ソードアート・オンライン−−ギルド名『草生えるw』 作:tfride
等価交換で家が無くなった
今ホームレス2か月目です
普通に元気です
それなりに時間も経ち、和人たちSAOサバイバー同士のオフ会…という名の和人SAOクリアおめでとう会も残り数日となった頃。
和人、明日奈、直葉は、夜も更け21時となっているにもかかわらず、ダイシーカフェの目の前に来ていた。
夜中だというのに店内は明かりに満ちており、ドアには『本日貸し切り』と看板がかかっていた。
「あいつらはオフ会にも二次会にも参加しないらしいから、会いたいんだったら今日しかないぞ」
とエギルに言われた言葉を思い出して、和人は後に控えている直葉に向き直り。
「えーっと、一度あっちで会っているから分かっているとは思うけど…言い方を悪く言えば変人達だから気を付けてな?」
「流石にウサギさんはバグってたりしないわよね…?」
「だとしたら人類じゃない」
和人の突っ込みに対して、明日奈はキバオウ達の目の前で起こったゲッダン無双の光景を思い出したのか口元を抑え青ざめている。所謂ゲロインの予兆。
三人がそれぞれ覚悟を決め、確認するかのようにお互い視線を合わせる。
「い、いくぞ」
『…うん』
女性二名が乗り気じゃないのはこの際だと意を決して扉を開く和人。
あぁ、一体どんな悲惨な光景が待っているのだろうか。なんだったらこの際エギルの心配をした方がいいんじゃないだろうか。
そんな刹那に見る走馬灯を幻視しながら開け放たれた扉。
…が、目の前の光景はそれに相反した。
「いらっしゃい」
いつもの調子で若干の力強さを感じる声の主、エギル…もとい本名アンドリュー。
「んぁ?」
カウンターに座り大人しくブランデーとパイプ煙草を嗜む忍。
「ありゃ」
店内に置かれているダーツ盤に向けて狙いを定めている途中だった、大人しい陸人。
飲み物はコーラ。
「あ、久しぶり」
『いつも通り』大人しくダーツ観戦をしながらハイボールを飲んでいる木郎(7杯目)
「…! よっ!」
「え、だれ?」
「ぅん゛なぅ!」
三人に気づいて調子よく挨拶するダーツ中の兎人。(ビール)
初対面で状況を理解していない兎人の嫁、美嘉。(テキーララッパ飲み)
夜中だというのに元気にイモけんぴをしゃぶり回している一歳児、樹輝。(いもけんぴ&麦茶)
『…』
状況を理解できずに一旦ドアを閉めた和人。
そして三人ともお互い視線を合わせ。
『…………誰?』
と、声をそろえてお互い確認する。
そう、彼らが知っているいつものメンバーなら。どんちゃん騒ぎのバカ騒ぎで、なんだったらエギルの死体の一つや二つ転がっていてもおかしくはないはずだ。
忍に至っては何のんきに煙草吸ってんだと言いたくなっている和人。
「お前ら流石にそれは失礼だぞ」
言いたいことは何となくわかるが…と顔に出ているエギルが店のドアを開け。
『す、すみません』
三人は深く頭を下げた。
エギルには既に聞いていたが、今日はギルド草生えるwのオフ会のようなものであるらしく、SAO商店の面々を集めた場合、地方に住んでいる者の事を加味し、なおかつ全員集まったら最早オフ会ではなくイベントになってしまうため断念。
和人たちが来ることに関しては四人+二人は『なんでもいいんじゃね?』との事だったらしい。
「んじゃま、自己紹介も兼ねてこんばんは。SAOクリアおめでとさん和人。草のリーダー笹原忍だよ」
そう音頭を取った忍は未成年の手前、パイプ煙草の吸い口を抑えて喫煙を止めて、和人、明日奈、直葉の順で握手を交わした。
っと、直葉との握手の際に小さく「…へー」と言ったのは謎。
「……あたし、手べたついてたりしないよね」
