孤独な少年と桜の乙女(次回更新未定)   作:宇彩

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 桜の神の名称を少し変更しました。
 八幡は桜の神のことを「桜」と呼んでいます。
 桜の木は「桜の木」と書くようにします。
 分かりにくくて申し訳ありません。


孤独な少年は、桜の乙女のことを知る

 桜の神と出会った次の日の放課後、俺はまたいつものように桜の木の下のベンチに腰掛けていた。

 いつもの俺なら本を読むだけではなく勉強もしなければならないので、ここに来るのは週に二、三回ほどなのでこうも連日で来るのは珍しい。だが、昨日の放課後からずっと俺の脳内を占めているとある疑問の答えを導き出したくてここに来た。その疑問というのが…

 

“昨日のあの出来事は夢ではないのか”

 

 家に帰ってからよく考えると、桜の神を名乗る少女と出会い会話を交わしたあの放課後の出来事がまるでよくできた夢のように思えて仕方なかった。よく物語であるような、朝突然目覚めて『なんだ夢か…』ということが起きるかと思ったが案の定起きなかった。だからこそ夢なのか、はたまた俺が勝手に造り出した幻影なのかと一日中悶々と考えながら授業を受けていたのだ。

 やっと授業が終わり授業から解放された他の生徒たちが帰路についたり校庭に飛び出したりしているなか、俺は相変わらず悶々とした気持ちのままベンチへ向かい、いつものように本を読み始める。

 たしか昨日桜の神が言っていたことによると、桜の神は俺以外の他の人には見えないらしい。なら確かめるのはいまでもいいのではないかと思われるだろうが、よく考えてみてほしい。昨日俺は確かに桜の神と会話をした。声を使って。つまり端から見ると“なにもいない空間に話しかけている変な人”という妙な誤解を招きかねない。いや、たしかにまわりから見たらなにもいない空間に話しかけているように見えるから誤解ではないが。そのため誤解されないよう校庭にいる生徒がいなくなってから試してみようと思うのだ。

 

~・~・~・~

 

 借りるときからずっと楽しみにしていた本を最後まで読み終えた俺は読んでいた本をパタンと閉じる。夢中で読んでいたためどれくらいの時間が経ったのか分からないが、もう校庭にはほぼ生徒がいなかった。さて桜の神は…と思いながらふと疑問が生まれる。

 

「桜の神って…どうすれば出てくるんだ?」

 

 昨日はたしか、いつものように桜の木に話しかけていたときに強い風が吹いてきて目を開けたら隣にいたんだっけか。ってことはいつもするように話しかければいいのか?と考えながら桜の木を見上げる。見上げた先の枝葉は青空の下でいつもと同じように風にあわせてサラサラと心地よい音をたてていた。

 

「やっぱ…ここに来ると落ち着くな…」

 

 見上げたまま思わず呟く。目を閉じて葉が揺れる音を聞いているとサラサラという音を聞いていると心が洗われるような気分になれる。しばらくそのまま目を閉じたあと俺は目を開ける。目を開けると隣には

 

「今日も来てくれたんですね」

「夢じゃなかったのかよ…現実だったのかよ…」

 

 隣にいるのはやはり昨日出会った少女だった。俺はこの事実を確認するためにここに来たので望んでいたことではあったのだが、突然の出来事で驚いた俺は反射的に自分の頬をつねっていた。

 

「……痛い」

「夢じゃないですよ?私は正真正銘この桜の守り神の桜さんなのです!なんちゃって☆」

「キャラがわからん…というか桜さんってそのまんまかよ…」

「だって私桜の木が、特にこの桜の木が大好きですから!」

 

 と笑顔でいいながら桜の神…あらため桜さんは桜の木を見上げながら口を開いた。

 

「八幡さんは、この桜の木がいつからあるか知っていますか?」

「さあ、知らんな」

「まあ、私も知りませんが」

「いや知らないのかよ…」

 

 ついそう突っ込むと桜の神はふふふと微笑んだ。

 

「でも、この大きさまで大きくなったってことはとても長い間ここにあるんだと思うんです。その間この木は色々なものを見てきたと思うんです。それってすごいことだと思いませんか!?」

 

 と目を輝かせながら俺の方にずいっと寄ってくる。

 

「まあ…たしかにな」

「ですよね!それにこの桜の木はきっといままでもこれからも毎年の春にはあのきれいな花を咲かせるんですよ!それに春じゃなくても一年中ここでいろんな姿を見せてくれるんです!だからこの桜の木が大好きでずっとここにいるんです」

 

 いまだ目を輝かせている桜の神の横顔を見ていると本当に好きなんだな…とわかる。と、少し気になったことを聞いてみる。

 

「ずっといるって…お前何歳なの?」

「ほほう…女の子に歳を聞いてはいけないと知らないのですか…?」

「ってことは大分おばさんってことか…」

「何でです!?私なにも言ってないじゃないですか」

「だって歳を聞かれてそういう反応をするのはもうあんまし若くないってことだと…「ふんぬっ!」いひゃいいひゃい!おまへほっぺひっひゃるなよ!」

 

 桜の神は大分怒ったようだ。

 

「お・ん・な・の・こです!分かりましたか!?」

「わかりまひひゃはなひてくだひゃい!」

「…にしても八幡さんってほっぺ柔らかいですね」

「おいはなひぇ!」

 

 といいながら俺の頬をぷにぷにしている桜の神から逃げると「ちぇ~」と呟く声が聞こえる。いやなにがちぇ~やねん。と思っていると「それと!」と前置きをして桜の神が話し始めた。

 

「あと私はお前さんではありませんよ」

 

 むっと膨れっ面になっているのがかわいかったので俺は少し笑ってしまった。

 

「くくっ…すいませんね神様…」

「笑わないでください!あと神様って言われるとなんか変な感じなのでやっぱりやめてほしいです」

「いやでも神様でいいって…」

「一応神なんですが、私は桜の木のところにいるだけなのでなんとも言えませんね」

「さいですか…」

「なので私のことは桜とでも呼んでくださいなっ」

「いやでも神様…「却下」…桜の神で…「却下」…桜」

 

 としぶしぶ名前を呼ぶと笑顔になった。

 

「名前を呼ばれるのはいつぶりでしょうか…すごく嬉しいものですねっ♪」

 

 と言ったとき、ちょうど校庭にチャイムの音が響いた。この学校では17:30になるとチャイムがなるようになっているのだ。それを聞いた桜は寂しそうな顔をする。

 

「もう帰っちゃいますよね…もっと話しかったんですが…」

 

 その寂しそうな顔を見た俺は少し考えてからこう言った。

 

「…また明日来るから話そうぜ」

「はいっ!約束ですよっ」

 

 と言うと桜はにっこりと微笑んだ。




いかがでしたでしょうか。

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お読みいただきありがとうございました。

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