ユグドラシル運営活動記 (完)   作:dokkakuhei

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7日目

 ついにこの日が来た。

 

 彼は墳墓の前に立っている。ナザリックに侵入する為だ。

 

 彼には確かめなければならないことが2つあった。1つはナザリックの全容である。先の事件を見るにナザリックは本格的に表立って活動を開始しようとしている。相手のキャパシティを見定めなくてはこれから先取り返しのつかないことが起こるような気がしていた。

 

 もう1つは、これが最も大切なことなのだが、モモンガがどれだけ人間性を保っているのかが知りたかった。中身は人のままなのか、それとも外見と同じ全くの異形になってしまったのか。

 

 慎重な彼がこんな大胆な行動を決心をしたのは墳墓に調査団が入るとの情報を得たからだ。つまり体の良い囮である。調査団が手厚い歓迎を受けているうちに出来るだけ内部を探索しようという腹だ。

 

 因みに彼はこの話を()()()()()()()()。直接聞いた訳ではなく、お付きの騎士と会話をしている所を盗み聞きしたのだ。確かこうだ。

 

 

「ねえクライム。あなたこのところ元気がないわ。少し休んだほうがいいんじゃない?」

 

「いえ、決してそのような事は…。」

 

「前の事も、あなたは出来る限りの、いえ、それ以上のことをしたわ。気に病む必要なんてないわ。」

 

 悪魔事件で多大な功績を挙げたにもかかわらず、それで驕らず自らにもっと力があればより多くの人々を救えたのではないかと悩む少年に王女は優しく諭す。

 

「どこか気晴らしに出かけましょうか。クライムと一緒なら何処でも楽しいわ。」

 

 王女は半ば幽閉状態で外に出歩くのはなかなか許可が下りない。理由もなく外に出るなど出来ようはずもなく、少年はこれが王女なりの気遣いなのだと自らの主人の優しさに心を打たれていた。

 

「行くなら何処が良いでしょう、未探索の遺跡とか面白いんじゃないかしら。そういえば最近森で見つかった遺跡にお隣の国が調査に行くんですって、すごく面白そう!」

 

「ラナー様。前人未踏の遺跡など、どんな危険があるかわかりません。アンデッドが巣食っている事もあると聞きます。」

 

「あら。その時はクライムに守ってもらうわ。」

 

 きゃっ、とわざとらしくラナーはクライムの腕に抱きつく、少年騎士は恥ずかしそうに顔を赤らめるが姫に頼られて満更でもなさそうだ。

 

 2人は『ユグドラシル』で男女がこのようなやり取りをしていたら、道行く人間の200%が<内部爆散>をぶっ放しそうな甘酸っぱいやり取りをしている。200%とは<内部爆散>に<魔法抵抗突破上昇>のおまけ付きという意味だ。

 

 

「というか森の遺跡って多分あれの事じゃん。王国領なのに何で帝国が?そしてラナーが知っている理由は…何でだろう。ほんとこの王女恐ろしいな。」

 

 すぐさま彼は裏を取るべく行動を始めた。

 

 

 ーーー

 

 

 彼は墳墓調査チームの馬車に同行している。調査チームは帝国のワーカー4組で構成されていた。ワーカーというのは冒険者組合では取り扱わないような仕事でも金さえ積まれれば何でもやる冒険者崩れの連中のことだ。

 

 そして何を考えているのか、野営地の警備としてモモンガの冒険者チームも参加している。監視のためなのかはっきりした目的は不明だが、完全に罠の匂いしかしない。

 

 しかし、虎穴に入らずんば虎子を得ず。出口をモモンガにおさえられているのが気がかりだが、墳墓に潜入する意思を固める。1人で入るよりずっと良い条件だ。こんな好機は2度と来ないかもしれない。彼はいそいそと潜入準備に取り掛かった。

 

 彼の特性上、他の人間も同時に入るという事は只の囮という以上の意味を持つ。彼の特性とはゲームキャラというアライメントを持っていない為にギルド拠点に入っても敵対しないというものだ。普通、ギルドメンバーに「許可」されない者がギルド拠点に入ると強制的に敵対状態となる。

 

