ロクでなし魔術生徒の残念王女   作:サッドライプ

2 / 8

前回の〆の言葉から今回の冒頭の発言まで丸一日経ってない、それがグレンくんクオリティーだと信じてる。




ルミアちゃんクラスデビュー(授業を受けるとは言ってない)

 

「学生ごっこ、飽きた……」

 

(ちょ、ちょっとルミア!?)

 

 

 あれから上手くルミアと話す機会も得られないまま次の日になってしまった。

 

 ただでさえ緊張してうまく話しかけられない上に、ルミアは初日のオリエンテーションが終わるとさっさとどこかに行ってしまう。

 探すとすごい美人な赤いドレスの貴婦人に出迎えられ手を繋ぎながら帰っていたけれど、あの方が今の彼女の保護者なのかしら。

 

 私も私で忙しい中入学式を見守ってくださった―――ルミアのことで頭がいっぱいになってしまっていたのには申し訳なかった―――お父様とお母様に話をしなければならない。

 ルミアのことを当然知っている二人も、難しい顔をして何を言っていいのか分からない、みたいな様子だった。

 

 そういえば、ルミアは何処の生まれで、どうしてフィーベル家に引き取られることになったのだろう。

 ふと今更湧いた疑問だったけれど、それはルミア本人に訊くのがせめてもの筋だった。

 

 そんなこんなで今日こそと早起きして登校した翌日の朝。

 なんと私よりも早く割り当てられた教室の席に座っていたルミアが―――机に突っ伏して眠っていた。

 ケープを掛けてあげてもやっぱり爆睡していたから、やっぱり話す機会は掴めない。

 

………返す時に一言、ありがとうとは、言ってくれたけれど。

 

 結局授業が始まってしまうに至っても碌な会話の機会は無かった。

 

 そして、授業が始まる。

 魔導大国たる帝国のエリートとなる将来を掴む為、屈指の名門校に集った優等生達が生徒だから、出だしで様子見のカリキュラムといえど皆集中して講師の声に耳を傾ける。

 

 ルミア以外は。

 

 授業開始十秒で一応取り繕ってたつもりなのか真面目な表情が崩れ、二分で大欠伸。

 そして五分保たずに上のセリフだった。

 

 “学生ごっこ”、“飽きた”。

 講義中の静かな教室に響いてしまった不遜な呟きは、自尊心と志を持って学び舎に通うと決めた若者達にとって大いに神経を逆なでする発言だっただろう。

 事実表情を歪めてルミアを睨んだ子も多かったし、相手がルミアじゃなかったら私こそが真っ先に噛みついていたくらいバカにした言葉だと思った。

 

「ルミアさん、だったかな。今僕が話しているのは本当に基礎的な概論だから、知っていれば退屈だと思うのは確かに少し申し訳ない」

 

 よく言えば優しげ、悪く言えば優柔不断そうな担任教師のヒューイ先生は、少なくとも忍耐に関しては学生と比べるのすら失礼なのだろう、自分の講義を邪魔されたというのに笑顔のまま諭すようにルミアに語りかけた。

 

「だけどここにいる皆は君の言う学生ごっこをするために今授業をきちんと受けているんだよ?

 それが出来ないなら他の子の邪魔をしない為にも出て行って…………、とも言いづらいですね、そう嬉しそうな顔をされると」

 

「―――チッ!」

 

(((えぇ………)))

 

 生徒達の呆れた心の声が聞こえてきたのは、絶対に錯覚じゃないと思う。

 

 同じく聞こえただろうに少し考え込んで、呆気なく別の案を出したヒューイ先生は、ある意味流石この名門の教師に相応しい大物なのかもしれない。

 こんなことで評価されても困るでしょうけど。

 

「じゃあこうしましょう。これから僕が話すはずだった魔術の基礎の一つ、マナ・バイオリズムと魔術使用の相関性について、解説してもらいます。

 その説明を聞いて僕が理解度が足りていないと判断したら、まだ未熟として学生ごっこを続けてもらう、と」

 

「……ほーお?」

 

 ある意味挑発するような先生の言い分に、何故かルミアは不敵に笑う。

 そしてつかつかと黒板向けて歩いていき、ヒューイ先生の差しだしたチョークをひったくると―――――、

 

 

 

☆~駄ルミアちゃんの中の人の素晴らしい魔術講義は富士見ファンタジア文庫より発売の原作『ロクでなし魔術講師と禁忌教典』に掲載されているぞ~☆

 

 

 

「以上で黒魔【ショック・ボルト】と黒魔【ゲイル・ブロウ】の同一条件での行使によるマナ・バイオリズムの波形データとその変動は、まあ資料が手元にないから正確さで言えば微妙だが、こんなもんだろ」

 

「………っ」

 

「イメージしやすいようにロウ・ニュートラル・カオスなんて三段階に分けられちゃいるが、実際はマナ・バイオリズムは波と同じ一定の規則性をもった周期的な概念だ。

 で、二者の比較で分かる通りマナ使用量が多ければ絶対にカオスに振り切れるっつーわけでも、扱いのより容易な三属呪文なら乱れないっつーわけでもない、くっそ面倒な代物なんだよなこれ」

 

(ルミア、あなた一体……!?)

