孤独な少年と桜の乙女(次回更新未定)   作:宇彩

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前回の続きです。今回はいつもより長め。

前回の前書きで前後編で分けると書いたのですが思ったよりも手が進み沢山書けたので桜の里帰りは三部か四部に分けます。

楽しんでいただけたら嬉しいです。
では、どうぞ。


番外編 桜の里帰り 中編

 恥ずかしくて伸びていた私が落ち着いたあと、二人で楓の寝床のにばふっと飛び乗る。しばらく箱に敷き詰められた木の葉をかけあいっこして遊んでいると楓が「さて」と呟きながら仰向けに寝転がりこちらを見ながらにやにやしている。

 

「んで?八幡さんのこともっと教えてよ」

「いやだよ。いじられるもん」

「えーいーじゃんよー」

「それにもう八幡さんとは話せないかもしれないもの」

「え、なんで?」

 

 そして私はこの間の出来事を伝える。

 

「その雪ノ下さん?って女子なの?」

「分からない。ただ名前が出ただけだから」

「ふーん…二人にタンスに足の小指ぶつけて悶える魔法かけたい」

「なにその地味だけど嫌な嫌がらせ」

「だって毎日来るって言ってくれてたのに来なかったんでしょ?」

「えーっとまあそうだけど。でも八幡さんだって忙しいかもじゃん…」

 

 そう呟くと楓は勢いをつけながら起き上がり、木の葉を手一杯に抱えてこちらに飛ばしてくる。私は急なことで避けられず頭から被ってしまった。

 

「甘い!甘いよ桜!」

「なにが?」

「好きならそんないじいじしないで八幡さんに伝えなきゃ!来てほしいって!」

「うー…」

「まあしばらくここにいたら会いたくて会いたくて仕方なくなるかも」

「…」

「そしたら帰って会ったときにそう伝えればいいんだよ、ね?」

「…うん」

 

 そんなこと伝えられるのかなと思いながら頷くと楓は笑顔で頷き返した。

 

「うんっ!ちょうどこっちにいる間に手伝ってほしいこともあるし」

「手伝ってほしいこと?」

「うん。昔よく遊びにいった森の外れの広い公園覚えてる?」

「あったね、懐かしい」

「最近人間がよくごみを捨てていっててさ、私一人じゃ片付けるのにどんくらいかかるか分からないの。だから手伝ってほしいなーって」

「いいよ」

「やたっ!明日朝からやる?」

「あ、明日私が生まれた桜の木のところに行きたいんだけど…」

「じゃあ明日は朝桜の木のところに行こっか」

「そうだね」

 

 そのあと少し話した後二人とも睡魔に襲われたのでそのままぐっすり寝てしまった。

 

 次の日、私が目を覚ましたとき楓はまだぐっすりと寝ている。私は楓を起こさないようにゆっくりと寝床から抜け出して太陽の光を浴びるために棲みかから出ると太陽が思ったよりも上に昇っているのに気付いた。

 

「寝すぎた…」

 

 昨日は長時間の飛行で少し疲れていた上に遅くまで楓と話していたため、寝たのは大分遅くなってからだったのだ。楓を起こそうかなと考えながら寝床に戻ると楓があまりにも気持ち良さそうに寝息をたてながら寝ているので起こすのがかわいそうだと思い私はそのまま森を散歩することにした。

 

 森の中を進んでいると昔よく楓と座って一日中お喋りをしていたボコッとなっている木の根っこを見つける。森の美味しい空気をいっぱいに感じたくなったので、人間の姿になろうといつも大切に身に付けているネックレスに触れながら目を閉じるとざあーっと木々を風が揺らす音がしたのを確認して目を開ける。人間の姿になったのを確認し根に腰掛け、大きく深呼吸をしながら自分の姿を見下ろす。

 桜色のひらっとしたワンピースに白いサンダル、そして頭にそっと触れるとゆらゆらと揺れているポニーテール。

 

ーーそういえば桜さん夏アレンジです!どーですか?

ーーまあ、確かに暑くなってきたしな。…いーんじゃね?

ーーやったやった♪

 

「そう言えば八幡さんにかわいいって言ってもらえたな…」

 

 八幡さんとの会話を思いだしそう呟きながらため息をつく。昨日楓に言われた言葉がずっと頭から離れないでいるのだ。

 

ーー桜、その八幡さんのことが好きなのね

 

「うわあああ…」

 

 ブンブンと勢い良く頭を振りながら小さくそう叫ぶと、辺りに飛んでいた守り神たちが驚いてしまったので「ごめんね」と謝りながら思考を戻す。いつから私はこんな風になってしまったのだろう。少なくとも八幡さんを初めて見るまでの私は木や花のことばかり考えていた。こんな感情なんて抱いたことなかったのに。

 

