ソードアート・オンライン−−ギルド名『草生えるw』   作:tfride

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最後に皆で草を補給しよう


Ⅲ 第5話『リクかぁあああああああw』

「次は逃がさないわ、覚悟しなさい。」

 

「開口一発目が宣戦布告かよ。」

 

BOB本戦までの待機時間で誰も彼もが殺気立っている中で、遠目からこちらを見ているプレイヤーの視線を遮るようにゴーグルの中で瞳を閉じていたリクの耳に何やらざわめき出したギャラリーの様子に瞳を開けると人波を裂くように現れる『冥界の女神』

その後ろに居るキリトは何やら初心な男プレイヤーに笑顔を向けてポーズを取っていた。その光景にコート裏で思わず呆れたのも仕方ないだろう。

 

しかして、その狙撃手からの言葉に思わずそう返したリクはゴーグルをずらし素顔を晒すとニヒルに笑い。こちらに視線を向けたキリトとシノンに座る様に促した。

 

「…マジか、今回の本命たちが揃ったぞ…。」

 

「期待の新星、キリトちゃんにハンドガンキラー、しかも冥界の女神まで…。顔見知りとか、録画しとくべきか…。」

 

「美女二人と知り合いとか羨まし過ぎんだろ…。そこ代われよ巨人…」

 

「てか何だかんだで顔を晒すの初めてじゃないか!? 誰か記録しろ記録!! 今まで人相不明で賞金首にしても誰も狙わなかったんだ!!」

 

キリトに後押しされるようにしてリクの対面に座り容赦の無い眼光が彼を射抜くが何処吹く風、それよりもより騒がしくなったギャラリーの方に気を取られたリクは首を動かし。

今回の出場者の取り巻き、或いは野次馬を見据え口を開く。

 

「――喧しんだよ、余所でやれ。」

 

ドスの効いた低くよく通る声でそう脅したリクの言葉がロビーに通り、取りまきたちが慌ててその場を去っていく中で幾つかの視線を逆に集める事になるがそれで満足したのか彼はソファに座り直し向き直った。

そして交差した自分とシノンの視線にバツを悪くしたのか顔を背けると呆けた顔でリクを見ていたキリトに口を開く。

 

「どうかしたか?」

 

「い、いや別に。」

 

「……そうか、んで。二人してまたどうしたんだ? ニュービーのキリトにまたシノンがレクチャー中か?」

 

「そんな所だけど、まだ聞きたいことがあるらしいわ。私にもアンタにも。」

 

気さくにそう言葉を紡ぎ、穏やかな雰囲気を取り戻しシノンの言葉にリクは小首を傾げるとキリトは口を開き参加者一覧を呼び出す。

 

「変な事を聞くようだけど……。今回のBOB出場者の中で二人が初めて見る名前を教えてほしい。」

 

差し出された一覧表とキリトの言葉に眉を潜めたリクは静かに一覧表の名前を流し見て行く。隣でシノンが何のことだと理由を聞いていたがこの際関係ない。

見知った名前を幾つか確認してその中で『pale rider』を見つけるとリクは安堵の溜息を吐いて、視線を上げる。

 

「私が今回知っている限りだと、目の前のハンドガンキラー様と隣の女装光剣使いを除いて二人。」

 

「おいこら」

 

「二人!? 誰と誰だ!?」

 

「お前はそれで良いのか」

 

「『pale rider(ペイルライダー)』と…『sterben(『スティーブン』)』? この二人ね。それで、どういった理由?」

 

一瞬顔を俯かせたキリトはやがて重い口を開き言葉を紡いでいく。

曰く、

 

過去に自分がプレイしていたVRMMORPGで自分はその二人のどちらかに出会っている。

 

それは友人としてではなく敵として、『本物の命』を賭けて殺し合う戦いの中で。

 

しかし自分はその相手の当時の名前を覚えていない。

 

長い時間の中で自分はその事を忘れていた、忘れてはいけない罪を背負わなければいけない。

 

だから自分はこの場に立っている。負うべき責任を果たす為に逃げないために。

 

