4月21日
城戸は二人のライダーに助けられ、なんとか生きていた。
秋山蓮、仮面ライダーナイトがモンスターを倒し。
須藤雅史、仮面ライダーシザースがモンスターの攻撃から自分を守ってくれたのだ。
「…仮面、ライダー?」
「そう、貴方は巻き込まれたの。」
そして、事情の説明の為に喫茶店【花鶏】に連れて来られた。
そこで聞いたのはミラーワールドと、そこに存在する人を食らうモンスター、そしてそれと戦う仮面ライダーの事である。
ミラーワールドとは文字通り、鏡の中の世界であり、そこに人間が入ってしまえばモンスターに補食されるかそのまま消滅してしまうかの、二つに一つしかないらしい。
例外として、仮面ライダーだけは9分55秒のみ存在する事が可能である。
また、ミラーモンスターはストーカー並にしつこく、一度狙った獲物は食い殺すまで逃がさないという、ドン引きである。
更に衝撃的なのは、赤い龍に城戸は狙われていた。ボルキャンサーの倍以上強いこの龍に狙われるのは可哀想としかいえない。
「不運なやつだ、どこも旨そうに見えないがな。」
そんな城戸に、彼は哀れみの言葉を呟く。小バカにしたような言葉だ。いや、小バカにしてるのだろう。
「蓮、この人モンスターに狙われてるんだよ!そんな言い方は良くないよ!」
それに対して、激しく言い返す優衣。優しい心を持った人物だと、城戸は感じる。
「…冗談だ。あの龍は俺が倒す。」
そういうと、彼はまたモンスターを狩りに外に出た。
「お前は手を出すなよ。」
そう須藤に一言残して。
城戸真司は出ていった秋山をそのまま無言で見送る。中に居るのは神崎優衣と呼ばれる女性と、以前出会った刑事だけだ。
「…刑事さんもライダー、なんだよな?」
恐る恐る、まるで城戸は自分なりに丁寧に話しかけた。
「まぁ…ね。もう少し軽い感じでいいよ。年も殆ど同じだからね。」
そう言われると気が緩む。先ほどの男と比べてフレンドリーな人だと好感が持てた。
「なぁ、なんでライダーになったか聞いてもいいかな?」
なので、城戸は思いきって聞いてみた。何故、あんなモンスターとまともに戦えるのか。普通の人間ならば、あんなモンスターとはまともに戦えないだろう。
だからこそ、誰でもいいんじゃないか?何故、自分がやるのか?と。
これには、隣の神崎優衣も静かに聞いていた。
彼女が考えているのは、須藤がどんな願いを叶える為にライダーになったかだ。
ライダーは願いを叶える為に戦う。一見して人が良さそうに見える彼の願いが気になったのだ。
「そうだなぁ…」
須藤は少し悩む。どうにか、ライダーとして言葉にしようとしているのだろう。
城戸真司という迷える子羊を納得させようとしてるのだと、感じ取った。何故、それがわかるのか?それは眼でわかったのだ。横からしか見えないが、どこか優しく、険しい眼をしてるのだ。それはまるでこの言葉が自分の事のように、真剣に言葉を選んでいるのが感じ取れるのだ。
「俺がライダーになったのは、刑事だからだよ。」
そして出てきた言葉は、神崎優衣が思った方向とは違い、城戸真司はまだ頭で理解できていなかった。
「刑事…だから?」
刑事とは犯罪者を捕まえる職業だ。それ以外には特に思い付かないし、ライダーとどう繋がるのか、城戸はわからなかった。
「人を守る為に刑事になった。だから、モンスターから人を守る為にライダーになった。それだけだよ。」
だが、この言葉を聞くと、何故か自分が求めていたような言葉で、ストンと心の中に落ちて、染み渡る。
まるで城戸真司を知ってるような…まるで城戸真司の心を読んでるんじゃないかと思うような言葉だった。
「あんた…凄ぇな。」
城戸の心の底からの、称賛だった。とても、この人にはなれないと感じた。
