ソードアート・オンライン−−ギルド名『草生えるw』 作:tfride
今のところほぼ毎日投稿している気がする。
長年放置してきたノートパソコンのファンが悲鳴を上げているせいで、その振動で両手が痺れる。
誰か安いのでいいからPC買って。
闇の中を一直線に突き進む塊が一つ。
視界が目まぐるしく変わる中、リクは思った。
「ごめんニンジャ…」
「んだよ、こちとら既に重量オーバーで過積載だからこれ以上荷物は受け付けられまっせーん!!」
「吐きそ――」
「しねぇえええええええええええ」
賑やかなのは良い事だ。
■
瀕死のニンジャと愉快な仲間たちは、無事ルグルー回廊を抜けキリト達と合流を果たした。
回廊を抜けるころにはソコソコの差をつけられていたものの、ニンジャたちのメッセージ爆撃により一時的に低速で飛行してもらい、なんとか合流するに至ったのだ。
そこでウサギの
「ま、タクシー代わりにはなったかな」
と、日ごろの恨みも兼ねた皮肉に対して物理的に返事をしたところから話は始まる。
「んで、そろそろ説明してもらってもいいかな」
切り出したのはローキだった。
実際四人は、リーファの提案を引き受けたはいいものの、肝心の内容については一切聞いてはいないのだから。
一度キリトと視線を合わせ、アイコンタクトにて事の説明を始めるリーファ。
「実は私の知り合いのレコンって子から…まぁリアルでも知り合いなんだけど…おかしな話を聞いてね」
「ほうほう」
まとめると。
レコンが目撃したのはシルフ陣営領主のシグルドとサラマンダーの数名が会合を行っているとの事だった。それも人の目のつかない地下水道にて。
明らか怪しい話し合いに耳を傾けていると、シルフ、ケットシー両陣営の会合襲撃の打ち合わせとの事だった。
この世界において他の種族との付き合い方も重要になっているが、その会合の襲撃となると事の重大は歴然。
「酷い話もあったもんだね」
「にしても襲撃されるだけでしょ?デスペナルティを受けるだけでちっとも…」
「ウサギよ、だからお前はヴァカなんだよ」
「んだと―」
「会合襲撃後にケットシーとサラマンダーが実は手を組んでたってデマを流せばどうなる?」
理由はそれだけではない。
シルフとサラマンダーが手を組んでいる。サラマンダーからの戦争宣言。
理由は無限大。結果は闘争。
最低でも三種族間での戦争となることは目に見えて明らかであった。
「ま、今の情報だけだとそれくらいしか思いつかないけど。あとはシグルドって奴の人間の出来次第かな」
あらかたそこまで予想したニンジャは、今度は打って変わってキリトに一言。
「んで? それを聞いてキリト君はどうやってことを収めるつもりなんだい?」
話を振られたキリトは、ニンジャに振り替えることもせずに一言呟いた。
「正直に言って、当たって砕けろとしか言えないな。状況によってやり方を変えるしかない」
「んま、概ね同意するよ…んじゃぁさ」
僅かながらのニンジャの沈黙の後、口を開くニンジャにキリト達は目が点になった。
■
空を切るキリトとリーファが見たのは、まさにケットシー、シルフ陣営に襲い掛かろうとするサラマンダーの軍勢であった。
「双方、剣を引け!!」
腹から出される声に、三陣営は手を止め、名乗らないスプリガンの方に目を向ける。
状況は想像していたより最悪だ。
最も想定の中で最善なのは、まだサラマンダーが到着せずに二陣営に先手で話をつける時間があればよかったのだが、それを嘆いても仕方がない。
最低でも剣は引かせた。問題はここからだ。
三陣営の運命は今、キリト一人の肩にかかっているといっても過言ではない。
「護衛もいないのにか」
目の前のサラマンダー…おそらく彼が大将であろう男に、そう投げかけられた。
さぁ、ここからがニンジャの筋書きだ。
「いいや、此処には数名の護衛を連れてきてはいる」
「その姿が見えないが、ハッタリは――」
「幻惑、最弱、お前たちがそう呼ぶにふさわしいスプリガンの在り方だとは思わないか? 数名の護衛は今周囲に待機させている」
