【完結】ふぇいとほろーあたらくしあてきな?   作:劇鼠らてこ

36 / 54
「衛宮邸で過ごす (4)」

「どしたの、士郎ったら。そんなに改まっちゃって」

 

 キョトンとした顔で訪ねてくる藤ねえ。確かに改まって「話がある」なんて言って正座までしたのはヘンだったかもしれない。

 いいや、ううむ。今日は真面目モードなのだ。そう、いくら藤ねえがギャグの象徴のような存在であっても、これから聞く事は大事な事なのだ。

 

「えっと……みんなから話を聞くに、藤ねえって野場と仲良いんだろ? ちょっと話を聞きたいな、と思ってさ」

 

 俺がそう言うと、藤ねえはトラみたいな目をニマァ……と吊り上げ、直後に溜息を付くと言うよくわからない情動の変化をした。いや、まぁ、藤ねえの情動の変化を理解した事なんてほとんどないけどさ。

 そして藤ねえは俺と同じように正座をして、ピンと背筋を伸ばす。

 

「士郎。これ以上女の子を増やすのは、流石にお姉ちゃん看過できないかなぁ」

 

「なんでさ。って、違う違う! そういうんじゃなくて……野場の印象とか、野場ってどういうヤツに見えてるかとか、そういうのを聞きたいんだ。藤ねえ個人としての立場でも、教師としての立場でもいいからさ」

 

 迂闊……! ただでさえこの女所帯な衛宮家を常日頃から憂えていた藤ねえにこんな切り口をすれば、そう言う風に突っ込まれるのはわかっていたはずなのに!

 だが、流石は藤ねえ。改まった時にこそ真面目じゃない事を言うスタンスは昔から変わってないなぁ。

 

「印象? ……うーん、印象って言われても……ふむ」

 

 藤ねえは唇に人差し指をあてて、小首を傾げながら瞳を上に向ける。

 そんなに悩むほどの事なのだろうか?

 

「教師の立場から言うと、野場さんは成績優秀だし礼儀も正しいし、先生たち(わたしたち)の仕事も良く手伝ってくれるしで物凄く良い子ね。制服を改造しちゃってるのだけはちょっと頭の痛い所だけど、それ以外は完璧じゃない?

 私だけじゃなくて、葛木先生なんかも時たま『野場は優秀だな』なんて漏らしていたくらいだし」

 

 それは驚きである。

 あの人が、当人の居ないところで当人の話をするとは。

 

「あ、あとヘンな七不思議で、教師陣(わたしたち)の間で噂になっているのは、チョーシの悪い機械……暖房とかコーヒーメーカーとかが、野場さんが職員室に訪ねてきた直後から調子よくなるらしいわよー。野場さんが触ったわけでもないのに、なーぜかね」

 

 それは不思議である。

 野場からは魔術の気配が一切しないので、単純に調子の悪い機械が治るタイミングで毎回野場が来ているだけなのだと思われるが、それにしても凄まじい豪運だ。

 あぁでも、アイツほとほと運が良いんだよな。

 

「んー、それくらいかなー。教師としての立場からみた野場さんは。進路は実家を継ぐって言ってるし、別段目立った不良行為もないし……うん、参考になった?」

 

「あぁ、ありがとう藤ねえ。それで、藤ねえ個人から見た野場はどうだ?」

 

 そう聞くと、またもお悩みモードに入る藤ねえ。そのポーズを取らないと考え事が纏まらないのだろうか。見えない尻尾がゆらゆらと揺れる。

 時刻は十時。無言の時間が刻々と過ぎる。

 そうして、藤ねえは一度頷くと、

 

「とっても良い子かなぁ、うん」

 

 ガクッ。

 先程の物凄く良い子とほとんど変わっていない。

 藤ねえは「上手くまとめた」みたいな顔をしているけれど、こっちが得られる情報はミリとして変わっていないぞ。

 

「も、もう少し詳しく頼む」

 

「そうねー、まずは両親想いなトコが良い子ね。普段からよくご両親のお墓参りに行っているみたいだし、前会った時に聞いた限りじゃ、とっても仲の良い家族だったみたいだし……」

 

「……そういえば両親がいないんだっけ、アイツ」

 

 切嗣(じいさん)しかいなかった、既にいない俺との共通点。

 流石に何時亡くなったのか、だのどうして無くなったのか、だのは聞いた事ないな。その辺のデリカシーはあるつもりだ。

 遠坂の話を聞く限りでは、既に十年前から野場は一人であの店を経営していたらしいので、恐らくの死因も想像できてしまう。

 

