死を視る王   作:水天宮

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お待たせして済みません。
完結とクォリティ、前者を優先させることにしました。
なので結構雑です。本当にすみません。


12

 

 

 

マスターから遠坂時臣の死亡の連絡が入った。

加えて、言峰璃正も死んだらしい。十中八九、息子の仕業だろう。

自らの在り方に目覚めた彼のことだから、そういう結末になってもおかしくない。

 

 

……まぁ、私には関係のない話だが。

 

 

 

 

 

夕日が冬木の街並みを照らしている。

この地に降り立ってすぐに、アイリスフィール共々、黄昏空を眺めたことが遠い過去のように思える。

まだ二週間にも満たないというのに、死闘に身を投じるうち、こうも朧気な記憶となってしまった。

 

 

 

 

 

 

「────、来るか」

 

 

 

魔力の流れを感じる。

マスターの声が脳裏に響く。

瞬きの刹那、私は土蔵の入り口に立っていた。

 

 

「せい、ばー」

「無事か久宇」

「らいだーが、まだむ、を……」

「分かっている。今から追跡する。マスターもすぐに来るだろうからそれまで耐えろよ」

 

 

鮮血に塗れた久宇に治癒の魔術を施し、すぐに踵を返した。

武装を纏い、飛行魔術でライダーに偽装したランスロットを確認する。

魔力放出で跳躍し、猛スピードで飛行しながら彼を追跡。

 

 

 

 

 

 

「────Arrrr……!」

「仮にも征服王に扮するならば、もっと速くならんのか」

 

 

脚に魔力を込めて蹴り飛ばす。

同時に抱えられたアイリスフィールを引きはがし、空を突っ切っていくランスロットを追う。

すでに偽装は解けていた。する必要もないと判断したらしい。

兜はなかった。血走った昏い眼でこちらを睨み付けている。

 

 

 

剣戟と打撃に魔力とこめて吹き飛ばしながら宙を移動する。

丁度、未遠川の河川敷に差し掛かったあたりで、脳天から踵を落として地に墜とした。

私も地に降り、少し離れた場所へアイリスフィールを寝かせ、防御結界を張る。

そうして、改めて騎士に向き直った。

手にとるのは破魔の宝剣(モルデュール)

 

 

 

 

 

 

「決着をつけるぞ、ランスロット」

「AAAAAAAthurrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr────!!!」

 

 

 

素手で殴りたいのは事実だが、そうも言っていられない。

ここでランスロットを倒し、顕現した小聖杯を破壊しなければならない。

……いや、それだけならばアイリスフィールをこの場で殺せばいいだけだ。

ただ、切嗣への誤魔化しをどうするべきか、思いつかない現在ではあまり上策とはいえないだろう。

 

 

 

 

 

それにしても、目の前で叫びと共に襲い掛かる男は随分と好き勝手している。

ある程度、間桐雁夜の指示は聞いているようだが、それでも独断行動が目立つのは気のせいか。

私の記憶にある気高き湖の騎士は一体どこにいったのだろうか。

 

 

 

 

 

「AAAAAAA…………rrrrrrrrrrrrr」

「どうした? そんなものなのか? なぁ我が友、栄えある湖の騎士よ」

「AAAARRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

魔力供給のラインを断ったためか、立ち振る舞いにやや精彩を欠いているように見える。

それでも相変わらずふざけた技量であることは間違いないのだが、分かりやすく動きが悪い。

 

 

 

これなら、いける。

 

 

 

 

 

「直死────」

 

 

 

脳が過熱し、世界が不安定に青く線が引かれていく。

 

もはや私の視界には彼と彼の死線しか映っていない。

それ以外には何もない。

 

 

 

死線をめがけて宝剣の刃を滑り込ませようとするが、奴の武器に阻まれ上手くいかない。

フェイントもかけながら死線を斬ろうと剣を繰り出すも、たちどころに防がれる。

 

 

 

 

「まったく……狂おうと、魔力が不足だろうと、変わらぬ技巧。感服したぞ」

 

 

 

 

いつの間にか空は蒼い闇が下りてきていた。

恐らく、星の一つ二つも出ている頃合いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「AAA…………rrrrr…………!!!!」

「──っ、ハァアアアアアアアアアアア!!!!!!!」

 

