お前はまだきあいパンチを知らない   作:C-WEED

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またまた日数が開いてしまった。今回のは完全に怠慢です。申し訳ない。

前回のあらすじ

カイリキー♂「アッ━━━━━!!」

そんな感じ


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 後に少年はこう語った。

 

「いや、悪気は無かったんですよ」

 

 

 

「おや、ダイゴさんじゃないですか」

 

「ん? 君は……確かレン君だったね」

 

「はい、お久し振りです。騒がしいみたいですけど何かあったんですか?」

 

「マグマ団からトクサネ宇宙センターに予告状が届いたんだ」

 

 デボンコーポレーションの御曹司であり、ホウエン地方ポケモンリーグチャンピオン、しかもイケメン。もはや設定盛りすぎと言ってもいい超絶勝ち組の石マニア、ツワブキ・ダイゴ。

 

 

 彼の不運はここから始まった。

 

 

 本来の流れならば、ここに来るのはハルカの筈だった。しかし残念。彼女は現在ジムに挑んでいる。

 

「予告状ですか……それはまた……」

 

「ああ、これだよ」

 

 ダイゴはレンに予告状を渡した。ざっと目を通すレン。顔を上げた彼の表情は困惑だった。

 

「……これ、どうなんですかね。俺なら予告なんてしませんけど」

 

 レンの言い分は尤もである。ロケットの燃料を盗むのであれば黙って突撃して強奪する方が合理的だ。

 

「確かにそうだね……」

 

 繰り返すがダイゴはイケメン御曹司チャンピオンである。そう、つまり、当然頭もいい。マグマ団の目的、そして今回の予告状、様々な情報が頭の中を駆け巡っていた。

 

「もしかして、この予告状は囮なのか……?」

 

 ダイゴの灰色の脳細胞による名推理。当然、レンも食い付く。

 

「……そうなんですか!? でも、そうなると本当の目的って何なんでしょう?」

 

 さらに回転するダイゴの脳味噌。

 大地を増やすことを目的とするマグマ団。彼らが狙うべきものは……? ロケットの燃料が囮だとするなら……このトクサネには特に狙うようなものはない筈。

 

「ロケットの燃料どころかロケット丸ごと持ってったりして」

 

「いや、流石にそこまでは……」

 

 ない、と言い掛けてダイゴは再び考える。ロケットを盗んだ場合、彼らは何ができる……?

 

「まさか、隕石を……?」

 

 ここで石マニアダイゴの悪い癖が出る。石がありそうな所に意識を向けると、つい思考が石に移ってしまうのだ。

 

「隕石なんてどうするんですか?」

 

「いや、隕石を馬鹿にしちゃいけないよ。隕石にはまだまだ未知の部分が残っているんだ。マグマ団はそこに目をつけたのかもしれない」

 

 そう、隕石とは素晴らしいものだ。あの独特の形状、表面の凹凸、曲線、一つ一つの隕石によって異なる色合い、そして何より隕石からは不思議なパワーを感じる。石マニアとして譲るわけには……いやいや、マグマ団に悪用させるわけにはいかない。

 

「そうなんですか……」

 

 しかし、こうして此方が疑いを持ち、色んな可能性を考えて各方面に人員を割いた結果手薄になったところを狙いロケットの燃料を盗むつもり、ということも考えられる。

 

「……駄目だ、判断材料が少なすぎる」

 

 やはり予告状を信じるしかないのだろうか?

 

 

「そう言えばダイゴさんって石好きですよね」

 

「ん? ああ、そうだよ」

 

「宇宙センターの前になんか白い石あるじゃないですか。あれって何なんですか?」

 

「ああ、あの石か。あれが置かれたのは数年前、まだロケットの打ち上げが始まっていなかった頃だよ。当時の宇宙センターの職員の人達がロケット打ち上げの成功を願って置いたそうだ。石の出所はよくわかってないけど、もしかしたらこの石も隕石なのかもしれないね」

 

「へぇ。もし宇宙からの石ならこの石もポケモンと関係あったりするかもしれないですね」

 

「……と言うと?」

 

「ピィとかって確か流れ星がどうのこうのって話じゃありませんでした?」

 

「ああ、成る程。確かに流れ星に乗ってやってくるとか言われていたりするね。この石とも関係あるポケモンがいるかもしれない、か。もし居るなら見てみたい「マグマ団だ! マグマ団が来たぞ!!」何っ!?」

 

 誤算だった。まさか襲撃に備える間もなくやって来るなんて。確かに襲撃のタイミングは予告されていなかったが……。なんて失態だ。

 

