「粗茶ですが」
「あいや、これはご丁寧にどうもどうも」
お茶を出される、という行為自体久しぶりなものだから、なにかソワソワしながら部屋を見渡す。洋間だ。紛うこと無き洋間。黒塗りを基調としたシックというかオサレな家具は家主の優雅さを醸し出し、同時に品格も伺わせる。余計な装飾はないが、しっかりとした家柄であるという事を再認識させられた。
ティーカップの置かれたソーサーはしっかりと彫の深いもので、これ自体も値打ちのある物だろう。古さはないが、あっちの……それこそロンドンのものだろうか。
折角なので出された紅茶をソーサーに移し、頂く。
「……ん、すっきりするな。ピュアダージリンか……ダージリン自体飲んだことはなかったけど、良いもんだな」
「現代人でソーサーをそのまま使う人も珍しいけど、ダージリンティーを飲んだことないって……って、ああ。アナタ食わず嫌いだったわね」
「まーな」
爽やかな香りが鼻を抜ける。
甘さもちょうどいい具合だし、これからは飲んでみようと言う気になれる。強制的に新しいモノに手を出させてくれる友人というのはありがたい物なのかもしれない。往々にして余計なお世話である事が多いのだが。
さて、現在オレは冬木市一の洋館……遠坂邸に来ている。
遊びに来たとかではなくて、営業という奴だ。いうなれば、だが。
ライダーさんには予め今日が休みであると伝えてあるし、店にも「店主営業に付き不在」の張り紙をしておいた。この貼り紙を見れば、常連は基本的に喜んでくれる。何故なら商品が増えるから。
……この四日間で、新しいコがどういう扱いになるのかはわからないのだが。
なんたって20回以上繰り返した四日間の中で、遠坂邸に呼ばれたのは今日が初めて。初の試みというか、新しい刺激というか。
履いてないさんに頼まれたナビゲーターもやらなきゃいけない事はわかっているのだが、オレにとっての優先順位は骨董が1番だ。すまん、衛宮ェ。また今度だ。
「で、遠坂。今日のブツはなんだ?」
「気が早いわねぇ。どうせ今日は暇なんでしょ? 一応友人なんだから、少しくらい土産話を聞こうとか思わないわけ?」
「え? あぁ、すまん。なんだ、取引相手としてのオレを望んでいるわけじゃないのか。いや、すまんすまん。遠坂とは高校に入るまではずっと取引ばかりだったし、高校入ってからは避けられてただろ? 友人だって言ってくれるとは思わなくてさ」
「……言われてみれば、確かに。でもまぁ、もうそう言う事気にしなくてよくなったから、かしらね。これからよろしくね、野場さん」
聖杯戦争が終わったから、なのか。
それとも言峰さんが死んだから、なのか。
オレに判断できる事じゃあないか。
「あいあい。
で、土産話か……。んー、やっぱ気になるのは大英博物館だよなぁ」
「ガクッ……。いや、想定の内ではあるけれど、他に無いワケ? ロンドンはどういう所だったのかー、とか、本当に倫敦のご飯は不味いのかー、とか」
「いやオレロンドン行ったことあるんだよなぁ。しゅうが……」
「しゅうが?」
「週間! 一週間旅行で!」
高校の修学旅行で、と言おうとした。
勿論穂群原学園の修学旅行の行先にロンドンなんて場所は無い。
前の高校で、の話。
「へぇー……って、だったら大英博物館にも行った事あるんじゃない?」
「……メンバーに、古物やら骨董やらの価値が分かる奴がいれば、行ったんだけどな」
高校生でそんな奴は少なかった、ってのが1点。
そもそも高校時代のオレは古物にそこまで興味が無かった、ってのがやっぱり大きいだろう。オレの骨董好きはあくまで辰巳から引き継いだもの……というか、骨董達がお礼を言ってくれた(気がした)事に起因しているから、この世界で得た嗜好なのだ。