 その為に彼が一番恐れているのは配置されたモンスターなどではなく、常時起動されているであろうトラップだ。モンスターは敵対しなければ戦闘にならないが、『ユグドラシル』では敵味方関係なく発動するトラップがいくつもあった。ナザリックには凶悪なデス・トラップがいくつもあるに違いないだろう。彼はアイテムで応用は効くものの基本的には探知を要求される場所は大きな不安要素だ。

 

 だが今は違う。体を張ってトラップを除去してくれる地雷探知機(いけにえ)が18人もいる。一番の不安要素が無くなるのだ。素晴らしい。

 

 そしてもう1つ、彼には奥の手がある。

 

 そもそもギルド拠点に入れは強制的に敵対するのはアリアドネ・システムがある為になされた措置である。ギルド拠点はゲームバランス上、理論的には攻略できるよう設計しなければならないように設定した。その監視システムの名前がアリアドネである。

 

 入口から出口まで少なくとも1つのルートが一本通っていないと、ギルドオブジェクトの維持費が格段に跳ね上がり、物理的にギルド維持が出来なくなるという物だ。

 

 しかしこれをギルド敵対側が濫用するのは運営の思うところではなかった。つまり、ギルドを攻める側が意図的に何らかの方法でアリアドネを起動させ、ギルド拠点を潰すのは面白くない。そこでアリアドネ起動には「ギルドと敵対していない者が行えば」という附款をつけた。

 

 ここで問題となるのが防衛側が侵攻側に状態異常をかけて、わかりやすく言えば操ってギルド拠点を物理的に侵攻不可にすればどうなるかという疑問が生まれる。答えはこの時操られた侵攻側は防衛側の支配下に入っている。つまり「敵対していない」のでアリアドネは起動する。

 

 結論からいえばアリアドネが起動するかしないかは、ダンジョンルートを変更する者が敵対しているかしていないかに尽きる。

 

 なので、()()()()()()()()()()()()()

 

 いざという時にはナザリックがワーカーチーム達に気を取られている隙にアリアドネを起動、混乱に乗じて逃げるということが可能だ。

 

 ただし、これをするのは本当にヤバい時だけだ。ナザリックは巨大なギルドだ。アリアドネが起動しても直ぐには潰れず、原因を突き止めアリアドネを再び停止させる体力はあるだろう。しかし巨大だからこそ少なくない額の損害が出る。

 

 これは明らかにナザリックを敵に回す行為であり、関係の修復はもはや絶望的となる。謂わば()()()の付いた諸刃の剣である。切り札はいつだって悪手なのだ。それを肝に命じて置かなくてはならない。

 

「よし、頑張るぞ!」

 

 彼は決意を新たにする。彼の考えていることは概ね正しい。ただ、彼はもう既にナザリックとの関係は修復できないところまで壊れている事を知らなかった。

 

 

 ーーー

 

 

 星明かりの夜、息を潜めて移動する者達がいる。彼らが目指すのは前人未到の遺跡である。18の黒い影と1つの見えない影が丘陵を漫ろゆく。

 

 遺跡は何故こんな辺鄙な場所にあるか全くわからないような見事なつくりをしている。職人技を思わせる鮮やかな横断面をしている石壁は、まるで名匠の彫刻の様な優美さと断頭台の様な冷酷さを兼ね備えている。その入口は客を招き入れるかの如くぽっかりと開き、覗き込んでいると吸い込まれそうだ。

 

 ゴクリ、と息を呑む音が聞こえる。自分のものだったか、或いはそこにいる全員のものだったか。

 

 調査団は意を決して遺跡の門をくぐる。それに続き、彼も30m後をついていく。これは罠の発動範囲を警戒しての距離だ。

 

 彼は入ってすぐの階段を下りたところで<アイテム検索>を発動する。太陽をかたどった首飾りと蝶の羽の意匠を施されたブレスレットを出し、込められた魔法をそれぞれ起動する。

 

「<三足烏の先導>、<妖精女王の祝福>」

 

 ダンジョン中枢への最短ルートと危険の少ないルートが彼にだけ浮かび上がって見える様になる。ナザリックなどの大規模なギルド拠点ダンジョンは大抵案内魔法の対策はしてあるのだが、取り敢えずは気休めである。