 とは言え、自分の実力を以てすれば事態の沈静化は難しいことではない。マグマ団は数は多くとも一人一人の実力は大したものではないのだ。

 

「レン君、君も協力してくれないか?」

 

「はい! 任せてください!」

 

 彼もそれなりに実力はあるようだし、余計楽になるだろう。

 

 

 

 中に入って物陰から様子を伺う。職員達は一ヵ所にまとめられているようだ。

 

「やはり、かなりの人数だな……レ「ダイゴさん! 息を止めておいてください!」っ!?」

 

 唐突に声が掛けられ、反射的に口をハンカチで覆う。咄嗟にハンカチを出せたのは、御曹司たるものハンカチは常に持ち歩かなければならないという父の教育の賜物だ。

 

 後ろを見ると、レンが2体のポケモン、オオスバメとキノガッサを出していた。一体何を……?

 

「キノガッサ、全力でキノコの胞子! オオスバメは胞子を風で拡散しろ!」

 

 キノガッサの頭のかさから爆発するように胞子が放たれる。風で広げる必要など無さそうな勢いだ。しかし、オオスバメは忠実に指示に従う。

 センター内部はしっかり空調が効いているが、ポケモンの起こす風に勝てるほどではない。胞子の乗った風がセンターの一階で暴れまわった。

 

「これで、一階は制圧完了ですかね」

 

 まさに死屍累々といった有り様だった。勿論死んでいるわけではなく眠ってしまっただけだが。

 

「やりすぎじゃないかい?」

 

「そんなことないですよ。眠らせただけなんですから」

 

 ……まあいい。気にせず行こう。事態を収めることが先決だ。

 

━━━━━

 

 一方その頃、トクサネシティジムに挑んでいたハルカとハルカのポケモン達は苦戦を強いられていた。

 

 理由はよくわからない(恐らくレンが関与しているのだろう)が、ジムリーダーの意欲が凄い。そして、そもそもタイプの相性が悪い。プラスルもキノガッサもバシャーモも不利だ。ペリッパーと、浅瀬の洞窟で捕まえたタマザラシは、比較的有利だが……。

 

「ネイティオ、日本晴れ!」

 

 これである。弱点を突ける筈だった水タイプの技が半減されてしまう。先程ネンドールの地震によってプラスルが落とされた。こちらの場にはペリッパー。残るポケモンはバシャーモ、キノガッサ、タマザラシ。

 タマザラシが捕まえたばかりであることを考えれば、実質2体で状況を打開しなければならない。しかも2体とも格闘タイプである。キノガッサは草タイプの技もあるがせいぜいメガドレイン位だ。焼け石に水でしかない。

 

 負けたくない。

 どうすべきかごちゃごちゃと考えながらも、そこだけははっきりしていた。

 

 

 こういう時ってよく「こんな時あの人だったら……」みたいなこと考えるよね……。

 

 

 アニメなどでよくある劣勢に立たされたキャラクターの思考。勝つか負けるかは別問題として、流れを変えることはできる。

 

 しかしハルカはショックだった。自分の思考に、である。こんな時……と考えて真っ先に思い付いたのは、某きあいパンチ野郎だったからだ。

 

 

 レン君は一旦置いとこう。あれは駄目よ。テレビなら良い子は真似しないでねってテロップが出るやつ。私は良い子だから危ないことは考えないわ。

 

 

 しかし、こんな時……の思考の宛が少ないのも事実。レンを無しにするならユウキ、となるが彼は大して強くない。各ジムリーダーは強かったがそんなに交流があったわけではない。

 ここでハルカに天恵が下りる。そう、自身の父親である。しっかり実力者だし、ある程度想像できる。テレビでありがちなパターンだ。これなら勝てるかもしれない。

 

 

 パパなら、こんな時……タイプ的に不利で明らかに勝ち目が薄い時……ん?

 

 

 しかし、ハルカは思い出した。父は真面目で実直である。劣勢に立たされているということは自分の努力不足であると反省し、降参して暫く修行した末に再度挑む、ということを普通にやりかねない。

 

 

 ……打つ手無し、なの?

 

 

 無いのでは無い。選ぼうとしていないのだ。レンなら、あの少年なら、どうするか。考えようとしていない。それをすれば勝てる、そんな気はしているが……やはりまだ、常識は捨てられないのだ。

 

「降参するの?」

 

「だとしたら思っていたより……いや、何でもない」

 

 フウとランから声が掛けられた。

 勝ちたい思いと常識的思考がせめぎあう。

 

 そもそもなぜこんな葛藤をしなければならない? 私はもともと普通の常識的な人間だった筈だ。どうしてこうなった?