その言葉にサラマンダー部隊は四方を確認し、見えない襲撃者…になるかもしれないスプリガンを探し始めた。
が、その騒めきもサラマンダー大将…ユージーンの手によって静まり返った。その統率力と威圧感には賞賛。
「確かに、そう呼ぶのは我々だ、なるほど」
僅かな沈黙の後、ユージーンの提案にキリトは乗ることになる。
「俺の攻撃に30秒堪え切れたら、お前を大使と認めてやる」
単純明快、正しく脳筋。
しかしながら実力と装備は一級品なのであろう。
初撃はキリトが貰う形となり、戦いの火ぶたは切って落とされることになる。
防御を透過する剣…魔剣グラムに圧倒され、奥の手だといわんばかりにキリトの煙幕魔法。
その瞬間が、草生えるwの仕事の時間だ。
■
「さぁ、お話開始だよ」
『王の話をするとしよう』
「一生しててね」
そう言い始めたローキの言葉と共に、キリトの煙幕魔法に合わせるように、ローキの煙幕が覆いかぶさる。
ユージーンからしてみれば、何度振り払っても視界の邪魔をする煙幕にさぞや青筋を立てている事だろう。
しかし、ローキの役目はこれで終わりではない。
その不自然な光沢を放つ眼…既に暗視魔法でサーモグラフィーの様な効果を得たローキの目は、パーティーメンバーのみではあるが、その姿をハッキリと映していた。
≪リク、そのまま直進。2m先に三名横並び≫
≪ウサギ、横2時、縦3時の方向3m先2名。そのすぐ後ろに1名≫
メッセージを送り指示を出すローキは頭の中に記憶した全200名近いサラマンダーの隊列をすべて頭に叩き込み、その隊列通りに指示を出していた。
「くそ…なんだこの煙は、いつになったら――」
「隊列を崩すな!!どこからくるかわから――」
静かに、一人ずつ。
誰にも認知されないように片付けていく。
そこで行動を起こしながら、三人はニンジャの言葉を思い出した。
一つ、キリトが同盟の大使だと名乗った場合、護衛の件を突っ込まれたら他の護衛は隠れていると伝える事。
スプリガンの特性上、正面切ってのタイマンよりは、絡めて合わせた不意打ちの方が性能上優位に立てるため、種族を考えればおかしくはない。そして護衛が潜んでいると思わせることによって、このように視界を奪って仕留めようとした場合。軍隊等集団になればなるほど、隊列を崩さないようにする傾向にあるためだ。そうすればローキの記憶力があれば全ての隊列を完全把握し指示を出すことは可能。
二つ、ウサギはケットシー、リクはサラマンダー。姿がバレた場合の対処が非常にめんどくさく、更にはキリトが話をつけた場合の邪魔になってしまうため、ローキはギリギリスプリガンの護衛として騙せなくもないが、他二人がネックになる。だからこその不意打ち作戦なのだ。
三つ。
「俺は一回ログアウトするから」
六人で会合に向かって空を飛んでる最中、そう切り出したのはニンジャだった。
その言葉にキリトとリーファは難色を示した。
「いや、なんでだよ。このまま全員で向かった方が…」
「いやー、多分だけど…このままサラマンダーの襲撃妨害に成功したらなーんか面白いことが起きそうだからさ」
「どのくらい?」
「シャイニングジャンプくらい」
「あっちでエビバディジャンプがアップしてるよ」
「お前らハイパージャンプに謝れ」
「おーるらいず!!」
「うるせぇええええええええええ」
閑話休題
「とりあえず…なおさらいた方が」
「んーこれも憶測だけど、今のままだとその面白いことを100%楽しめないと思うから、勉強してくる」
その言葉と共に、リクにアイコンタクトで合図を送り、それを受け取ったリクはニンジャの首根っこ掴んで斧を構える。
「いやいやいや!! 何してんだよ!!」
「いやだって、このままログアウトしてこの場所に抜け殻残すよりはねぇ?」
「お前たちデス出来るようになったからって命の扱い雑すぎないか?」
「SAN値は投げ捨てるもの」
「正気度の話はしてない」
「おーるらいず!!」
「お前はマジで黙ってて」
■
「ユージーン将軍だっけ?ビックリしたろうね。キリトには負けるし、蘇生されたと思ったら自分の部下たち全員デスしているし」
「一周回って只のホラーだよな」