「まぁ、総合的な値打ちで言えばあの家の骨董品の方が……」
「え、ウチの子達って大英博物館に勝ってんの?」
「それは比べて見ないとわからないけど……く、士郎なら」
士郎なら聞こえない音量だったのに……と呟く遠坂。
突発性難聴は意図的に起こすものだぞ、遠坂。
「いつか大英博物館の古物にも触れてみたいけど……まぁ、今店を放り出すわけにもいかんしな。夢は見ているだけでいいさ」
「ほんと、
ま、聞きたい事が無いならいいわ。そろそろ商談と行きましょう」
「あいあい」
ティーセットを片付ける遠坂。
そのまま遠坂は部屋の奥へと消えて行き、待つこと数分。
遠坂は1つのランプを抱えて戻ってきた。
「待たせたわね」
「いんや。
今回のブツはそれか」
「ええ。パッと見、いくらくらい値が付きそう?」
オレ自身は鑑定士ではないので正確な年代がわかるわけではないが、一応骨董品店の店主として長らくやってきた。その審美眼から言わせてもらうなら――、
「43万……ちょい、か?」
「そんなに?」
「いや、状態も良いし……19世紀初頭のオイルランプだろうけど……」
「じゃ、これ売るわ。正式な鑑定結果が届いたら、またナマで支払いをお願い」
「りょーかい。割れ物だから郵送で頼むわ」
「着払いでいいわよね?」
「ロンのモチ」
お客様への負担は一切かけません。
安心と安全の野場骨董品店でございます。
「ん、商談成立と……。ほんと、野場さんにはお世話になってるわね」
「こちらこそご贔屓に、ってな。これで用事は終わりか?」
「ん~……じゃあ、もう2つ」
「割と多いな」
そこは1つじゃないのか。
まぁ聞くけど。
「1つ目。アナタが士郎に渡した傘について、詳しい事聞かせてもらえる?」
遠坂は、そんな。
にっこりとした笑顔で、ド
「あー……っと、だな……」
「骨董じゃないのはわかっているわ。どうみても普通に現代の材質だったし。それに、野場さんって物を大事にする性格だから、自分で壊した傘を士郎に押し付けた、ってワケでもない。私なりの方法で調べてもみたけれど、分かったのはあの傘がボロボロという事だけ。
それで、あの傘は何?」
「そういうのはフツー、衛宮に自分で考えさせるものなんじゃないかなーって……」
「ん~? 何か言った~?」
良い笑顔だ。
その笑顔、衛宮とブロッサムさんに見せる奴だよね。脅しの笑顔だよね。
いやはや……いやはや!
「いや……割とマジなアドバイスとして、アレを渡したのであってですね遠坂。アイツ自身が気が付かないと何の意味も無いっていうか、ここでオレが答えを言っても意味が無いというか……」
「ということは、やっぱりアレは意味のあるモノ、なワケね。あれ自体に意味がある? それとも、アレが何か……そう、人や物を示しているワケ?」
「あー……まぁ、場所……か? って、だからダメだってば」
だから怖いんだ遠坂と話すのは。
先日オレを言い負かすことができるのは遠坂とタイガーで、後者は話が通じないからだ、って言ったけど……前言撤回。前者も話通じないわ。
「ふぅん。
ま、いいわ。じゃあ2つ目の要件」
案外あっさりと諦めた遠坂は、懐から何かを取り出す。
それは――紙。いや、チケット。
「今から2人で、プールにでも行かない?」
「……おお、行く行く」
「んーっ! 良い日差しねぇ」
「人工だけどなぁ。過ぎたる科学は魔法と変わらない、なんて言うけど……こういうの見るとそう思うよ」