 

目に見えて出来た隙。恐らく魔力の不足で行動に限界だったのだろう。

ぐらつくランスロットの死線に魔力放出と共に渾身の突きを繰り出した。

 

 

 

 

 

 

しばし、静寂が河川敷に満ちる。

息が荒い。

けれど、ランスロットの呼吸は狂化が嘘のように穏やかなものだった。

 

 

 

 

 

「……何か、言いたいことは」

「王よ──何故、終幕に連れて行って下さらなかったのですか」

「そなたたちには未来の民を導いてほしかった。浅からぬ因縁はあれど、それでも心新たに進んでほしかった。────そこに、私のような怪物は不要だ。だからこそ、最後に溜まった要らない事物を私の死と共に洗い流した」

「それでも、私は……貴方と共に戦い抜いて、騎士の本懐を果たしたかった……!」

「ならん。そなたのような類まれな才持つ騎士を、どうして無駄に消費できようか」

 

 

 

ままならない、と他人事のように思う。

置いて行かれる重みがどれだけのものか、私には決してわからないのだろう。

 

 

 

 

ほぼ瓦解寸前だった円卓が急速にまとまったのは、間違いなく朱い月の襲撃だろう。

互いに相争う存在を纏めるには、共通の敵を作るという手段がある。

加えて、ブリテンの滅亡と私の死によって、関係性をリセットして新たな可能性を示した。

……それが最善と信じてはいるが、納得していない騎士もいただろう。例えば、彼の様に。

 

 

 

 

「本当に、そなたには感謝している。……貴方たちのおかげで、私は前を向くことが出来た。──うん。ありがとう、ランスロット」

「──王に感謝されながら逝くなど、まるで私が忠義の騎士であったかのようではありませぬか」

「何を言う。私に仕え、ギネヴィアを支え、後の国を導いた貴方が不忠であると? 冗談はその飛び抜けた技巧だけにしておけ。気高くも心優しい、騎士ランスロットよ」

 

 

 

 

つらそうに顔を歪めていたものの、最後には憑き物が落ちたかのような安らかな面持ちでランスロットは消滅した。

後に残ったのは私と横たわったままのアイリスフィールだけである。

 

 

 

 

 

 

いっそ嫌になるくらい、心に清々しい涼風が吹いている。

こんなにも爽やかで快い気分だったのは生前にもない。

……そんなにも私は、無意識に彼らのことを気にかけていたのか。

 

 

 

見上げると、星が輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と人間らしい振る舞いをするのだな? 雑種」

 

 

 

不意に、尊大な声が耳に入る。

振り返ると、黄金の鎧をまとった傲慢の体現たる王がこちらに視線を向けていた。

 

 

 

 

 

「何の用だ英雄王。遠坂時臣死亡を理由に協定の破棄でもしにきたのか?」

「いやなに。狂犬めの死に様を見に来てやったのだが……思いのほかつまらん結末であった」

「そうか」

「しかし……随分と晴れ晴れとした顔つきよな。そこまであの雑種に貴様の心を寄せていたと?」

「色々と奴も悩んでいたらしい。今回の件に、何らかの意味があれば──いや、英霊には無駄な思考か」

 

 

 

私がそういうと、怪物()が彼を気に掛けるのが愉快だったのか、呵呵大笑する英雄王。

 

 

 

「ハハハハハ、ハハハハハハハハハハ────それは本気で言っているのか? その手で望みを果たしながら、未だに己が本質を知らぬと? 無垢にもほどがあるぞ雑種……!」

「英雄王……?」

「よい、興が乗った。では我自ら貴様に教授してやる。万金よりも上回る王の言葉、静粛に拝聴せよ」

 

 

 

 

丁度いい獲物を見つけたと言わんばかりに、愉悦に口角を釣り上げるアーチャー。

真紅の眼差しは私を評定するかのようにジロジロと向けられている。

 

 

 

