このろくでもない世界に救いの手を!   作:あべかわもち

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第2話 最強は異世界で職業を得る

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『・・・お客さん・・・』

 

 

なンだようるせェな。

 

 

『お客さん!・・・着きましたってば・・・』

 

 

揺するンじゃねェよ。くそが。

 

 

『起きろっつてんだろ!!このもやし野郎!!』

 

 

ガツン!!

 

 

「!!?!?」

 

 

煩い怒鳴り声と頭を殴りつけられた衝撃によって、俺の意識は完全に覚醒した。

 

目覚めたら、目の前にはやけにガタイのいい、太陽に焼けたのであろう肌黒いオッサンが立っていた。なンて目覚めの悪い光景だ。殴られるわ怒鳴られるわ、不愉快極まりねェぞ。

 

いや待て。そもそも、なぜ反射が機能しなかったンだ。まさか無意識に切ってたのか?

 

あン?能力が全く発動しねぇ!?一体どうなってやがる。あのテッラとかいう自称女神、今度会ったらただじゃおかねェからな。

 

・・・そもそも、なんで地面に寝転んでいるンだ俺は。

 

 

「あぁやっと起きてくれましたね。何度呼びかけても起きないんですから。通常より多く料金を頂いてなければ、その辺に突き落してるところでしたよ」

 

「なァおい。今の俺は地面に寝転がされているンだが?」

 

「あ、あぁ・・・それはお客さんがご自分で落ちたんですよ」

 

「・・・へェ」

 

「大きな音がしたので、お客さんが心配で様子を見に来たんですよ。いやぁ!なんにしてもケガがないようで安心しました!」

 

「・・・お前、さっき罵倒してこなかったか?」

 

「めっそうもない!お客様は神様ですからして!」

 

「・・・てめェの右手が赤く腫れてるンだが、心当たりは?何か殴ったンじゃねェのか。たとえば、目の前の神様とかよォ」

 

「おぉ!神様!私はこのような言いがかりには屈しませんよ!たとえ目の前のもやし野郎が、救いようのない大悪党であっても、必ずや神の正しき道を説いて見せます!!」

 

「お前絶対神様なンて信じてねェだろ!?」

 

 

コイツ思い切りぶちのめしてェ!・・・だが、今の俺は能力が使えない。残念なことに、こンなオッサン相手でも、能力が使えないのではどうしようもない。

 

あのクソ忌々しい無能力者との一戦で思い知らされたところだしなァ。

 

 

「もういい。テメェと漫才していてもラチがあかねェ。まず、ここがどこか教えやがれ。そして俺の前からさっさと消えろ」

 

「・・・あなたも相当口が悪いですねぇ」

 

 

やれやれとあきれ返った表情をするオッサン。くそ。無性に腹立つなこいつ。しかも『も』って自覚あるのか。

 

 

「お客さん。ここはアクセル。はじまりの街だ。まぁ最近では、駆け出し冒険者の街にも関わらずレベル30を超える強者も入り浸ってるが」

 

「はじまりの街・・・またベタな」

 

「全ての冒険者はこの街からはじめるから仕方ないさ。じゃあ私はこれで。あんたにも女神様のご加護があらんことを!」

 

 

オッサンはこの街のことを俺に伝え終えると、さっさと馬車を走らせ去っていった。

 

女神ってのはテッラのことか?それともこの世界の神様の一人だろうか。

 

どちらにしても、この世界では特定の神様が信仰されているらしい。

 

・・・正直あの女が女神とは今でも信じられないが、ここの門に描かれている文字や紋章は全く見たことがねェ。だが、なぜか意味が理解できてしまっている。これは異常だ。街の雰囲気は中世ヨーロッパってところで、親近感が湧かなくもないが、先のことからして、地球のどこかということはないだろうな。

 

信じられねぇ話ではあるが、あの女は俺を転移させるだけの力を持っている存在ということになる。しかも俺に感知されず、能力を無力化している点からしても只者ではない。

 

結局のところ、あいつは俺より遥かに強い力を持つ存在で、異世界とやらに飛ばされた(転生された)と考えるのが一番辻褄があっちまう。クソったれなことにな。

 

 

「・・・どうしたもンかねェ」

 

「ちょっとそこのお兄さん!門の前で突っ立ってると、馬車に引かれてしまうよ?」

 

「あァン?」

 

 

