お前はまだきあいパンチを知らない   作:C-WEED

26 / 27
おそくなりました
ゆるして


前回のあらすじ

ロイヤルマスク「ロイヤルロイヤル!!」

おまわりさん「きあいパンチ警察だ!!」

そんなかんじ


24

 □月☆日 晴れ

 

 間違えたと気付いた時には、すでにぶつかり合っていた。

 生身で守護神に突っ込むとか、正気か俺は。

 

 ……よくあることだった。

 

 つい、昂って飛び出してしまった。シンオウに限らず、どこ行ったって凄そうな奴を見ると飛び出してしまう。俺は野生のポケモンかってんだ。

 

 まあ、それはそれとして。

 

 流石守護神。正直ご当地守り神とか思って少し侮ってた。ごめん。殴られた腹がまだヒリヒリするぜ。やっぱ神は神だったわ。

 

 まあ、俺も殴られた回数の倍、顔面に叩き込んでやったけどね。

 

 ……嘘ついた。倍は叩き込んでない。せいぜい七回だ。

 

 フーディンは何がしたかったのか……きあいパンチか。いつも通りだなこいつも。知能指数5000オーバーの鑑だよ。でも勝手に出てくるのはやめてくれよな。お前を手持ちに入れた覚えはないぜ。いつの間にヤングースと入れ替わってたんだか。

 

 ヤングースには後でお詫びにポケマメの旨そうなのをあげた。喜んでいたのでよしとする。

 

 

 さて、今日はイベント目白押しだった。カプ・コケコに挨拶したあと、しばらく友情を育んだ。で、なんか石をくれた。これをこう、なんかしたらいい感じのアクセサリーになりそうな、そんな感じの石だ。ローブシンに倣って鈍器にしてもいいかもしれない。

 

 で、カプ・コケコはその石をミヅキちゃんの分もくれた。なんか才能を感じたらしい。わかるぜその気持ち。

 

 でなきゃ弟子になんて……いや、頼まれたらするわ。

 

 振り返ったら俺って弟子割といるよね。先代きあいパンチ親父とか、ミツルくんとかetc。

 

 まあ、カプ・コケコの件はこのくらいでいいだろう。

 

 ミヅキちゃんのバトルだ。

 

 お相手は島キングのハラさんのお孫さんのハウくん。明るい笑顔が印象的な男の子だ。

 

 まずはポケモン選びから。モクロー、ニャビー、アシマリの三体から選ぶ。俺の見識からすると、最終的にきあいパンチに一番向いてる形になりそうなのはニャビーだった。

 なんかこう、まん丸お目目じゃない感じも逆にかわいい。

 そんな理由で選んだりはしないけどな。

 

 じゃあ何で選ぶのか? それはもう、「きあい」ただ一つだよ。

 

 パッと見て、こいつって思ったやつ選んどけば間違いはない。

 

 もっと言えば好みで選んだっていい。

 その子が最終的にどんな成長を果たしても受け入れられるなら。

 

 まあそれはさておき、ミヅキちゃんが選んだのはモクロー。丸くてかわいい。

 

 一方ハウくんが選んだのはアシマリ。どう見てもタイプ相性は不利だ。きあいパンチ親父的には、相性不利をひっくり返して勝ってもらいたいものだけど。

 

 バトル前、ミヅキちゃんが初めてのバトルできあいパンチできるか不安そうだったので焚き付けるつもりで、「無理しなくていいよ。最初っからきあいパンチできるやつなんて俺くらいのもんだし」って言ったら、「できらぁ!!」と威勢のいい返事をしてくれた。

 

 その後少し不安になったけど。

 

 まあしかし、ミヅキちゃんもモクローもよく頑張ったと思う。特にモクローのガッツは素晴らしい。俺を唸らせるんだから大したもんだよ。

 

 一応付け足しておくが、ハウくんもよくやってた。今後に期待する。

 

 あと余ったニャビーは俺が貰った。かわいい。

 

━━━━━

 

 とんでもないものを見てしまった。

 

 ほしぐもちゃんがバッグから飛び出して行ったのを追いかけてみたら、目を疑う光景が待ち受けていたのだ。

 

 

 ポケモンと、それも守護神と呼ばれるような、伝説クラスのポケモンと、肉弾戦をするような人間がいるだろうか。

 

 世界中にたくさんいる空手王(王とは一体……?)でもそうそうやらない。

 

 一部のマゾなポケモナーでもそこまではしない。

 

 まして、仮にもポケモン博士の資格を持つ存在が、そんなことをすると思うだろうか。

 

 自身が現在世話になっている変態博士は、日々ポケモンの技を受けているが、彼でもここまではするまい。

 

 故に彼女は、疑問に思った。

 

 

 あの方は本当に人間なのでしょうか? 

