コミュ2
シャドウ陽介戦の夜。
『やぁ湊。今日は大変だったようだね』
ベッドで寝ころんでゴロゴロとし、そろそろ寝ようかと思ったそのとき。ファルロスが現れた。
「……もう少し早く出てきてほしかった」
『ごめんごめん。見てたよ。大変だったね』
ファルロスは笑ってベッドに座る。
『ホントによかったの?』
急にファルロスが訊いてきた。僕は何のことかわからなかったから「何が?」と訊き返した。
『相棒』
「あぁ。それのことか。……あの二人は相棒になるべくしてなった、そんな気がするんだ」
ファルロスはまた笑った。「確かに」と言った。
「僕は元々いない存在。鳴上と花村は僕がいなくても相棒になっていたよ」
『君はそんな関係の人が既にいる、って言ってたけどさ。もしかして“あの人”のこと?』
「うん。僕にとっての“相棒”は順平だと思うんだ」
初めのころは何故だが突っかかってくることが多かったけど、月日が経って考え方が大人になってきたと思った。さらに一度チドリが死んだ。その前に荒垣先輩が死んだ。その二件の出来事が順平をもっと大人にさせたんだと、僕は思う。
「綾時とも仲がよかったな。……って記憶なかったんだよな。ごめん」
『ううん。別に平気さ。記憶がなくたって、彼を見ていると気持ちが覚えていたと言うかさ、楽しかったんだなって思う時があるんだ』
ファルロスの顔はとても幸せそうな感じだった。
『さっき湊が言ってたけど、確かに最初は突っかかってきたよね。自覚ある?』
「突っかかってくるな。ってのはわかるけど理由がわからない」
前にゆかりに訊いたことがある。ゆかりもわからなかった。ならば風花はどうだ、と思ったがダメ。じゃあ最終手段だ、と本人に訊いてみた。
『えっ、君……順平本人に訊いたの?』
「順平も驚いてた。いつだったかな……。屋久島辺り?」
◇◇◇
屋久島初日で……海で遊んだあとの休憩時間だった。順平一人でいて、僕が近くによると笑顔で「少し喋って休憩しよーぜ」と手招きしていた。
「お喋りは休憩なの?」
「まぁまぁ。いいじゃねーか。たまには戦いを忘れることも必要さ。訊きたかったことがあればこの伊織順平サマが何でも答えてやるぜ! あ、勉強以外ね」
何でも、と言うのでせっかくだから訊いてみた。
何故モノレールでの大型シャドウ戦で順平はイラついていたのか? と。
「……それ訊いちゃう?」
「だって何でも答えるって順平が」
「確かに何でもって言ったけどそれはねぇだろ」と呟いていた順平。その時は僕は全然気づかなかったけど、その話題はあまり順平にとっては触れられたくないんだと後々知った。
「まぁ、アレだな」
「アレ?」
「嫉妬ってやつか? たぶん」
「たぶんなんだ」
そして僕は追い討ちをするが如く「何に?」と訊いた。僕があまりにも真顔だったのか順平は仕方なくといった感じで答えてくれた。……僕は別に真顔ではなかったと思うけど。
「いきなりリーダーに抜擢されてさ。しかもペルソナ何体も持てるっていうじゃん」
「マックス12体」
「十分多い。……だから羨ましいって言うか嫉妬って言うか、まぁそんな感じ?」
「これでもういいだろ」みたいな目線を僕に向けた。そして逃げるように海に入っていった。
「……なるほどなー」
順平が去ったあとの砂浜で僕は一人後にアイギスの台詞になる言葉を呟いていた。
◇◇◇
『なるほど、嫉妬ねぇ。男の子ってそういうとこあるよね』
「そう?」
『君は欲が無さすぎるんだ』
「睡眠と食べることに関してはあるよ」
『それはほぼ僕のせいだと思う』
するとノイズ音が聞こえた。テレビからだ。今日は雨、時計を見ると深夜12時。そう、「マヨナカテレビ」だ。
『浴衣姿の……女性?』
ファルロスの言う通りシルエット状態ではっきりとは見えなかったけど「女性」だと言うことと「浴衣」を着ていることはわかった。
『僕はこれからも応援しているから。頑張って湊』
「うん。おやすみなさい、ファルロス……」
ファルロスは手を振って消えていった。僕も寝ようと横になる。
ーーランクアップ。「死神:ファルロスコミュ2」
まだ僕は知らなかった。この女性は僕の知っている女性だということに。そして、その女性の命が危ういことに……。