覇王炎莉のちょこっとした戦争   作:コトリュウ

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戦いは終わった。
これでビーストマンの脅威は無くなるはずだ。

しかし、黒幕については不明な点が多い。
そんな輩が本当にいるのかどうか……。
それすらも確信できないが、まだまだ油断してはいけないのかもしれない。

でも今は、束の間の平穏を堪能すべきだろう。



第20話 「し、しもぉ?!」

 大墳墓の地上部分、第一階層の入り口からほんの少し外へ出た平原。そんな場所に、大きなパラソルが複数立てられていた。

 

「うわああああぁぁぁ~~ん! ほんとうにもうしわけありませぇぇぇ~ん!」

 

「いやだから気にするなと言っているだろう? あの者が発した暴言はエンリと戦うための布石だったのだから気にするな」

 

「でもぉぉ~」

 

「仕方ないなぁ、ほらここに座りなさい。骨の上だからちょっと座りにくいと思うが、まぁ大腿骨だからまだマシだろう」

 

「ありがとうございます!」

 

「(お、お姉ちゃん、ズルいよぉ)」

「(確かにズルいでありんす!)」

「(きぃー! 王妃の私を差し置いてぇぇぇー!!)」

「(オオ、コレデ御子息ノ誕生ガ……)」

「(やれやれ、気が早いですねぇ)」

 

「さて、実験は上手くいったようだな。ケンタウロスの動像(ゴーレム)を二体に削っておいたのはちょっと過保護だったかもしれないが……。まぁ上位全能力強化(グレーターフルポテンシャル)でエンリが弾け飛ばなかったのは幸いだった。確率的には五分五分だと思っていたのだがな」

 

「陽光聖典が肉片になったことを考えますと、“実験体エンリ”のレベルが適正値になったと判断してよろしいかと。ですがまともに動けるのは五分程度ですわ。やはり人間の小娘程度では」

「この世界において強力過ぎるバフは弱者を死滅させてしまいます。まぁ至高の御方の力をその身に受けるのであれば、それ相応の力を要求されても仕方がないでしょう。その点で言えば、“実験体エンリ”は最低限の資格を得たとも言えます」

 

「で、でも高位の支援魔法が弱者にとって害になるなんて、僕達も注意しないといけませんよね」

 

「ナザリックの(しもべ)相手でも同じことが起こりんすと? でもまぁ、私は支援魔法なんてあまりつかいんせんが……」

 

「問題ニナルノガ実験体以下ノ弱者ナレバ、ソウ気ニスルホドノコトデモナカロウ」

 

「おやおや、そんなことを言って蜥蜴人(リザードマン)を絶滅させないでくれたまえよ。私の見立てだと、あの中では数名しか耐えられないのだからね」

 

「ウムム……」

 

(う~ん、ユグドラシルでは相手が最低レベルであっても問題になることはなかったのになぁ。第一バフをかけてもらって木端微塵に吹き飛ぶって、どんなクソゲーだよ! パワーレベリングできねーじゃん! 今回もエンリを強化しまくって軽くレベル上げするつもりだったのに、瀕死状態になってるし! 問題無いって言われて信用したらこの有様だよ! まぁ確かにナザリックの者たちからすればさっ、人間の実験体なんて生きてさえいれば問題ないんだろーけどさっ。異世界にきて初めて出会った女の子を実験動物扱いし過ぎだってーの! さすがに引くわ!)

 

「うにゃにゃ、くすぐったいですぅ」

 

「あ、あんなに撫でてもらって……、お姉ちゃんズルいよぉ」

「ふぅーふぅー、もう限界でありんす! 空いている右大腿骨は私がもらいんすっ!」

「バカ言わないでっ! そこは妻たる私の場所でしょ?! ぺったん子は引っ込んでなさい!」

「あんだとこのホルスタ淫魔がっ!」

「ン? ペッタン子、トハドウイウ意味ダ?」

「そうだねぇ、ある部分がぺたんとした平らな状態の子供、を意味しているのだと思うよ」

 

(え~っと、なんだか雲行きが怪しくなってきたなぁ。このままだとロクな目に遭わないような気がする。後で順番に座らせてやるとしようか。あ~、それとビーストマンの管理はどうしようかな~。蜥蜴人(リザードマン)みたいに守護者にやらせるにしても、ナザリックから少し離れているしな~。ん? あぁそういえば漆黒聖典に獣使い(ビーストテイマー)がいたっけ? アイツにやらせればイイか。それにビーストマンのボスに据えたのは妹なんだし、蘇生させて記憶を多少弄れば仲良くやってくれるだろう。うん、我ながら良い考えだ)

