メドゥーサが逝く   作:VISP

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FGO編 特異点F その16

 衛宮邸及びカルデアの面々は一路セイバーの陣取る円蔵山に向かうべく、慎二の運転する藤村邸にあったハイエース(曇り窓仕様)に乗って出動した。

 その天井には防衛役としてマシュが立ち、ランサーは斥候として先行して周辺の警戒に当たっている。

 唯一キャスターは車内にいるが、彼は彼でマスター達の直掩としてルーン魔術による結界の構築と厄除け等を担当しており、決して遊んでいる訳ではない。

 

 「大丈夫大丈夫大丈夫……こっちにはケルトの大英雄にギリシャの英雄達の師匠がいるんですもの……でもでもでももしもの時だってあるだろうしあああああああああああ」

 

 何より、新兵のメンタルケアしとかないと不安で仕方なかったのもあった。

 

 「お嬢ちゃんも落ち着けよ。どの道一本道なんだ。退いても死ぬだけ、進んでも同じ。ならまぁ、後は前に進むしかねーだろ。歩くか走るかは兎も角、悩むだけ無駄だ無駄。」

 

 だが、出てきた言葉は実に修羅道ケルトらしき物言いだった。

 

 「あー、所長。キャスターもこう言ってる訳ですし、もう少し前向きにいきましょう。」

 「何言ってるのよ!相手はあのアーサー王なのよ!?エクスカリバーとか未熟なマシュで防げるかどうか…!」

 「その、申し訳ありません、所長。私が至らないばかりに……。」

 

 自身の名前が出た所で、話を聞いていたマシュがすまなそうに謝罪してくる。

 

 「うぇえ!?い、良いのよマシュは!貴方だって初陣なんだし、ついさっき仮想とは言え宝具を使えるようになったばかりなんだし、そもそも貴女だってついさっき死にかけてたのだし……寧ろそんな貴女に頼るしかない私って……。」

 「所長所長!それ以上はド壺に嵌まるだけですから楽しい事考えましょう所長!」

 

 カルデア組の二人が必死になって所長を励まそうとするが、焼け石に水状態だった。

 それを見て、車内の衛宮邸の住人達は顔を引き攣らせた。

 こんなのが時計塔のロードの一角?カルデアの、人理の守護者のTOP?

 3人の胸中に不安が渦巻いた。

 

 「慎二、止まってください。」

 「っと、敵か?」

 「前方2km、アーチャーです。」

 

 車外で斥候から戻って来たランサーの言葉に、車内にいた全員の顔が引き締まる。

 

 「瓦礫が多くて道路は塞がれてます。車は乗り捨ててもらって構いませんので、装備と礼装だけは忘れずに。」

 「分かってる。じゃぁ事前の取り決め通りに。」

 「えぇ。」

 

 そして、一同は十字路にて双剣を手に待ち構えていたアーチャーの下へと到達した。

 途中、妨害は無かった。

 本来ならするべきなのだろうが、その気になれば一瞬で距離を詰める事の出来る弓兵殺しとも言えるランサーのいる現状、双剣を手放す事は出来なかった。

 

 「酷い様ですね、アーチャー。」

 「言ってくれるな。私とて不満なんだ。」

 

 げんなりとした様子でアーチャーは言った。

 黒化とは言わないが、聖杯による強制力を掛けられて人理を滅ぼす側に加担させられている守護者。

 ランサーは原作知識からセイバーが黒化して尚この特異点を維持する事で完全に人理が滅びるまでの時間を稼いでいる事を知っているが、それにしたってアーチャーにとっては不満処の話ではないだろう。

 

 「時間が惜しい。皆は先に行っててくれ。」

 

