いつも頑張るお前の傍に。いつも支えてくれる君と一緒に。   作:小鴉丸

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さぁ、こっちを待ってる人はいたのだろうか。待っててくれた方には感謝です。

では今年初のいついつです


第十話 先手を

~モカside~

 

 

「やっほー、つぐー」

 

「あ、モカちゃん。いらっしゃい」

 

店に入るといつものように笑顔のつぐが迎えてくれる。それはここに来ると毎回見る光景。そしてその光景にはもう一人……。

 

「いらっしゃ──ってモカか」

 

「お客様に向かってその態度はなんだー。接客態度がなってないぞー?」

 

そう総士も居る。

 

あたしは軽いやりとりをしながら空いている席に腰を下ろした。休日の早めだからか結構空いているようだ。そして椅子に座ったあとに注文を取るため総士が来てくれた。

 

「お前も暇してんだな、こんな早くに来るなんて」

 

「暇なんてしてないんだけどなー。たまたま時間があっただけでー、その中で用事が出来たんだよー」

 

机に腰をかけペンを回しながらいつものように話す。

 

向こうからしたら何気ない事なんだろうなぁ。あたしからしたら、とても幸せな事なのに……。

 

「それ暇って事だろ。勉強でもしてろ」

 

「宿題は終わってるからねー、暇なんだよね」

 

「暇って言ってるじゃねぇか。で、注文は」

 

おっと口が滑った。しまったなー、と思っていると注文を取られる。別に頼みたいのもあまりないし……うーん。

 

「じゃあ総士のチョイスに任せますー」

 

机でパタパタと手足を動かしながら何かをねだる子供のように言う。たまにはこういうのもいいだろう、総士に任せるのも。……何が出てくるかは予想ついてしまうが。

 

注文を受けた総士は店の奥へ行く。その最中でつぐとすれ違った時に私は見逃さなかった。

 

何気ない一瞬、一日に何回も起きるだろうそのすれ違う瞬間。総士はつぐに何かを短く言うだけ。ただそれだけの事なのにつぐはとても嬉しそうに頷く。

 

その笑顔にはどんな思いが気持ちが込められているのか、私には分かる。どこまでも純粋で素直なつぐの一途な思い……何十年も隣に居て、それでもすれ違い続ける思いを。

 

「(でも……)」

 

だからだろう。知っているからこそ、あたし自身の総士に対する思いは強くなる。幼馴染みで親友、その恋物語を邪魔する形になっているとしても、諦めたくない。

 

「──モカ? 大丈夫か? いつも以上にぼーっとしてるけど」

 

「おわぁ。驚いたなーもう」

 

考え事をしていたからか総士が近くにいた事に気付かなかった。お盆に案の定、ブラックコーヒーを載せ持ってきていた。

 

「驚いてるようには見えないけどな。で何だ、考え事か?」

 

「考え事……というより昔を思い出していてねー」

 

変に気を遣われないように別に考えてもなかった事を話す。話題は適当に昔のつぐの夢にする事にした。

 

「ほら、昔につぐ言ってたじゃんー? 将来の夢は──」

 

「わぁぁぁあああ!?!? も、ももモカちゃん! 変な事言わないでよ!」

 

まだ何も言ってないのにつぐが別の席から慌てて口を塞ぎに来る。テーブル拭きをしていて反対側を見ていたはずなのに凄い反応だ、とつい感心する。

でもつぐが慌てるのは仕方ない。普通に今言うと恥ずかしいのだ。無邪気な時だったから何も感じず言えたが、今だと言うのは相当の勇気がいるだろう。

 

「……あぁ、俺と喫茶店をする。ってやつだろ? それっぽい事は今やってるから現に叶ってるじゃねぇか、別に隠す必要なんて無いだろ」

 

「ふえ? あ……う、うん! そうだね、そう……。あはは、私ったら何やってんだろう」

 

「(あれー? ひょっとして総士……勘違いしてる?)」

 

つぐの昔の夢、ひょっとすると今もかもしれないが、それは“総士と素敵な喫茶店を作る”だ。総士はそれをどうやら違う意味で覚えているらしい。本来の意味は大人になってから二人で総士と一緒に喫茶店をやる、なんだけど……。