「そも、ただ貴様のマスターに勝利を捧げるだけなら、他のマスターを始末すればいいだけの話だ」

「あぁ……中々上手くいかないものだな」

「だが貴様ならば可能であるはずだ。夜の衣と宝剣、貴様の宝具を駆使すれば不可能ではなかろう?」

「確かにそうだが……」

「加えて、あの狂犬と最初に戦った際、貴様はあろうことか剣も鎧も捨て、生身のぶつかり合いを選択した」

「あの時はさすがに苛立ちを感じてな」

「それだけではあるまい? 確実な手段を捨て、自らの身を危険に晒してまで貴様は白兵戦を望んだ。これが何を意味するのか、貴様ならば分か────いや、貴様のことだから理解しえぬか? だが解答はすでに出ている。何せ、たった今、貴様がその手で果たしたのだからな!」

 

 

 

 

 

そう言って、英雄王は沈黙した。

……私が果たした望み? ランスロットの言葉を聞くことではなく?

本質とは何だ。私は怪物。それ以上でも以下でもない。

────アインツベルンの城で英雄王が語った、私自身が気づいていないことが、あるということか。

 

 

 

 

 

私が今、この手で果たした事?

ランスロットと戦いたかった……いや、違う。この胸の清涼感はそこではない。

もっと根底的な、衝動的なモノ。この目が覚めるような快感は、一体いつ生まれたものか。

 

 

 

剣を握りしめ、眼を閉じ、先の戦いを思い起こす。

空を往くランスロットを蹴り落とし、剣戟を繰り広げ、死の線を宝剣で突き────

 

 

 

 

 

 

「剣、で……?」

 

 

 

そうだ。

この爽やかな心地は、ランスロットを剣で穿った瞬間に湧き出たものだ。

鍔迫り合いの果てに私が掴んだ決着の瞬間に胸の内から溢れ出たものだ。

 

 

 

「そう、私が……この手で、殺して────」

「ようやく気付いたか」

 

 

 

金属のこすれ合う音。

こちらに歩み寄る英雄王。

 

 

 

 

 

 

 

 

「無論、ただ殺すことではない。殺戮も、暗殺も、貴様の望みとは遠く、決して交わることはない。貴様が望むのは一対一の殺し合い、その果てに相手を殺人することにほかならない」

 

 

 

叙事詩に語られるすべてをみた人。

たった数度の邂逅で、私の欲求を見抜いた慧眼。

 

 

 

「如何なる邪魔もなく、たった二人だけの世界を作り上げ、ただ命のやりとりのみを行う。いや……邪魔すらも貴様には甘美な味付けに過ぎぬのだろう。それすらも、斬り伏せてしまうのだから」

 

 

 

そうだな。その通りだ。

もし仮に殺し合いを阻むモノが現れようと、すべて殺してしまうのだろう。

 

 

 

「それこそが貴様の欲求、昇華された殺人衝動の在り方だ。そしてそれは果たされた。どうだ? かつての騎士を殺した気分は」

 

 

 

静かに紡がれる男の声が清流の様に耳に入ってくる。

……私は、言葉を紡げない。

 

 

 

 

 

 

 

「少し急かせすぎたか。まぁよい、在り方を自覚したばかりは、狼狽える者が多いことよ。では、我直々に貴様の望みを自覚させてやったのだ。代償に、そこの女をもらうぞ」

「待て何故そうな、────!」

 

 

 

 

抗議しようとしたが、封じるように宝剣の雨が私に降りかかってくる。

回避と防御の隙にアーチャーが乱雑にアイリスフィールを持ち上げる。

 

 

 

 

 

 

「もとより少し予定が狂ったに過ぎない。我らの雌雄を決するときこそ、聖杯戦争終結の戦いだ」

「待て、そもそも貴様何のために私を────グゥッ……!?」

 

 

 

 

さらに問いただそうとしても、夥しいほどの武器群がそれを許さないとばかりに降り注ぐ。

 

 

 

 

 

 

「ではな。その時を、楽しみにしているぞ」

「待てアーチャー! 話はまだ────!」

 

 

 

 

 

再び我が身を貫かんと牙をむく刃の雨。それを凌いだときには、二人の影はどこにもなかった。

 

 

 

 

「あぁクソ、何をしているんだ私は……!」

 

 

 

 

 

 

 

否。

これはある意味好都合ではないか。

一度、ランサーと合流して事情を説明し、小聖杯を破壊する手はずが整えられる。

 

