皆さん、こんにちは! 私は重巡洋艦の青葉です! 先日、この鎮守府初の重巡洋艦(プリンツ・オイゲンさんがいましたけど、彼女はやむを得ない異動なのでノーカンらしいです)として建造されました。
さてさて、早速ですが鎮守府内のあらゆる情報を掻き集め、一つの新聞として発行する『艦隊新聞』の創刊をここに宣言します!
…と、言いたい所なんですけど、実を言うともう既に公開できる情報があまりない…というのが実情何ですよね。
ここ以外にも鎮守府は数多あります。当然、その鎮守府ごとに
今私が書ける事と言えば、色恋沙汰を含む鎮守府内のいざこざを取材した娯楽情報か、深海棲艦との戦いで新たな状況が展開された場合の戦況情報位しかありません…。
いえ、勿論分かっています。勤務中は常に気を張っていなければならない私達艦娘にとって、つかの間の休息となる娯楽は心を保つ上で大事な事ですし、戦況が分からなければ動くに動けません。つまり、二つとも欠かす事の出来ない事柄なのです。…まあ、後者については確定している情報については提督直々に私達に伝えてくれると思いますので、私が伝えられるのは『これこれこうかも【しれない】』という噂の域を出ない情報位ですが…。
ああ…。もっと早く建造されていれば、あの艦娘の新たな一面が!? とか、新海域で新型の深海棲艦を発見!? その姿と性能は!? とかいろいろ公開できたのになぁ…。そういう、知的好奇心をくすぐるネタは、あらかた出尽くしてるんですよね…。
…しかし! しかしですよ!! この鎮守府には、他の鎮守府には無い”特別”がありました!!!
鎮守府内での調理担当と言えば、お馴染み給糧艦間宮さんですが、それに加えてこの鎮守府では謎の二足歩行する猫が間宮さんと一緒に料理を作っていたのです! 調理技術自体も、間宮さんに勝るとも劣らない腕前!
しかもこの猫。なんと人語を解するというではありませんか! 間違いなく新情報の宝庫ですよ! ああ、神様は私を見捨ててはいなかった様です!!
彼の名前はサイファー。”アイルー”という獣人族のモンスター…らしいのですが、モンスターという割には見た目が可愛らし過ぎてそんなイメージは全く持てません。
更に、それ以外にもオトモだのニャンターだの聞いた事も無い言葉がポンポン飛び出てくる始末! ジャーナリストとしての血が騒ぎっぱなしですよ!?
幸い、明日一日密着取材の許可を頂けました。恐縮です!
まずは何を聞こうかな? 彼について? アイルーとは? 獣人族とは? モンスターとは? その調理技術は何処でどうやって?
実際に料理しているところも写真に収めて、あわよくばそれ以外のプライベートな時間もお邪魔させてもらって、それらの取材が終わったらある事ない事書き殴ってやるんです!!
ああ、明日が楽しみです! 今真夜中で、もう日付が変わったんですけど、興奮しすぎて全く眠れません! 遠足が楽しみで眠れない小学生ですかね私は!?
現時刻はマルゴーマルマル。結局一睡もできませんでした! でも、大丈夫です! 未だに興奮して目は冴えっぱなしですから!!
我慢できずに昨日頂いた個室を飛び出して、調理室へ向かいました。流石に早いかなー…と、思ったのですが、来てみてビックリ! 間宮さんもサイファーさんも既に調理室で仕事を…具体的には今日一日使うであろう具材の仕込みを行っていたのです!
常に美味しいものを提供しようというその姿勢、流石です! 私もジャーナリストとして負けていられません!
と、いう訳で早速取材を敢行したいと思います。幸い、仕込み作業自体はそれほど難しい事ではないそうで、私の質問に答えるくらいなら問題ないらしいです。
まずは、サイファーさんについて聞こうとしたのですが、これについては後日、例の記憶再現装置を見て欲しいと言われました。
この装置、何やらいろいろ手順を踏まないといけないそうで、起動には数日を要するんだそうです。
―――。…正直、私はこの装置は嫌いです。私も、特ダネを握る為には一気に踏み込む事も厭ってはいけない、とは思うのですが、流石に個人の記憶を直接覗くのはどうかと思うんですよね。
…別に、こんなの使われたら取材する意味ないじゃん! とか、私の専売特許を横取りしないで!! とかそんな事は思っていませんよ? いえホントに、マジでマジで。
っと、思考がそれてますね。気を取り直して、今度は”アイルー”という単語について聞いてみましょうか…。
現時刻はマルハチマルマル。い、忙しい! とにかく忙しいっ!!
