理不尽壊しのリインカーネイション外伝 〜大切な人を守る物語〜 作:橆諳髃
「それと、今作者は前話の制裁でここにはいない。だからこの物語の進行も俺1人で進めさせてもらおう。早速だが、物語を読み進めてほしい」
「あなたは一体何者なの? この基地に何の用かしら?」
俺の背後にいる女性がそう問うてくる。
確かに基地の敷地内にこんな格好をした者がいたなら誰だってそうするだろう。
「今武器を隠し持っているなら地面に捨てる事を勧めるわ。それと怪しい動きを少しでもしようものなら、タダでは済まないという事も頭に入れておく事ね」
「……生憎だが、“今の”私には武器を持っていない。それに私は、君が思うような他国のスパイでもない」
「それは私が判断する事よ……それよりも、武器を出さないというのなら、私があなたを調べるまでよ。もし武器が見つかった場合は、私と一緒に来てもらいます。良いですね?」
「あぁ、そこは好きにしてくれ」
彼女に俺の体に触れる事を許した。何故許したか? それは、聞いてきたお前達でさえも答える事は一緒だと思うが? その答えで納得がいかないというのなら……プライベートな答えになりそうだから言わない。また気が向けば語ってやらんでもない。
そしてヴィダールさんに対する軽めの持ち物検査が始まりました。その結果……
「う、うそ……何も持っていないなんて……それに身分を証明するものも無いなんて……」
「だから言っただろう? 武器の類は持っていないと。それに、他国からのスパイですらないから、盗聴器や連絡手段も持ち合わせてはいないし、メモの類も持ってはいない」
「……いえ、まだ調べてない箇所があったわ。あなたの仮面……取ってもらえるかしら?」
「仮面……か……だが、こんなちっぽけな空間に何が入ると思う?」
「それは限られてくるのではないかしら? 確かにあなたのポケットや服の中には通信機の類は無かったわ。でも耳に取り付ける事ができる小型の通信機ぐらいなら付けれるでしょう?」
「ふむ……確かにそれは正論だな。だが良いのか?」
「な、何がかしら?」
「私の素顔を見るのなら、それなりの覚悟が必要だという事だ。特に君は……な」
「な、何を言っているの⁉︎」
「そのままの意味だ。それに私は、とある理由から軍の上層部とそれに属する者には顔を晒すわけにはいかない。そこでもう1回君に問いたい……いや、正確に言うなら……もう1回問うついでに条件を言いたい。君は軍の上層部に属する者か? もしそうではなく、私の仮面に隠れている素顔を見る覚悟があるというのなら、私は君に顔を見せよう」
side ミーナ
宮藤さんの言った通り、仮面の人は基地の敷地内にいたわ。それに、やけにあっさりと接触もできた。声からして男の人の声だってわかったけれど、なんというか……どこか抜けている感じがするわね。
(確かあの人もそんな感じだったわよね……)
あの人は普段からやる事はちゃんとやって、そしてとても優しかった。自分の事より他の人の事を優先して……でも時々買い物とかを頼んだ時に違う物を買ってきたりして……その度に笑ったっけ……
(だけど……もうあの人はいない。あの人の笑った顔も見る事も……そしてあの人の楽器の音色を聴く事ももうできない……)
こんな時に、なんであの人の事を思い出してしまうのかしら……なんとなく? なのかしら?
(いえ、今はこの仮面の人が何者なのかを探るべきよ……)
そして彼の承諾を得て、何か怪しい物を持っていないかどうか確かめたわ。でも……何も見つからなかった。コートやズボンのポケットには何1つ怪しい物は無かった。ただ出てきたものといえば、ハンカチただ1つ……
(あ、あり得ないわ⁉︎ 宮藤さんの話が本当なら、午前からこの基地の周辺にいたという事になるわ。でも彼からはハンカチしか出てこなかった……携帯食料もその食べた跡も出てこないなんて……いえ、まだ調べてないところがあったわね)
私は仮面を外すように言ったわ。彼を見た時1番怪しいのは、彼が被っている仮面の中……多分誰でもそう思うでしょうね? だから私は仮面を外してもらうように言った。
でもその返答はおかしなものだった。私に、この仮面の下にある素顔を見る覚悟があるか……って。
正直その返答が来た時は、どう答えていいか分からなかった。だって初対面の私に、仮面の下の顔を見る覚悟があるかどうかを言ってきたのよ? 正直直ぐに肯定的な返事なんてできなかったわ。
その返答に困っていた時に、彼は補足してきた。自分は軍の……それも上層部やそれに連なる人達に素顔を見られるわけにはいかないって……昔に軍に所属していた事もあったのかしら?
