ソードアート・オンライン−−ギルド名『草生えるw』   作:tfride

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投票者様が5人になりまして、ついにこの草も枯れそうな小説に評価が付きました。真っ赤です。

やはりここは赤にちなんで、ウサギ君に真っ赤になって貰う必要がある。

『なんでや』

そんな気持ちです。


第6話『切なぁ~い気持ちw』

 

 

 

 

閃光のアスナと言えども怖いものはある。

そもそも人間は恐怖する生き物だ。何事も恐れることは悪くない。

しかし、今アスナは心のないAIと対峙する恐怖とはまた違った、人間に危害を加えるべく武器を握る恐怖を感じていた。

今彼女らはあの最大人数を誇るギルド、アインクラッド解放軍の所有するギルドホームの前に立っていた。

団長ヒースクリフとギルド、草生えるwのメンバーの話が確かなら、彼らの黒い噂の所業はすべて、元アインクラッド開放隊の面々が始めたことであったらしい。

故に、軍のリーダーであるシンカーと他数十人は、今30人以上と一緒にいるヒースクリフとの話し合いをしているはず。

故に、目の前のギルドハウスにはキバオウ率いる元解放隊しか残っていない。そう仕向けたのだ。

だからこそ今、アスナたちと10人の自分の部下、風林火山の面々、そして…。

 

 

「ツモ」

 

「ごめん、ロン」

 

「あ、てめリーチしろよ」

 

「顔見りゃ張ってるのわかんだろ」

 

 

 

 

「…何してるんですか?」

 

『麻雀』

 

「ルール知ってます?」

 

『知らない』

 

「働いてください」

 

この奇妙な四人組ギルド、草生えるw。

 

今からこのメンバーで、軍の腫瘍をそぎ落とすと思うと…胃が痛くなる。

 

 

 

 

 

 

正月餅つき大会終了の翌日。

血盟騎士団本部にて副団長であるアスナは、死にそうなほどにやつれていた。

今朝から続くそれは、起掛け目覚めの一杯である紅茶を4回ほどゴミに変えてしまうほどに彼女の精神にダメージを与えていた。

あぁ何でこんなことに…と彼女はふと、先日に起こった自分のめまいの原因を思い出す。

そう、始まりはヒースクリフの代わりに受け取ってきてほしいと頼まれ、彼ら草生えるwの元に顔を出したところから始まる。

彼はいきなりに約束の100万と言って、アスナに100万コルを譲渡してきた。

控えめに言って『頭がおかしい』

 

そして伝言としてヒースクリフ宛に『明日また来るからよろしくぅ~』

 

なんて言って帰ってしまい、それを伝言主に伝えると。

 

「ご苦労だったアスナ君…約束の報酬?……ア、アア…知ッテイルトモ。ゴクロウ」

 

あんな団長は見たこともない。

後から聞いたが、あることに協力してほしいと頼まれヒースクリフが。

 

「なら君達ギルドに何ができるのかを見せてくれ」

 

と頼んだらとんでもないものを見せられた。

もう頭痛が痛い。

 

そして今日。

その頼まれてほしいことに関して、団長と相談相手から説明があるらしい。

泣きたい。

 

そんな感情を丸ごと飲み込んで内心吐きそうになりながら、アスナは後ろの四人を見やる。

 

『グーリーコ』

 

「ち、よ、こ、れ、い、と」

 

『グーリーコ』

 

「ぱ、い、な、つ、ぷ、る」

 

「何してるんです…」

 

『グリコ』

 

「とっとと進んでくださいお願いします」

 

アスナは今日、何度目になるかわからない溜息を吐いた。

正直この人たち個人は嫌いではない。むしろゲームクリアをしようとしないだけであって、ゲーム自体には積極的に参加している。

問題はこの四人が集まった時の、遊びの異常な方向性。

ウサギが上に落ち始めた時はもう色々無理だった。

今からこの四人をヒースクリフに会わせるのが色々怖いアスナ。

 

(…大丈夫よね?会って早々失礼なこと言わないかしら…それ以前にちゃんとついて来てくれるのかしら…そもそも何で団長はこの人たちに協力しようと思ったの?他にいるでしょ強いプレイヤー……もうだめ、泣きそう)

 

そんな葛藤を行いながらもアスナは会議室にやってきた。

一度気持ちを切り替えるために深呼吸。

そしてノック。

 

「どうぞ」

 

「副団長アスナ、他ギルド草生えるw四名。入ります」

 

