ある新鎮守府と料理人アイルー   作:塞翁が馬

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サイファーと磯風

 まだ新設したばかりのこの鎮守府に於いて、提督が出した当面の方針は艦隊の増強と資材を確保する方法の確立だった。そして、今のところそれは順調に進んでいる。

 

 増強については、鎮守府に所属する艦娘の数も順調に増え、艦種も少しずつ増えてきた。練度についても、少なくとも鎮守府近海で遊弋している深海棲艦程度ならもはや後れを取る事は無いだろう。

 

 資材の確保についても、軽巡が建造されてから遠征の幅がグッと増えた為、資材の使用に随分余裕を持てるようになった。

 

 そろそろ、出撃範囲をもう少し広げてみようかという話も出ている。無論、遠くに行けばそれだけ強力な深海棲艦と遭遇する確率も跳ね上がるので、まずは余裕のある資材で航空母艦や戦艦といった大型の艦娘を建造してからになるが。

 

 こうして、鎮守府に一つの転機が訪れようとしていたが、例えそうなってもサイファーの仕事は変わらない。提督や艦娘達においしい料理を提供する事。これが全てだ。

 

 そして、今日も遠征に赴く艦娘達に対して料理を振る舞うのだった。

 

 

 

 

 

「ふあ~っ! やっぱりウメェ飯を食うと、その後の士気が上がるなぁ!」

 

 天龍が満面の笑みを浮かべながら手に持っていた今しがた空になった食器を机の上に置く。

 

 

   スキル:招きネコの金運が発動!!

 

 

「ホント、凄くおいしくて精が付くわぁ…ウフフッ」

 

「やはり、食事は全てにおいての基礎になるのだと思い知らされるな」

 

「ボクもサイファーの料理大好きだよっ!!」

 

 天龍に続き、如月、長月、皐月の三人も口々にサイファーの料理を褒め称える。

 

「ニャ! 気に入ってもらえてボクも嬉しいニャー!」

 

 対して、サイファーも嬉しそうに応える。自分の作った料理を素直に美味しいと言って貰えるのは、料理人として最高の賛辞だろう。

 

「よーし! 気合も入った事だし、ひとっ走り行って来るか! どっさり資材を持って帰ってこようぜっ!!」

 

「「「オーッ!!!」」」

 

 天龍の気迫のこもった言葉に、如月達三人も盛大に呼応する。その勢いのまま、四人は大食堂を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 天龍達を見送ったサイファーは、彼女達が使った食器を片付け、続けざまに次に出撃する手筈の艦娘達用の料理の用意に移る。

 

「ニャー…。流石に忙しくなってきたニャ。一人じゃてんてこまいニャー」

 

 ブツブツと呟きながら、いそいそと料理用の素材を取り出すサイファー。と、その時調理室の扉が開いた。

 

「サイファーさん、いますか?」

 

 そこから顔を出したのは吹雪と、もう一人サイファーの見知らぬ少女だ。

 

「ここにいるニャ。でも今は忙しいから、話し相手くらいしかできないけど、それでもいいニャ?」

 

「ああ、十分だ。私の挨拶に来ただけだからな。むしろ、作業の邪魔をしてすまない」

 

 手慣れた動きで肉を捌きながらのサイファーの言葉に、見知らぬ少女が一歩前に出て応える。

 

「私の名前は磯風。先ほど建造されたばかりだ」

 

「よろしくニャー。ボクの名前は」

 

「サイファーだろ? この鎮守府を吹雪に案内されている合間に、彼女に貴方の事を嫌という程聞かされたよ。この鎮守府では知らぬ者のいない程の有名人らしいな」

 

「といっても、まだこの鎮守府には三十人前後位しか人がいないですけどね」

 

 サイファーと見知らぬ少女…磯風のお互いの自己紹介に、吹雪がちょっとした補足を入れる。しかし、この間もサイファーの調理の動きが止まる事は無い。

 

「…なにやら忙しそうだな。折角だから、私達も何か手伝った方が良いのではないか?」

 

「あ、確かにそうだね! サイファーさん、何か手伝える事ありますか!?」

 

「ニャー…。それじゃ、まだ洗えてない食器の洗浄をお願いするニャ。あ、それをする前に自分が汚れるからエプロンと頭巾を着用するニャ。調理場の奥のロッカーの中に何着か入ってたと思うニャ」

 

「ああ、心得た」

 

 サイファーからの指示を受けた磯風と吹雪が足早に調理場の奥に移動し、そこにあったロッカーから自分に合ったエプロンと頭巾を着用してから、流しの上に山積みされている使用後の食器に手を付け始めた。

 

 

 

 

 

 

 

   スキル:ネコの秘境探索術が発動!!