「楓の言ったことについて否定はしないけど、好きなんだけど!改まって言われると…」

 

 本日二度目の叫び。そんなことを考えながらしばらく暴れていると時間も時間だからかお腹が空いてきたので守り神の姿に戻り楓の棲みかに向けて飛び立った。

 

 

「ただいま」

 

 飛んでいる間にどうにか思考を落ち着けて(このまま戻ると楓にいじられるため)棲みかに帰ると楓が寝床でこちらに背を向けて座っていることに気付き声をかける。

 

「あ、楓おはよう」

 

 そう声をかけると楓の肩がびくっと跳ね、何かを隠しながら恐る恐るこちらを振り返る。

 

「ア、桜。オハヨウ」

「明らかなる棒読みね。さて何を隠した?」

 

 そう言いながら私は楓ににこっと微笑みかけると楓はヒッ!と言いながら隠していたものをこちらに差し出す。楓の手に握られていたのは食べかけのラズベリー。

 

「起きたらお腹空いたなーって思って、そしたらなんかいい香りしてきて、とりあえず手を伸ばして掴んで食べてみたら桜様の持ってきたラズベリーでしたっ!」

「うん、いつものことだね」

「否定できん」

 

 楓は昔から小さい体のくせにどこに入るのって程よく食べる。それに寝起きにも必ずと言っていいほど何か食べる。おそらく今日は寝床の横にラズベリーを入れてあったバッグを置いておいたのでその香りにつられたのだろう、と考えていると楓がつい先ほどまで隠していた手の上のラズベリーをほおばった。えっ、まあいいけど寝起きからよく食べるなー。

 

「あの、食べちゃったお詫びにすごくおいしいフルーツがいっぱいある所行こう、ね?もぐもぐ」

「言動が一致してないと思う。まあもともとそれは楓にあげるつもりだったいいけどね」

「本当!ありがとう!じゃあもう1個食べるね♪」

「はいはい」

 

楓がもぐもぐと食べているのを見てお腹が空いていたのだと思い出す。楓からラズベリーを1つ受け取り口を付ける。そうして2人で少し遅い朝食を終えた後楓が口を開く。

 

「さて、思ったよりも寝坊しちゃったし今日は公園の掃除は無しかな」

「そうだね。あそこ広いし」

「桜は何日くらいここにいられそう?八幡さんと話すとか言ってなかったっけ?」

「うーん来る前に校庭まわりの雑草とか抜いてきたしすぐに帰らなきゃいけないって感じではないかな。八幡さんは…もう少し待ってからじゃないと会うの恥ずかしいかも」

「あら乙女」

「うるさいうるさい。じゃあ今日は桜の木の所行って良い感じの時間かな」

「そう言いながらまた顔が赤い桜さんなのでした。じゃあそうしようか」

「うん。でもその前に楓は寝癖をどうにかしておいで」

「寝癖出来ないようにしたいなあって最近思うんだけど桜は?」

「私あんまり寝癖出来ないもん。楓と違って髪長いからね」

「むーん。いいやちょっと待ってて」

「ん」

 

 そうして楓が寝癖を直すのを待って私たちは森へ飛び立った。目的の桜はこの森の中央付近にあり楓の棲みかはそこから離れた所にあるので少し時間がかかったが到着。

 

 私が生まれたその木は大きな枝葉を茂らせて地表に暖かな木漏れ日をもたらしている。そして幹のまわりには新しく守り神が生まれたのかいくつかの光の塊がふわふわと漂っていた。私は楓と共に桜の根元に降りて幹に寄りかかり、昔のことを思い出しながら日向ぼっこをしていた。

 

~・~・~・~

 

 昔の私は他の守り神とあまり関わらずに綺麗な花や木を見付けてはそこで一人でのんびりしていた。というか一人だったのは私の性格上あまり他の守り神に話しかけることが出来なかったからだが。同じときに生まれた桜の木の守り神達が他の木から生まれた守り神とかと仲良くしているのを見ていると自分も友達が欲しいなと思ってため息をついていたが、ある日その生活は変わった。

 

 その日は、前に散策していた時に見つけた綺麗な紅葉をしている楓の木の少し高い所にある枝に腰掛けて歌を歌っていた。太陽の暖かい光を浴びながら歌を歌うのが何となく好きだったので最近はよくそうしていたのだが、ふと横を見ると同じ枝の少し離れた所に一人の守り神が目を閉じながら座っているのを見つける。もしかして歌っていたの聞かれただろうか、笑われるだろうかと考えていると自分の顔が赤くなっていくのに気付く。するとその守り神は目を開けてこちらを見たので、彼女を見ていた私とばっちり目が合ってしまう。

 

「えっと…その…」

「歌うのやめちゃったのー?」

 

