『元』魔王の俺がヤンデレ女勇者と付き合っている件について 作:『向日葵』
ーーつまるところ、ヤンデレ女勇者ことレイカは、俺との旅の了承、及びに他の魔王を倒した褒美としてレイカの言うことを聞く、という言質を取り、魔王である俺と勇者であるレイカとの、異種間交際という前代未聞の大問題を真正面からねじ伏せよう、というわけだ。
そして全ての魔王を倒した暁に国王の前に再度姿を表し、俺との婚約を認めろと言うだろう。しかも余計な追求をされないように、言質を取ったら国王の目の前から即座に逃げ出す根回しっぷり。
「さぁさぁ、魔王様!まずはどの大陸から行きましょうか?『レムレース』ですか?それとも『マグフィリア』ですか!?貴方と一緒なら、私は何処へだって行きます!!ふふっ、まるで新婚旅行に行くような気分ですね!!」
さてさて、そんな悪い方向で頭の回るレイカさんと言えば、現在自宅にて荷造りをしている真っ最中。言わずもがな、他の大陸の魔王を倒す旅の準備だ。
ーーこの世界には、七つの大陸が存在し、一つ一つの大陸に一人一人の魔王が存在する。
その内の一つの大陸がここ、『ベルトナム』であり、その『ベルトナム』に居を据えていた魔王の一人が、俺こと『暴魔王クルト』なのだ。
『妖魔王マーレ』
『絶魔王ゼハート』
『光魔王ハルト』
『星魔王アルセリウス』
『獄魔王イルミナ』
『崩魔王ユリ』
そして俺を合わせて、合計七人の魔王から成る『七魔王』。それぞれがそれぞれで異色の強さを誇り、その大陸の脅威と数えられている。
レイカが先ほど言った『レムレース』には、『光魔王』が。次に言った『マグフィリア』には、『星魔王』が。
他の大陸にも勿論その大陸の魔王が存在しておりーーそして、その大陸の勇者と戦っている。
そう、『ベルトナム』にレイカという勇者が居るように、『レムレース』や『マグフィリア』、他の大陸にもそれぞれ勇者が存在しており、その大陸の魔王と戦いを繰り広げているのだ。
「……その戦いに、俺という『元』魔王、そしてこの大陸には最早用のないお前という勇者が一緒に参加する、か」
「ふふっ。私的には、ここまで想像通りに事が運ぶとは思ってませんでしたよ。これで私と魔王様とのハネムー……おほん。旅はこちらの大陸の国王公式で認められ、更には未来まで約束されました。ふ、ふふふっ、ふふふふふふっ!」
荷造りをしながら、やや俯き気味に笑い出すレイカ。顔以外は地味な外見と相まっており、絵になっているのがなんとも言えないところ。
「あぁ、あぁ、これからの人生が薔薇色です。……『生前』あれだけの事があったんですから、そう、これくらいの幸福はあっていいはずです。あぁ、あぁ、幸せです……!」
もう荷造りが終わったのだろうか。レイカは俺の隣に寄り添うと、肩に頭を乗せ、体重を預けてきた。それと同時に鼻腔を掠める、レイカの良い香り。
……いかん、無性に恥ずかしくなってきた。どうしてこうも何気なく肌を密着させることが出来るのだ、こいつは。そのくせ胸を触られたり下着を見られたりしたら火が出るってくらい羞恥に顔を染めるくせに。
「魔王様、良い香りです。ふふっ、この香りを嗅いでいいのは私だけなんです。そう、他でもない私だけなんです。だから私の、私だけの魔王様ですから、いっぱい私の香りを付けておかないと……他の女が寄ってこないように」
「ちょっ、れ、レイカっ?」
俺の静止の声など何処吹く風。そう言わんばかりに、俺の肩から胸元へと顔を寄越したレイカは、そのまま頬づりをしてきた。……くすぐったい。そしていつもの如く抵抗が出来ない、恥ずかしい。
そうやって暫くはレイカのなすがままにされていた俺だったが、それもすぐに終わりを告げた。頬づりの感触が無くなったと下を向いてみると、レイカは不安そうな顔でこちらを見上げており、ふとこんなことを聞いてきた。
「……魔王様、こんな情緒不安定な女は、嫌いですか?」
「じ、じょうちょふあんてー?」
「心が病んでて、意味のわからない言動や行動を起こしてしまうような人です」
「あぁ、なるほど。確かにお前にぴったりの言葉だな」
率直に思ったことを口にした俺の言葉に、がーんと見て分かる通りにショックを顕にするレイカ。……いや、うん、まぁ、こればかりは否定できないからなぁ。
ーーあぁ、でも。
「だからお前のことを嫌いになるとか……まぁ、その、なんだ?そういうことはないからな?」
「ほ、ホントですか……?」
再度確認するかのように聞いてくる、不安そうな顔のレイカ。……ったく、なんでこういったことに自信が無いんだ、お前は。
「あー……まぁ、その、なんというか。
ふんっ、と。柄にもなく人を励まそうとしたからだろうか、妙な気恥ずかしさが身を包みこみ、それを隠すためにそっぽを向いた俺だったが、こいつにはバレバレだったみたいだ。