 

 ナザリック地下大墳墓の地表部分において、骸骨魔王様は闇妖精(ダークエルフ)の少女を撫でながら御満悦であった。

 もっとも、その後に待ち受けている試練から目を背けていただけに過ぎないのだが……。

 

 

 ◆

 

 

 ふらふらする頭に眉を寄せつつ、エンリは静かに目を覚ました。

 何だか柔らかいモコモコにもたれかかっているように思うが、見上げた先は青空だ。どうやら屋外で休憩でもしている途中なのだろう。

 エンリはモコモコの元凶へと声を掛ける。

 

「ハムスケさん、ここは……どこですか?」

 

「おっ、目を覚ましたでござるか将軍殿。ちょっと待つでござる、ンフィーレアどのー!」

 

 森の賢王が声を上げると、ンフィーレアだけでなくゴブリン軍団の主要人物、そしてルプスレギナやレイナースまでもが駆け集まってしまう。

 

「エンリィ~! ほんと良かったよ~。中々目覚めなくて心配したんだからね~」

「私がなにか失敗したのかと思ったっすよ、エンちゃん。マジでビビったっす」

「エンリ将軍、無事でなによりですわ。意識不明と聞いたときには、本当に心配しましたよ」

 

「はは……、あの、それでここはどこなのでしょう?」

 

 レイナースが合流しているのだから、竜王国の国境付近まで戻ってきたのは分かる。

 ただ周囲の状況からするとまだ行軍途中にしか見えず、竜王国首都へ向かっているのか、その手前の大きな砦または副首都へ向かっているのか判断できない。

 

「ほほっ、エンリ将軍。今ゴブリン軍団は、竜王国副首都を出発して一日半といったところです。後数日で竜王国最大の砦『エリュシナンデ』へ到着予定となっております」

 

「えぇ? ということは私、十日近く意識が無かったってことですか? うそぉ」

 

「ホントっす。今の今までエンちゃんの(しも)の世話とかは私がやっていたんすよ。感謝するっす」

「し、しもぉ?!」

 

 ガツンと殴られたような衝撃がエンリを襲い、全身の血流が顔へ集まっていくのを感じてしまう。

 恥ずかしい、申し訳ない、エンリはそんな思いを込めて、涙目でルプスレギナを見つめる。

 

「ル、ルプスレギナさん、あの、ごめんなさ――」

「嘘はいけませんわ、ルプスレギナさん。付きっきりで世話をしていたのはンフィーレアさんですわよ。食事を与えたり、体を拭いたり、その他もろもろ……。非常に献身的で愛に溢れる素晴らしい対応だったと、おや? エンリ将軍、どうかなさいましたか?」

「ンフィーーーーー!!!!」

 

 レイナースの言葉に思わず叫び、ンフィーレアの両肩を掴んで結構強めに揺さぶってしまったが、エンリとしては――そう、感謝しなければならないと分かっているのだ。

 ただ恥ずかしい。

 ただそれだけなのである。

 

「どうしたでござるか将軍殿? つがいであるがゆえに世話をするのは当然でござろう? なにを騒ぐ必要があるのでござるか?」

 

「ハムっちもまだまだ甘いっすね~。エンちゃんは人間の雌でンフィー君とはつがいになる予定っすけど、今のところ生殖活動はしてない間柄なんすよ。だから生殖器とかを見られるのは恥ずかしいって話っす。はぁやれやれっすよね~。もう少し経てばいくらでも見せ合いっこする羽目になるっていうのに」

 

「ル、ルプスレギナさぁーーん! みんなが居る場所で克明な解説いりませんからっ! ホント止めてください!」

「エ、エンリ、く、くびがとれちゃうよ~」

「ああぁぁー!? ご、ごめん、ンフィー」

 

 振り回していた恋人を解放し、エンリは必死に落ち着きを取り戻す。

 恥ずかしい事態に陥ってしまったのは、もはやどうしようもない。既に過去の話であり、ンフィーレアの記憶から自分の裸体を消すわけにもいかないのだ。

 まぁ、いずれ見せるはずだったのだから、順番が早まっただけだと思えば納得できなくもないだろう。

 小さい頃はお互い裸で水浴びしたこともある幼馴染なのだから被害は小さいはずだ。って何の被害なんだか……。

 

