ソードアート・オンライン−−ギルド名『草生えるw』 作:tfride
「紙が無いんよ」
言えよ
2階トイレの紙を持っていったら
「神(紙)はまだ俺を見捨ててなかった!」
もう病院行け
「…そりゃ、悠長に構える事も出来なくなってきたな。」
残念そうにそう呟いたリク、その表情を隣で見ていたキリトは同意するように頷く。
洞窟の中でキリト達が先ほど死銃と遭遇したこと、シノンが狙われハンドガンで撃たれかけた事…それらを聞いた彼は思案する。
「…降りろなんて言わないわよね?」
「そういって降りるなら、お前は強さに固執しねぇだろ。」
釘を刺してきたシノンにぶっきら棒に返したリクは眉を動かして入ってきた情報を整理する。
先程のスキャンにてペイルライダーの退場は確認できなかった、すると標的を変えてシノンの元に協力者が向かったか。
いいや、この短時間で他の住居に侵入して殺害の手引きをするのには非合理的すぎる。可能性として複数の協力者がいると考えた方が妥当だろう。
ペイルライダーを死銃に遭わせるわけにはいかない。それはシノンも同義、ならば二人で奴を倒しに行くかと思案した。
幸い、お互い知らない仲ではない。悲しい事にGGOにてインファイトするには武器が心許無いが、二人とも攻略組並みの実力者である。
やってのける自信はヒシヒシと感じられた。確証は無い。しかし、死銃のトリックの種は大よそそれで間違いないだろう。
だが、キリトは疑念をぬぐえていないようで極力ハンドガンは敬遠する腹積もりらしい。
作戦として二人で挑むのは決まったも同然、次はシノンが見た銃が彼女のトラウマに起因する拳銃と同モデルであったという事。
単なる偶然だろうか、しかし考えてみれば奴は彼女の近くに姿を現している。まるで彼女にゲーム内での死が本物の死になると見せつけたいが為に。
彼女を狙らい、恐怖する様を見たいのだろうか。だとすればとんだ変態だ。吐き気がする。
「…アンタたちは怖くないの?」
零す様に呟いた少女の言葉に二人は視線を向ける、怖くないのか、そんな簡単な疑問に二人は曖昧な表情を見せて唸った。
「俺は…怖いかな。…やっぱり死ぬかもしれないって場面に直面するとな。」
「…正直な所、別に怖くないな。」
キリトはやはり、当然の反応を見せ苦々しげに頭を掻いて小さく微笑む。しかしリクは視線を落しながらそう答える。
その言葉にジッと視線をリクに向けるシノン、そしてその隣でまたこいつはと言わんばかりに呆れるキリト。
「何で……?」
「…SAOサバイバーは、ずっと命のやり取りをしてきた、隣のキリトもそうだ。…でも、『俺達』は違う。ただ『これも現実だと置き換えて』楽しんで生きていた。」
茜色の日差しが差し込み、岩陰から見えたその光に手を伸ばしたリクは光を掴む様にゆっくりと拳を握る。
「現実…? VRMMOをもう一つの現実って考えてたって事?」
殻に閉じこもる様に顔を伏せていたシノンが顔を上げて彼に問う、その姿にリクは頷く。
「モンスターと戦って身体を真っ二つにされたのなら死ぬ、当たり前だろ、ゲームでも現実でも。だったら何が違うんだってな。死ぬのはもちろん怖い、けど
隣で懐かしそうに呆れた黒髪ロン毛を小突いてリクは視線の先で砂に埋もれたSAAを拾い上げた。
「…そう…凄いわね…。」
再び顔を伏せた彼女を見たリクはSAAの砂を払いのけながら口を開く。
「言っとくがこれは強さなんかじゃない、割り切っただけのぶっ飛んだ考えだ。普通の人間なら考えねぇよ。」
「…何処がよ、強いじゃない。強者に真っ向からぶつかれる精神じゃない!!」
諭すように穏やかにそう呟いたはずのリクは、彼女から付きつけられた強さと言う言葉に過敏に反応してしまう。
「いいや違うね、俺は今も前に進んでない弱者だ!! 強い精神なんて持ち得ていない、アンタみたいに前へ進もうとする強い意志なんて持っていないんだよ!!」
瞳を見開き声を荒げたリクの口から飛び出すのは最後の彼の泣き言、ずっと心の奥底に潜んでいた、今も彼に突き刺さる自覚していた真実。
彼らしくもなく、表情を露わにして怒鳴る姿にキリトでさえも言葉を失い、本人も今の言葉に気が付くと口を噤み踵を返した。
「…。声を荒げて悪かった…。索敵してくる、後でな。」
目を背けてきた現実はいずれ自らに必ず降りかかる、それを受け入れるか拒絶するか。
自覚しているからこそ彼は過敏に反応したのだ、ソレはつまり彼の成長を示す、発芽するのは―――。
■
「キリト…」
「ん? どうした、シノン。」
「貴方とリクはやっぱり知り合い、なの?」