 

 

 しかし、彼は人間なのであった。事実は小説より奇なりである。

 

 そして、ほしぐもちゃんはその戦いを「すごいすごい!」とでも言うように、楽しげに跳ねながら見ている。

 ほしぐもちゃんの未来が真剣に心配になった。

 

 

 でも、ほしぐもちゃんもあれだけ戦えるようになれば、私が守ってあげる必要もなくなるかもしれません……。

 

 

 筋骨隆々の太い腕(のようなもの)で、ワラワラと群がる財団職員をなぎ倒すほしぐもちゃんを想像した。当然ほしぐもちゃんは満面の笑み。倒しきった後、褒めてとでも言うようにリーリエの方へ飛び付く……ところまで想像して振り払った。

 

 

 ほしぐもちゃんがそんなに強くなることが正しいのかは甚だ疑問です。

 そんなことをさせるくらいなら、私が何がなんでも守ってあげればいいんです。

 

 

 そう決意したリーリエの脳裏に、筋肉モリモリマッチョウーマンとなった自身の姿が浮かんだが、即座に振り払った。

 いくらほしぐもちゃんを守るためとは言え、そこまで女を捨てる気は無いのである。

 

 

 そんなリーリエの様子に、どこからか「じぇるるっぷ」と笑う声が聞こえた気がした。

 

━━━━━

 

 新天地に降り立ち十余年。

 

 研鑽を重ねたフーディンは、ある境地に至った。

 

 知能指数の測定値が、「きあいパンチ」と表示されるようになったのである。

 さまざまな機械で計測したのだから間違いない。多面的かつ多角的な診断に間違いなどあっていい筈がない。

 

 

 フーディンは遂に、知能指数:きあいパンチ になったのだ! 

 

 

 しかし、だからと言ってフーディンの生活に変化はない。ただ研鑽を積み重ねるのみである。

 

 そんな中で降って湧いた守護神チャレンジ。

 

 当然、参加する。

 

 しかし悲しいかな。長い付き合いになるきあいパンチ親父は、イッシュで出会った緑のあいつと同じく基本的に地産地消派の人間である。

 故に、手持ちに採用するのは、アゴジムシ他数体の現地産の新入り。と、大先輩ローブシンである。

 

 羨ましい、と指を咥えてみているのは知能指数の低いポケモン。

 

 連れていってとアピールするのはやる気のあるポケモン。

 

 その点、きあいパンチ親父の元で鍛えられたポケモン達は違う。指を咥えて見ていたところで何も伝わりはしない。連れていってとアピールしたところで、きあいパンチ親父の決定にはそうそう変更はないと理解している。

 故に、ただ己を磨くのだ。

 

 来るべき時に備えて、牙を……否、拳を研ぐのだ。あるものは角。あるものは唇。あるものは足。それぞれに、それぞれの拳がある。千差万別十人十色、きあいパンチとは無限。鍛えるべき拳もまた無数にあるのだ。

 

 まあそれはそれとして、訓練されたきあいパンチ親父のポケモンの行動は上記の通り。

 

 

 だが、フーディンは違った。

 

 

 フーディンもまた、きあいパンチ親父に鍛えられたポケモンの一体であり、空間の穴を通ってこの世界にアローラする前からいる、最古参の一体でもある。

 しかし、それだけではない。

 

 

 フーディンは、知能指数:きあいパンチなのだ。

 

 

 故にその行動は既存の枠に捉われるものではない。

 

 モンスターボールを入れ換えることなど、知能指数:きあいパンチからすれば造作もないことなのだ。おやつのポケマメ1つで交代に応じてくれたヤングースも大変物分かりがよかった。

 

 

 そして、遂にその時。颯爽登場からのきあいパンチのはずが、生身で守護神に突っ込む我らがきあいパンチ親父。

 

 これには流石のフーディンも苦笑い。

 

 しかし考えてみればあり得ない話ではなかった。寧ろ、そのくらいでなければきあいパンチ親父はきあいパンチ親父たり得ない。

 

 殴る殴る殴られる。電撃が飛ぶ。避ける。拳圧が飛ぶ。タックルからの零距離放電を受け、倒れるもすぐに起き上がる。

 

 凡そ生身ですることではない。

 

 きあいパンチ使いとはここまでできるものなのか。

 

 ……愚問であった。できるできないではなくやるのだ。結果は後からついてくる。駄目だったら次で決めるのみ。それがきあいパンチ。

 

