ユグドラシル運営活動記 (完)   作:dokkakuhei

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つなぎの回。無駄に長いので、流し読みがオススメ。


4日目

「すごいな。前来た時と活気がまるで違う。あの2人組のせいか。」

 

 目的の人物はすぐ見つかった。街行く人達みんながみんな彼らの噂話をしていて、近くには黒山の人集りがある。エ・ランテルに居れば何処にいても居場所が分かるだろう。それぐらい有名人だった。

 

 それも当然だろう。都市の危機をたった2人と1匹で救ったのだから。一夜にして英雄の誕生だ。そしてその風貌がさらに人を惹きつける。何せ立派な黒甲冑と誰もが振り向くような美人、極め付けにでかいハムスターときた。全長5メートルぐらいのハムスターで、おまけに喋る。

 

 何より驚いたのは、大の大人がハムスターに乗っかってあろうことか誇らしげに民衆に手を振っていた事だ。常人の所業ではない。日本人だったら恥ずかし過ぎて悶死しそうだ。

 

「もしかしたらプレイヤーじゃないかもしれない…。だってあんなの正気じゃ出来ないもん…。」

 

 彼の浮かれた気持ちは鎮火されていた。

 

 

 ーーー

 

 

 そんな世の注目の的の人物は今、冒険者組合の応接室に入っている。他にも何人か首にプレートを下げた人物が並んでおり、厄介ごとの匂いがプンプンする。

 

 この部屋で一番偉いのであろう、壮年の男が話を始める。どうやら強いモンスターが出現し、対処に困っているらしい。そこでこの町の中で有数の冒険者たちに声をかけ、人員を募って討伐隊を結成するとのことだ。

 

「1つ言いたいことがある。」

 

 黒甲冑の男が口を開く。モンスターはヴァンパイアということだが、男は相手を知っているらしい。名前は…、は?ホニョペニョコ?頭大丈夫かこいつ。

 

 とはいえ、ハムスターに乗ったり一部変な言動があるものの、黒甲冑の男は見たところその所作はだいぶ大人だ。今だって、やたらと突っかかってくる冒険者にやんわりと丁寧な対応をしている。あれだけの事件を解決しておいて奢らない、とても好意的な人物だ。その殊勝な態度はどこか日本人的な精神を感じさせる。

 

「やっぱりプレイヤーだよなあれ。」

 

 彼の中のプレイヤー判定センサーは乱高下していた。

 

 

 ーーー

 

 

 話の流れでモンスター討伐は甲冑の男のグループとさっきから甲冑の男を邪険に扱っているイグヴァルジという男のグループが行くことになった。組合の中で、黒甲冑の男が自分たちのチームだけで行くと言い出した時にはまた一悶着あったがどうやら収まったらしい。

 

 目的地までは馬で行くようだ。1人はハムスターだ。走行中、黒甲冑の男が目立たないよう<伝言>を飛ばしていた。やっぱり他に仲間がいるのだろうか。

 

 目的地はヴァンパイアが最後に発見された森である。そこから各自情報収集・捜索という流れになった。彼は上空から一行の様子を付かず離れず、つぶさに観察していた。

 

 目的地に着いてから一行は馬を降り、徒歩で森の中を進んで行く。油断なく進むイグヴァルジ一行、対して散策でもするような足取りで進む2人組。警戒など弱者のする事だと言わんばかりだ。

 

 そうした一行に近づく影がある。それも複数。

 

 2人組はどんどん前へ進んで行く。それに呼応するように影達も包囲の輪を縮める

 

「おい!あぶねえだろうが!ぼさっとしてんじゃねえ!」

 

 影に気が付いたイグヴァルジが暴言を吐く。先行しているにもかかわらず、近付く者に言及しない2人組みに苛立ったのだろう。しかしそれに構う様子もなく男は冷たく言い放った。

 

「騙すようで悪いが、一応忠告はしたんでな。」

 

 

 ーーー

 

 

「やっぱり内心怒ってたのかな。」

 

 彼は甲冑の男とその仲間らしき者達がイグヴァルジ一味を始末して行く光景を眺めていた。言っておくが、彼は竹を割ったような正義漢というわけではない。ただ楽観的且つ使命に忠実なだけだ。プレイヤー以外がどうなろうが知ったことではない。