「魔法というよりは……あ、いえ、なんでもないわ」
本当に来た。
新都のレジャー施設わくわくざぶーん。金髪君がオーナーになったここは、十月だと言うのに親子連れやカップルに溢れている。
遠坂は赤。オレは黒。遠坂もオレも同じホルターネック。
しかしなんだろう……この差。
スタイルの差もあるのだろうけど……鮮烈、だよな。遠坂は。
「けど、良かったのか?」
「何が?」
「衛宮と来るべきだろ、夫婦なんだし」
「……別に、女友達とプールに来ただけなんから衛宮くんは関係ないでしょ」
いやまぁ、はい。
その通りでごぜーます。
「んー、じゃあ思いっきし楽しむかー。浮き輪、持ってきたか?」
「貸し出しとかないの? ここ」
「んあー……金髪君に聞いてみるか」
よっこらしょういち、と立ち上がり、周りを見渡す。
あ、いたいた。
「……は?」
「おーい金髪君。ここって浮き輪とか……あ、ほんとだ。助かった。ありがとうな! ほれ、遠坂。あっこに積んである奴使っていいんだって……遠坂?」
遠坂は顔に掌を当て、「ありえないありえないなんでアイツがここにっていうか色々と問題あるでしょ」とかなんとか呟いている。
ドウシタンダローナー。
とりあえず浮き輪を2つ持ってきて、着艦。エアは十分。周りは何故か人がいない。
「とおさかー? 今くらい悩み事は無しにしようぜ」
「……そうね。悩んでも仕方ないわよね……。よし!」
そう。あの我が道を行く唯我独尊マンの幼少期がどうしてアレなのかとか、なんであんなに親切なのかとか、そういうのは聞いてはいけない、考えてはいけない事なのだ。
ならば吹っ切れるのが一番である。
無事着水した遠坂とオレは同じように浮き輪に寝そべり、ぷかーりと浮く。
「んーっ、いいわね……あっちは辛気臭くて気が滅入っちゃってたから……」
「あぁ、霧の国だもんな。切り裂きジャックとかいなかったか?」
「それ、100年前の殺人鬼でしょ? いないわよ、そんなの」
さっきは大英博物館しか興味ないという風には言ったが、昔の趣味で言わせてもらえばホームズ関係……ライヘンバッハの滝とか行ってみたかった。違う世界線では実際にあのあたりの英霊が呼び出される事があるそうじゃないか。その辺りのあこがれはまだ忘れていないが、あの世界線に行きたいとは思えないよな。
「んー、でもロンドンならリヴァプールとかはすっきりしてるし、なんならビーチもあるだろ? あそこ。……あぁ、そうか。10月だもんな……寒いか」
「というよりは、観光で行ったわけじゃないもの、大学周辺と寮の下見をしてきたくらいで……楽しさはほとんどなかったわ」
「あぁ、遠坂はあっちの大学行くためにロンドン旅行してたんだっけか。そーけそーけ……」
ぷかー……と、手足を投げ出して浮く。波に煽られる浮き輪が移動し、時折遠坂の浮き輪とぶつかる。ぬあー。
「――アスカ。商談というのはリンと共にプールで浮かぶ事だったのですか?」
「ぬあん?」
だらしなく口を開け、目を瞑って浮いていたのだが、翳りが差したと同時に真上から声がした。
目を開けると、そこにはこちらをジト目で覗きこむおっぱい美人の姿が。
「……ライダーさん」
「こんにちは、アスカ。ここでお会いするとは奇遇です」
「あら? ライダーじゃない。……相変わらず、妬ましいくらいのスタイルよね」
「こんにちは、リン。リンも素晴らしい身体であるかと」
「オレからしたらどっちも良い身体だよ、ったく……。えい」
遠坂の脇腹をくに、と掴んでみる。
無駄な肉のないウェストは、よく鍛えられた筋肉を手のひらに感じさせた。
