また長いこと間が空いてしまいました。たぶんまだしばらく間が空く日々が続くでしょう。ご了承下さい。
前回のお前だパンチ
レン「俺の金の玉じゃないよ」
そんな感じ
例えば昔ゲームで見た光景が、今、自分の目の前に広がっているとして、貴方なら何を思うだろうか。ゲームの通りだ、素晴らしい! と思うだろうか。違う、ここはもっとこうだろ! と思うだろうか。
ゲームで見たまんま。ルネシティの海の部分にグラードンとカイオーガがいるわけだが、グラードンが、その足場が、あまりにも心許ない。対してカイオーガのフィールドはその足場を囲んで、面積的に見ても数倍あるわけだ。なんかもうその足場はどうやって作ったんだと聞きたい。
そんなもの見せられてみろ。複雑だ。
何が超古代ポケモンだ。何が大陸ポケモンだ。ドダイトスと被ってるじゃねぇか。
何が日照りだ。 ほとんどの人は大雨と言うだろう。太陽は時々顔を出すだけだ。
今乗っているその足場は、多分能力で作り出したものなのだろう。さて、それを大陸と呼んでよいものか。
んなわきゃないよね。
……殴らないと。
殴れば何かは変えられる。
だって、きあいパンチだからね。
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「ダイゴさん」
「どうしたのかな?」
「これから俺がやること、止めないでいてもらえませんか?」
「……内容次第では、それはできない相談だね」
「ちょっと、ほんのちょっとちょっかい出すだけです。ホントにちょっとだけですから」
「ちょっとだけ、きあいパンチだろう?」
「……まぁ、そういう表現もできますね」
ちょっとだけ、とレンは言っているが、その影響はちょっとでは済まないだろうとダイゴは推測している。そしてその推測は外れていない。大誤算とは言っても、常日頃から大誤算を重ねている訳ではないのだ。もしそうならとっくの昔に負け組である。
「……どっちにきあい……いや、ちょっかいを出すつもりだい?」
「グラードンに」
「ふむ……」
二体の超古代ポケモンの戦いとその余波、そして能力のせめぎあいによって現在の状況、未曾有の大災害が起こっている。どちらか片方が倒れれば少なくとも戦いによって街が危険に晒されるということは無くなる。
そして現状では辛うじて均衡を保っているが、劣勢なのはグラードンだ。此方を攻めればより早く撃破できるというのも理解できる。
加えて彼のきあいパンチは常人には理解できない域にある。可能、と言えば可能か。
このような思考がダイゴの脳内でなされた。レンは一言も言っていない。しかし、イケメン御曹司石マニアであればこの程度、造作もないことだった。
「……わかったよ。グラードンはレン君、君に任せる」
「ありがとうございます!」
ただし、とダイゴは付け加える。
「安全には十分注意するんだよ? 危険だと思ったらすぐに逃げるんだ。いいね?」
「勿論です」
「それと、カイオーガは僕達に任せてくれ。倒すことはできないだろうが、君がグラードンの相手をしている間、注意を引き付けておくことくらいはできる」
この事態が起こった時にも思ったことだ。子供達に任せていては何のために自分達がいるのかわからない。
珍しい石のためならば滝登りも辞さない。そんな男だからこそ、チャンピオンにまで登り詰めることができた。
イケメン御曹司石マニアであり、良い年であるダイゴは自分が傍観者になることを許さない。
「助かります。では、カイオーガはお願いします」
「気を付けるんだよ?」
「目にもの見せてやりますよ」
レンは誰に、とは言っていない。ダイゴは、グラードンに対して、と脳内で補完していたが。
「ハハハ!! 見ろマツブサ! カイオーガが俺を見てるぞ!! そして追いかけて来ている! つまり、俺は今、カイオーガを操っている!」
「……ああ、そうだな」
「ほらほら、こっちだぞカイオーガ! 捕まえてみろ! ハハハハハ!」
「……」
現在、アオギリが囮となってカイオーガの注意を引き付けている。押し付けた訳ではない。アオギリ自身が志願したのだ。
もともと、レンから頼まれた、いや、引き付けることを言い出したのはダイゴ。しかし、ダイゴのポケモンは重量級であまり素早くなく、注意を引き付けたらそのままやられてしまう恐れがあった。ダイゴ、早速の誤算である。
しかしそこにレンとダイゴの話に勝手に耳を傾けていたアオギリが声を掛けた。
アオギリの手持ちに水ポケモンがいることからも適役と思われた。
そして注意を引くことに成功し追い掛けられ始めたアオギリの発言が先程のものだ。
アオギリはサメハダーに乗っている。サメハダーは比較的、少なくともカイオーガよりはスピードに優れたポケモンである。もしこれがトドゼルガやラグラージであったならどうなっていたかは想像に難くない。
ちなみにマツブサはクロバットに掴まり空中でアオギリと並走している。的が多いと撹乱しやすい。という合理的な考えもあるが、アオギリが逃げる様を文字通り高みの見物していたかったのだ。
なお、ダイゴとボスゴドラは何時でも破壊光線が撃てるようにカイオーガの動きが一望できる位置で待機している。言ってたこととやってることが違う?
