ソードアート・オンライン−−ギルド名『草生えるw』   作:tfride

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作者は自分だけの世界を展開していくもので、読者はそれに共感してくれる者たちの事である。
そして私の作品に出てくるウサギにある種の好感を持ってくれている読者は多い。

つまり何が言いたいかというと。

ウサギを放し飼いにしたらトンデモナイ事になったけど、これは読者と私が望んだこと。

つまり私含めみんなが悪い。











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Ⅱ 第1話『赤嶺兎人―Usagi』


狭い2LDKの空間に、小さく目覚まし時計の音が鳴り響いた。

 

その音に安眠を妨害され徐に目を開けると、すぐ様意識が目覚めその手を時計のスイッチに伸ばす。

敷き詰められた敷布団から体をゆっくり…音を立てないように抜かすと、そそくさと作業着に着替える。

今日は週に一度の出勤日。

デスゲームから帰還し、数ヶ月経った後。

リハビリと更生施設…現実での空白の二年間を埋めるための国の学習施設に通い、ようやく仕事に復帰する機会を得た彼は、自身の隣に寝ている最愛の家族のために気合いを入れる。

そんな彼が、役得だと家族の寝顔を覗き見ると、布団から顔を出していたソレと目があった。

 

「ひょっ!」

 

そんな奇声を上げ肩をビクつかせると彼とは裏腹に、ノソノソと布団から這いずり出て来た女性…ショートチックの黒髪にタレ目のおっとりとした…自身の妻に頭突きを喰らわされる。

 

「樹照が起きたらどうするつもり。殺すぞ」

 

「す、すんません美嘉さん…」

 

そう言いながら布団で未だぐっすりと眠る赤子…今年2歳になる息子、樹照を女神のように優しく慈愛ある手つきで撫でながら、男に殺意をねじ込む妻、美嘉。

 

 

痛む頭をさすりながら、そんな2人を見つめる彼…赤嶺兎人は、早朝の心温まる時間を感じながら笑った。

 

 

 

 

 

「お前まだリハビリ終わんないの?」

 

「終わんねぇんだよ、クソが」

 

「いつ終わんだよ」

 

「俺が聞きてぇよクソ野郎」

「誰がクソ野郎だ」

 

都内の病院。

個別入院室でとある3人が、ベッドに横たわる中年を囲んで虐めている。

二年間のVR生活で伸びきった髪をざっくばらんに切ったであろう、寝癖だらけの黒髪を掻きむしりながら、やつれ老け込んだ顔を三人に向けると手持ちの携帯ゲーム機に視線を下ろす。

まるで虐められている本人はどこ吹く風と言わんばかりに水蒸気しか出ない電子タバコをこれでもかと吹かしながら時折咳き込み、2年前に発売された、狩り人が化け物を村の為に狩るゲームで、只管同じ化け物を倒す依頼を繰り返している。

 

「あー、まじ球でねぇ」

 

「物欲センサー働いてんな、日頃の行いじゃね」

 

「ソレで変わるんなら今頃終わってるよ。運だよ運。コレはソレが悪い」

 

「コレとか言うなよ」

 

「デバックしようか?」

 

「止めろデシンクする」

 

 

「はーい笹原さーん、採血の時間ですよー」

 

そんなクダラナイ話をへし折るが如く、看護師が個室の扉を開いた。

やってきた採血の時間に、やつれた中年…笹原忍は非常に嫌そうな顔を向けながら。

 

 

「なぁ看護師さん、俺いつになったらリハビリ終わるの?」

 

「それは担当の先生に聞かないと…」

 

「俺の血」

 

「へ?」

 

「俺の血を取って何する気?」

 

「いや検査するんですけど…」

 

「その血をボトルに詰めて変身する気だな」

 

「な、なんだってー」

 

「だとしたらどんなボトルになるかな?」

 

「中年」

 

「弱そう」

 

「つまりはこの看護師が黒幕か」

 