 そして、士郎が一歩前に出た。

 それは戦力分析の終わった後、士郎が自ら提案した事でもあった。

 恐らく、未来の自分かそうでないにしても非常に自分に近い存在。

 そして、士郎はアーチャーの投影からその経験や技量を模倣し、英霊に近い戦闘能力を発揮できる。

 無論、人間である以上は魔力量や経験に疲労等の違いはあるだろう。

 それでも、その急激な成長力は見過ごせない。

 そう判断したが故に、此処で無茶をする必要があった。

 無論、勝算があっての事だったが。

 そんな士郎に、成れの果てたるアーチャーは鋼の如き鋭い視線を向けていた。

 

 「正気か?私の投影を真似たのなら、私が何であるかを知っている筈だが?」

 「だからこそだ。オレはお前を倒す。それ位出来ないと、此処から先でも何も出来ない。」

 

 アーチャーの視線が先を促す。

 それだけが本音ではないだろうと。

 

 「何より、オレと同じ理想を目指しただろうお前が、こんな事に加担しているのが許せない。」

 「自己嫌悪か。成程、それならば好都合だ。」

 

 アーチャーが双剣を構える。

 そこから感じる殺意に、自然と士郎も身構える。

 

 「皆、先に行っててくれ。こいつを倒してから、オレも追いかけるから。」

 「じゃぁ、私も一緒に残りますね。」

 

 不退転の決意を士郎が固める中、しかし桜だけはその場に残った。

 

 「桜……。」

 「見届け人はいた方が良いと思いますから。それに先輩達って、そのままダブルノックダウンして倒れそうだし…。」

 

 衛宮士郎×2の中に嫌な空気が流れる。

 こいつと一緒扱いされるのは凄い嫌だ。

 つーか勝つし。絶対勝つし!

 言わずともそんな空気が流れている。

 

 「と言う訳で、皆さんは先に行ってて下さい。私は先輩と一緒に行きますから。」

 「あぁもう……桜はここぞと言う時は本当に強情ですね……。」

 

 振り返り、笑顔で告げる桜に、ランサーと慎二は早々に説得を諦めた。

 あ、これアカン奴や、と二人は早々に悟ったのだ。

 

 「あ、そうそう。ランサー、頑張ってくださいね。」

 「此処で令呪ですか。まぁありがたいですが……。」

 

 偽臣の書に1画使った、残り2画の内の1画。

 それが消費され、ランサーに急激に多量の魔力が流れ込む。

 桜からの供給も偽臣の書のみで動いていた頃とは比較にならない程であり、これならば壁を除いた宝具は連射すら可能だろう。

 

 「では士郎、桜。先に行って待ってますよ。」

 「衛宮、桜。死ぬんじゃないぞ。」

 

 そう言って、一同は先に進んでいった。

 

 「良いのか?今生の別れだぞ?」

 「まさか。後でちゃんと再会して怒られる。それでいつも通りさ。」

 「そうか。」

 

 それは嘗て、エミヤが無くしたものだった。

 エミヤが理想を追う余り、顧みなくなったものの一つだった。

 この街で召喚されて、色々と思い出してきたが、それでも彼は自分殺しの誘惑に未だ抗えなかった。

 

 「例え世界が滅ぼうと、お前だけは此処で殺す。泡沫の夢みたいな理想、抱いたまま溺死しろ!」

 「オレは死なない。オレにはまだこの手に残ったものがある。そのためにも、オレは死ねない!」

 

 これを皮切りに、二人の衛宮がぶつかり合った。

 

 

 ……………

 

 

 「あー、これはヤバいですね。」

 

 一方、桜と士郎を残して進んでいた一行はランサーの言葉に足を止めた。

 

 「ヤバいって何がだよ。今更渋るなよ。」

 「えーっとですね、この先からヘラクレスの気配がしまして……。」

 「ヘラクレスですって!?」

 

 ギリシャ神話最大の英雄の名に、またオルガマリーがヒステリー気味に叫んだ。

 

 「ヘラクレスって……勝てる訳ないじゃない!何でそんなのが召喚されてるのよぉぉぉぉ!?!!」

 「アインツベルンに文句言って下さい。まぁ令呪の効果も切れてるでしょうし、理性無しのバーサーカーなら私一人d」

 