声につられて振り返ると、そこには、白、いや銀色か?でややクセっ毛の短髪頭があった。おいおいなに言ってンだこいつ。この俺がなにかに傷つけられるなンて・・・いや、そうでもないか。

 

 

「もしもーし?聞こえてますかー?」

 

「うっせェ・・・そンな近くで叫ぶンじゃねェよ」

 

「なんだ聞こえてるんじゃん。何か考え事していたみたいだけど・・・ん?どうしたの?私のことジッとみて」

 

 

改めて観察してみるとコイツの格好はどうなンだ。下は短パン履いてるが、上半身下着ってのは女として賢いとは思えない。

 

いくら異世界とはいえ、いつ誰に襲われても文句言えねェぞ。

 

 

「なんだその格好。お前、痴女?」

 

「え!?」

 

「なンだよその驚きは」

 

 

そこは驚くとこじゃねぇだろ。

 

 

「え、えーと間違ちゃった。やり直していい?」

 

「好きにしろよ」

 

「・・・ち、痴女じゃないもん!」

 

「はいはい」

 

「というか、あなたの方が変な恰好してるよ!なんなのそのシマシマ」

 

「てめェ!?」

 

「およ?おこらせちゃった?ごめんね!」

 

 

あっさりと謝ってくる銀髪娘。こんな風に引かれると、追求する気も失せてしまう。

 

 

「ちっ」

 

「・・・でもあなたも悪いんだよ?初対面の人にそんな悪態をついたら、いつ喧嘩になってもおかしくないんだから」

 

「へェへェ。そうですねェ」

 

「もう!人の話はちゃんと聞こうよ!」

 

「ギャーギャー騒ぐンじゃねェよ。あァそうだ。テメェに聞きたいことがある」

 

「ん?なになに?私にわかることなら教えてあげるよ」

 

 

切り替えの早さが気になるがまァいいか。こいつはこの街の人間だろうし、なにか役立つ情報を持っているに違いない。それにしても、見ず知らずの人間によく愛想良くできるな。

 

 

「この街で、人が集まる場所っつーとどこだ?」

 

「人がいるところ?それなら・・・」

 

 

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「いらっしゃいませ!お食事でしたら空いてるテーブルへ。仕事の斡旋をご希望でしたら奥のカウンターまでお越しください」

 

「ありがとうお姉さん!」

 

 

銀髪娘に連れられてきたのは、ギルドと呼ばれる組織のこの街における本部。ギルドには様々な職業の人間が登録していて、ギルドに持ち込まれる依頼(クエストらしい)をこなすことで報酬を受け取ったり、『冒険者レベル』が上がることで、より高い報酬の依頼を受けることができるらしい。もちろん報酬が高いほど難易度も高い。

 

これらの情報は、ここに来る道すがら、この銀髪娘がご丁寧に教えてくれたことだった。

 

 

「白のお兄さん、ここがさっき話したギルドだよ」

 

「おう。ありがとよ」

 

 

『白のお兄さん』ってのはいつもだったらムカついてひと暴れするところだが、こンな何もわからない土地で進ンで争いを起こす気はない。少なくとも能力が発動しねェ間はな。

 

 

「え?あ、ああ、うん。困った時はお互い様だから!じゃあまたね!」

 

 

元気なやつだ。あいつも魔王討伐なンかを考えてるのだろうか?

 

まァどうでもいいか。

 

さて、ここに来たのには勿論理由がある。

 

まずこの世界のついて知ることと、生きていく手段を得ることだ。

 

銀髪娘が言うには、馬車がこの世界で頻繁に使われている移動手段らしい。つまり、この世界の科学技術はあまり高くない。だから、情報も人伝にどこかに集まる場所があると踏ンだ。

 

それがここギルドであって、ここではギルド登録した人間に仕事の斡旋をして、成果に応じて報酬が出るらしい。

 

異世界というから全く理にかなってないところかと思ったが、対価の概念や人間の思考パターンまでは変わらないようだ。

 

少し安心したところで腹が減ってることに気づく。

 

ただ、飯を食うにも、ギルド加入にも、金が要るらしい。

 

どこの世界も世知辛いねェ

 

ン?なんだァこいつは。見たこともない金貨がポケットの中に8枚ある。

 

まさかあの金髪女神か?