「え、えっと、それで軍師さん。私が気を失っていたあいだの報告をお願いしてもよろしいですか?」

 

「はい、それでは」

 

 ゴブリン軍師の弁によると、ビーストマンのセクシーなボスを撃破した後は、エンリの治療にあたふたしながらもルプスレギナの協力を仰ぎ、死の危険性が去ったのを確認してホッとし、次いで神殿に籠っていたビーストマンの掃討を行おうとしたそうだ。

 しかし神殿へ乗り込むまでもなく、建物内からシャルティア王妃様が現れたそうな。

 王妃様曰く「ビーストマンの管理と、南方でウロチョロしている牛頭人(ミノタウロス)どもは私に任せんしゃい。おんしたちはさっさといきなんし」とのこと。

 どうやら神殿の内部には危険な未知の(トラップ)もあるようなので私たちは手を出さない方が賢明であり、多くの亜人が蠢いている南方方面はゴブリン軍団の手に余るとの判断らしい。

 ちなみにこの考えは、ルプスレギナさんとゴブリン軍師が王妃様の真意を汲み取って導き出したものである。

 真実かどうかは分からないが、まぁ確かにその通りだと思うので王妃様に――ゴウン様にお任せするのが一番だと私も、ゴブリン軍団の指揮官たるエンリ将軍も納得していた。

 ただ臥せっていた私の頭を洗うとき、サークレットを外してもイイかどうか、ゴウン様にルプスレギナさん経由で確認したというンフィーには苦言を呈したい。

『もっと他に訊くべきことがあるでしょ?!』と。

 

 なお、サークレットは外しても構わなかったそうな。

 

「ほんと……今回の遠征はゴウン様に助けられてばかりね」

 

「エンリ、あまり深く考えない方がイイと思うよ。ゴブリン軍団の皆だって、元々はゴウン様のアイテムから出てきたんだし」

 

「はぁ、それもそうね」

 

 ンフィーに言われるまでもなく、今更な発言だった。

 ゴウン様に助けられているのは最初からであり、現時点に於いても、この先未来に於いても変わりはしないのだろう。

 竜王国を救援するのにゴウン様の力を借り過ぎている、とは視点が違うのだ。ゴウン様の壮大な計画の中に竜王国支援があり、その中でエンリが、ゴブリン軍団が動かされているのだ。

 エンリが中心なのではない。

 ゴウン様こそが世界の中心であり、エンリやゴブリン軍団は世界という盤上で動かされている駒にすぎないのだ。

 とはいえ不満などは無い。

 ゴウン様は相手の話を深く聴いて、自然な感じで誘導してくれる。強制的に何かを強いるなんてことは一度もなかった。

 ただ一つ願うとするならば、ゴウン様にはもっと早く表舞台へ出てきてほしかった。私の両親やカルネ村の住人――いえ、カルネ村周辺の村民が虐殺される前に、ゴウン様が支配してくださったならどれほど良かっただろうかと……。

 ホント、我が身を伝説の武具で覆っていただいている現状に於いて、なんと強欲な願いなのでしょう。命すら救っていただいたというのに、「人間の欲には際限がない」とは誰の言葉だったのかしら?

 

「これから世界は変わるわよ、ンフィー」

 

「えっ? あ、うん、そ、そうだね」

 

「ふふ、今後ともよろしくね、ンフィーレア・バレアレさん?」

 

「おぉ、求婚というやつでござるか? 人間の場合は雄から行うと聞いていたでござるが、雌からの場合もあるのでござるなぁ。勉強になるでござるよ」

「大胆っすね~。前線からの帰還途中だっていうのに肝が据わってるっす。って即座に報告するっすよー!」

 

「ちょっ!」「ちがっ」なんて口走るエンリを余所に、ルプスレギナは伝言(メッセージ)巻物(スクロール)を使用して誰かへ話を広げようとしているようだ。

 こうなれば当然、エンリとしても妨害しないわけにもいかないのだろうが、このときのエンリは顔を血塗れ鎧のごとく真っ赤にしながらも動かなかった。

 ワタワタする恋人をチラチラ見ながら、ハムスケの毛をブチブチ引き抜くだけである。

 もちろん、ハムスケの悲鳴が轟いたのは言うまでもない。

 

 ちなみに報告を聞いた某大墳墓の某骸骨魔王様は、思わず「爆発しろっ!」と言いそうになったらしいのだが、本当に爆発させてしまいそうなのでグッと堪えたそうな……。

 加えて、一緒に聞いていた某統括殿は謹慎処分と相成りました。

 この某統括殿がナニをしたのか?