 少しだけ、胸が痛む。

 

「……あと、オトコや零ちゃんと仲が良いわね。特に零ちゃんとは十年来の親友みたい。会話も弾んでるみたいだし、というか私たちの世代の話題がなーぜか通じるのよね」

 

「あぁ、おっさん臭いトコあるよな、アイツあいた!?」

 

「士郎、女の子にそういう事言っちゃダメよー?」

 

 正座の状態からチョップではなく足刀が飛んできた。どんな身体能力をしているのか、それ以前に仮にも家族に横蹴りはどうなのか。この虎は本当に恐ろしい。

 昔より背が高くなったからといって、反撃に出ても勝てる気がしないのが殊更に恐ろし良い。

 

「こほん。でもまぁ、士郎の言いたい事もわかるわ。時折クラスのみんなを眺めている目が優しいと言うか、子供を見る様な目っていうか……元から大人っぽいのもあるんだけど、それだけじゃない気がする、っていうか……」

 

 そしてこの虎は、その嗅覚だけで真実に辿り着いてしまう事が多々ある。 

 こうやって口ごもりながら喋っている事は、誤差はあれども大体が正解である事が多い。

 ただ、大人っぽいと言う点においては首を傾げざるを得ない。アイツは十分に、十二分に子供っぽいと思う。水筒投げて来るし。

 

「って、あれ? みんなは藤ねえと野場がトクベツ仲が良い、みたいに言ってたんだけど……そんなこともないのか?」

 

 ライダーも桜もそういう事を言っていたとおもったのだが……。

 

「私と野場さんが? んんー? 特に仲が良いってワケじゃないと思うケド……。

 強いて言えば士郎たちの入学式の時に廊下ですれ違って意気投合してガシッと握手したくらいで……」

 

「十分仲良いだろ、それ」

 

「うーん、そこ以外はそんなに特段仲良くしてるって事は無いんだけどねぇ。あ、あれかな? ほら、トラとトリって似てるじゃない?」

 

 またそれか。

 そんなことを言ったらトロもトレもトルも似ているだろう。トレとトルが何かは知らないが。

 

「あぁでも、そういえば藤ねえは名前で呼ばれてたっけ? そう言う意味じゃアイツも気を許してる……のか?」

 

「え? 野場さんは普通に藤村先生って呼んでくれるわよ?」

 

 いやホラ、虎とかタイガーとか。

 野場が名前で呼ぶ奴は身内だって……あれ、どこで知ったんだったっけ?

 

「あだ名で呼ぶのは桜と藤ねえだけか……そこにはなんか法則があるのか?」

 

「あぁ、野場さんは何故か桜ちゃんのコトブロッサムさんって呼ぶわよねぇ。あんまり可愛い響きじゃないから桜ちゃんって呼んであげて欲しいんだけど」

 

「藤ねえ、他には知らないか? 野場が名前とか渾名で呼ぶ奴を」

 

「……う~ん、心当たりはないかなぁ。あ、でも前に公園で野場さんを見かけた時、金色の髪した外国人の子供に『金髪君』とは言ってたわね。あれも渾名に入るのかしら?」

 

 ソイツは多分名前を教えないからだと思う。

 ランサーやアーチャーの奴らでさえ自分の呼称を教えたのに、ソイツは教えないのだ。まぁ被るので教えられても困るのだが。

 

「それくらいかなー」

 

「……うん、ありがとう藤ねえ。結構参考になった」

 

「良くわからないけど、あんまりヘンな事しちゃダメよ~?」

 

 ヘンなことって何さ。

 心配しなくても、アッチがヘンな事をしてこない限り、俺は()()()()()()()だ。

 

 変な事をする心配が無い。

 

「夜遅くまで付き合わせてごめんな、藤ねえ。送るよ」

 

「えー……今日はここで寝る~」

 

「おいおい……」

 

 ……ま、いいか。

 また明日。

 今夜はどうか、懐かしい夢でも見られますように。

 

 




「ライダーと飛鳥」
「藤ねえと飛鳥」
「桜と飛鳥」
「イリヤと飛鳥」
「凛と飛鳥」
「雨傘の傷」
「葛木先生と飛鳥」 New
「飛鳥の呼び名」 New
「アスカ1」 New

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。