今話は次話との二部構成になっています。
この一話で完結させようかとも思ったのですが、いつもと比べ大分長くなるので二つに分けて投稿します。
楽しんでいただけると嬉しいです。
では、どうぞ。
桜と色々あってからしばらく経った金曜日、俺は体育の授業でサッカーをするため校庭にいた。いつも思うけどよく教師が言う「好きなやつとペア組めー」ってさ、友達いないやつにとっては地獄だよな。ちなみにありがたいことに体育の授業は男女合同なので今は雪ノ下とパス練習をしている。ちなみに男子の皆さん、視線が痛いです。「なんでヒキタニなんかが雪ノ下さんと…」って呟き聞こえてますからね。あとヒキタニじゃないからな。クラスメイトの名前くらい覚えろよ…あっ特大ブーメランだったわテヘッ。うん、我ながらすっげーキモイ。
そして授業の場所が校庭なのもあり、さっきから視界の隅には緑の葉が生い茂っている桜の木がチラチラと見えていた。毎日通っていたベンチも、あの日から一回も行っていないのであれから桜がどうしているのかは全く分からない。
「…さようなら」
桜が最後に涙を流しながら発した言葉。一週間もあの場所に行かなかった俺を心配してくれた桜に対する俺の対応はいくらか幼稚で、自分勝手だったかもしれない。
もちろん桜を泣かせてしまったことには少なからず罪悪感を感じていた。だがそれ以外にもあの日から、なにかこう、胸の奥によく分からないモヤモヤを抱えていた。なにか大切なものが無くなってしまったような感じ。
「…くん。比企谷くん?」
「ん…うおっ!」
大分考え込んでいたため呼び掛けに気付かなかったのだろう。雪ノ下が心配そうな顔で俺を覗き込んでいた。え、なんでそんな気持ち悪い声をあげているのかって?そりゃあだって雪ノ下の整った顔がすぐ近くにあるんですもん変な声出しても仕方がないとオモイマス。
「ぼーっとしてたけど体調でも悪いの?」
「いや、ちょっと考え事をしてただけだ」
「そう?ならいいけど」
そう言うと、雪の下は腑に落ちない様な顔をしながら俺から離れた。あー心臓に悪かった…なんかいい香りしてたし。
にしてもそろそろ桜に謝りにいきたいが、なかなか行く勇気がないんだよな。どうすればいいかね…。
ーー八幡 sideout
ーー桜 side
先週の月曜日、私は八幡さんと行き違いをしてしまいました。もちろん、毎日来てくれるとは言ってくれてはいましたが、守り神をしているくらいしか仕事のない私とは違って八幡さんは勉強をしたり友人関係もあるかもしれません。でも、それは分かっていたことだったのに、私はあんな対応をしてしまいました。
私は過去に良くしてくださっていた大切な方を失った経験があります。その経験があったので、八幡さんが一週間来なかったときは寂しさと同時に少し怖さを感じていました。また大切な人を失ってしまうのではないかと。
だから一週間ぶりに来てくれたときは本当に嬉しかった、でも嬉しさより先に怖さと寂しさが暴走してしまってあんな対応をしてしまった。そしてあの八幡さんの返事が、いままでの優しい表情とは違った静かな、怒っている表情でした。それを見て私は消えられるのをいいことに、怖くなって逃げてしまったのです。
その日からというもの、私の胸の中ではずっと寂しさと怖さがぐちゃぐちゃになった気持ち悪い感情が渦巻いていました。恐らく八幡さんは来ないだろうと分かっていても、いつもは放課後の時間まで他の綺麗な花を探しに色々なところへ行っていたのに、最近はずっと桜の木のもとでぼーっと座りながら
…八幡さんはもう私のこと嫌いになっちゃったのかな
とか
…もう八幡さんと話したり遊んだりすることはできないのかな
と、無意識のうちに八幡さんの事ばかり考えながら待っているのでした。
ーー桜 sideout
ーー八幡 side
土曜日、俺はいつものように自宅のソファーでごろごろしながらラノベを読んでいた。最近本屋で気になって買って読み始めたこのラノベ面白いんだよな。選べ!っていや選べんがな!って。実際こんなことあったらただでさえ腐っている俺の目がもっと腐ることだろう。あれそれってもう目じゃなくない?
そんなことを考えながら休日を楽しんでいると、突然トテトテと誰かが階段を降りてくる音がする。長年の経験で培った勘がなんかめんどくさそうだぞと脳内で警告を鳴らし始めたので、とりあえず読みかけのラノベを自分の横に置きスッと目を閉じる。これぞ必殺寝たふり!なにが必殺なんだろうな、と自分で自分に突っ込んでいるとリビングのドアが開けられる音がした。
「ありゃ?お兄ちゃん寝てる?」
その警告の正体は小町でした!まあまた面倒事でも押し付けられるのだろう、このまま寝たふりを続けていようかなと考えているとドサッという音と共に足に重さがかかり始めた。恐らく小町が座ったのだろう、怖いから重いとか言わないけどさ。
「お兄ちゃん起きてよー」
「zzz」
「ちなみにさっき本読みながら笑ってたの聞こえてたから起きてるのは分かってるんだよー?」
「…」
「起きないと冷蔵庫のマッカンの命はないよー?」
「…くっあーーよく寝たー」
「マッカン大好きか…」
という呟きが聞こえたがな小町、マッカン様は千葉が誇るものだぞ。といっても分かってもらえそうにないので諦めるとして、俺は寝転がったまま小町に問いかけた。
「んで、どうした?」
「買い物いこー?」
「嫌だ外出めんどくさい」
「んね?可愛い可愛い妹のお願いだよ?聞いてくれるよね?」
「ねえ小町ちゃん本当に四年生?」
兄を買い物に連れ出すための言い方なんかあざとくない?最近の四年生ってみんなこうなの?と考えていると「お兄ちゃんの目がいつもに増して腐ってる…」と小町に突っ込まれる。誰のせいだと…。
「ね、行こっ」
「分かったから急かすなよ」
「じゃあ十秒で準備してきて?」
「小町ちゃんそれはさすがに無理」
そんないつも通りの会話をしながらゆるゆると準備を始める。え、これがいつも通りなのかって?小町の俺に対する対応はいつもこんな感じだよっ!まあ可愛いから許せるもんなんだけどさ。
用意を済ませ玄関に向かうと既に小町がスタンバっている。一体こいつはなぜそんなに出掛けたいのでしょうかね、と考えながら靴を履き外に出て並んで歩きだす。
「で、お前なに買うんだ?」
「テストで良い点とったからお菓子でも文房具でも買ってきていいよってお父さんが」
「え、そんなこと言われたことないんだけど。何点だったんだ?」
「八十点」
「…ん?普段は?」
「よくて五十点くらいかなー?」
「小町ちゃん…勉強頑張ろ?」
まさか小町がそこまでアホとは…。
いかがでしたでしょうか。
ご意見やご感想、ご指摘がありましたらお願いします。自分の作品がどのように伝わっているのか知ることが出来るので。
お読みいただきありがとうございました。