ソードアート・オンライン−−ギルド名『草生えるw』   作:tfride

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大人から見れば思春期だけど

本人からすればその3文字で済ませて欲しくない


Ⅲ 第6話『激情』

森林フィールド、風で騒めく音を耳にしながら彼は警戒する素振りも見せずにSAAのシリンダーから打ち切った6発の薬莢を捨て、装填する。

やがてエフェクトとなり消えていく薬莢を尻目に、足元を一瞥すると『DEAD』と表示された対戦プレイヤーを確認して歩き出した。

 

おそらく彼はこのフィールドで隠れながら相手を待ち続けるスタイルを選んだのだろう。その身を包んだギリースーツが良い証拠であった。

森林フィールドも日が傾き、生い茂った木々と日に当たろうとする植物たちの茎のせいで日の差し込みは少ない。

 

こんな場所で発砲でもしようものならノズルファイアの微かな発炎により、即座に位置が割り出されるだろう。

そう思考したリクは静かに身を潜め辺りを探る、生憎と障害物が多いこのフィールドはリクに不釣り合いだった。

 

唯でさえ常人離れした第六感は周囲に向ける神経を大いに消耗させる。場合にもよるが荒野のような更地のフィールドと見通しの悪いこのフィールドでは気を配る神経も比にならない。

僅かな変化であっても即座に反応できるが故に、神経を削る場と成り得てしまった。

 

だから自らは動かない、15分起きに転送される衛星情報を待つことを今は選んだ。

 

しかしそう簡単に事は運ばなかった、気配をなるべく殺す様に木の影に身を潜ませ茂る草陰から視線だけを巡らせ捉えたのは数回の小さな動く点滅。

二か所からまばらに動く辺りを見るに近距離の撃ち合い、さて、どうするかと思い悩んだ時には視界の先で声が上がり得意げに蔦から飛び降りて相手を確認するプレイヤーを見つける。

 

「漁夫の利、か。」

 

小さくそう呟くとリクはSAAをホルスターに戻しナイフを静かに抜く、そうしている内に衛星からの定期情報が流れだした。

舌打ちを飛ばし、周囲10m以内に他プレイヤーが居ない事を確認した後に、カウボーイハットの顔がこちらに向けられようとした瞬間だった。

 

右斜め前方、視界に捉えていたプレイヤーに迫る様に茂みをかき分け正体不明の影が進行を続ける。

思わず飛び出しかけた身体の力を抜いて脱力、静かにその光景を静観する事をリクは選んだ。

 

数秒も経たずに姿を現したのは白と青の迷彩柄のヘルメットのプレイヤー。その手に携えるはショットガンのみ。

リクの口角はまもなく上がり、ペイルライダーの銃口は捉えていたハットの男に向けられ発砲される。

 

即座に身を翻し脱兎の如く撤退を決めたハットの判断にリクは感心すると、ゆっくりと上体を上げ姿を現す。

こう足場と障害物が多いと向こうも動きづらいのか足を止めたペイルライダーと示し合わせたように彼らの視線はぶつかる。

 

数秒の間を置いて、遠くからの発砲音に反応して木々から飛び立つ鳥達を皮切りに両者に赤いライン(バレットサークル)が形成される。

そして怯むことなく二人はソレを上体を下げる事で、身体ごと宙に浮かせることで弾丸を躱し接近する。

 

刹那の如く、交差した銃口は相手を捉える事無く宙を切り裂き地に穴を穿つ。

前方に加速したリクはそのまま加速し、森林フィールドを疾走。背後から木々が揺れる音を確認して二人が本気で殺り合える地へと足を向かわせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…常に六時方向警戒(チェックシックス)よ。ダイン君。」

 

ヘカートのスコープ越しに見えるのはこちらに背を向けて正面の鉄橋を睨みつけているカウボーイハットの男ダイン。

先程の衛星スキャンからの情報で彼がペイルライダーというプレイヤーに追われているのは確認している。恐らくソイツを待ち伏せしているのだろうがそんな事は私には関係ない。

 

相手を狩れる内に狩ってしまえばいい。トリガーに指を掛け集中する。視界の先で微動だにしないダインを見据え引き金を引こうとしたその瞬間だった。

ダインの手にしたアサルトライフルから火花が吹く。引きかけたトリガーから指を外しその先にスコープを向けると二人のプレイヤーが鉄橋を疾走しながら銃撃を繰り広げていた。

 

片方は青と白の迷彩柄にフルフェイスヘルメット、黒いバイザーのせいで顔は伺えないが男のプレイヤーだろう。手にしたショットガンのみで相手に肉薄し攻撃を繰り返している。