 答えは簡単、きあいパンチ野郎のせいだ。私が今こんなに悩んでいるのも、やたらジムリーダーが勝ちに来てるのも、みんなきあいパンチ野郎のせいだ。

 

 ……もう、いいのではないか。

 

 

 ……そうよ、そもそもこんな状況になったのはみんなレン君のせいなんだから。なら、もう、レン君の発想に頼っても、いいよね? レン君の行動の結果を片付けるのはレン君的思考。別に間違ってないよね?

 

 

 そうと決まれば話は早い。こんな時、レンならばどうするか。

 

 "そもそもきあいパンチ使ったらこんな状況にならないんだよね"

 

 言いそうだ。でも役に立たない。

 

 "逆に考えるんだ。負けちゃってもいいさって考えるんだ"

 

 却下。

 

 "きあいパンチって指示だしたら案外行けるんじゃない?"

 

 却下……もしかしたら、勝てるかもしれないが……しかし、譲れない。

 

 "いっそバシャーモとキノガッサに入れ換えちゃおう"

 

 ……これか? きあいパンチ以外なら、レンらしいと言えばらしい気はする。

 

 

 正直不安だけど……やるしかない……!

 

「降参なんてしないわ! 戻って、ペリッパー。お願い! バシャーモ! キノガッサ!」

 

━━━━━

 

 二階に上がると、再びレン君はキノコの胞子を使った。速やかな事態の沈静化を図るならば別に間違った行動ではないのだけど、釈然としないのは何故だろう。

 

「これで解決ですかね?」

 

「……いや、まだみたいだよ」

 

 奥を指差す。そこには二人のマグマ団が立っていた。一人は服装が違う。この男がリーダーだろうか。近づこうとすると、リーダーらしき男が目を見開いた。

 

「また……またお前か!」

 

 !? 何のことだ?

 

「どうも、お久しぶりですか?」

 

「ああもう最悪だ! グラードンはどこかに行ってしまうし、燃料を奪いに来たらお前が来た! 何で来たんだ! 私に何か恨みでもあるのか!?」

 

 どうやら、レン君と何かあったらしい。一組織のリーダーをここまで取り乱させるなんて、一体何をしたんだろう。いや、今はそれは置いておこう。

 

「何故ロケットの燃料を盗もうとしたんです?」

 

「嫌味か貴様! 誰のせいだと」

 

「ウヒョヒョ、リーダー、そこからは俺が話しますぜ。一旦落ち着いてください」

 

「……ふむ、任せる」

 

「端的に言うぞ。グラードンがどっか行っちまって俺達は最早目的を達成する手段を失った。もう仕方ねぇから煙突山にロケットの燃料をぶちまけて、ドカンッとな。やっちまおうと考えたわけよ」

 

「そんなこと、させる筈がないだろう?」

 

「そうだそうだ!」

 

「ええいっ! 五月蝿い! こうなったらまとめて蹴散らしてくれるっ!」

 

 リーダーの男が叫ぶ。……全然落ち着いてないじゃないか。いや、それほどまでにレン君に対して怒っているのか?

 

「そんなことはできませんよ! だって今の俺は逆立ちしていない! そして俺だけじゃなく、ダイゴさんもいる。結局ダイゴさんが一番強くて凄いんだからな! あなた方じゃあ逆立ちしたって勝てないことを教えてあげますよ!」

 

 ……何故レン君も相手を煽るようなことを。……まあいい。僕が一番強くて凄いのは事実だ。それに、ようやくそれらしくなってきた。敵の首魁をポケモンバトルで倒す。まさしく王道。これぞ強者の行く道。

 

 相手がモンスターボールに手を掛けるのに合わせて僕もモンスターボールを手に取り、投げた。

 

 僕の一番の相棒、メタ……あっ。

 

 

 出てきたのはメタング。そうだ、失念していた。今は二体目の育成をしているところだった……。

 いや、大丈夫だ。肩書きは伊達じゃない。やってやるとも。

 

 

 レン君が繰り出したのはフーディン。きあいパンチという指示には驚いたけれど、一撃で相手のバクーダを沈め、僕のメタングもメタルクローでグラエナを倒した。

 このまま何も起きなければ余裕だろう。

 

━━━━━

 

 メタグロスの頭脳はスーパーコンピューター並の能力がある、というのは有名な話だ。実際、難しい計算をスーパーコンピューターよりも早く解いたとか解かなかったとか……。

 何にせよ、メタグロスは非常に頭が良い。

 

