『元』魔王の俺がヤンデレ女勇者と付き合っている件について   作:『向日葵』

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更新遅れてすいません!その文いつもより文字数が……気休めくらいには多いです←


ヤンデレ女勇者が魔王に喧嘩を売った件について

蒼く輝く無数の星が、キラキラとその輝きを放つかのように煌めく、腰まで伸びたサファイアの髪と瞳。

 

気怠げでのほほんとした雰囲気を持ち、頭に黒色の双角、そして腰に生えている小さな翼、細い尻尾。

 

服装はそこら辺の人間と何ら変わりない格好をしているが、しかし、その角と翼、尻尾を見れば、こいつが魔族であることは誰が見ても一目瞭然。

 

……だが、それさえも気にさせない程に完璧に整った顔立ちに、そしてレイカ以上の大きさを有するであろう二つの双丘が目に入ってしまう。

 

更に決めては、俺こと『クルト・グランツェフ』に対する『クーちゃん』という愛称……あぁ、そうだ。間違いない。

 

ーー『星魔王アルセリウス』

 

それが、今現在俺とレイカの目の前にいる、しかし本来ならばこのような所には絶対に姿を見せないような、魔王の存在だった。

 

「ええと、く、クーちゃんさん、ですか?すいません、思い当たるような人はここにはいないと思います……」

 

流石のヤンデレ女勇者レイカも、混乱しているのだろう。星魔王と名乗った相手に対して、律儀にも対応している。……うん、まぁ、クーちゃんって俺のことだけどさ。

 

ーーって、そんなことよりも!!

 

「おい、アルセリウス!?なんでお前がここにいるんだよ!?」

 

「きゃっ!……ま、魔王様?ーークーちゃんって、まさか」

 

「あ、クーちゃんだぁ〜!えへへ、久しぶりだねぇ〜!」

 

そんな考えから数拍置いて、最もな疑問がやっと俺の口から出てきた。冷静に状況を把握していると思っていた俺だったが、この最もな疑問が真っ先に出てこない辺り、レイカに負けず劣らずとも混乱していたらしい。

 

ーー魔王は、他の大陸には不干渉を貫く。魔族の頂点に立つ者ならば、自分でなんとかしろ。

 

それが俺達七魔王のリーダー、ゼハートが下した命令だ。故にアルセリウスが自分の大陸を抜け出し、こうして俺達のいる大陸に姿を現すなどご法度。

これを破るようなら、ゼハートからどんな叱咤が飛んでくるかわかったものではない。それは、アルセリウスとて例外ではないはずだ。

 

しかし、当の本人たるアルセリウスは、そんな俺の心配など微塵も気にしていない様子。俺を見つけるや否や、ぱぁっと笑顔になり、俺の方へトテトテと近づいて来てーー

 

 

「ーー誰の許可を得て私の魔王様に近付こうとしてるんですか、雌豚?」

 

 

ーーその進行を、レイカの愛用の剣によって阻まれた。

 

……うん。いや、わかってたんだ。玄関にアルセリウス、廊下にレイカ、その後に俺という位置順になっているため、アルセリウスが俺に近付くということは必然、レイカの前を通らなければいけないわけで……そのレイカが何もしないなど、有り得ないのだから。

 

「……許可って何〜?クーちゃんの側に行くのに、あなたの許可が一々必要なの〜?」

 

「えぇ、当たり前ですよ、この雌豚が。魔王様は私のものなんですから、私の許可がいるのは当然です。……まぁ、許可なんて当然あげませんがね?」

 

ピリッ、と。アルセリウスとレイカとの間の空気が一変した。

先程まで客への対応だったレイカがアルセリウスを見る目は、敵対心そのもの。いや、ひょっとするとそれ以上かもしれない。

 

「ねぇ〜クーちゃん。この失礼で面倒くさそうな女、誰〜?」

 

ーー先に口を開いたのは、ピリピリとしてはいるが、それでものほほんとした雰囲気を放つアルセリウスだった。

 

「あぁ、私としたことが、まだ名乗っていませんでしたね。初めまして、星魔王さん。この大陸の勇者にして、こちらに居る暴魔王クルト様と将来を誓ったお・つ・き・あ・い・をさせて貰ってます、ヤシロ・レイカと申します。どうぞーー宜しくお願いしますね?」

 

次に口を開いたのは、お付き合いという部分を挑発気味に強調して言った、目の色彩がどんどん薄くなっている我らがヤンデレ女勇者、レイカであった。

 

「……あっはは〜、あなたには聞いてなかったんだけどぉ、勇者にしてはすごい冗談を言うんだね、レイカちゃんって〜……全然面白くないよ〜?」

 

「あぁ、ごめんなさい。私は勇者ですから、魔族を喜ばせるための冗談なんて思いつかないんですよね。言ってることの意味、わかります?」

 

「人間の言葉はよくわからないなぁ〜。クーちゃんがこの大陸の勇者に倒されたって聞いたからゼハートの言いつけ破ってまで見に来たんだけどぉ、まさかこんなホラ吹き勇者がいるなんて〜」

 

「嘘って思いたいんですか、私と魔王様の関係を?認められないんですよねーー負け犬になるのが」

 

「「ーーうふふっ」」

 

……あの二人の間にある空間が歪んでる気がするんだが、俺の気のせいであってほしい。いや、割と切実に。

 

しかし。何故こいつらは会ってものの数分も経たないうちにこんなにもギスギスしてるのだろうか。

見たところアルセリウスは俺が心配でこの大陸に来たみたいだし、昔馴染みの間柄というのもあって、レイカとは戦わせたくない。

 

うーん、場を和ませるためにここは一つ、冗談でもかますべきなのだろうか。よし、きっとそうだ。そうに違いない。

 

「やめろお前ら!俺のために争うーー「「魔王様(クーちゃん)は黙っててください(ねぇ〜)」」ーーうっす……」

 

よわっ!俺よわっ!?これでも一つの大陸を脅かしてた魔王の一人なんですけども!?

