春香「脱出ゲーム?」   作:人肉タルトレット

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第12の扉/Ⅱ.奇跡

「ふぁ~、終わった終わった・・・。どうどう!?」

・・・90.765点だった。

「ま、また90点・・・接戦だね」

「・・・あのさ、多分、自分も含めて三人、全く同じ点数だと思うぞ」

「えっ」

「そうよ。私は全部ちゃんと見てた。あんたたち全員、90.765点よ」

「マジ!? すごっ!」

「うあうあー、ここでミラクル出しちゃってどうするのさー!真美プレッシャーだよ!」

春香は少し考えて、カラオケ画面を見つめながら話しかけた。

「ねえ・・・天の声さん」

『はい? もしかして私の事ですか?』

虚を突かれたように、アナウンスの声が応える。

「これってどうなるの?」

『どう・・・とは?』

「もしも最下位が私たち三人だったら、ってこと」

『私は最も点数が低い人がアウト、と言ったんです。その人数は関係ありません』

全員が息を呑む。

「じゃあ・・・もし、もしもだよ。私たち皆が同じ点数だったら・・・どうするの?」

『・・・全員が最下位と見なして生き残りゼロでフィニッシュです』

全員が絶句する。

『と、言いたいのは山々ですが、考えてませんでした。どうしましょうね、そうなったら』

「ふざけんなバカぁ!」

伊織が怒鳴る。

『・・・もう既にジャンボ当たりくじみたいな確率ですが、五人全員同じ点数なんて流れ星に当たるくらいあり得ませんよ』

「それがもし起こったら?」

『はあ・・・愚問ですね。しかしお答えします。その時は、皆さんの友情パワーに免じて、五人全員生き残らせると約束しましょう』

「へぇっ!? それマジ!?」

「おおおお!! 本当か!?」

突然目の前に降って湧いたチャンスに盛り上がる一同。

返答と同時に、スタ→トスタ→のイントロが始まった。

慌てて真美がマイクを取る。

「あ、やばっ、歌わなきゃ!」

亜美が合いの手を入れながら、危なげなく曲が進んでいく。

聞きながら、さきほどのアナウンサーの言葉を心の中で繰り返す春香。

全員同じ点数なら、誰も死なずに済む。

無論、狙って出来るほど簡単な事ではない。

さっき話した通り、余計なことは考えず、好きに歌ったらいい。

きっとそれは、みんな同じのはず。

でも、もしも同じ数字が並んだなら、私は嬉しい。

とてもとても、嬉しいのだが・・・。

「野望陰謀レインボー! ・・・うあ~、どうだぁ!?」

「・・・あぁああ!!」

得点は90.765点。

四人連続で同点だ。

「すごい! すごい! すごい!」

「これって罠とかじゃないよね!? マジのガチだよね!?」

「あんたたちうっさい! これくらいで騒がないで!」

そういう伊織の顔もやや嬉しそうだ。

「頑張って、伊織。変に意識しちゃだめだよ」

「言われるまでもないわ。私がトップになっても泣かないでよね」

Here we go!!のメロディーが流れだす。

伊織は座ったままで、画面上の音程バーに気を配っている。

詞も曲も伊織に似合った可愛らしい歌だが、それを歌う表情は真剣そのもの。

クセがあるようで非常に安定した歌い方だ。

(やっぱり上手いな・・・伊織は。努力家だからなあ)

これは・・・90点なんて、余裕で超えてしまうかもしれない。

そうなれば、伊織以外の四人は脱落・・・死亡してしまう。

しかし春香は、彼女が無事に歌いきることを祈っていた。

だって、私たちは、アイドルだから。

「♪夢にまで見た夢なんだから 私が描く夢なんだから GO!!!! ・・・」

首筋に汗を滴らせて、最後の歌詞を歌いきる。

「・・・どうかしら。ほんのちょっぴり音程外しちゃったけど」

言いながらそっとマイクを置く。

「これはもうほんと分かんないね・・・」

「お祈りするしかないよ・・・」

数字が出た。

「あっ・・・」

「うあぁ・・・」

「うあうあっ・・・」

「やっ・・・」

「やったぁぁぁぁぁああああああ!!」

90.765点。

五人全員が、同じ点数だった。

足首の枷が一斉に外れる。

「いよっしゃああああ!! 生き残りだあああああ!!!!」

「見たかあああ! これがうちらの!! 勝負強さじゃああああ!!!」

「よかった・・・もう誰も死なずに済んで・・・うあぁあぁ・・・」

抱き合って生還を喜び合う双海姉妹。

安堵と感動のあまり顔を覆って泣きじゃくる響。

「あーあ、やっぱりカラオケなんかじゃ本気出せないわ。まっ、伊織ちゃんに感謝なさい」

「本当にすごいや、伊織は・・・」

『いやいやまさか、本当にやるとは思いませんでしたよ。これも絆の為せる業か・・・』

歓喜の宴に水を差すように、アナウンスの声が飛び込む。

春香は顔を強張らせながら、問いかける。

「ねえ、アナウンスの人。ゲームはこれで終わりでしょ。最後に顔くらい見せたらどう?」

『・・・見たいですか? 私の顔』

「うん、すごく。私たちをバラバラに引き裂いたあなたたちの顔、見せてよ」

『それでは、扉を潜ってごらんなさい。全ての答えはその先にある』

「扉・・・」

そう、これが出口へ続く扉なら。私たちは潜らねばならない。

こんなところではしゃいでる時間などない。

戻らなければならないのだ。

私たちの世界へ。

「亜美、真美、響、行こう」

「あ、うん・・・!」

「こんなところ、さっさとオサラバだよ!」

「すっかり頼もしくなったわね、春香も」

「からかわないでよ! ・・・開けるよ」

春香が率先して、扉のドアノブを回す。

がちゃり。

簡単に、ドアは開いた。

 


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