これは適材適所と言うものだ。
「楽しいなぁ! カイオーガ! ほら、こっちだ!」
アオギリの明るい声が響く。
サメハダーの特性によって服やら掴まっている手やらは中々の大惨事になっており、事が終わった後に泣き叫ぶことになるのだが、それはまた別の話。
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「おいグラードン」
声がした。人間の声だ。たぶん、自分を呼んだ。
「お前がどんなつもりでそんなちっぽけな足場を作ったのかは知らない」
見れば、どうやら子供のようである。良い度胸をしている。具体的にそう言語化して考えた訳ではないが、大体そんなことを考えた。
「きっと、どっちかって言うとお前らの方が被害者なんだろう」
子供は自分を真っ直ぐに見つめながら続ける。
「人間の身勝手で起こされて、気分の良い目覚めでもない時にライバルも復活したとなったらそりゃあ戦いたくもなるだろうさ」
グラードンもじっと子供を見つめる。その力を見定めるように。その心を見抜こうとするかのように。
「折角だ。せめて、ライバルくらい倒しとこうぜ」
グラードンにはわからなかった。
この子供は何を言っているのか。
グラードンとこの子供、レンとの間には埋めようのない溝があった。
まず、種族の壁。ポケモンは人語を解する。とはいえ、違うものは違う。
そして、圧倒的ジェネレーションギャップ。時代が、世代が、違いすぎた。世代が変われば人が変わる。人が変われば言葉が変わる。同じ人間同士ですら、世代間でコミュニケーションが成り立たないこともあるのだ。まして、異種族、さらに三桁は余裕で超える程のジェネレーションギャップ。
無理だ。
グラードンにはまだわからないことがある。
何故目の前にいた筈の子供が消えたのか。
何故目の前が空なのか。
何故今自分の足は地面についていないのか。
何故、顎が痛いのか。
そうか、殴られたのか。
落下しながら確認すると、子供の横に四本腕のポケモンが立っていた。こいつに殴られたのだろう。
敵ながら見事。原始とは、力こそパワーな時代。強ければどうとでもなる時代であった。長く眠りについていたグラードンはその辺りの感覚も当時のままだ。殴られたら腹は立つと言えど認めるものは認めなければ。
自らの足が地面に着いた暁には全力で殴り返すことを誓うグラードン。しかし、その目論見は叶わない。
カイリキーのきあいパンチ(アッパー)を食らったグラードンがそのまま真上に打ち上げられていたなら、あるいは、それも可能だっただろう。しかし、残念ながら、斜め上。つまりグラードンは放物線を描いて落下していた。
足場の狭さがここで災いする。
グラードンが落下する先には陸地などない。ただ、深い青に染まった海があるのみだ。
全ポケモン中、最も重いグラードンが沈まないはずがなかった。
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「……カイリキー」
「リキ……」
いや、まあ、俺も悪かった。打ち上げたら、落ちるわ。いやでも、俺打ち上げろなんて言ってないし……。
……まあ、しゃあないか。
「まあ仕方ないね。次とか、頑張ろうな」
「リキ……!」
さて、問題は落ちたグラードンだ。上がってこれるのかね……。
グラードンが落ちた時にできた波紋も徐々に薄くなってきている。上がってくる様子はない。
……無理か。
「きあいパンチにもできないことはあるってことかな……」
考えてみれば、ここ最近の俺は調子に乗っていた気がする。これを機に反省しようかな……。転ばぬ先の杖も大事だけど、実際転んでみる経験も大事だよね。
「リキ!」
「え、何? どうしたの」
どうやら俺を呼んでいたようなのでカイリキーの方を見る。俺の背中を指差している。いや、背中って言うよりリュック?