そう告げ、ドアを開ければ中央に真顔のヒースクリフ、その隣に経理担当のダイゼンが少し微笑みながら座し、少し離れたところにクラディールが少し厳しめの表情で立っていた。

その三名を確認すると、アスナは入り口に視線を移し…。

 

『…』

 

「…………アスナ君」

 

「…はい」

 

「彼らはどこに?」

 

「………探してきます」

 

刹那。

その言葉とともに会議室を駆け出す。

その速度はまさに一閃。閃光のアスナの異名は伊達ではない。

 

願わくばこんな所で本領を発揮するとは思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、見事ウサギが壁を抜け半身が地面に潜っているのを助けようとしていた計四人を殴りつけ連行するアスナの姿が…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく来てくれた、諸君」

 

『ちーっす』

 

顔面に赤い腫れをくっ付けた4人は何も悪びれる様子もない。

 

「貴方たち…」

 

「いえ、本日はお招きいただきありがとうございます」

 

アスナの覇気にビビったニンジャは今までに聞いた事のない透き通った声でそう述べ、残りの三人は片手を胸に当て浅くお辞儀をする。感謝の極みである。

普段の四人からすれば全くと言っていいほど考えられない姿に引いてしまったアスナたちは悪くない。

 

「さて、彼らも集まったところで本題に入ろう。ダイゼン君」

 

「かしこまりました」

 

スッとヒースクリフの隣に座る男が立ち上がり、一度頭を下げると口を開く。

 

「今回は数日前に彼ら草生えるwがこちらに要求してきた協力についてです。彼らの要求は『元アインクラッド解放隊キバオウ、およびその部下の報復及びあらゆる非道徳行為の禁止を誓わせること。』」

 

その言葉に小さくため息をつくアスナ。それは軍の黒い部分に対してであった。

彼ら軍の黒い噂に関しては、もはやプレイヤーとしては常識の範疇に入るレベルで『軍に近づくな』という暗黙のルールを生み出した原因でもある。

 

「それに際しまして彼らの要求は三つ―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「私がその指揮をする立場だと思い込ませること…」

 

そう言いながら自身が引き連れた精鋭たちを眺める。

その中には自身の護衛であるクラディールも含まれている。

アスナ自身は彼を連れていく気はなかったが、彼の強い立候補により今日この場に集合したわけだが…。

 

「貴様らいい加減にし――」

 

「お、アスナのストーカー」

 

「なっ――?」

 

「だってお前護衛役だろ。だからストーカー」

 

「私は…」

 

『ストーカー』

 

「貴様ら剣を抜けっ!」

 

なんてやり取りが集合してそうそう続いている。

正直クラディールを連れてきたのは失敗だったのかもしれない。

 

まぁここまでが一つ目であり、二つ目は…。

 

「みんな、準備できたわよ」

 

その言葉とともに血盟騎士団の装備に身を包んだリズベットが、木陰の隙間から歩いてくる。

いや、リズベットだけではない。

その後ろからも、続々と騎士の格好をしたプレイヤーたちが出てくるのを確認すると、アスナは向き直る。

 

「どおアスナ。皆おかしいところはない?」

 

「完璧。見た目だけなら私達の一個団体って思われるわね」

 

「追跡」

 

「撲滅」

 

「何れもぉ~」

 

『マッハァ!』

 

「あいつらどんだけ暇なの?」

 

「皆さん、騎士団に偽装したプレイヤー50人。用意ができました」

 

「アスナも強くなったわね」

 

そう、これが草生えるが要求した2つ目である、装備の支給。

ちなみに装備を着ているのはもちろん、SAO商店の有志たち。

立候補といっても自らフィールドに出て戦闘を行う高レベルプレイヤーたちである。

その中でも一人、リズベットだけは血盟騎士団の装備を、まるで着せ替えごっこのように楽しんではいるが…。

そして3つ目。

 

「んだったら、あとはヒースの合図だな」

 

 

3つ目は、血盟騎士団団長とアインクラッド解放軍リーダーの会議を開き、リーダーであるシンカーを別の場所に誘導すること。

あくまで狙いはキバオウとその部下であり、シンカーには会議で事の事情を『血盟騎士団が始めた事』と説明すること。

もし噂としてこの作戦が流れた場合、四人ギルドか血盟騎士団かと言われれば、勿論後者の方が信憑性も高く、何より力の大きさを他のプレイヤーも分かっている。

なので余計な詮索を防ぐためでもあった。

そして目の前の城に見立てたギルドハウスにはキバオウとその部下たちのみになるはず。

故にこの人数で宣戦布告し、1対1のデュエルを申し込む…というのがアスナの案だった。

 