「ならお前はデバック星の王子だな」

 

「ヤベェーい」

 

「スゲェーい」

 

「いい加減にしないと大動脈からとりますよ」

 

「そこは命を司っているんですが」

 

『こえーい』

 

 

看護師から発せられる覇気(言語)により大人しく採血をされる忍。

しおらしくなった忍に一切の同情を感じさせない…というよりどうでも良いと思っている三人は話を続ける。

 

「んでVR業界はどうよ木郎」

 

話を切り出したのは兎人。その彼の視線の先には、綺麗に洗濯されたスーツ姿に天然パーマが目立つ成人男性…ウサギとはまた違った幼さを僅かに持った顔立ちの男。

その言葉に一度渋い相槌を打ち、彼…諏訪木郎が続ける。

 

「流石にSAOが尾を引いてるのか衰退の方向だね。今でこそ新しいVRゲームが出てきているけど、それも何時まで持つかなぁ…」

 

「でもネットで結構な人気を誇っているらしいぜ?それこそ総人口はSAOをとっくに凌いでそうだし」

 

投げ出されたゲーム機を手に取りながら語るのは大柄の男性…。

身長180cm以上の長身に、鍛え上げられた体。その上から学生服を身に着けた…雨川陸人が答えた。

 

「え、なにそれ聞いてない」

 

「ハイ終わりでーす」

 

「こうやって俺は窶れていくんだ」

 

「もともと窶れているんだから同じだろ」

 

用事が終わったらとっとと退散と言わんばかりに看護師が部屋を後にする。

正確には多くの看護師の頭痛の種となっているこの四人に付き合いたくないというのが本音であるが。

 

ふと時間を見ればもうすぐ面会時間が過ぎてしまう頃。

リュックサックを肩にかける陸人に他の二人も続いて帰り支度を始めた。

 

「んじゃ俺達帰るから」

 

「おう、帰り道デバックすんなよ兎人」

 

「ワンチャン」

 

「ノーチャン」

 

そう言って出口へと進む三人…の内一人、兎人が一旦足を止め忍に振り返る。

 

「そういえばALOどうする? 評価を見るに面白そうだけど」

 

「医者説得して後2,3日で退院できるようにするから、先にログインしててくれ」

 

「金に物言わすのか」

 

「お金ニギニギ大作戦」

 

「黙って帰れ」

 

 

 

 

 

こうして、この四人の好奇心により、

 

 

また桐ケ谷和人の胃にダメージを与える要因が生まれるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ、ふふふ…買ってしまった」

 

まるで不審者の如く周りをキョロキョロしながら帰路についている兎人。

その手には大手ゲーム販売店『GERO』のレジ袋。中身はもちろんVRゲームのアルヴヘイム・オンライン。

むしろ初めて18禁雑誌を買った成人なり立ての青年の如く挙動不審になりながら家の前に到着すると、震える手でポケットから鍵を取り出す。

しかしあまりの興奮と緊張からか、鍵を取りこぼし地面に落下。

甲高い金属とコンクリートがぶつかる音を奏で、急いで鍵を取り上げ鍵穴に差し込む――

――より早く鍵の開錠音。

 

勝手に開く扉の向こうには、自身の婚約相手である美嘉が立っていた。

 

 

「お帰り兎人」

 

何の屈託もなくそう告げられ、裏返った声で答える兎人。

そんな兎人の不自然な…いつも挙動不審のような言動であるが…行動に、美嘉の視線は兎人の持つビニール袋へ。

その膨らみと『GERO』のロゴからまた新しく変身アイテムでも買ったのかと、もはや洗礼された手つきで取り上げる。

 

「またあんたこんなもの買って」

 

「あ、ちょ!!」

 

「今度は何? 光の巨人の変身アイテム? それともボトルかガシャット?」

 

そう言いながら取り出すと、覗いたカセットとアミュスフィア本体に美嘉の表情は僅かに曇った。

表情に気づかない兎人は乾いた笑いを上げるとそっと手を伸ばす。

 