「私としましては、アスカのような少女らしい体つきにも憧れるのですが……」
「まぁ、一人称がオレじゃなければ野場さんも可愛いわよねぇ」
「だろー? 超絶美少女野場飛鳥きゅんをもっと煽ててくれ。何か出るかもしれんぞ」
「煽てて何か出るのは金ぴかだけだと思ってたけど……野場さんからも出るのね」
「何やら意気投合していましたし、通ずるものがあるのかもしれません」
ないない。ノーウェイノーウェイ。
「いつまで揉んでるのよ」
「いや、この腹筋とかすげーなって。遠坂ってなんだっけ、少林寺拳法とかやってるんだっけ?」
「八極拳の事? ええ、やっているわよ」
「ほあー……見た目じゃわかんないのに、触ると割れてる。すげー……」
わしゃわしゃ触ってみる。さわさわさわさわ……。
「ちょ、っと……くすぐったい! ライダー! 野場さん捕まえて!」
「はい」
「ぬわ」
簡単に羽交い絞めにされるオレ。後頭部に柔らかなクッションが。
そんなことに意識を向けていたからだろうか。
浮き輪を放り出して前から迫る遠坂に意識を裂けなかった。
「ひょわ!? ちょ、ドコを弄って!?」
「へぇ~、お肌すべすべじゃない。肉付きも程よいし、手足の長さも丁度いい。ほんと、性格を除けば普通に少女よねぇ」
「アスカは弱ると普通に女の子ですよ。先日は夜闇への恐怖から私にすり寄って……」
「なぁんだ、可愛いトコあるじゃない。初めて会った時は言峰を介してだったからそうは思わなかったけど……深く接すると普通に女の子よね、野場さんって」
「それは褒められているんですかねっ! あと触り方がなんか……内腿はくすぐったいってば!」
「いつからこうなっちゃったのかしらねー。オレ、なんて言わずに口調も普通にしていればそれなりにモテそうなのに」
「まぁ、アスカはロリコンですから。まずそこから直さなければいけないかと」
「あー……三枝さん、だっけ? 野場さんが好きな子」
「なんで知って、んゃっ!」
どれだけ暴れてもライダーさんは離してくれはしない。なんという強固な檻。あ、いや、柔らかいんだけどね?
あとそこの金髪君! 笑っていないで助けてくれたまえ!
頑張ってください? うん、頑張る!
「くっ、斯くなるうえは!」
羽交い絞めにされている肩を起点に逆上がり。そうすることで、ライダーさんに覆い被さる形で後ろ向きに倒れさせる。ライダーさんも本気で拘束しているわけではなかったのだろう、簡単に倒れてくれた。
羽交い絞めから解放されたのでそのまま水中を潜水。蹴りあげた水飛沫に遠坂が顔を拭いているその瞬間を狙って、その足に抱きつく。
そして立ち上がる!
「ひゃっ!? わ、わ!?」
「ロケットォ――ッ!」
立ち上がり、ジャンプ! ウォーターガールズ!
といってもオレの筋力では然程も上がらない。ので、安全面を考えて浮き輪の或る方へ遠坂を撃ち上げただけだ。格好としてはバレーのレシーブに近いか。
「あーんどミズデッポー!」
手のひらと手のひらの間に溜めた水を小指の付け根辺りに作った発射口から遠坂の顔目掛けてぶしゅーっと! ライダーさんにもぶしゅーっと。
「あんたは子供かっ! ……けど、やられっぱなしは遠坂の在り方に反するわよね……! 勝負事は何事でも手は抜かないのが遠坂の家訓!」
「アスカ、それはどのようにして……ほうほう。こうですか」
2人の集中攻撃がオレに突き刺さる。何故執拗に口を狙うのだ! がぼごべ!
ならばと、遠坂にミズデッポーを撃った直後にライダーさんの後ろに回る。フフーフ、この巨盾! 抜けられまい!
「どわっふ!?」
なに!? 横合いから高波が……ビート板!?
