孤独な少年と桜の乙女(次回更新未定)   作:宇彩

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昨日投稿した作品の後書きで書きたいと言っていた桜さんメインのお話です。

…まさかこんなに早く書けるとは
昨日投稿してからぼーっとしていたら案が思い付いたので書いてみました。(笑)

桜さんが学校の桜のもとに来る前、守り神なりたての頃のお話です。今回八幡は最後の最後にほんの少ししか登場しません。

楽しんでもらえると嬉しいです。
では、どうぞ。


番外編 桜の過去の物語

 私は、守り神として生まれた。まあ生まれたといっても見た目はずっと変わらないのだが。

 守り神と言うのは、その名の通りいろいろな植物などを守る神様のこと。私は初めてその花を見た時から桜が大好きになったので、雨の日も風の日もいつも桜の木の下にいた。そしてある春の日、私は一人のおじいさんに出会った。

 これは、そのお話ーーー

 

~・~・~・~

 

 その時の私は、とある小さな公園の桜の下にいた。そこの公園には名前は分からないがたくさんの花が咲いているし、住宅地にあるからかあまり人が来なくて静かなので好きだった。そして、二日に一回くらいの頻度で近所に住んでいるのであろうおじいさんが公園の掃除をしに来ているお陰でその公園はいつ来ても綺麗だった。

 そしてなにより、そのおじいさんは毎回必ず優しい笑顔で元気か~とか今日は暖かいのぉ~と草木に話しかけていた。それを見ていた、私はそのおじいさんに興味を持って話してみたいと思っていたが、初めてのことだったので人前に出ていいのかとずっと悩んでいた。しかし興味に勝てなかった私は、ある日いつものように草木に話しかけているおじいさんの隣にしゃがんでに話しかけてみた。

 

「あの…この小さなかわいいお花ってなんていう名前なんですか?」

 

 おじいさんは最初は驚いていたものの、いつも草木に話しかけている時と同じ優しい顔をして答えてくれた。

 

「これはスミレじゃな」

「スミレ…かわいい名前ですね」

「ちなみにお嬢さん、花言葉って知っているかね?」

「花言葉?」

「まあ簡単にいえばその花に付けられた意味みたいなもんじゃな。ちなみにスミレの花言葉は『小さな幸せ』と言われておる」

「小さな幸せ…可愛いこの花にぴったり」

 

 と言うとおじいさんはふぉっふぉっと笑いながらまた口を開いた。

 

「でもな、スミレの種や根っこには毒があるんじゃよ。それこそ食べてしまったら心臓発作を起こしてしまうような毒がの」

「そうなんですか!?」

「昔から綺麗な花には毒があるって言うからのぉ」

「知らなかった…」

 

 おじいさんは私の反応を見てまた面白そうに笑った。そして少し話したあと、もう帰ってしまうというので二日後にまた花のことを教えてもらう約束をして別れた。

 

 それからというもの、私はよくおじいさんと公園の掃除をしながら喋っていた。もっと花のことについて知りたかったから、いろいろな花の名前や花言葉を教えてもらっていた。

 

「おじいさんっ!この花は?」

「これはツツジじゃ。花言葉は『恋の喜び』じゃよ」

「恋…素敵ですね。あっ!これは?」

「これはカタバミじゃな。『喜び』とか『輝く心』とかがあるぞ」

「葉っぱがハート型してる…可愛いですね」

 

 おじいさんはとても物知りで、しかも私がどんなに質問をしても笑顔で教えてくれた。そしてよく桜の木の下に置かれたベンチで暖かいお茶と和菓子で一息つきながらお喋りをしたりしていた。ある日おじいさんが私に尋ねてきた。

 

「お嬢さんが一番好きな花は何かね?」

「桜の花です。小さくて、可愛くて、満開になるとみんなを笑顔にしてくれるから」

「そうかいそうかい。おばあさんも桜の花が好きじゃったなぁ」

「おばあさん?」

 