間違いなく、次の朝にはすべてが終わっているだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

切嗣にはバーサーカーを倒したこと、アイリスフィールがアーチャーに連れて行かれたことを伝えた。

 

 

 

 

一度、魔力の大きな揺らぎを感じ取った。十中八九、アーチャーとライダーだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして深夜、私は、建設途中の市民会館内を進み、ホールを目指していた。

すでに、間桐雁夜と遠坂葵も対面しただろうか。

衛宮切嗣と言峰綺礼は間違いなく戦っているはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

歩いているうちに、膨大な魔力の高まりと同時に破壊音が響いた。

泥があふれて施設の一部を破壊したのだろう。

 

 

 

 

重い防音扉を開けて、ホール内へ踏み入る。

宙に浮く聖杯。その下には大穴があいていた。

まだ生き残っているサーヴァントがいるから聖杯の顕現は起きないかもしれないと思ったが、杞憂だったらしい。

 

 

 

 

 

「待ちわびたぞ、セイバー」

「……アーチャー」

 

 

 

 

 

聖杯の荘厳さにも負けない鎧の燦然とした輝き。

真紅の瞳は細められ、唇は薄く笑みを浮かべている。

 

 

 

 

 

 

 

「気分はどうだ? 己の在り方を自覚し、望みを果たし、もはや思い残すことなどあるまい?」

「……何が言いたい」

「そう照れるな。我の言葉はこの世で最も重いとはいえ、それを一々実感しては気も休まらぬ」

「何の話だ?」

「あれには留まらぬ。人が何たるか。世界は如何にして動いているか。我が全て教えよう、無垢なる赤子よ」

 

 

 

 

 

 

 

……つまり?

 

 

 

 

 

 

 

「我が妻となれ。貴様に課せられたあらゆる縛りより解き放ち、貴様が人間として生きる導きとなろう」

 

 

 

 

 

 

……いや、数ミリ程度の予想はしていたが。

それでもまさか本当に求婚されるとか。

 

 

 

 

 

 

急速に胸中が冷え込んでいくのが分かる。

固辞するのは当然として、この男も結局殺さなくてはならない。

今回は例外があるとはいえ、基本的に生き残ったサーヴァント同士が行うのは決着の戦闘と決まっている。

別にランサーのような密約は結んでいない為、ここでさっさと果たしあうべきである。

 

 

 

 

 

 

 

である、のだが……。

 

 

 

 

 

 

「どうした、セイバー。あまりの歓喜に息さえできぬか」

「……不思議、だなぁ」

 

 

 

 

ぽつり、と言葉を漏らした。

思わず私は俯いていた。

 

 

 

 

「一対一の殺し合い、がしたくて聖杯戦争に参加した……うん、確かにあなたの言うとおりだよ。だからあなたと最後に殺し合うんだ、って。その覚悟でここまで来た。来た、のに……」

 

 

 

 

 

どうにか目線を持ち上げる。

 

 

 

 

 

「変だ。あなたとなら本当に本気で殺しに行ける。それが分かるのに、全然楽しくない……つまらない……なんでだろ……? でも、これもサーヴァントのお仕事だから、ちゃんとやらないといけないよね……」

 

 

 

 

聖剣を構える。

先程の求婚から心は冷え込んだままだ。

それでも、私は聖杯を破壊しなければならない。

この男を、殺さなくてはならない。

 

 

 

 

射出される刃を剣で叩き落とし、その隙にまた飛来する切先を跳躍で回避する。

再び襲い掛かる武器は風の魔術で全て払い落とした。

 

 

 

 

 

「もはや貴様に王の枷は不要。これよりは我の導きで、我の言葉で、我と共に人の世を歩もうではないか」

 

 

 

 

 

当然の摂理とばかりに断言する英雄王。

 

「濁世に揉まれ苦痛に苛まれながらその純真さを失わなかった貴様を、愛することが出来るのは天上天下において我一人。我が名はギルガメッシュ。人の万象を統べた人類最古の英雄王。人の苦楽を貴様に教えてやろう」

 

 

 

 

 

座席の影に隠れながら死の雨をやり過ごし、止んだ瞬間に聖杯めがけて走り出す。

その間にも大量の宝具が私を標的に定め飛来してくる。

第六感が訴える危険な攻撃だけ防御回避に努め、その他は全て無視。

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、返答を聞こ────」

Thunder,heaven spear(雷よ、天を往く槍と化せ)!」

 