ソレが彼の理由であり、言い分だった。

その理由と言葉を聞いたリクは天井を見上げていた顔を、正面に向けるとただただ無表情にキリトを見つめている。

 

「腹は決まったみたいだな。」

 

「あぁ…。」

 

やがてニヤリと微笑んだリクはそう言葉にしてキリトに伝えると、帰ってきた返事に満足気に頷いた。

ゆっくりと視線を中央のモニターに向けた彼は立ち上がり、お先に、と一言告げて一人待機部屋へと足を運び始めた。

 

ブーツと床でコツコツと音を立てながら何も感じずに足を進めていると、不意に視線を感じて顔だけ横に向けると遠巻きに石柱の寄りかかってこちらに顔を向けているペイルライダーを見つける。

バイザー越しなので視線がこちらを向いているのか定かではないが、片腕を上げて挨拶の意を示すと小さく相手も片腕を上げたので彼もリクを見ていたのだろう。

 

心なしか足取りが軽くなったリクは不意に立ち止まる、否、立ち止まらせられた。

コートを誰かに引っ張られる感覚に振り向くとそこにはキリトの姿。流石の彼でも首を傾げて疑問の声を上げると彼は人影の少ない物陰へと彼を誘う。

 

断わる理由もないので着いていった彼に辺りを気にしながらキリトが告げるのは警告の言葉だった。

 

「…唐突なんだが、リク。アンタには今回のBOBを降りてほしい。」

 

「…突拍子もないな。理由を話せ、まずはそれからだ。」

 

誰が理由もなく大会を降りるものかと内心で思う彼は、キリトの真剣な表情に真面目に反応を返した。

 

「アンタは『死銃』を知っているか? GGO内で本当に相手を殺す事が出来ると言われているプレイヤーを。」

 

「…まぁ、噂としてだがな。…その顔はソイツが本当にBOBに参加していて危ないからだ。とでも言いたげだな?」

 

「…そうだ。さっきの話の敵だったプレイヤーがもしかしたら『死銃』かもしれない。だから――」

 

「『危険だから俺が責任もって倒す』とでも? 悪いが現実で交流も無いプレイヤーの言葉を信じれるほど俺達GGOプレイヤーはお人よしじゃないぜ?」

 

「ッ!! 嘘なんか吐くもんか!! アンタは平気なのか!? 少しの油断で死んでしまうそんな恐怖を、残酷さを!! あんな事はもう二度と起きちゃいけないんだ!!」

 

堰を切ったように感情的に声を荒げたキリトにリクは無表情から打って変わり、ニヒルな笑みを浮かべて口を開く。

 

「おいおい。落ち着けよ。キリト、いや―――『双剣使いキリト』の方がお前も分かるよな?」

 

「ッ!? はっ? おい…ちょっと待って…何で…え?」

 

「そう驚くなよ。別に俺はラフィンコフィンみたいなゴミじゃない。一か月ぶりじゃないかキリト、アスナ置いてきぼりでナンパとか肝が据わってんな?」

 

「ラフィンコフィンに、アスナのことまで…ん…? りく? …おい、まさか、お前…!?」

 

「結婚してゆいちゃんっていう子供まで居るのに浮気はないわー。アスナに報告していいか? ついでにGGOに今、観戦に来てる…って言うか後ろにいるアイツ等三人にも」

 

「リクかあああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

態々物陰に隠れて誰にも目立たないように配慮していたのにも関わらず、会場中に響き渡る叫び声を出すキリト。

目の前にいるリクも思わず両の手で耳を塞ぎながら耐え忍び、キリトの心からの叫びを黙って聞いている。

が、ここでキリトが我に返り。

 

「ってちょっと待て、後ろにいるアイツ等三人って…」

 

そう、先ほどのリクの言葉を漸く飲み込んだキリトが、まるで狙撃手のレンズフレアを血眼になって探すかの如く後方を確認すると。

 

 

 

 

『…やぁ』

 

そこには、会場の入り口ギリギリで顔を覗かせている、三人組。

 

 

「…」

 

 

いやがった。

 

「またお前らかぁあああああああああああああああああああああ!?」




この勢いのままGGO編完結までGO‼

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