 

 

 

 

 

 

 

 続く出撃組の料理を出し終えたサイファー。これ以降の出撃予定はないので、夜食まではそれなりの時間が出来る事となる。

 

「いや、しかし素晴らしい調理技術だな。サイファーはこの技術をどこで?」

 

 遠征組の食器に引き続き、出撃組の食器の後片付けも手伝っていた吹雪と磯風だったが、不意に磯風が食器を洗いながらサイファーに質問する。吹雪も興味深そうな表情でサイファーに視線を向けた。

 

「実は、ボクはもとはオトモアイルーだったニャ。でも、初めて食べたニャンコックさんの料理のおいしさに感動し、オトモ兼ニャンター稼業の傍ら、少しずつ独学で料理の作法を勉強していったニャ。世界を旅したかった理由も、いろんな料理を見てみたいというボクの願望からなのニャ」

 

「独学なんですか!? 凄いです!!」

 

「よく分からない単語が幾つか混じっているが、これで独学なのか…」

 

 手際よく食器を片付けていきながらのサイファーの言葉に、吹雪は感心した面持ちで興奮気味に声を荒げ、磯風も今洗っている食器を見つめながら感嘆の息を吐いている。

 

「…サイファー、一つお願いがあるのだが」

 

「ニャ?」

 

 不意に、磯風が真剣な顔つきでサイファーの方を向く。

 

「私も料理に興味がある。もしよければ、貴方の技術を教えてくれないか?」

 

 続く磯風の言葉を聞いた直後、サイファーの身体に謎の悪寒が走った。

 

 理由は分からない。別に体調が悪い訳でもない。なのに、体が震えたのだ。

 

「…? どうした、サイファー?」

 

 不思議そうに首を捻るサイファーに、何かの異変を感じ取った磯風が尋ねる。吹雪も不可解そうに視線を今洗っている食器からサイファーに移す。

 

「………磯風さんに一つだけ聞きたいニャ。お米を研ぐのはどうやるニャ?」

 

 悪寒の理由も分からないままに聞いた何気ない質問。しかし、次の磯風の言葉でサイファーは悪寒の理由をハッキリと理解できた。

 

「米を研ぐ…あの米を洗う動作だな? 水に浸ければいいのではないか? いや、それだけでは完璧とは言えないな…洗剤でも混ぜた方が良いのか?」

 

「へええ…?」

 

 突拍子もない磯風の回答に、サイファーは勿論吹雪さえも頓狂な声を出す。しかし、磯風の暴走は止まらない。

 

「…ハッ!? もしかしてこれは試されているのか? う、むむ…。洗剤と言っても今ここにあるのは所詮市販の普通の洗剤だ。落とせない菌もあるのかもしれない。いっそここは、米を高熱で殺菌した方が良いのか? いや、中には熱に強い菌もいるだろうから、これも完璧ではないな…。ならば、どんな菌も殺してしまう強烈な薬剤を軍本部から取り寄せて…いやいや、あまり強すぎると今度は米自体が溶けたりするかもしれない…」

 

 もはや、調理という行為から遠くかけ離れた地点の事にうんうん悩む磯風。そんな磯風の肩に、サイファーは出来るだけ優しく手を置き、そして口を開いた。

 

「ごまかしても仕方ないからハッキリ言うニャ。磯風さんは調理という行為に向いてないニャ」

 

「な、なにっ!? あ、いや、もう少しだけ時間をくれっ! 必ず最適解に辿り着いてみせるからっ!!」

 

「最適解って…。そんなに難しい質問だったかな…?」

 

 無慈悲な言葉を告げるサイファーに、磯風はみるからに慌てふためきながらサイファーに答えを導き出すための時間の猶予の延長を求め、それを見た吹雪が思わずポツリと漏らしてしまう。

 

 その後も、磯風は粘り強くサイファーに料理を教えを乞おうとしたが、サイファーとしても彼女が食材に触れるのは危険と判断し、懸命に料理以外の事に尽力して欲しいと説得し続けるのだった。




招きネコの金運

 出撃時→資源取得地での取得数が1%~100%増加する。増加数はランダム。

 遠征時→獲得資源が1%~100%増加する。増加数はランダム。

ネコの秘境探索術

 出撃時→出撃スタート地点で高速修復材、高速建造材、開発資材のいずれかを入手。

 遠征時→資材のみの遠征地の場合、高速修復材、高速建造材、開発資材のいずれかを入手できる。これらも獲得アイテム枠に入っている遠征地の場合は、入っていないアイテムがランダムで追加入手できる。全て入っている場合はどれかの入手数が一つ増える。

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