 長い付き合いではあったが、改めて、きあいパンチというものを再確認させられた。きあいパンチ親父は流石である。

 

 

 だがそれはそれ。守護神チャレンジに参加しない理由にはならない。

 

 

 体勢を崩したきあいパンチ親父に守護神の拳が迫る。

 

 

 ここだ。

 

 

 愛用の右スプーンで拳を受け止め、空いた左スプーンで殴り付ける。

 

 順調な滑り出しだ。どうだという顔できあいパンチ親父の方を振り向いたフーディンの後頭部に電撃が浴びせられたのはその直後のことであった。

 

 

━━━━━

 

 

 一発良いのを食らうと思ったら、手持ちに入れた覚えのないやつが割って入ってきた。

 

「は?」

 

 思わずそう声を漏らした俺は悪くない。

 

 どや顔で俺に振り向いたフーディンに迫るカプ・コケコ。フーディン後ろ! と言うには遅いと思ったので黙っていることにした。

 

 ……もしかしたら間に合ってただろうか。

 

 電撃を食らい、飛ばされるフーディン。が、奴は俺のポケモン達の中でもかなり古参。バトル出没率(勝手に出てくるから採用とは言わない)も高い。故に、この程度では倒れない。案の定、普通に起き上がってきた。

 

 通常、フーディンはあまり打たれ強くはないのだが、まあ、改めて語る必要もないだろう。

 要は「きあいパンチ」

 以上。

 

 ここからは俺が相手だ。とでも言うように、カプ・コケコに向かって構えるフーディン。

 

 ……まあ、いい。そもそも俺が戦うのはなんかおかしいよな。

 

「……きあいパンチ!」

 

 指示したときには既にフーディンは動いていた。むしろフライングしていたかもしれない。きあいパンチの「き」の字が聞こえたか聞こえなかったか位のタイミングで動いていた。それも当然。かれこれ十余年。俺が出した指示なんてほとんどがきあいパンチなのだから。

 

 恐ろしく早いきあいパンチ。俺でなきゃ見逃しちゃうね。

 

 と思ったがそうでもないらしい。カプ・コケコはしっかり反応していた。やってくれるぜ。

 

「やっぱり一筋縄じゃいかないな! わかってるよなフーディン!」

 

 フーディンはコクりとうなずく。

 

「プランKだ!」

 

 別に示し会わせていた訳ではないが、フーディンは知能指数きあいパンチなので問題ない。アドリブに強いのがうちのポケモン達である。

 

 急な作戦変更にも容易に対応できる。

 

 

 ちなみにプランKのKとはきあいパンチのKである。

 

 

「きあいパンチ……と見せかけてきあいパンチだ!」

 

 

 難しい注文だとは自分でも思うが、これもフーディンへの信頼あればこそ。

 

 先程と同じく恐ろしく早いきあいパンチがカプ・コケコを襲う、かと思いきや襲わない。

 

 そして、明後日の方向からのきあいパンチがカプ・コケコを襲うのである。

 

 これぞきあいパンチときあいパンチの合わせ技。強力なサイコパワーと高い技術を併せ持つフーディンだからこそ成しうる超絶技巧だ。

 

 ローブシンなら合わせ技にするまでもなく超強いとか言っちゃいけない。

 

 オオスバメなら攻撃食らいながらでも確実に一発ぶちかますとか言っちゃいけない。

 

 ギャラドスなら相性不利でもその巨体を活かしてまず逃がさないとか言っちゃいけない。

 

 ケッキングなら今頃とっくに戦いを終わらせて寝てるとか言っちゃいけない。

 

 ジバコイルなら近付かせずに上手く立ち回るとか言っちゃいけない。

 

 ね。こんな風に考えてもさ。今他の古参メンバーはローブシン以外連れてきてないんだから、あんまり言っちゃ可哀想だよ(言ってはいない)。

 

 別に勝つのが目的じゃないしね。今日は挨拶。見失うな俺。

 

 

「しかし……」

 

 

 そうは言っても、理屈ではわかってても……

 

 

「まだ終われないよなぁ!! 交代だ! ぶちかませ!! ローブシン!!」

 

 激闘は終わらない。

 

━━━━━

 

「おーい、ミヅキちゃん?」

 

「はっ!!」

 

 あまりのバトルに呆然としていた。師匠っょぃ。

 

「戻りましょう?」

 

「え、いいんですか?」

 

「ああなったらしばらく終わんないわよ」

 

「そうでしょうけど」

 