 

 

 

 

何かを言おうとしていたが、聞かずに雷の魔術を叩き込んだ。

稲光が晴れた後には自動防御と思われる数枚一組の円盤が展開されていた。

 

 

 

 

 

 

「──貴様、王の問いを遮るか」

「別に、そういうのいいから。ぶっちゃけ、好みじゃないし」

 

 

 

返答の瞬間に放たれる新たな宝具。

剣で叩き伏せ、魔術で吹き飛ばし、跳躍で回避する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の攻撃に備えようとした瞬間、新たな人間の姿を確認した。

 

 

 

「……切嗣」

 

 

 

 

右手甲を掲げるマスターに、思わず笑みをこぼした。

結局、やることは決まったらしい。

 

 

 

 

「衛宮切嗣の名において、令呪を以て命ずる────セイバー、宝具で聖杯を……破壊しろ」

 

 

 

 

瞬間、聖剣に眩い光が満ちはじめる。

 

 

 

 

「あぁ……了承した、マスター!!!」

「貴様────!? おのれ……雑種の分際で我が婚儀を邪魔立てするか────!!!」

 

 

 

 

 

持ち上げた聖剣をどうにか押しとどめ、両足で地を踏みしめる。

振り下ろしそうになるのを耐えながら、その名を叫んだ。

 

 

 

「っ、()()()()!」

「あぁ、任せろ!」

 

 

 

 

 

舞台の天井からひらりと落ちてくる麗しい青年。

聖杯に赤の長槍と黄の短槍が突き立てられ、次の瞬間には私の宝剣が突き刺さる。

あらかじめ、このために預けておいたものだ。

 

 

 

 

「貴、様……!」

 

 

 

 

アーチャーの貌が憤怒に歪んだ瞬間、魔眼を起動し、一気に距離を詰める。

この男を殺すべきだろうか。

彼の霊基(肉体)に引かれた死線を視ながら不意に思考する。

……否。

マスターが命じたのは異なることであり、私が最初に目的としていたことも異なることだ。

 

 

 

「──じゃあね」

 

 

 

一言だけ残して、跳躍でアーチャーの頭上を通りながら聖杯に聖剣を向ける。

落下の勢いでそのまま突き立てた。

 

 

 

「ッ……ぐ──」

「第三の令呪を以て────」

「まだだ切嗣! その令呪は()に使え! 聖杯の破壊はこれで終わらない!」

 

 

 

 

 

一点集束。ランスロットがかつて無毀の湖光(アロンダイト)を扱ったときの様に、光を一点に無理やり集める。

 

 

 

 

「ッ──アアアアアアアアアアアアアアアアア…………!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

手元の輝きが一瞬、大きく爆ぜた。

耳と目が一時的に麻痺する。

それらが回復したころには、辺りは見るも無残に倒壊していた。

……如何に集束させたとはいえ、さすがに市民会館の崩壊は免れなかった。

天井に空が見えるほどの大穴があいている。

 

 

 

 

「……セイバー、「次」とはいったい……?」

「上を見てみろ」

 

 

 

 

 

ランサーの問いに短く返答し、穴から夜空を見上げる。

すでにそこには、赤黒い「孔」がその威容を示していたのだ。

 

 

 

 

「な……あれ、は────」

「そんな、バカな……」

「────マスター、命令を。あれは、貴方の指示がなくては壊せない」

「まさか……ここまで、予見して……」

「無論」

 

 

 

 

聖剣を構え、マスターに視線を送る。

絶望に染まっていた彼の表情は私の声でなんとか持ち直し、再び命じられる。

 

 

 

 

 

「第三の令呪を以て命ずる────セイバー。あの「孔」を、破壊しろ……!」

「了承した、マスター」

 

 

 

 

 

 

泥が今にも漏れ出そうだった。

令呪の魔力に、私が持っていた残りの魔力、呼吸と共に生み出す魔力を全て注ぎ込む。

……直死の魔眼が、僅かに映した、薄い薄い、微かな一本の線。

そこめがけて、全ての力を振り絞り、解き放つ────!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)──────────!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瓦礫に囲まれた小さな空間。