 

「(ま、そういう面白いところもあたしは好きなんだけどねー)」

 

クスッと可笑しくて笑ってしまう。

 

でも昔の夢か……。あたしも相当恥ずかしい事を望んでいたなぁ、と思い出す。確か──。

 

「(総士と結婚したい(ずっと一緒にいたい)。なんて、つぐと変わんなくて喧嘩したなー。懐かしい……)」

 

どういう事か、一口飲んだコーヒーは苦さをあまり感じなかった。

 

 

 

 

 

~総士side~

 

 

病み上がりというのもあり客が少ないのは助かる。いや、店的には悪いのだろうが。

 

「(それにしても昔の夢、ね)」

 

さっきのモカの言葉を頭の中で思い出す。

それに関してはつぐよりもお前本人の言葉が印象に残ってるんだがな、といっても本人は覚えてないか。あの頃は素直だったなー、うんうんと懐かしさに浸る。

 

今は俺一人なんてどうでもいいだろうな。じゃないとあんな気安く接さないだろ。でも逆に、それが心地よかったりもするんだが……。当然、本人には恥ずかしくて黙ってる。

 

「あら今度はモカちゃんに手を出すの?」

 

「……別にそういうんじゃないですって」

 

いきなり別の席に座っていた鈴波さんが話しかけてくる。この人は……暇してるのかぁ、と失礼な事をつい考えてしまった。

 

「というか、人聞きの悪いこと言わないでください。っ、俺はつぐ一筋です。モカは仲のいい幼馴染なだけで……」

 

「そこから始まる恋もある!」

 

「ありませ──……あぁーー、ありますけど。はぁ……」

 

全くこの人は……。調子狂うというか、人で遊んでんのか。しかもそれは否定出来ないところを付いてくるから尚更タチが悪い。

 

「ん~! 総士くんは可愛いねぇ。イケメンなのに可愛いわ」

 

何をどうしたらこういう性格になるのだろうか。関係ないと思うが小説書く人はこんな人が多いのか、勝手な偏見だけど。

 

「で、またからかう為に来たんですか?」

 

「それこそ人聞きの悪い。アイデア補充よ。……ってあら? もうモカちゃん帰るのね」

 

その言葉でカウンターの方を見ると本当にモカが会計をしていた。いや、何しに来たんだよ。と思い見てると名前を呼ばれた。

 

「あ、そうだ総士ー」

 

「あら、お呼びよ」

 

会計を済ませたモカがとてとてと近くに寄ってくる。何をされるのか、ちょっと身構えたが変な事をするような雰囲気でなくて、構えを解く。

 

「明日バイト休みなんでしょー?」

 

「……何でお前が人のシフト知ってんだよ」

 

まぁまぁー、と流されて紙切れを差し出される。それを手に取り紙に書いてある文字を読む。

 

「遊園地の……ペアチケット? 何だこれ、つぐに渡せばいいのか?」

 

二枚だからつぐと行くのだろうか? ……ないと思うが、俺とつぐで? いや、天地がひっくり返ってもモカがそんな事するはずないか。

 

取り敢えずどういう事なのか説明を聞く。

 

「いやいや、総士が持っててよー。そうしないと意味無いじゃん」

 

「は? 何で俺が持たないといけないんだよ。つぐと行くんだろ?」

 

「一緒に行くのは総士とだよー? 何のために休み聞いたと思ってんのー」

 

…………は?

 

一瞬、いや数秒間言われた意味が理解出来なかった。というか今も理解出来てない。

こいつなんて言った? 俺と行くだって? 遊園地に? 一体何のために……。

 

独りでに混乱する俺をよそにモカは口を動かす。

 

「明日駅で待ち合わせねー。時間は10時、寝坊しないでねー? 久々のモカちゃんとのお出かけなんだからー。いやー、ギリギリで用事思い出してよかったよー」

 

それじゃあねー、とマイペースのまま告げて去っていく。

鈴波さんは少々今の出来事に驚いて、何を思ったのか口笛を鳴らした。その一方、俺はというと。

 

「? 総士くん? どうしたの、立ち尽くして」

 

「……明日、雪だな」

 

「? 変な総士くん」

 

相当混乱していたのだった。

 




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