【完結】ハーマイオニーと天才の魔法式   作:藍多

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新年明けましておめでとうございます。
今年も「ハーマイオニーと天才の魔法式」をよろしくお願いいたします。

新年一発目、お年玉は蛙婆ことドローレス・アンブリッジの末路でございます。
ちなみにサブタイトルはネタバレになると思ったのであとがきで明かします。

それでは66話どうぞ。


66. 

ピンク一色の部屋。

ドローレス・アンブリッジの部屋である。こんな部屋、他にあるはずもない。

今は午前二時、誰もが夢の中にいるであろう時刻。

ドローレス・アンブリッジも例外ではなくピンクのベッドの上でピンクの枕にカエル頭をのせて眠っている。

その額に一滴の見えない液体が落とされた。

だが、音もなく、当たった感触もないそれに気付くことはなかった。

 

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朝の眩しい日光で目が覚めた。

私、ドローレス・アンブリッジの朝は優雅に紅茶をいれることから始まる。

今日もやることは多い。ホグワーツの改革、ダンブルドアの調査、そしてレナード・テイラーから情報を引き出すこと。

昨日はレナード・テイラーの恋人である、あの生意気なグレンジャーを服従させることに成功した。本来は許されないことだが私は魔法省の高官でホグワーツ高等尋問官でもある。そして相手は何かを企んでいる一味なのだ。許されて当然の行為だ。

 

「さてと、恋人にならぺらぺらと色々と喋ってくれたでしょうね。今日はとても良い日になりそうだわ。大臣への報告書を作るのも楽しみだわね。」

 

これで大臣からの受けも良くなるだろう。ダンブルドアに対する決定的な何かを見つければ即刻追い出して私がホグワーツの校長に、そしていずれは魔法大臣になることも夢じゃない。

気分よく部屋を出て大広間での朝食に向かう。

廊下で生徒とすれ違うが誰も私のことなど見ていなかった。

いかに嫌われている存在であろうとも見向きもされないということはないだろう。

スリザリン生なら取り入るために挨拶ぐらいはするはずだ。

だが、気分が良かった私は特に気にしなかった。

 

(その時の私は何も気が付いていなかったのだ。この日が地獄の始まりであったことなど。)

 

朝食後、さっそく授業があるので教室に向かった。

一限目はグリフィンドールの五年生だ。要注意生徒のハリー・ポッターがいる。それに昨日服従させたハーマイオニー・グレンジャーもいる。気を引き締めていかなければ。

 

「おはようございます。さぁ今日も楽しく授業をしましょう!」

 

教室にはすでに生徒たちが揃っていた。

だが入ってきた私を誰も見向きもしない。それだけならいつもと同じだ。私のことを羨んで見たくもないのだろう。

だが、今日は何かが違っていた。教室内の誰一人として私が入ってきたことを認識していない、そんな感じなのだ。

 

「皆さん! おしゃべりは止めなさい! 授業を始めます!」

 

大声で叫んでも誰も私の事を見ない、声を聞こうともしない。

だんだんイライラが募っていると前の方の席に着いている生徒の会話が聞こえてきた。

 

「そういえば今日は自習なのか?」

「そうなんじゃないか? 先生……えー……とにかく先生が来ないってことはそうだろう。」

 

私が目の前に居るというのにこのふざけた反応!

 

「不真面目な態度でグリフィンドール10点減点! 一人につきです!」

 

大量の減点、それにもかかわらず教室内は何も変化が無かった。

私は杖から爆音と光を出して無理やりにでもこちらを向かせた。

流石にこれらは無視できなかったのか生徒たちは急に私の事を見た。

 

「あれ……? あー、先生? いつの間にそこに?」

「あの人が先生なの? ……誰だっけ?」

 

そんな声がまだ聞こえてくる。私は無視して教科書の続きを読むように指示を出した。

時間いっぱいまで教科書を読ませたがいつもは反論してくるグレンジャーはおらず、ポッターも大人しい。授業終了のチャイムと同時に生徒たちは続々と教室を出ていくが挨拶をする生徒は皆無だった。非常に腹立たしい。

 

