相変わらず誤字多いけど。
固有結界内で、士郎とエミヤの二人は剣戟をぶつけ合った。
それは単に固有結界同士の衝突ではなく、理想と現実、未熟と摩耗、心と心の交錯だった。
「正義の味方?そんな夢みたいな理想を抱くのなら、抱いたまま溺死しろ。」
「馬鹿言え。夢も理想も大事なものだ。例え叶えられなくても、それを抱く事に意味はある。」
「何度も殺してきた。何度も、何度も、何度もだ!数える事すら意味を成さない。理想を追った果てが唯の殺し屋だ!これが間違いでなくて何だと言う!」
「そうだな。お前は正しい。だが、それはただ正しいだけだ。そして、俺も間違いだって気付いてる。」
「では何故そんなものを目指す!?間違いだと気付きながら…!」
「それでも、美しいと感じたんだ。」
「俺の理想は借り物で偽物だ。でも、あの美しさは本物だった。全ての人の幸福を追い求める生き方は尊かった!決して間違いなんかじゃなかった!」
「貴様は……。」
「それに、俺はお前にはならない。」
「何?」
「お前は、世界を滅ぼそうとする連中に加担した。」
「ぬ……。」
「俺はそんな事は絶対にしない。この街を、ここに住む人々を焼いた奴らを認めない。もうこれ以上、大事な誰かを失いたくない!」
「…成程、確かに貴様は私と違う。喜べ衛宮士郎、貴様は私にとって単なる敵になった。」
「今更だ!」
ちらり、と視線を向ければ、そこには士郎を見守る桜の姿があった。
アーチャーにとって、彼女は日常の象徴であり、救うべき人の一人だった。
だと言うのに、彼は多くの親しい人々を顧みずに、荒野へと旅立った。
(成程、違う訳だ。)
少なくとも、その点だけは人間として自分よりも上等だと苦笑してしまう。
そして、剣戟は更に加速していく。
剣の丘に立ち、剣を雨霰と射出するアーチャー目掛け、士郎もまた剣を射出しながら駆けていく。
ボロボロになりながらも身を削り、体を内から剣に浸食されながらも、それでも尚士郎は駆けた。
(一歩、退くだけで勝てる。)
それが分かっていても、それでもアーチャーは退けなかった。
それをすれば、何か致命的な所で敗北する。
普段のエミヤなら此処でとっとと殺している。
そも、こんな事態において一騎打ちなんてしていない。
セイバーを相手に遅滞戦術を繰り返し、時間を稼ぎ続けていただろう、状況の変化が起きるまで。
そうでなくても戦闘を避け、待ち続けていた筈だ。
だが、黒化した事でアーチャーは理性の頚木が外れ、自己の欲へと正直になった彼は守護者としての役目から逃れるために自分殺しを実行した。
だと言うのに、この為体は何だ?
「消えろッ!」
その苦悩を振り払う様に、アーチャーが止めとばかりに宝具を投影する。
英雄王の蔵にある神霊の持つ巨大な二振りの剣。
「『虚・千山斬り拓く翠の地平と万海灼き祓う暁の水平』ッ!!」
即ち、イガリマとシュルシャガナ。
頭上から迫り来るその圧倒的質量を前に、通常の防御など無意味だ。
「是、『虚・千山斬り拓く翠の地平と万海灼き祓う暁の水平』ッ!!」
故に、下方から射出された全く同じ二振りの巨剣が互いを食らい合う。
直後、轟音と共に、全方位へと衝撃が撒き散らされる。
その衝撃に煽られながらも一時的な剣の弾幕の間隙を、士郎は駆けていく。
(まるで古い鏡だ。出来の悪い、鏡…。)
ズダボロになってもなお駆けてくる士郎を見て、成れの果てたるアーチャーは思う。
そうだ、自分もこうだった。
理想を抱き、現実の前に絶望し、それでもなお立ち上がり、駆けた。
全員、なんて贅沢な事は言わない。意味がない。
でも、一人でも多く、幸せになって欲しかった。
そのためだけに駆け抜けた。
(そうだ、こういう男がいたんだっけな…。)
後数歩、それだけで剣の間合いに入る。
必死の形相で駆けてくる士郎を前にして、アーチャーは右手に持つ白の陰剣・莫邪を振り上げ……
「俺の勝ちだ、アーチャー。」
「あぁ、そして私の敗北だ。」
遂には、それを振り下ろす事が出来なかった。
こうして、錬鉄の英雄は敗れた。
……………
「先輩!」
固有結界が消えていく中、倒れそうになる士郎を駆け寄った桜が支えた。
「ぁ…すまん、桜。心配かけたな…。」
「先輩、今治癒魔術を掛けますから!」
士郎の体はボロボロだった。
セイバーとの契約もなく、唯の異能に近い魔術使いである彼に傷を癒す術は無い。
成長した今なら治癒効果を持つ宝具を投影できるだろうが、それをするための魔力も無いし、魔術回路は既に限界だ。
「治ったら、直ぐに皆さんと合流しましょうね。」
「あぁ、慎二達も心配だからな…。」
だが、固有結界の外の景色を見た時、二人は絶句した。
「な…!?」
「これって…!」
そこは瓦礫と炎の海だった。
あらゆるものが薙ぎ倒され、元の形を失い、炎に飲まれている。
先日、自分達とサーヴァントを除いたあらゆる者が焼かれた時よりも更に酷い有様。
最早街の面影も見えず、完全に破壊されつくしていた。