 

 例えば、危険の少ないルートは配置されているモンスターやトラップのコストを勘案して算定されるのだが、転移罠は比較的コストが低い割にパーティー分断やモンスターハウスに飛ばすなど有効性が高い。巧みなダンジョン製作者なら様々なコストの罠を組み合わせて配置する事によって案内魔法を欺くことができる。魔法を信用しきって行動すると手練手管を尽くした歓迎を受ける事になるだろう。

 

 彼がルートの吟味をしていると早速調査団に出迎えがあったらしい。スケルトンの一団だったのだが、一行は難なく撃破する。どんな強い敵が出てくるのだろうかと警戒に警戒を重ねていた調査団だったが明らかに弱い敵に拍子抜けしたのか、強張った表情が無くなり余裕を見せ始めた。

 

「これは良くないな。」

 

『ユグドラシル』でも偶にあったダンジョンレベルデザインだが、始めに弱い敵を配置する事によって侵入者を油断させる。そして揚々と奥に入り込んできたところを一網打尽にするやり方だ。悪質な時は奥に入った後、入口付近に強力なモンスターを配置して出られない様にする。どうやら相手はかなり本腰を入れて殺しにかかっているらしい。

 

 調査団の未来がほぼ決まったのを確信した彼は逃走経路を確認しつつ進んで行く事にした。

 

 その後、調査団は三叉路に差し掛かるが、先の戦いで気を良くしたのか三手に別れて行動するらしい。ナザリックがどんな所か知っている彼からすれば顔を覆いたくなる様な選択だが、纏まって行動したところで全滅という未来は拭いがたいのは明らかなのでそのまま様子を見る事にする。

 

「そうだ、忘れないうちにやっとくか。」

 

 分かれ道に差し掛かる前に保険のための仕掛けをして置く。簡単な敵味方を区別して通れなくするアイテムだ。

 

 そして結局、ルート的には一番マシな男女2人ずつのチームについて行くと決めた。他のチームも一応生死がわかる様に<状態感知>の魔法を掛けておく事にする。

 

 

 ーーー

 

 

 一行は遺跡の奥へと進んで行く。ナザリックはアンデット系モンスター中心に出現するダンジョンである。信仰系魔法詠唱者が居なければ攻撃面でも回復面でもかなり辛い。今同行しているチームでも神官を温存し、守りながら戦っている。しかしそれでも神官の消耗は激しく、隊として大きな損害はないものの気力・体力で徐々に追い詰められているのが分かる。

 

「うーん。デコイの寿命もそろそろか、持った方かもね。」

 

 1時間ぐらい経っただろうか、もう既に他のチームでは欠員が出ている様だ。不自然に下からの反応があるが、転移罠で飛んだか捕まったかしたのだろう。

 

 そろそろ単独で行動する準備をしておいたほうがいいかもしれない。ただ気になるのはデス・トラップの類が今迄なかった事だ。侵入者のレベルに合わせて、罠の発動を1つ1つ確かめている様な感じがする。

 

「タワー・ディフェンスでもやってるつもりか?それとも設備実験か。」

 

 同行者にとってはキツイ修羅場でも彼にとってはピクニックと変わらない。そういった余計な事を考えている程余裕があった。しかし、

 

「グールを押し込め!」

 

 前を行くチームのリーダーが声を上げる。見れば、細長い通路でモンスターと押し合いをしている。その奥でエルダーリッチが<電撃>の構えを取っている。

 

「やば。」

 

 彼はモンスターにターゲットこそ取られないが、攻撃範囲にいれば当然喰らう。

 

 油断はしていないつもりだったが、緊張状態の者より判断スピードで一瞬遅れをとっていた。

 

「俺も入れてくれ〜。」

 

 前4人がグールを打ち倒し入っていった横道に考えなしについて行く。

 

 そして、足元が光り出した。

 

「げげげ。」

 

 後悔した時には転移罠が発動をし始めていた後だった。

 

 

 ーーー

 

 

「嘘だろ…。やっちまった…。」

 

 彼は一番警戒していたはずの転移罠に掛かるというアホ丸出しの自分に呆れて死にたくなっていた。

 

