と、自分を鼓舞しながら書きました。
半年以上経ってたとは思いもせなんだ(大嘘)
前回までのあらすじ
レン「アローラ!(きあいパンチ)」
そんな感じ
□月○日
俺はきあいパンチ親父のコブシ・レン。
幼なじみでパートナーのローブシンとポケモンリーグに遊びに来ていたが、破壊光線厨の男が書類と格闘しているのを目撃した。
仕事に茶々入れるのに夢中になっていた俺は、背後から近付くもう一人の男(ハガネール使いの筋肉マン)に気付かなかった。
俺はその男につまみ出され、気がついたら……きあいパンチしてしまっていた!!
……いつも通りだったわ。
つまみ出された後のことを話そう。
詳細は省くが、新しくポケモンリーグができるらしい。
で、その視察だかなんだか、まあ、要は行って見てこいって話だった。
アローラ地方まで。
観光地だぜ。やったぜ。
ついでに言うとこの世界に落ちたのはアローラ地方の小島だったからある意味俺の第二の故郷とも言える。いや言わないかもしれない。どっちでもいいや。
軽はずみだったとは思うけど、バカンスだと思えば悪くない。勿論仕事はちゃんとする。
アローラ地方はいいなぁ。空は青い。海も青い。リーリエちゃんは白い。帽子ちゃんも白い。
実にバカンスって感じだよね。ククイ博士は茶色かった。この茶色さも「ザ・日焼け!!」って感じで南国感を煽るよね。
俺はいつも通り「ザ・きあいパンチ!!」って感じだけど。
こんな青空の下できあいパンチをしたらきっとさぞかし気持ちいいだろう。
それはそれとしてククイ博士の格好ってあれだよね。あの、ほら、あれだよ。……出てこない。
あの格好の意図するところはなんだろう?
技の研究してる人だからやっぱり技は自分の肌で直に受けた方がいいってことか?
或いは技を受ける中で服が破れてしまうから着ていないのか?
いや、だとすると白衣を着ているのはおかしい。服が破れるなら白衣も破れて然るべきだ。ついでに言うと下も脱いだ方が理に叶っている筈だ。……まさか白衣は特別な素材で出来ているのか……? いや、そんな便利な白衣があるならもっと流行ったっておかしくないはず。ならどうして……?
破れてしまうとしても白衣を着るのだとすると……そうか、研究者としてのアイデンティティか。俺だって博士として仕事しだしてからは基本白衣を着ている。
うん。博士だからな。当然だ(思考の放棄)
まあ、ククイ博士の格好に関しての考察は置いておいて……挨拶の後、コゴミさんを迎えに行った訳だが、なんか弟子ができた。
俺のファンらしい。いるんだねそういう人。
俺が悪ふざけでグッズ化した帽子ちゃん型の帽子を持っていた。たぶん結構ガチな人だ。
美少女なのにね。勿体無いね。アイドルにキャーキャー言ってる方が似合いそうなんだけど。
第一声が「きあいパンチお願いします!!」とはね。その後のことも含めびっくりした。
サインでも握手でも写真でもなくきあいパンチな辺り相当なもんだよ。
率直に言って頭おかしいと思う(褒め言葉)。
カントーから越してきたばかりらしい。なんと、こないだのワタルさんとのドンパチも見に行ったそうだ。
もうすぐトレーナーデビューするとのこと。初めからきあいパンチに触れられるなんて将来有望だよね。今後に期待しよう。
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「ここが私の、アナザースカイ!」
「……?」
「言ってみたかっただけです。失礼しました。立ち話もなんですし、座りましょうか」
と言って、砂浜に腰を下ろす不審者、コブシ。
「いやいや、とりあえず中にどうぞ」
と言って、コブシを小屋の中に案内するのが、現地の博士であり、今回のコブシがさせられる仕事の元凶であるククイ。
そして、この状況に困惑したまま固まっているのが、どこぞの財団のご令嬢であらせられるリーリエである。
