孤独な少年と桜の乙女(次回更新未定)   作:宇彩

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孤独な少年は、桜の乙女との仲を深める

 次の日の朝、枕元で鳴り響く目覚ましを手探りで止めて寝惚け眼のまま上体を起こす。ベッドから降りて少し伸びをしてからカーテンを開けると、雨粒が窓やアスファルトにバチバチと当たる音が聞こえた。今日は雨が降っているようだ。

 俺はとりあえず着替えて顔を洗ってからリビングに向かい、キッチンに立つ母親におはようと言う。そしてテーブルの上に用意されている少し焼かれたパンにマーガリンとジャムを塗り口にくわえた。もそもそと食べているとつけっぱなしになっているテレビから天気予報が聞こえてきたので、俺はついパンを食べる手を止めてテレビに目を向ける。

 

「…今日は一日中雨が降り続けますが、雨の勢いは午後になるにつれて次第に弱くなっていくでしょう。次に…」

 

 そう告げた天気予報を聞き終わると俺はまたパンを食べ始める。すると母親が話しかけてきた。

 

「午後になんかあるの?」

「なんで?」

「だって今『やまないか…』って呟いてたじゃない」

「…特に何もない」

 

 気付かないうちに声に出ていたようだ。適当に母親に返事をしてからふと天気予報を聞いて少しがっかりしている自分がいることに気付く。桜と出会ってからまだ三日しか経っていないが、俺は放課後に桜と話すのを少しばかり楽しみにしていたのだろう。その証拠にそのあと登校中も歩きながら「やまねーかなぁ…」と呟いていたり、授業中につい窓の外にかかる灰色の雨雲を見てしまったりしていた。

 

 授業が終わって放課後になり窓の外を見ると、雨は大分弱まってはいたがまだ降り続けていた。雨が降っているからか校庭で遊ぼうとする人はおらずみんなすぐに仲いい者同士でわいわいと帰っていった。

 俺もランドセルを背負い校舎を後にする。桜の木の前を通ったとき、なんとなく木の下へ行きたくなったのでベンチへ向かった。繁っている葉のおかげかベンチはずぶ濡れではなかったが少し濡れてしまっていた。さすがにこの天気ではベンチでのんびりすることもできない。

 

「帰るか…」

 

 と呟いて校門へ向かって歩きだす。すると後ろから

 

「とうっ!」

 

 という声と共に首元に水が飛んできた。驚いて後ろを振りかえると、いつものワンピースの上から薄い水色のレインコートを着て白い長靴をはいた桜が笑顔で立っていた。

 

「約束通り来てくれたんですね。こんな天気なので今日は来ないかなと思っていたんですが」

「なんとなく来たくなったからな」

「嬉しいです♪あ、今遊んでたんですが八幡さんもどうですか?」

 

 といいながら水が一杯に入ったバケツを見せてくる。

 

「それ雨水?」

「いえ水道水を汲んできました♪あ、水鉄砲もありますよ」

「わざわざ汲んできたのかよ…割とがちで遊んでたんだな」

「雨の日くらいしか水遊びできませんからね♪」

「さいですか…」

 

 と言って「ささっ!」とバケツを手で示している桜を見て俺はため息をついてからバケツの中の水を片手で少しすくい、その少し冷たい水の感触を感じてから桜に飛ばしてやった。

 

「ひゃっ!」

「さっきの不意打ちの仕返しだ」

「むむむ…やりましたね八幡さん…それっ!」

「っと危ない。てかお前と違って俺レインコートとか着てないんだから手加減しろよ濡れるだろうが」

「八幡さん傘持っているじゃないですか。問題ないです」

「いや俺にとってはあるからな…」

 

 そんなことを呟くと桜が目を輝かせながら「さあ、勝負です!」と言いながら水を飛ばしてきたので俺はあまりにも楽しそうな桜の提案に乗って水を飛ばし返していた。

 

~・~・~・~

 

 二人とも疲れた顔でベンチに腰かける。結局お互い白熱してしまい、途中で水を汲みに行った結果バケツ約二杯分の水を飛ばして遊んでしまった。気付くと晴れてはいないが雨はすっかり上がっている。

 

「はあー楽しかったですね♪」

「確かに楽しかったが…疲れた」

「私も久しぶりにここまで疲れました…しかも私八幡さんが来る前から遊んでいましたからね」

「…守り神って暇なの?」

「暇じゃないですよ?私が雨の日が好きなだけです♪」

「なんで雨の日なんか好きになれるんだ…」

 

 とボソッと呟く。俺は雨の日なんてジメジメするし洗濯物干せないし濡れるしあまり好きではない。そう思っていると桜が「いやいやいや」と言った。

 

「雨の日は木々が喜んでいるじゃないですか!この桜の木も久しぶりに水浴び出来て楽しそうですし」

 

 と言いながら桜は上を見上げる。つられて俺も見上げると桜の葉は雨粒で少しキラキラしている。確かに最近は晴れが続いていたからかなんとなくキラキラと輝く葉が心なしか喜んでいるように見えた。

 しばらくの間見上げていてから雨に降られないように図書室の屋根の下に置いておいたランドセルを背負う。

 

「さて、そろそろ帰るか」

「え…まだいつもの鐘鳴ってないですよ?」

「遊んでたせいで濡れちったから早く帰りたいしな」

「むう…」

 

 と言って桜は頬を膨らませながら俺をジトーッと見てくる。…可愛い。

 

「また来るからそんな顔すんな」

「またっていつですか?ちなみに私には明日から何があるのか知っていますよ?」

「…あ」

 

 そう、今日は四月最後の登校日だ。そして明日からはゴールデンウイークがあり、俺の学校では家庭の手伝いをしましょうとか校舎の清掃とかなんとか言って中の平日も休みなので次に学校に来るのは確か…十日後だ。

 

「次来るのは十日後ですねはい」

「…長い遅い待てません」

「それはゴールデンウイークを作った人に言ってくれ」

「分かりましたちょっくら抗議してきます」

「落ち着け十日後に来るから、な?」

「…分かりました。待ってますよ」

 

 相変わらずむう…っとしている桜の頭をぽんぽんと撫でてやると桜はへにょんとした顔になる。

 

「じゃあまたな」

「はいっまた。あ、八幡さん風邪引かないように帰ったらすぐ温かくしてくださいね」

「おう」

「十日後に会いましょうね」

 

 といって桜はいつものように笑顔で手を振ってくれる。俺は振り返しながら何気に風邪を引かないように心配してくれた桜に感謝しながら学校を後にした。




いかがでしたでしょうか。

ご意見やご感想、ご指摘がありましたらお願いします。

今回もお読みいただきありがとうございました。

ー追記ー
なるべく次話もいつもと同じくらいの間隔で投稿したいのですが、定期テストが近付いているので投稿が遅くなってしまうかと思います。もしも楽しみにしてくださっている方がいましたら申し訳ありません。なるべく空いた時間に少しずつ書いて早めに投稿したいと思います。

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