 

 因みにイグヴァルジ達がプレイヤーかどうかだが、違うだろうと彼は考えていた。理由は2つ。1つはモンスターや魔法の知識だ。イグヴァルジは応接室の会議で話に出たときスケリトルドラゴンをさも上位のモンスターのように語っていたし、第8位階の魔法を込めた魔封じの水晶を見た時も尋常では無い驚き様だった。プレイヤーだとしたらかなり違和感がある。

 

『ユグドラシル』プレイヤーならもっと凶悪なモンスターを数多く知っているはずだ。『ユグドラシル』は12年もサービスが続いたゲームだった。当然、ネットではモンスターを始め、殆どのデータが掲載されていたし、普通のプレイヤーなら公式サイトや攻略サイトで幾らでも触れる機会があった。

 

 仮に、全くの初心者の状態で何も知らずにこちらの電脳世界に来たとしたら、逆にこちらの世界のモンスターに詳しすぎるのも変だ。

 

 こちらの世界に来るタイミングが何年か速く、数年かけてこちらの世界のことを学んだという可能性も考えたが違うだろう。イグヴァルジの仲間達は彼の幼少期からの付き合いらしく、今の年齢になるまで()()する姿を見ているらしい。

 

 この空間では知らないが、少なくとも『ユグドラシル』ではアバターが経年で変化することなんてなかった。そしてこの空間に来たとしてもそもそもデータが無い以上、外見変化が反映されるはずがない。つまり、彼らはここの天然の住人であるということだ。

 

 もう1つは彼らが痛がっていることだ。電脳法では触覚が一部制限されている。理由はオブジェクトに対しての触覚と痛覚の区別が難しいためだ。痛みは脳に多大な負担をかける。だから電脳法は痛覚を感じさせ得る触覚の一部を制限しているのだ。

 

 この空間では触覚の確度は高い。しかし依然痛覚はない。娯楽の追求でよりリアルに感じられるように調整してあるのだろう。凄まじい技術力だ。

 

 そんな中イグヴァルジ達は痛みを感じているようにロールをしている。十中八九NPCだろう。

 

 

 

 あっ、すごい。血の飛び散り方もリアルだなこの電脳空間。

 

 

 ーーー

 ーーー

 

 

 彼は知る由もないが、この世界でも痛覚はある。ただパラメータが高すぎて感じられていないだけだ。彼の運営(ゲームマスター)としての常識という偏見が事実を隠してしまっていたのである。つまりは痛覚などは制限されているだろうという偏見だ。1人で行動して、誰とも接触しないことの弊害だった。

 

 

 ーーー

 ーーー

 

 

「ご苦労だった。」

 

 イグヴァルジ達の処理が終わり、仲間がそれを報告すると男は鷹揚に頷く。そして、甲冑を外して素顔をみせた。

 

「は…。」

 

 心臓が止まるかと思った。冒険者組合で見た顔と違っていたのだ。なんとそのヘルムの中の顔に肉はなく、虚ろな眼窩が暗黒を湛えている。表情の無い白い輪郭との対比が美しくすらあった。アンデット、スケルトン種の顔だ。

 

「お…お…。」

 

 

 

 

 

 

「お前かい!!!」

 

 彼は心の中で叫んだ。何者かを調べていた相手がまさかの知っている人とは。なんで戦士の格好しているんだよ。モモンって、え?そういうことなの?偽名ならもうちょっと捻った名前考えようよ。

 いや、気がつかなかったけどさあ。

 

 

 ーーー

 

 

「うーん。あれ本人かな。」

 

 目的の人物は、姿格好は『ユグドラシル』時代のモモンガそのものなのだが、理由は分からないが仲間にはアインズと呼ばれているのだ。外見が一緒でも外装データだけが反映されていて、中身はプレイヤーではない可能性もあり得る。

 

 しかし、仲間を見る限り異形種で統一されている為、彼らがアインズ・ウール・ゴウンの関係者なのはわかる。皆、モモンガの命に従っていることからモモンガがギルド長たる地位を失っていないことも伺えた。モモンガに関しては本人だと思っていいだろう。