「そんな……。」
「いや、まだ生き残ってるかもしれない。急いで合流しよう。」
最悪の想像に顔を青くする桜に、しかし士郎は冷静に判断した。
此処まで破壊されたのなら、それは誰かが戦った証だ。
あんな焼却を早々何度も行えるとは思えないし、ランサーならそれを防げる筈だ。
なら、これは戦闘の結果、ただの余波だ。
(問題は誰が生き残っているかだ。)
知らず、拳を握りしめながら、それでも士郎は火の少ない場所を桜と共に走り抜ける。
炎と瓦礫に飲まれながらも、極僅かに残ってる街の名残から目を逸らしながら、二人は炎の間から見える円蔵山へと走っていった。
そして、漸く二人は一人目の仲間を見つけた。
「ランサー!?先輩!ランサーがいます!ボロボロだけど何とか無事です!」
そこで二人は第一村人もとい瀕死の重傷を負ったランサーを見つけた。
「いやぁ助かりました。」
そして、5分後には二人はランサーの両脇に抱えられて一路円蔵山を目指していた。
と言っても、桜の治癒魔術が優れていた訳ではない。
単に最後の令呪を使って魔力を供給し、ランサー自身に治癒してもらっただけだ。
とは言え、事が終わるまでは十分として、ランサーは合流のために二人を強引に抱えて走っていた。
「そそそそそれは良いけどささささささ!」
「はい何でしょう?」
「あああああ安全!安全運転でえええええええ!」
「申し訳ありませんが、絶賛魔力が不足気味ですので、諦めて耐えて下さい。」
「「そんなああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…!?」」
士郎と桜。
二人は仲良くドップラー効果付きの叫びを上げながら、一刻も早くこの地獄が終わる事を祈るのだった。
……………
「貴殿か、光の御子。そして盾の少女よ。」
「おう。まぁそろそろ終わらせようと思ってよ。」
「ふん、勤勉な事だ。」
「良きにしろ悪しきにしろ、現状維持なんてそう長続きしないもんだ。そろそろ駒を進める時が来たってだけさ。」
「良いだろう。私も貴殿らは捨て置けない。」
こうして、円蔵山地下でも戦闘は始まった。
そして、ここでの戦いもまた佳境に近づいていた。
「ふぅ…!」
「うぅぅぅぅ!」
セイバーが攻め、マシュが防ぎ……
「おらよっと!」
「ふん。」
マシュが耐えきれないと見た瞬間に、戦上手のキャスターがカバーに入る。
無論、この流れを崩そうとセイバーも3人の人間を狙うのだが……
「させるかよ!」
「ッチ!」
轟音と共に、セイバーの対魔力を貫通する魔弾が弾幕となって降り注ぐ。
礼装化された銃弾は、高い対魔力を持つ筈のセイバーにも当たれば脅威となる。
事実、弾幕への盾とした彼女の左手は護手の上から命中した銃弾により肉の花が咲いて、治癒の最中だった。
「シンジ、当てようと思うな!守りに専念してろ!」
「分かってるよ!」
だが、過信は禁物だとキャスターが慎二に告げる。
確かに当たれば強力だが、相手は弾丸を見て回避できる戦闘系サーヴァントでも上位の一角、次も当てられるとは思えない。
幸い、最初の一回以降はセイバーも警戒してマスター殺しを狙っていないが、それでもプレッシャーをかけられるだけでも不味い。
現状は何とか意識が逸れた瞬間にキャスターが切り込む事で実行させてはいないが、それでも不利は否めない。
なお、この場で数少ない回復魔術の使えるオルガマリーは恐怖の余り頭を抱えて蹲っていた。
「ふん、存外良く凌ぐものだ。」
意外にも膠着している状況に、黒い騎士王が告げる。
「盾の娘は未熟で、キャスターは槍が無く、マスター達は素人。だと言うのに面倒だ。」
故に、騎士王は決意した。
全力で叩きのめす事を。
自分程度を乗り越えねば、彼らに先は無いと知っているから。
「構えろ。でなければ死ぬぞ。」
轟、と堕ちた聖剣が魔力を吹き出す。
聖杯のバックアップを得たセイバーが、救世の聖剣を世界を滅ぼす側として振りかぶる。
「『約束された勝利の剣』ーーッ!!」
黒い極光が放たれる。
それは狙い違わず、前衛にいたマシュを、その後ろのマスター達を狙っていた。
「ッ」
キャスターの宝具よりも遥かに強力な光の濁流を受け、マシュの心は恐怖に満ち、身体は怯え竦んだ。
魔力障壁こそ展開しているものの、今受け止められているのが不思議でならない。
その様に、何よりも担い手の精神を反映する盾はやがて押され始め…
「マシューーーーーーーッ!!」
不意に、叫びと共にその細い背に暖かな手が添えられた。
盾を持つ手に重ねられた手は、出会ったばかりなのにとても安心できる少年のものだった。
「先輩…!?」
「負けないで!」
叫びと共に令呪が消費され、マシュの総身に魔力が満ちる。
そして思い出した。
自分が折れれば、この人が、この人達が死んでしまうのだと。
(負けない……。)
体に力が戻る。
瞳から怯えが駆逐される。
(負けられない!)