起きだした艦娘達が朝食を食べに、食堂へと集まってくるのですが、作っても作っても次から次へ注文が飛んできます! 私も取材を受けてくれたお礼に皿洗いとしてお手伝いに回っているのですが、片づけても片づけても汚れた食器がバンバン積まれていきます!
赤城さーん! もうそれ以上食べないでーっ! お皿が片付かないよーっ!!
あと、ポーラさんも朝っぱらから無茶な呑み方しないで下さいよーっ! その散らばった酒瓶、一体誰が片付けるんですかーっ!!?
やっと全部終わった…と思ったら、新たな汚れた食器がドンと目の前に置かれます。賽の河原って、こんな感じなんですかね? しかも、これから更に新しい大型の…空母や戦艦の艦娘が入ってくる予定なんでしょ? 考えただけで目の前が真っ白になります…。それらを毎日片づけている間宮さんとサイファーさんには本当に頭が上がりませんよ…。
現時刻はヒトヨンマルマル。や、やっと
私は疲労で用意してもらった椅子の上でぐったりとしていましたが、間宮さんとサイファーさんは再び料理を作り始めています。でも、今回の料理は艦娘達が食べるようではなく、今度この鎮守府に来るという元帥殿用の試作品だそうです。
折角なので、私も一口頂きました。
…形容の言葉が思いつかなかったほど美味しかったです。そんな感想しか出てきませんでした。ジャーナリストとしては、あるまじき発言なのですが。
だというのに、間宮さんとサイファーさんは難しい顔で今作った試作品を見つめながら激論を交わしています。あれでも満足いく出来では無いんですか…?
と、同時に、そんな二人を見ていた私の脳裏を、ある嫌な予感が過ります。もしかして、サイファーさんのプライベートなんて無いも同然なんじゃ…?
現時刻はヒトハチマルマル。さあ、夕食の時間です…! また、あの地獄の皿洗いの時間ですよ…!
………もう嫌だぁ…。汚れたお皿を見るのは、もう嫌なんですぅ…!
現時刻はフタヒトマルマル。お、終わった…。やっと全てが終わったよ…。なんとか…何とか成し遂げる事が出来ました…。
再び私がぐったりとしている中、間宮さんとサイファーさんは明日の準備を手短に終えると、調理場を後にしようとしていました。
慌ててどこに行くのかを聞いたのですが、お二人共もう就寝準備に入るそうです。
まだ早くないですか!? と、思ったのですが、詳しく聞くとお二人は毎日時刻マルサンマルマルには起床して、調理の仕込みを行っているらしいのです。…確かに、そう考えれば決して早くなどない…いえ、もしかしたら遅い方かもしれません…。
それにしても、うう! やはり私の予感は当たってしまいました! とはいえ、どうやらこの後サイファーさんはお風呂に入る模様。こうなったら、御一緒するしかありません!!
聞けば、サイファーさんは男性との事。男の人の前で、乙女の柔肌を晒すのは流石に恥ずかしいですが、情報の為にはそんな事は言っていられません!!
…と、意気込んだのはいいんですが、当のサイファーさんから激しく拒絶されてしまいました。トホホ…。
現時刻はフタフタマルマル。間宮さんもサイファーさんも恐らく既に就寝している頃でしょう。
結局、今日は碌な情報を聞き出す事が出来ませんでした。辛うじて”アイルー”という種族について教わりましたが、これだけでは情報としてはまだ薄いです。
ですが! 私は諦めませんよ!! こらからも突撃取材を続け、いつか必ずサイファーさんの事を情報的に丸裸にして見せます! そう、これは私の使命なんですから!!!
…まあ、それはそれとして、今回の艦隊新聞は調理場のレポートを編集して刊行するとしましょう。記念すべき第一刊としては地味だけど、これを機に調理の手伝いをしてくれる艦娘が出てくれれば、間宮さんとサイファーさんの負担もグッと減るだろうからね。
でも、正直今日は疲れた…。編集作業は明日するとして、今日はもう寝ようかな…。