そもそも草生える4人の作戦は、物資の枯渇、軍の主力を…キバオウの傘下以外を会議に出席させ弱体化した軍を叩く。

文字通り集団戦に臨むための形であったのだ。

というよりも、アスナの案に四人は。

 

『アイツがワンマンデュエルに挑むわけないだろ』

 

という粗方尤もらしい返答をしたが、アスナの要望により風林火山、そしてSAOギルドのほぼ全メンバーを並べることによって数の有利を見せ、応じさせるということだった。

その要望に四人は、最近ウサギから教わったその場ゲッダンを小刻みに繰り返すという奇行を繰り返し、渋々了承した。

会議の終わり際に、「脳筋かよ」と誰の言葉かもわからない捨て台詞を聞いた気がする。

 

 

「対々和(トイトイ)」

 

「おいリクまじかよ」

 

「ねぇクライン、全部緑色になった」

 

「どれどれ…ぴょん吉、それ緑一色(リューイーソー)」

 

「お前親だったよな、なんで最初に聞かなかったし」

 

「天和(てんほう)で役満とか神様か何かかお前」

 

「リクさんあたしも混ぜて―」

 

「リズは麻雀知ってんのか?」

 

「女学生が麻雀する漫画読んだから平気でしょ?」

 

「それ一番信用しちゃダメ」

 

 

 

 

刹那のうちに圏外であるにも関わらずリニアーでボコボコにしたアスナは悪くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

焦る気持ちを押し殺しながらキバオウは自身が所属するアインクラッド解放軍の拠点内廊下を突き進んでいた。

なぜだ…どうして…馬鹿な…、そんな否定的な言葉を心の中で自分に言い聞かせるように呟くせいなのか、周りの部下の言葉が聞こえない。

皆が今のキバオウの挙動不審な態度に疑問を抱き、しかし彼に伝えることがあるためか、何人かは駆け足でついてくる。

そんな自分の周りの状況などつゆ知らず、キバオウは突き当りの部屋…軍のギルドマスターであるシンカーの執務室を抉じ開け、正面を見渡せる大窓を開く。

知らず知らずのうちに焦りが行動に出てしまったのか、窓は嫌な軋みを上げつつも、その音はキバオウ、また彼を追いかけてきた数名の部下には聞こえなかった。

なぜか?

 

距離を置いた先に300人は下らないプレイヤーは待ち構えていたからだ。

 

キバオウはつい先ほど送られてきた…彼がここまで駆け足で向かった原因でもある…メッセージに再び目を通す。

 

 

from Ninja

ご注文の品をお届けに参りました。窓を開けてみろ。

 

 

そんな馬鹿な話があるわけがない。

部下数人が慌てふためく中、一人キバオウは心の中でそう叫んだ。

恐らく彼らの狙いは自分たちへの…。

 

今まで散々部下に命令してきた低層プレイヤーへの恐喝や強奪。

 

その清算を彼らはするつもりなのだろう。

しかし、未だにキバオウは…視界一杯に広がるプレイヤーの数を前にしても、ありえないと呟いた。

確かに期間はひと月以上経ってはいる。しかし以前送り返した煽り文句を実行するために、一体彼らはどんな手を使ったのだろうか。

 

「おいあれ…会合予定の血盟騎士団じゃないか?」

 

「なんやて?」

 

部下の一人がそう指さす先には、確かに白と赤のコントラストが特徴的な血盟騎士団の装備を着込んだプレイヤーがいた。

 

「落ち着け、まだ偽物って可能性も…」

 

「ならあの閃光(アスナ)はどうやって説明をつける気だ? ヒースクリフの野郎、シンカーが殆どの部下を連れ出す事を見越してあいつらに肩入れしたんだ?」

 

血盟騎士団(彼ら)だけではない。

赤い野武士装備が特徴的な風林火山や、それこそキバオウが喧嘩を売った草生えるwの四人も視界にとらえることができた。

 

まさに多勢に無勢。

圧倒的戦力差をもって彼ら草生えるwが答えとして、この光景を生み出した…。

 

完全に格下だと言い放つために投げた爆弾は、核兵器となって返されてきたのだ。

 

 

「……慌てるこったない。今すぐ全員集めるんや」

 

 

一瞬部下を残し自分だけでも逃げ出そうかと思い立ったが…、しかし待てと彼の思考が告げた。

 