「そして誰もいなくなった」
「それ実行するにはユージーンも抹殺しないといけないんだけど」
「つまり闇討ちか」
「がんばれウサギ」
「むりむりざえもん」
事の事情に納得し一人飛び立つユージーンに草むらの中から黄色いハンカチを振り見送る三人。
なんといっても一番の功労者はユージーンを叩き伏せた後、全滅した部隊を見て呆けている全員を、
「アンタと一戦交えてる間に、俺の護衛が片付けてくれたみたいだな」
って冷や汗掻きながらなんとか誤魔化したキリトであろう。
よくやったキリト。さあ次の仕事だ(ブラック企業)
ユージーンを見送った後、降り立つキリトに疑問を投げかけたのはケットシー領主、アリシャであった。
「ところで君は本当に大使なのかな?見たところ脅威は去ったのに君の護衛は出てきてくれすらしないけど…ほんとに大使?」
その質問に若干言葉を詰まらせるキリト。
「あはは…大使なのは完全な嘘っぱちだけど…」
と、タイミングよく空から当たり前の権利の如くウサギが降ってきた。
「うぉおおおおおスーパーヒーロー着地ぃいいいいいい」
なんて叫びながら。
凄まじい爆音と共にスーパーヒーロー着地を成功させるウサギは、しかし着地した後一切動かない。
というより、ケットシーがわけわかんない事叫びながら地面に向かって突っ込んできたことの方が、周りにとってはビックリ仰天であろうが。
「け、ケットシーが降ってきた…」
多分何より驚いたのは、自分と同じ所属が降ってきたことに驚いたアリシャであろう。
「リク…ローキぃ…痛い…動けない…」
「そのまま動くな、できれば一生」
と、遠巻きから煙に巻かれて気づかれなかったがリクとローキがウサギの後ろから姿を現した。
「っ! サラマンダー!」
そう身構えるのはシルフ領の領主サクヤだ。
その言葉と共に周りのプレイヤーも身構えるも、リーファやキリトが宥めて事なきを得た。
「―――つまり、こいつらはただ単に俺と協力してサラマンダー部隊を何とかしてくれた仲間なんだ。無下にはしないでくれ」
その言葉に一応の納得を見せたサクヤ。
「つまり君たちはレネゲイドなのかな?」
「レネゲイド(背教者)?」
その言葉に三人とも引っ掛かるが、リーファから補足が入った。
「レネゲイドっていうのはALOで本来、各々種族の領に帰属して成果を上げるのに対して、自分だけ、もしくは他種族と手を組んでゲームをしているプレイヤーの事よ。場合によっては追放って形もあるけど…」
「なぁローキ」
「なぁに?」
「お前って一度でもスプリガン領に入った?」
「一回も」
「だよな、俺もだ」
「俺は入ったよ、シルフ領に」
「ケットシーとしての帰省本能はどうした」
「俺らって人の事言えた義理じゃないよな」
「ニンジャもなんやかんやで一度もレプラコーン領に入ってないだろうな」
「続けていいかしら?」
一人抜けてもいつも通りである。
■
パソコンのモーター音と、レポート用紙に何かを書き込む音だけが部屋の中でこだまする。
口から白煙を吐き出しながら、指で挟んだ煙草を灰皿に揉み消すと、再び何かを凝視したままレポート用紙に書き込みを再開した。
最早何枚目か分からない紙に、何を書いているのか他人には訳の分からない順序、文字の汚さで書き綴っていくそれは、あくまで完全に記憶するまでの忍の脳の鍵に過ぎず、見ただけで忍にはとても順序良く書き綴られた整理されたノートになっていた。
「世界樹、九つの種族…スプリガン、シルフ、サラマンダー、ケットシー、ノーム、ウィンディーネ、インプ、レプラコーン、プーカ」
一度手を止め、新しい煙草に火をつけて一息入れ始める。
しかし頭はフル回転のまま、足りないピースを探し続ける。
「アルフ…アルフヘイム…アルフ王…たしかアイスランドの誰かが複写した写本の中に乗ってなかったけ? たしかヘイムスクリングラ…うん、関係ないな」
とそこで、そういえばとその前に書きなぐった紙の中から目当ての紙を探し出す。
「ALOの対空制限…そう、妖精王オベイロンとアルフに謁見してアルフに転生。オベイロンって名乗るってことはタイターニアもいるんじゃねぇかな」