 それはまぁ、機密とのことです。

 

 

 ◆

 

 

 ハムスケの背中でゆらり揺られてのんびりのどかな行軍途中、すれ違うのは復興作業を行う竜王国の兵士とそれを手伝う死の騎士(デスナイト)及び骸骨(スケルトン)たちだ。

 カルネ村では当たり前過ぎて気にもならないのだが、竜王国では珍しい光景であろう。

 アンデッドと違和感なく協力できるなんて、いったい何があったのやら。

 

『エンリ将軍様の御味方なのでしょう? なら何の問題もありません』

 

 兵士の一人がエンリの前に跪いて語った言葉だ。

 その兵士はまるで救国の英雄を前にしたかのように畏まっていたのだが、エンリとしてはむず痒くて仕方がない。

 今回の戦争でエンリが手を下したことと言えば、ビーストマンのボスを仕留めたぐらいだ。それもゴウン様のサークレットから力を借りて、である。

 絶体絶命の瞬間にしか使用してはならない、と厳命されていた最高の魔法を使って成したことが、たった一体のビーストマン討伐なのだから呆れてしまう。

 成果で言えば、ルプスレギナさんかハムスケさんが最大功労者となるだろうに。

 

「エンちゃんエンちゃーん、なぁ~に難しい顔してるっすか? 暇ならちょっと手伝うっすよ。実験っす」

 

「実験ですか? いったい……」

 

「コレ使うっす」

 

 ルプスレギナが渡してきた短い木の枝のようなものは、エンリにとって初めての所持となる短杖(ワンド)であった。

 短くもひね曲がった木製の棒に、青いガラス玉が嵌め込まれており、思わず魔法が使えるのではないかと勘違いしそうになる。

 

「なんだか魔法詠唱者(マジック・キャスター)になった気分ですね。ん~っと、変身! ……なんちゃって」

 

「今回の実験は変身じゃなくて伝言(メッセージ)っすよ。最近になってようやく製造に成功した貴重な短杖(ワンド)っす。こっちの材料だけで作るのって巻物(スクロール)の比じゃないんすから、ホント大変だったんすよ~。まぁ作ったの私じゃないっすけど」

 

 最後の言葉で苦労の演出が台無しではあるが、いつものことなのでエンリは気にしない。それより短杖(ワンド)を使った実験の方が気にかかる。いったい何をさせようというのか?

 

「んじゃエンちゃん、ちょっと伝言(メッセージ)を使ってみるっす。短杖(ワンド)の最大利点である使用者不問について試してみるっすよ」

 

「つ、つまり誰でも使えるってことですか? へ~、それは凄そう……でも」

 

 エンリは短杖(ワンド)を持ったまま固まってしまった。

 魔法を使えと言われても、生まれてこのかた一度たりとて魔法呪文を詠唱したことはない。アイテムに封じられた魔法の発現ならゴウン様のサークレットで経験しているが、それは魔法の使用ではないだろう。

 故にいったい何をどうすればイイのやら。

 歩き出すのに右足を出せばいいのか左足を出せばいいのか、それとも両足でジャンプするのか、それぐらい全く分からない。

 

「ん~、そうっすね~。エンちゃんと強い絆を持つ誰かを頭の中でイメージして、短杖(ワンド)片手に

伝言(メッセージ)〉と唱えるっす」

 

「強い絆、ですか?」

 

 エンリは迷いなく親愛すべき人物を思い浮かべて短杖(ワンド)を掲げる。

 

「〈伝言(メッセージ)〉!」

 

『――でね、えいようを取られないようにじゃまな草を……。あれ? あたまの中で音が鳴ったような』

「えっ? これってネムの声? すごい、ホントに繋がったの?」

『あれれ? お姉ちゃんの声がするよ。お姉ちゃーん、どこにいるのー?』

 

 魔法未経験者が伝言(メッセージ)で繋がると色々大変なようだ。さっさと説明しないと、ネムが姉を探し求めて森の奥深くへ行ってしまいかねない。

 

「ネム、よく聴いて。私は今、魔法を使って貴方に話しかけているの。こっちはまだ竜王国よ。分かった?」

『お姉ちゃんすごーい! いつから魔法使いさんになったの! ホントすごーい!!』

「ちょっ、ちょっとネム、あまり大声出さなくてイイからね。凄くよく聴こえているから、普通に話して大丈夫だからね」

『はーい! 分かったー!』

 