今まで、城戸真司には憧れる人物は何人か居た。今の編集長もそうだが、先輩である桃井黎子もそうだ。だが、この僅かな会話だけで心が揺さぶられたのは初めてだった。
「じゃあ、質問なんだけどいいかな?」
そして、もう須藤をただの刑事として見れなかった。城戸は自分とは住んでいる世界が違うと感じた。そうわかっているのだが、この人のようになりたい、この人のように、ライダーとして、人を守りたいと憧れてしまったのだ。さっきの戦いもそうだった。モンスターが目の前に居た、だが城戸が居たから立ち向かわずに、守りに徹した。そんな須藤に、憧れたのだ。
「なんだい?」
須藤は神崎優衣に淹れて貰った紅茶を飲みながら、それに答える。
その姿が城戸の眼にはもう自分と同じ人間じゃないと思うどころか、別次元の存在ではないかと感じ始める。
「契約のモンスターってどうやって選んだんだ?」
契約のモンスター。まだ城戸はライダーになるかも決めていない。が、それでも須藤がどうやってモンスターを選んだのか気になって仕方がなかったのだ。この人ならばどのように選んだのか?さっきの戦いで人を守るのが得意なのはよくわかった。だから、聞きたかったのだ。
「…見えるかい?」
すると、須藤はデッキを持たせて、カフェに置いてある鏡を指差す。
そこには分厚い黄金の装甲を身に纏う蟹のような人型のモンスターが居た。鋏を何度もパチパチと開いては閉じを繰り返し、須藤を凝視している。主を常に見守っているのだ。いつどこから敵が来ても対応できるように、眼を光らせるのはまるで野獣だ。とてもモンスターと人間の関係には見えない。そう城戸は感じ取った。
「あぁ…この蟹みたいな奴か。どうしてこのモンスターなんだ?」
理由は色々思い付いた。カッコいいとか、強そうとか、黄金が好きなど、様々だったが。どれもピンと来なかった。この人が選ぶにはこんな理由ではないと、そんな理由であそこまでの信頼関係は産まれないと。
そして、彼はその予想なんかを簡単に飛び越える理由を答えた。
「俺からこいつは選んでない。あいつが俺を選んだ。だから、俺はこいつと契約してるんだよ。」
嘘は言っていない。
「…え?」
衝撃だった。新人ジャーナリストでも、城戸はよく聞いた事がある。
『俺がこいつを選んだんじゃない、あいつが俺を選んだのさ。』
最前線で戦い逸話を残すスナイパーや多大な功績を挙げる警察犬のチーム達と同じ言葉を言ったのだ。
『相棒は自分で選ぶ者ではない、いつの間にか隣に居る奴がそうなるんだ。』そう言われてるように感じた。
既に須藤に引き込まれていたが、もう後戻りできないレベルまで引き込まれてしまっていた。
「…じゃあ、俺はどうしたら。」
では、自分だったらどうしたら良いのか?
そんな城戸を見かねてか、須藤はこう告げた。
「あの龍も、君を選ぼうとしてるのかもね。」
「俺を?」
須藤はまるで自分の契約の時を思い出してるのか、眼が実家に帰ってきた時に久々に見る愛犬のように優しい眼をしている。
だが、どこか虚しさを感じる。城戸は『ライダーってのは、楽じゃない。』と言ってるように感じる。が、どこか吹っ切れたような眼でもあった。
ライダーになったのに、後悔なんて無いのだろう。
「君には龍が契約するに値するか、試されていたのかもしれない。けど、契約するのも、突っぱねるのも、城戸君しだいだよ。」
まるで神の啓示のようであった。黄金に輝く蟹も、それを体現したのではないかとすら感じる。
今の城戸の心は簡単に鷲掴まれた。
「ありがとう…なんか少しだけ決まったかもしれない。」
「そうか、役にたてなら良かったよ。」
須藤は城戸と直接眼を合わせなかったが、またゆっくりとカップを口に運んだ。