お前はまだきあいパンチを知らない   作:C-WEED

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ようやく色々区切りがつきましたので更新でございます。お待たせいたしました。
タグは確認してますか? なら、いいんです。

前回のあらすじ

ミツル「きあいパンチ!」
ハルカ「きあいパンチ!」

そんな感じ。
この話を読んだ後、あなたは「こいつら頭おかしい」とコメントするッ!


19

 とうとうたどり着いた。

 

 ホウエンリーグ。ここが私の旅の終着点。

 

 ここで挑戦者を迎える四天王は、とんでもない強さだって聞いている。

 ミツル君との戦いで道を踏み外してしまったが、それはそれ。私はまともでいたい。ここからはきあいパンチは使わないで行こう。

 

 

「やれやれ、デタラメな嬢ちゃんだぜ。こりゃ次のチャンピオンは決まりかもな」

 

 

 そんな決意をしたものの

 

 

「あーあ……負けちゃった。ところで、きあいパンチって……何タイプだっけ……?」

 

 

 気がつけば

 

 

「あなたの熱……いえ、きあいは、私の技が通じるものではなかったようですね」

 

 

 使ってしまっていて

 

 

「見せてもらったぞ! ワタルの小僧を思い出させるいい目だ! そのきあいがあれば道を踏み外すことはないだろう! さぁ、進むがいい!」

 

 

 最早後戻りできないことを悟った。

 

 助かってる。確かに、きあいパンチのお陰で乗りきれている部分はある。でも、こんな、こんなのって……。

 

 でも、次で最後。次を勝てば私は、解放される。

 

 ルネシティで別れる時、レン君は言っていた。

 

「ここからは別行動だね。多分、次会うときはバトルする時の筈さ。……先に行って待ってるよ」

 

 これは恐らく、チャンピオンになって待ってると言う意味だ。……レン君のくせに、中々粋なことを考えるじゃない。

 

 ミツル君は、確かに強かった。

 でも、ミツル君のポケモンの中で、例のきあいパンチを使えたのはサーナイトだけだった。

 対して、レン君はどうか。

 きあいパンチを使わないポケモンの方が少ない。いや、使わないポケモンなんて居ない。

 いくら今の私がきあいパンチを受け入れ……いや、容認し始めたとしても、あちらは本家本元。付け焼き刃のきあいパンチが通じるかどうか。

 

 まあ、すぐに殴る機会が来たのは喜ばしいことかな。うん、もう、取り敢えずぶん殴れたらいいや。

 

 覚悟を決めて扉をくぐる。

 

 

「ようこそ、ハルカ」

 

「は?」

 

「えっ」

 

「あ、なんでもないです」

 

「そうか……では気を取り直して……」

 

 どういう……ことなの……?

 なんで、ミクリさんが? ていうか、レン君は?

 駄目だ。ミクリさんが何か言ってるけど全然耳に入って来ない。

 

「さあ! ホウエンで一番華麗にポケモンと踊れるのは誰なのか! 今ここで見せてもらおう!」

 

「あの」

 

「なにかな?」

 

「レン君来てないですか?」

 

「レン……? いや、来てないよ」

 

 ……やりやがったあのきあいパンチ狂。

 騙された……! ……いいえ、落ち着くのよハルカ。あのきあいパンチ狂はポケモンリーグで待ってるとは一言も言ってない。勝手に勘違いしてしまったのは私。だからここで怒るのは筋違い……。そう、私のミス。吸って、吐いて、吸って、吐いて……。

 

 ……駄目だ。許せない。やっぱレン君が悪い。

 

「……大丈夫かい?」

 

「はい、お待たせしてすみません」

 

「……レンも、罪な男だね」

 

「……これは、そう言うのじゃないので。単に、今度会ったらボコボコにしてやろうって……泣いたって許さないって、思っただけです」

 

「……ハハッ……よし! バトルを始めよう!」

 

━━━━━

 

 

「バトルドォォォォォム!!!」

 

 

 司会の宣言と共に観客達の歓声が上がる。

 