と不安になる直葉を置き去りにするかのように、ダーツの手番交代で暇になった陸人が前に出る。
「おめでとう和人、雨川陸人だ」
そう単的に済ませる陸人は、手番が回ってきてさも当然の如く三本ともど真ん中(ブルズアイ)に当てて兎人にどや顔。当の本人はメチャクソ悔しそうである。
すると今度は木郎の番。
「SAOクリアおめでとう和人君、お疲れ様明日奈ちゃん。それと…こっちじゃ初めましてだね、和人君の妹さんの、直葉ちゃんだっけ」
「あっはい。はじめまして」
あぁ、なんという真面目で丁寧な挨拶なんでしょう。おかげでキャラづくりに困っている作者に謝れ。
「んな事言われてもな」
「木郎、お前どこに向かってしゃべってんだ」
忍の突っ込みはさて置き。的にすら当たらない兎人は落ち込みながらも和人たちの前に出て。
「うぅ…クリアおめでとう和人」
「全然思ってないだろあんた。ダーツのセンスなさすぎだろ」
落ち込んでいる兎人をそのままに、流れで兎人の家族紹介がはじまった。
「こっちは嫁さんの美穂」
「初めまして、話は兎人から聞いてるよ。お疲れ様三人とも!」
テーブルにテキーラのボトルを置いて気さくに話しかける美穂。
握手をしながらありがとうと返す和人達は、それ以前に気になるテキーララッパ飲みという荒業を前にたじろぐばかり。
と、いもけんぴを振り回す一歳児に目線を合わせるようにしゃがむ直葉。
「可愛いぃ~…初めまして、あたし直葉。お名前は?」
と目の前の小動物を愛でるかのようにニコニコと直葉が話しかけると、隣に座っている美嘉が。
「赤嶺樹輝ですって言えるかな?…まだ一歳なのよ」
「樹輝君、こんばんは」
「あんば!」
という何とも微笑ましい光景に…。
「蛙の子は蛙って言うじゃん?」
「言うな」
「ウサギの子は?」
「ウサギ」
「だよね~」
「どういう意味だコラ」
「いや、まだ一歳なんだからこれからだろ。やめてくれよ」
「いやいや和人君。見てみな」
「可愛い…ほっぺたぷにぷに~」
「おんどゅるるらぎったんでしゅか」
「な?」
「あぁ、ごめん。」
「おいどういう意味だコラ」
着々と父の背中をなぞる様に変態の道を突き進みつつある一歳児の現実を見た面々。
それぞれがSAOの話、少しばかりのリアルの話で花を咲かせ…途中赤嶺家全員がノリノリで歴代仮面ライダーの変身ポーズをするという珍現象が起こったモノの…再び陸人と兎人のダーツバトルが始まったころ。和人に話しかけてきたのは忍だった。
「んで?楽しいお喋りをしに来たってわけじゃないし、なんか言うことあったんだろ?須郷の件で文句でもいいに来たか?」
そんな出だしに少し顔を強張らせる和人に対して、返しを口に出したのは明日奈だった。
「二人で話し合ってみました…でも、私に対して…三百人の犠牲者に対して本当に貴方が司法の枠を超えて私刑に近い形とはいえ償わせる事が出来るのであれば、私は貴方に任せます」
明日奈がそう思ったのは、何よりもまだ犠牲者の中に実験中の記憶がなく、全員社会復帰可能という点が大きかったのであろう。
一人の罪をまるで揉み消すかのようには思えるものの、これから須郷には地獄のような日々が待っているかと思えば、ケースバイケースなのだろうか。
「まぁそこらへんは安心しとけよ、あいつがどれだけ反骨心燃やして盾突こうが無駄だから」
「あたしは正直あなた達の事を知らないから、どうしても信用できないけど…」
と、若干の不安を口にして、どうなの?と視線を和人や明日奈に向ける直葉。
その言葉に対して頭をガリガリと掻きながら直葉に向き直る忍。
