孤独な少年と桜の乙女(次回更新未定)   作:宇彩

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前回のあとがきで予告したように今回は桜さんのお話です。
全部書くと結構長めになってしまうので(これでもいつもより大分長い)前後編で分けます。

楽しんでいただけたら嬉しいです。
では、どうぞ。


番外編 桜の里帰り 前編

 ある日、私はいつものベンチの上で膝を抱えながらぼそっと呟く。

 

「はあ…来ませんよね…」

 

 もちろん私が待っているのは八幡さん。私が少し強く言ってしまった日から結構経ったが、やはり八幡さんは来てくれない。

 

「このまま嫌われちゃうのかな…」

 

 そんなことを考えてからぶんぶんと頭を振ってその考えを頭から追い出そうとする。ネガティブに考えちゃダメだと自分に言い聞かせながら勢いをつけてベンチから降りる。

 

「こううじうじしたままじゃだめだ!なんか気分転換でもしよう!」

 

 と言ってから気分転換ってなんだろうと考える。そして閃いたことが。

 

「そうだ!里帰りでもしようかな!」

 

 思い立った日が吉日!と自分に言い聞かせながら白いポシェットを肩にかけて出発した。

 

 ここで少し私達守り神のことを説明しておこう。

 先ほど里帰りと言ったけど、私達には人間のように両親がいるわけではない。私達は木や花の"喜び"のエネルギーが寄せ集まって体や心ができるのだ。喜びとは、例えばたくさんの太陽の光を浴びたときや花や木を潤してくれる雨が降り注いだとき、心地のよい風が吹いたとき。私が生まれたのはとある山奥の森に生えている桜の木。私達のような存在は、生まれた森でしばらく暮らしたあと何人かは私のように自分の好きな花を探す旅に出る。そして私は公園や森を転々と巡ったのち今の桜の木にありついたのだ。

 また、人間に見えない本来の姿の時の私達は15㎝ほどの小ささで背中には透明な薄い羽が生えていて飛べるようになっている。ちなみに人間の姿の時も守り神の姿の時も髪の長さや服装はあまり変わらない。そのため私たちが移動するときは守り神の姿に戻り飛行する方法と、人間に見える姿になって歩くのと二つある。飛行と徒歩だと徒歩の方がエネルギー消費は多く疲れやすい。エネルギーがなくなったりお腹が空いたときには果物や果実を食べる。いま私が持っているポシェットには前に収穫して大切にとっておいたラズベリーがたくさん入っているのだ。

 今回、森までは大分遠いので飛んでいくことにした。まあ飛んでも半日ほどかかってしまうが。

 

~・~・~・~

 

 大分長い間飛んでいると木がたくさん植えられている森林公園を見つける。ちょうどお腹も空いてきたので休憩にしようかと近くの枝に着地する。ふっと息をついて辺りを見回した私は周囲に広がる景色に目を奪われた。それは、木々に生い茂る葉には昨日雨でも降ったのか雨粒がたくさんついていて太陽の光でキラキラと輝いている、まるでたくさんの宝石のようだった。

 

「きれい…八幡さんにも見せてあげたいな…」

 

 無意識のうちにそんなことを呟いていたことに気付きまたぶんぶんと頭を振る。

 

「だめ、八幡さんのこと考えるのなし!」

 

 寂しくなっちゃうからね、と呟いてから深呼吸をして心の中のモヤモヤを追い出す。落ち着いたのでふっとため息をつくと空腹なことに気付いたのでポシェットからラズベリーを取り出して食べ始める。しばらくするとどこから来たのか鳥が飛んできて近くに止まったのでラズベリーを一粒分けてあげた。

 腹ごしらえも済んだので鳥さんに別れを告げて枝から飛び立つ。そのあとも森や林を見つけては休憩をして、目的地の森に到着したのは夕方頃になってからだった。たくさんの守り神や妖精が飛んでいるのを見ながら、最後にこの森に来たのは大分前だなーと考えしばらくのんびりと飛んでいく。と、少し先に知り合いが見えたので少し飛行速度をあげて近付いていく。

 

「楓!」

 

 薄い赤とオレンジのグラデーションのチュニックにショートパンツ、肩辺りで切り揃えられた髪をした彼女は速度を緩めながらこちらを振り向く。そして私と目が合うと満面の笑みを浮かべた。

 

「桜!」

 

 楓は私と同じ年に同じ森で生まれた。桜と楓でちょうど春と秋ということで昔からよく一緒に遊んでいた。好きな花を探すために森から旅立った私と違い、楓は自分を生み出した楓の木の守り神をしている。ちなみに私が旅に出るとき楓は大泣きして送り出してくれた。大泣きした楓を慰めるのに優に一時間かかったのもなつかしい思い出だ。