 近くに居ない遠くの誰かと話す場合は、無意識に声が大きくなってしまうのだろう。エンリは仕方ないと思いつつも頭を押さえてしまう。

 

「それでネム、村の様子はどうかしら? 大丈夫?」

 

『うん! 村はへいわだよ~。畑もすごいんだよ~。ヴァンパイアの双子ちゃんとかダテンシのお姉ちゃんとかが畑を一日で耕してくれたりしたんだよ~。すごいすごい!』

 

「ヴァン?! ダテッ? って……はぁ(ゴウン様の関係者かしら?)まぁイイけど。でも畑なんて耕すのに半日もかからないでしょ? どこが凄いの?」

 

『ちがうよお姉ちゃん、ぜんぶの畑だよ。カルネ村のまわりにあるぜんぶの畑を一日で耕しちゃったの。でも、でもね、そのお姉ちゃんったらけっこうガサツでね。アチコチにダメなところがあったから、ネムがしっかりシドウしてあげたんだよ』

 

「全部って、確か千面近くあったんじゃ……。それを一日で? ってその人を指導? あぁ~うぅ~、あのね、ネム」

 

『な~に~、お姉ちゃん?』

 

「その人を指導しているときって、ユリさんとかはどんな表情していたか、分かる?」

 

『ユリさん? ん~、え~っと、そういえばすっごく慌てていたけど、どうしてかはよく分かんない。でも、ユリさんがどうかしたの~?』

 

「ううん、何でもないよ。ただ、その人とは仲良くしてね」

 

『もちろん! みんな仲良しだよ~』

 

「そう、ならイイんだけど。それじゃあ、ネム。久しぶりに話ができて嬉しかったわ。私はまだ当分カルネ村には帰れないけど、そっちのことはお願いね」

 

『うん! お姉ちゃんに会えないのは寂しいけど、こっちはこっちでダテンシのお姉ちゃんが変なことばっかりやっているから楽しいよ~。帰ったらみんなであそぼうね~』

 

「ええ、もちろん。それじゃ」

 

 伝言(メッセージ)の終え方については全く理解していなかったのだが、頭の中で繋がりの遮断を意識すると自然に魔法は終息していった。

 魔法というモノは本当に便利だなぁ、っとエンリはあらためて魔法使い、魔法詠唱者(マジック・キャスター)の用いる超常の力に対し、「ズルい」との感想を持ち得てしまう。

 

「どうっすか? 初めて魔法を使った感想は?」

 

「はい、すっごく感動しました。ネムの声がまるで隣にいるかのようにハッキリと聞こえるなんて、ホント凄いです」

 

「ん~? ハッキリと聞こえたんすか? それは」

 

 ルプスレギナの疑惑に満ちた顔を見て、エンリは戸惑ってしまう。

 実験としては大成功であろうに、いったい何を失敗したのだろうか? エンリは短杖(ワンド)を手にしながら涙目になるのを抑えきれない。

 

「あ~、違うっすよ。エンちゃんが失敗したんじゃなくって、こっちの住人が伝言(メッセージ)を使うと距離によって不具合が生じたりするはずなんす。此処からカルネ村までの距離なら、ハッキリとは聞こえない程度に」

 

「え? そう、なんですか? でも」

 

「分かってるっすよ。会話の中で聞き直すとか、耳をそばだてている様子もなかったっす。伝言(メッセージ)は完璧に機能していたってことっすよ。大成功っす!」

 

 親指を立てるルプスレギナの笑顔からすると、結果的に問題はなかったのだろう。ホッとするエンリではあったが、結局のところ何が良くて何が悪いのかはサッパリである。ルプスレギナは「司書長の魔力で起動したからなんすかねぇ?」と呟いているものの、その言葉の意味は分からない。というか、分からないでイイのだろう。

 とりあえずゴウン様のお役に立てたのだから、これ以上の詮索は無意味だ。

 それより今は、見えてきた竜王国首都の様子が気になる。

 




カルネ村で畑を耕していたのは何者か?
まぁ恐らくナザリックの(しもべ)なのでしょうが、少しばかり残念属性か?

農業体験しているようだけど、そんなスキルは持っていないので、クワで地面を弱攻撃しているだけだったりする。
超高速で移動しながら地面を弱攻撃。
するとあら不思議。
畑の出来上がりですね。

――なんということでしょう。
さっきまで草原だった土地が畑になってしまいました。
もちろん、匠の技には程遠く、めっちゃ雑ですけど……ね。

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