対してもう片方は黒いコートを翻し両手に構えたのはSAA、顔を明かさないための砂塵対策ゴーグルには見覚えがある、リクだ。

 

互いに一歩も譲らず銃撃を躱し、弾丸の雨を撒き散らす、紙一重の攻防は一瞬の油断も許さないがそこに横やりが入った。

ダインだ、漁夫の利を狙ったのだろう二人に向けてアサルトライフルを連射していた。

 

ソレが勘に触ったのだろうか、拮抗していた勝負はその弾丸により中断され二人の視線はこちら側で伏せているダインに向けられている。

数秒の後に二人は障害物の無い鉄橋を全力で駆けだした、おそらくAGI寄りのリクの速力は群を抜いて早く、数秒も待たずに鉄橋の半分まで辿り着いており。

 

隣のプレイヤーも負けず劣らずリクのやや後方を走りぬけている。間抜けな声を上げてダインは再びトリガーを引いているが的が二つ、加えて目に見えて腕利きの二人をこの場で仕留めるのは無理があるだろう。

結果ダインは膝立ちになった瞬間にリクの速射により両肩を穿たれ、知らぬ間に懐に入り込んでいたもう一人のプレイヤーにより致命打を受けて敗退した。

 

そして即座に翻る二つの人影、相対した視線を皮切りに再び銃口を突き合わせようとする刹那、ペイルライダーの身体は彼の意思に反して後方に吹き飛ばされ、地に転がる。

身体能力が特出している事は既にこの目で確認していた、そんなプレイヤーが隙を見せるとは思えない。今も立ち上がらない事から誰からの銃撃と捉えるのが妥当だろう。

 

しかしそこからの展開に目を見開いた、これでも相手の力量を測る事が出来る程に実力をつけていると私は自身があった。

スコープ越しに見据える二人のプレイヤーは間違いなくこのBOBの参加者の中で上位に位置する実力者だろうと、一瞬の出来事にもすぐさま判断を下せる人物達だと。

 

だが、私が視界に捉えるのはその場で膝を着き小刻みに震える、ハンドガンキラー、未だに地に倒れ伏し痙攣を繰り返すペイルライダー。

この光景は余りにも不可思議、第三者の妨害があったとしか言えない現状。しかし発砲音が聞こえない所からして余程遠くからの狙撃か、或いはサイレンサー付きの狙撃銃。

 

好機ではある、しかしこの場で二人を倒したとして私は強者を一人で倒したと胸を張れるだろうか?

否、否、それはありえない。動かない的を撃ち抜く事など練習すれば誰でもやってのける。そんな勝利を私は求めていない。何より――――

 

――――私は、実力でハンドガンキラー(アイツ)を倒すと、そう決めたのだから。

 

だから、ヘカートを取り回し、第三者を見つける為にスコープを覗いた瞬間ソイツは姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『リクさ、最近上の空じゃない?』

 

『うん? そうか?』

 

『お腹空いてんの? 食べる?』

 

『そんなバグスター生まれそうな名前の食い物いらねぇ……』

 

『ふー、で、どうなんだよリク。お前、ALO(ここ)に来てから確かにボーッとしてること多いぞ。』

 

『そう、か?』

 

『何か悩んでることでもあるの?』

 

『まさかぁ、リクが悩み事なんてするわけ『××ぞ?』ヒェッ』

 

『別に…ただ…』

 

『ただ?』

 

『…あの頃(SAO)が懐かしいだけだ…。』

 

 

 

グロッケンロビーにてニンジャは当然の様に煙草を吹かして中継モニターに視線を向けながら、ついこの間の出来事を思い出していた。

視線の先で捉えるのは第三者にて不意打ちを決められた、自らのギルドの唯一のアタッカー。

 

特出するべき彼の特徴は負けず嫌いな一直線馬鹿という点、加えて他人にはない直感の良さを彼らは認めている。

実際問題、GGOに送り込んだ彼らはリクに試しに何が出来るか見せてほしいと頼んだことがあった。結果―――

 

 

 

[WINNER RIKU]

 

 

 

無表情で首都で行われているBOBよりも小さな大会で優勝をもぎ取ってきた。

三人が思わず口をそろえて

 

『(ありえ)ないです』

 

と呟いたのは記憶に懐かしい。銃の事は知識の中であるならばそれなりには理解している自覚がある。

しかしリクの様に。

構え、狙い、撃つ。この三つの工程を度外視するように動く事は出来ないだろう。仮に出来たとしても的に当たる事などありえない。

 

それをやってのける彼にこの世界は合っている様にも感じた忍者は画面越しで蹲る少年に対して、瞳を細めた。

本来のリクなら喜んで身を投じる様な血湧き踊る闘争の場に、時折つまらなそうに顔を歪ませている少年に向けて彼は言葉を見つけた。

 