不愉快な授業が終わって大広間に行くと各寮の点数を示す砂時計が目に入った。

先程大量に減点したのでグリフィンドールのルビーはほとんど残っていないはずだ。

それを見てグリフィンドールが落ち込み、スリザリンが喜んでいるはずだ。

そのはずだった……。

ルビーの数は朝と大差はなく誰も何も気にしていない。

恐らくマクゴナガルが対抗してグリフィンドールに大量に得点をやったのだろう。

あの女は私が学生のころからそうだ。公正に、平等に、なんて言ってはいるが結局はグリフィンドールが一番でスリザリンのことが嫌いなのだ。

そんなことを考えているとちょうどマクゴナガルがやってきた。

 

「マクゴナガル先生! ちょっとよろしいですか!」

 

だが、マクゴナガルは私を無視してそのまま歩いて行ってしまった。

流石はグリフィンドール。生徒も生徒なら寮監も同じだ。

 

「無視しないでくださる!? 高等尋問官の権限であなたをホグワーツから追い出すこともできるのですよ!」

 

肩をつかんで止めた。流石に無視できなかったのかこちらに振り向いた。

 

「誰ですか? 急に肩をつかむなど止めなさい。」

 

「マクゴナガル先生! あなたには言いたいことが 「どちら様ですか?」 は?」

 

「生徒の保護者ですか? 生憎今は授業が控えていますので用件があるのでしたら後ほどでよろしいでしょうか。」

 

「な、何を言って! 私はドローレス・アンブリッジ! 闇の魔術に対する防衛術の教師にしてホグワーツ高等尋問官です!」

 

「……ああ。そうでしたっけ……? そうでした。いけませんね歳でしょうか。」

 

それだけ言ってマクゴナガルは興味を無くしたように去って行った。本人が言うように歳で痴呆を発症したようだ。これは早急にホグワーツを去ってもらう必要がありそうね。

 

(この時、私はまだ楽観視していた。いつもの様にグリフィンドールからの嫌がらせ、歳の婆の痴呆。そう決めつけていた。

だけど……次の授業で決定的に何かがおかしいことに気が付いた。)

 

 

次の授業は私の出身寮でもあるかわいいスリザリン生達の授業だ。

さっきの無礼なグリフィンドールとは違っていい子しかいない。

 

「さぁ、皆さん授業を始めましょう。」

 

教室に入ると、そこには午前のグリフィンドールと同じ光景が広がっていた。

誰も私を見ない。誰も私を認識しない。

 

「全員! こちらを見なさい! 授業を始めますよ!」

 

大声で叫んでも誰も反応をしない。いやただ一人、一番前に座っていた女生徒がこちらを見た。

私はその娘を見た。見てしまった。

こちらを見る瞳には私は映っていなかった。瞳に写される光景に私の姿だけが無かったのだ。

 

「じ、自習にします! 教科書を読んでおきなさい!」

 

私は怖くなって逃げだした。何かがおかしくなっている。だが、その何かが分からない。

どうしようもない恐怖に襲われ自室に戻ってすぐベッドにもぐりこんで眠った。

次の朝起きれば何もかも元通りになると信じて。

 

 

翌朝。

目覚めは最悪。気分が悪く朝の冷え込みすら感じられないほどだった。

目を覚ますための紅茶も味を感じなかった。

それでも体はエネルギーを欲するため大広間へ朝食に向かった。

大広間までの廊下は生徒もいるが、昨日と同じで誰も私のことを見向きもしない。

 

教員テーブルで朝食を食べる。

学生のころからホグワーツの料理は美味しくてついついおかわりをしてしまうほどだった。

けれど、この日の朝食はおかしかった。

味がしない。

見た目も香りも完璧なのに味だけがしないのだ。

周りを見ても不満を持っているようには見えない。

私だけなのだろうか? これも嫌がらせなのだろうか。

いくら空腹でも何の味もしない料理など、食べるだけで拷問だ。

仕方がないので厨房で直接料理を作ってもらうとしよう。

 

厨房には多くの屋敷しもべ妖精が充実した様子で仕事をしていた。

屋敷しもべは便利だ。そして魔法使いには絶対服従する。仮にホグワーツ全体が私に対して嫌がらせをしているのだとしてもしもべ妖精ならばこちらを無視したり味のない料理を出すことはないだろう。