「さあ、やって参りましたバトルドォォォォォム決勝戦! まず入場しますのは、パーティ編成がバランスの良いことに定評のある、Aブロック代表……バランスのいいカワモトォ!」

 

「キャー! ステキー!」

「見ろよカワモトのやつ、今日もバランスがいいぜ!」

 

 観客の声援に手を振って応えるカワモト。そして。

 

「対戦相手の入場だ! Bブロック代表はこの男! きあいパンチしか使わないことで一気に話題になりました! きあいのコブシィ!」

 

「きあいパンチ! きあいパンチ! きあいパンチ!」

「キャー! コブシ様ー! ぶん殴って~!!」

 

 観客の声援を綺麗にスルーしつつ入場する少年、きあいのコブシことレン。それもそのはず、ほとんどの声が男性である。「ぶん殴って~!!」に至ってはガチムチである。

 

「実況はご存知、ツクダと、解説には我らがドォォォォムスゥパァスタァ、ヒース様がいらっしゃっています!」

 

「アッハッハ☆ 皆、今日はよろしく!」

 

「キェェェェェアァァァァァシャァベッタァァァァァァ!!!」

「キャー!!! ヒース様ァ!!!」

「こっち向いてー!」

 

 ヒースはスーパースター。このドームのナンバーワンである。当然、ファンサービスも忘れない。ウィンクでもしてやればその方向にいる観客は胸を押さえて意識を失うなど日常茶飯事である。

 

「さて、改めまして選手の紹介です。カワモト選手はバランスのとれたパーティ編成の上で、相手のポケモンに合わせたバランスのいい選出を行い、バランスのとれたバトルで危なげ無く勝ち進んで来ています。今回の編成はユレイドル、ヤドラン、オコリザルです。どのポケモンも重心が低いですから、安定感のあるバトルが期待できそうですね!」

 

「え、バランスってそういうことなの?」

 

「一方、コブシ選手ですが、先程も申しましたように、きあいパンチしか使っていません。更に、ポケモンもフーディン一体しか使っておらず、所謂2タテで勝ち進んで来ています。今回の編成は、フーディン、ギャラドス、レアコイルです。今回もフーディンが先発なのか、或いは別のポケモンによる別の技が見られるのか、興味が尽きませんね!」

 

「うん、編成だけ聞くとこっちもバランスは悪くなさそうだよね」

 

「ヒース様はどちらが勝つと予想されますか?」

 

「うーん、お互いに弱点を突けるポケモンはいるんだからどのポケモンを選出するかだよね。まあそれはいつものドームと変わらないと思う。ただ、ここまでフーディンだけで勝ってきてるコブシ選手の方が余力はありそうだし……ま、輝いてる方が勝つでしょう」

 

「成る程! 確かにいつもと変わりませんね! では、試合開始ィィィ!!」

 

 

 

「さあ、カワモトの一匹目は……オコリザルだぁ!! そしてコブシは……ギャラドスゥ! ここに来てフーディンから変えて来ました!」

 

「カワモト選手は初手フーディン読み読み読みかな? まあ読みが当たったかはわからないけど。コブシ選手はこの時のためにフーディン以外のポケモンを温存していたのかもしれないね」

 

「オコリザルには少々不利に見えるがどうするカワモトォ!?」

 

 

「オコリザル、雷パンチだ!」

 

 

「雷パンチだぁぁ!! ギャラドスには効果抜群です!」

 

「流石カワモト! バランスがいいぜ!」

「ステキー! バランスがいいわー!」

 

 

「……きあいパンチ!」

 

 

「まさかまさかだ! コブシはギャラドスにきあいパンチの指示を出したァ!! ぶれない! ぶれないぞコブシ! 雷パンチを撃とうと迫り来るオコリザルをものともせず、ギャラドスの巨体を活かしたきあいパンチをシューーーッ!! 超☆エキサイティン!!」

 

「ギャラドスってきあいパンチできるんだね。知らなかったよ」

 

「キャー!!! 知らなかったヒース様もステキー!」

「カワイー!」

 