(なぁ、陸人よ。お前はまさか―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(―――死に場所を探してんのか?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

捉えるのは宛ら死神の如く赤い眼光、見下ろし動けない彼ら二人を一瞥したその人影は悠然と胸元から黒い拳銃を取り出し。

未だ動けないペイルライダーへとその銃口を向ける。黒いコート、腕に巻いた白い包帯に背中に携えるのは大きさからして狙撃銃か。

 

見定める様に、確認するようにその眼光はペイルライダーを嘗め回すと徐に胸元で十字を切り始めた。

ロールプレイでもしているつもりなのだろうか、そもそもソイツが取り出した拳銃では頭を撃ち抜こうと、心臓を穿とうと一撃で相手を葬るには貫通力が足らない。

 

そんな事をしている間にペイルライダーの拘束時間が途切れショットガンの餌食になるのは目に見えている。

しかし黒コートは焦る素振りもなくまるで儀式の様に手を動かしている。

 

この状況を遠くで見ていたシノンはその光景の異様さに息を呑み、橋の向こうから何かを叫びながら駆け出している黒い長髪のプレイヤーは必死の形相で声を張り上げる。

 

「やめろォォォォォォ!!」

 

黒コートは見向きもせずにやがて十字は切り終え、引き金は徐々に引き絞られていき、そして――――

 

「―――邪魔すんじゃねぇよ」

 

リクの裏拳が黒コートの顔面を捉え、銃口は空を向き弾丸は空を裂いた。

振り抜かれた拳、不意打ちを決められた男は体制を崩しながらその身を後退させる。

 

そして交差したのはハンドガンの射線、リクはその身にまだ痺れを残しているのか肩で息をしている。対して黒コートは何故動けるのか驚きを隠せないようで顔面を確認するように手を当てていた。

 

「スタン弾、だよな。なけなしのLUKに、テメェの狙撃がお粗末で助かったぜ。」

 

皮肉気にニヒルに笑うリクは手の甲に突き刺さったスタン弾を黒コートに見せつけ、一歩、また一歩、踏み出す。

 

背後で彼に何かを伝えようと叫ぶ声が聞こえる、しかし彼の耳には届かない。

 

いや、聞き入れない。

この緊迫した状況、Dead line(生きるか死ぬか)の中。

リクの心は別の何かに支配されている。

既に過去のものになった記憶。死地の中に活路を切り開いた4人の共闘(遊戯)

リクの中で忘れられない血が湧く記憶たちが、彼の口を無意識に動かす。

 

ニヒルな笑みが吊り上り、瞳は見開かれ、狂気に染まる。

 

「…なぁ死銃()()()()?」

 

「!?」

 

そのドス黒い感情を込めた一言に、更に動揺を重ねるように、仮面の男は肩を震わす。

 

「このチキンが。サイレンサー付きのライフルで不意打ち、スタン弾で動けなくしてハンドガンを突きつけて、祈り、ズドン。―――そうしたら筋書き通りに殺すんだよなぁ?」

 

「何者だ…貴様!!」

 

「あぁ? 自殺希望者だよ、さぁ…さぁ、さぁさぁさぁさぁ!! 俺をこの場で殺してみろよ、死銃(デスガン)!!」

 

一歩また一歩、じわじわと近づいたリクはやがて突きつけられたハンドガンの銃口をその胸板に当て声を上げる。

 

最早自分自身でコントロールできない何かが―――。

 

 

―――『さぁ、ヒースクリフ――――』

 

 

 

―――『さてと、カーディナル――――』

 

 

 

―――『だから陸人、思いっきり―――』

 

 

 

本質を見失った闘争心が、彼の足を勝手に動かす。

 

 

「殺せよ、今すぐ!! この場で!! 銃口は心臓を捉えた!! 死銃なら一発撃てば十分なんだろう!! 」

 

「クッ!?」

 

 

ステルベンは苦悶の声を漏らすのと同時に懐から鈍色の得物が顔を出す、それはGGOに置いて稀であろう剣であった。

 

それが何を意味するのか、リクは答えを得たのだろう。一瞬、落胆するように瞼を下げた瞬間に笑顔を浮かべその振り抜かれた剣にナイフを添わせ標的をずらす。

 

同時に横一線、紫の軌跡が間に割って入りステルベンは後退すると、川に飛び込み姿を暗ました。

 

 

 

『―――所詮ダウト()か』

 

 




綺麗にする為に庭の木を切り倒したら

切り倒した木で庭が荒れた

タスケテ

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