いくら報復とはいえ、彼らが自分たちに…それこそゲームオーバーになるほどの危害を加えるかどうか。

 

もちろん、そんな事はしないだろう。

いくらなんでも彼らも善人。行動こそ数々の問題はあるものの、今のところイエロープレイヤーになったとの噂もない。

なにより、自分たちが行ったことに死をもって償えなどと…どこぞの暴君でもあるまい。

 

それに…とキバオウは部下たち見られてもお構いなしに口元をニヒルな笑みでゆがめる。

 

「……ワシらがやったっちゅう証拠も出せへんしな」

 

この1と0で作られた世界において、草生えるwたちに犯人を特定するすべはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「…来たわよ、皆構えて」

 

アスナのその言葉に皆の顔に緊張が走る。

見れば軍の拠点から、まるで行進のように隊列を組んで進むさまは、さすが軍と名乗るだけはあると思わせた。

その数およそ60人はくだらない数がこちらに向かって進んでくる。

しかし、その手には皆武器を持たず鞘に入れているところを見ると、戦意は恐らくないと見える。

アスナは構えさせていた武器を下ろさせ、既に数歩前に出た草生えるのw四人に並ぶ。

アスナを見習ってか、風林火山のクラインも彼らと並ぶように立った。

 

軍が距離を置いて制止すると、先に口を開くのはアスナだった。

 

「私は血盟騎士団副団長アスナ、他、ギルド風林火山のギルドマスタークライン。ギルド草生えるwのニンジャ、リク、ローキ、ウサギです。アインクラッド解放軍所属のキバオウにお話があります」

 

その言葉を見越してか、列が真ん中を開けるとキバオウがその人の道を通り前に出てくる。

 

「ワシがキバオウや…それで?ぎょーさん人連れてワシらに何の用や」

 

極力堂々と振る舞おうとしているのか…否。

これは純粋に堂々と振る舞っているに違いない。

 

「では…。こちらのギルド、SAO商店のお店にプレイヤーからの恐喝がありました」

 

「おお、知ってるで。なんたって、そこに居る草生えるwのギルドマスターに直接メッセージが送られてのぉ…クタバレっちゅーメッセージがの」

 

その言葉に視線をニンジャに向けるアスナ。当の本人は明後日の方向を見たまま口笛を吹く始末。

諦めたように小さくため息をつくと、アスナは本題に入った。

 

「話を知っているようで助かりました。その襲われた方の証言によると、襲ったのはアインクラッド解放軍のメンバー…もっと言えば、複数の犯行のうち、元アインクラッド解放隊のメンバーが事に及んだ可能性が高いです」

 

その言葉に、高笑いを始めるキバオウ。

その仕草、声、そして周りの無反応具合を見るに、完全にここまで打ち合わせしたであろう内容なのだろう。少なくともアスナはそう感じた。

 

「くくくくっ…なるほどな…ほな逆に尋ねさせてもらうわ―――

 

 

―――どこにそんな証拠があんねん」

 

 

その言葉に一瞬アスナは、はっとした表情を浮かべ、その表情の変化にキバオウの口元は若干つり上がる。

 

「せやろ?なんやったらそれを盾にこっちを襲ってきおった、そこの草生えるwどもは何もお咎め無しか?」

 

再びその言葉に苦虫をかみつぶしたように顔を歪めそうになる。

 

勿論草生えるも、その行動は意味もなく行ったわけではない。

軍の補給物資の減少を狙い、行動規模の現象化や、最悪実力行使に出てきた場合の戦力低下を狙っていると、そう聞かされていたアスナは、これによって自分たちの首を絞めることになるとは思いもしなかった。

 

「聞いとんのか閃光のアスナはん。それとそこの草生えるwのアホ共」

 

「晩飯どうしようかリク」

 

「あん?どうせまた川魚焼いて終わりだろ」

 

「ローキ、一番料理スキル高いのは?」

 

「ニンジャ」

 

「いくつよ」

 

「確か650ちょっと」

 

「お前作れよ」

 

「だからアンケート取ったんだろ」

 

「聞けやおどりゃ!!」

 

こんな状況でも全くぶれない四人が何とも羨ましく。

何とも殴ってやりたい気持ちを抑えてアスナが続ける。

 

「で、ですが。貴方たちが商人のアイテムをもっていったのは事実であり――」

 

「――何捏造しとんのや。証拠もなしに犯人扱いはどうかと思うで。それともなんや。証拠があるっちゅうことかいな」

 

「それは……」

 