「まぁ、剣道長いことやってるくせして練習のし過ぎなのか左足にガタがきてる中坊の嬢ちゃんには直ぐに信用しろってのは難しい話だよな?」
「…え?」
その言葉に心臓を鷲掴みにされた気分の直葉。
もちろん剣道をやっていた事は、直葉本人からは言っていない上、左腿の筋肉痛に至っては誰にもまだ言ってはいないほどに軽度のものだ。
和人や明日奈はまたか…と言わんばかりの表情であるが、後ろから木郎の声がかかる。
「忍、あんまりひけらかさない方がいいんじゃない?」
「俺そういう仕事してるし」
「今仕事中じゃないでしょ」
「まぁそう言うなって」
「……なんで分かったんですか?」
「剣道は握手した時に特徴的な古い肉刺の跡で、筋肉痛は歩くときに左右のバランスが少し悪かったから。剣道やってるなら体幹もばっちりで背筋ぴーんのハズなのに偏ってるのは緊張してるか体のどこか悪いから。でも緊張は談笑しているときに抜けたはずなのにまだ悪い。つまり足腰やってる。持病の可能性もあるけど椅子を要求せず左に体重をかけたまま軸にして左を動かさないようにしているのは腰じゃなくて足が悪い、それも椅子に座らない程度に軽微に。だから筋肉痛だなって。若いんだからすぐ直るだろ」
息継ぎせずにそう言い切った忍は、吸い口を抑えた為完全に鎮火したパイプ内の葉っぱを掻き出し始める。
「……この人何者?」
「ひでーな」
「こういうやつなんだスグ」
「おいひでーな」
「人類悪」
「だいたいこいつのせい」
「おのれ忍ぜってぇ許さねぇだが無意味だ」
「色々混じってるわよ兎人」
「おいおいひっでーなオッサン泣くぞ」
そんな光景を眺める直葉。
兎人がふざけて。
陸人が殴り。
忍がボケて。
木郎が突っ込む。
それに和人が呆れ、叫び、止めに入り。
そしてぽかんとする明日奈
全員がバラバラ。
オフ会とするには余りにも無茶苦茶。
しかし、全員が笑っている。
数日後に迫るオフ会が、『お世話になった人への感謝を込めた会』
であるならば。
正にこれは『楽しいオフ会』だ。
そこには、普段お爺ちゃんみたいな落ち着いた対応の和人と違い、まるで同級生と馬鹿笑いしているかのように、楽しそう。
デスゲームという名の箱に二年間閉じ込められたとは思えないほどのお気楽さ。
これが強さなのだろうか。
後日和人にそう問いかけるも、直葉のその疑問はあっさり否定された。
何故か。
それは、皆ならもう分かるだろう?
■
夜空に突如として現れた巨大な浮島。
新生アインクラッドを背景に四人は集まっていた。
飛行時間の解禁とともにアップデートされた新しくも懐かしい存在感を尻目に、四人はコンソールを開いて件のアイテムに指を掛けていた。
≪???≫を開封しますか?
その文字を前に四人全員がお互いを見やり、yesを選択する。
その瞬間現れるのは、一瞬の発光と共に飛び出した腰布だった。
空色に緑のW文字…。
それは正しく、リズベットに渡された『草生えるw』の四人全員が、ソードアートオンライン内で所持…常に巻いていた腰布だ。
それと同時に個人ログにてメッセージが表示された。
『新生アインクラッドを楽しみたまえ』
その文字を見た瞬間、ニンジャが、リクが、ウサギが、ローキが。
全員が腹を抱えて笑い出した。
どこまで茅場の掌の上なのだろうか。
ではない。
――自分の一番のファンであろう四人に対してのファンサービスの度合いにだ。
ようやく落ち着いた頃合いで、ウサギが口を開いた。
「ひひひひ…ニンジャ…してやられたね…」
「ふぅ…こりゃ隅から隅まで…骨しゃぶりつくしてカスも残らないほど遊び尽くしてやんないとな」
その言葉に賛同するかのように各々が一気に加速し始め、目の前の巨城に向かって行く。
『遊ぼうぜ』