 

ちっ。気にくわねえが、少しくれェなら感謝してやらンこともねェ。

 

 

「見かけない顔だな兄ちゃん?」

 

 

神に感謝なンて柄でもないことを考えていたら、近くのテーブル客に話しかけられた。

 

おいおい。なンなンですか、この厳つい野郎は。

 

その体格や鎧の着こなし、纏う空気からして堅気でないことは確かだ。

 

しかもその纏ってる空気は、まるでこれから一戦交えようという好戦的なもの。こいつ、俺の反応で力量をはかろうって言うのか。

 

 

「俺もあンたに見覚えなンかねえよ。この国にはさっき来たばかりだ」

 

「ほーう。それでここに職探しっつーとこか?」

 

「いや魔王狩りだ。サクッと倒さねェといけないンでな」

 

「くはははは!こいつは傑作だ!この街には何人もの冒険者が魔王討伐を掲げてやって来たもんたが、てめえみたいに、魔王討伐をサクッと!なんて言うやつは初めてだ。おもしれぇな兄ちゃん。気に入った。歓迎するぜ!この命知らず!ギルドの受付はあっちだ。せいぜい足掻くこったな」

 

「ふっ」

 

 

指差された方向に向かって歩きだす。この反応からして、ここは魔王退治を目的にして何人もやって来ているようだ。ということは、俺以外にも転生させられている奴がいるのでは。

 

色々と疑念は尽きないが、まずは自分のことが先決だな。

 

 

「ギルドについて教えてくれ」

 

「あの・・・ギルドの窓口は反対側ですよ?」

 

 

あの野郎適当言いやがったな!?

 

 

「兄ちゃんすまねぇな。間違ったぜ!がははは!!」

 

 

 

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「・・・ここがギルド受付でいいのか?」

 

「え、は、はい。ギルド加入窓口はこちらになりますが」

 

 

『ほんとに来ちゃった』とでも言わンばかりで、金髪の女は俺と目を合わせようとしない。俺も合わせたくなどないから構わないが。

 

 

「さっさと登録とやらをしてくれ」

 

「は、はい。えーと登録料はお一人千エリスになります」

 

「これで足りるか?」

 

「ちょっと多いですね・・・こちらの金貨2枚になります」

 

 

なるほど。この金貨一枚が約500エリスってことか。金貨だからもっと高いと思っていたンだがな。まぁこの金髪女がちょろまかしてなければだが。

 

 

「それではこちらの水晶に手をかざしていただいて・・・え!?お客さん凄いです!体力と防御力が最低レベルなことを除いて、あとは全て平均を大幅に上回ってます!しかも知力と魔力はここで登録された歴代のアークウイザードの中で最高値ですよ!!」

 

 

『おぉおおお!』

 

『まさか、いきなり歴史を塗り替えるとはな』

 

『ふっ。おれは一目見たときから出来るやつだと思ってたぜ』

『お前、あいつのこと知ってるのか?』

『いや、今初めて見たところだが?』

『『・・・』』

 

『やるじゃねぇか兄ちゃん。あんたみたいなのが案外サクッと魔王退治しちまうのかもな!』

 

『あの人の赤い瞳・・・もしかして・・・でも・・・』

 

 

周りがガヤガヤ騒ぎだしてきやがった。能力測定が良かったみてえだが、何を当たり前のことを。学園都市第1位の俺が能力測定如きで遅れをとるわけがないだろ。まァどうせ学園都市と言っても伝わらないだろうがな。

 

 

「すみません取り乱しました。それで、職業はどうされますか?おススメは勿論アークウイザードですが、体力や防御力が必要なクルセイダー等を除いて、万能職のアークプリーストにもなれますよ」

 

 

騎士様には興味はねぇし、プリーストとか何の冗談だよ。

 

ここは無難なのを選ぶべきだろうな。

 

 

「よくわからねェから、そのおススメで」

 

 

今後、他に希望する職業がみつかれば転職もできるようだ。

 

・・・いつか暇つぶしにやったドラクエとかいうクソゲーみたいな仕組みだな。

 

 

「承知しました。それでは一方通行さん。ようこそ当ギルドへ。スタッフ一同、あなたの冒険が円滑に進められるようサポートさせて頂きます。今後ともよろしくお願いいたします」

 

 

周囲の人間から拍手と祝福の言葉が投げかけられる。

 

それ自体には特になンの感慨も湧かないので適当に頭をかいていたんだが、その中で一人だけ、真剣な表情でこちらを見ている奴がいたことだけが気になった。

 

 


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