 

 ただ、気になることは取巻きに見覚えがないことだ。アインズ・ウール・ゴウンはギルド規模の割に人数が少なかった。彼も朧げだかギルドメンバーは殆ど覚えているが、ここにいる者で知っている者はいない。プレイヤーかそれ以外か判断は保留だ。

 

 モモンガは何やら話をした後、仲間と別れて吸血鬼の元へと向かうようだ。

 

「どっちについていこうかな。」

 

 モモンガと甲冑の女のペア。ダークエルフの子供と黒髪の女、そしてハムスターのグループ。どうやら後者は本拠地に戻るようだ。

 

「モモンガはエ・ランテルを拠点にしているので足取りを掴むのは容易という事を考えると本拠地を探る方が優先だな。」

 

 彼は2人と1匹の後をついて行くことにした。

 

 

 ーーー

 

 

 一行は、蛇行しながら目立たない獣道を通って行く。どうやら尾行に警戒しているらしい。2人と1匹の他にも遠巻きに探知系、隠密系のモンスターが警邏に当たっているのが見えた。しかし彼のスキルの前では節穴に等しい。

 

 1時間程したか、どうやら目的地に着いたようだ。彼の目の前には『ユグドラシル』最後の日に見た、あの荘厳な建物が聳えていた。違いがあるとすれば、周りが沼地ではなく丘陵地帯であることぐらいか。

 

「ギルド拠点ごと来ていたのか。」

 

 一行は迷いなく墳墓の入り口に歩を進める。ダークエルフが墳墓の入り口に差し掛かると、中からスケルトンの一団が出て来て出迎えをする。カチャカチャと音を立て整列する様は安物の玩具のようで見ていて面白い。

 

「お帰りなさいませ。マーレ様。」

 

 スケルトンとともに出迎えた、眼鏡の女性が声を掛ける。同時にスケルトン達が一斉に頭を垂れる。

 

「あ、はい、ただいま。」

 

「姉さん。出迎えありがとう。」

 

「アンデットでござる!もうこりごりでござるよ!」

 

「黙れ。お前も骨にしてやろうか。」

 

「だ、ダメだよ、アインズ様のペット、な、なんだから。」

 

「フフ、大丈夫ですよハムスケ様。報告は受けております。我々は貴方を歓迎します。」

 

「ホントでござるか…?」

 

 会話が一段落すると、眼鏡の女性は1つ声のトーンを落としダークエルフの子供に尋ねる。

 

「マーレ様、尾行は有りませんでしたか?」

 

「う、うん。無かったと、思う…かな。」

 

「周りに配置されているシモベからも異常無しとの報告を受けているわ。」

 

 茶色のローブの女性が付け加える。すると眼鏡の女性は安堵したように優しく微笑み一行を墳墓に入るように促そうとしたが、そこに<伝言>がはいった。

 

 

「アインズ様!?」

 

 その言葉に場が緊張する。どうやらモモンガからの通信が入ったようだ。その場にいるものは皆真剣な面持ちで、主人の言葉を一言一句逃すまいとしているようだ。

 

「はい…。はい…。今から5分後にシズ・デルタを伴って宝物殿ですね。了解致しました。」

 

 眼鏡の女性が険しい面持ちで通話を終える。

 

「アインズ様は今からお戻りに?シャルティア様の件は片付いたのでしょうか。」

 

「いえ。むしろそちらの方で問題が発生したようよ。マーレ様、出迎えの途中で申し訳御座いません。急用が出来たので直ぐに戻らねばならなくなりました。」

 

「あ、アインズ様を待たせるのが一番ダメだよ。こ、こっちは良いから速く行ってよ。」

 

「ありがとうございます。では。」

 

 

 ーーー

 

 

 彼は今起きている出来事を観察していた。一番気になったのは、スケルトンの一団である。スケルトン達は墳墓の中から出て来た。そして周りの丘陵地帯はスケルトンのポップするようなフィールドでは無い。つまり、ナザリックで配置してある、又はポップしたモンスターが出て来ていたと考えられる。

 

 ここから分かる事は、ギルド内のNPCがギルド拠点の外部に出て来られるという事だ。つまり、モモンガ以外はNPCという線がまだ捨てきれないという事になる。

 