アスナの心境を移すように、その手は血がにじみ出るのではないかと思うほどに力強く握られている。

 

「アスナ…」

 

そんな彼女を心配するかのように、リズベットは手を差し出そうとするも、しかしニンジャが一歩前に出たことによってそれは阻まれた。

 

「んじゃあれか、証拠を見せればあんた達は納得して謝ってくれるのか?」

 

その言葉を肯定するかのように一度うなずくと。

 

「おうさ、『土下座でもなんでもしたる』…ま、あればやけどな」

 

 

キバオウの言葉に、今度は四人が笑みを浮かべた。

すると今度はローキが前に出る。

 

「ならいくつか質問させてもらうよ」

 

そういうと彼は立ち並ぶ軍の前に立ち何人を品定めするようにまじまじと見つめる。

すると彼は何人かを指名して前に立たせてた。

 

「さて今前に出てきてもらった数名の軍のメンバーさん…武器を見せてもらってもいいかな?」

 

その言葉に全員が一度キバオウに視線を向けると、了解の意を取ってオブジェクト化してローキに渡す。

が、一人一人の渡し際に…。

 

「君はこの剣をどこで手に入れたの?」

 

そう投げかけてきた。

 

「…いや…その…」

 

っと要領の得ない返しが聞こえる中、後ろに立つキバオウが代弁する形で答える。

 

「そいつらの装備は皆市販の剣か、そこにおる鍛冶屋の武器屋で」

 

嘘だ。

そうリズベットは心の中だけでつぶやく。そもそも彼女の記憶に軍の人間が武器を買いに来たことなんて一度もなかったのだ。それは草生えるw傘下のギルドのギルドマスターを努めていたことが原因であるが…。

彼女だけではない。

なにより今前に出てその話を聞いたローキですら嘘だと思っている。

しかし彼女は見たのだ。

 

数人の武器を受け取り、こちらに顔を向けて歩いてくるローキの顔が笑っているのを。

 

 

 

 

 

 

ばれるわけがない。

キバオウは内心焦りながらそう考えていた。

あの武器…もとい、今部下に持たせている武器は殆どが市販の武器、もしくは鍛冶屋リズベットが鍛えた武器のはずだ。

そもそもあの武器の出どころは、何回かに分けて行った強奪の際に奪った武器だ。もちろんリズベットから買い付けたことは一度もない。

が、いざ彼女がごねても記憶にないだけだろと言い逃れできるし、何よりそれだけでこちらを黒と決めつける要因にはならない。

そのはずだ…。

 

しかし、キバオウの中の焦りは消えるどころか、増え続けていた。

なぜだ。

 

なぜニンジャは勝ち誇ったように笑っているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

戻ってきたローキは武器をニンジャに渡すと、ニンジャはその武器片手に話し始める。

 

「鑑定スキルってのがあってな。例えば武器だったらその武器を作ったのがだれなのか。が分かるスキルだったりするんだが」

 

そう説明するように手に取った一本の武器に触れながらコマンドを捜査すると。

 

――製作者『リズベット』

 

「まぁこんな感じだな。製作者はリズだね」

 

そう言いながら彼は武器を一本一本鑑定していく。

これはリズベットのだ…これは市販のだ…。

そう言いながら鑑定を進めていくニンジャは一本の剣で手が止まる。

 

「ところでキバオウとやら―――ホントに市販かリズの武器しかないんだよな?」

 

それが最終警告だと言わんばかりに何かがこもっている声を放つ。

その言葉にキバオウは、何度も何度も大丈夫と心に言い聞かせ。

 

「…し、しつこいな。そうや言うてるやろ」

 

するとニンジャは足をアスナに運び手元のウィンドウを見せる。

 

「……っ!これは…」

 

貴方たちまさか…とアスナがニンジャ達の顔に視線を向ければ、まるでいたずらが成功したみたいな…子供のような悪い笑みを浮かべていた。

 

「な、なんや。はよ製作者いうてみ!」

 

その言葉にウィンドウをキバオウたちに向け、ニンジャが大きな声で伝える。

鑑定結果は。

 

「製作者―――ローキ。残念だったね?」

 

「なっ!」

 

部下を押しのけ近寄るキバオウ。

ウィンドウの目の前に立ち向かい、目をかっぴらいて見つめると、確かにそこにはローキの文字が浮かんでいた。

その現実に思考を全力で働かせ、何とか打開しようとキバオウは口を開いた。

 

「お、思い出したわ。その剣はあんたら傘下の商店から買うたん―――」

 