「あー…。知り合いと言うか…何というか、腐れ縁と言うか…。」
「あまりいい関係じゃないのね。」
「い、いや。アイツ等は友好的な方だし…そのぉ、えっと…。頭の螺子が飛んだような集団、かな」
「…リクもさっき俺達って言っていたけど、他にも仲間がいるのね。」
「あぁ、SAOサバイバーで調べれば出てくる事だけど。大手ギルドの一つにその名を連ねていたギルドの一員だ。」
「だから、反応速度もVR慣れしているのね…。」
「まぁそこは俺と同じだけどな、アイツは元々そのギルド一の勘の良さだったし周りもソレを信用してタンク、盾役としてリクは戦ってた。」
「あの人は楽しんでいたって言っていたけれど、やっぱり命のやり取りを繰り返して戦ってたのか…。」
「…。」
「…? どうしたの?」
「(そんな真面目にアイツ等戦ってたかなぁ…?)…少なくともアイツは本当に楽しんでいたよ、その強さはギルド含めて攻略組っていう前線に居たプレイヤー達には一目置かれてた。」
「…そう…。」
「リクはそう…、四人のギルドの中で一番年少だってボヤいてた。周りが良い歳したおっさんなのにいい加減にしろってな。」
「…随分少ないギルドね、そんな数で有名ギルドだったの?」
「普通はそう思うよなぁ…。」
「…違うの?」
「戦力としたらアイツらはそれ程影響力は無いよ…、けれどアイツらが注目されてたのはソコじゃない。…アイツのギルマス、ニンジャって奴がな指折りのビジネスマンだった。」
「…ビジネスマン?」
「そう、最初の内に現実に帰れない、ゲームの死は人の死を意味する真実を知ったプレイヤー達に。ニンジャはビジネスを提案した。」
「アイテムを集めて協力しろって事?」
「いいや、アイツ等は自営のショップを展開するように頼んだんだ。アイテムの仕入れ、それぞれの店舗の設営に拠点の配布を全部自分らが請け負ってな。」
「…つまり、戦闘には向かないプレイヤー達をサポート側にしたって事。」
「あぁ。結果、情報の共有も自然と行われて無謀なプレイヤーの死や、モンスタートラップ、レベルに合った狩場でのレべリングも可能になってSAOの環境の改善に一役買ってたんだ。」
「やっぱり…凄いじゃない…。」
「…。アイツらにそんな実感は無いんだと思う、ただ純粋にあのギルドは有名になれど、噂されるようになれど、興味なかったんだ。純粋に、何もかも忘れてSAOをもう一つの人生として遊んでいたんだ。」
「…アイツも、死銃の事件には参加していたの?」
「…、参加していたのはリクだけだ。」
「…やっぱり、遊びだから?」
「…いいや、アイツ、あの時だけ真剣に参加していた。他の連中はわれ関せずだった。」
「…。」
「俺も必死だったから、リクがあの場でどう行動していたのかは知らない。けれど、最後の一瞬だけ見つけた時、アイツはさっきみたいな顔をしてた。」
「…今にも泣きそうな…?」
「そう見えたか? 俺には心底、呆れたような、それこそ苦虫噛み潰したような顔に見えたよ。…きっと、許せなかったんだろうな。歳も俺と近いみたいだし、あの中では人一倍、レッドプレイヤーが嫌いな奴だったから。」
「他人が嫌いなくせに、他者を虐げる人間を気にするのね…。」
「…、異質なギルドだ、一人一人が自由人、無茶苦茶で、自分勝手、いつも喧嘩してる。でも家族みたいに信頼し合ってた。それは互いに弱い部分を知っていて、それを受け入れる優しさがあったからだと思う。」
「…」
「アイツ、ぶっきら棒に見えるけど仲良くなると面倒見良いし。意外と人の心配してくれるんだぜ? さっきのもきっとシノンの為にお節介焼いたんだと思う。」
「…余計なお世話よ」
「…、一度約束したことは投げ出さないタイプだ。また戻ってくる時には作戦練る為に話位はしてくれよ。」
■
残りプレイヤー7名。
太陽が沈み、砂漠に吹き付ける砂塵が舞い上がる中、砂漠エリア中央にそびえ上がる星の宇宙船跡の高台にてシノンはヘカートを構える。
結局、次にの衛星スキャンまでに戻らなかったリクを置いて行動に移った二人は、こちらに向かって来るであろう闇風を迎え撃つためにキリトが囮に。
シノンによる狙撃にて勝負を着けようとしていた。
別行動をしているペイルライダー、そして衛星に映らない死銃、何故か同じく映らなかったリク。残りの一名は不明だが役者はそろった。
スコープ越しにキリトを見据えたシノンは北西に向かいスコープを向ける。最後のスキャンで確認できたことはリクの話だと、闇風を狙っていたペイルライダーは他のプレイヤーに釣られたのか、未だ廃墟街に居た事。