大切な人と共に、力強く盾を握る。
その在り様に、その無垢で清い心に、罅割れていた魔力障壁が修復していく。
否、それはもうスキルの領域ではない。
「仮想宝具、疑似展開……」
それこそ、今はまだ未熟な彼女の真名すら知らない宝具。
「『人理の礎』ッ!!」
ロード・カルデアス。
真名の解放と共に、余りにも清廉で力強い障壁が展開される。
「まだだ!『約束された勝利の剣』ッ!!」
だが、そんなものは何とでもなると言わんばかりに、再度暴竜の息吹が如く極光が放たれる。
「ぐ、うぅぅぅぅぅ……!!」
再度増大した圧力に押し込まれる。
令呪のバックアップがあっても、聖杯という巨大な魔力リソースを持った騎士王を相手に、それは余りにも儚いものだった。
「あぁもうあぁもう!何で貴方達はそう無謀なのよっ!?」
「所長!?」
そこに、涙と鼻水で顔を醜く汚したオルガマリーが、精いっぱいの勇気を振り絞ってマシュと立香の背を支えた。
「ったくもう、こんなの僕のキャラじゃないってのに!」
「慎二まで!?」
そして、銃を背後に置いてきて、慎二もまた二人の背を支えた。
「ロード・アニムスフィア!マシュに魔力繋いで渡すんだ!藤丸はもう一回令呪!」
「わわわわ分かったわ!」
「マシュ!もう一度『頑張って』!」
慎二の指示に咄嗟に二人が従い、一時的に圧力が減る。
「『約束された勝利の剣』!」
だが、所詮は儚い抵抗だと、更なる一撃が放たれる。
「うぅぅぅぅぅぅ…ッ!」
「後!後はどうするの!?」
魔力を振り絞りながら、オルガマリーが慎二に問う。
そして、問われた慎二は必死に思考を回しながら、ランサーの教えを思い出して……
『良いですか、慎二。如何に準備を整え、戦況を把握し、有利に事を進めようと、策が破られる場合は必ずあります。』
『えぇ、ギリシャではよくある事ですとも…。そんな時、最後に頼りになるのは己の力のみです。』
『そして、実力が伯仲かこちらより上の場合、決して負けてはいけない要素があります。』
『気合です。根性論と思うかもしれませんが、殊我々神秘に携わる人間にとって、それは極めて重要な要素です。』
『決して心折れず、立ち向かいなさい。勝機とは絶えず諦めずに探すからこそ見つかるのです。』
……後一つだけ、出来る事を告げる。
「後は気合で押し返せ!」
「はぁ!?馬鹿じゃないの!?!」
余りの精神論に、思わずオルガマリーが罵声を飛ばす。
日本帝国軍じゃないんだから、気合じゃどうにもならない。
「よし、マシュ行くぞ!」
「はい、頑張ります!」
「ええええええええええええ!?」
だがしかし、此処に気合で何とかなる人材がいた。
「「あああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」」
限界まで精神を奮い立たせ、未だガラスの様な城壁が前進する。
「あぁもう自棄よ自棄!」
「嘘だろマジでやりやがった!」
そして、オルガマリーがやけっぱちに、慎二が親友に似たお人よしな二人に期待して、二人の背を更に推し進める。
「何と!?」
その様子に、セイバーが絶句した。
無効化されるのも、防がれるのも、凌駕されるのも、蹴散らされるのも経験済みだ。
しかし、押し返されるのは初めてだった。
「「「「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」」」」
自分達の全てを振り絞る様に、城壁が迫り来る。
極光を受け止め、その表面にその光を留まらせながら、無垢なる守りが進撃する。
そして、城壁は遂に放った側の黒い騎士王へと到達したと同時、城壁は己に降りかかっていた全ての極光を、放った当人へと返した。
「馬鹿な……!?」
黒い極光に、セイバーが飲み込まれていく。