忙しいのか私が入ってきても仕事の手が止まる気配はない。

 

「ちょっと。どのしもべでもいいけど、料理を作ってちょうだい!」

 

普通だったら一秒もせずにこちらをもてなしを始める。

だが、一向にこちらに何かをする気配がない。

 

「しもべ! 命令よ! 私においしい朝食を持ってきなさい!」

 

なおも無視される。

我慢の限界を超えた私は近くにいたしもべ妖精に魔法を放った。

しかし、杖からは火花一つ飛び出すことなく何も起こらなかった。

そう、まるでスクイブが魔法を使おうとしているかのように。

 

「う、嘘よ。そんな……。私は魔法使い! ステューピファイ(麻痺せよ)! エクスペリアームス(武装解除)! アクシオ(来い)! ウィンガーディアム・レヴィオーサ(浮遊せよ)! なんで!? なんで何も起きないの!?」

 

ここでようやく私はこの異常事態が深刻で何かが私の身に起きていると確信した。

私は何か呪い、もしくは魔法薬などで何かされたのだ!

厨房から医務室まで全速力で駆ける。

医務室のドアを壊れんばかりの勢いで開けて、驚いた様子のマダム・ポンフリーに助けを求める。

 

「助けて! 私、呪われている! お願いなんとかして!」

 

私を無視して扉を閉めようとしているポンフリーの肩をつかんで気付かせようとする。

だが、私の手はポンフリーの体をすり抜けてしまった。

まるで、ゴーストの様に。そこに存在しないかのように。

 

「あ、ああああああ! いや、嫌! いやぁあああああああああああああああ!」

 

恐怖でどうにかなりそうだった。どうやってか自室に戻っていた私はベッドにで毛布に包まりながら必死に正気を保とうとした。

 

翌朝。

どうやら眠ってしまっていたようだ。気が付くと正午を過ぎていた。

今日も授業があるはずなのだが、誰も呼びになど来なかったらしい。

 

「私はどうなるの? 死ぬの? そんなのいや……。」

 

呆然としていると部屋の何者かがいることに気が付いた。

 

「だ、誰!? 誰でもいいから助けて!」

 

そこにいたのはレナード・テイラーだった。魔法省にとっての敵でも何でもよかった。

 

「ああ、テイラー! テイラー君、いやレナード・テイラー様! 助けて下さい! お願いします! 何でもします!」

 

『まだ、消えていませんね? アンブリッジ先生。まぁ、予想では残り時間は一週間ほどになります。ゆっくりじっくりと絶望と恐怖を味わってください。』

 

「え?」

 

テイラーは今、何と言った? まさか……。

 

『さて、今あなたが見ている僕はあらかじめ記録していた映像です。他の人と同様に僕もすでにあなたの事を認識できなくなっているでしょう。

あなたにはある魔法薬を投与しました。僕が開発した中で最も恐ろしいものです。

その名は『存在希薄薬』。これに触れるとその存在がどんどんと薄まっていきます。

最初は周りから注目されなくなる。次第に認識されにくくなり、記憶からも消えていきます。

自身の五感でさえ不感となり始め、やがてどんな方法でも感知されなくなる段階になります。

その段階に至るとすでに体内の魔力も薄まり魔法も使えなくなり始めるでしょう。ここまで進行してしまったらすでに手遅れ。そして薄まった存在は他者への干渉も行えなくなります。今はこの段階であると言えます。

この段階まで進行したらこの部屋に今見ている僕の映像が流れる仕掛けです。自分がどのような状態か理解できましたか?』

 

どんなに絶望的な状態か理解できた! だから助けて! 怖いの、こうしている間にも徐々に自分が薄まっていく!