 

「……先輩。今度こそ、決着をつけないか?」

「ああ、いいぞ」

 

武器は既に失ったが、拳はいまだ健在。

かくして、とってつけたような蛇足の決闘を以て、第四次聖杯戦争は終結した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖杯の孔が齎した呪いは、騎士王の聖剣に防がれ、災害を起こすことは無かった。

その聖剣が僅かにとりこぼした泥の数滴を浴びた神父と王。

 

拾い上げた言峰綺礼が目覚めるのを待ちながらギルガメッシュは思考する。

 

通り過ぎたあの蒼い魔眼が、視界に焼き付いて離れない。

紺碧の青空を切り取ったような瞳も、それが映す死の安寧も、最奥に潜む、深淵の輝きも。

何もかもが、心に刻みつけられたように離れなかった。

 

 

 

時間が止まったような心地だった。

「ソレ」以外に何も認識することが出来なかった。

 

一点の曇りなき、突き抜けるような蒼天に、魅了された。

 

否、魅了なんて言葉では全く足りない。

四方八方から雷で撃たれ、全身の血液が濃厚な酒で満たされたような心地。

 

視界がくらくらと歪む。思考がまとまらない。

心が騒がしく喚きたてている。

 

強烈な激情を訴える。悲哀の静謐で満ちる。

王としてあるまじき醜態。

 

 

 

だが。

 

余りにも……居心地がよかった。

 

 

 

────なんて、美しい。

 

 

 

この瞬間、己にとって最も重要な「何か」を叩き壊されたのかもしれない。

 

あってはならないことかもしれない。植え付けられた偽の情かもしれない。

 

 

 

 

 

 

それでも、この心を締め付ける疼きは、紛れもない真実であった。

 

 

 

 

「あの輝きを我に見せぬとは……ほとほと呆れた奴よ。何も知らぬまま愛を囁くなどという愚行、この我に犯させおって」

 

 

 

胸に手を当てる。

霊体から肉を得たとはいえ、所詮は仮初の肉体。

それでも鼓動は激しくも甘く、胸中の感情を訴えている。

 

 

 

生前はついぞ、芽生えなかった想いだった。

だからこそ、慎重にならざるを得ない。

英雄王ともあろうものが、感情の一つに振り回されるなど、あってはならないのだから。

 

 

 

この世をあらためて支配するのもいいだろう。

増えすぎた人間を間引くのもいいだろう。

だがそれも、あの美しくも悲しい、蒼の瞳には決して勝らぬ。

 

 

 

「まぁよい。時間はまだある」

 

 

 

息を吐き、瞳を閉じる。

「次」が来るにはどれほどの期間があるだろうか。また彼女に出会えるだろうか。

それまでの間、存分にこの「愛」に浸らせてもらうとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

この話、本当は二話分だったんですが、早く終わらせることを優先してこういう形になりました。

雑な展開にご都合主義等、色々見苦しいですが、これにて第四次編は終了です。

御付き合い、ありがとうございました。

 

 

先輩と後輩のラストバトルの結果は相討ちとだけ。

要はFGO五章ラストの師匠と先生。

 

 

 

 

 

 

 

最後のシーンに関しては何の言い訳もできないですね。

でもFakeのジェスターさん見て思ったんです。

AUOがガチ惚れしたら一体どうなってしまうのかなぁ、なんて。

 

 

 

という訳で最後の隠蔽箇所解放

 

 

*隠しスキル

 

魅了

根源接続に由来。彼女の瞳にはわずかながら余人を魅了する効果がある。

一般人でも振り払えるほどに弱いもの。ちょっと目を引く程度。

……なのだが、直死の魔眼は超低確率で強い精神ショックと酩酊効果が発生する。

 

 

 

基本成功しかしないダイスロールでファンブル引き当てやがったAUO。

多分座のほうにまで影響出てるかもしれない。

まぁ一回の現界でルチャに嵌った善神さんもいらっしゃることですし。

 

 

 

 

 

 

次回:FGO第六特異点 スーパーシキトリア大戦

 

……の前に、何本か番外編挟みたいと思います。

もしシキトリアさんが受肉してAUOに拾われたらというifとか。

夏休みだから頑張る。

 

 

 


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