「ご、ごめんって。自分の小遣いの範囲で買ったからゆるして…」

 

言い訳がましい兎人の言葉と共に伸ばされる手に、無意識に後ずさる美嘉。

空を切るその手に、一瞬状況が呑み込めない兎人は、頬を伝う自分の嫁の涙に度肝を抜かれた。

 

「え…あの…美嘉?」

 

一歩一歩と部屋の奥に後退していく美嘉。

弱々しく開かれる口。

それは嘆きの言葉であった。

 

 

「いやよ…」

 

 

 

 

二年前に自身の夫をネット世界に囚われ、ようやく帰ってきたと安堵した最中に、VRゲームを買ってきた兎人。

それはあまりにも無責任な対応なのだろうか。

 

「やっと…やっと帰ってきたのよ……」

 

それとも再び自分の夫をゲーム内に囚われてしまうかもしれないという、美嘉の被害妄想なのだろうか。

 

否。

 

美嘉は兎人がゲームに…遊戯に死力を尽くす理由を知っている。

結婚する前から知っている。

その原因から救ったゲームという存在と、その世界に招き入れた友人三人も知っている。

自身の夫を救った三人を知っている。

 

だが、孤独に苛まれた彼女の二年間がそれを飲み込むことを許さない。

 

 

「もう待つのはいや…」

 

震える美嘉の手に、そっと覆うように兎人の手が被さる。

咄嗟に引っ込めそうになるも、それよりも先に力強く兎人が引き留める。

 

「ごめんね…でももう大丈夫」

 

そう言いながら彼女の目線と同じになるようにしゃがみ込む兎人。

自身の事を二年間待ち続けた嫁に対して、確かに無責任な行動をしたのだろう。

 

 

 

 

―――病院に駆け付けた美嘉に対して、食パンを両手に抱えてリスの如く頬を膨らませ出迎えた兎人は、確かに無責任だっただろう。

余談ではあるが、その光景に入院中に遊びに来た他三人にぶち転がされた兎人は有罪。極刑に処された。

 

 

 

 

 

「俺はもう勝手に居なくなったりしない、約束する」

 

「……本当に?」

 

相変わらずアミュスフィアの箱を抱えたままの美嘉は、視線だけを兎人に向ける。

 

 

「本当に居なくなったりしない?」

 

「絶対に」

 

満面の笑みでそう答える兎人。

少しづつ両の手から力が抜けていく美嘉。

続けて一言。

 

「なんだったら今度は美嘉も一緒にやろうよ」

 

 

 

っと、今度は両の手が先よりも力強く箱を挟み込む。

更には目つきも更に強張ってこう言った。

 

 

 

「私FPS酔い激しいから無理」

 

 

「……え、そこ?」

 

 

 

 

嫁の少しずれた発言に思わず声が出る。

そしてそのままアミュスフィアを奪われ押し入れに突っ込まれる。

 

「没収」

 

「あああああああんまりだぁああああああああああ」

 

その後兎人の必死の説得により何とかアミュスフィアを取り返した兎人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

≪ようこそ、アルヴヘイムへ≫

 

 

「俺が全面的に悪いのは認める…でも説得に五時間かかるってどうよ」

 

VR空間越しでもわかるほどゲッソリとした兎人……ウサギは、翌日早々にゲームを開始した。

致し方ないと気持ちを割り切り、目の前の表示に意識を向けた。

 

 

ALOはSAOと違って、種族同士の抗争がメインとなっているゲームだ。

新たに魔法というシステムが追加され、種族によって特異な魔法も異なってくる。

そんな中ウサギが選んだのは…。

 

「めんどくさいから適当でいいよねー」

 

そう言いながらルーレットの如くオブジェクトを連打し始めたウサギ。

高橋名人もびっくりの連射で選ばれたのはケットシー。

 