 そこまで言って、ランサーは不意に槍を構えた。

 ほぼ同時、原初のルーンと怪力による自己強化を走らせ、そのステータスを一時的に生前のそれへと近づけた。

 慎二と立香、オルガマリーが把握できたのはそこまでだった。

 マシュは辛うじて、キャスターはしっかりとソレを視認していた。

 

 音すら置き去りにする俊足で距離を詰めたヘラクレスが、斧剣を振り被っていた。

 

 「……ッ!!」 

 

 辛うじて、寸での差でランサーの槍が振るわれた。

 それにより、形式上の一行の頭目であるオルガマリーへと振り下ろされた斧剣は防がれた。

 

 「ぎゃああああ!?」

 

 だがしかし、その剣閃による衝撃はしっかりと周囲へと拡散し、爆心地にいたオルガマリーは5mも吹っ飛ばされてゴロゴロと地面を転がった。

 他の面々も余りの衝撃に倒れてしまい、完全に足が止まってしまった。

 

 「ふんぬ!」

 

 その状態で、ヘラクレスが空いた左手で拳を振るう。

 拳圧だけで並の英霊を即死させ得る大英雄の拳撃。

 それが弱い生身の人間へと降り掛かれば、ミンチすら残らないだろう。

 

 「させません!」

 

 故に、主達を守ろうと盾の少女が動いた。

 

 「ぐ、ぅぅうううううぅぅ…!!」

 

 連打される拳圧に、呻き声と共にマシュが踏ん張る。

 ここで臆せば皆が死ぬ。

 それが直感的に分かったが故に、彼女はその場に踏み止まった。

 

 「アンサぁズ!」

 

 オレを忘れるなと、キャスターのルーン魔術による支援が入り、ヘラクレスを焼き尽くさんと炎が迫る。

 しかしそれをヘラクレスはその大柄な体格から思いも寄らない身軽さで回避し、仕切り直すべく一旦後方へと退避する。

 

 「しまったな。今ので過半は貰うつもりだったのだが。」

 「こちらとしては早々に札の一つを切らされてしまったのですが……マジですかー。」

 

 ヘラクレスは以前とは似ても似つかない程に変化していた。

 以前よりも身長が50cm程も低く、何よりマルタもとい丸太の様な巨躯だった筈がその筋肉が削げ落ちて寧ろ細い位になっている。

 何よりも、騙し討ちや奇襲をする必要も無いのに、僅かばかりの勝率上昇のために平然と行う精神性。

 その原因に思い至ったがため、ランサーは深刻な頭痛と胃痛を感じ始めていた。 

 

 「聖杯による隷属は考えていましたが……まさかクラス変更とは思いませんでした。」

 「クラス特性全盛りの身で何を言うか。」

 

 狂気を捨て去った若かりし弟子が的確なツッコミを入れる。

 まぁ確かにこのメドゥーサ、聖杯戦争においては卑怯な位に有利なので言われても仕方ない。

 

 「いやしかし、何で選りにも選って『復讐者』なんですかアルケイデス。」

 「己が選んだ訳ではない。が、不思議と身が軽くてな。」

 

 そう言って、先日よりも若返った少年の顔で、大英雄だった男は嗤った。

 

 

 「アヴェンジャー・アルケイデス。故有ってこれより貴様らを塵殺する。一人も残さぬ。」

 

 

 大英雄ヘラクレス。

 その彼において唯一つ『悪』に堕ちてしまった側面が、人理最後の希望の芽を摘まんと現れた。

 

 

 




レ/フ「あのセイバー使えねーなー」
→「よっしゃ、大英雄いるんだしコイツ使おw」
→「何だコイツまだ逆らうのかよ!生意気だし反転させちゃろwww」

結果、アルケイデス君爆誕☆
但し、召喚じゃなくあくまでクラス変更なので宝具までは持ってません。

Q、つまり?
A、単なる理性ありヘラクレス(属性:悪)

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