 

『さて。では次の段階は何でしょうか? 次は、体が徐々に崩壊していきます。指先、足先からゆっくりと。ああ、安心してください。痛みはありませんし、血もでません。ただゆっくりと消えていくだけです。そして体の消失に比例して記憶もまたゆっくりと消えていきます。体が半分も消える頃には精神も自我も薄れていき最後には魂さえ残らず消え去ります。存在濃度が薄まるにつれ進行速度もゆっくりになるのでじっくりと人類初の現象を体験してください。残り一週間ほどはありますが存在が薄まるので飲まず食わずでも死にませんし、あなたという存在への干渉が難しいので自殺も困難でしょう。

なぜ、こんな目に合っているか疑問ですか?』

 

そうだ! なぜ私がこんな目に! 何も悪いことなどしていないのに!

 

「あなたは僕の恋人(ハーマイオニー)に危害を加えた。理由はそれだけで十分です。ではさようなら。」

 

「ま、待って! 止めて! あ、ああああああ!」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

一日経過。

指が消え去った。杖を持つこともできなくなった。すでに魔法を使うことさえできないがそれでもショックだった。杖は私が魔法使いである証なのだから。

 

 

二日経過。

膝まで消えた。これでベッドから動くことさえできなくなった。テイラーの言ったように空腹も乾きも感じない。部屋の中は何の色彩が無く、無臭の空間に成り果ててしまった。

 

 

三日経過。

四肢が消えた。私は芋虫同然だ。五感もほとんどが薄れている。

何も見えない、聞こえない、臭いも感触もない。

 

 

四日経過。

腹まで消えた。内臓が零れている。

……なんで! どうして! なんで死なないの!? いっそ殺してよ! 五感がないのに体が消えていくのだけは分かる! 痛くないけどはっきりわかるの! 怖い、怖くてたまらない。自分という存在が無に近づいている。薄まって何もかも無くなっていく。

いやだ、嫌だ、イヤだ。

…………なにがいやなんだっけ?

 

 

五日経過。

私はアンブリッジ。私の名前はドローレス・アンブリッジ。ドレーロス。アンドリッジ。

違う! ドローレス・アンブリッジ! 私は! わたし……? そう、私はアンブリッジ。

考えるのを止めるな! ドローレス! 見失ったら消える! 何が? アレが! あれは何? 名前! ドロレ。 私のなまえ。 きえる。 ドローレス・アンブリッジ!

 

 

六日経過。

わからない。こわい。しらない。わたし。きえる。こわい。うすい。ひろがる。こわい。

たすけて。なんで。せまい。ちいさい。ひろい。こまかい。こわい。どうして。

あ……。こ……。

 

 

七日経過。

脳だけになっていた私。

何もかも曖昧になっていた私はなぜか己を認識していた。

最後に残った自我のかけらが蝋燭の火が最後に燃え盛るかの様に最後の輝きを放つのだろうか。

怖い。消えたくない。ああ……。どうしてこうなってしまったんだろうか。

何が悪かったのだろうか。

私の人生は何だったのだろうか……。

怖い。何もない。私は、私のしたことが全て消えていく。

いやだ、いやだ、怖い。

死んでも誰かが覚えている。家族、恋人、敵、他人。誰かは覚えている。

でも私のことは誰も覚えていない。いやいやいやいや、いやだ。怖い。

 

 

ああ、また何もかも薄れていく。

きえる うすまる ひろがる ちいさくなる なくなる こわい ない

 

 

でも最後まで消滅への恐怖だけは無くなってはくれなかった。




66. 消滅

はい、ドローレス・アンブリッジには消えてもらいました。
魂さえ残らず消えたのでゴーストにもなれず生まれ変わることもあり得ません。
逆転時計を使おうにもそもそも誰も覚えていないのでそんなこともしません。

元ネタというか参考にしたのは灼眼のシャナのトーチと、とある博士の末路です。

色んな二次創作でひどい目にあっているアンブリッジ。
怪我したり、失脚したり、殺されたりしていますが
この末路はそれ以上を目指して作りました。

レナード・テイラーを怒らせるとこうなります。

ちなみにお辞儀も一発で消滅できますけど、そうそう使えない危険物なので使用しません。
保管もレオ特製の魔力で出来た容器でしています。
徐々に魔法薬そのものが消えていっているのでそのうち魔法薬の存在・記録すら消滅して再現不可能になります。
その前に使われたアンブリッジは幸運でしたね。

それでは次回お楽しみ。

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