「さて、改めて自己紹介をさせてもらいますね。俺はコブシ・レン。短パン小僧兼きあいパンチ親父兼ポケモントレーナー兼ポケモン博士をやっています。俺の方が年下なのでどうぞタメ口でお願いします」
「肩書きが……いや、だからこそ色んな所で名前を聞くのかな? 堅苦しいのは苦手だから、そうさせてもらうよ」
所変わってククイ博士の研究所。
シンプルなテーブルを囲むのは上半身裸の上に白衣を着たメガネの男性、全体的に白い少女、不思議な帽子を被りアローラシャツの上から白衣を羽織った長ズボンの男性。端から見ても奇妙な組み合わせであった。
「今回は遠いところをわざわざ来てくれてありがとう。仕事の説明をさせてもらっても?」
「ええ、勿論ですよ」
と、衝撃的な登場とよくわからない自己紹介ではあったものの、ここまでなら同席していたリーリエも平気であった。ここまでなら。
「成る程、論文に書いてあったのはそういうことか! だから柱でここまで来たんだね?」
「ええ、そうです。やはり実物を見たらよく分かるでしょう?」
「わかるわかる。確かにきあいって凄い。研究するだけの価値はあるよ。……ん? ということは、うちのイワンコもきあいパンチが……」
「そういうことです」
「マジかよ……やったぜ」
「そういうものです」
「じぇるるっぷ」
いつの間にやら研究談義が始まっていた。仕事の話はどうなったのか。リーリエは頭は悪くない。寧ろ良い方である。が、しかし、研究者の会話に着いていける程ではなかった。
つまり何を言ってるのかわからない。
正直この場を離れたかった。しかし丁度いい言い訳も出てこない。
「きあいパンチってのは……」
「ええ、きあいパンチは……」
二人の間で絶えず飛び交う「きあいパンチ」というワード。これがリーリエの思考を妨げる。何故この大人達はきあいパンチなどというワードでここまで盛り上がれるのだろう? 当たり前のように繰り返されるものだから、ついにリーリエは「きあいパンチってなんでしたっけ?」という哲学的な問いに至っていた。
「ところでリーリエちゃん」
「は、はい!」
「ククイ博士の助手はどのくらいやってるの?」
「え、と……3ヶ月くらいです」
「へええ、じゃあまだまだ新人さんなんだね!」
「はい……まだまだ博士のお力にはなれていません」
「そんなことないよリーリエ。だいぶ助かってる」
「羨ましいですねククイ博士。こんな可愛い子を助手にしちゃって」
「まあね。存分に羨ましがってよ……あ、そういえば、コブシくんの助手は? いないの?」
「いますいます! あ、そういやそろそろ着く頃ですかね? チケット送っといたんで」
「そうだねぇ。元々の予定ではこのくらいの時間に君を迎えに行く筈だったんだけど……」
「まあ、きあいパンチですから」
「違いないね。……じゃあ、助手さんを迎えに行くかい?」
「そうしましょうかね。案内をお願いできますか?」
「オーケー、任せてくれ。じゃあリーリエ、すまないけど留守番を頼むよ」
「はい、わかりました」
そうして、変人二人は出掛けていった。
一人残されたリーリエは、一つため息をついた。何とも言えない疲労感が彼女を襲っていた。
コブシ博士の去り際、帽子が「じぇるるっぷ」と笑った気がした。
いよいよ疲れているらしい。
━━━━━
「じぇるるっぷ」
「じぇるるっぷ」
「じぇるるっぷ」
「じぇるるっぷ」
着いて早々空港内のお土産屋さんに行ってしまったお母さんを待つ私は、椅子に座ってコブシ博士とお揃いの帽子、略してコブ子を押して暇を潰していた。
一応、お父さんのお土産として買ったものだったが、結局私が欲しくなって貰ってしまったのだ。
ファンってそういうものだよね。そうに違いない。
「じぇるるっぷ」
「じぇるるっぷ」
「じぇるるっぷ」
「べのめのん」
「ええっ!?」
今絶対いつもと違う音が出た! 何だ「べのめのん」って!