余りに激しい閃光と衝撃に、全員が目をつむって力尽きた様に地面に倒れ込む。
「や、やったの!?」
「所長、それフラグです!」
オルガマリーの言葉に、しかし藤丸が叫ぶ。
そして、実際フラグだった。
「まだ、だぁ……ッ!!」
荒れ狂う聖剣の暴威の中から、セイバーが再び現れる。
しかし、その姿は先程の様な絶対的なものではない。
鎧は消え失せ、左腕はあらぬ方向へと折れ曲がり、全身から夥しく出血している。
凡百のサーヴァントなら百度は消滅している3発分近い聖剣の威力を、しかし更なる聖剣の使用と魔力放出及び魔力で編んだ鎧の魔力を解放して爆破させる事で凌いだのだ。
通常の魔術師なら、そんな事をした時点で魔力どころか生命力の全てが枯渇するのだが、聖杯を持つが故にこの様な無茶が利いたのだ。
「さぁ最後だ!『約束された』…」
仕留めきれなかったのなら、これで終わりだと言わんばかりに、再度聖剣の真名が解放される。
「『灼き尽くす炎の檻』!」
「『勝利の剣』!」
不意の奇襲。
聖剣と盾のぶつかりに気配を殺していたキャスターが頭上から宝具を解放する。
それを再充填した聖剣が迎え撃つ。
だが、両者の威力は余りにも隔絶している。
巨大な茨の巨人ウィッカーマンは、あっさりと黒の極光に飲み込まれて消えていく。
「捉えたぞ、セイバー。」
だが、それはこのための布石に他ならない。
「『大神刻印』!オラ、善悪問わず、彼岸の彼方に燃え去り消えなァッ!!」
オホド・デウグ・オーディン。
この地下空間に刻まれた、原初の18のルーン全てが起動し、セイバーを中心に聖剣の一撃に迫ろうかと言う威力の爆発が起こる。
「ガアアアアアアアアアアアアアああああああああああああ!!」
それでもなお、セイバーは落ちない。
聖杯からの魔力供給で強引に回復しつつ、自身の魔術回路が焼き切れ、爆発する勢いで魔力消費を行って耐え忍ぶ。
それは最早常人なら即座に発狂するであろう激痛の嵐だった。
「いや、もう終わりだ。」
その様子に、マスター達が絶望を抱く中、再度キャスターが仕掛ける。
その総身にルーンの輝きを宿し、杖を槍代わりにランサーと似た構えを取る。
マスター達に認識できたのはそこまでだった。
音を置き去りにする踏み込みは、彼らには認識できない故に。
「ぎ、」
その一撃に反応できたのは、未来予知レベルの直感のお陰だった。
激痛によって消え行く意識の中、セイバーは迫り来る脅威に向けて、辛うじて剣を振るった。
高速機動の中、相手の進路上に放った一閃。
これによって回復までの一手を稼げる。
「間抜け。」
そう、思っていた。
だが、キャスターは、クー・フーリンは、ケルトの大英雄は避けなかった。
寧ろ己の霊基の限界を超え、破壊する勢いで更に加速し、その懐へ飛び込んだ。
「言ったろう、終わらせる時が来たってよ。」
キャスターの杖の先端。
そこにはルーンが仕込まれており、発動すれば流体化した魔力が超高圧で射出される。
セイバーの防御力を容易く上回る一撃が、彼女の心臓を貫いていた。
「確かに、その様だ。」
その様子を、セイバーは静かに見ていた。
最後の一撃によって霊核を切断されたキャスターもまた、静かに己が消滅を受け入れていた。
最後の交錯、その結果は相打ちだったのだ。
「己の執着に傾いた末にこの有様……貴方は嗤うか?」
「んな趣味ねぇよ。じゃあな、セイバー。」
そして、キャスターの姿が徐々に消えていく。
己の役割を果たしたと同時に、霊核の破壊でもう現界を保てないのだ。
「んじゃな、坊主達に嬢ちゃん達。次があったら、そん時はランサーで呼んでくれや。」
そう言って、アイルランド一の大英雄は影のないカラッとした笑みと共に消えていった。
後1~2話で特異点F終わらせる…!絶対に…!
じゃなきゃいつまでたっても終わらない…!