その詮索は後にするとして、彼が言った事を簡単にまとめると、軍上層部に密接に関わってない且つ私に仮面の下を覗ける覚悟があるなら仮面を外して素顔を私に晒すというもの……
答えるのに少しの間でもあったら怪しまれると感じた私は、その問いに直ぐに答えた。
「確かに私は役職柄、軍の上層部と連絡を取る時はあるわ。でも、密接な関係があるほど上層部と仲が良いと感じた事はないわ。それと、私にはあなたの素顔を見る覚悟があるわ」
「……分かった。なら少し場所を変えよう。今日は満月で辺りも少し明るいのでな……あの岩陰なら、君以外に見られる心配もないだろう」
そして彼は岩陰の方へと歩き出した。正直これが罠かもしれないという考えもあったわ。でも彼からは……敵意を感じなかった。仮面越しだからという理由もあるのでしょうけど、何故か私の中で……彼はそんな卑怯な真似をしないと思った。
(でも念のためにいつでも対応できるようにしないとね……)
岩陰に私も入ったのを確認して、彼は1度私に背を向けて仮面に手をかける。この岩陰でも、今日は満月だからここでも少しの光量はある。
彼が仮面に手をかけた時、私は少し緊張感を覚えていた。目の前の彼が誰かも分からないのに、何故かその感覚に少し囚われていたわ。例えるなら、子供が誕生日やクリスマスの時に、もらったプレゼント箱の中身はなんなのかを楽しみにしながら開ける感覚かしら。
仮面が少しずつ上がり始める。上がり始めたと同時に、彼の髪が少しずつ見えてくる。その髪の色は……今は暗くて正しい色合いが判別できないけれど、青い色……
(ま、待って……こ、この髪の色は……)
ミーナが驚きの思考に少し陥っている中、それを知らない仮面の男は仮面を徐々に頭から外していく。そしてようやく仮面が男の顔から離れた。
(その……髪の色……そしてその髪型……いえ、でもあの人はもうこの世には……)
「ふぅ……こんな天気のいい日に1日中この仮面を被っているというのも、息が詰まるというものだ」
「そ、その声は……あなた……まさか……」
「本当なら……君と会うのはもう少し後のはずだったんだが……バレたなら仕方がない」
その懐かしい声と響き……特徴がかった青みを帯びた紫色の髪と髪型……そして……
(昔から顔にあるその大きな傷……)
「間違い……ない……」
そう、その人物こそは……
「久しぶりだな、ミーナ。ガエリオ・ボードウィン少尉、君の元に帰って来たよ」
3年前の作戦で命を落としていたと思われたガエリオその人だった。
side out
俺は岩陰でミーナに自分の正体を明かした。バレたものを下手に隠そうとすると……追求はその分強くややこしくなって、しまいには不利益を生じさせる。
だから俺は……まだミーナに顔を出すべきではなかったんだろうが、顔を見せた。
ミーナに仮面を外した俺の顔を見せた時……彼女は目を見開いて口を両手で隠していた。その時は体も震えていた。
ミーナには……長い間寂しい思いをさせてしまった。あの時におじさんだけでなく、俺まで失ったと思ってしまったのなら無理はない。
それでもミーナは、生きてくれた。酷い思いをしてでも生きてくれた。俺は……それを嬉しく思う。だからお礼を言わないとな……
「ミーナ……君にずっと寂しい思いをさせてしまった。謝って許されるものじゃない事は分かっている。だが俺は君に謝りたい。そして……君にお礼も言いたい。この瞬間まで生きてくれてありがとうって……」
ミーナはそれを聞いて、さらに目を大きく見開いて潤ませていた。そして俯いてしまった。
(さすがに急すぎてしまったか……)
俺がそう思っていた時だ。
「……い」
ミーナが俺の方にゆっくりと近づいて来た。そして俺の一歩手前で止まると……
「許すわけないじゃない! この馬鹿っ‼︎」
俺は頰をミーナに強く引っ叩かれた。その時の彼女の顔は……目に大粒の涙を作りながら怒った顔をしていた。だが、どこか安心したような……そんな表情も垣間見得た。
俺を引っ叩いた彼女は、その後俺に抱き付いてきた。そして顔を俺の胸のあたりに押し付けてくる。まるで……迷子になった子供が親を見つけて合流した時、もう親から絶対に離れないというように……
「私が……私がこの3年間……どんな思いで過ごしたと思っているの⁉︎ 貴方と貴方のおじさんを、あの作戦で同時に失くしてしまったって思って……それから、こんな思いをするんだったらあんな関係にならなければ良かったって……私……」
「……すまなかった。君に……そんな思いを抱かせてしまって……」
「うぅっ……私……寂しかった……ずっとずっと……貴方が隣にいなくて……貴方の笑顔を見ることができなくて……貴方の体温も感じることができなくて……」
「あぁ……俺も、君に会えなくて寂しかった。でも俺にも……やるべき事があったから……だからこうして世間から俺という存在を隠すしかなかったんだ。でも……結局は君を傷付ける形になってしまった。本当に……すまなかった」
「もぅ……もう良いの……貴方が、貴方だけでも無事でいてくれたならそれで良いの。だからもう……私から離れないで……ずっと一緒にいてほしい」
「分かった。もう俺は……君から離れたりはしない。約束だ」
「えぇ、約束よ。もしこの約束を破ったら……針千本飲んでもらうんだから……」
「……あ、あぁ。分かった、約束する……」
「うん……‼︎」
ガエリオさんの胸から離れた彼女の顔は、涙は浮かべていても素敵な笑顔を見せていたといいます。
「今回の終わり方は……前回とは比べ物にはならないほど良かったのではないか?」
まぁ……いちおう纏まっていたかなと思います。
「あぁ、次回もそうしてほしいものだ」
が、頑張ります……