 

尋常ではない殺気を二人から放たれ意気消沈した俺は、力なくその場に項垂れた。……これが元とはいえ七魔王の一人だと言うのだから、聞いて呆れる。自分で言ってて情けない。

 

「ーークーちゃんを、返してもらうね?」

 

そんな俺の複雑な気持ちなど知らんとばかりに始めに事を起こしたのは、のほほんとした気怠げな声で、しかしレイカに向かって明確な殺意を振りまいたアルセリウスだった。

 

「ーー『怠惰ニ堕チル(ベルフェゴール)』」

 

「ーーっ!?アルセリウス!?」

 

アルセリウスの『怠惰ニ堕チル』という宣言を聞いた俺は、驚きのあまり声を荒らげてしまう。

 

何故ならアルセリウスが宣言した力……それは俺たち七魔王が持つ、『オリジナル(悪魔の力)』と呼ばれる、七魔王それぞれの特徴を持って生まれた、言わば俺たちを具現化した力。

 

もちろんその力が強くないわけがなく、また、周りが無事で済むわけもない。

 

今ここでアルセリウスが『怠惰ニ堕チル』とあいつが星魔王と呼ばれる所以たる『星の魔法』を使えば、この街は消し炭になる。それ程の力を、普段怠惰なあいつは持っているのだ。

 

「ふふ、最初からそうしてればよかったんですよ……ーー『デュランダル』!」

 

対するレイカも、すぐさま愛用の剣……ではなく、空間から出現した剣を手に取り、その剣先をアルセリウスに向ける。

 

ーー聖剣デュランダル。

 

ほとんど装飾もされてない、一見シンプルな形の剣に見えるが、しかしその剣がうっすらと放つ輝きはあまりにも神々しく、それでいて俺たち魔族には恐怖の象徴。

 

決して折れず、決して切れ味が衰えず。国から勇者であるレイカに授けられたであろう、別名『不変の剣』を手に、レイカは絶対の自信に満ちた顔をしてアルセリウスと対峙して。

 

「?……デュランダル?」

 

ーーそれでいて、眉を顰めた(・・・・・)

 

「……あれぇ〜?おかしい(・・・・)ですよねぇ〜、その聖剣〜」

 

何が起こったかわからないという表情をするレイカに、アルセリウスが告げる。ーー怠惰ニ堕チル(ベルフェゴール)と呼ばれるその力の秘密を。

 

「なんかぁその聖剣〜、やる気がない(・・・・・・)ように見えますね〜?そんな剣じゃ私は切れませんよ〜?」

 

手のひらをヒラヒラと、レイカを挑発するような仕草をしながらアルセリウスは勝ち誇った顔をする。あいつのことを知っている俺だから言えるが、確かに今の状態(・・・・)のデュランダルでは、『星の加護』を受けているアルセリウスを切ることは出来ないだろう。

 

「デュランダルから魔力を感じられない……いや、なんて言いました?やる気……?怠惰、ベルフェゴール……ーーそういうこと、ですか」

 

ずっと今の状況を把握していたのだろう、カラクリに気付いたかのようなレイカの反応。まさかこの短時間で、レイカはわかってしまったのか、アルセリウスの『怠惰ニ堕チル』のもたらす効果を。

 

ーー『怠惰ニ堕チル』の力は、単純に周りに怠惰をもたらすもの。

 

たかが怠惰、されど怠惰。戦闘中にやる気が出ないなんてことがあれば真っ先に死ぬし、技の冴えもないから脅威も感じない。

 

アルセリウスはその怠惰を、強制的に起こすことができる。

 

しかもアルセリウスの『怠惰ニ堕チル』は、あらゆる事象、果ては無機物(・・・)までをも怠惰に墜す。

故にレイカのデュランダルもその本来の力を発揮させることができず、むしろ今となってはレイカがいつも使っている愛用の剣と同等のランクになっている。聖剣の面影など、強いて言うなら神々しい光を纏っているところくらいだろうか。

 

しかし、俺としてはこの状況、おかしいと思う点がある。それはアルセリウスも感じていたのだろう、その疑問を、俺の代わりに言ってくれた。

 

「しかし不思議ですねぇ〜。あなたにも効果があっていいはすなのに、剣にしか効果が出ないなんて〜」

 

そう、アルセリウスの『怠惰ニ堕チル』の効果をレイカが受けている様子がない。むしろ聖剣が使い物にならなくなった苛立ちからか、殺気が膨れ上がっている。

 

「あなたのような低俗な魔族にはわからないことですよ、私の『チート(・・・)』のことなんて。それに、剣なんてなくても、私はまだ戦えます」

 

手に持っていたデュランダルを、何を思ったのか空間に仕舞い直すレイカ。……愛用の剣の方でも使うのだろうか。

 

しかし俺の予想を反してレイカの手は、剣を携えている腰にいくことなく……レイカの顔の前で止まった。

構え、と呼ばれるそれを取るレイカの姿を見た俺の額に、嫌な汗が流れる。いや、本当に……まさかとは思うが、レイカのやつ。

 

 

「ーー極限まで身体強化を施した上での拳を、あなたに叩き込みます」

 

 

ーーこうして俺の嫌な予感は的中し、稀代の『勇者(セスタス)』と『星魔王』の戦いの火蓋が、切って落とされた。

 




勇者はどこまで脳筋なんでしょうか……(遠い目)。

書いてて、あれ、当初はこんなキャラじゃなかったんだけどなぁ、と思ってしまう今日このごろ。

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