このまま近づいてくるとしたら闇風が一番最初に会敵する事は間違いない、ならば先に迎え撃つ。
どんなにAGI振りのステータスであろうと相手を狙う際は必ず立ち止まる、そこを狙い撃つ。
「…見つけた!」
スコープの先で見つけるモヒカンが特徴的な男、あちらもキリトを見つけたのか飛躍的に上がる速度、まるで風の塊の様に砂を巻き上げ突風の如く加速する闇風。
自然と歯軋りしたシノンはその時を待つが―――
「―――リク!?」
あと少しでキリトに辿り着くところで闇風にぶつかる様に、もう一つの突風がぶつかる。即座に始まるのは苛烈な銃撃戦。
GGO最速と名高い闇風、そして今や噂の的である速射のハンドガンキラーがスコープの先で激突した。
闇風の得物はM900A、軽量のマシンガン、対してリクの装備はSAA二丁だという。互いにAGI寄りのステータス故にこの戦いは、どちらかが先に相手の足を奪った方が傾く。
即座に撃ち放ったのはリクだった。
しかし当然の様に避けて見せた闇風は一歩前に踏み出しリクに接近する、AGIは流石に闇風の方に分がある。
それを知っての行動か、リク自身も一歩踏み出し互いの銃口が相手を捉えた。
突き出された銃口は両者の顔横を通り過ぎ発砲、皮切りに一歩下がった両者互いに銃を打ち払い、被弾なくその場で徐々に下がりながら円運動の様に疾走し銃撃が繰り返される。
闇風がマガジンを捨て、リクがシリンダーごと空薬莢を投げ捨てる。徐々に縮まっていくリクと闇風の距離、次第に後手に回り始めた彼の表情は曇っていない。まだ『紙切れを咥えたまま』笑っていた。
「…楽しんでるの?」
そう呟いた彼女を余所に一つ変化が起きた、キリトの方に動きがあった。
遂に死銃との会敵、闇風を狙うべきだろうがこうも常人離れした速さでは狙撃も限界がある。
しかし、呆気ない程に簡単にその時はやってきたのだ。
■
リロードを終え、次第にリクへと距離を詰めていた闇風、同じく素早くSAAに装填したリクは走る速度を上げていく。
反射するように闇風がスピードを上げた瞬間だった。
――――カチリ
ブーツ越しに何かを踏んだ感覚がする、何を踏んだ? 瓦礫であろうか、いやそんな重い物じゃないこれは―――
「ッ!? グアッ!?」
突如、彼の足元は小さな爆発を起こし砂を巻き上げ微量の衝撃が彼を襲う。ダメージ的には大したことはない。
しかしこの怯んだ一瞬だけでリクには充分だった。
待ち望んでいたようにコートを翻し、闇夜の砂漠の元、砂塵を巻き上げ、ゴーグル越しにその瞳は闇風を捉える。
相手が一歩踏み出すよりも早く、彼の十八番が火を噴いた。
腕を振り抜き、腰元のホルスターから抜き放たれるSAA、手のグラフィックが確認できない程の速さでSAAが構えられ撃鉄が落とされる。
二度、爆炎が噴き、闇風の足は撃ち抜かれた。黙視できないそのクイックドロウにより彼の速度は殺される。
しかし闇風も一流のプレイヤー、こんな事で負けを認められない。
即座に銃を構えた、その瞬間だった。
上げた視線の先で闇夜に隠れたナニカが彼の喉に突き刺さる、肺からかひゅっと息が漏れ闇風のHPゲージはゼロとなった。
確かに見える弾丸なら避ける事も不可能でもないだろう、彼ならば。しかしそこを逆手に取られ闇風は敗退した。
アバターに突き刺さったナイフを引き抜いたリクは安堵の息を吐く、これは賭けであった。
そう、あと一歩で負けていたかもしれない。しかしそれも自らを刺激するスパイスであったことに変わりはない。
SAAの弾丸はもう腰元のSAAにはもう弾丸が残っていない、残りは胸元の一丁の6発に加え、隠し玉の40口径、スミス&ウェッソン モデル610の5発だけである。
サブウェポンとしてグレネードの類とナイフはあるが、あの場において闇風を相手に持ち替える余裕はなかった。だからこそのナイフ投げだったのだ。
残り弾丸は計11発、加え少量のサブウェポン、勝てるか?
いいや、勝ちに拘ってるのはキリトだ、自分ではない。
感情は落ち着いているか?
いいや、むしろ大きく胎動している、だがそれがどうした。もう抑える事はしない。
しかし俺は暴れる為に戦うんじゃない、そう、だから、化け物(激情)よ―――――――――
『―――――遊べ』
咥えた大将のエールをそのまま飲み込んで、言い放った。
その後に父親からLINEが来て
「今二階のトイレにいます
紙がないです
助けてください
紙様」
取り敢えず近所の薬局に買いに行ったけど
親父は15分近くトイレに缶詰だった
なんでウチこんなにトイレットペーパー無いの?