「さあ、今のきあいパンチでオコリザルは倒れてしまったァ! カワモトの二体目は……ヤドランだぁ!!」

 

「これは……ヤドランの技次第……かな」

 

 

「ヤドラン、サイコキネシス」

 

 

「成る程、触れられないように、遠距離だね。タイプ的にも通りは悪くない」

 

「解説するヒース様もステキー!」

「カワイー!」

 

「どうやらサイコキネシスで動きを封じるようだ! 超☆エキサイティンな戦略だ! これにはギャラドスも……?」

 

 

「きあいパンチ!」

 

 

「ものともしなぁい!! きあいパンチは伊達ではなかったぁ!!」

 

「うーん、やるなぁ!」

 

「ヤドランはどうだ? 立ち上が……る……いや、立ち上が……立ち上がれないっ! あっという間に勝負がついてしまったぁ!! 今回のバトルドォォォォォム、優勝者は、コブシだぁぁ!!」

 

 沸き上がるコブシファン、そしてざわつくカワモトファン。

 

「うおおおおお! きあいパンチ! うおおおおおお!」

「カワイー!」

 

「あのバランスのいいカワモト選手がッッ……」

「きあいパンチって……?」

「あのきあいパンチ……なんてバランスがいいんだ」

「負けてもバランスは良かったぞー!」

 

 

「超☆エキサイティン! なバトルを見せてくれた二人に盛大な拍手を! そして、五回目の優勝を果たしたコブシ選手にはヒース様への挑戦権が与えられるぞ!!」

 

 

「私のファンサービスを、お楽しみに☆」

 

━━━━━

 

 ☆月☆日 快晴

 

 バランスって何だっけ? と、そんなことを思わざるを得ないバトルドームだった。……きあいパンチの方がわからない?

 

 そんなはずはない。

 

「きあいパンチとは?」と聞かれて「きあいパンチだ」と答えるのは、思考を放棄しているとか、ゴリ押ししているとかそういうことではなく、単にそれ以外にきあいパンチを言い表せる言葉が無いからだ。どれだけ言葉を尽くそうとも、あらゆる言葉は所詮きあいパンチの外縁をなぞるに過ぎず、真に本質を捉えた表現をするのであれば、きあいパンチと言う以外にはない。

 

 まあ、それはそれとして、今日はバトルドォォォォォムに挑んで、銀シンボルを頂いたわけだ。明日はどうしようか……金シンボルを狙うか、あるいは取り敢えず一通り銀を揃えるか。

 

 きあいパンチ占いの結果、銀を揃えることになった。

 

 では、次はどこに行くか、だ。

 

 きあいパンチルーレットの結果、アリーナに決まった。

 ということで、明日からアリーナに挑む。

 アリーナと言えば、道場みたいな外観に、武道の試合みたいな感じのルールの施設だった。そういえば、セコい戦法で勝ててしまう仕様だったっけ。こう、おっさんが並んでて判定してるのか? ネコだましからの二連守るでエースがやられて当時の俺はGBAを投げたのをよく覚えている。結局ブレーンに挑むこともないままダイパ始めたんだった。

 

 まあ、きあいパンチがある以上、そう簡単にはいかないだろうけど。

 

 なんであれ楽しいバトルにしたい。

 

━━━━━

 

 翌日、レンはバトルアリーナの前にいた。闘志を試す場所、バトルアリーナである。気力は十分。太陽サンサン。絶好の道場破り日和である。勿論、あくまで挑戦するだけであり、道場破りのつもりは微塵もないのだが。

 

 中に入ると、空手王風のいかつい中年が受付をしていた。この世界に空手王は何人居るのだろう。ぼんやり考えていると、相手から声をかけてきた。

 

「お客人、バトルアリーナに挑戦されますか?」

 

「はい」

 

「では、参加するポケモンをお選びくだされ」

 

 ポケモンを選ぶ手に迷いはない。既に決めていた、ということではなく、単に、きあいパンチをする以上、そんなに違いは無いと判断した結果だ。

 