何の説明も読まずに決定ボタンを押したウサギは次に大空へとその身を投げ出される。

恐らくチュートリアルの一環なのだろうか。なんの操作も効かない滑空の中、ウサギはその滑空に何かを見出した。

 

「これ絶対空中に登録された移動ルーチンに従って飛んでるだけだよね。体は自由に動くし抜け出せるんじゃね」

 

そう言いだしたが最後、前方に両手をクロスさせて見えない何かに両腕をねじ込むと、移動ルーチンと空間の隙間に体が潜り込んでいく。

 

 

 

ガガガガガガガと何もない空間から音を立てて荒ぶっていくウサギ。

その荒ぶりの波はついに全身に到達し、もはや人間としての原型を放棄したウサギの体というオブジェクトがネジ歪み膨れていくという、人類の言語では表現不可能な形態に進化する。最早退化と言って良いかもしれない。

無から生み出される凄まじい運動エネルギーがついに崩壊し、ウサギをその場から吹き飛ばした。

 

「んほおおおおおおおおおおおおおお」

 

ノンケが聞けば、そっと耳を塞ぐであろう汚い叫びを上げながら吹き飛んでいく。

 

「このバグしゅごいのぉおおおおおおおおおおお」

 

汚い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃 現実では………

 

 

「あいだだだだだ!!」

 

「笹原さん、まだ入院中ですよ!! 何処から車椅子持ってきたんですか!?」

 

「やっかましい!! 俺はやるぞ、俺は風になるんだやるぞ俺はお前、やるぞ!!」

 

「先生!!患者さんが急変(?)です!!」

 

「筋弛緩剤もってこい」

 

「馬鹿野郎お前ら殺す気か!?」

 

「むしろ死ね」

 

「おい誰だ今のセリフ! 声覚えたかんな!!」

 

 

 

圧倒的修羅場。

 

 

 

 

そしてALOの首都では

 

 

 

 

「遅いねぇ…」

 

「……おせぇ」

 

「因みに、リクは何でサラマンダー?」

 

「…別に、火力必要だからな。でもこの角邪魔。むしろローキは何でスプリガン?」

 

「ンー?  なんとなく?」

 

「出たよ」

 

 

 

 

そして現状。

 

 

 

「あばばばばばばばばばばばばばばば」

 

前後上下左右にしっちゃかめっちゃか動きながら軟体生物の如く捻りきった状態で、ウサギはシルフ領の森の中に突撃していく。

日も落ちた夜空の中、流星の如き速度で突っ込むウサギに人身事故を起こした、とあるスプリガンに喧嘩を売ったサラマンダーに合掌。

 

 

 

 

 

 

 

凄まじい轟音と共に目の前にいるサラマンダーの一人が吹っ飛んだ。

それと同時にキリトの後方で何かがはじける音が聞こえる。

即ちそれは、キリトですら反応できない速度で移動できるプレイヤーであることを示唆している。

サラマンダーに攻撃を仕掛けたところを見るに、恐らく相手の援軍ではないことは明らか。

しかし、この状況が三竦みになる可能性を考えると、事態は悪化したと捉えるのが堅実である。

だからこそ最大の警戒をもって土煙の上がる地面から出てくるであろう相手を、剣の柄を一度強く握りしめて見つめる。

 

 

「……お、おぉ…なんじゃこら」

 

そんな声が煙の中から聞こえ、土煙から出てきた顔にシルフの女性は即座に反応した。

 

「その姿はケットシー……ね……」

 

と、それ以上彼女の言葉は続かなかった。

それどころか、キリトもサラマンダーも思わず絶句した。

土煙から姿を現したケットシー…、その胴体から。

 

 

本人の右腕が自然の法則を無視して飛び出していたのだから。

 

「あちゃー、オブジェクトが絡まって抜けないや。デスポーンするしかないかなぁ」

 

 

 

 

 

『ぎゃぁあああああああああああ』

 

 

その日の夜、アルヴヘイムの空に悲鳴が上がった。




好き放題にさせた結果がこれだよ。

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