗さんは、何処かお母さんといった母性を発揮していながら、一方では子供っぽい一面もあるのだ。たった数時間の付き合いでしかないのだが、それでもここまでわかるくらいには博麗さんはアップダウンが大きい。
「さて、名前も決まったことだし、人里に降りてみましょうか」
「え? なんでですか?」
「なんでって、よそ者はあんまり歓迎してくれるところじゃないから、白夢ちゃん一人でいくより私といったほうがいいかなって。それに、私も依頼の報告とか新しい依頼を受けたりしないといけないし」
言われてみればその通りで、みんなが皆博麗さんのように見ず知らずの人にやさしくしてくれるわけもない。人里でもある程度の知名度があるであろう博麗さんについていったほうが、一人で行くよりも何倍もいいはずだ。
私はそう考えて、博麗さんの提案に乗ると一緒に人里へと降りていった。
「あ、当代。いつもご苦労様です」
「そちらこそ、いつも里周りの警戒ご苦労様です。依頼の報告に来たので通してもらってもいいですか?」
「あぁ、そういえばはた凶暴なのがでたんでしたっけ。最近は少なくなってきたと思ったんですが、出るときはまだ出るんですね」
博麗さんと人里付近まで来た時に、道に槍を持った武装をしている人を見かけた。博麗さんとの会話を聞く限り、人里へ悪いものが近寄らないようにと守っている門番なのだろう。
何でもないような会話をしつつ門番の人が道を開けてくれようと体を動かし、私と視線がぶつかる。しまった、邪魔したら悪いと思って声をかけなかったけど、これじゃ逆に怪しいだけだ。
「あ、えっと、こんにちは……」
「あ、うん。こんにちは。当代、この子は?」
「あぁ、ちょっと妖怪に襲われていたのを助けてあげてね。記憶喪失みたいだから、一時的に預かってあげてるの」
「ふーん……お嬢ちゃん、当代に変なことされそうになったら人里に逃げてくるんだよ?」
「へ? えっと、はい……?」
突然表情を引き締めてそう警告してくれる門番の人に、私は戸惑いつつもなんとか返事をする。
どういうことだろうか、博麗さんが何か変なことをする人にはとても見えないのだが、何か裏事情のようなものがあるのだろうか。
「ちょっと、私が変なことするかの如きデマを教えるのはやめてちょうだい。私が一体何をするっていうの」
「前々から娘がほしいほしいいいつつも、結婚するはなんか嫌だっていっていたあなたが、記憶を失った女の子にしそうなことといえば、一緒にお風呂に入ったり一緒に寝たり、とかじゃないですか?」
「……? それの何がいけないの?」
キョトンとする博麗さんに、呆れた表情でな? という顔を向けてくる門番さん。
いやあの、娘と思ってくれるのは嬉しいけど、一緒にお風呂とか一緒に寝るっていうのはちょっと恥ずかしいから遠慮したいなぁ……
「兎に角、幼気な女の子に手を出しちゃだめですよ。っと、そういえば依頼の報告があるんでしたね。ようこそ、人里へ」