「ルールはご存知ですかな?」

 

「はい、一応」

 

「ふむ、それではご案内いたしましょう」

 

 受付の中年の案内を受け、広間に入る。ますますもって武道場だ。

 丁度対戦相手も入場したようだ。

 

「トレーナー コブシ、前へ!」

 

 一歩踏み出す。

 

「トレーナー ハンゾウ、前へ!」

 

 相手も此方へ一歩踏み出した。

 

「勝ち抜きチームバトル、始め!」

 

 アリーナへの挑戦が始まった。

 

 きあいパンチが猛威を振るう。搦め手も、直球の攻撃も皆、決まったかどうかもわからないうちに倒れ伏す。相手のトレーナーからしてみれば不幸という他ないだろう。指示を出したら自分のポケモンが倒れていた、なんてことはざらである。選出が悪いのか、指示が悪いのか、それとも相性が悪いのか、どれも違う。彼らは運が悪かった。

 

 それは、レンが四周目の七人抜きを達成した時のことだった。

 

「お客人! あなたの実力は実に素晴らしいでございますな! そこで、ここらで一つ、我らが大将アリーナキャプテンとお手合わせ頂きましょう!」

 

 いよいよ、プレイしていた当時は出会うことのなかったフロンティアブレーンと相見える。期待か不安か、十中八九期待だろうが、レンの心臓は高鳴っていた。

 

「アリーナキャプテンとの勝負、覚悟はよろしいですかな?」

 

「はい!」

 

 ドタドタと此方に向かって走ってくる音がきこえ、バァーンと派手な音を立てながら向かいの襖が開く。そこに立っていたのは一人の少女。

 

「ウィーッス! よろし……く」

 

 どこぞの土竜とは違う可憐な声。だがそのまま紡がれる筈だった言葉は勢いを失い、随分と静かなものになってしまった。

 

 レンは声が出ない。いきなりの登場に驚いたとか、唖然としたとか、そんなちゃちなことでは断じてない。彼は見とれていた。その人物に。アリーナキャプテンであろうその少女に。

 

 スラリと伸びた足。それを包む水色のタイツ。ショッキングピンクの襟の黒い胴着。全体的にバトルガールを思わせる装いであり、彼女が醸し出す雰囲気もバトルガールに近いそれであった。

 

 だが、違う。アリーナキャプテンが元気系の美少女だった。それは驚くだろう。

 

 しかしレンが見とれたのはそこではない。

 レンはきあいパンチに侵されている。それは脳に限らず神経や感覚も同様だ。つまり、きあいパンチのごとき第六感も働く。その第六感が告げていた。

 

 目の前の少女はバトルガールではない。そんな直球なバトルはしてこない(きあいパンチ並感)。

 

 つまり、むさいおっさんのフロンティアブレーンが出てくると思えば美少女で、しかも、バトルガールのような格好をしているにも関わらず、別にバトルガールらしいバトルはしてこない(であろうことが予想される)という二重の落差。すなわち、ギャップを感じたのだ。

 

 このギャップ。平静でいることは不可能である。

 

 レンはギャップにハートをぶち抜かれてしまったのだ。

 

 所謂ギャップ萌えであった。

 

 

 一方のアリーナキャプテンは何故言葉が尻すぼみになってしまったのか。

 

 彼女もまた、察したのだ。目の前の少年がただのポケモントレーナーではないことを。

 彼女とて年若いとは言えフロンティアブレーン。トレーナーとしての経験値は並みではない。ポケモンを、そして人を見る目は確かである。

 

 そんな彼女から見て、目の前の少年は、ただの短パン小僧ではなかった。それはそうだ。彼は短パンではなく普通の長ズボンである。だが間違いなく短パン小僧だ。彼女の勘がそう言っていた。

 何故短パンではないのか。それは一重に、機能性。普通に考えれば短パンの方が動きが阻害されないので機能的と考えられる。だがそうではない。トレーナーの旅は舗装された道を行くだけではない。無論、そのような旅路もありうるが、そこで出会えるポケモンは限られる。トレーナーとして、まだ見ぬポケモンと出会い、そして互いを高め、他のポケモンやトレーナーとバトルをする。それがあるべきトレーナーの旅。少なくとも彼女はそう考えていた。