 

「だが魔術師をやるなら個人差やコンディションでのブレもある上にいちいち計器とかがない状態でも、せめて自分のマナ・バイオリズムくらいは完璧に“掌握”しとかねーとまずい。

 こんなもん知らなくても適当に精神集中して呪文唱えれば、慣れにもよるが簡単な魔術なら使えるだろうさ。

 が、タイミングを外せば初級汎用魔術一つで息切れするから、連続して使わなければならない事態、特に魔術師同士の戦闘なんかは一発アウトで隙曝してあの世行きだ。

 逆に乱れをほんの僅かな影響に抑えられる時間もあり――――敵のそういう“周期”を読み切るのも魔術戦の駆け引きの一つ。

 バカスカ派手な魔術撃ち合ってりゃいいってもんじゃない、というかそんなことしたらこのタイミングで撃ってください俺は反撃できません、って相手に大声で叫んでるのと変わんねーよ。

 長時間、連続、って意味じゃ儀式魔術でも治癒系の白魔術でも同様だな。

 特に召喚魔術の途中で息切れして事故った日にゃ……くくく」

 

――――ルミアの“授業”は、私がこれまでに会ったどんな講師よりも真に迫り、かつ論理的にそれを解体していくものだった。

 

 黒板には素早くしかし読みやすいように訓練された字でびっしりとグラフと解説文が踊り、それを紡ぎ出すルミアは腕の激しい動きに一切淀むことなく解説を続ける。

 しかも明らかにより高等な知識を蓄えているのが分かるのに、入学したての生徒でも理解できるように範囲を選択して例示と共に段階を踏んで話を発展させている。

 極めつけに、経緯をよくよく思い返すと即興で始めた授業でこれなのだ。

 

 マナ・バイオリズムの話も、確かに基礎と言えば基礎の知識だけれど、こうも具体的に重要性を実感したことなんてなかった。

 それこそ精神統一すれば魔術が成功する、レベルでしか私も考えていなかったのに。

 

「なーんつって、な。マナ・バイオリズムの完全制御なんて、ある意味百の魔術公式を暗記するより面倒極まりない代物だ。

 将来宮廷魔導師団に~第五階梯くらいに~なんて奇特なレベルじゃなけりゃ実力を左右するような話になんぞならんから、安心して放り出して構わんよ。

 流石に事故を防ぐ為にも意識くらいは推奨するが」

 

 茶化すような言葉も、もう生徒の誰一人反発の意思を見せない。

 裏を返せば、高みを目指すなら避けて通れない課題を一つ提示してくれた、ということなのだから。

 

………ただ、嫌に“魔術師として実戦的な知識”を語っているように聞こえたのは、気のせいよね。

 

 ルミアの話にのめり込んでいると、気付けばあっと言う間に講義の終了時間が来てしまっていた。

 時間を忘れる感覚からこの教室で唯一縁遠かったのが、制服に結わえつけた懐中時計でその時間を確認したルミア自身というのがなんとも言い難い。

 

「……ってもうこんな時間じゃねえか。で、どうよヒューイ先生さんよ?

 もう終了時間だから趣旨外れてるけど、採点は合格かい?」

 

「はい……いやはや全く、完敗です。僕の講師としての未熟さを実感しましたよ。

 というわけで、罰として僕がこれから学生ごっこをすることにして、講義は僕の分を全部ルミアさんが代わりに――――へヴッ!?」

 

 ルミアの話をさり気なくノートに書き写しながら冗談―――冗談、よね?―――を言ったヒューイ先生の顔面にチョークが突き刺さる。

 教卓には綺麗な投擲フォームを披露したルミアが怒りの形相を見せていた。

 

 

「ざっけんな!!講師ならちゃんと講義しやがれ給料泥棒!!」

 

 

(((あんたが、言うな―――――!!?)))

 

 

 何故か反射的に皆と一緒に心で叫んだ、謂れのない弾劾。

 けれど何故だか、全く理不尽なものに思えなかった。

 

 

 

 

 

……………。

 

※病気の病気 ~もしかしたらこの『ルミア』が早起きして教室で寝ていた理由~

 

 微エロ・微ヤンデレ注意。

 

 

 

(くす……おはようございます、義兄様。起きないでくださいね?)