 と聞くと、おじいさんはいつもの優しい笑顔でおばあさんのことを教えてくれた。

 出会ったときから花を見るのが大好きで、おじいさんに花の事を色々と教えてくれたこと。そして、おばあさんと家の近所にあるこの草木が多い公園によく来ていたこと。春にはおばあさんが好きな満開の桜のもとでこうやってお茶を飲みながら二人でお話ししていたこと。そして、病気にかかって入院していたときもずっとテレビや雑誌で花の写真を見つけてはおじいさんに語っていたこと。…そして去年、その病気が原因で亡くなってしまったこと。

 

「わしはの、自分がこの公園が好きなのもあるがおばあさんに頼まれてこの公園を掃除しておるのじゃよ」

「頼まれて?」

「ずっとこの公園の草木が元気にいられるように見守っていてほしい。とな」

「…っ!」

 

 私はそのおばあさんの暖かい話を聞いてほんの少し涙が出てしまった。おじいさんは声をかけずずっと優しい顔で見守ってくれていた。

 

 おじいさんは夏に入って暑くなってきても欠かさずこの公園に掃除に来ていた。もちろん私も、おじいさんがくれた箒を片手に一緒に掃除をしていた。そして、春に咲いていたのとは違う夏の花のことも色々と教えてくれた。そして、いつものベンチで冷たいお茶を飲みながらお話をした。今まで人と話したことがなかった私にとって、とても楽しい、ずっと続いて欲しい時間だった。

 

 そんな時だった。おじいさんが急に来なくなってしまったのは。

 

 最初はただ体調でも悪いのかなと思っていた。でも最後に来たときから二週間が経ったときさすがにおかしいと思い、風や木の葉、猫などにおじいさんのことを聞いてみた。…そうして、おじいさんは持病が悪化して入院し、体調が急変して病院でそのまま亡くなったと知った。

 

 はじめてのことに驚き、大切な人を失った事に気付いた。私は、一時間くらい泣き続けた。

 最初に声をかけたときも優しく答えてくれた、花のことを全然知らなかった私に何度質問しても笑顔で答えてくれた、私のことをまるで孫のように可愛がってくれたおじいさん。でももう会うことはできない。そのときはじめて大切な人を失う怖さ、寂しさに気付いた。

 

 そして私は、人間と直接関わるのをやめた。おじいさんの時のように、大切になった人が急に消えてしまうのが怖いから。

 

 それからは、おじいさんとおばあさんが好きだった公園を守りたくて、暑い日も寒い日も二日に一回の掃除を欠かさずやった。日照り続きの時はぽい捨てされていたペットボトルをきれいに洗って使って水やりをして、守り神の力を使って草木とお話をしたりもした。そうして私は何年も、何十年もずっとその公園を見守り続けた。

 

~・~・~・~

 

「ん…」

 

 薄く目を開けて辺りを見回すと、学校の校庭に植えられた桜の木の下にいた。どうやら私は寝てしまっていたみたいだ。それにしても私が守り神になってはじめての時のことなんて懐かしい夢を見た。

 あの公園にはずっといたが、おじいさんが亡くなって大分経った頃に建物を建設するために潰されてしまった。あそこにあった草木や、おじいさんとおばあさんが好きだった桜も今はどこでどうしているのか分からない。

 

 私はあの日から一度も人目の前には出ていない。守り神として、草木や桜や人を見守っている。だけど今少し気になる人がいる。それは、今私が一緒にいる桜の下に二年くらい前から毎日のように来ては心の中の辛い話や寂しい話を吐き出しているこの学校の男の子。その寂しそうな顔を見ていると話してみたい、そう思うけどおじいさんの時のことを思い出すとどうしても直接話す勇気がなかった。

 

 それでも、いつか勇気が出たら人とお話しできるあの楽しい日がまた来るのかなーーー




番外編、いかがでしたでしょうか。

ご意見やご感想、ご指摘がありましたらお願いします。

お読みいただきありがとうございました。

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