 それが短パンでないこととどう関係するか。

 彼女の考えるトレーナーの旅、それはケガと隣り合わせなのだ。舗装された道、すなわち、人の手が入った場所に現れるポケモンなどたかが知れている。それで満足してはならない。まだ見ぬポケモンと出会うには、人の手が入っていない、すなわちより厳しい自然に踏み込まねばならない。険しい山に登るだろう。生い茂った森に入るだろう。何なら海に潜ることもあるだろう。そんなことをするのであれば、短パンでは足を守れない。

 短パン小僧でありながら短パンではない。これは合理的な選択の結果なのである。しかしそうでありながら少年は短パン小僧としての気持ちを忘れていない。それを彼女は見抜いたのだ。

 そしてそれだけではない。少年が纏う覇気(きあい)が、彼がただ者ではないということを示していた。

 

 バトルスタイル的に、彼女は賢い人間が好きだ。そして、1トレーナーとして、強い(強そう)トレーナーの方が好ましい。

 

 それに該当しそうな情報が一瞬にして彼女に伝わり、トゥンクしかけたのである。つまり、ほぼトゥンクである。

 

 

「あ……えっと、レンです。よろしくお願いします」

 

「あ……ご丁寧にどーも、コゴミです。アリーナキャプテンやってます……」

 

「……」

 

「……」

 

「えー、始めてもよろしいですかな?」

 

「あ、はい」

 

「勝ち抜きチームバトル、始め!!」

 

 

「いっけぇ! へラクロス!」

 

「ケッキング! 頼むぞ!」

 

 コゴミの一体目、へラクロスを見て、レンは目を輝かせる。へラクロスは虫、格闘タイプ。さぞかしいいきあいパンチが撃てることだろう。コゴミに対する好感度が上がった。

 とはいえ、レンの一体目はケッキング。遊び心の欠片もない、純然たるゴリ押しモードであることがわかる。

 

「きあいパンチ!」

 

 結果は言わずもがな。へラクロスは倒れる。へラクロスの持ち物はカムラの実。食べる暇などなかった。ヒースのラグラージのように、もしもきあいのハチマキを巻いていたならば、或いは起死回生による逆転も狙えただろうが。

 

「まだまだ! ブラッキー、あやしいひかり!」

 

 一体倒された。悔しくないわけではないが、まだ一体。逆転は可能だ。ここからが、ブラッキーからがコゴミの真骨頂とも言えるバトルになる。

 まずはあやしいひかりによる行動の制限だ。

 

「惑わされるなケッキング。きあいパンチだ!」

 

 だが、我らがケッキング姉貴はぶれない。特性による耐えようもない怠けがあれど、いや寧ろそれがあったからこそ、ケッキングはレンの言葉に応える。考えて行動するからこそ動きが狂うのだ。

 

 ケッキングは考えるのをやめた。

 

 そして本能に、練習により染み付いた反射的動きに、沸き上がるきあいに身を任せた。普段通りに、いつものように、ただ拳を振るうのだ。

 

 驕ってはならない。侮ってはならない。混乱していようときあいパンチはきあいパンチ。気づけばブラッキーは宙を舞っている。当然既に意識はない。

 

 へラクロスに続いてブラッキーまでも倒れた。だがコゴミの内心は静かなものだ。確かにこの少年は強い。素晴らしい技を持ったポケモンたちだ。だが、きあいパンチでは越えられない壁がある。格闘タイプにはできないことがある。それがコゴミの三体目。

 勿論、勝つことは嬉しい。だが、最初のほぼトゥンクで期待が高まっていただけあって、この見通しは少し残念でもあった。

 

「行って! ヌケニン!」

 