 なんて言い訳すればいいのかと考えて口をもごもごしていると彼女は予想外のことを言い出したので私は驚いてしまう。

 

「え…やめちゃったって…え?」

「だーかーらー何で歌うのやめちゃうのさー」

「だってあなたがいたから…恥ずかしいしうるさいかなーって思ったので…」

 

 頬を膨らませてなぜか怒っている感じの彼女に私はそう伝えると彼女はえ?という顔をして首をこてんと傾げた。

 

「うるさくないよ?だって綺麗な声だったし、私だって歌が聞こえてきたからここに来たんだもん」

「笑わない…?」

「え、笑わないよ。だってもっと聞きたいなって思うくらいいい歌だったもん」

「初めてそんなこと言われたので…」

「そうなの?こんなに綺麗な声なのに?」

「いつもほかの人がいないようにこんな高い所まで来てるわけで…」

「友達は?」

「…いないです」

「あー人と話すの苦手そうだもんね」

「自覚はある…」

「普段は何やってるの?」

「森を散策して綺麗な花を見つけたり美味しい実を見つけたり…です」

 

 そう言いながら少し落ち込んでいると彼女は「よしっ!」と呟きながら立ち上がりこちらに近付いてきた。

 

「ね、私と友達にならない?私まだ生まれたばかりでこの森のこと良く知らないから教えてほしい!」

「友達…」

「あ、ちなみにあなたの名前は?この森出身だよね?」

「えと…この森の中心辺りにある桜の木からこの春生まれた…桜です」

「桜ね。私はこの楓の木からこの間生まれた楓だよ。あと私の方が生まれたの少し遅いし同い年だし敬語じゃなくていいよむしろダメね」

「あっはい…いや、うん」

 

 そう返すと彼女…楓は少し考えてからぱあっと笑顔になりこちらに身を乗り出す。

 

「春ってことは綺麗な花いっぱい知ってる!私は秋生まれだからまだまだ未熟だけど果物とか結構知ってる!なんか仲良くなれる気がする!」

「なんというプラス思考…」

「と言うわけで、これからよろしくね桜ちゃん!」

 

 楓は小さな手をこちらに差し出しながらそう言った。

 

「こんなのでよければ…」

「んー私は桜ちゃんと仲良くなりたいんだし今のままで全然オッケーだよ?」

「なら、えっと…よろしくね、楓ちゃん」

「うんっ!」

 

 私はまだ少しおどおどしながらもその手を握り返した。

 

~・~・~・~

 

「懐かしいなぁ…」

 

 そう呟きながら隣を見ると、楓は私の肩に頭を乗っけながらすやすやと寝息を立てて寝ている。どんだけ寝るんだろうと若干感心しながら楓の顔をると少し笑顔を浮かべながら寝ているので頭をなでなでしながらおそらく聞こえないだろうがそっと呟く。

 

「あんな私と仲良くなってくれてありがとう、楓」

 

 今思い出してもあの時の私は他の人と話すのが本当に苦手で。楓もきっと最初のころ話すのも大変だったと思う。それでも私と仲良くしてくれた、そのおかげで今となっては他の守り神と話すのも今までよりは普通にできるようになった。そんなことを考えながらぼーっとしていると肩に乗っけられた楓の頭が少し揺れた。

 

「ん…また寝ちゃった?」

「おはよう楓」

「ふわわ、おはよう桜。どのくらい寝てた?」

「うーん。私もちょっと昔のこと思い出したりしてたしどのくらいか分からないや」

「昔のことって?」

「楓と初めて会った日のこと」

「あーあの時の桜ほんとに人見知りだったね」

 

 そう言いながら楓は楽しそうに笑う。私が否定できずにいると私の顔を覗き込みながらこう言ってくれた。

 

「でも、なんか仲良くなりたいなって思ったんだよね。歌ってるの初めて見た時の桜ね、目がキラキラしてて。森の木もなんか楽しそうに見えて。きっとこの子優しい子なんだろうな、仲良くなったら楽しいだろうなーって」

「そうだったんだ」

「うんっ!」

「…ありがとね楓」

「こちらこそっ!」

 

 私たちはお互い目を見ながらそう言って、少し恥ずかしくなってどちらからともなく二人そろって笑いだした。




前書きでも書いたように今回はいつもより少し長めにしました。(いつもは2500字前後のところが5000字弱)
理由は、いつも読んで感想を言ってくれる友人とこの作品の話をしていたとき「もう少し本文長くしてみたら?」と言われたためです。
今まで私はあまり文章書くのうまくないのに長くすることにこだわると無駄な描写とかを増やしてしまって全体的にうざったらしくなってしまうかもなーと思っていたので短めだったのですが。これくらいなら平気でしょうか…いかがでしたでしょうか?

ご意見やご感想、ご指摘がありましたらお願いします。

お読みいただきありがとうございました。

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