「おいおいキバオウ。鍛冶屋でもなんでもないローキが武器を売るわけないだろ?」

 

そう言いながら一歩一歩と近づいてくるニンジャ達。

その前進に合わせて逆に後退していくキバオウ。

後ろを向けば先ほど以上の距離が開いており、それはもはや逃げる体制に入っていることが分かった。

 

「な、なんでこない武器が…」

 

「お前たちが襲ってくることを見越して、配置した商人にローキが作った武器も渡させた、簡単だろ?」

 

そう言いのけるニンジャの言葉にローキは続けるように口を開く。

 

「大変だったんだよ?鍛冶スキル上げるために毎日ひたすら武器鍛えて造って」

 

「途中拗ねてたもんな」

 

「しってたなら手伝ってよリク」

 

「どう手伝えと」

 

脱線しかけた四人を押しのけ、アスナが続きを話す。

 

「キバオウさん…いえ、ここにいるアインクラッド解放軍の皆さん。選択肢は二つです。」

 

そう続けるアスナは、先ほど届いたであろうメッセージのウィンドウをキバオウに向け。

 

「先ほどヒースクリフ団長から連絡がありました。話し合いの結果、シンカーは元アインクラッド解放隊である貴方たちと、この件にかかわった全てのメンバーを軍から追放するそうです」

 

 

その言葉と同時に、アスナの目の前の軍全員に一斉送信されたであろうメッセージが開かれた。

 

 

from シンカー

ギルドマスター権限をもってギルド草生えるw、SAO商店に害をなしたすべてのメンバーを脱退させる。

 

それと同時に次々と軍から追放されていくメンバー。

その表情は焦り、恐れなど様々である。既にこの場から離れている者も…。

 

「一つはこのまま大人しく黒鉄宮に投獄されるか。もう一つは貴方たち全員を不名誉なプレイヤーとして全階層に広められるか」

 

この狭いアインクラッド内でそんな事実を広められれば、完全に彼らは全プレイヤーから敵視され、本当にクリアまでの期間居場所がなくなってしまう。

それはだめだ。

何よりシンカーら軍の報復が無いとも言えない。

選択肢はもはや一つしか残されていない…はずだった。

 

キバオウが不敵に笑い始める。

そして自身の武器を抜きながら目の前に写る全員をにらみつけ。

 

「もう一つあるで……ここで全員巻き添えや!!」

 

その言葉に…否。

言葉を放つ前に雰囲気で察した元軍の面々は、武器を抜き放つとキバオウに合わせ突撃をしてきたのだ。

もはや退路はない。

ならば一人でも多く道連れにして逝く。

そんな感情を爆発させて迫ってくるキバオウに対して、総勢300人…いや、実質戦えるのは100人にも満たないであろう。

それを察してかアスナやクラインが前に出るも、その顔には焦りが見て取れる。

 

しかし、この状況ですら四人は違うことを考えていた。

 

「なんかあれだな。砂漠で全員で突撃する図を思い浮かべた」

 

「軍勢的な?」

 

「結界的な?」

 

「宝具的な?」

 

「そうそう」

 

「確かこんな感じだったよな…Ohrrrrrrr」

 

「ちょ、ウサギ。それ吐いてる」

 

またか…そう思ったアスナは若干の殺意を向けた一撃でも放ってやろうかと…。

 

 

その時。不思議なことが起こった。

 

 

「は?」

 

ふざけて前進を始めたウサギの足がもつれ、前から勢いよく崩れていく。

ここまでは、いい。

そのまま地面に触れる瞬間。

 

彼の体が爆発した。

 

 

 

 

それはゲームにおける偶然に偶然が重なって起きる現象だった。

それはプログラムの邪魔者。運命が起こす奇跡。

 

様々な呼び名があるが、一概にバグと同じにして全くの別物。

 

人はそれを『ゲッダン』とよぶ。

 

 

 

 

 

なぜそうなったのか。

それを知るすべはないが、少なくともウサギが四肢を滅茶苦茶に折り曲げ伸びており、それはすさまじい運動エネルギーと換算され対敵するすべてをなぎ倒していく。

 

 

「――――はうわ…」

 

「あすなぁああああああ」

 

その光景に限界が来たのかアスナが倒れ、そしてリズベットが駆け寄る。

 

もうしっちゃかめっちゃになった…なり下がった光景に…残った三人はため息をついた。

 

 

 







現実の人間がゲッタンした状態を目撃したらトラウマになると思うんだ。

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