 コゴミの三体目、それはヌケニン。ヌケニンは虫、ゴーストタイプのポケモン。きあいパンチはヌケニンには届かない。更にヌケニンの特性、ふしぎなまもりは、効果抜群以外の技ではダメージを受けないというものだ。どう考えても、きあいパンチでは破りようがない。

 というのがコゴミの考えである。

 

「つばめ返し!」

 

 不可避の一撃を見舞うべく、ヌケニンが迫る。ケッキングは動くことができない。

 

「もう一発!」

 

 再度のつばめ返し。だが、その攻撃は届かない。ケッキングの手により、阻まれていた。

 

 でも、大丈夫。ヌケニンはゴーストタイプ。ふしぎなまもりもある。きあいパンチは効かない。コゴミの安心は揺るがない。

 が、ここで気づく。ケッキングの覚える技はきあいパンチだけではない。だましうちやシャドーボールも覚えさせることはできる。そしてそれらはふしぎなまもりを貫く。

 コゴミの心臓が早鐘を打つ。とんだ失態であった。きあいパンチに気をとられ、他の技の可能性を忘れ、正に絶対絶命の状態まで追い込まれてしまった。

 

「きあいパンチ!」

 

 思わず安堵のため息が出た。とともに、レンへの失望が胸中に広がる。タイプ相性もわからない奴だったなんて……。

 

 と、不意に何かが頭の横を通りすぎた。疑問に思い振り向くと、壁にヌケニンが張り付いていた。戦闘不能なのは確かめるまでもない。ヌケニンは強い相手にはめっぽう強いがダメージを食らったら直ぐにダウンしてしまうのだ。

 

 戦闘が終わった。だが心臓の鼓動は収まらない。もはやほぼトゥンクどころではなかった。いとトゥンクであった。

 

 

 審判から試合終了の宣言がなされる。

 

 無言でレンに近づくコゴミ。互いに緊張した面持ちである。

 

「……」

 

「……」

 

「あの……フ、フロンティアパスを……」

 

「あ……はい」

 

 懐からフロンティアパスを取りだし、手渡す。

 

「はい、どうぞ」

 

 コゴミから返されたフロンティアパスには、新たなシンボル、銀のガッツシンボルが輝いていた。

 

「それで、アタシ、その……あなたのこと、気に入ったっていうか……えっと……また、バトル、しに来てね?」

 

 ズキュゥゥゥン。レンの心中で起こったことを音で表すならこのようになるだろう。理由はコブシにはよくわからないが、元気系の美少女が、何やらしおらしい雰囲気でまた会いに来い(意訳)と言ってきたのだ。

 

「……喜んで!」

 

 火が点いた。そう、燃え上がっていた。ギャップ萌え、否、ギャップ燃えであった。

 

 

 こうして、レンは、他の銀シンボルそっちのけで、アリーナの金シンボル獲得に乗り出すのである。

 

 

 恋はいつでもハリケーンという言葉がある。だが、彼らの物語においてはそれは適切ではないだろう。

 

 そう、きっと、このように言うべきだ。

 

 

 恋も結局きあいパンチ。

 

 

 

 その頃、ホウエンリーグでは新たなチャンピオンが誕生していた。




まあ、恋と言うより、変かもしれないですね。
何にせよ、読んで頂きありがとうございました。楽しんでいただけたなら何よりです。
きあいパンチ書いてる時の感覚を取り戻さなくてはと思いつつ書いた今回です。ヒロインを出そうと思った(唐突)
次でホウエン編は終わり(多分)。ちゃんと締めらしい締めにはならないでしょうけど。
ちなみにヌケニンが倒れた理由をきあいパンチとするか、壁にぶつかったダメージとするかはお任せします。

次回予告
きあいパンチ!
その素晴らしいきあいパンチがハルカをきあいパンチさせたッ!
たちまちハルカときあいパンチは友達になり、ハルカはきあいパンチに夢中になったッ!

次回 お前だパンチ 第20話(ホウエン編最終話)
君がッ 泣くまで 殴るのを止めないッ!

明日の自分に、きあいパンチ!

この次回予告書いてみて、感覚が戻りつつあるのを悟った。

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