忍の中で何かが繋がりかける感覚を覚えた。
「世界樹の上に本当にアスナが居ると仮定して…たしかオベイロンはタイターニアと喧嘩して惚れ薬を使って何とかしようとしてたな…そう、ウィリアム・シェイクスピアの話だ」
そこまできて忍の携帯着信音。
相手は木郎だった。
「はい、こちら面倒くさい仕事任せられがち部やってられる課です」
≪それ俺らじゃね?≫
「はいはい笹原忍の携帯電話ですよっと」
≪一応言っておこうと思って、レネゲイドにされたシグルドって男の話≫
「お、流石木郎。俺が知りたい情報そのまんま持ってきてくれたね」
≪シグルドはパワータイプ思考で権力大好き。能力値よりもプレイヤーの権力の方が優先らしい≫
「サラマンダーの誰かに唆されたって口か、大方次のアップデートでくる転生システムの下りでだろうけどな」
≪シルフ領のサクヤって人も同じこと言ってたよ≫
「だろうな、そこまで予想立ててからじゃないと追放なんて選ばないだろ」
≪――一応聞いておくけど、どこまでがお前のシナリオ?≫
「全部だよ」
■
「ただい…ま」
現実から再びALOに戻ってきたローキが最初に目撃したのは、シルフの領主から腕を絡めとられて色仕掛けされているキリトの姿であった。
そして。
「きみがあのサラマンダー達をやっつけてくれたんでしょ? どうかなぁ~、ケットシー領に戻ってきてくれたり…」
「いや、俺初心者何でよく分かんな――」
「初心者なの!? だったらなおさら追放処置もされてないことだし、こっちにおいでよ~」
っと、後から抱き着かれながら両耳を絡めとられ全力で色仕掛けされているウサギの姿が。
「スクショしました」
「やめてっ!」
そのままリーファの半自爆行為があったものの、サクヤとアリシャに目玉が飛び出るくらいの金額を提示して協力を仰ぐキリトとか、そのほか色んなイベントがあったが、事なきを得て飛び立つキリト達。
が、何か引っかかるのかキリトが話しかけてきた。
「なぁニンジャって今何してるんだ?」
「就活、新しく『面倒くさい仕事任せられがち部やってられる課』に就職」
「なんだそのブラック企業マシマシな職場は」
「ペンギンとパンダが居そう。あとシャチも」
「やめろ」
「簡単に言えばシグルドを仲間にしようとしているよ」
「えぇ!?」
先ほどキリトの前でシルフ領から追放されたプレイヤーの名前が出てきたこと。
そしてその人物をニンジャが欲しがっていると聞いて驚きのあまりリーファやキリトの羽がふらついた。
「いや、おかしいだろ。なんでまた――」
「しらね、ニンジャに聞いてくれ。俺たちは面白そうだからついて来ているだけだし」
と、その言葉にリーファはさらに疑問が増えたのか質問を続ける。
「ねぇ、そのニンジャって人のは、ここまでどのくらい予想してたの?」
「同じ質問を投げかけたら『全部』って言われたよ」
「そんな適当な…」
「無理だと思ってんのか?」
と、草生えるwの三人がゆっくりと減速してその場に制止した。
その行動に何か背筋が凍るような思いで二人も制止する。
「だって、あの洞窟の中からここまでって…それこそ未来が見えたりしないと――」
「違う」
リーファのその疑問に今度はローキが答える。
「もっと前…キリトがリーファと出会ってグランドクエストを目指す辺りからここまでだよ」
多少の修正…サラマンダーの会合襲撃とかをのぞいたらね。と付け加えるも、そんなの無理だとリーファは主張する。
「なんで?」
今度はウサギの純粋な質問返しだ。
「なんでって…そんなの一般人ができる事じゃ――」
「できるよ」
間を置かず、被せる様に言い放つウサギに、リクも、ローキも同調する。
『俺たちのギルドマスターだぞ。それくらい出来て当たり前だろ』
信頼なのか。
最早脅迫なのか。
これが俺たちのギルマスだと自慢するかのように。
三人は。
そして現実で煙草を咥えながらパソコンの画面を睨み付ける忍も。
ニヒルな笑みを浮かべていた。
「とりあえずスクショは保存しておくね」
「消してくれぇえええええええ」
ニンジャくらい頭良くなりたい