シークレットボイス的な!? 説明書にはそんなこと書いてなかったけど……。
その後何度も押すが「べのめのん」とは鳴らない。
「じぇるるっぷ」
「じぇるるっぷ」
「じぇるるっぷ」
「じぇるるっぷ」
「じぇるるっぷ」
「駄目だ……」
「お困りみたいね」
「え……?」
「その帽子……コブシ博士とお揃いの帽子 略してコブ子でしょ?」
「は、はい。お姉さん、知ってるんですか?」
「知ってるわよ」
凄い、こんな、キャリアウーマンみたいな感じのなんか意識高そうなお姉さんでもコブ子を知ってるんだ。コブ子すごい。
「強めに押すと良いわ。そう、それこそきあいパンチみたいに」
「え、きあいパンチみたいにって言われても……」
「難しかった? ちょっと借りるわ……こう、よ」
お姉さんが「こう」と言い終わる頃には、いや、言い終わるよりも早く、その拳がコブ子に突き刺さっていた。
「べのめのん」
「おお!」
思わず声が出た。シークレットボイスが出たことに、そして、お姉さんの拳の速さと重さに。
きあいパンチの人ことコブシ博士のファンとして、目の前で繰り出されたパンチの良し悪しの判断はできて当然だ。
その目で見て、驚いた。そのパンチは凄く凄かったのだ。自分の語彙力のなさを実感せざるを得ない。
「凄いですねお姉さん!」
「ふふふ、しかも通常音声とは違ってこうすると」
またお姉さんの拳が消える。
「べべべべべのめのん」
「おおおお!! すごいすごい!!」
捉えることはできなかったが、音から察するに連続でパンチを叩き込んだみたいだ。
「でしょう?」
「いえ、そうではなくて、さっきのパンチです!」
「え、そっち?」
「はい! いや勿論コブ子もいいけど! お姉さんのパンチ凄いですよ!! 今の何回入れたんですか?」
「ええっと……五回くらいかな?」
「っべーですよお姉さん! 弟子にしてほしいくらいです!」
「そ、そうなの……」
「そうです!」
なんか引かれてる? あ、しまった! 見ず知らずの小娘からこんな勢いで話されたら引いちゃうよね!
「あ、ごめんなさい。私はミズキって言います! カントーから引っ越してきました!」
「え……あら、そうなの。アタシは「あ、いたいた」
なんか、アローラシャツの上に白衣来て、さらにコブ子被ってサングラスかけてる男の人と、上半身裸の上に白衣きてる人の二人組が近づいてきた。
「探しましたよぉ。助手なんだからしっかりしてくれないと」
「は? いやいや、普通、飛行機でいくじゃん。チケット送ってきたんだからさ、一緒に行くって思うじゃん」
「そんなこと一言も手紙には書いてなかったでしょ?」
「そうだけど……一緒に行きたかった……。どこ行こうか、とかさ、何しようか、とかさ、話したかった……」
「えっ……あー……ごめん」
コブ子サングラスの人とお姉さんが話始めた。知り合いらしい。
私はと言えば、半裸白衣の人と面識がある。半裸白衣の人とはすなわちククイ博士だ。私がトレーナーデビューするときにお世話になる博士である。
「ククイ博士じゃないですか!」
「やあミズキ、アローラ! 今日越してくるのは聞いてたけど、ここで会うとは思わなかったよ!」
「私もまさかここで会うなんて! てっきり荷ほどき中にひょっこり訪ねてくると思ってましたよ!」
「ええ……なんだいその想像? 確かにやりそうだけども」
「ククイ博士はどうしてここに?」
「ボクはあそこの彼の付き添いというか、案内をね」
あそこの彼、というと、コブ子サングラスの人か。お姉さんにまだ謝っている。
一体何者なん……ッ!?
……あの白衣……そして、今にもきあいパンチを撃ってきそうな両手、短パン小僧であるという主張が滲み出ている長ズボン、いつでもきあいパンチを撃てそうな隙のなさ、あの指紋、声紋、虹彩、骨格!
まさかまさか、いやでも現に私の五感(ほぼ視覚情報)がそう言っている!
あれは、間違いなく……!!
コブシ博士だ!!!
「きあいパンチお願いします!!」
そして私は目の前が真っ白になった。
あ、いや、殴られた訳じゃないよ。嬉失神ってやつ。
読んで頂きありがとうございました。楽しんで頂けたなら幸いです。
よくよく考えると、ワクワクじゃなくてきあいパンチを思い出すべきだった気がしています。
次回予告
ミヅキです! 勢いって大事だよね! とうとう私のトレーナーデビューだ! って、ええ!? どの子もきあいパンチ撃てそうにないんだけど!? 助けて師匠~!!
次回 お前だパンチ 第23話
意外! それはきあいパンチッ!!
明日の自分に、きあいパンチ!! ねえねえどうですか師匠! 私頑張ったでしょ?