何か妙なもの入れて……あっ。
なんか紅色の玉が光ってる。
……。
これ、掲げたらグラードンが味方になって復活するやつ? まっさかー。
でもそうなら胸熱だね。
……。
「カイリキー、いや、待った……皆出てこい」
手持ちを皆外に出し、よく見えるように紅色の玉を前に出す。
「さあ、来い!」
各々が拳(又はそれに準ずるもの)を振るう。正直紅色の玉が壊れやしないかと不安だったけどそれも杞憂だったようだ。
きあいパンチを受けて、紅色の玉は更に輝きを増した。ピカピカって言うより、ギラギラ。もうなんか、ヤバいーって感じ。目も当てらんない。
しかし、だからこそこう言わなければならない。
「グラードン、きあいパンチだ!」
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カイオーガと戯れるアオギリ。
アオギリを追うカイオーガ。
そんなアオギリ達を上から眺めるマツブサ。
それらを見守るダイゴ。
レンがきあいパンチで遊んでいる中(本人は真面目)、そんなことが繰り広げられていた。
だが、突如として異変が起こる。
ルネシティの海が赤く、紅色の玉が放つ光のような赤、否、紅に染まったのだ。
この事態に対しての反応は、これまた人それぞれであった。一人はそんなこと知るかとサメハダーを駆り、一匹は己のフィールドの異変に驚愕、そして原因を探るべく潜行し、また一人はただサメハダーの上の一人を鼻で笑い、事態を俯瞰していた一人は、静かに頭を抱えるのだった。
そして、事態は加速する。
光が収まった直後、海面から何かが飛び出した。
それは、元の姿の原型を留めてはいるものの、明らかに先程までとは違う、グラードンであった。
これにはマツブサも大喜び。
着地するグラードンに近づく影が二つ。
一つは例の少年。グラードンに対して恐れを抱いた様子もなく、その背に飛び乗った。グラードンは特にアクションを起こさない辺り、特に問題はないのだろう。
もう一つは海中から。そう、カイオーガである。海の主は敵対者を許さない。あるいはそれが水ポケモンであったなら、水ポケモンでないにしても水棲のポケモンであったなら許すこともあったかもしれない。しかし、グラードンは、グラードンだけは許さない。遺伝子レベルで刻まれている意志が、カイオーガを駆り立てた。
カイオーガが海中から飛び出す。カイオーガは敢えて物理的なアプローチを仕掛けた。愚策と言ってはいけない。カイオーガとて自分の長所短所、向き不向き程度把握している。周囲の環境、自分の状態を把握した上での行動だ。
先程まで戦局はカイオーガに傾いていた。だからこそ、人間との鬼ごっこにも付き合ってやっていたし、今こうして物理的な「のしかかり」を敢行している。
すなわち、舐めプ。
何やら海が赤く光ったが、だからどうということもない。現に海は元に戻った。
そう、負ける要素などなかった。
天候はほとんど雨。相手のフィールドは狭く、此方はいくらでも動ける。余程のミスや思いがけない介入がなければ負けはない。
今、海から飛び出しても、自らの能力によって降っている雨が、有利を教えて……。
雨が、降っていない。
グラードンはあんなにも大きかっただろうか。あんなにも熱と光を放っていただろうか。あれではまるで、眠りにつく前の、全盛期のそれではないか。
ここに来て、カイオーガは自らの判断ミスを悟る。
このままでは不味い。一旦退こうと試みるが、既に空中。最早慣性に従う他ない。
かに思われたが、超古代ポケモンは伊達ではない。カイオーガ渾身のハイドロポンプ。口から放つそれの反作用によって後ろに下がることを思いつき、即、実行。
だがそうは問屋が卸さない。
既に天気は雨どころか雲一つない。日差しがとても強い。加えてグラードンが放つ熱。
カイオーガの放つハイドロポンプと言えど、弱体化は免れない。結果、カイオーガの飛ぶ勢いを殺すには至らなかった。
いよいよ慣性に従う他ない。せめて、当たりを強く。少しでも与えるダメージを増やす方向へシフトした。