「勝負となれば、どんな汚い手を使ってでも勝つわよ!」
「リン、私も余波を受けているのですが」
「こうなったら三つ巴じゃー! バトルロワイヤルじゃー!」
こうして。
女の子らしい……かどうかは微妙な所だが、この年になってくると異性間ではやり難い……なんというか、子供っぽい遊びを全力でやった日曜日は終わった。
次の日が休日だから出来る事だな……。
「あー、楽しんだ楽しんだ。というかはしゃぎ過ぎた」
「オレも相当なスタミナお化けの自信があるが……遠坂もライダーさんも疲れ知らず過ぎるだろ」
「むしろ私についてこれるアスカとリンがおかしいのですが……」
帰り道。
すっかり夕方の深山町を、女3人で歩く。シャワーで十分に流したもののまだまだ残るカルキ臭さはお風呂で抜くとして、化粧はもう仕方がないのでほとんどしていない。いいよいいよ、どうせ誰も見ないよ。
「しかし、アスカとリンがこれほどまでに仲が良かったとは思いませんでした」
「んー、仲が良かったっていうか、極最近仲がよくなったというか?」
「そうね。あくまで商売相手だったし、こうやって一緒に遊んだのは初めて……よね」
オレが思っていたように、遠坂が思っていたように。
ライダーさんにとっても、オレと遠坂に接点があるようには思えないようだ。
「出会い自体は本当に幼少期なのだけれどね。確か8歳の頃……だったかしら」
「ん。元々オレが取引してた言峰さんって新都の教会の神父さんがいて、その人の紹介で遠坂と会ったんよ。『今すぐ大金を欲している、君と同い年の少女がいるのだが、会う気はあるかね?』って」
「アイツ……そんなこと言ってたのね。私の方は『これは兄弟子としての
流石言峰さん。嘘は言ってないのに全く信用できない。
あの人が各地で集めた・貰ったっていう品々は性格上綺麗に保管されていて質も良いから、とても良いクライアント兼サプライヤーだったんだよな。あと若いころに蒐集していたっていう酒類もちょっと分けて貰ったりしたし。
「言峰綺礼、ですか……」
「あぁ、ライダーはあまり接点が無かったか……」
「あ、じゃあさ、言峰さんを知るためにも泰山、行かないか? 今から」
「遠慮するわ」
即答である。
紅洲宴歳館・泰山は確かに激辛麻婆豆腐を出すが、その味は素晴らしい。味覚を破壊される味は最初こそ劇物だが、その奥にある深み、香り、味わいは簡単に引き出せるものじゃあない。あれこそ味の極致の一つだ。
「どんなに美味しくても、美味しさを感じる前が苦行過ぎて、ね……」
「そっかー……じゃ、ライダーさん。今度オレと一緒に行こう」
「その、私も遠慮しておきたいのですが……」
「大丈夫大丈夫。死にはしないから」
サーヴァントにダメージを与えられるほどじゃあないだろう。
この人でなし!
「あ、それじゃあオレこっちだから。またな、遠坂。今日は楽しかった。ライダーさんはまた明日」
「はい。おやすみなさい、アスカ」
「ええ、また遊びましょう。今度は士郎や桜もつれて。おやすみなさい、野場さん」
マウント深山手前で別れる。
ばいばい、と手を振って、帰路に着いた。
……はふー。
骨董品店に入り、骨董達にただいまを告げてから自分の部屋へ……行かずに、そのままバスルームへ行く。このままベッドに入ったら寝てしまうと思われるので、先に髪と身体を洗うのだ。
プールの後ゆえに丹念に髪を洗う。
遠坂もライダーさんも、あの長い髪は洗うの大変そうだよなー、なんて思いながら、揉むように絞る様に。
「……んー、楽しかったなー」
風呂に響く。
1人だとどうしても湯を張る事が無いので、水に浸かったこと自体久しぶりだったかもしれない。
それに気兼ねない友達といる、というのも……良い物だ。
「友達……ねぇ」
何度も言うようでくどいとは思うのだが、本当に遠坂とはビジネスライクな関係だったのだ。
それが、こうまで仲良くなれるとは。
洗い終わった髪を拭きながら、考える。
この関係値は確かに四日
だが、この楽しい時間は――続くのだろうか。
四日間が終われば、必ず何かが変わる。
何かが、終わる。
「……いやいや、タイムリミットタイムリミット」
そうだ、忘れてはならない。
この世界はあくまで”彼”が自らの内にある聖杯で再現した四日間であり、”彼女”の命を無限に引き延ばしたわけではない。
決して、この四日間が永遠に続くなんてことはないのだ。
髪を拭き終わり、ベッドに入る。
「けど――」
やめたくないなぁ、と思ってしまうのは。
何かに、影響を受けているから――なのだろうか。