 

「………ぐぅ」

 

(気配には聡い筈なのに、私には反応しないんですよね?)

 

(相手が貴方自身の本来の身体だからですか?……それとも、私だから、ですか?)

 

(都合のいいように考えちゃいます。都合のいいように、しちゃいます)

 

「く……ふ、ぁ………?」

 

(頭をよしよししながら、お腹を優しく擦ってあげる)

 

(『ルミア』の身体、それ大好きですよね、とっても気持ちいいですよね?)

 

(ゆっくり、ゆっくりほぐしてあげて)

 

「………ん、……っ」

 

(―――――不意に腰から足に手を這わせる)

 

「っ!?~~~~~ッ!!?」

 

(ぴく、ぴく、って。可愛い。義兄様、可愛い。“ルミアの身体は、可愛い”)

 

(とろんと半開きの眼で、ぼんやりと何がなんだか分からないけど、とにかく気持ちいいんですよね?)

 

(“感じてる顔が、そそる”。“汗の匂い、すっごく興奮してくる”。“すこしべたついた、でもすべすべして柔らかい肌の感触がどうしようもなく滾らせる”)

 

(………自分自身の身体にこんな感情を抱くのは間違ってます。狂ってます。気持ち悪いです)

 

(でも、義兄様のカラダに、この感覚を染み込ませないといけないから、自分の心も騙す)

 

(だって義兄様が教えてくれたんですよ?肉体と精神は影響を与え合う。たとえ一時的に離れていたものでも)

 

(ねえ、義兄様。いつかお互いに元の身体に戻るつもりの義兄様?)

 

―――『ルミア』にどうしようもなく劣情を抱くようになってしまったそのカラダで。

 

―――『ルミア』の愛し方を覚えてしまったこのカラダで。

 

―――他の女を愛せますか?

 

(私だって、ふふっ、義兄様の身体がどうすれば気持ちよくなれるか、しっかり覚えました。

 当然ですよね?だから“その時”はいっぱい天国を味あわせてあげられます)

 

(私だって、劣情と愛情の区別くらいはつきます)

 

(そして……その区別が約束された確かな“誰か”が居ない限り、酷く脆くて簡単に壊れるものだということも知っています)

 

(だから、その時まで―――)

 

「………危ない、危ない。キスするところでした」

 

 

(ファーストキスも、処女も、義兄様が男として奪ってくれるまで、しっかり“準備”しておきます)

 

 

「ふああ……あれ、るみあ……?」

 

「くすっ。おはようございます、義兄様」

 

「おはよ。うわ、またなんかべとべとしてる………服もはだけてるし……」

 

「朝は仕方ないですよ、“女の子ですから”。ごめんなさい、幻滅とかしてないですか?」

 

「?しないっての。シャワー浴びて来る」

 

 

『ほどほどにしとけよ、ルミア。流石にグレンが骨抜きになり過ぎて私のこと見なくなったら許さん』

 

(義母様は、私のやっていること、知ってます)

 

(義兄様と違って、私が悪い子であることを知っています)

 

(でも、姑としてグレンの嫁に出す条件はただ一つ、“グレンだけを一途に愛すること”。

 そう言って、笑って認めてくれました)

 

(そんなの、あってないような簡単すぎる条件なのに)

 

 

 

「なーセリカ、女って本当大変なんだな」

 

「……くくっ、ああ、“女”は大変なんだぞ?頑張れよ、グレン」

 

 

 

(愛しています、私だけの『正義の魔法使い』様)

 

 

 

「しかしやっぱ朝から妙にだるいのに熱っぽいのは慣れねーよなぁ。

 教室行って二度寝しとこ」

 

 

 そして冒頭へ続く?

 

 





※白猫に遠慮する理由が欠片も無いので好き勝手する堕天使ルミアたん。
 ただし、傍から見れば金髪巨乳女子学生の寝起きに興奮して悪戯する成年男子の図である。

 よし、いつものきたないサッドライプ成分消費終了。
 あとはきれいなサッドライプさんだけが残った!

 まあ、黒ルミアは原作からぶっ飛び過ぎてるのと、本編の雰囲気にもそぐわないのでいつもどおり好きに解釈してくださいの可能性の話ということで。


 というか本編でも、この“ルミア”に講義させる予定とか欠片もなかったのに。
 マナ・バイオリズムについても1巻流し見ながら即興で適当ぶっこいてます。
 ヒューイ先生もなんか愉快なキャラになってるっていうか今のところ白猫より目立ってるし。

…………うん、いつもの病気だわ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。