 一緒に来た4人組は何やら話し合いをしているが、とにかくここに留まるのはまずいと、外の様子を伺う。

 

「ここは…。」

 

 彼はこの場所に見覚えがあった。ナザリックに1500人のプレイヤーが攻め入った時の主戦場の1つ、闘技場だ。

 

 彼は闘技場の貴賓席に前に見たダークエルフのドルイドや黒髪のサキュバス、シャルティアの姿を発見する。目を動かすと中央付近にはダークエルフのビーストテイマー、そして選手入場門にはモモンガがいた。

 

「何をするつもりだ…?」

 

 ダークエルフのビーストテイマーが選手入場を告げると、ワーカー4人組とモモンガが対峙する。前口上が始まり、すわ戦闘かと思いきや、

 

「許可されていたとしたら?」

 

 ワーカーの一言で場が静まり返る。泰然としていたモモンガですらも今は思考の渦に囚われている。

 

 これを機と見たワーカーは問答を続ける。如何にかしてこの窮地を脱しようとしているらしい。しかし、会話は突然に終わりを告げる。モモンガが急に笑い出したと思ったら次の瞬間。

 

 

 

 怒号。

 

 

 

 腹の底から全てをぶちまけた様なひたすらな怒号。遺跡の主人の怒りにワーカー達は未来を悟った顔をしている。そして始まる戦闘、いや、辛うじて戦闘になっていただけでもはや蹂躙といった方が正しいかもしれない。

 

 モモンガは魔法を使っていなかったが、それが寧ろ闘技場で猛獣と戦う哀れな剣闘士を思わせモモンガが敵を追い詰める度、観客のボルテージは上がっていった。

 

 

 ーーー

 

 

 ほぼ全ての観客の目が闘技場の戦闘に注がれている中、彼だけは冷静に現状を努めて理解しようとしていた。

 

 モモンガはかつての仲間に異常な程執着していた。これはとても好ましい事だ。彼はモモンガに人間的な感情が残っている事に安堵していた。しかし懸念もある。彼はモモンガのあの嵐の様な感情が不自然に消え去り、何事もなく会話を続ける所も目撃した。モモンガの精神は完全に人間のものとは言い難い状態にあるらしい。

 

 今はまだ()()がある。でもこのままでは消えてしまうかもしれない。

 

 そして今最も重要なことがある。帰り道が分からないという危機をどう乗り越えるかということだ。

 

 闘技場は入口からだいぶ遠いところにある。ナザリック内では自由に転移できない。闇雲に道を辿れば罠に掛かる可能性が高い。

 

「未だかつてないピンチ!」

 

 落ち着け。落ち着け。帰る方法はあるのだ。<転移門>で一気に脱出する。しかしこの方法では100%足がつく。しかも唱える途中にバレる可能性の方が高いので、アリアドネ起動の混乱に乗じてやる必要がある。これだけはやりたくない。

 

「何かないか。何かないか。」

 

 この場所にはモモンガの他に高レベルNPCが4体もいる。下手な事をすれば確実に殺られる。

 

「ん?4体もいる?」

 

 彼は違和感を覚える。ナザリックは広い。こんな所に考えなしに高レベルNPCを大量に配置するのはリスクが高い。そして、全員が<転移門>を持っているとも考え難い。ともすれば、ナザリック内を自由に移動できる方法があるのでは無いか?

 

 ただ、そのような機構がそこらにあれば侵入者に利用されてしまう。蓋し、個々が何らかの形で保持しているに違いない。

 

 彼は観察する。同じ方法で転移するなら何か装備に共通点があるはずだ。そして、ダークエルフとサキュバスが嵌めている同じ指輪に目をつける。

 

「あれじゃないか?」

 

 彼はNPCがモモンガの戦いに熱中している隙にダークエルフに近づき<アイテム検索>で出した虫眼鏡と本を使う。

 

「…!ビンゴ!リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン!」

 

 彼はナザリック内を自由に行き来する方法を突き止める。そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そうこうしている間にワーカーの4人組は全滅していた。

 

 

 ーーー

 

 