「それにほら、時計見て」

 

「……あ」

 

 もう少しでお昼だ。バトルだ。こうしちゃいられない。

 

「ポケモン! もらわなきゃ!!」

 

「レン~、先行ってるからね~って聞いちゃいないか。行きましょ」

 

「いいんですかね」

 

「良いの良いの。子供じゃないんだから」

 

 と、来た道を戻ろうとするコゴミとミヅキ。

 

 そこで、もう一人(と一匹)の観客に気づく。

 

「あら、私達の他にも居たのね」

 

「あ、えっと、私は……「かわいい!」えっ」

 

 もう一人の観客であった少女は、ミヅキ的にドストライクな美少女であった。

 

「あなた名前は? 私、ミヅキ。これからトレーナーになるの! 連れてるその子はあなたのポケモン? 初めて見るなぁ。なんて名前なの?」

 

 その言葉は機関銃の如し。次から次へと投げ掛けられる問いに少女は目を白黒させるばかりである。

 

「待ちなさいミヅキちゃん」

 

「お姉さん……」

 

「困ってるわよその子」

 

「あ……ごめん、あんまり可愛かったからつい」

 

「あ、いえ、大丈夫、です」

 

 突然話しかけられ、かなりびびっていた少女ことリーリエ。箱入りお嬢様なリーリエ、略して箱入リーリエな彼女としては、こんなにグイグイ来られると引いてしまうのだ。正直大丈夫ではない。大丈夫だと答えたのも大丈夫ではないからこそである。

 

「私は、リーリエといいます」

 

 それでも、聞かれたことには答える辺り、彼女の人の良さが伺えるというものだ。

 

「え~、名前から既にかわいい! ヤバいですねお姉さん!」

 

「ごめん、私、ミヅキちゃんの言ってることがよくわからない」

 

「それで、リーリエちゃんはどうしてここに?」

 

「私は、この子……ほしぐもちゃんが、ここにやって来たのを追いかけて来たんです」

 

「へええ、ほしぐもちゃんっていうんだねこの子。師匠のバトルに引き寄せられたのかな? 将来有望だね!」

 

「そうなのですか……?」

 

 リーリエは訝しんだ。狂人の奇行に引き寄せられる野次馬根性と変わらないような行動をどうして将来有望と言えようか。

 

 自分の感性はおかしくないはずだ。つまりおかしいのはこの少女であろう。せっかく話しかけてはもらったが、あまり近づかない方がよいのかもしれない。

 

 

「っと、こうしちゃいられない! 行きましょうお姉さん! リーリエちゃんまたね!」

 

「あ、はい」

 

 

 と、考えているうちに向こうの方から離れてくれるようだ。安心安全。リーリエの平穏は守られた。

 

 心を落ち着かせ、来た道を戻る。後ろではまだドカンドカンと花火でもキメているような音が聞こえるがリーリエには関係のない話なのだ。

 

 じぇるるっぷ、とからかうような声が聞こえたのも気のせいだ。

 

 

 

 さて、静かな(後ろは騒がしいが)参道を抜け、広場へ戻る。

 

 先程までとはまた違った種類の騒がしさ。祭りの喧騒が聞こえる。人が多いがリーリエは、この騒がしさは苦手ではない。なぜなら誰も彼女を気にしないから。

 

 こちらを認識し、注目してこないのであれば、人なんて歩く木のようなものである。

 

 次々に人をすり抜けていくと、目的地が見える。この祭りの中心。木で作られた円形のバトルフィールドである。

 

 その側には現在世話になっているククイ博士の姿……と、さらに二人。あれは……。

 

 

「あ、リーリエちゃん!! やっほー!! さっきぶり!!」

 

 

 再会が早すぎる。

 

 いきなリーリエでびっくリーリエであった。リーリエの平穏は守られない。

 

 




読んでいただきありがとうございました。楽しんでいただけたなら幸いです。


前回の予告が嘘予告になっちゃいましたね。反省反省。


次回予告

アローラ。ククイだよ。皆はポケモンの技、食らったことあるかい? ボクは研究のためによく食らうんだけど、そのボクから見ても、コブシ君ってヤバいよね。くれぐれも皆は真似しないように。あれは専門家だからできることだからね。
……あ、全然予告してないや。

次回 お前だパンチ 第25話
うわっ……私のポケモン、きあいパンチすぎ……?

明日の自分に、きあいパンチ!! ……え、ロイヤルマスク? だから知らないって!!


ガラルが舞台の面白い作品増えましたね。コブシ博士をワイルドエリアにぶちこみたい。

……遠いな。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。