ここでグラードンが動きを見せる。右の足を引き、更に腰を捻りつつ右腕を引いた。
何をしているのか、など明白である。力を溜めているのだ。
カイオーガが間近に迫ったその時、グラードンの背に乗った少年が声を上げる。
「……きあいパンチ!!」
声に合わせてグラードンが動く。拳だけでなく、上半身ごと。
その拳は、カイオーガの体を真下から打ち上げるように、遠心力を伴い地面を削りつつカイオーガに突き刺さった。
グラードンもカイオーガも知らないことであるが、その動きは、リングマが川を泳ぐ獲物を仕留める時のそれとよく似ていた。
リングマを超えるパワーを持つグラードンによるアッパーである。
当然、飛ぶ。
まして、そもそもが、きあいパンチである。
飛ぶだけで済んでよかったと言えよう。いや、むしろ、きあいパンチを受けても飛ぶだけで済むカイオーガがすごいと考えるべきか。
いずれにせよ、今回の復活に伴う戦いは、グラードンの勝利であろう。
その時点でその場に居たものは皆、そう、思っていた。
「レックウザ……破壊光線!!」
その声が聞こえるまでは。
━━━━━
レックウザの口にエネルギーが集まり、光線となってグラードン、らしいポケモンに向かって飛んでいく。
言うこと聞いてくれてよかった。
破壊光線が直撃して、爆風で相手の姿が見えない。もろに入ってはいた……けど、これで終わるわけない。
「きあいパンチ!!」
やっぱり……。また、いつの間にか殴られてるパターンのやつかな……?
煙が晴れた。
!! 飛んできてる!?
気を付けのような姿勢で体を真っ直ぐに伸ばしたグラードンが凄い勢いで飛んできていた。
まさか、飛んでくるなんて……なんてインチキ! ……コイキングも飛んでたか……。
ってこんなこと考えてる場合じゃない!
「避けて! レックウザ!」
言ってから気付く。
そうだ……破壊光線には反動があるんだった……。避けられないじゃない!!
でも、でも、何か……!
「迎え撃って!!」
レックウザが動けるかはわからない。だからせめて、振り落とされないようにしっかりしがみつく。
「くぅぅぅっ!!」
衝撃で振り落とされそうになったけど何とか耐えられた。レックウザもまだ大丈夫そうだ。
グラードンは……?
下の方で重たいものが水に落ちる音が聞こえた。
え、今のって……そうなのかな。終わったの……?
……天気は、もう元通り。分厚い雲も、強い日差しも……無くなってる。海も静か。
本当に、終わったみたい。
「……ーい」
ん?
「おーい! ハルカちゃーん!」
見ると、レン君が私に向かって手を振っていた。
満面の笑みだ。
……
私はポケモンではないけれど、今、私の心に燃えてるこれをエネルギーにできるのなら。
……この感情のままに殴ったなら。
きっとそれは、きあいパンチなんだろう。
そう、思った。
読んで頂きありがとうございました。
楽しんでいただけたなら何よりです。
間が空いたせいか、キレというか、勢いというか、きあいが足りてない気がしますね。反省します。
ちなみにレックウザの破壊光線をゲンシグラードンに撃つと急所引ければ低乱数確一です。だから元々は破壊光線で終わってる予定でした(主人公補正)。
フラインググラードンはエドモンド本田の頭突きをイメージされるとよいかと思います。
次回予告
漸く終息した天変地異。
ついに最後のジムであるルネシティジムへ挑む。
しかし、ミクリの師匠、アダンの独特なファッション、言葉づかい、ポケモンによる水のイリュージョンを前に苦戦を強いられる。
そこに突如舞い降りるインスピレーション。
「芸術は、爆発だ!」
究極芸術はどこまで通用するのか。
次回 お前だパンチ 第18話
「トムの勝ちデース」
明日の自分に、きあいパンチ!!
ちなみに尺の都合でカットしましたが、グラードンの地震を地面殴って止めるシーンとか考えてたりしました。カットでも何でもないけど書き忘れてたシーンとかもあったり……そのうち足します(努力目標)