「マスターソースを見られれば話は早いんだけどな。」

 

 マスターソースはギルドの情報を全て管理している。プレイヤーのイン状況から、NPCの状態、トラップの起動状況に至るまで。

 

 しかしながら、墳墓に入るのはリスクが高すぎる。この墳墓が不可視不可知の相手に対するトラップを用意していないはずがない。かといってモモンガに接触するのはもっとリスクが高い。先ほどのイグヴァルジとのやりとりを見て、交渉が決裂すれば容赦無く抹殺するという手段を取るという事が分かったからだ。

 

「おっと。」

 

 墳墓の入り口近くに転移門が現れる。次に打つ手を考えあぐねている内に、主人が帰って来てしまったようだ。そしてそのまま急ぎ足で中に入っていった。

 

「多分また吸血鬼騒ぎがあった所に戻るだろうから、先に行って観測アイテムとか用意しとこう。」

 

 彼は転移して森に向かった。

 

 

 ーーー

 

 

「うひゃー。これは見ものだな。」

 

 目の前ではモモンガと、おそらくアインズ・ウール・ゴウン関係者であった吸血鬼が何故か一騎打ちをしている。初手の超位魔法を皮切りに幾つものスキルと魔法が飛び交ってハリウッド映画さながらの戦闘が繰り広げられていた。

 

 彼は巻き込まれない程度に離れた位置に浮かんでいる。認識される事はなくても攻撃を受けたらダメージを受けてしまうからだ。その上、攻撃をした側にはダメージを与えたことすら感知されないので、最悪の場合死んだ事に誰も気付かず、他者に蘇生してもらうことすら出来ない。

 

 というか一回<魔法効果範囲拡大・嘆きの妖精の絶叫>で死にかけたのだが。その時は遮二無二<魔法三重最強位階上昇化・上位転移>で避けた。すごい怖かった。

 

 そんな一大決戦も最終局面に達していた。双方MPが尽きたようで、武器で殴り合っている。ドン・フライと高山のように殴り合っている。

 

「すげーな。お金払いたいわこの試合。」

 

 完全に観客気分であった。しかし、呑気にしている彼をよそに、ついに試合が動いた。モモンガは鎧を解除し、距離を取る。どうやらモモンガは超位魔法を使うための時間稼ぎをしていたようだ

 

「あ、課金アイテム。」

 

 モモンガは超位魔法をアイテムで即時発動させる。次の瞬間戦う2人を中心に、光が空から堕ちて一帯を包み込んだ。本日2度目の<失墜する天空>だ。

 

 それがそのまま決着の合図となった。

 

 

 ーーー

 

 

「ふう。色々分かったな。」

 

 世紀の対戦を終えて彼は得た情報を整理する。戦闘の中で、シャルティアと呼ばれた吸血鬼はモモンガの友人が作った旨の発言があった。つまりはシャルティアはNPCなのだろう。他の者達もプレイヤーだと考えるとモモンガへの接し方がやや不自然だ。仲間同士であるというよりか、何処か明確な上下関係があるような話ぶりだった。ギルド防衛NPCが拠点から出られることを考えると、周りにいたモモンガ以外の者はNPCなのかもしれない。

 

 そして今までのモモンガの行動を観察していると、現状は情報収集がメインで特段なにか積極的に行動を起こそうとしている訳ではなさそうだ。暫くは王都での活動に戻ろう。蒼の薔薇のニンジャも気になる所だ。

 

 そう言う訳で彼は王都へ向かった。

 

 

 ーーー

 

 

 ここは墳墓の主人の執務室。今は、守護者の謀反騒ぎも静まり、オーバーロードは部下から上がって来た書類を読んでいるところだ。そこに扉をノックする音が3度。主人は入室を認める。メイドに促され黒い長髪のサキュバスが入って来た。聞くと、早急に耳に入れたい事があるという。

 

「執務中、宸襟を御騒がせ奉り真に恐縮の至り、尽きましては重要な報告と持って替えさせていただき真の忠義と致したく存じます。」

 

「前置きはいらぬ。用件はなんだ。」

 