 ではメタングはどうか。

 図鑑の説明によれば、メタグロスは二体のメタングが合体したものだ。ということは、メタングの頭脳はメタグロスの半分、つまりスーパーコンピューターの半分くらいの頭脳があると考えられそうだ。

 

 しかし、そうではない。現実は非情である。そもそもメタングはどのようにしてできあがるか。図鑑の説明によれば、二体のダンバルが合体してメタングに……。勿論、一体のダンバルを育てれば、メタングに進化するがそれは置いておく。

 そう、つまり、メタングの頭脳はダンバル二体分程度でしかないのだ。

 

 ダンバル二体分の頭脳がどの程度かは察していただきたい。

 

 

 頭脳がダンバル二体分、加えてこのメタングはやんちゃな性格であった。

 きあいパンチでバクーダを倒すフーディンを見て沸き上がる疑問をそのまま投げ掛けてしまう程度にはやんちゃであった。

 

 メタングにはわからなかったのだ。エスパータイプの癖にサイコパワーを駆使した攻撃をしない理由が。

 そしてその理由を推し量れるほど賢くなかった。ダンバル二体分は伊達ではないのだ。

 

 内容を要約すると次のようになる。

 "えっ何で格闘タイプの技使ってんすか? エスパータイプじゃないんすか? あ、もしかしてエスパー技難しくて覚えられなかったんすか?"

 

 

 これでキレないフーディンではない。知能指数5000の脳味噌、キレッキレの脳味噌を持つフーディンは即座にぶちギレた。

 

 が、キレたからといって殴りかかるのは阿呆のすること。思慮深く懐の深い知能指数5000たる自分のすることではない。

 

 フーディンは待った。その瞬間を。

 

 

「よし、きあいパンチだ!」

 

 

 今がその時。

 

 知能指数5000たるフーディンはわざわざ対象を指定しなくとも察することができる。これぞ信頼。それ故の先程の指示。しかし、フーディンはこの指示を逆手に取る。

 

 誰を殴れとは言われていない。

 

 つまり、この糞生意気な鉄塊を殴っても、致し方無いことなのだ。レンには悪いとは思うが、今回だけだ。一回までなら誤射である。フーディンは自分の判断を正当化した。

 

 いざ決行。しかし、素手では痛かろう。たとえ怒りをぶつけるためとは言え、手を痛めるのは些か拙い。かといって、いつものエスパー的きあいパンチでは怒りは伝わるまい。

 

 よってフーディンは己が叡智の金属器(スプーン)を使うことにした。

 ケーシィからユンゲラーに進化する際に何故か手に持っている金属器(スプーン)。ユンゲラーからフーディンに進化する際には二本に増えている金属器(スプーン)。その正体は、フーディン自身によって生み出されたサイコパワーの集合体である。フーディン自身最近気付いたことであるが、この金属器(スプーン)は案外自在に変形できる。

 

 そこで、フーディンは二本をまとめて巨大な一本の金属器にした。そして、きあいを込めて、奴の脳天へ、ダンバル二体分の脳味噌があるであろう場所へ、叩き付けた。

 

 

 意識を失ったことで念力が消え、地面に落ちるメタング。

 

 

 機械は叩けば治る。

 

 いつか聞いた言葉。フーディンは落下するメタングを見ながらその言葉が嘘であったことに気付き、落胆していた。

 

━━━━━

 

 メタングが落ちていく。

 ダイゴさんを見ると、何とも間の抜けた感じの顔をしていた。イケメンは何をしてもイケメンと言うけど、流石にアホ面まではイケメン足り得ないようだった。

 

 

 このあと滅茶苦茶謝罪した。

 

 




読んで頂きありがとうございました。楽しんで頂けたなら幸いです。
夏休みですね。如何お過ごしでしょうか。朝食にアイス食べると本当どうしようもない夏休み感あって楽しいですよ。

次回予告
遂に海底洞窟へ足を踏み入れるハルカ。その最奥で待つものとは!?(ヒント:アオギリとカイオーガ) そして発見する「地震」。崩落か、勝利か。ハルカが選ぶのは……
一方その頃、ユウキはミナモデパート入り口に一人佇んでいた。

次回 お前だパンチ 第15話
ルーラじゃねえだろフザケンナ

明日の自分に、きあいパンチ!


何故奴らは当然のように洞窟の天井を突き抜けて飛んでいったのだろう。あ、でも海底洞窟はそれがあったからこそ一瞬で彼処に出られたのかもしれない。

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