 彼はナザリックから無事に脱出した後、モモンガの状態について考えていた。モモンガは人間だ。しかし人間である事を辞めつつある。

 

 彼はゲームを作る上で昔から大切にしてきたことがある。

 

 それは、人間に楽しんでもらうこと。彼の運営としての行動原理の根底には常にそれがあった。

 

 彼にとってプレイヤーは人間でなければならなかった。ロールプレイングゲームとはその名の通り、人間が自分以外の役になりきる事(ロールプレイ)を楽しむゲームである。役が本質に変わっては意味がないのだ。

 

 この世界に来て彼が出会ったプレイヤーはモモンガだけだ。彼の希望(エゴ)をぶつけられるのはモモンガだけしかいなかった。

 

 

 ーーー

 

 

「またしてもか。」

 

 オーバーロードは深く溜息を吐く。あの薄汚い盗人たちが入った夜、もう1人招かれざる客がいたことがわかったのだ。

 

 発覚したのはアンフィテアトルムへ飛ばす転移罠を調べた際、罠が5人分起動していたのだ。アインズと戦ったのは4人。もう1人第六階層に来ていた計算になる。

 

 すぐさま警戒レベルが最大限引き上げられ、ナザリック内を捜索することになった。しかし見つかったのは第一階層に仕掛けられた低レベルのアイテムただ1つのみ。捕らえたエルフの奴隷も尋問したが空振りに終わった。今は厳戒態勢を維持しているものの通常運用が再開されている。

 

「解せんな。」

 

 シャルティアの事件以降、敵の行動がイマイチ読めない。ゲヘナの時も居たらしいが何かするということもなかった。その次にこれだ。アインズは押収したアイテムを眺める。何の変哲も無い結界アイテムだ。

 

「もしかしてアリアドネ?」

 

 設置してあった場所からそう考えたが、アリアドネは敵がルート変更をしても起動しないはずだ。

 

「解らん。しかし、これ以上後手に回るのはいかんな。」

 

 ナザリック警備のシモベたちの事を思い出す。申し訳なさで小さくなって消え入りそうになっていた。あの姿はどうも居た堪れない。

 

 まあいい。賊がこそこそ隠れているなら炙り出してやろう。

 

「デミウルゴス。あの計画を早めるぞ。」

 

 オーバーロードは、悪魔が恭しく礼をするのに鷹揚に頷いた。

 

 

 ーーー

 

 

 帝国執務室、皇帝は政務に勤しんでいた。

 

「ふん。次はこの家を取り潰してやろう。財産は道路舗装に有効利用してやる。」

 

 どうやら次のターゲットが決まり上機嫌の様子。しかしその気分も長く続かない。

 

 

 ドン!!!!

 

 

 轟音が響く。何事かと秘書に聞くが、答えを得られるはずもない。

 

「どうしたんですか、落ち着いてください!」

 

「陛下!今すぐ陛下に取次を!」

 

 政務官の声ともう1つ男の声が聞こえる。バン!と執務室の扉が節操なく開かれると、近衛の一人が顔面蒼白になりながら何かを訴えようと飛び出してくる。そのただならぬ雰囲気に、皇帝も近衛の無礼を窘めることはしない。報告を促すと、

 

「中庭にドラゴンが現れました!じっ、地割れが起きて近衛は全滅です!"不動"様も!ここは危険です!」

 

 こいつは何を言っているのか。昼間からクスリでもしているのか?

 

 しかし必死の形相をしている近衛の様子にもしやと窓の外を見る。

 

 そこには、いた。まさしく伝説に謳われた竜の姿がある。

 

「な、何故…。」

 

 頭が追いつかず混乱する皇帝。しかし状況は未だ動いている。執務室に楕円状の黒い孔が開き、そこからこの世の絶望を詰め込んだような死神が姿を現した。

 

 

 

「こんにちは、バハルス皇帝陛下。遺跡の主アインズ・ウール・ゴウンと申します。この度は使者の返礼に参りました。ところで今、あなたの軍はかなりの欠員を出してしまいましたね。これでは王国との戦争に支障が出るかと存じます。私の力が必要ではありませんか?」

 

 

 

 

 

 




次回、大虐殺

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