「はっ。アインズ様とシャルティアの戦闘の折、第三者のものと思われる痕跡があったと、ニグレドからの報告で御座います。」

 

 一瞬、部屋が凍りついたかのように時が止まる錯覚を覚える。オーバーロードがオーラを発したのだ。

 

「ほう。自分では気がつかなかったな。いつだ。」

 

 オーバーロードの威圧感が増していく。部屋全体を押し潰さんばかりの空気の変動にシモベ達は身を一層正した。女は震える声で返答をする。

 

「アインズ様がエクリプスのスキルを使った際、近くで転移魔法の痕跡があったとの事です。状況から、横で見ていた者が御力に恐れをなし、逃げたものと愚考します。」

 

「その前後は?痕跡はあったか?」

 

「いえ、探知出来なかったようです。」

 

「…つまり、戦闘中に我々が気が付けないレベルの隠密能力を持った者が潜み、その場にいた可能性があるということだな?」

 

「仰る通りで御座います。」

 

「ふむ。」

 

 アインズは怒りを感じていた。潜伏していたのは間違いなくシャルティアに精神支配をかけた奴だ。そしてそいつがシャルティアに精神支配をかけた理由は、なんて事もない、此方の戦力を測るためにやったのだ。手の内を知っている仲間同士で戦わせ、能力をじっくり観察しようという魂胆に違いなかった。

 

 アインズは相手の威力偵察にまんまと手を貸してしまった上に、友人から預かった子をあろう事が自らの手にかけてしまったのだ。こんなに屈辱的な事があるか。

 

 アルベドはアルベドで、この失態をどう払拭するか必死に考えを巡らせていた。アインズとシャルティアの一騎打ちの勝敗予想にかまけて一番重要な索敵に穴があったのだ。幸いアインズに何も無かったものの、いや、そんな事は結果論だ。場合によってはアインズが潜伏者に攻撃を受ける事だってあり得た。しかも、守護者最強との戦闘の最中にだ。

 

 汗が背中を伝って行く。守護者統括にあるまじき失態だ。同僚達になんと説明すれば良いのだ。恐ろしくて主人の顔を仰ぎ見ることすらままならない。呆れられて他の40人と同じように御隠れになられはしないかと恐ろしい想像が思考を埋め尽くす。何か言わなければ。震える体を叱咤してなんとか声を紡ぐ。

 

「ア、アインズ様、すぐに対策班を結成し…」

 

「アルベド、済まないが少し席を外す。」

 

 その言葉はアルベドを絶望させるのに充分であった。破滅の空想が全て現実になったかのように感じる。少し席を外して何処へ行かれるのですか。そのまま帰っては来られないのではないですか。捨てないでアインズ様。どうか、捨てないで。

 

「お待ちください!アインズ様!」

 

 アルベドは必死な表情で懇願する。その姿にアインズは、何故アルベドがこんな顔をしているのか分からずに一瞬面食らってしまったが、霊廟であったことを思い出し、その意を汲んだ。

 

「大丈夫だアルベド。ナザリックからは出ない。本当に少しだけだ。5分で戻る。」

 

 そう言うとオーバーロードは骨の手で、されど赤子をあやす母のように女をかき抱き、頭を撫でた。女が落ち着いたのを確認すると、指輪で転移した。

 

 

 ーーー

 

 

 この日はナザリック内部がてんやわんやの大騒ぎとなった。ナザリック軍部に、防衛本部の他に警戒対策本部と捜索本部が置かれることとなり、組織の再編が図られた。

 

 今回一番の被害者は執務室でアインズのオーラを浴びて泡を吹いて気絶したメイドの1人だろう。二番目は嬉しすぎて気絶したアルベドの看病をさせられたペストーニャだ。三番目はアインズの()()()()()で全壊したスイートルームの修繕をさせられることになったシモベ達だろうか。

 

 いや、最後のは喜んでやってたな。とにかくナザリックが転移して以来、未曾有の混乱となった。

 

 

 ーーー

 

 

 この事態を引き起こした本人はというと、美女のストーカーという日常に戻るべく準備をしている最中であった。

 

 

 

 

 




リザードマンは飛ばします。ザリュースごめん。

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