ちらりと横目で見てみると、不安そうな顔から一転して、みるみる笑顔になっていくではないか。……ちくしょう、やっぱりお前には笑顔が似合ってるなんて言わねぇからな。
「と、とにかく!この俺、『暴魔王クルト』様がついてるんだ!だからお前も、もっと自信を持って、不敵で無敵で、馬鹿みたいに真っ直ぐ自分の意思を貫くことだ!……わかったか?」
「ーーはいっ!」
「う、うむ。それなら、いいんーーむぐっ!?」
半ばやけくそ気味に言い放った俺に対して、不意打ち気味に放たれたのは、満面の笑みのレイカによる口付け。完全に不意をつかれたので、抵抗も何も出来なかった。
「ぷあっ。……私、改めて思い知りました!魔王様のことがーー未来永劫、ずっとずっと大好きです!!」
「ーーっ!なっ、ななっ!?」
更に放たれる不意打ちのストレートに、顔を真っ赤にしてしまう。本当にこいつは、なんだってそんなことを平然と言えるんだ。
「その、今はすごく恥ずかしくて、出来るかわかりません、け、けどっ!!その、ええと、あのですね、こ、こども、だって……っ!!」
「ごめん、全然平然じゃなかったね!?とりあえず落ち着け!!」
暴走しかけているレイカの頭に軽くチョップを入れる。あうっ、とチョップされた頭を軽くさすりながら、それで少しは落ち着いたのだろう、レイカは顔を真っ赤にしながら俯いた。……勿論、俺の顔も真っ赤であるが。
「ご、ごめんなさい……キスまではいくらでも出来るんですけど、やっぱり、そ、そのっ、まだ、そういうことについては未熟でしてっ……!!」
こいつの中のキスとは一体何なのだろうか。それともあれか、半年の間に嫌という程したからもう慣れたのか?
「で、でも、でもですね!?魔王様が、その、どうしてもって……私を、求めて、くださるなら……わたし、は……」
「お、おい!なんでそんな、艶っぽい雰囲気を漂わせながらこっちに身を乗り出してくるんだ!?」
ギュッと目を閉じて、服を少しずつはだけさせながら、こちらへ滲み寄ってくるレイカ。少しずつ浮き出てくる彼女の肌に目がいってしまうのは、男としての性だからだろうか。それとも……もっと別の何かだろうか?
「おまっ、おまえだって恥ずかしくて仕方ないんだろ!?む、無理すんなって!?顔がやべぇくらい赤くなってるぞ!?」
「わ、私は本気ですっ。愛しい貴方になら、わ、わたしっ……!たとえ胸を弄られようと、そ、その、秘部を、まさぐられようと……あ、う、ううっ」
自分で言ってて恥ずかしがるなよ!!こっちだって相当恥ずかしいんだって!!
だ、だめだ。後ずさっていたが、最早後ろに退路がない。壁しかない。こいつの呪いのせいで、壁を壊す力すら出てこない。
「ま、待て、待て待て待てレイカ!こ、こいうのは、もっと、お互いのことを、し、知り尽くしてだな!俺は、まだ、何もっ答え見つけられなくーー「う、うるさいお口はっ、こうです!!んっ!」ーーんむっ!?」
必死にレイカを思いとどまらせようと動く口を、他でもないレイカ自身に防がれた。それも、唇、もといキスという手段で。
「ーーん、むっ」
「ーーんぐっ!?」
更にはレイカの舌までが、俺の口内に侵入してきた。今まで、半年間おこなってきた普通のキスなんかとは違い、口の中を蹂躙されるその感覚に、戸惑いか、あるいは背徳感のようなものが俺の体を駆け巡る。
ーーあぁ……ダメだ、これは、もう。
俺の理性が限界を越えようとしているのか、手が吸い込まれるかのようにレイカのその二つの双丘に向かったーーその、瞬間。
『ごめんくださーい』
「「ーーっ!?!?」」
ばっ!と、一瞬で離れる俺達。このタイミングで、狙ったかのように客が来たのだ。喜んでいいのか、はたまた、悲しむべきなのか、よく分からない感情がごちゃ混ぜになる。
「う、うう、うううっ……!せ、せっかく、未来を約束された記念にって、特別な一日にしようと勇気を振り絞ったのにぃっ……!!」
俺とは顔を明後日の方向へと向けているレイカはというと、身体を震わせながらブツブツと何かを呟いているが、内容は何も聞こえない。……なんだか、すごく負のオーラが漂っているのは、俺の気の所為なのだろうか。
ーーと、とにかく、客だ。
「ほ、ほらっ、レイカ!?お客さんだぞ!?」
「ーーふひゃっ!?あっ、そ、そうですよね!お客さんですよね!え、えへ、えへへっ!」
先程の緊張感が残っているのか、変に声が上ずった俺の問いかけに、ビクッと体を震わせて跳ね上がると、これまた変な声を上げレイカはそう答え、パタパタと玄関へと走っていった。……その後に、俺も続く。
さて、どんなお客さんなのやら。
「あ、どうもこんにちはぁ〜。お初にお目にかかります、
はい、というわけで、次回どうなる『元』魔王と勇者よ!?
感想、評価、批評等心よりお待ちしております!批評等の際は、どこが悪かったなど指摘してくださると、とても助かります!