 そんなことを考えている間にこちらに飛んできた楓は笑顔で飛び付いてきた。

 

「さくらっさくらっ!」

「近い近い。落ち着いて?」

「だって久しぶりじゃん!もう帰ってこないかと思ったんだよ?」

「ごめんごめん。探してた、自分が大好きな木をやっと見つけられたからついずっとそこにいて」

「桜の木?いつか見に行くね!」

「うんっぜひぜひ!」

 

 そんなことを話しているときゅうとお腹がなる音がする。楓のほうを見るとえへへと笑いながらお腹を抱えている。

 

「お腹空いちゃった…」

「私ラズベリー持ってるよ。どっかに降りて食べようか」

「あっ!じゃあ私の棲みか来る?」

「そうしよっか。楓の棲みかに行くの久しぶりだな~」

 

 久しぶりに会った私達は、楓の棲みかに行く間も絶え間なく話続けていた。

 

~・~・~・~

 

「とうちゃーく!」

 

 かくして楓の棲みかに到着。木の枝で作られた机や椅子、箱の中に木の葉を敷き詰めたふわふわとした寝床もある。

 

「お邪魔しまーす」

「どーぞ、あ、ラズベリー食べよっ」

 

 そう言ってどこからかお皿を持ってくる。よほどお腹がすいたのかわくわくとした目で私を見ているのでポシェットから出して楓に渡すといただきまーすといってぱくぱくと食べ始めた。

 

「誰も取らないんだからゆっくり食べなよ」

「ありがとう桜おかーさん!」

「少し私の方が生まれたの早いだけで同い年だからね…」

 

 最後に来たときからなにも変わらない楓のテンションに安心しながら私もラズベリーを口に含む。しばらくすると空腹が落ち着いたのか楓が話しかけてきた。

 

「そういえば結構前に言ってたおじいさんの公園は?」

「あそこならさら地になっちゃったの。建物を建てるらしいよ」

「おじいさんが亡くなったとき見てるこっちが心配になるくらい落ち込んでたけどあれから人の姿にはなってないの?」

「最近はなってるよ。大好きな桜の木のところにいつも来る人がいてね、よくその人とお喋りしてる」

「桜…立ち直ったんだね…おばあちゃん嬉しいよ」

「おっ、おばあちゃん!?」

 

 私がそう突っ込むと楓はノリノリでおばあちゃんの真似を始め、とても面白くて二人してお腹を抱えて笑う。

 

「はあ、お腹いたい!」

「ほんとだよ。楓があんなことするから」

「えへへ。あ、ちなみにその人はどんな人なの?」

「えっとね、八幡さんって言って…」

 

 それから私は八幡さんのことをざっくりと話した。始めて見たときはとても辛そうな顔をしていたこと、はじめて名前で呼んでもらえたときとても嬉しかったこと、一緒に遊んだりしたこと。この里帰りの間は辛くなってしまうから八幡さんのことを考えないと決めていたのに、楓に話すために思い出している八幡さんとの思い出はどれも楽しかったものばかりでもっと話したいと思った。

 一通り私の話を聞いた楓は顎に手を当てて「ほう」と呟いている。

 

「どうしたの?」

「桜」

「ん?」

「その八幡さんのことが好きなのね」

「!?」

 

 楓が言ったことに驚き彼女を見つめる。すると楓はあははっと笑いながら続ける。

 

「どーもさっき桜に会ったときなんか可愛くなったなーって思ったんだよね。で、今の話聞いてて分かったよ。八幡さんのことが好きなんだ」

「いやまあ好きだけどそれは友情としてで…」

「え、だってさっき八幡さんの話してるときすごく楽しそうな顔をしてたよ?それにさ、」

 

 そう言って一度言葉を区切って私をジーっと見つめたあと口を開く。

 

「私がこの話はじめてから桜顔真っ赤だし?」

「!?」

 

 楓がそう言ったのを聞いて我に返ると顔がほてっているのに気付く。

 

「桜かわいいぞ」

「うるさいうるさい…」

「さて、じゃあもう夜だし寝るだけだしこれからゆっくりと八幡さんのことでも聞こうかな」

「鬼かな?」

「んーいじりたいだけ」

「うん鬼だね」




いかがでしたでしょうか。

ちなみに桜や楓達守り神の見た目のイメージはソードアート・オンラインのユイちゃんのような感じです。

ご意見やご感想、ご指摘がありましたらお願いします。

お読みいただきありがとうございました。

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